久保田博幸の「債券投資日記」

避けられない消費税の引き上げ

04月14日
菅直人副総理兼財務相は12日の東京都内の講演で、「増税しても、使う道を間違わなければ景気が良くなる」と述べ、今国会への提出を目指している財政健全化法案に増税を盛り込む方向で政府内で議論を進める姿勢を示した。

また、菅氏は「人気のあった小泉さんでさえ、自分が総理の間は消費税を上げないと言って、この(増税)問題を避けた」と指摘し、「日本の政治家には、増税すると選挙に負けるというトラウマがある」として、税制改革についての与野党協議の必要性を強調した(毎日新聞)。

しかし、肝心の鳩山首相が任期中には消費税を引き上げないと言い続けており、与野党協議の前に首相との意見の刷り合わせが必要なのではなかろうか。

13日付日経新聞によると、財務省と総務省の予測によると2009年度の国と地方の法人税収が9.7兆円と32年ぶりの水準に落ち込む見通しであることが伝えられた。2008年度の実績が18.4兆円となっており、その約半分近くに落ち込み、1977年度の8.7兆円以来の低さになる見込み。

すでに2009年度の新規国債の発行額は第二次補正予算後に53.9兆円に膨らみ、税収が36.9兆円規模になるとの見通しが出されていたことで、これによる債券市場への影響は限定的とみられる。

景気変動の影響を受けやすい法人税頼みには限界がある。今後の財政再建に向けて、消費税引き上げは避けられないことが法人税収見通しで再確認された。世界的に見て日本の法人税の実効税率(40.69%)は中国(25%)や韓国(24.2%)に比較して高い。全体の税収に占める割合も高い半面、消費税の割合が欧州(付加価値税)などに比べて極めて低い。

法人税率の引き下げにより日本企業の国際競争力を高めることで、景気回復の原動力にもなりうる。また、日本の財政再建には景気動向に左右されにくい消費税の引き上げは避けては通れないはずである。

日本経団連の政府の成長戦略に対する提言の中で、経済成長には財政や社会保障制度の安定が不可欠とし、財源として消費税率を2011年度から段階的に引き上げ、2020年代半ばに10%台後半とすることなどを盛り込んだ。法人税は現行の約40%を国際水準の30%まで早期に引き下げることを求めた(毎日新聞)。

財政再建と経済成長という相反することを成し遂げるためにも、日本経団連の提言にもあったように消費税の引き上げとともに法人税の引き下げの流れは避けては通れないものと思われる。

「日本の夜明けは勘違い」

03月31日
28日のフィナンシャル・タイムズの社説は、日本の夜明けは勘違いだったとの内容となっていた。昨年8月の選挙で国をぬかるみから引っ張り出してもらうため、有権者は民主党にチャンスを与えた。そして、日本の有権者には実はもう一つ別の思惑があったとし、それは二大政党制の誕生である。

つまり、期待以下の働きしかしない政権を追い出す機会を、有権者に与える仕組みを期待していた。ところが、権力という接着剤を失った自民党が分裂の危機に瀕し、かつてないほど細分化の度合いを深め、おまけに与党の民主党も相変わらず、政治思想的にごたまぜの状態で、それが混乱に拍車をかけていると指摘している。

さらに政治思想がくっきり鮮明化することを期待する人もいたが、それは日本には不向きなことなのかもしれないともFTは指摘している。日本がほかの民主国家と比べて人種や宗教の分断、ひいては階級の分断さえ少ない、合意重視型の国であるとしているが、このあたりは外から指摘してもらわないと、なかなか気付きにくい部分でもある。

日本において政党は、社会福祉対健全財政、近隣諸国との友好対強固な日米同盟などといった明確な政治思想の違いをもとに成り立っているというより、個人的な人間関係や、力と金の取り引きをもとに成り立っているのだと指摘しており、それが大きな問題であることは確かであろう。

日本の経済力が心許ないことになりつつある時、そうした政党の在り方は、断固とした決断力あふれる行動をとるには不向きだとFTは指摘していたが、この指摘はかなり的を射たものであろう。

「EUとIMFによるギリシャ支援」

03月30日
欧州連合(EU)の欧州単一通貨ユーロ圏16カ国の首脳会合が25日、ベルギーのブリュッセルで開かれ、緊急時のギリシャ支援について二国間融資と国際通貨基金(IMF)の援助を組み合わせた支援の枠組みを決定した。

EU加盟国ではハンガリーやラトビア、ルーマニアが金融危機でIMFの融資を受けたが、ユーロ圏の国がIMFの融資を受けることになれば、1999年のユーロ導入以来、初めてとなる。

支援策では、ギリシャが4〜5月に、総額220億ユーロ(2兆7100億円)の国債を自力で償還できない場合、ユーロ圏16カ国による2国間融資と、IMF融資を併用し実施するという内容。6カ国は全融資額の3分の2を負担、IMFは3分の1を引き受ける。16カ国のそれぞれの負担割合は、欧州中央銀行(ECB)への出資比率に応じて決める(産経新聞)。

ただし、実際の発動には欧州中央銀行と欧州委員会が是非を判断し、ユーロ圏16か国の全会一致の決定が必要となり、補助金と受け取られないような比較的高い金利を適用との厳しい条件もつけられている(日経新聞)。

単一通貨で為替調整が不可能であり、国を跨ぐ中央銀行の存在による金利調節もできない状況下、こういった枠組みを取らざるを得なかったが、なにはともあれこれによりギリシャの財政問題への懸念はいったん後退した。

しかし、フィッチはポルトガルの格付けをAAからAAマイナスに引き下げるなどしており、英米などを含めての財政問題は今後の大きな課題となりうる。ギリシャについては債務規模を隠蔽するなど財政問題そのもの以外の問題を抱えていたことで、やや特殊な事例との指摘もあるが、それでも根底にはリーマン・ショック以降の先進諸国の財政出動による財政悪化が影響していたことも確かである。

「世界的にソブリンリスクが意識される」

03月25日
世界的に債券市場の様子が少しおかしくなってきた。格付会社のフィッチは、ポルトガルの格付けをAAからAAマイナスに引き下げた。見通しはネガティブに。これまでだったら、これにより質への逃避で米国債やドイツ連邦債は買われると思われるが、昨日は米国債は反対に大幅に下落し、この余波でドイツ連邦債も下落した。もちろんポルトガル国債も下落している。

米国債の大幅続落の原因は、5年国債入札の結果が不調と受け止められたことによる。落札利回りが2.605%と入札締め切り時点での入札前取引での利回り2.560&近辺を大きく上回った。応札倍率は2.55倍と前回の2.75倍を下回り、昨年9月以来の低いものとなり、間接入札の比率も39.7%と前回の40.3%を下回り、昨年7月以来で最低を記録した。

間接入札の比率の低さの要因は、年度末控えて日本の機関投資家が応札を控えたからとの見方もあるようだが、それはどうであろうか。一方、米政府が中国に対する人民元切り上げ圧力を再び強め始めたことが影響しているとの指摘もあった、さらにソブリン債を保有するリスクが意識されたとの指摘もあった。

米債券市場では前日の2年債入札の結果も低調なものとなっており、今日の7年債入札への警戒感も強まり、米10年債利回りは前日比0.17%高い3.85%、2年債利回りは同0.06%高い1.09%となった。前日に続いて、昨日も10年物の米ドルスワップ金利が米10年債の利回りを一時下回る場面があった。スワップスプレッド・ポジションのアンワインドで米国債の売りに拍車をかけた側面もあったようである。

いずれにせよこの米債の下落を受けて、ドイツ連邦債10年物利回りも一時3.1%台に上昇した。そして、イギリスでは25億ポンドの予算案を発表し、日本と同様に本格的な財政再建は先送りされている。

世界的にソブリンリスクが意識され、当然ながら日本国債も例外とはなるとは考え辛い。日銀の追加緩和がアンカーとなり中短期債はしっかりするとみられるが、長期・超長期債にはあらためて売りが入る可能性がある。

2009年12月末現在の国債保有者別残高

03月25日
3月23日に日銀が発表した2009年10〜12月資金循環勘定速報によると、家計の金融資産は2009年9月末(速報値)の1439兆4837億円から、2009年12月末は1456兆円3740億円となった。前期比で増加するとともに、年末ベースでは3年ぶりの増加となった。

この家計の金融資産のうち、株式(出資金を含む)は前年末比16.2%増の96兆6933億円、投資信託については前年末比10.8%増の53兆9435億円となっていた。

2008年12月末の日経平均は10546.44円、そして209年12月末は10824.72円と上昇した。

2009年12月末時点での家計の現預金は803兆5149億円、保険準備金は216兆1092億円、年金準備金は181兆4278億円。

この資金循環勘定速報をもとに 2009年12月末現在日本における国債所有別内訳を算出してみた。

国債の残高そのものは、682兆7125億円となった。海外投資家のシェアは、5.2%と9月末の5.8%からさらに減少し、金額ベースでは3兆7739億円の減少となった。海外投資家は引き続き日本国債においてもポジション解消の動きを強めたとみられる。家計の国債全体に占めるシェアは5.1%となり、9月末の5.2%から小幅減少。

9月に比べ全体の残高が増加したが、最大の増加額となったのは民間の保険・年金で9月末比で3兆4557億円増加した。次に投信など金融仲介機関が2兆7814億円の増加、銀行など民間預金取扱機関が2兆1947億円の増加となった。減少で目立つのは海外投資家の3兆7739億円の減少。またシェア順位では投信など金融仲介機関がシェアを伸ばし、海外を上回った。

全体に占めるシェアとしては、民間預金取扱機関が254兆0992億円で37.2%、民間の保険・年金が168兆0599億円で24.6%、公的年金が79兆1085億円で11.6%、日本銀行が50兆2241億円で7.4%、投信など金融仲介機関が36兆2270億円で5.3%、海外が35兆6664億円で5.2%、家計が35兆0250億円で5.1%、財政融資資金が1兆1219億円で0.2%、その他が23兆1805億円で3.4%となった。

「債券先物で11月9日につけた137円29銭が目先の下値目処か」

03月19日
10年債利回りは18日に1.370%まで上昇し、2月4日につけた1.380%が視野に入ってきており、ここを抜けて1.4%台に乗せる可能性がある。18日の債券先物の急落の背景には、追加経済対策論が浮上との報道もあった。6月に向けて財政再建に向けた目標をまとめるべき時に、このような追加対策への思惑が出ると、たとえ国債増発は回避されても財政規律の緩みが意識されかねず、それが債券売りに繋がる懸念がある。

3月期末を控えて銀行や証券などは動きづらくなる。利付国債の入札も25日の2年債入札が予定されている程度であり、国内投資家は様子見気分を強めてくる可能性がある。国内投資家が動きづらい中、海外ファンドなどによる先物主導での仕掛け的な動きが入り、波乱含みの展開となる可能性がありうる。もし、仕掛け的な動きが入るとすれば売りか。

ここにきて日本の経済は緩やかな回復基調を続けており、これは米国なども同様である。4月1日に発表される日銀短観などでは思いのほか強い数字が出てくる可能性もありうる(大企業製造業DI予想はマイナス14、前回はマイナス24)。ここにきての日経平均株価も堅調地合となっており、11000円台の回復もありうる。日銀の追加緩和策が実施されても債券への買いは限定的で、むしろ戻り売りが入るなど、どちらかと言えば売りに傾きやすい状況にある。債券先物で11月9日につけた137円29銭、長期金利で1.45%あたりが目先の下値目処か。

「Debt-to-GDP ratio」

03月17日
昨年末に出席させていただいた「平成22年度予算等に関する説明会」大串政務官が何度も使っていた用語が、Debt-to-GDPであった。Debt-to-GDP ratioとは政府債務の対GDP比である。

菅直人副総理兼財務相は3月16日の参院財政金融委員会で、今すぐプライマリーバランスの目標を立てるにはやや早すぎるとし、まずは(公的債務残高の)GDP比の安定を目指すと述べた。ということは、6月に向けてまとめる財政再建に向けた目標は、公的債務残高の対GDP比ということになるのであろうか。

ユーロ導入時に締結された財政安定化成長協定では、ユーロ導入後のインフレ抑制のために、参加各国の財政赤字を対GDP比3%、政府債務残高を同60%以内に抑制することが定められている。この財政赤字の対GDP比3%、政府債務残高を同60%というものがひとつの目安になる。

OECDの2009年12月時の「Economic Outlook 86」によると2009年の対GDP比の財政赤字は日本が8.3%、米国が11.6%、英国が13.3%、ドイツが5.3%などとなっている。また、1997年に財政黒字となったカナダも2009年には4.8%の赤字となっている

単年度で見た対GDP比の財政赤字では主要国で最悪とされる英国でも、やはり財政再建策が大きな焦点となっている。2010年以降の4年間で財政赤字の対GDP比率を半減させることを目指しているが、財政再建への道はかなり厳しい。

2009年度の債務残高の対GDP比をみると、日本は189.3%となっており、イタリアの127.0%をも大きく上回りG7諸国の中で最悪の水準となっている。米国や英国も急速に悪化し、米国は83.9%、英国は71.0%となってはいますが、日本と比較すればまたまだ少ない。

経済協力開発機構(OECD)の2009年12月時点でのまとめによると、日本の一般政府ベースの「純債務」のGDP比率は2010年に104.6%と初めて100%台に乗せるとともに、イタリアの100.8%を抜いてG7諸国中最悪となった。他のG7諸国では米国が65.2%、英国が59.0%、ドイツが54.7%、フランスが60.7%、カナダが32.6%。注目されているギリシャは2010年は94.6%だが、2011年予測では101.2%となり100%台入りする。

すでに日本は総債務残高のGDP比率が1999年に先進国中最悪となっていたが「純債務」でも最悪となり、日本の財政が極めて深刻な状況にあることをあらためて示した格好となっている。

国債と借入金、政府短期証券を合わせた国の債務残高が2010年度末で、973兆1625億円に上る見通しなども示されているが、果たして6月に向けてまとめる財政再建に向けた目標はどの程度の数値になるのであろうか。

ユーロの財政安定化成長協定における数値である財政赤字の対GDP比3%、政府債務(純債務ではなく総債務)残高の対GDP比60%が目安になるが、さすがにすでに200%近い政府債務残高の対GDPを60%に抑えるのはかなり難しい。目標としては英国の目標値と同様現状の半減となる財政赤字の対GDP比4%、政府債務残高の対GDP比100%あたりが目標値の目安となるのではなかろうか。それもかなり厳しい数字であることに違いはないが。

「日銀の審議委員に前東京電力副社長の森本宜久氏」

03月15日
政府は12日に日銀の審議委員に前東京電力副社長の森本宜久・電気事業連合会副会長を起用する人事案を衆参両院に提示した。衆参両院の同意を得れば7月1日付で就任する。今月末に、水野前委員の後任として宮尾龍蔵神戸大経済経営研究所長が就任することで、7月1日からは金融政策を決める政策委員は定数の9人がそろうかたちとなる

これにより政策委員の新体制は産業界出身3人(中村清次氏、亀崎英敏氏、森本宜久氏)、学識経験者3人(西村清彦氏、須田美矢子氏、宮尾龍蔵氏)、日銀出身2人(白川方明氏、山口廣秀氏)銀行1人(野田忠男氏)の構成になる。

今回の人事により、市場に通じているストラテジストやエコノミストらが起用されなかったことはやや気掛かりである。今後は財政悪化による債券市場動向などが金融政策に影響を与えることも多くなると思われる。その際の日銀の舵取りには市場との対話も欠かせないものとなり、それには市場の動向に精通した委員の存在が欠かせないのではなかろうかと思うのだが。

「ギリシャのデモはいずれ日本でも」

03月12日
ギリシャ全土での官民の二大労組連合組織による24時間のゼネストにより、ギリシャの社会機能はマヒ状態になった。空港、鉄道、病院、学校、銀行などが一斉に休止したそうである。首都アテネでは警官や消防士も参加し約2万人がデモ行進し、投石により警官隊と衝突した。これは財政危機からの回復のため、給与凍結、増税などの緊縮策を進めるパパンドレウ政権に対しての抗議だけに、警備している警察官も複雑な心境とも思われる。

実は先日、霞ヶ関で久しぶりにデモ行進を見かけた。そのデモに参加していたのは昔のデモの第一線にいたような世代、つまりかなりの年配の方々の行進であり乗っていたタクシーの運転手も驚いていた。日本でのデモがニュースで報じられることもなくなってきている。しかし、ギリシャの問題は対岸の火事ではなく、いずれ日本でも同様のことが起こりうる。

日本ではユーロに属しているギリシャのように財政規律に対して明確なルールがない。その分、もし本当に国債が消化できないという事態になったときには、すでに対処のしようがない状態になってしまっている可能性がある。

そういった状況を国民も薄々は感じているものの、本当の意味での危機意識が薄いと思われる。そのために、政府の対応も真剣さが感じられない気がする。政府は6月初めを目途に「成長戦略実行計画」(工程表)を含めた「成長戦略」のとりまとめを行う予定としており、また中期財政フレームについても6月を目処にまとめる予定となっている。

しかし、中期財政フレームに関して具体的な数値目標が出される気配が今のところ感じられない。成長戦略にせよ、菅副総理の発言などを見る限り、デフレ対策として日銀の金融政策頼みの姿勢を強めているようにすら感じる。

具体的な数値目標を出すとなれば消費税引き上げがその前提条件となるため、鳩山首相が在任中には引き上げないとの公約に反することが、数値目標が出せない要因であろう。

危機的な財政の中にあって、こういった公約やマニフェストに縛られて身動きできない現政権に対し、夏の参院選に向けて国民の審判がどのように下されるのか。注意深く見守って行きたい。

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