日本語版への序文アレキサンダー・エルダー博士

 Trading for A Livingの日本語版出版にあたり、日本の読者に本書の紹介をするこ とを嬉しく思います。トレーディングに関する書物の世界では、日本のものが世界最 古であり、そのような伝統の一部に本書が加わることを光栄に感じます。  本書の執筆にはほぼ4年の歳月を要しました。アメリカで最初に出版の後、それは 世界中のトレーダーの間で徐々に支持されるようになり、やがて世界中で最も人気が あるトレーディングの解説書になりました。現在までに、ドイツ語、ポーランド語、 オランダ語、ロシア語、中国語、フランス語、韓国語に翻訳されており、そして今 回、日本語にも訳されることになりました。これほど、世界的に読者の支持を得るこ とになった訳は、トレーディングがわれわれ人間の根源的な性質に根差していること を本書が明らかにしているからであると思われます。トレーディングは歓喜、恐怖、 欲望、希望、高揚、絶望やその他の強烈な感情を人々にもたらします。そこで、ト レーディングの心理に関するいくつかの重要なルールを、精神分析医およびトレー ダーとしての私の知識と経験に基づいて、本書の中でみなさんに紹介していきたいと 思います。それと共に、テクニカル分析とマネー・マネジメントの重要なコンセプト もみなさんにお教えします。マーケットで成功するために、あなたはライバル以上に 周到な準備をしておく必要があるのです。

 さて、ここで筆者と日本にかかわるひとつのエピソードをみなさんに披露したいと 思います。それは本書の執筆に先立つ数カ月前のことで、記憶に残るある出来事に遭 遇しました。それは太平洋上高度1万メートルのニューヨークから東京に向かう機内 においてのことでした。そのとき私には、相場の天井がもうすぐそこまできている と、大声で私に向かって警告を発しているのが聞こえたのです。

 その話を続ける前に、ところで、みなさんはケネディ大統領の父親であるジョセ フ・ケネディが1929年の株式大暴落の際に株を空売りして、財を成した話をご存 じでしょうか。当時、彼は株式市場は強気相場が過熱して、買われ過ぎの状態になっ ていると感じていました。そんなある日、彼は路上で靴を磨いてもらっていたとき に、その靴磨き屋からある株に関する「耳寄りな情報」を聞かされたのです! この 抜け目のない投機家は、これこそ相場の天井を告げるシグナルだと信じて、株式市場 で大規模な空売りのポジションを作り始めました。靴磨き屋までが株で投機を始める ころには、マーケットは極端に買われ過ぎており、下落するのは時間の問題だったの です。

 話を元に戻すと、1989年のその日、私はあるセミナーに出席するために東京へ 向かって機上の人となっていました。ジャンボ機の2階席で、私は搭乗していたスチ ュワードの1人と仲良くなりました。彼は50歳くらいの日本人で、戦後の貧しかっ た子供時代から今日、航空会社のビジネスクラスのスチュワードにまで出世すること ができたことを大変誇りにしていると語ってくれました。他の乗客が眠っている間、 われわれは階段の近くでおしゃべりを続けました。そこで彼は、昨年、株式投資によ り自分の給料以上の金を儲けることができたと幸せそうに私に話してくれたのです。 当時、日本の株式市場は高騰しており、経済規模において米国よりはるかに小さいに もかかわらず、時価総額では米国株式市場を凌駕するまでになっていました。私が出 会ったスチュワードは、株でボロ儲けしたお金で太平洋のある島に別荘を建てて、そ こで早めの引退生活を楽しむべく、既にその準備に入っているのだと話してくれまし た。そして彼の引退計画は、まだ大半は未実現で評価益に過ぎない株の儲けで賄われ ることになっているのでした。そんな順風満帆な彼に も、ひとつだけ不満がありま した。それは、同僚のスチュワーデスたちが自分以上に株で儲けており、家族を養わ ねばならない自分とは違って、彼女たちは親と同居しているの で、もっとたくさん 株にお金を回すことできるのだということでした。

 この話を聞いていて、1929年のあのジョセフ・ケネディに靴磨き屋がしたのと 同様に、スチュワードが私に売りシグナルを与えてくれているのだと、即座にひらめ きました。結果はまさにその通りの事態となりました。その数カ月後に日本の株式市 場は暴落したのです。ある日、私はニューヨークの自分のオフィスに夜になってから 再び戻ってきて、モニターをオンにして、日経先物が200ポイント刻みで下落して いくのを見入っていたものです。

 ギャンブラーと知的なトレーダーの間には大きな違いがあります。真剣なトレー ダーは論理的で、現実的な計画を立て、マーケットをよく研究し、有効であると証明 された方法を使い、決して運に頼ったりすることはしません。知的なトレーダーは何 を、いつ売り買いするかを選別する方法とリスクを軽減するルールを身につけていま す。彼は、トレーディングの心理が大変重要なファクターであることをよく理解して います。なぜなら感情や態度がトレーダーとしての私たちの成否に直接的な影響を及 ぼすからです。トレーディングをしていると、群衆心理の中に引き込まれそうになる 場面に私たちはしばしば遭遇し、またトレーディングそのものが私たちに強烈な感情 を引き起こします。しかし、成功するためには、あなたは集団から独立して規律を守 って行動しなければなりません。

 2000年の4月に、著者は本書の訳者である福井強氏に会える喜びにあずかりま した。彼は、私に会うためにニューヨークにやって来て、大変有意義で愉快な夕べを 共に過ごすことができました。われわれは本書のテーマについて語り合いました。私 は、これまで多くの本書の訳者に会ってきましたが、彼はその中でも最も熱心で、本 書の翻訳に使命感を持った人の1人であると感じました。会って話しているうちに、 私と同じように、彼も 2つの世界を持つ人間であることが分かりました。つまり、 日本で生まれてそこで教育を受け、米国に住んでそこで仕事をしているという点にお いてです。彼の質の高い翻訳により、本書をみなさんに楽しんでいただけるけること を希望します。

 この本を開くことにより、あなたはトレーディングへの旅路につくのです。そのコ ンセプトをよく研究して、ご自分のデータでテストしてみてください。読者の皆さん がより知識のある、成功するトレーダーとなるために、本書が大いに役立つことを願 ってやみません。

 みなさんの成功を祈ります。

       

   アレキサンダー・エルダー博士

               2000年7月 ニューヨークにて

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