SP波動率利用売買
その6
サヤ取り(1)
今年は,上げ過剰反応を示す銘柄が乱舞しています。私の戦績は6戦6勝。過剰反応利用売買は,やさしい売買法のひとつと思います。しかし,「0KK」や「神鋼電気」のような仕手株を仕掛けると,実験売買とはいえ,きわめて緊張します。増し玉のやり方としてl,2,2,2,3単位を試みてみましたが,増し玉の回数が増えてポジションが10単位ともなると,100円のストップ高がl日で100万円の評価損になります。
仕手株を仕掛けると,恐怖感と闘わねぱなりません。どこまで上がるのか,青天井のような気がしてきます。「血の小便」の経験をするのが上達に必要かもしれませんが,私のような年寄りにはストレスが強すぎます。「やさしい売買法」と頭では理解していても,このストレスの強さにはほとほとくたびれました。
上げ過剰反応利用売買には,相場感と勘と度胸と忍耐が必要になりそうです。これらが揃えば,かなり大きく取れるかもしれません。上げ過剰反応利用売買は,仕手株を仕掛けると「易しいけど優しくない」売買法なのかもしれません。少し頭を冷やすため,「過剰反応利用売買」の話は中断します。
今回から,読者からもご要望がありました,比較的大人しい売買と思われる「サヤ取り」の検討結果を,何回がに亘って紹介させていただきます。サヤ取りの解説書は,同友館からすでに3冊出版されています。私の検討は,これらの本を参考にしながら,SP波動率の天底を利用する方法です。
サヤ取りには,検討したい問題がたくさんあります。そのうえ,検討する銘柄数をnとすれば,2銘柄の組合せはn×(n−1)÷2≒n2/2通りになり,nが大きいと膨大な組合せ数になります。これに検討したい問題のいろいろな条件をつけ加えると,いっそう膨大な組合せ数になってしまいます。
CPU(パソコンの頭脳)が32ビットのパソコンで何日も24時間ぶっ通しで計算しましたが,計算速度が遅く,3カ月経っても思うような計算ができません。そこで,CPUがPentiumで今流行のwindows95搭載のパソコンを購入したところ,計算速度が数倍になりました。今回紹介する内容は,次のような条件でシミュレーションした結果の一部です。
l)検討時期:1995年のl月から12月まで,毎月最後の立会日に1回,合計1 2回,仕掛けの可否を検討。
2)検討銘柄群の抽出:株価に大きな差がある銘柄の組合せは,サヤ取りに不適当と 思われる。そこでFAI貸借銘柄を,毎月末,株価(終値)の低いもの(低位)か ら高いものの順に並べ換え,100銘柄づつの低位4群(低位l〜100位,10 1〜200位,201〜300位,301〜400位)を抽出〔群を構成する銘柄 は毎回異なる)し,各群内の2銘柄の組合せについて仕掛けの可否を検討。
3)仕掛けの可否の判定:各銘柄郡内のすべての2銘柄の組合せ(各群4,950通 り)について,月末の立会日の前日(立会日)までの過去240立会日(約l年) のサヤの最小値と最大値を求め,月末のサヤが最小値以下または最大値以上になっ た組合せを「可」として仕掛ける。
4)仕掛け:仕掛けが「可」と判定された組合せの2銘柄は,翌朝(翌月最初の立会 日の朝)l単位ずつ成り行き注文(始値で売買)。
5)サヤの天底数:2銘柄の月末株価の合計の10%(SP波動率に相当)を基準値 として,これを超える過去240立会日のサヤの動きの天底数を計算。
6)増し玉:仕掛けた2銘柄のサヤが逆方向に,基準値以上拡大または縮小するごと に,l単位ずつ増し玉。基準値以上にならなければ,増し玉はしない。
7)手仕舞い条件と結果の判定:月末株価の合計の6,7,8,9%を利益の目標準 とし,仕掛け後のサヤと月末株価のサヤとの差が目標利益率以上になったら,直ち に翌朝成り行きで手仕舞い(「勝」と判定)。仕掛け後120立会日(約半年)経 っても目標利益率に達しない場合,無条件で翌朝成り行きで手仕舞い(「負」と判 定)。
8)その他:勝敗や天底数以外に,増し玉回数,売買時の株価,利ザヤ,利益率,手 仕舞い日数等も計算。
表1〜4をご覧ください。上記の条件で検討した12回×4,950通り×4銘柄群×4目標利益率=950,400通りの2銘柄組合せで検討した一部,目標利益率が6%の場合の勝敗表です。表l(株価低位1〜100位の銘柄群)の最上段の数値(1995年l月末判定)を例として,表の数値を説明します。
過去240立会日のサヤの天底数が0の場合,仕掛けた組合せ数(仕掛数)は1組,その内「勝」はl組,「負」は0組,したがって勝率は100×1÷l=100.0%。天底数がlの場合,仕掛数は35組,その内「勝」は28組,「負」は7組,したがって勝率は100×28÷35=80.0%,…,天底数が5の場合,仕掛数はI組,その内「勝」はl組,「負」は0組,したがって勝率は100×l÷1=100.0%。天底数が6以上の仕掛数は無し(「.」で表現)。これらを合計すると,1995年l月末に判定して仕掛けた組合せ数は281組,その内「勝」は219組,「負」は62組,したがって勝率は100×219÷281=77.9%。
同様に,他の月の数値を読みとってください。最下段に,縦方向の合計を示してあります。1995年全体の仕掛数はl,249組,「勝」は1,038組,「負」は211組,勝率は83.l%です。
表l全体を見ると,サヤの天底数が多い月と少ない月があります。右欄の「合計」を見ると,月によって仕掛数が違いますが,天底数が多い月の勝率は少ない月より高い傾向があります。また,最下段の「合計」を見ると,天度数9と10の場合を除き,天底数が多い場合の勝率は少ない場合より高そうです。
なお,蛇足かも知れませんが,統計学的には〔信頼度95%で),天底数9の合計の勝率3÷4=75.0%は19.4〜99.4%の範囲,天底数10の合計の勝率7÷9=77.7%は40.0〜97.2%の範囲とみなすことになります。
表l〜表4を比較してください。株価が低位の銘柄群のほうがサヤの天底数が多い組合せが多いようですが,天底数が0やlの場合の勝率はどの群でも低いようです。また,月ごとの勝率は群によって大きな差がある月もありますが,全体としては勝率に大差がありません。
表は省略しましたが,目標利益率を高くすればするほど,当然,勝率が低くなります。ハイリスク・ハイリターンです。表を同様に省略しましたが,勝率だけではなく,増し玉回数,利ザヤの大きさ,手仕舞い日数,各銘柄自身のSP天底数等も考慮して解析する必要がありそうです。さらに,事前の検討日数や損切りの日数,もっと長期間の解析等も必要と思います。
表5をご覧ください。今年のl〜6月末に判定して仕掛けたシミュレーションの7月1日現在の結果です。どの場合も,仕掛け後の立会日数が120日に達していません。とくに6月の場合,7月l日現在で仕掛けたばかりです。そのため,まだ勝負がついていない仕掛けを「未定」としてあります。勝率が計算できないため,「未定率(%)」を表に示してあります。
表5の成績を,表1〜4と比較してください。今年の様子を読み取れるかもしれません。今年は今のところ,サヤの天底数が少ないようです。CPUが32ビットのパソコンで,直近数日間,同様の検討をしていますが,やはり天底数が多い組合せがありません。今年の様相は,長期間の検討結果と比較する必要がありそうです。
ここのところ毎日,パソコンを24時間稼働させていますが,サヤ取りの検討には長時間かかります。パソコンを10台が20台並ベて計算したくなってきます。2銘柄の終値やサヤの折れ線グラフを眺めたり,実験売買を通して実戦の感覚を養いながら,いくつかのシミュレーション結果を追々紹介する予定です。
注)サヤの拡大を狙うのがよいのか縮小を狙うのがよいのか,が問題になることがあるようです。しかしこの問題は,次のように考えれぱまったく差がないことがわかります。
2銘柄AおよびBの株価をaおよびbとし,サヤsを次のように定義する。
s=a−b
sの動きの拡大を狙うものとすれば,
s’=-s=b−a
としたs’の縮小を狙うことになる。つまり,AとBのサヤの拡大を狙うことは,BとAのサヤの縮小を狙うことになる。「逆もまた真」。
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