アノマリーの検討(その2)
2.トレンドと乖離率
図1−1〜1−3をご覧下さい。実線(隙間のない線)は、日足終値を結んだ折れ線です。期間は、1992/12/21から1993/12/10まででの240立会日です。破線(少し長い点線)は、数学の一種の最小、2乗法というものを利用し、実線の動きに最も当てはまるように引いた直線です。この直線は、回帰直線と呼ばれます。
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図1−1の「8195デニーズ」の日足(終値)折れ線は、右肩上がりです。回帰直線も右肩上がりになっています。図1−2の「1922大成プレハブ」の日足析れ線は、大きくジグザグ(凸凹)しています。回帰直線は、わずかに右肩上がりになっていますが、まあまあ両肩が揃っています。図1−3の「6766宮越商事」の折れ線は、右肩下がりです。回帰直線も右肩下がりになっています。
回帰直線は、折れ線の動き全体を大まかに表わしています。そのため、トレンド(傾向)を表しているといえそうです。最小2乗法でトレンドを求める場合、いろいろな形が考えられますが、最も簡単な形が回帰直線です。
図2−1〜2−3をご覧下さい。図1−1〜1−3の折れ線と直線から次式で乖離率(%)を求め、それらを順に結んだ折れ線です。
乖離率(%)=100×(終値一直線の値)/直線の値
日足のトレンドが両肩揃いの「大成プレハブ」では、図1−2と図2−2の折れ線の形がほとんど変わりません。しかし、トレンドが右肩上がりの「デニーズ」と右肩下がりの「宮越商事」では、図1−1と図1−3ではわかりにくかった大きなジグザグが、図2−1と図2-3でははっきりしています。図2−1〜2−3の折れ線の形が、大きな波と小さな波が重なっているように見えませんか。
図の横軸は、10立会日ごとに短い目盛り線を、60立会日ごとに図の上から下まで点線を引いてあります。これを参考にして、図2−1〜2−3の乖離率の折れ線をじっくり見てください。折れ線が示す大きな波は、ほぽ10立会日ごとに、「谷から山ヘ」、「山から谷ヘ」を繰り返しているように見えませんか。
トレンドのトレンドになりますが、日足終値のトレンドからの乖離率または乖離値幅のトレンド(大きな波)が、「3月またがり60日」売買が成立する理由のように思えます。ピタリ60日とはいきませんが、意外にたくさんの銘柄で、乖離率の折れ線が60日前後で大きな谷と山を繰り返すようです。
株式のチャート分析でふつうに使われているトレンドは、移動平均線です。日足チャートでは、25日移動平均線を使うことが多いようです。しかし、60日置き売買を考える場合、波の分析をするには、30日移動平均線のほうが便利と思います。
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図3−1〜3−3をご覧ください。実線は、図1−1〜1−3と同じで、日足終値の折れ線です。破線が、30日移動平均線です。25日移動平均線(省略しました)と比べると、少し滑らかですが、ほとんど変わりません。しかし、図1-1〜1−3の回帰直線は実線のほぼ真ん中を通っていましたが、移動平均線は少し右側にずれています。
数学的な移動平均線は、図の移動平均線を左側に15.5日分ずらします。そうすれば、移動平均線が実線のほぼ真ん中を通ります。しかし株式分析では、図のように、わざわざ右側にずらせています。
移動平均線は計算できますが、回帰直線の場合と違い、数式で表すことができません。数式で表わせれば、未来に延長し、予測に利用できます。この点、移動平均線は不便です。しかし回帰直線は、解析に使用するデータの個数や範囲で数式が変わり、同じ日付でも直線上の値が変わります。これに対し、移動平均線は、移動日数が一定なら、解析に使用するデータの個数や範囲に関係なく、いつも同じ形を取ります。
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図4−1〜4−3をご覧ください。実線は、次式で求めた30日移動平均からの乖離率(%)の折れ線グラフです。
乖離率(%)=100×(日足終値一30日移動平均)/30日移動平均
図2−1〜2−3と少し形が達いますが、図4−1〜4−3の折れ線の形も、大きな波と小さな波が重なっているように見えませんか。図2−1〜2−3と同様に、折れ線が示す大きな波が、ほぼ60立会日ごとに、「谷から山ヘ」、「山から谷ヘ」を繰り返しているように見えませんか。
「8195デニーズ」のように右肩上がりの銘柄は、谷で現物買い、山で現物売りが良さそうです。このような銘柄として、平成5年12月現在の弱気ムードでは少ない数ですが、「6861キーエンス」、「6971京セラ」、「8183セブンイレブン」、「8214アオキインター」、「8227しまむら」、「9404日本テレビ」、「9431国際電信電話」、「9602東宝」などがあります。
「1922大成プレハブ」のように両肩揃いの銘柄は、ドテン売買に適しているように思います。このような銘柄として、「1822大豊建設」、「1878大東建託」、「1891大都工業」、「1895大成ロテック」、「3402東レ」(林先生がしばしば引用される銘柄です)、「4502武田薬品」、「4911資生堂」、「6586マキタ」、「7013石川島」、「8018三共生兵」、「8245丸栄」、「8809サンゲイビル」などがあります。
「6766宮越商事」のように右肩下がりの銘柄は、山で空売りし、谷で買い戻すのに適していそうです。このような銘柄は弱気ムードの現在沢山ありますが、直線的な右肩下がりの銘柄として「1883前田道路」、「1896大林道路」、「5423東京製鉄」、「5444大和工業」、「5445東京鉄鋼」、「6336千代田化工」、「8182いなげや」、「8238伊勢丹」などがあります。
日足の動きは、ファンダメンタルズを効率的に織り込んでいるなら、紬かなリズムがあるとしても、ファンダメンタルズを織り込んだとたん、階段状に変化すると思います。それにもかかわらず、右肩上がりや右肩下がりのトレンドだけでなく、トレンドを消した乖離率の折れ線に、大きな波としてウネリが見られます。
波の谷は異常に下げ過ぎ、山は異常に上げ過ぎているといえそうです。そのため、谷や山は「過剰反応」であり、逆方向に動く反動を期待できることが多いようです。大きなウネリ自体がアノマリーであり、谷や山に引き続く反動はアノマリーの一種の「過剰反応効果」といえるのではないかと思います。
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〔追記〕
前号(1993年11月号)p48で、「トレンドがほとんどなく、しかも60日前後の谷と山を繰り返している銘柄は、厳密には20〜30にすぎません」と書きました。この件につきまして、今回の原稿を書き終えた後、銘柄名を教えて欲しいとの間い合わせがいくつか来ているので紹介してくれ、とのご連絡を林先生から受けました。そこで、追記と言う形で、銘柄名を紹介させていただきます。
もともと、今回紹介した「デニーズ」、「大成プレハブ」および「宮越商事」のグラフは、大納会を終えた後に描き直す予定でした。ところがご承知のように、平成5年末の相場は前例を見ないほど、異常に神経質な動きになりました。そのため「大成プレハブ」の折れ線も、年末には急速に落ち込み、右肩下がりになってしまいました。そこで、原稿のほうはそのままにさせていただきますが、銘柄名をあらためて検討し直しました。
平成5年中に両肩揃いだった銘柄数は、年末の影響で少なくなりました。ほぼ両肩揃いで60日ごとに谷と山を繰り返した銘柄は、わずかに14銘柄程度です。ご参考のため、銘柄名と平成5年における日足終値の折れ線グラフを、付図1〜14に示します。
なお前号p39〜40で、林先生が「また会ったオバサン名人」のことを書かれていますが、「オバサン」が売買した銘柄は「片倉」と「三井東圧」です。これらの銘柄の折れ線グラフも、ご参考のため、付図15と16に示します。「オバサン」が売買したと思われる平成4年の折れ線部分は省略していますか、両銘柄とも右肩下がりでした。
筆者には、「片倉」や「三井東圧」がウネリ取り向きの銘柄とは、とてもとても思えません。それにもかかわらず、「オバサン」は立派に利益を出しているそうです。だからこそ、「名人」と言われるのだと思いますが、ウネリ取りにも技術力が必要な証拠です。付図1−14の銘柄の多くは、平成5年にはウネリ取りに向いていたと思います。しかし、平成6年もそうなるとはいえませんし、たとえそうなるとしても、やはり技術力が必要になることをお忘れなく。
一続く一
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