第4章で、ルールの解説をすべて終わりにしようと思ったが、心得についいろいろと書き、ルール解説が第5章にずれ込んでしまった。しかし、細かいことをいくら聞いても、基本となる心構え、値動きを追いながらポジションを動かすときのイメージがないと、どうにもならない。この章では、残りのルール(ルール17、18、27、28、29、30)について解説しながら、
について、書いていく予定である。
[1]売りを意識しろ
市場では「買い」から入る投資家がほとんどである。現物市場なのだし、FAI投資法も買いから入るのだから、それでいいのだが、一般的に「買い」だけに意識が偏る悪い傾向がある。
こればかり考えているうちに、
ということになる。自分では冷静に考えているつもりが、自分の作り出した情報に脅迫されて買い注文を出してしまうのである。
相場において行動力は大切である。思ったときにはすぐ行動に移すことができないと、いい成績は期待できない。しかし、上記のような心理は、戦略に関係なくその銘柄を手に入れる(買い漁る)ことに熱心になるだけで、うまく予想通りに上がることしか考えない状態になる。うまくいけば「もっともっと」という気持ちになり、ダメだったときには素直に対処できず、期待通りの路線に戻ることをハラハラしながら待つということになる。第4章でも述べたが、余分な感情の起伏をつくってはいけないのである。(第4章、[11]株数と銘柄数 (2)株数は均一に、参照)
相場の資金は決まっている(限られている)わけで、ただ銘柄を集めてもダメ。買う目的は「利益を得る」ことであるが、必ずしも利益が取れる保証がないのだから、買う本当の目的は「売ること」と言うしかない。
投資法や具体的な戦略の建て方によって期間は異なるが、買ったら必ず売って手仕舞うのであり、ゴールである「売り」をスタートの「買い」とセットで考えないと、なんとなく期待をもってポジションをつくるやり方になり、それはやり方ではなく、やり方を考えずに売り買いをすることになる。
「買って持つ」のではなく、「売って利食うために買う」という考え方が正しいのである。
[2]いつ売っても利益
「買うのはいいが、売り時がむずかしい」という意見を聞くことが多いが、こう考える人は前述のように「売りと買いをセットで」認識していないのである。
買いは買いだけで考えるから、目をつけた銘柄が欲しくなって、たまらなくなって、多少なりとも興奮状態で買い注文を出してしまう。売ることを意識しないで買うから、「ダメだ」と思っても見切って手仕舞うことができない。
では、思惑(おもわく)通り上がったときはどうなるか。売って現金に戻して次の機会にあらためて買う(同じ銘柄、あるいは別の銘柄)ことを考えないから、「もっともっと」と考えて、知らず知らずのうちに天井を売ろうという気持ちになり、これまた具合の悪いことになる。
前の章でも書いているのでくどくなるが、明日の値段を知る術はない。買い値より手数料分以上値上がりしたらいつ売っても利益なのだから、実はむずかしく考えることは何もないのである。「利食いして破産した人はいない」のである。
相場をしていれば、問題はたくさんある。思惑通り値上がりした、つまり、何の心配もない状況で深く悩んでいたら、あっという間に胃に穴が空いてしまう。考えるべきは全体的なゲームの進め方なのである。
[3]損切りについて その1
まず、一般的な売買について述べる。
相場は先行きがわからないゲームであり、当てることよりも、「限られた資金を、不安と期待を抱えながらどう動かすか」「自分なりに、どういうゲームを展開するか」を考えるものである。これらのことを冷静に、そして安定して継続するために、「売買の対象を絞る」「さらに自分の出番を絞る」ことに注意するのである。
つまり、ゲームのやり方を考えるのは、「予測が当たらない」からで、常に「あたらない」ことを前提にしていなければいけないのだが、「期待」が邪魔をして冷静さを欠き、つまらない損のしかたをしてしまう。「つまらない損」というのは、無理して、時間をかけて、大きく損をする、ことである。
まともに利益を出すためには、まず自分の専門を決める。そのなかで、自分の出番を決める。出番が来たら躊躇無く出動するのだが、思ったとおりにいかないのが相場、「あれっ」と思ったら損切りして仕切り直し、「おやっ」と感じたら潔く手を引き出直しをする。そして、「よし、良い感じだ」と確信が持てたときだけ継続し、しっかりと利益を確保したら休みを入れて次の出番を待つ。この繰り返しである。
実際、「当たり外れ」の確率だけ論じたら、プロだってなかなか4割には達しない。それでも大損を避けて利益を重ねていく(むらは当然あるが)ことができるのは、当てようとせずにゲームの進め方だけを冷静に考えるように心がけているからである。これが相場の基本的な考え方である。
評論家ではなく、実際に売買を生業としている人の本を読むとよくわかる。人によっては「損切りができるかどうかがすべてである」と損切りの重要性だけを極端に強調している。
[4]損切りについて その2
FAI投資法では、基本的に損切りは考えない。その理由を説明する。
FAI投資法は、全銘柄(東証1部から銀行・ガス・電力を除く)の月足を見て、安全確実な上げ相場を狙って買うというものである。前に述べたように、ある程度タイミングのズレは生じるが、「FAI銘柄は持っていて安全」というわけである。もちろん、ルールの解釈や実際の銘柄選定を間違えればうまくいかないのだが、FAIクラブの銘柄選定が正しいことは、1980年代の選定銘柄が100%2倍以上になったこと、そして1990年からの下げ相場を予見し、12年間待ち続けることができたことで証明されている。
「今月上がるか」「来月上がるか」という細かい予測は当たらないが、10年という株価の大きなサイクルを見たときの判断は当たっている、というわけである。そして、銘柄が多い分細かいことには目がいかないので、個々の銘柄について神経質な玉の入れ方はしない。「下げ止まったか、まだか」を考えて安値を拾っていきながら、資金全体のバランスに注意するだけである。当然、タイミングを誤って仕込むこともあるが、均等の株数で散らしているから気にする必要はないのである。
注意することは「我慢すること」である。一般投資家は、我慢できずに買って、見込み違いを素直に認めずに我慢して持ち続けることが多い。これは我慢ではなく、無駄である。買いたい気持ちをストレートに出していたらお金がいくらあっても足りない。慎重に安値を拾う。逃すものがあってもいいから丁寧に買う。この我慢ができれば資金は常に余裕があり、多少買うタイミングが悪かった銘柄があっても何の問題もなく吸収できるのである。
FAIクラブが混乱なく実績を積んでこられたのも、年数に関係なく我慢することができたからである。
[5]損切りについて その3 大失敗の修正と予防
FAIでは「損切りを考えない」のだが、大失敗をした場合は損切りしてでも修正する必要がある。大失敗するたびに資金の数倍のお金を追加することなど、絶対にできないからである。「資金は限られている」のだ。
「この場合はこうである」と具体例を出すことはむずかしいので、ポイントを示すことにする。
こういう場合、「おや、まずいかな」と思ったとき早めに修正すれば損もわずかで、精神的に大きな負担を強いられることはない。だが、まずい状況になってしまうくらいだから、自分で早めに気づくというのはむずかしい。悪い形になったまま時間を費やし、無駄をしてしまう。なにより精神的に苦しくなるので、その後の売買も狂っていくことになる。
FAIでは多くの銘柄に分散するから、個々の銘柄のポジションを神経質に考えると、バランスが悪くなる。だから、資金全体の管理に気を遣い、細かいことは気にしないでいくのが正解である。細かいことが気になったら、全体が狂っている状態なのである。そうならないように「我慢」をして、余裕を保ってもらいたい。そして、どうしようもないときは、早めに修正して出直す勇気を持ってほしい。
[6]損切りについて その4 通常の修正
いままで述べてきたことを徹底して守り、上手に実行できたとしても、継続的に売買をしていれば何らかの狂いが生じる。儲かれば気持ちが高揚し、うまくいかない期間があれば落ち着かない。その感情の振れをどれだけコントロールできるかが相場の技術であり、余分な感情をゼロにするのが理想であるが、どんなに慣れていても、また経験が豊富でも、人間である以上感覚の狂いは生じる。そのために、ポジションに区切りをつけ(意識的にゼロにする)て、休みを取るのがプロのやり方である。儲かっても休み、損しても休み、とにかくポジションのない状態で心を落ち着けて次のラウンドに備えるわけである。
ところが、FAI投資法は多数の銘柄に分散するやり方なので、上記のような「休み」がつくりにくい。基本的には休みをつくらないで売買を継続していくことになる。(注)
では、どうやって感情の狂いを調整するのか。基本は、「個々の銘柄を区切りよく手仕舞っていく」ことである。30項目のルール本文にはないが、「24ヶ月保有している銘柄は強制的に手仕舞いする」という付則がある。この意味は、次のようになる。
「長期の値動きを見て銘柄を選定し、実際の売買も数ヶ月の波を見ながら行う。しかし、読みがいつもピタリピタリ当たるものではなく、利食いまでに時間がかかることもある。それでも24ヶ月を経過したものは強制的に売って、別の銘柄を買うための資金として現金化するべきである。
個々の銘柄をリズムよく売り買いしていくことで、資金全体のリズムをよくする。余裕を持って売買することで、売買そのものに修正の役目を持たせるのである。
実際の値動きはFAIクラブで選定した銘柄でもバラバラになる。とくに3ヶ月・6ヶ月の上げ下げで位置が高いほど、ばらつきは顕著になる。それでも、選定銘柄全体が高い時期というものはあるが、個々の銘柄を冷静に追っていれば、高い時期には徐々に手持ち株が減って余裕資金が増え、じっくりと「3ヶ月・6ヶ月単位の下げ」を見送りながら次の安値圏で仕込むための資金を温存する姿勢がつくられるのである。
(注)FAIクラブは12年間銘柄を選定せずに「休みまたはカラ売り」の方針をとってきたのは、修正のための休みではない。銘柄を低位株に限定し、大きく着実な上げをみせるものを選ぶことに的を絞った結果、バブルの大相場後に休みを取らざるを得なかったのである。
[7]荒れたら手を引け (1)安値ほど取りやすい
よく見られるのが、「動いてきた銘柄を新たな売買対象としてスタートする」やり方。「儲けたい」「何かないか」と考えていると、市場では何かしら動いている銘柄があるから、その中で興味を引くものがあり、それを売買しはじめる。やり方も何も考えずに、「はじめに銘柄ありき」というアプローチである。とくに材料があるものを選ぶ傾向が強くなるから、その材料と人気化した値動きに振り回され、利益となることが少ない。極端に言えば、最初から「負け戦」なのである。
FAIに限らずどんな投資法でもそうだが、
という順序が正しい。
さて、FAI投資法は「底値圏にいる銘柄で大きく上昇するものを選ぶ」やり方である。だが、決して「大きな値幅を狙う」ものではない。「着実な利益」のために、苦労して銘柄を選定するのである。正しく選定された銘柄は、数年の期間をかけて大きく値上がりするが、位置が高くなるほど動きは荒く、わかりにくくなり、「取れそうで取れない」度合いが強くなる。上昇を、1段、2段、3段、と分けると、難易度は1段目=1、2段目=3、3段目=9といわれる。高値の動きは大きいから儲かりそうだが、安値のおとなしい動きの方がはるかに取りやすく、その安値を中心に狙うのがFAI投資法である。
安値圏に近い動きはおとなしく、面白味がないからと興味を持たない人が多いが、安値ほど率が良いからバカにならない利益が期待できる。相場は可能性のゲームである。簡単に取れるところが「おいしい」場所であり、大きく取れそうなところは「危険」なのだ。長期のサイクルでも、短期のサイクルでも、すべて同じである。
[8]荒れたら手を引け (2)手を荒らすな
「動きがあるものに目をつけて売買をはじめる」というアプローチは、極端に言えば火事場泥棒である。動きがなければ儲からないのだが、混乱の中に危険を背負って飛び込んでいくことになりやすい。売買にかける時間は短いほどいいのだが、実際の動きを無視して「早撃ち」しようとしても、無理・無茶になってしまうのだ。「上がる直前を買う」のが理想であるが、落ち着いて実行するためには、安値圏で丁寧に買い、ある程度の期間「待つ」ことも必要だ。待つのも相場ということである。
上がってきても決して興奮してはいけない。@確実に売り、A現金化し、B次の仕掛けに備える、ことだけを考え、淡々と進むのである。もし、場が荒れてきたら、積極的に退くことが大切だ。これをきちんと守らないと、手が荒れてしまうのだ。つまり、売買の基本形を崩してしまい、むずかしい場面を求めるようになってしまうのである。いくつか例を示して説明しよう。
むずかしい技を競うのではなく、着実に取ることだけを考えるのだ。下品な例だが、泥棒をするのなら金額が少なくてもいいから簡単に取れる家に入ればいいし、ケンカをするのなら強いヤツに正面から向かわず、弱いヤツを相手にすればいいのだ。
古い話だが、1987年10月のブラック・マンデーが良い実例である。暴落が起きるまで、株は順調に上がっていた。FAI実践者でもそうでなくても、個々の動きを冷静に見ていた投資家は利食いを先行させ、手持ち株が少なく(キャッシュ・ポジションが高く)なっていたのである。当日にストップ安が続出して翌日が大幅な戻り、その後ダラダラと下げたわけだが、数日間の荒れ場と世間の声を無視すれば、「通常の上げ→当然の天井形成→必然的な下げ」というあたりまえの動きがあっただけである。長期的に上げ途上にあった東京市場は、NY暴落をきっかけに目先下げただけで、NYの長期低迷とは対照的に上げ基調を崩していない。
暴落後、投資家がどう行動したかであるが、賢明な人は少しびっくりした程度で、自分のゲームを崩さないように注意しただけである。もちろん、自分のやり方というものをきちんと決めていたから冷静に対処できたのである。ダボハゼ投資家は、自分のポジションをほったらかしにしながら、大慌てで火事場泥棒をはじめ、当然、両方とも損をしたのである。
[9]とにかく資金をとめないこと
「売ることを目的に買う」わけだし、「細かい予測はどうしても当たらない」のだから、上げの勢いのあるうちに確実に手仕舞って現金化することが最も重要であり、極端にいえば、売り買いの決断時にはそれ以外考えなくてもいいのだ。
迷い・期待・不安・焦りを抱きながら値を追いかけるのが相場である。利益率をやたらと気にしたり、「今日売ろうか、明日売ろうか」と考えてもわからないことで悩んだりしていると間違った方向、つまり肝心要のことがおろそかになってしまうのである。自分の売買を振り返ってみて、「もっと幅が取れたのに」と感じることは多いが、それは現実的には不可能な限界への挑戦である。確実に手仕舞うことができれば、買いたい銘柄が出たらいつでも買えるだけの余裕資金があり、素直に値動きに考えを集中させることができる。実際にポジションを持って株の上げ下げに身を投じながら、自然な売り買いを維持するための自己コントロールが要求されるのである。相場は、金額の決まっている売買資金をとめることなく回転させていくことが命なのだ。
■FAIクラブで選定した銘柄がすべて2倍以上に達した1980年代、3回にわたって1年間の売買スクール(特訓コース)を実施した。のべ53人が参加したのだが、最高の成績(年間利益率48.1%)と最低(年間利益率3.7%)が同じ第2回のコースで出た。同じ期間、同じ銘柄を、同じ方法で売買したのだから、純粋に売買技術の差であり、上記のことを実行しようとしたかどうかの問題だった。
■2人の玉帳に解説を加えた資料を作成し、林投資研究所で販売してますので、興味のある方は購入してお読みください。貴重な現実の売買記録です。
紹介のページ → こちら
[10]利益率を高める試み
売買をするのだから、できる限り効率よく儲けることが目的である。だが、この試みを間違ったやり方で実行してしまうのが相場である。
株式投資で継続的に勝つ(利益をあげる)人は、一般の人が想像しているのとは大違いで、極端に少ない。実行(実際の売買)が容易なだけに、錯覚が簡単に増幅して間違った方向に行きやすいからだろう。とにかく、大きく利益にならなくても、損をしないだけで上位数パーセントに入ると業界では言われている。だから、まずは損をしないだけで十分なのだが、これだけなら「投資法をきちんと組み立てて準備する」、つまり考え方をきちんとするだけで達成できる。
では、損をしない上にきちんと利益を積み重ねて成功するにはどうするか。一般の人は、考え方ができると徹底した研究をすることが多いのだが、研究したって相場の先行きはなかなか当たるものではない。相場の実践は計算能力ではなく、自分の精神状態を冷静に観察して行動する、あるいは精神状態をコントロールすることである。自然現象ではなく、人間が感情で作り上げる価格変動というものの中で他の投資家と競争していくのだが、スポーツのような肉体的な要素がほとんどないからである。
変動する価格に身を投じ、わかるはずのない予測をもとに行動するとき、どうしても精神状態を揺さぶられてしまう。そこで最善の手を選択しながら悪循環に陥らないように守りを固めるというのは簡単なことではない。方程式がないからである。やはり、成功・失敗を数多く経験して場数を踏む以外ないのである。
とにかく、ひとつの投資法を継続することで同一基準の売り買いを経験し、ギリギリの線を見極めるのである。ギリギリの限界を知っていれば大失敗はしない。また、その時々の相場以外の状況(私生活、仕事の環境など)を加味して攻め具合を調節することができれば、常に現実的な可能性の範囲で目一杯の成果を狙うバランスのよい売買を実行できるようになる。
肉体的要素がないのだから、短期的には、初心者でもゴルフのタイガー・ウッズの放つスーパーショットのようなすばらしい結果を出すことがある。だが、これが錯覚の元になるのだ。経験を積み、自らの言葉で表現できるようになるまでは、いままで述べてきたような「消極的でつまらない」考え方を素直に頭に入れて売買をしていただきたい。
[11]3段上げ
ルール30 3段上げは天井。3段上げで売り、3段目の5連続陽線は売り。
「3段で上げる」はすんなりのみこめるが、「3段目の5連続陽線は…」となると、予言めいていて納得しにくい。長期の大勢を示したルール30についての解釈を書き、その後に「売り買い」に関係するルールの解説に移りたい。
もちろん、ここまで述べてきた現実の売買を考慮した実践的考え方が基本となる。
長期の波動についてある程度の法則性を見いだす
ことが投資法確立の第一歩であるが、
具体的な売買の実践というものを経験した上で固め、具体的戦略として確立する
ことにより、あらためて投資法の基礎となる考え方を見直すという順序で考えることが絶対に必要である。
理論のための理論ではなく、現実に人間が売買するための理論
でなければならないからだ。
さて、ルール30の「3段上げ」とは。
株にはいろいろな動きのパターンがある。常に一定(といっても限度があるが)のレンジ(幅)で往来を繰り返す銘柄もあるが、FAIで選定する低位株は「長期に下げた」銘柄であり、往来をみせるのではなく大きく育つ銘柄である。その値動きは、下げ→下げ止まり→底練り→(煮詰まって)上げの兆しとなり(図1)、上げ始めたものは大きく3段上げをみせて天井をつけ、再び下落に向かうのである(図2)。
下げ→下げ止まり→底練り、という一連の動きはわかりやすい。なぜなら、下げて人気が徐々になくなり、一定期間以上の安値低迷によってあきらめの売りが出尽くして煮詰まった感じが出るからである。
逆に上げ相場はわかりにくい。
徐々に人気が高まり、動きが荒くなるからである。底の動きが緩やかなのに対して、天井はとがっている。しかもわかりやすく1段、2段、3段と都合よく動いてくれるわけはない。図2のように、あとから説明すればもっともらしいことが言えるが、その場で「いま何段目か」知る術はない。
安い位置なら「上げに転じたようだ」「やはり上げに転じている」「まだ1段上げが完了しただけ」「2段上げに入ったところだ」と、ある程度わかる。しかし、さらに上がれば常に高値づかみを恐れながら売買することになり、人気化して荒くなった日々の動きが迷いに拍車をかけることになる。
これが「[7]荒れたら手を引け(1)安値ほど取りやすい」で述べた難易度の問題である。
以上のように「典型=例外」として、
3段下げ=十分下げた
3段上げ=ほぼ上げきった(可能性がある)
と大ざっぱなイメージで理解し、実践において必須となる予測にからむ部分では、
(便宜的に)3段上げで天井
と理解することになる。
[12]3段上げの値幅(1) 統計
相場は数字を追いかけるゲームであるが、数学が役に立つことはあまりない。計算したとおりに動いてくれないからであり、それでも動きの中で確実に仕掛け、確実に手仕舞うことが要求される。だから、「当たる確率」が実効性を持たないのだが、売買する以上必ず予測があるわけで、予測は単なる期待ではなく、統計的裏付けがなくてはならない。
値幅 | 銘柄数 | 発生率 |
50円以下 | 5 | 3.8% |
50〜80円 | 20 | 15.2% |
80〜120円 | 45 | 34.1% |
120〜170円 | 51 | 38.6% |
170〜230円 | 9 | 6.8% |
230円以上 | 2 | 1.5% |
まず、FAIクラブ発足後1984年までの間に選定した132銘柄について、1段目の値幅は左図のようになる。「50円以下」は適切な選定が出来なかったことになるのだが、「80〜120円」「120円〜170円」の部分が注目に値する。合計で約73%を占めており、
ルール18 1段上げは約100円幅。しかし70〜80円で利食いする。
というルールを裏付けるものである。
値幅 | 銘柄数 | 発生率 |
1段目の高値を 抜かなかったもの |
6 | 4.7% |
50〜80円 | 21 | 16.5% |
80〜120円 | 12 | 9.4% |
120〜170円 | 9 | 7.1% |
170〜230円 | 48 | 37.8% |
230〜300円 | 11 | 8.7% |
300〜380円 | 15 | 11.8% |
380円以上 | 5 | 3.9% |
次に、1段上げで50円以下だった5銘柄を除く127銘柄について、2段目の値幅を見てみよう。
1段目に比べて、バラツキが大きい。そして、相場において統計的に「当たる」と言えるところまで到達する価格帯が決定しにくい結果となっている。一応
80〜230円 約54%
であるのだが、幅広くなってしまうので、1段目ほどはっきりしたものではない。
1段目が底からの上げはじめなのに対して、日柄も経過して位置も上がって注目度が増したわけで、それだけ動きが激しくなっているのである。
値幅 | 銘柄数 | 発生率 |
2段目の高値を 抜かなかったもの |
18 | 14.9% |
50〜80円 | 11 | 9.1% |
80〜120円 | 22 | 18.2% |
120〜170円 | 12 | 9.9% |
170〜230円 | 8 | 6.6% |
230〜300円 | 8 | 6.6% |
300〜380円 | 13 | 10.7% |
380〜470円 | 8 | 6.6% |
470〜570円 | 12 | 9.9% |
570円以上 | 9 | 7.4% |
では、3段目を見てみる。2段目で1段目の高値を抜かなかった6銘柄を除く、121銘柄についての値幅の分布である。
- 高値を抜かなかった銘柄が増えた
- バラツキがさらに大きくなった
- 最多の価格帯といえるものがない
つまり、まったくわからない、激しい、メチャメチャな動きを見せるのである。
選定銘柄の中には、目標の2倍どころか、10倍、20倍に跳ね上がったものもあるが、それを予測することも、また期待してポジションを維持することも現実的ではないということである。
[13]3段上げの値幅(2) 現実の狙い
ルール18 1段上げは約100円幅。しかし70〜80円で利食いする。
ルール18について、もう少し解説しよう。
前項に「数学が役に立つことはあまりない」と書いた。数学的に考えていくと、
38.6%もある「120〜170円」を取り、そこまで達しない銘柄をどうするか
と計算していくことになる。ところがこれが地獄の1丁目。予測ができないから月足を描いたり場帳をつけて手間をかけているのに、いつの間にやら当てようとしているのである。だから、
以外に、よけいなことをやってはいけないのである。
ルール18は、先人の苦労と知恵を表しており、きちんとした経験があれば「なるほど」と納得のいくものである。どうしても納得できない方は、即刻相場をやめ、この先確実に損するであろうお金で、おいしいものを食べたり、洋服を買って楽しく過ごしていただきたい。
[14]3段上げの期間 (1)保合の期間
相場は値幅ではない。「値幅」「期間」という2つの要素で考える必要がある。月足チャートでも、終値を数字で書き記した場帳でも、どれだけの期間でどう上げ下げをみせたかという2次元的な感覚で判断するのである。3段上げの値幅に続き、期間を考えてみたい。
保合月数 | 1段上げ後 | 2段上げ後 |
1 | 1 | 6 |
2 | 4 | 5 |
3 | 6 | 7 |
4 | 9 | 5 |
5 | 9 | 3 |
6 | 10 | 2 |
低位株は長期に下げて安値に到達した銘柄であり、底練り→1段上げ→2段上げ→3段上げとなって天井を形成する。このとき、1段目と2段目の途中、2段目と3段目の途中には保合がある。その月数について、数が少ないが1980年代のFAIクラブ選定銘柄についての統計が左の表である。
(注) 保合
「もちあい」と読む。企業同士が株を持ち合う「持ち合い」とは違う。
相場は上げと下げに分類されるが、方向性のはっきりしない横ばいの動きを保合という。上げが一段落して「押し」をみせ、その後しばらく保合をするわけだが、この「押し」とはニュアンスが違う。「押して横ばいをみせる」部分を集合的に保合と見る。
表の数字を見ると、1段目から2段目に移行するときには保合の期間が長く、3段目に向かうときには比較的短期間で保合が終了する、ということがわかる。
[15]3段上げの期間 (2)3段上げの典型
1段上げ | 保合 | 2段上げ | 保合 | 3段上げ | 合計月数 | 事例数 |
2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 10 | 1 |
2 | 3 | 2 | 2 | 2 | 11 | 2 |
3 | 4 | 2 | 2 | 2 | 17 | 2 |
3 | 5 | 3 | 3 | 2 | 19 | 3 |
3 | 6 | 3 | 4 | 2 | 18 | 3 |
3 | 6 | 3 | 4 | 4 | 20 | 3 |
3 | 6 | 3 | 6 | 3 | 21 | 3 |
4 | 3 | 4 | 3 | 4 | 14 | 2 |
4 | 4 | 3 | 3 | 2 | 16 | 2 |
4 | 6 | 3 | 4 | 1 | 17 | 2 |
まとめれば、
1段上げ | 3ヶ月 |
1段上げ後の保合 | 5ヶ月〜6ヶ月 |
2段上げ | 3ヶ月 |
2段上げ後の保合 | 3ヶ月〜6ヶ月 |
3段上げ | 2ヶ月〜4ヶ月 |
というのが典型となる。しかし、100%の確率で成功した選定銘柄132のうち、典型を示すために適格となったのが、たったの23銘柄である。また、調べてみても、「底の形や期間」と「上げの値幅、期間」のはっきりした関係も見いだせない。
とまとめるのが、実践的なところであろう。
[16]傾向が変化する前兆
5.底練りの中の三角形に注意。「切り上がり」「二等辺」「切り下がり」各三角形のうち、
切り上がり三角形が最も強い。特に2−3年かかった切り上がり三角形は大きく上伸する。
7.底練りの中の2番底の陰線下部の十字は直ちに買い。
8.底練りの中の三角形先端陰線下部の十字は直ちに買い。
9.底練りの安値にきての5連続陽線は買いの準備。次の2連続陰線を見てから買い。
10.底練りの中で小動きになったあとの兆し陽線に注意。そのあとの陰線2本をみて買い。
11.底練りの中の保合い、または安値からの長大陽線はそのあとの3分の2押しで買い。
12.底練りの中のW型、M型後の切り返し(両抜きも)は上げのはじめ。
13.6−12ケ月(またはそれ以上でも)の上げ下げの上辺斜線90°(前後)の時、
その下げトレンドを上抜く陽線は上げの第一歩。
14.底練りの往来の中で月足4−5本を一気に上抜く陽線は上げの兆し。
上記の9つは、すでに解説したルールだが、月足でみた場合の底値(長期の大底)から上げに転じるときのパターンを解説したものである。具体的な売買を考えると「1段目が最も簡単で効率がいい」のだが、月足での判断においても安値圏の動きが簡単で楽なのである。
それに対して「1段目から2段目」「2段目から3段目」に移るときには、なかなか決まった形ができない。すでに人気が盛り上がりつつあり、つまり、市場参加者の感情で値が動き始めているのだから当然である。しかし、一般投資家は動いてこないと買わないのである。動いてきた銘柄に飛びついて一喜一憂する。苦労をして損をしながらも、そこから抜け出せない、というより、動いてきた銘柄を対象にする以外に、やる価値のある方法論がないと勝手に思いこんでいるのだと考えられる。
しかし、月足を正しく分析していけば、「こんなに簡単に効率よく安全に利益を狙える場所があったのか」と思えるほど、1段目を狙う戦略はやりやすい、誰にでもできる売買なのである。
過去のFAI投資法の成功者たちは、この1段上げに集中して売買を継続した。高い位置にまったく手を出さなかったわけではないが、決して趣味的な楽しみに興じることなく根気よく基本を守り続けたのである。
[17]傾向の変化がすべて
世の中にはさまざまな罫線論があるが、多くの理論は「底を当てよう」「天井を当てよう」という試みである。前に述べたようにチャートは2次元なのであるから、「底」「天井」という価格だけに目を向けた1次元的感覚は排除したいものである。
2次元で正しく考えた場合の基本は、「上げ」「下げ」という傾向であり、実践に有用なレベルに進むとそれは傾向の変化ということになる。「底」という短絡的な概念は、目先の傾向の変化と長い期間での傾向の変化の2つの要素が複雑にからみ合って混乱していると定義できように思う。
FAIのルールをあらためて見れば、すべて傾向の変化について書かれたものであることがわかる。
これが相場のすべてであり、そのために具体的な投資法・戦略が存在し、また道具として罫線や場帳が出てくるのである。
多くのFAI実践者から話を聞いているが、1次元的にしか見ず「傾向の変化」という感覚が欠落している傾向がきわめて顕著である。むずかしい理論も知識もいらない。大底からの傾向の変化、つまり「上げの兆し」を注意する意識があれば十分である。
「FAI投資法とはどういう売買法なのか」、そして「なぜそのようなルールになっているのか」を説明するために詳しく書いているのだが、世の中のゲーム(勝ち負けのあるもの)で相場ほど単純なものはない。「上げと下げ」「売りと買い」しかないのである。
というのは、幼稚な考えではなく、高等な数学で判断をしても、あるいは複雑なポジションをつくるやり方をしても、基本中の基本である。そして、時間的要素を無視せずに「安いところで買いたい」と思えば、「傾向の変化を考えればいい」ということになる。
悩んだときは、この基本にもどって考えれば悩むことはないのである。
この連載は「FAIクラブの株式投資法」(林投資研究所「研究部会報」の連載コピー)より要点をまとめて補足説明を加えたものです