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為替オーバーレイ

A5判 ハードカバー 268頁/定価 本体 4,800円+税 /2004年7月28日発売
ISBN4-7759-9010-1 C0033

訳者 森谷博之



New!! 証券アナリスト協会発行の
『証券アナリスト ジャーナル』(2004年12月号)
で紹介されました!! (書評全文)

CFA Institute(CFA協会)コンフェレンス議事録

1ドル170円のドル急騰にどのように儲けるか?
1ドル70円の暴落にどう対処するか?
本書でプロの手法を学ぶ

現在のドル円の為替レートは110円程度であるが、中長期的に見ると200円から50円までの変動幅で考えるのが適切であろう。そこには大きく儲けるチャンスがあると同時に、リスクもある。このような状況から円安時には確実に利益を上げ、円高時にはリスクを極力低くすることが最も理想的であるが、ヘッジファンド、為替専門の運用会社が出した為替市場との対処の仕方が為替オーバーレイである。日本のように優秀な国民が日夜努力する状況では日本経済の破綻などあり得ない。ということは円高はあるとしても、安易な円安論は控えるべきである。一方、当然高齢化社会を迎える中、政府が政策を間違えると、大きな円安が生じる可能性もある。日本の投資家が海外に投資する際には円高、円安の両サイドをいつも考えていなければならないということである。「為替オーバーレイ」にはこれらに関するすべての議論がしつくされている。もし海外投資で失敗したくないのなら一読の価値あり。

目次

序文  カトリーナ・F・シェラード,CFA
略歴

第1章 概論: グローバルポートフォリオの持つ通貨リスク
   テレンス・E ・バーンズ,CFA
第2章 通貨の理解
   ブルーノ・ソルニック
第3章 為替平価の基本原理
   ロバート・D ・アーノット
第4章 フォワードレートバイアス
   マーク・P ・クリッツマン,CFA
第5章 通貨の動きの予測は可能か?
   リチャード・M ・レビッチ
第6章 為替オーバーレイ管理:留意点(賛成、反対意見)
   ティモシー・J ・オグラディ
   ロナルド・レイヤード・リーシング
第7章 国際ポートフォーリオにおける通貨リスクの管理
   アルフレッド・G ・ビセット
第8章 為替オーバーレイ戦略の選択
   マリオ・モントーヤ
第9章 為替オーバーレイ戦略と実施の問題
   フランク・デル・ベッキオ
第10章 ベンチマークの確立と付加価値の決定
   ブライアン・B ・ストレンジ
第11章 新興成長市場と通貨危機
   デビット・デローザ
第12章 ユーロ:通貨管理への影響
   エイドリアン・F ・リー

訳者あとがき
自己評価試験
自己評価試験 -----解答
参考文献

訳者あとがき

年金基金がグローバル投資をする際に抱える長期の為替リスクの管理を、一括して為替の専門家に任せることを為替オーバーレイという。 1980年代後半に米国で導入され、日本もその先駆けを担ったが、1990年代前半にブームは米国で発生した。年金資産の増加に伴い海外への投資が増加し、それに伴い為替リスクが注目を浴びるようになった。特に、ネットバブル崩壊後、米国内でも運用利回りの低下と年金サープラスの減少により為替ヘッジのニーズが高まった。日本では当局の2003年度の大規模ドル買い介入の解除のうわさを受け、また将来の超長期的円高説と超円安時代の到来という相反する意見の中、日本での残高も徐々に増える傾向にあり、2004年度は実質的な日本での為替オーバーレイ元年になる可能性もある。

為替リスクの管理を為替オーバーレイマネージャーに一元管理させる理由は、海外資産の運用を任されているそれぞれのマネージャーが必ずしも為替リスクの専門家ではないということ、また、これらのマネージャーにそれぞれ為替リスクの管理を任せたとしても、それぞれがヘッジポジションを相殺するような行動にでて為替リスクの管理の効率性が損なわれる可能性があるからである。

もともと、円は変動相場制以後1ドル360円であったものが、1995年にはほぼ80円になるという経験をしている。名目為替レートで見ると、戦前は円安、戦後は円高である。名目の為替レートをGDPデフレータで調整した実質の為替レートは強い円高の傾向を持っている。ただし、1995年の1ドル80円をつけた時点で円高のトレンドは終焉し、長期の円安のトレンドに入ったという見方もある。円の為替レートの将来の動きについては専門家の間でもその意見は2分しているのである。

[ 導入の目的導入の目的導入の目的導入の目的導入の目的 ]
為替オーバーレイを導入する目的は大きく為替リスクの軽減と為替変動を利用した超過収益の獲得に分類することがきる。一般的に前者をパッシブ、後者をアクティブと呼ぶ。どちらも政策的な通貨配分を制御し、パッシブは決定された配分からの乖離を最小限に抑える行動であり、アクティブはそこから意図的に乖離させることで超過収益を獲得し ようとする行為である。

明確な目的を持つことが為替オーバーレイ導入を成功に導く第一歩である。例えば、グローバルポートフォリオの配分において、グローバルな資産への投資自体が為替変動も含んだ十分な分散の効果を持っている、と考えられる場合には超過収益の獲得が為替オーバーレイの導入の目的と考えられる。政策的に決定された通貨配分から意図的に乖離させ るポジションを持つことで、決定されたベンチマークを超える収益を上げることが目的となる。

一方、海外への投資が、絶対収益型の投資である場合には為替変動により、収益率が目減りすることは避けたい事態である。このような場合には絶対収益型の為替オーバーレイの導入が考えられる。ただし、この場合に問題になるのがベンチマークの設定方法である。現状明らかな標準となるベンチマークは存在しないが、損失額をあらかじめ定めておくことで、その損失額を超えて損失が発生した場合にはフルヘッジにする、というような方策が採られている。また、目標となる収益率、またはペイオフも事前に決定しておくことが普通である。

[ 為替オーバーレイ戦略の分類 ]
為替オーバーレイ戦略は為替レートの変動を利用して超過収益を得 るアクティブ型の運用と、為替リスクの軽減に主眼を置いたパッシブ型 の運用に分けられる。 アクティブ運用はグローバル分散投資が理想的に行われている状況 で為替リスクを軽減する必要がないことを前提に、グローバル投資に極 力影響を与えないように超過収益を獲得する戦略である。ベンチマーク はヘッジなしとし主要通貨の一部をトレードすることにより、超過収益 を確保する。

一方、パッシブ運用は為替リスクの軽減を目的とする。たとえば為替リスクを完全に取り除くフルヘッジはパッシブヘッジである。また、ヘッジ比率を50%などに固定する部分ヘッジ戦略もパッシブヘッジである。円高時の損失を限定しながら、外貨の上昇時にはその上昇を享受するオプション型の戦略もパッシブ戦略である。この戦略はダイナミックヘッジ、またはオプション複製戦略と呼ばれることもある。

ヘッジなしをベンチマークとしたアクティブ戦略は外貨の上昇時に威力を発揮し、フルヘッジは外貨の下落時に威力を発揮する。また、円のように、基本的にはどの通貨に対しても円高という傾向を持ちながらも、あるとき突然円安というトレンドを作る通貨に対してはダイナミックヘッジが有効となる。

ダイナミックヘッジにアクティブな要素を組み入れ、絶対収益型の為替オーバーレイを行うことも可能である。このような戦略をセミアクティブ・ダイナミックヘッジと呼ぶこともある。

[ 為替オーバーレイ導入の注意点 ]
為替オーバーレイ導入の注意点としては3つある。1 つは資金管理、 もうひとつは収益獲得の手段、そして最後に導入のタイミングである。

■資金管理

為替オーバーレイの導入に際してはヘッジのトレーディングを行う 特別な口座が必要になる。この口座はヘッジのトレーディングが利益を 生み出せばプラスとなり、損失を発生すればマイナスとなる。口座にマ イナスが生じた場合には現金を補填する必要が生じる。この現金の出し 入れの管理は信託銀行の業務となるが、ここで必要となる現金は基金が 持つキャッシュフローから捻出される。もし通常のキャッシュフローで は十分にまかないきれないほどの損失が発生すると、投資資産を取り崩 して現金を調達する必要が生じる。

フルヘッジ戦略ではたとえば外貨の上昇時には外貨資産の価値は円 換算すれば増えることになる。一方、ヘッジのトレーディングのポジ ションは外貨の売りとなっているので、外貨が上昇すれば損失が発生す る。外貨の上昇と、ヘッジポジションから生じる損失はほぼ同額である ので、最終的な通貨からの損益はほぼゼロとなる。つまり、フルヘッジ を行った場合に外貨が上昇すれば、ヘッジのポジションには損失が発生 し、それはある一定の期間をおいて必ず決済しなければならないという ことになる。そして、この損失が大きすぎれば、たとえ、資産全体とし ては損失が発生していなくとも、ヘッジポジションに生じた損失を決済 しなければならない必要性に駆られるのである。

一方、フルヘッジをしながらヘッジの口座に生じる損失を限定する ことができるのがダイナミックヘッジである。ダイナミックヘッジは外 貨の上昇時にはヘッジ比率を減少させるために、この損失を限定するこ とができるのである。つまりダイナミックヘッジは円高に対して外貨の 目減りを抑える効果、外貨の上昇時にはそれを享受できる能力、そして ヘッジ口座に発生する損失を限定するという力を持っている戦略であ る。

ヘッジなしの利益追求型の戦略では円高、円安というトレンドに関 係なく、トレーディングの出来、不出来によりヘッジ口座に利益、また は損失が発生することになる。また、損失があるレベルに達した場合に はそこでトレーディングを停止することにより、ある一定以上の水準で ヘッジ口座に損失が発生するのを食い止めることが出来る。

■トレーディング戦略

為替ヘッジという行為は為替レートが大きなトレンドを作る傾向に あるのか、またはスイングする傾向にあるのかにより、とる戦略が異な り、かつ利益を得る方法も違ってくるのである。 大きなトレンドを伴う通貨では基本的なヘッジ戦略はトレンド追随 型の戦略となる。これは細かな市場の動きは無視して大きなトレンドに 乗る戦略である。特徴としてはドローダウンという継続して損失が発生 する可能性はあるものの得られるときの利益も大きいという戦略であ る。これは長期的なヘッジには不可欠な要素であり、ダイナミックヘッ ジはこの戦略に相当する。急激な円高にも対処できる戦略である。

一方、スイングする市場では短期のトレンド追随か、逆張りの戦略 が適切な戦略となる。細かな売買を繰り返しながら利益を積み上げてい くトレーディング戦略である。もともとスイングする相場を想定して組 み立てられた戦略であることから、大きなトレンドの出る局面では十分 な利益が得られないが、つねに細かな利益が出ていることに特徴があ る。

もうひとつ、日本の投資家が注意を払わなければならないのは、 ユーロ円、ポンド円のようなクロスと呼ばれる通貨である。スイス円の レートは、ドル円のレートをスイスドルのレートで割ることにより算出 されるが、ユーロ円の場合にはユーロドルとドル円の掛け算により算出 される。割り算の場合には2 つの通貨の動きがある程度相殺され、動き のおとなしい、トレンドの出やすい通貨となる。一方、掛け算の場合に はそれぞれの動きが掛け合わされるために、動きが複雑になる傾向があ る。そのために、円高というトレンドを伴いながらも中規模のスイング を繰り返すというヘッジの非常に難しい通貨となる。順張りの戦略と逆 張りの戦略をうまく組み合わせることが要求される。ユーロ円、ポンド 円、オージー円などは掛け算通貨、スイス円、カナダ円などは割り算通 貨である。この意味で、すべての通貨についてまったく同じ戦略が通用 するわけではないということも注意を要する点である。

■オーバーレイ導入のタイミング

複数の通貨を扱う年金基金のような場合には、一概にドルが強いと か、円が強い、とかいうことで話を簡単に終わらせることはできない。 これが複数通貨の為替ヘッジの難しさである。円がドルに対して強くな るタイミングと、ユーロが円に対して弱くなるタイミングはいつも同じ ではないし、そのような中で、為替オーバーレイを始めようとすると、 その始めるタイミングが問題になってしまう。はじめるタイミングでそ の効果がだいぶ影響されてしまうからである。

一般にドル独歩安とか、円独歩高といわれるが、例えば2003 年度の ように、米国の双子の赤字によるドル独歩安と言われる場合には、円が どのような通貨にたいしても強い、という印象を受けやすいが、ドル独 歩安ということはドル以外の通貨が強いということであり、たとえば ユーロもドルに強く、円もドルに対して強いということである。つまり ユーロと円のどちらが強いのかはここでは語られていない。2003 年度で はユーロはドルに対して強く、円もドルに対して1 年を通して強かっ た。ではユーロ円、はというと、2003 年度の前半はユーロが強く、年後 半にかけ弱含み再び年度末にかけてユーロが強くなっている。

為替オーバーレイは基本的には長期の為替ヘッジを前提としている ために、導入のタイミングに対して悩むことは本質から少し外れてい る。相場を見ながらタイミングをはかるということはこのこと自体が投 機的であることを意味し、ヘッジを専門家に任せると決めた行為に反す ることになるし、それは本来の為替オーバーレイの目的からは外れてし まう。最もよいタイミングは為替オーバーレイを導入することを心から 納得できたときである。実際、一度為替オーバーレイを導入すると長期 間導入し続けるという傾向が見られる。

翻訳にあたり多くの人々からご教示、あるいはご激励をいただいた。本書の翻訳にすばらしいところがあるとすれば、それは彼らの尽 力によるものである。正確であることを目的に、翻訳には3 年以上の年 月が費やされた。翻訳には最善を尽くしたつもりであるが至らぬところ があれば訳者の責任である。

長坂陽子氏には翻訳のかなりの部分を手伝っていただいた。心から 感謝申し上げる。また、日本インベストメント・プロフェッショナル協 会(JSIP)の菱川精記氏には貴重なアドバイスをいただいた。心からお 礼申し上げる。また、業界の専門家から多数のアドバイスをいただい た。ここで、お礼を申し上げたい。

未来の技術革新のために、そして開発途上国でのインフラ整備のた め、また飢餓に苦しむ人々の明日の食糧生産のために世界のいたるとこ ろで資金が必要とされている。本書が読者の方々の投資判断、リスク管 理に少しでも役に立つことを願うと同時に、そのようなところに僅かな 資金でも流れていくことを切に願いたい。

2004年 6月

森谷 博之


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