SP波動率利用売買

その8

サヤ取り(3)

 「サヤ取り」はローリスクといわれます。しかし,分析すべき条件が多く,検討する組合せ数が膨大です。いろいろな条件でシミュレーションしてきましたが,分析する面からは,「優しいといわれるけど易しくない」売買法のような気がします。

 今回は次のような,かなり大きなシミュレーションとその一部の分析結果を紹介します。

1)1990年l月〜1995年12月の毎月初め(72回),FAI貸借銘柄79 7社の前月末株価の低位200銘柄を選択し,過去120立会日(以下,検討期  間)の8%SP天底数(以下,株価天底数)を計算。

2)200銘柄すべての2銘柄組合せ19,900通りについて,サヤが{売銘柄の 株価一貫銘柄の株価}になるように売・買銘柄の順(サヤが大→小を狙う,前回参 照)を決め,月初の2銘柄の株価の合計の10%(波動率)を基準とした検討期間 中のサヤの天底数(以下,サヤ天底数)および最大値を計算。

3)月初から月末まで,毎日,サヤを計算。サヤが検討期間中の最大値より大になっ たら,仕掛け「可」の組合せと判定し,翌立会日の寄り付きで売りと買いをl単位 ずつ仕掛ける。月末まで,サヤが検討期間中の最大値を超えなければ,仕掛けは 「否」と判定。

4)目標利益率を仕掛値合計の6,7,8,9,10%とし,仕掛後120立会日 (以下,観察期間)までサヤを観察し,目標利益率以上になったら翌立会日の寄り付 きで手仕舞い。増し玉および損切り条件は,前回と同じ。

5)シミュレーション結果の整理項目は,前回と同じ。

 サヤ取り用の銘柄は,値動きが良いものが良いといわれます。SP波動率の大きさは値動きの大きさを,株価天底数は値動きの良さの程度を表します。また,サヤ取り用の2銘柄の組合せは,サヤの動きが良いものが良いといわれます。サヤの波動率の大きさはサヤの動きの大きさを,サヤ天底数はサヤの動きの良さの程度を表します。 表1をご覧ください。1990〜1995年6年間のデータで検討した19,900x72=1,432,800通りの組合せから,仕掛け「可」と判定した組合せは131,954通りです。表は,それらの組合せにおける売銘柄の株価天底数とサヤ天底数の関係です。

 相関係数は0.33です。ほんのわずかですが,売銘柄の株価天底数が多ければサヤ天底数も多い,という傾向がみられます。しかし,「ほんのわずか」,という程度にすぎません。

 表2をご覧ください。買銘柄の株価天底数とサヤ天底数の関係です。表1とほぼ同じ結果です。

 表3をご覧ください。目標利益率が6%の場合の,検討期間中におけるサヤ天底数とサヤ取り結果の関係を,暦年別に整理したものです。サヤ天底数の最大値は,1990〜1994年にかけて減少しています。

 サヤ天底数ごとのシミュレーション結果は,年ごとに少し違います。しかし最下段の6年間の合計を見ると,サヤ天底数が多くなるに従い,勝率が高くなっています。サヤ天底数が3を超えると,勝率が85%を超えます。

 表4をご覧ください。今年の株価を使って行った同様なシミュレーションの月別・サヤ天底数列の成績です(10月31日現在)。

4月までに仕掛けた組合せは,10月31日現在,観察期間を終了しています。5月以降に仕掛けた組合せの一部は,まだ勝敗が決まらず,「未定」として観察中のまま残っています。

 今年は,10月が終わっても,サヤ天底数が7以上の組合せがありません。私が検討している方法では,サヤ取りにはきわめて低調な年,といわざるをえません。サヤの値動きの良さは,相場の相活性度と関係があるかもしれません。

 表5をご覧ください。サヤ天底数3以上の組合せ32,260通りについて,目標利益率6〜10%のシミュレーション結果を比較表です。目標利益率を高くすれば,当然,勝率が低くなりま平均利益率が高くなります。

 表の成績は,サヤ天度数を4以上,5以上,6以上…としていけぱ,表3からも明らかなように,勝率が次第に高くなります。しかし,仕掛け「可」の組合せ数が少なくなります。

 表6をご覧ください。サヤ天底数3以上の仕掛組合せにおける目標利益率6%の場合の勝率を,売・買銘柄の株価天底数別に比較したものです。売銘柄の株価天底数がlの場合,買銘柄の大部分の株価天底数で,勝率が低くくなっています。しかしそのほかには,これといった傾向がみられません。他の目標利益率の場合も同様です。

 1992年以降の信用残のデータが私の手元にあるので,売・買銘柄の売り残,買い残,貸借倍率との関係も検討しました。しかし今のところ,取り立てていえるほどの傾向は掴めていません。

 同友館から,サヤ取りの解説書が3冊出版されています。それらによれば,栗山氏は,特定の銘柄を「軸銘柄」として,他の多くの銘柄と組み合わせて検討することを推奨しています。いっぽう照沼氏は,「複数仕掛禁止」として,同一時期に同一銘柄を複数の銘柄と組み合わせて仕掛けることを禁止しています。

 表7をご覧ください。同一月に「売」または「買」で仕掛けた組合せ数を6年分集計し,仕掛数上位100銘柄の仕掛組合せ数と勝率を示した表です。目標利益率6%の場合です。

 「3869日本紙業」は,6年間に仕掛け「可」と判定された組合せが456通りあり,その内417通りが「勝」になり,勝率は91.4%です。

 表8をご覧ください。1995年における仕掛数上位100銘柄の仕掛回数と勝率の表です。「7204コマツゼノア」,「8616東京証」,「2056日記飼」,「8101グンゼ産」,「6796クラリオン」の勝率は100%です。しかし「5707東邦亜鉛」のように,勝率が低いものもあります。

 もし,勝率がきわめて高い銘柄を「軸銘柄」としてあらかじめ選択できれば,高い利益勘定を期待できます。しかし残念ながら今のところ,そのような銘柄の選択方法が私には見つかりません。

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