5.乖離率利用法の検討(2)

 前回,120日移動直線回帰からの乖離率(以下,120日移動直線回帰乖離率)と30日移動平均からの乖離率(以下,30日移動平均乖離率)が売買指標として使えそうだ,と書きました。今回は,ふたつの乖離率がどの程度の効率で売買指標になるか,検討した結果を紹介させていただきます。検討に使用したデータは,前回と同様に,FAI銘柄のうちの貸借銘柄(以下,FAI信用銘柄)742社の1991〜1993年の日足終値です。

 前回紹介した「図5.FAI信用銘柄:乖離率の昇順・降順の累積相対度(%)」の図から,過去3年間で「滅多に起こらないほど低い確率」で出現する乖離率を,簡単に読みとることができます。「滅多に起こらないほど低い確率」の乖離率が出現した銘柄は,株価が「過剰に下げ過ぎた」または「過剰に上げ過ぎた」と考えられます。したがって,このような株価が出現した後は,その株価が逆方向に動くことが期待されます。では,「滅多に起こらないほど低い確率」をいくつにしたらよいでしょうか。

 l年間の立会日数は,250日弱です。この立会日数と同じ数の乖離率が,銘柄ごとに求まります。そのため,ウネリの山と毛がそれぞれ1年間に2回ずつ出現すると仮定すれば,山と谷が出現する確率はそれぞれ約2/250すなわち約0.8%になります。しかし,銘柄によっては,ほとんどウネリが認められないものもあると思います。そこで,安全率を見積もって,「滅多に起こらないぽど低い確率」は0.1%程度,と仮定してみましょう。

 前回紹介した図5から,確率0.1%で出現する乖離率は,120日移動直線回帰乖離率なら約‐30%以下,30日移動平均乖離率安ら約40%以上,と読み取れます。このような乖離率が,過去3年間,どのように出現したでしょうか。

 図1をご覧ください。‐30%以下の120日直線回帰乖離率カ,いつ,どの程度出現したかを示した図です。出現銘柄数が多かった時期は,1991年1月,1991年7月,1992年4月,1992年8月および1993年11月です。なお,さらに10%下の極端に低い‐40%以下の乖離率は,次のような銘柄で得られました。ただし,現在上場されていない銘柄は除いてあります。

1991年:福助,日農薬,服部,長崎屋

1992年:カーボン,日重化,田村電,クラリオン,テアック,サンリオ,伊勢       丹,長崎屋,日住金

1993年:昭和シェル,阪和興業

 図2をご覧ください。40%以上の30日移動地平均乖離率が,いつ,どの程度出現したかを示した図です。出現銘柄数が多かった時期は,1991年2月,1991年9月,1992年8〜9月および1993年3〜5月です。なお,さらに10%上の極端に高い50%以上の乖離率は,次のような銘柄で得られました。仕手あるいは仕手性の強かった銘柄がたくさん並んでいます。しかし,50%以上の乖離率が得られた期間は,1週間から10日以内のものが多いようです。

   1991年:明治菓,明治乳,クラボウ,加工紙,中国塗,カーボン,日重          化,タクマ,共立,トヨカネツ,日機装,岩崎電,北電工,東急         車,ゼンチク,三愛石

   1992年:飛島建,日産建,北野建,ミサワ,石原産,日化薬,ミドリ十          字,日研科学,持田楽,日重化,蛇の目,田村電,サンリオ,松         坂屋,伊勢丹,長崎屋,日住金,大京 

   1993年:コムシス,イハラケミ,アスク,大同特銅,フジクラ,ダイイ          チ,三洋証,新日本証,勧角証,和光証,国際証,東急不

 図1と図2を比べてください。相場の下げがきつかった1991年と1992年は,‐30%以下の120日移動直線回帰乖離率の銘柄数が多くなった時期から1〜2か月後,40%以上の30日移動平均乖離率の銘柄数が多くなっている,と見えないでしょうか。下げ相場の特徴かも知れません。

 図3をご覧ください。この図は,次のように仮定して作ったものです。いま,120日移動直線回帰乖離率が-30%以下になった日の終値で「買い」を入れ,その日から60日後以内の終値の最高値で「売り手仕舞い」した,と仮定します。もしこのように売買できれば,「買い」を入れた日から60日後までの範囲内ですが,最大の利益を取ったことになります。このときの,手数料や税金を抜きにした(値洗いの)利益率(%)を,「最大利益率(%)」と呼ぷことにします。

 図3は,‐30%以下の120日移動直線回帰乖離率になった銘柄について,最大利益率(%)と銘柄数の関係を,年ごとに示したものです。最大利益率(%)の計算は,次のように,低いほうの株価で割る「内割り」になっています。

   最大利益率(%)=100×{(60日後以内の最高株価)

         -(乖離率が-30%以下になった日の終値)}

         ÷(乖離率が-30%以下になった日の終値)

 最大利益率が5%以下の銘柄が3/113(2.7%)ありますが,平均的にはかなり高い値が得られ,1992年には250%のものさえ1銘柄あります。120日移動直線回帰乖離率が‐30%以下になった銘柄を買えば,よほど運が悪くない限り,かなり高い利益が取れたことになります。なお,‐30%以下の乖離率出現後の日数30,60,90,120および150日以内に得られた3年間全体の最大利益率の平均値は,44.4,52.4,55.4,57.0および58.5%です。

 図4をご覧ください。この図は,次のように仮定して作ったものです。いま,30日移動直線回帰乖離率が40%以上になった日の終値で「カラ売り」し,その日から60日後以内の終値の最安値で「買い戻し」た,と仮定します。もしこのように売買できれば,「カラ売り」した日から60日後までの範囲内ですが,最大の利益を取ったことになります。このときの,値洗いの利益率(%)も,「最大利益率(%)」と呼ぶことにします。

 図4は,40%以上の30日移動平均乖離率になった銘柄について,最大利益率(%)と銘柄数の関係を,年ごとに示したものです。最大利益率(%)の計算は,今度は次のように,高いほうの株価で割る「外割り」になっています。

    最大利益率(%)=100×{(乖離率が30%以上になった日の終値)

          −(60日後以内の最低株価)}

          ÷(乖離率が30%以上になった日の終値)

 最大利益率が50%を超えるものもありますが,5%以下のものが10/98(10.2%)もあり,60日以内の最大利益率はあまり高くありません。「乖離率は下げ相場に弱い」といわれているそうですが,その通りなのかも知れません。しかし,40%以上の乖離率出現後の日数30,60,90,120および150日以内に得られた3年間全体の最大利益率の平均値は,14.9,25.8,34.1.46.1および59.9%です。もしかしたら,「カラ売り」の手仕舞いは60日ではなく,もっと延ぱすほうが良いのかも知れません。

 図5をご覧ください。40%以上の乖離率出現後日数を120日まで延長した場合です。運が悪くないかぎり,まあまあの利益は取れそうです。

 上記の検討結果から,乖離率の面からみた「過剰反応」を起こした日は,120日移動直線回帰乖離率が‐30%以下または30日移動直線回帰乖離率が40%以上になった日,と考えることができそうです。相場が回復してきた今年にも通用するという保証はありませんが,「過剰反応」を起こした銘柄の株価は,「過剰反応効果」として反対方向に動き出す,と期待できそうです。

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