株式コーナーMENUへ 

FAIクラブの投資法について

連載


第6章 売買の実際 その3

[1]中段の揉み (1)ルール19は無視?

 1段上げが最もやさしく、そこに集中するだけで十分、というよりそれが最も効率がいい

 このように強調してきたわけだが、

  1. 中段の動きについてのルールが存在する
  2. 大局を理解することが大切
  3. 「1段目の有利さ」について深く納得する必要がある

ことから、引き続きルール解説をしながら実践的な解説をしていきたい。


 第5章で解説したように、中段では月足に決まった形ができにくい。つまり、確認ラインを引いたり三角形などの集合形を見いだすことができないのである。

ルール19 上げ途上のプラットフォーム(ボックスの上辺)を抜いたら5円上抜きで買い。陽線3本をみて売り手仕舞い。再び下げてきたときにプラットフォームの20円上で買い

 このルールは、順張りの買いルールである。中段で上値抵抗線が形成された場合、そのラインを抜いたら買え。ただし、完全に上抜いたことを確認するために「5円」を基準にするということで、中段における強い傾向の変化であるから順張りで買ってよし、ということのようであるが、これに当てはまるケースが実際見あたらないのである。
 30項目のルールが確立されたのは1965年頃ということで、その当時の低位株は現在よりも水準が低く、1段上げ後の保合で、集合形が出ることが多かったのではないかと思われるが、いずれにしても現在では無視してかまわないルールといえる。
 ただし、「傾向の変化」に注目していう理解は大切である。


[2]中段の揉み (2)集合形について

 三角形やボックスといった、罫線を集合形的に判断する解説が罫線書などに書かれている。が、かなり無理矢理に線を引いているものが多い。線を引いたり集合形を探す目的は、相場の先行きを当てることである。ところが無理に型をつくってしまったとってつけたような解説は、言われればなんとなく納得してしまいそうだが、実際の場面で判断するための決め手にはなりにくい。つまり実用性に大いに疑問あり、ということである。そして、それらの解説はほとんどが日足、週足を用いており、月足の場合には日足の20分の1、週足の5分の1に圧縮されたものであるから、なおさら集合形ができにくいということになる。

 しかし、
    1段上げ完了 → 押し → 揉み(保合) → 再び上昇へ向かう
という過程において、やはり何らかの形が現れると考えるのが自然であろう。つまり、再度上昇に向かう手前では、1段上げの天井を過ぎて、そこまでの上昇相場の整理が必要であり、一定の時間を要することになる。また、上昇期にふくらんだ人気によってバタついていたものが、徐々に冷えていく過程が見られるはずである。

 調べていくと、三角形と呼ぶには弱いが、それっぽく値動きの幅が次第に小さくなりながらの保合がある。また、@小動きになっていく、A値動きが均衡していく、ことから、保合末期に十字足(実体がない、つまり寄り引け同事、あるいは1円ちがい)をみせることがある。
 だが、底値圏のように明確な型を見いだすことは困難であり、月足全体の流れを見て判断するようにしていくべきであろう。



[3]中段の揉み (3)罫線による利食いルール

ルール17 上離れ3陽線のあと3本目の陽線の半分以下に陰線が食い込んだら上げ幅の半分下がる
ルール28 1段上げでも、2段上げでも、陰線の両抜きが出たら(出そうでも)いったん利食い

 ルール30に「3段上げは天井、3段上げで売り、3段目の5連続陽線は売り」とあり、これも罫線による利食いルールであるが、中段の値動きについて書かれた上記2項目を解説したい。

 まず、ルール17について。
 上離れ3陽線とある。陽線3本というのは、前々項で解説したルール19、まえに解説したルール20

ルール20 1株あたり純資産の増加は買い。3期連続増加は絶好。ただし、ここで3連続陽線などで上げていれば売り

にも出てくる。陽線3本で上げたわけだから、常識的に「ひと相場終わり」を示唆していると考えられる。もちろん絵に描いたように3本目が長くていかにも「噴いた」動きでない場合、とくに買いポジション維持しながらだと判断がむずかしい。が、少なくとも「ひと相場終わりそう」という判断は当然であろう。
 その状況において、次に陰線が続き、なおかつ陰線が3本目の陽線の半分以下に食い込む(実体で判断する)ということは、明らかにひと相場終わったと判断すべき状況、ということになる。順張りになってしまうが、手仕舞って半値押しでの買い直しを考えるべきということである。

 次にルール28について。
 両抜き陰線も「半分以下」に食い込んだということで、ルール17に含まれるように思うのだが、別項になっている。両抜きということは、短期間のうちに大きく反落したわけで、単純な反落と区別して、「手を空かせる」ことを強調していると思われる。
 もちろん、状況によって判断も異なるが、一般的な罫線論では長期低迷を示唆するものである。

[4]大商い=目先の天井

ルール27 発行株数の5%くらいの出来高をみせたら4日目に利食い

 毎日場帳に終値と出来高を記す。問題にすべきは値動きであるが、低位株ほど「安値で出来高が細り、高値で増える」傾向があるので、多少の参考にはなる。ルール27のように発行株数の5%の出来高というのは、かなりの大商いである。人気がピークに達した可能性が高いことを示唆しており、いったん利食いをするべき状況なのである。
 統計的にみていくと「その4日後に高値をみせるケースが多い」ということであるが、市場構造も大きく変化してきているし、夜間取引などもできたことから、「5%で4日目」がどこまで有効かはわからない。しかし、大商い=いったん利食いが賢明なのはたしかである。


[5]新高値をつけたら…


 「新高値をつけたら買いである」という経験則を聞いたことがあるだろう。しかし「新高値」といっても、どれくらいの期間で見た新高値なのかが問題である。(1)図のように新しい傾向と認められる場合は、その傾向がしばらく続くことを示唆している。しかし、

ルール29
 10年またはそれ以前の高値でも、それを抜いて新高値をつけたときは、いったん売り。
 27、28、29項およびその他いったん利食いしたあと買い直すとき、または買い増しするときは出来高が細ったときにする。


は、月足で見た一定期間以上の上げによって過去の高値水準まで到達したということなので、傾向が終了した、少なくとも終了しそうである、と見る。そして、手を空かして様子を見るのが賢明である、ということになる。(2)図

 一般に言われる
   新高値 → 大きく上昇 → 飛びつき買いOK
というのは、時間の経過を無視した短絡的な定義である上に、売買の戦略というものが存在しないのである。

 「いったん利食いしたあと買い直すときは、出来高が細ったときにする」というのは、FAI投資法の原則であるが、「直ちに買い」と強調しているルールもあるため、「しばらく様子見」を強調しているのであろう。

 各ルールの解説をしながら、現実的な売買の戦略や正しいイメージについて書いてきた。複雑で読みにくくなるようにも思えたが、「机上の理論」ではない実用的な理論は、実際の売り買いの苦しみ、悩みを無視しては成り立たない。だから、大切な部分はくどい言葉で表現してきたのである。
 あらためてまとめ、整理してみたい。


[6]利食いについて まとめ (1)利食いこそ出発


 FAI投資法は「買い」でスタートする投資法である。だから、買いで成果が決まる。これは正しい。丁寧に安値を買えば、あとが楽になり、売買がスムースに進むからである。しかし断片的であって実践的ではない。
 買いの目的は「売ること」であり、資金のある程度を買ったあとは、売らないと次の買いができないのである。各銘柄のひと区切りは「買い→売り」ということでも、継続的に売買するためには「利食い売り」が売買の準備であり、ほんとうのスタートになる、と考えるべきであろう。


[7]利食いについて まとめ (2)確実に売るクセをつける


 スタートである「利食い売り」は確実に行わなければならない。ところが、上がってくると気持ちが高ぶるし、安値で買って、ある程度の期間待っているから、ほんの数日で大きく値が違ってくる可能性を考えてしまう。ところが、いくら考えても「いつ高値をつけるか」なんて当たるはずはない。それでも当てたいという気持ちを捨てきれず考えてしまうから、迷路に迷い込んでしまう。こんな馬鹿馬鹿しいことはない。
 「儲けたい」と思ってやっている以上、いやでも利益率を伸ばそうと自然に考えるもの。むしろ、それを無理に意識してバランスを崩すことがほとんどなのである。早すぎて値幅がわずかしか取れなくてもかまわない。売り損ないを絶対にしないことだけを意識して経験を積むのが最良の方法である。
 限定された銘柄だけを売買するやり方なら、@取れるところはしっかり取る、A乗り損ないはしない、ということを考えるが、FAIでは均一の株数で分散しているから、気楽に売買することが可能なのである。


[8]利食いについて まとめ (3)反射的な行動を


 現実の売り買いは、不安と期待の中で間違いのない選択をしなければならない。「どうしようか」と考えたときに、知らず知らず「明日以降の動きを当てよう」という無理な思考をしてしまう。ポジションのないニュートラルな状態で考えるなら、かなり冷静でいられるが、実際に売買の決断をするときに冷静でいられるものではない。数学のように絶対の答えが出せるものなら考えることが重要だが、相場は違うのである。
 スポーツ、たとえば野球を例にしよう。飛んできたボールを追いかける。あるいは、ピッチャーが投げたボールをバットで打つ。これらは反射的な行動で、訓練することによって体がおぼえるのである。相場の売り買いも、これとまったく同じである。道を間違うととことん曲がっていくのが相場である。反射的に間違いのない選択をするクセをつけるのである。
 FAIの場合は値上がりを狙って買う投資法だから、仕掛け=買い、手仕舞い=売り、である。

     迷ったら買わない    迷ったら売る

 こう考えれば、無理な攻めをしなくなる。
 儲けようと考えているから相場をやっているのである。安心して控えめな気持ちを持つように心がけて大丈夫。そして、売買のバランスは非常によくなるのである。


[9]利食いについて まとめ (4)売る理由は積極的につくる


 一般投資家を見ていると、買うときは非常に積極的なのに、なかなか売ろうとしない。買うときは、その銘柄をほしくてたまらない気持ちになっているから、買うという行動を正当化しようと躍起になり、いろいろな材料を探してくる。さて、買った株がそれなりに上がった、あるいは、見切りをつけるべきと思われるような下がり方をした場合、こんどは売らないことが正解であるという理由を一生懸命に探すのである。とくに、投資法をきちんと考えていない人はこの傾向が顕著であり、利食いはショボショボ、手持ちは水浸しになってしまう。
 FAI投資法を基本通り忠実に行えば、そんなメチャクチャなことにはならない。それでも、ある程度このような傾向をつくってしまうのが人間の心理である。だから、“迷ったら売る”だけではなく、少しでも不安や違和感を感じたら積極的に手を引くようにしたいわけである。

 良いこともあり、悪いこともある。日常いろいろな出来事があるものである。そして、これらの言葉に「…から、もう少し利を伸ばしたい」と続けたくなるのが投資家心理である。しかし、「…から、手仕舞っておこう」という意識がバランスを保って安定した売買をつながる。株を売買しているだけで十分に積極的なのだ。激しい株価変動をつくり出すことに一役買うのではなく、どこまで冷静は傍観者に近い立場でいられるか、が重要なのである。


[10]相場は心理ゲームである


 「明日のことは誰にもわからない」と強調してきた。これが相場を考えるときの大原則である。しかし、ある程度の読みをすることが必要である。やはり予測がなければ売りも買いもはじまらないからである。FAI30項目のルールはひとつの予測方法として存在するのだが、予測法だけでは現実の相場をすることはできない。明日の価格がわからない状況で利益を狙ってリスクを取る以上、心理的な圧迫がゼロになることはないからである。
 現実に予測法によって売買するのは感情を殺すことのできない人間である。その人間が多数の人間の感情で価格形成される株式市場を泳いでいくためには、実際の苦しみの対処方法を盛り込まなければならない。そういう現実的な要素をきちんと盛り込んではじめて、売買法として成立するわけである。
 FAIのやり方は歴史もあり、FAIクラブとしての実績もあり、きちんとした売買法である。ところが最終的には人間の判断が要求されるのが相場であり、絶対の答えを出してくれる方程式がないのが認めざるを得ない現実である。FAIクラブでは1988年に「相場が過熱してきていて危険である」という判断から銘柄の選定を控え、2001年春にひさしぶりの選定再開をはじめた。おごることなく、冷静でいられたから、あれほど大きなバブルの波をかぶることなく、運良く現在に至ったわけだが、ルールの解釈や運用をひとつ間違えれば、大きく道を外してしまうことになる。
 結局は、実際に売買して苦しむことでルールを正しく理解し、細かい予測の当たり外れはあっても、つまり悩みは尽きないものの、少なくとも迷いのない行動が取れるようになる。それには、たくさんの情報を集めて迷いを増やすのではなく、自分の心理状態を冷静に判断して次の手を決めていくクセをつけなければならない。それが売買の実践力なのである。


[11]現在のFAI投資法の状況

株の先見性

 バブルの崩壊以降、右肩上がりを前提とした日本の経済構造が問題視され、構造を改革する必要性が認められて久しいが、銀行を中心に問題の先送りに終始した結果、未だに多額の不良債権が解消されずにいる。小泉内閣がなかったとしても、いずれは解決しなければならない問題であり、それに伴う混乱は以前から容易に想像できたことだ。つまり、相場には織り込み済みとみることができる。市場では多数の参加者が「上がるなら他人より一歩でも早く買っておこう」「下がるなら一歩でも早く売っておこう」と考えて行動するから、必ず事実を先取りして動くからである。

 以上のことは原則論であり、経済の分析によって株価を読むことは困難である。株価変動の要因となる情報をすべて集めることは不可能に近い上、何をどれくらい先取りするのかを示す方程式はないからである。
 FAI投資法の銘柄選定も月足の分析が中心であり、経済状況を専門的に解析した結果ではない。いろいろな背景や事情があるが、それらをすべて織り込んで人気で上がり下がりをみせるのが株価である。その株価を独立した現象としてとらえるのが相場実践の原則となる。だから、30項目のルールも低位株の株価変動の習性を最大公約数的に考え、さらに実践面でのさまざまなことを盛り込んだ実用的な内容となっているのである。

選定銘柄の動きは堅調

 小泉改革は単なる不良債権処理ではない。現在あるシステムを壊して、根本から合理的な競争社会につくりなおしていこうというものであり、実際に誰も経験のない状況にいるのである。しかし、2001年4月から12年ぶりに選定した銘柄は堅調な動きをみせている。個別では倒産の危険性をはらんだ企業もありそうで、また、ネットバブルの後遺症も残っている。しかし、選定された52銘柄(2001年7月の例会終了時点)からは、すでに目標の2倍を達成したものも出ており、

  1. 不況のときほど低位から化ける銘柄が多く出る
  2. 慎重に選定をすれば、先取りの動きに乗ることができる
  3. すでに時期は来ている

という基本的な方針に変更はない。FAIメンバーが議論しても現在の状況を理解するのはむずかしく、「予想外の混乱があるのでは」という慎重論もあるが、注意深く見守りながら基本方針通り銘柄選定の作業を続けている。

FAIクラブについて

 現在、新規のメンバー募集は行っていませんが、選定銘柄の情報などについては林投資研究所発行の研究部会報に掲載しています。興味のある方は林投資研究所HPより資料請求をしてください。→こちら

 ※FAI投資法は優れた売買法であり、誰にでも実行しやすいものです。しかし、最も大切なのは好きになって長く続けられるかということです。個人的な感覚で進めていくのが実際の売買です。自分の持っているイメージに合わないものは、やはりダメなのです。また、他の投資法と並行して行うことはよろしくありません。「二兎を追う者は一兎をも得ず」のことわざ通り、複数の売買法を実践すると両方ともダメになってしまいます。好きなやり方を見つけて、長く続けていただきたいと思います。




この連載は「FAIクラブの株式投資法」(林投資研究所「研究部会報」の連載コピー)より要点をまとめて補足説明を加えたものです



 株式コーナーMENUへ