6.日足終値の天底探し

 株価の動きには,細かいリズムや大きなウネリなどの波動がみられます。「過剰反応効果」アノマリーの検討の一環として,どの程度の大きさのウネリが「過剰反応」になるのかを知るため,日足終値の折れ線で,天底〔天井と底)を決める必要があります。

 罫線のいろいろな本を読んでみましたが,天底を決めている例は,ローソク足の例ぱかりです。しかも,天底を決める客観的な方法が書かれていません。全部,主観的(恣意的?)な決め方で,深い洞察力が必要なようです。

 手持ちの罫線の本が少ないので,日足終値の折れ線について,天井と底を決める方法が見つからなかったのかもしれません。しかし,多くの人も同様ではないかと思います。

 四本値を使うローソク足の場合,高値と安値の間,あるいは始値と終値の間に幅があります。この幅が,私のような経験の浅い投資家にとって,しばしば天底の判断をむずかしくします。とくに日足の場合,目先の天井と底が同時に発生することがあります。

 折れ線は,終値だけで描くため,毎日の株価は点になり,幅がありません。天底の決め方は,ローソク足より簡単になります。そのため,あるひとつの値を条件として与えれば,誰でも同じに,すなわち一意的に,天井と底を決めることができます。

 きわめて簡単な方法ですが,私の少ない知識と経験の範囲内ですが,目にしたことがありません。「過剰反応効果」アノマリーだけでなく,「ウネリ取り」や「リズム取り」にも,かなり参考になると思うので,紹介させていただきます。

 いま,終値がある値で底をつけ,上がり始めたとします。次は天井をつけに行くことになりますが,直前の底値よりp%以上に終値が上がらなければ天井とみなさない,と決めます。

 逆に,終値がある値で天井をつけ,下がり始めたとします。次は底をつけに行くことになりますが,直前の天井値よりp%以下に終値が下がらなければ底とみなさない,と決めます。

 上記のp%をあらかじめ決めておけば,天底を一意的に決めることができます。このp%を,「波動限界比率」と呼ぶことにします。また,波動限界比率p%で決まる天底を,「p%天底」と呼ぶことにします。必要な計算は,終値×(1十p/100)または終値×(1−p/100)だけです。きわめて簡単な計算だけなので,電卓片手に,例題を使って天底を決めてみます。

 表1は,「3402東レ」の1994年1月から8月までの日足終値のリストです。p%を,5%としてみます。

 リストの最初の終値は,1/4(1月4日)の584円です。この終値を,まず,底値または天井値の候補にします。

 リストの日付を追って終値の動きを見ますと,次第に高くなっています。リストの最初の日付以前の終値は分かりませんので,1/4の584円を目先の底値として,天井をつけに行くのかもしれません。

 p=5%なので,電卓を使い,584×(1+p/100)=584×1.05=613.2円以上の終値を順に探します。1/10に624円になりました。

 ここで,1/4に底をつけ,底値は584円と決定します(表1のりストに,●印をつけてあります)。また,624円を次の天井値候補にします。しかし,1/11に,天井値候補624円より高い625円になりました。この終値を,新しく天井値候補にします。

 このように,天井値候補が天井値と決定しないうちに,その天井値候補より高い終値があったら,天井値候補を高い終値に置き換えます。逆に,底値候補が底値と決定しないうちに,底値候補より低い終値があったら,底値候補を低い終値で置き換えます。

 625円が天井値になるには,625×(1‐p/100)=625×0.95=593.75円以下に終値が下らねぱなりません。しかし,593.75円以下が見つからないうちに,1/21に天井値候補625円より高い645円になりました。天井値候補を645円に変えます。

 今度は,645円が天井値になるには,645×0.95=612.75円以下に終値が下がらねぱなりません。しかし,1/31に650円,2/1に654円,2/2に660円,2/8に663円,3/lに668円,3/4に669円と,次々に天井値候補が高くなります。

 669円が天井値になるには,669×0.95=635,55円以下に終値が下がらねぱなりません。3/9に633円になりました。

 ここで,3/4に天井をつけ,天井値ぱ669円と決定します(リストに,○印をつけてあります)。また,633円を次の底値候補にします。

 633円が底値になるには,633×1.05=664.65円以上に終値が上がらねぱなりません。3/14に675円になりました。

 ここで,3/9に底をつけ,底値は633円と決定します(●)。また,675円を次の天井値候補にします。しかし,終値はどんどん上がり,3/25に692円になりました。

 692円が天井値になるには,692×0.95=657.4円以下に終値が下がらねぱなりません。3/31に643円になりました。

 ここで,3/25に天井をつけ,天井値は692円と決定します(○)。

また,643円を次の底値候補にします。

 643円が底値になるには,643×1.05=675.15円以上に終値が上がらねぱなりません。4/6に695円になりました。

 ここで,3/31に底をつけ,底値は643円と決定します(●)。また,695円を次の天井値候補にします。しかし以後は,4/7に700円,4/18に712円,5/6に71園,5/31に730円,6/1に732円,6/8に737円,6/9に752円,6/10に764円,6/13に768円と,天井値が決定しないまま,天井値候補が次々と高くなっていき,6/17に天井値候補が770円に変わりました。

 770円が天井値になるには,770×0.95=731.5円以下に終値が下がらねぱなりません。6/21に730円になりました。

 ここで,6/17に天井をつけ,天井値は770円と決定します(○)。

また,730円を次の底値候補にします。しかし,6/27に底値候補が726円になりました。

 726円が底値になるには,726×1.05=762.3円以上に終値が上がららねぱなりません。7/11に767円になりました。

 ここで,6/27に底をつけ,底値は726円と決定します(●)。また,767円を次の天井値候補にします。しかし,7/12に天井値候補が780円になりました。

 780円が天井値になるには,780×0,95=741円以下に終値が下がらねぱなりません。7/27に739円になりました。

 ここで,7/12に天井をつけ,天井値ば780円と決定します(○)。また,次の底値候補を739円にします。

 739円が底値になるには,739×1.05=775.95円以上に終値が上がらねぱなりません。しかし,リストの最後の日付の8/31まで,底値候補の値が変わらないまま,底値が決定していません。

 上記のように文章で書くと,少々面倒のように思うかもしれません。しかし,電卓片手で,表lのようなリストやご自分の場帖で試してください。きわめて簡単なのが分かります。パソコンを使えば,きわめて短時間で天底を決めることができます。いろいろなpの値で試してください。

 図1‐lとl‐2は「3402東レ」,図2−1と2−2は「1920殖産住宅」の日足終値(1992年の大発会から1994年8月31日まで)の折れ線の上に,3,4,5,6,10,15,20および25%天底(○印は天井,●印は底)を示したグラフです。

 横軸は立会年月日で,月初めの位置に月番号を書き,縦方向に点線を引いてあります。年番号(西暦)は,いちばん下に書いてあります。縦軸は,終値で,切れのよい値で区切り,価格を書き,横方向に点線を引いてあります。

 図1−1の上から8番目の5%天底のグラフの途中,1994年1月以降が,例題として使った部分です。

 図1−1〜2‐2で分かるように,pの値で,天底の数や位置が変化します。pの値が小ざければ,天底の数が多くなり,短期間で天底を繰り返します。pの値が大きければ,天底の数が少なくなり,ゆっくりと天底をつけています。当然といえば当然です。

 2〜7%天底(2%と7%天底のグラフは省略)は「リズム取り」の,10〜20%天底は「ウネリ取り」の参考になるように思います。ただし,銘柄ごとに固有のクセがあるためか,pが同じでも,銘柄によって天底の数や位置が違います。

 分割売買するとき,好きな銘柄で,pを1%刻みで変えたグラフをいくつか作ると,売買のタイミングを測るのに便利になりそうです。手描きでは面倒ですが,パソコンを使えば簡単です。

 なお,p%天底の位置は,直前の天底の株価がちょうどp%変化した位置ではありません。p%以上変化しています。逆張りの分割売買をする場合,自分の売買に適当と思うpの天底探しで,直前の天底が決定した時点も,仕掛げや手仕舞いのひとつのタイミングになりそうです。