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FAIクラブの投資法について

連載


第7章 カラ売り

[1]FAI投資法のカラ売りについて


FAI投資法の優れている点を簡単にまとめると、次のようになる。

  1. ルールが系統立っている
  2. 低位株に限定しているので、具体的な目的が明確
  3. 資料の量は多いが種類は少なく、シンプル(迷いが少ない)である
  4. 低位株を買って儲ける投資法でありながら、カラ売りを取り入れている

 この中で4.のカラ売りについて説明しよう。
 カラ売りをするといっても、買いポジションを持ちながら別の銘柄で売り思惑(下げを狙ってのカラ売り)をやったり、ツナギを入れたり、そういう複雑なことは一切やらない。(1)たくさんの銘柄を見ながら買い銘柄を選定する、(2)広く多数の銘柄に分散する、というやり方なので、個々の銘柄の売買はきわめて単純に行うのからである。
 FAI投資法のカラ売りは、

  1. 買い銘柄を選定するのが困難な時期に行う
  2. カラ売り実行中はカラ売りのみとする

というもので、ポジションを増やして利益増大、あるいはリスク軽減を図るためのものではない。凝った技を使っても結果は出にくい。とにかく単純化することが一番である。買い選定が安全な時期には積極的に買い銘柄を選んで買い、下げ相場はカラ売りのみで臨めば、基本的な方針が明確になり、迷いなく経験を積み重ねていくことにつながるわけである。


[2]1990年からの下げ相場 (1)冷静な判断


 まずは現実の話を例に説明しよう。ご存じのように1990年からの東京市場は大きな下げ相場となった。FAIクラブでは2000年春から銘柄を選定しているが、平均株価で見た場合は2001年8月現在もダラダラと安値を更新している。
 FAIクラブは1980年代に実績を上げたが、1988年には「相場が過熱している」との判断から選定を中止し、下げ相場に備えた。1989年には指数が高値を更新しながらも、個別銘柄の伸びは極めて悪くなり、1990年からの下げ相場へと入っていったのである。
 これは前にも書いたことだが、FAI投資法による分析が非常に冷静であることを証明している。幅広く銘柄を選定する方法は一見素人っぽいのだが、個別銘柄の値動きを多く見ることで全体の動き(低位株を中心にだが)を客観的にとらえることになるわけである。FAIのルールを細かく読んでいくと、目先の分析を中心にしている錯覚をおぼえるかもしれない。が、30項目をまとめて考えたとき、個々の銘柄の5年〜10年というサイクルを観察し、市場全体の10年サイクルを見極めるものであることがわかる。
 テクニカル分析、ファンダメンタル分析の作業は常に個別銘柄について行われ、株価指数などの統計的数値や、NY市場などの外部要因を用いることはない。だが、FAIの分析は市場全体の方向性をつかむことが可能で、見えにくい大きな流れをつかむことがやりやすくなるのである。つまり、低位株を買っていく戦略を実行する時期を見極めるのだ。これができれば細かいことで苦労したり、当たるはずのない細かい予測を当てようと必死になる勘違いもなく、楽な売買を展開することができる、というわけだ。少なくとも冬の浜辺で海水浴をしてしまうような、バカげたことだが、情報が複雑、そして頻繁に飛び交う株式市場でよく見られる勘違いをなくすことができるのである。


[3]1990年からの下げ相場 (2)徹底できるか

 下げ相場の予想は当たった。単なる予測ではなく客観的分析結果だったのである。そして、「カラ売りまたは休み」という方針を実行した人は、大きな下げ相場の被害を回避することができた。だが、当たったから必ず結果につながるものではない。問題は、それを確実に実行できたかどうかなのである。そういう現実をきちんと考えてみよう。
 1989年は個別銘柄の回転がきかなくなった反面、指数は高値更新を続けた。基本通りに資金を一定額にし、玉帳に売買を記入することで自分の売買を冷静に観察している人でも、連日のように報道される活況のニュースには惑わされてしまう。違和感を感じながらも、少なからず群衆のムードに巻き込まれていくのである。きちんと場帳をつけて値動きを見たり、売買を玉帳に書き込んでいく作業を怠っていた人は、無条件でイケイケムードに飲み込まれていたのである。
 日々の作業をさぼったり、また、作業はさぼらなくても、イケイケムードで資金を大幅に増加させるなど、市場のババ抜きゲームに突っ込んでいった人は、1989年の動きの悪さに冷静な違和感を感じることはできなかった。感じたのはいらつきだけで、それまでの売買実績があるから、目先の売買収益に対する期待が異常にふくらんでしまう。そんな状態で下げ相場に入れば、当然手を打つのが遅れる。冷静さを取り戻して脱出策を検討することができず、意地になって続けた人は、坂を転がるように損を重ねていく結果になってしまった。
 実際、研究部会員のFAI実践者の中でも、無理に買い銘柄の選定を続けようと試み、FAI投資法では対象外となっている2部の銘柄にまで手を広げ、大きく失敗してしまった人がいた。たしかに下げ相場の中でも安値から倍加する銘柄はあった。対象を広げればその銘柄数は増えるし、1銘柄あたりの株数を増やしさえすれば、極端な話、1銘柄だけ見つければ全資金を効率よく増やす売買ができる。だが、これは物理的な可能性であって、現実との乖離は想像以上に大きい。
 やはり、実行することはシンプルでなければならない。実際の売買で緊張した場面では、複雑なことをできるはずがない。そのために準備に手間や時間をかけ、少ない可能性を求めずに無難なところに身を置く。その上でさらに、そういう基本を崩さないために休みを入れたり、資金に余裕を持つことで、やさしく売買を続けられる環境を維持していくことに徹するのである。


[4]真の理解が必要


 30項目のルールの付則には

信用取引買いは絶対禁止

とある。これについては説明するまでもないだろう。資金以上にリスクを負って売買していたら、上手下手以前のところで負けてしまうことになる。わずかな狂いが大きな損失になるからである。
 付則には、もうひとつ信用取引について書かれた文言がある。

信用取引売りはこの方式3年またはそれ以上の経験後、
資本金300億円以上の流動性の高い銘柄のうねりを見て行う

まずは3年以上の経験がなければいけない、とある。FAI投資法は初心者にも実践しやすく、自然と正しい売買の基本を身につけることができる売買法であるが、やはり3年以上は経験していないとほんとうに理解することはできない、と釘をさしているのだ。
 FAI投資法は優れているが、ルール解説を熟読して、研究に研究を重ねても、それだけで儲かるようにはならない。むしろ、研究に偏ることの弊害で、儲けることのできない投資家になってしまうのがオチである。
 相場において、場帳や月足は売買するための道具である。そして、銘柄選定も売買するために行う作業である。売買の実践経験を3年以上積んではじめて、場帳の意味も理解でき、月足の見方もわかり、銘柄選定の心得も生まれる、ということを明言しているルールなのである。
 長期の上げ下げについて身体で理解した人は、カラ売りをしても大丈夫だ、ということだ。そして、流動性が高く、極端な値動きをする可能性の少ない銘柄を対象にする。その目安として資本金300億円と示されているのである。


[5]カラ売りが最も簡単 (1)上がったら下がる


 「カラ売りは危険」とよく言われるが、実際は逆なのである。
 株価は市場の人気のよって上げ下げをする。何らかの理由で人気が高まり、その高まりはトレンド(傾向)をつくり、一定期間継続することになる。では、上がった株価はどうなるのか。人気の高まりが続いて株価が上がる、ということは、売る人より買う人の方が多いことであり、買い方(買っている投資家)が増え続けていることを意味する。
 しかし、あまりに高くなると買い方の増加傾向が徐々におさまってくる。これが天井の往来(上げ止まり)であり、時間の経過とともに自然に下げはじめる。買い方の増加が止まれば、高値警戒感から売りが出て下がるのだ。つまり、永遠に上がり続けることは絶対にないのだ。上がった相場は必ず下がるのである。
 では、下がったものは必ず上がるのだろうか。たしかに、倒産しない限り、いつかは上がるのだろうが、5年、10年と安値圏で低迷していたら、とても待っていられるものではない。そして、現実には倒産という危機的状況がある。財務大臣の塩川正十郎氏が株安に言及して「下がったものは必ず上がるという天の公理…」と発言していた。株式市場がなくならない限り、平均株価は「いつか上がる」わけだが、現実的な意味はない。われわれ実践家にとっての公理はまったく逆で、

   上がったものは必ず下がる
   下がったものが上がるとは限らない


と認識しなければならない。これを勘違いするから、安かろう悪かろうの間違った買い方をしてしまうのである。


[6]カラ売りが最も簡単 (2)買いはゆっくりでいいのだ


 相場が下げはじめると、市場参加者はどう動くのか。カラ売り筋が台頭することで下げトレンドが形成されるのだろうか?そうではない。下げはじめると、買い方の投げ(損して売ること)によって相場は下げていくのである。たしかに一時的にはカラ売り筋によって極端な下げ方をみせるし、カラ売りがゼロで下げることもないが、大半は持っている人が見切りをつけることで下がっていくのである。
 さて、下げといっても一気に天井から底まで落ちることはない。下げの途中には戻りもあるし、保合の期間もある。だが、上げ相場の反対で、徐々に買い方が離れていくことで、次第に安値に向かっていくのである。
 そして大底に到達する。高値おぼえで割安感を感じるから、少し戻ると大きな上昇の期待がふくらむ。しかし長続きはしない。もたついた動きだから、最近買った人が「やれやれ」と言いながら売り注文を出し、止まってしまうのだ。相場用語で「やれやれの売り」と言う。安くなったから買って寝かせておこうと考えて参入してくる資金もあるが、あきらめきれずに持っている高値づかみの買い方が、少しずつ少しずつ投げてくるから、横ばいの動きがしばらく続くのだ。これがFAIの注目する底練りである。
 カラ売りが危険だというのは、上げ相場でけんか腰になって売り玉をつくるからであり、また持っていかれた(株価が上がってしまった)ときに対処が遅いから、高値の荒っぽい人気で大損するのである。また、上げ途上だから、うまく当たった(下げた)ときでも、買い戻りのチャンスは狭い。再び人気で上昇する直前の荒っぽい目先の底、つまり短期間の突っ込みになるからである。
 ところが、下げ相場のトレンドに正しく乗ってカラ売りを実行すれば、大底で動きがゆっくりとなるまで待ち、下げなくなったことを確認してから買い戻しをすればいいわけで、実は最も安全な売買ということになる。FAIのカラ売りは、そういう安全なカラ売りなのである。


[7]売り銘柄は選ばなかった


 FAIクラブでは1988年に買い選定をストップし、しばらく様子を見たあと「休み、またはカラ売り」の方針を出したのだが、カラ売りの対象銘柄は選定していなかった。理由は2つある。
 まず第1に、天井圏の値動きの特性にある。「安い位置ほどわかりやすく、高い位置ほど予測がつかない」ことは前述した。わからなければカラ売りができない、という反論が来そうだが、そうではない。荒い値動きの中でスタートするとき、売買する個人個人の好みが非常に大きな判断要素となり、買い銘柄選定のように、万人向けの選定が不可能だからである。3年以上の経験者だけ、個人の好みと判断ででやりなさい、ということである。だから、付則に「うねりを見て行う」と一言で片づけているのだ。
 第2の理由は、FAI投資法の基本が「買い戦略」であることだ。大底を見極め、上げに転じる前兆をとらえ、最も安全な1段上げを中心に堅い利益を狙う投資法である。それを実現するためには、「その時期をジッと待つ」我慢が必要である。無理な買い選定をせずに、間違いのない買い時期を確実につかむために、売り玉を保有して市場を冷静に観察する。そういう“こだわり”なのである。


[7]相場の我慢

 FAIクラブ会長の林輝太郎がカラ売りを開始したのは、1989年6月26日である。新日鐵1,000株を新規売りしてスタートを切り、約8万株の売り玉を2000年に入るまで持ち続けた。
 持ち続けたといっても、信用取引には6ヶ月の期日がある。一定の売り玉をつくったあとは、期日に乗り替え(カラ売りを買い戻すと同時に新規に売る=クロス取引)をし、常に同一銘柄、同一株数を売り続けたのである(若干の入れ替えはあった)。
 経験豊富なだけに、上げ相場よりもやさしい下げ相場を読み切っていた。実際、下げはじめたころに予測した「下げ相場の展開」は見事に的中していた。しかし、大きく突っ込んだところで器用に買い戻しをすることも考えず、当然戻りで売り増しすることもせず、ただただ期日で乗り替えることで売りを継続した。しばらくは私も真意がわからなかったが、下げ相場が進むにつれ、ようやく“こだわり”を理解することができた。
 やられた玉を抱えて、「負け戦」とわかっていながら売れずにいる間違った我慢とは違う。流れに乗ったときに、流れが変わる予兆があるまで我慢するのである。しかし、それを実際の値動きの中で実行するのは簡単なことではない。実際に目の当たりにしなければわからない驚きがあった。

 右は新日鐵の月足チャート(1989年1月〜2001年8月)である。細かい上げ下げはあるが、見事に10年の下げ相場をみせている。「細かい上げ下げ」といったが、その細かい上げ下げが大きく勝敗を決するような売買のやり方、値動きのとらえ方をしている投資家が驚くほど多いのである。短期売買を否定するのではない。見ている期間と実際にやっている売買に食い違いがある、ということである。
 株価の10年サイクルを見て、それに素直についていくのがFAI投資法の基本姿勢なのである。


[8]上げ相場の利益と下げ相場の利益


 上げ相場でも下げ相場でも利益は利益だが、大きな違いがある。実際の80年代バブルで説明しよう。
 上げ相場で儲けて現金が増えても、物価も地価も上がっているから、額面通りの資産増加効果がない。増えた現金で買う対象物も、やはり一緒に上がっているのだ。
 逆に、下げ相場で儲けると、その効果は驚くほど大きい。10年の下げ相場で5,000万円儲けた場合、バブルの天井で1億円以上していたマンションを買ってもおつりが来るのである。
 単に儲けるといっても、状況によってまったく異なる内容となる。こういうことも、FAI投資法で長期波動を見ていれば、比較的簡単に気がつくことである。


[9]いずれまたカラ売りの時期が来る


 いま、長い下げ相場が終焉を迎え、株式市場全体の動きはさえないものの、低位株が徐々に買えるようになってきている。ほとんどの銘柄が安値圏をはいつくばって推移しているのだが、一定期間の底練りを終え、業績に問題のないもの、あるいは悪くても大きな回復が見込まれるものなどを中心に上がっていく銘柄が出てくると見込まれる。順調にいけば、おそらく4〜5年は低位株の上げ相場が続くだろう。個別にはもっと短い期間で天井を打つのだが、上げに転じる時期が遅いものを次々選んでいくから、ある程度の数の銘柄が買いの対象として維持されることになる。
 そして、安心して低位株を買うことがむずかしい状況になれば、再び休み、売りに転換する準備をし、うねりを見ながらカラ売りを行うことになる。そのときには、ゆっくりと買い場を待ちながら、ゆっくりと売り玉を維持すればいい。下げなくなってから売り玉を手仕舞いし、また休みを入れ、そして底練りから上昇に傾向が変化する兆しを、月足をつけて30項目のルールによって、落ち着いて見極めていくのである。
 このように、大局をつかんでその流れに乗りながら、じっくりと資産形成をしていくのが、FAI投資法である。


───連載終了いたします───ありがとうございました

 長い期間にわたって連載してまいりましたが、FAI投資法についての解説は一応書き終えましたので、とりあえず終了させていただきます。
 連載ではFAI投資法に関する理論に加え、実際に売買して利益をあげて実力をつけていただくための注意点、つまり感覚的に理解した上で個人的な実行力をつけるための指針などをさまざまな角度から書きました。一部かなりくどい部分もあったかと思いますが、机上の理論だけで安易に取引を行うことで予期せぬ損害を被るケースが多く、まずはそのようなつまらない失敗をしていただきたくないとの考えから、ていねいに解説をしたからです。
 FAI投資法は株価の最も長期のサイクルから考えていく点で、非常に無理のない、実行しやすい投資方法と確信しております。ただし、株式市場は極めて自由な取引が行われる場所で、つまり、あらゆる価値観、考え方が通用する(利益を出すことが可能)場所です(常識の範囲を超えない、具体的な戦略との整合性がある、という2つの条件が必要ですが…)。
 したがって、最終的に売買方法を選択する上でもっとも重要なのは、「好きか嫌いか」=「その投資方法に集中して続けられそうか」ということです。
 目先の浮ついた情報だけに限らず、冷静なつもりでも焦ってしまう気持ちが生じるのが株式投資ではないでしょうか。あらゆる情報に対して適切な距離をおくことが、情報に振り回されて高値づかみ・安値たたきをしないための基本的な姿勢だと思います。
 どのような投資法を選ぶにしろ、投資法の選択から具体的な売買戦略にいたるまで、自分なりのスタイルを確立する以外にありません。また、落ち着いて実行するためには、家族の理解と同意も必要です。相場は個人的に行うものですが、運用する資産は家族の共有の大切なものだからです。あわてずに、ゆっくりと考え、株式投資で成功をおさめていただきたいと思います。
 長期間連載をお読みいただき、ありがとうございました。途中、執筆が遅れることがありましたことをお詫びするとともに、みなさまに感謝いたします。

2002年2月  林投資研究所 林 知之

  


■この連載をまとめて加筆したものが単行本になっております。

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    前編=FAI投資法の基本

   究極の低位株投資〜FAI投資法実戦編 
    後編=ルール解説の続きと実践のための具体的ノウハウ



この連載は「FAIクラブの株式投資法」(林投資研究所「研究部会報」の連載コピー)より要点をまとめて補足説明を加えたものです



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