講演前知識として、以下、ご案内いたします。
MKニュース社発行『FUTURES JAPAN』2003年12月号より許可を得て転載
http://www.mknews.jp/fj/
冒険投資家 ジム・ロジャーズに訊け
若者の反乱 「一体何を買ったら良いか?」
驚いたことに、日本の株式市場には映画産業を追うアナリストがいない。この驚きを理解するため、アジアの若者たちの想像力というものに対して、東京が果たしている役割を知る必要がある。
東京はニューヨーク、マイアミ、ブエノスアイレスのすべてを一つにまとめたような、アジア大陸で最も素晴らしくホットな都市である。アジア諸国の若者は日本の本、マンガ、レコード、映画、テープ、CDを買いたがる。中国で最も人気のある外国語は英語ではない。日本語だ。アジア諸国の政治家はそうではないかもしれないが、アジアの市井の人々は純粋に日本、そして日本のモノすべてを愛好しているのだ。
買っている株は?
そう、私は日本最大級の映画会社の株を買っている。これらは隠れた資産を有している。土地と往年の映画だ。同じことが日本のテレビ局にも当てはまる。追いかけているアナリストはいないが、これらの企業はアジア中に自分たちの商品を売り込んでゆくだろう。似たような理由で、私はアジアに日本のエンターテイメントと音楽のブームを起こして収益を上げようとしている企業の株を購入している。
日本の若者は、古い保守的な世代の息苦しい束縛の下で少しずつ動き出している。街で私とペイジは、若者による変革の例を見た。今のところ保守的世代に反抗する若者はそう多くない。しかし、両親と祖父母の世代が高齢化するにつれ、彼らの馬鹿ばかしいやり方を踏襲できない人が増えてくるだろう。
「キーワードは?」
キーワードは「マイブーム(maibum)」という日本語である。「自分のやりたいことを自分のやり方でする」という意味だ。若い女性の結婚・出産が高齢化し、高い離婚率の大部分を占めている。この若者による変革は、日本で解禁されたばかりの経口避妊薬(ピル)によって拡大するだろう。
興味深いことに、男性向けのバイアグラが日本で認可されるのにたった6カ月しかかからなかったのに、女性向けの経口避妊薬の認可には20年もかかっている。しかも利用する女性は新しい処方箋を得るため、毎月医者を訪れなければならない。しかし、やがてこの制限は緩和されるだろう。
興味深いことに・・・(中略)
若者の反乱を物語る他の例を挙げよう。日本の女子学生は制服を着ている。しかし、彼女たちの靴下と靴は校則で拘束されていないため、履物の選び方や様々な方法で特色を出し、彼女たちの創造性を見せようとしている。学校を卒業した若者は髪を染め、驚くような格好をする。広島で私たちは、暴走族と忍者を掛け合わせたスタイルで着飾り、大きなポンパドールの髪型をした若い男たちを見た。私は若者のことを専門家よろしく論じるには年が離れ過ぎているが、彼らは同じ奇妙な格好をすることで、お互いを認識しているように見えた。彼らに「サラリーマンになるつもりがあるとは思えない。(中略)
変化の兆し
株価上昇の兆候がいくつかある。米国の「401k」プランに匹敵する企業年金プランが日本にも導入され始めたが、歴史的に常に、こうしたプランは強気相場のきっかけとなっている。多くの金融システムを修正する新しい法律もまた、株の譲渡や株の交換などを認め、かなりの資金的弾力性を可能とするだろう。メルセデスの売上が年間で40%上昇している。これが弱気指標になることは滅多にない。
さらに、石油の小売会社が買いだと信じている。日本には非常に多くのガソリンスタンドがあり、政府はその数を減らすために奨励金を出している。競走過多でなくなれば、残ったものは収益性がある。そして・・・(中略)
目前の変化
世界で最も豊かな国にふさわしく、ここは生活するのに高くつくところである。広島空港までたった往復30マイル(約48キロメートル)のタクシー料金に、200ドルもかかった。距離的にはニューヨーク市内からニューアーク空港までと同じぐらいだが、料金は約90ドルで済む。日本にはタクシーがとんでもなくたくさんある。これもまた行政に保護された業界の一つである。すべてが高価で、そして空車だ。料金があまりにも高過ぎるからだ。行政サイドでは、業界がかなり苦しんでいるからとして、タクシー料金を値上げするべきだとの意見もある。私に言わせれば狂気の沙汰だ。なぜ規制緩和をして、価格を落とし、移動を必要とする人々でタクシーを満たそうとしないのか。現在の政策は、公共の交通機関の利用を奨励しているのだろう。しかし、なんとも奇妙な資源配分の方法ではないか。 公共工事に過度の支出をしてまでも、日本人は途方もないインフラを求めている。これまで訪れた20カ国で、初めて電子メールを問題なく送受信できたのは日本だ。道路は素晴らしい。多くの歩道に屋根がついていて、歩行者は濡れずに済む。すべての主要道路に、次に来るカーブを運転者が分かるよう、ライトが埋められている。歩道の中央には、目の不自由な歩行者が杖で道を感じられるように五つの溝が通っている。そして曲がり角に差し掛かると溝の形が変化して注意を向けられるようになっている。さらには点字の案内がコンクリートにはめ込まれている。
ここは、カルフォルニア州より若干小さい国である。そこに次の世紀には6000?7000万に人口を減らすかもしれない1億2500万人が住んでいる。彼らは何十もの段階を踏んで自分たち社会の規制を緩和する必要がある。そして、公共支出を抑制しなければならない。どの国でも空港周辺では工業団地を目にするのが普通である。しかし、ここで目にするのは稲田だ。コメ農家保護政策の結果である。
出生率の低下に直面する日本人が、これに対して何ができるかなど、神のみぞ知ることだ。他の国が適用している改善策は・・・(以下略)
MKニュース発行 『FUTURES JAPAN』2003年8月号より許可を得て転載
http://www.mknews.jp/fj/
ロジャーズ・インターナショナル・コモディティ・インデックス(ロジャーズ国際原材料商品指数=RICI )のパフォーマンスは1998年8月の設定来、2003年5月末まででのリターンが91.29 %(右図参照)。世界経済が不透明さを増す今、世界中の機関投資家、個人投資家から注目を浴びている。
―ロジャーズ・ファンドを立ち上げたきっかけは何ですか?
▼まず、米国株式市場の強気相場が終焉し、商品市場の弱気相場が最終局面に入
ったと考たからです。そして「新しい強気相場は商品市場で生じるだろう」と判
断しました。ただ、私はアクティブ運用(マネジャーの売買判断による運用)をしたくはあ
りませんでした。いくつかの研究結果から明らかなように、インデックス運用
(パッシブ運用=市場指数に連動させる運用)は、大半のアクティブ運用を常に
上回っているからです。つまり指数は、大半のマネジャーよりも良い成績を残す
だろうと考えたわけです。恐らくその中には私も含まれますが(笑)。そこで、
商品指数のファンドを組成する計画を立てました。
―このファンドが立ち上げられたのは1998年です。そのころから米株市場の
強気が終焉するとどうして分かったのですか?
▼90年代末の米株市場がバブル化してきたのは明らかだったからです。誰もが株
式投資に熱狂し、関心を持ち、テレビ、新聞、雑誌には株式関連の記事であふれ
かえっていました。このような状況になれば、それは手を引く時であると歴史は
マーケットの歴史的な転換示しています。
―私も日本で目撃しました。
▼日本、クウェート、ブラジル、どこであれ、こうなったらまさに降りるときで
す。ですから、米株の強気は終焉に向かっていると分かりました。
―逆に商品市場の弱気が終焉すると考えたのはどうしてでしょう?
▼例えば、砂糖が73年に天井を付けてから下げ続けているように、銘柄にもより
ますが、商品市場は概して20〜25 年間、弱気相場にありました。そして歴史的
に、商品市場では20〜25 年ごとに強気生じています。
―それはサイクルですか?
▼「歴史的に」です。サイクルである必要はありません。しかし歴史を振り返る
と、何度も起こっているわけです。それにはいつも理由があります。サイクルだ
けで片付けられるような単純な話ではありません。私もそんなに簡単であればな
と思いますね。そうすれば、もっと簡単に金儲けができたでしょう(笑)。
私は、過去20 年間、商品市場が弱気にあると気付きました。そして、宿題を解
いてみて分かったのは、ほとんど誰も商品に投資していないことです。例えば、
新しい砂糖のプランテーションや鉱山の開発に投資をする人がいませんでした。
何年もの間、人々は商品を生産する新しい設備(キャパシティ)に投資してこな
かったわけです。
しかし、同時期に中国・アジアの急成長に代表されるように、世界中で需要は
伸び続けています。しかも在庫が減っているのです。前回の強気相場の後、ある
いは冷戦に入って、人々は商品の在庫を拡大しました。しかし、これらの在庫は
尽きているように思います。少ない供給、需要増加、在庫なし、となれば強気
相場になるはずです。
―5年前に商品市場は転換すると考えたのですか?
▼私にはいつ市場が転換するか決して分かりません。それほど賢くありませんか
ら。しかし、いずれ変化が起こるだろうと考えました。第一、市場の転換する日
どころか、その月でさえ、私は知る必要がありません。と言うのも、商品市場は
上昇し始めると、年単位で上昇するからです。
新しい生産設備が軌道に乗るまでには時間がかかります。例えば、翌日、私た
ちは銅の在庫が不足していると判断したとします。まず、鉱山を探しに行かねば
なりません。それだけで時間がかかるでしょう。そして銅山を見つけたら、鉱山
開発のために資金を集めなければなりません。これにも時間がかかるでしょう。
誰も銅を欲していないからです。また大きな穴を掘ればそれで良いと言うわけで
はありません。採掘して銅を精錬するにも時間がかかります。これらは年単位な
のです。
このように供給が追いつくには時間がかかりますから、商品市場の強気相場は
数年間継続します。数年かけて利益を出せるのですから、市場がまさに転換する
日、週、月、四半期でさえ問題ではないわけです。
―では、商品市場の強気が終焉する時期も正確には分からないのでしょうか?
▼逆に人々がこぞって銅の生産に乗り出したら、手を引くときです(笑)。
メリルリンチという世界最大のブローカーがあります。しかし、ここには商品
部門がありません。世界最大のブローカーから商品を買えないのです。なぜな
ら、大半の人々が商品は強気になると信じられないからです。換言すれば、メリ
ルリンチが商品市場に戻ってきたら潮時です。
メリルリンチが商品市場にすぐに戻る気配はありません。またCNBC(米国
の経済専門ケーブルテレビ局)は毎時
間、シカゴの大豆ピットから中継しているわけではありません。そうなるにはま
だ時間がかかるでしょう。
商品の強気相場にも終焉は訪れます。それがいつかは分かりません。しかし、
その時期については認識できるでしょうね(笑)。
―コントラリアンですね(笑)。
▼そう言えるかもしれません。先ほど述べたように、誰もが同じことをしていた
ら、恐らく他のことをする時期でしょう。それが投資の世界の常です。誰もが
株を買っていれば、株を買うのを止めるべきです。誰もがまた商品を買い出した
ら、私は商品を買うのを止めるでしょう。そうしたら、株を買うかもしれませ
んし、中国に移住するかもしれません(笑)。
―中国の商品市場は面白そうですね。
▼中国の商品市場への投資は非常に関心があります。ただ、現時点では為替の問
題があるため、ロジャーズ・ファンドからは投資をしていません。投資家は兌換
性のないファンドへの投資には興味がないでしょう。
―移住先に日本はいかがですか?
▼私は日本の国も人も大好きですよ。女性も非常にきれいですし、しかも優秀で
すし(笑)。東京とニューヨークは世界で最も好きな都市です。非常にエネルギ
ッシュで熱情的です。だからこそ私はニューヨークに住んでいるわけです。
―実は以前、ロジャーズさんが「日本は買い」とコメントされていた記事を拝見
したのです。
▼確かに日本の株を買っています。日本のカントリー・ファンドやETF(上場投信)
を勧められます。日本株はいらか上昇するでしょう。しかし、
それよりも良い投資先は……(中略)
―実際に世界中を旅してきて、マーケットに対する国民性があると感じましたか?
▼ご承知のように、私は2回にわたって世界一周をしています。そこから言える
のは「世界中の人々が同じだ」ということです。誰もが欲や恐怖に駆られます。
特にマーケットで人々がすることは同じです。
確かに歴史的には「ある国民性」が生じてくるときがあります。例えば第2 次
世界大戦後、日本人は一生懸命に働きました。これは国民性……でした。親は子
供に同じ感情を受け継いでもらおうとします。しかし、今ではそうした勤勉さが
日本の国民性と言えるでしょうか。つまり、私は歴史的時期(時代背景)が国民
性を決定する場合があるのだと思います。
今、米国は世界最強の国です。非常に傲慢になっています。しかし歴史的に超
大国でなければ、謙虚になっていたかもしれません。日本にも傲慢なときがあれ
ば、謙虚なときがあったでしょう。それでも常に日本人です。歴史が何よりも増
して性格を作ると言えると思います。
―日本人は13年目になる弱気相場を経験して、総じてリスクを恐がっているよう
に思います。
▼まさにその通りです。80年代、日本人はリスクを恐れませんでした。思いつく
ものには何でも投資をしました。株を買えばリスクどころか安心だと考えていま
した。ところが、今は株を買いたがりません。まったく違う姿勢ですが、依然と
して皆さんは日本人です。国民性、日本人の姿勢は、時とともに変化しているわ
けです。
同じことが米国にも言えます。70年代、誰も株を買おうとはしませんでし
た。ところが90 年代は誰もが株を買いたがりました。それでも同じ米国人です。
ただ、時が変化したのです。日本人は数カ月、数年後には株式ある
いは商品投資に関心を持つかもしれません。時間が変われば姿勢も変わるものな
のです。
―ロジャーズさんはリスクについてどうお考えですか?
▼私はリスクを取るのが嫌いです。確信の持てないものに投資するのを好みませ
ん。これは非常に安いと確信して、これから高くなりそうだから買うわけです。
テーブルの向こうにおカネがあるのを見つけ、そこまで行って、それを拾う、こ
れが私の好きな投資方法です。
―私に見えないのはなぜでしょう。
▼私にもこのテーブルの向こうには何も見えませんよ(笑)。しかし、市場の中には見えます。その理由は先ほど述べた通りです。恐らくそれほどリスクは高くないでしょう。
もっとリスクがあるのはシスコ社株の買いです。3年前、誰もがシスコ株に自
信を持ち、リスクがあるとは考えていませんでした。ところが、非常に高額でし
た。市場史的な感覚があれば、それが安マーケットは変わらずは横ばいが続くでしょう。
―その横ばいの間にデフレが発生することはないのでしょうか?
▼デフレはありません。物価は上昇していますし、商品価格はすでに上昇してい
ます。米連銀は紙幣を過剰に発行していて、これは良いことだと私は思いませ
ん。しかし、私の意にかかわらず、現実にそうなっていて、物価が上昇していま
す。
いつの日かデフレが起こるかもしれません。しかし、その前にインフレがある
でしょう。
―インフレはロジャーズ・ファンドにとって追い風ですね。
▼そう、その通りです。そして世界中の出来事が商品指数には追い風です。まず
は需給。そして日米の中央銀行が紙幣を過剰に発行しています。さらには戦争で
す。戦争はまだ終わっていません。米政府はより多くの人々を攻撃して、命を奪
うでしょう。もちろん、私たちにとって良いことではありません。しかし、商品
指数には追い風となります。
―そのような荒れた状況で私たちはどうしたら良いのでしょう?
▼商品、商品指数の買いです。日本人ならコメを買いなさい。
―将来的にはロジャーズ・ファンドをETFにするのはいかがでしょう。
▼それは面白いですね。将来的にはあるかもしれません。
―ただ、商品市場は、金融・株式市場に比べて格段に規模が小さいです。巨額の
資金を運用するだけの器でしょうか?
▼世界最大の市場は外国為替で、2番目の市場が米国債だと言われています。し
かし、一方で商品も非常に大きな市場なのです。
例えばコメ。コメは今のところ取引所でそれほど取引されていません。しかし
毎日大量の(現物の)コメが世界中で売買され、40億の人々が毎日食べていま
す。コメの価格が上昇すれば、取引所取くないと分かったかもしれません。少な
くとも安値から転換しているとは考えなかったでしょう。私はそのようなリスク
は嫌います。
―トレードに関してはどう思われますか?
▼それは話が違います。私はトレードが下手です。上手い人がいることはよく知
っています。私は長い年月で結果が出るものを買いたいのです。トレードはした
くありません。ある人は20 分ごとに建玉を変えます。私は20 年ごとに建玉を変え
たい。
―多くのエコノミストによると、日本はデフレ状態にあります。米国でもデフレ
が起こると思いますか?
▼まず言っておきたいのですが、日本経済は日本のマスコミの論調よりも強固で
す。この14年間、日本の外貨準備高は毎年増加しています。日本政府は、それが
日本のやり方なのでしょう、非常に慎ましやかにしています。しかし、4000〜5000億ドルもの巨額の外貨を貯めているわけです。日本は何かしら良い方向に向かうと思います。
私は大半の日本人以上に日本経済に楽観的です。そして、大半の米国人以上に
米国経済に悲観的です。数年間、米経済は横ばいが続くでしょう。
(以下略)
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