目次

監修者まえがき                  1
はじめに                           11

第1部 人間の行動を理解しコントロールすることが、投資のパフォーマンスを上げる重要なカギになる

間違い その1 自分の投資手腕を過信していないか?                                       19
間違い その2 現在のトレンドが永遠に続くと思っていないか?                             25
間違い その3 あとになってから、事前に予測できたはずだと思ったことはないか?           31
間違い その4 少ないサンプルしかなくても、自分のカンを信じて判断していないか?         35
間違い その5 投資判断の過程で自我を押し通そうとしていないか?                         38
間違い その6 群衆心理に影響されやすくないか?                                         42
間違い その7 実力と運を取り違えていないか?                                           50
間違い その8 パッシブ運用を避けるのはコントロール不能だと感じるからか?               57
間違い その9 投資判断の過ちを認めることを避けていないか?                             62
間違い その10 保有し続けるかどうかを、購入金額で決めていないか?                       65
間違い その11 「連勝」を信じていないか?                                               67
間違い その12 慣れているから安全だと思っていないか?                                   71
間違い その13 今、賭けている資金は「カジノのお金」なのか?                             80

第2部 雑音は無視するのが一番

間違い その14 情報と知識を混同していないか?                                          85
間違い その15 自分の将来は光り輝いていると思っていないか?                            91
間違い その16 紛らわしい情報に依存していないか?                                      97
間違い その17 気にするのは運用経費率だけでいいのか?                                 105
間違い その18 投資戦略を実行するのにかかる費用を考慮し忘れていないか?               110
間違い その19 素晴らしい会社と素晴らしい投資先を混同していないか?                   120
間違い その20 購入価格がリターンに与える影響を理解しているか?                       126
間違い その21 大勢で決めたほうがよいと思っていないか?                               131
間違い その22 アクティブ運用なら、ベア相場でも資産を守ってくれると思っていないか?   134
間違い その23 自分のファンドを正しいベンチマークと比較しているか?                   136
間違い その24 税引前のリターンばかりを気にしていないか?                             140
間違い その25 ファンドを名前で選んでいないか?                                       148
間違い その26 非効率的市場ならば、アクティブ運用が勝ち試合だと思っていないか?       155
間違い その27 ヘッジファンドが優れたパフォーマンスをもたらしてくれると思っていないか? 158

第3部 投資戦略を立てるときによく犯す間違い

間違い その28 「可能性が高い」は可能、「可能性が低い」は不可能だと思ってはいないか? 165
間違い その29 事前に立てた戦略と、事後の結果を混同していないか?                     171
間違い その30 成功する確率が低くても試していないか?                                 179
間違い その31 若いうちの貯金の重要性を見過ごしていないか?                           188
間違い その32 本当のコストを把握しているか?                                         189
間違い その33 分散は長期投資のみに有効な戦略だと思っていないか?                     191
間違い その34 今回だけは違う、と思っていないか?                                     195
間違い その35 ポートフォリオの税金対策は年末に行えばよいと思っていないか?           200
間違い その36 税金を投資判断の中心にしていないか?                                   205
間違い その37 投機と投資を混同していないか?                                         207
間違い その38 売買するタイミングを計っていないか?                                   212
間違い その39 マーケットのカリスマが言うとおりにしていないか?                       219
間違い その40 投資リターンを上げるために、マージン取引を利用していないか?           229
間違い その41 コミッション制のアドバイザーを使っていないか?                         232
間違い その42 投資に時間をかけすぎていないか?                                       239
間違い その43 計画を立てずに投資を始めていないか?                                   245

第4部 ポートフォリオを構築するときによく犯す間違い

間違い その44 卵をひとつのバスケットに入れすぎていないか?(リスクが1カ所に集中していないか?) 255
間違い その45 少ない銘柄数で分散ポートフォリオを作ることができると思っていないか?  261
間違い その46 分散投資は銘柄数を増やすことだと思っていないか?                      265
間違い その47 インデックス運用とS&P500ファンドのみの運用を混同していないか?        273
間違い その48 自宅を不動産投資の一部だと考えていないか?                            277
間違い その49 ポートフォリオの債券部分に長期債や債券ファンドを組み入れていないか?  280
間違い その50 自分が買いたい商品ではなく、セールス担当者が売りたい商品を買っていないか? 285
間違い その51 IPOで大儲けできると思っていないか?                                    290
間違い その52 引退生活で引き出すことのできる金額を、大きく見積もりすぎていないか?   296

結論                                                                                   303
 添付資料A 分散リスク                                                               310
 添付資料B 期間別リターン                                                           311

付録A ミューチュアルファンド会社がおそらく絶対に表示しない免責事項                   313
付録B 金融マスコミやメディアや投資銀行が、おそらく絶対に表示しない免責事項           319

用語解説                                                                               327
推薦図書                                                                               341
謝辞                                                                                   343
参考文献                                                                               345


 監修者まえがき

 私たちの身の回りには多くのマーケットが存在し、代表的なものだけでも、株式、債券、為替、先物、不動産とさまざまな市場を挙げることができる。そして、各々の参加者は、投機・投資、資産運用、ヘッジといった異なった目的を持って売買を行っているのである。したがって、同じ市場でも目的が異なれば、あるいは同じ目的でも市場が異なれば、それに適した方法が異なってくるのは当然であり、その意味では、例えば先物市場における投機・投資手法を株式市場にそのまま適用することはできないし、同じ株式市場でも短期的な投機・投資に適した方法を長期的な資産運用に用いることもまた誤りだと言える。この辺りの事情に関しては、専門家を除けば明瞭に区別されることはこれまであまりなかったが、自分の資産は自己の責任で運用することを迫られる時代にあっては、正確な事実認識とともに適切で一貫した方針を持つことが不可欠となろう。
 その意味において、資産運用の専門家であるラリー・スウェドローによって書かれた本書が翻訳されることの意義は非常に大きい。本書は主として株式、債券における資産運用について書かれた秀逸な解説書であり、その完成度の高い実証的な内容を踏まえたガイドに従い合理的(“Rational”)な判断を行うことで、ほとんど労力らしい労力を使わずに、多くの専門家の運用成績を長期的に上回ることが可能になる。少なくとも資産運用という見地からは、個々人が高度な売買技術を持つことが重要なのではなく、むしろ実際のオペレーションを他者に任せつつ、どうすれば手堅いパフォーマンスが達成でき、長期的に成功を収められるのかを知っていることが大切なのである。マーケットに打ち勝つためにたゆまぬ研究や努力をしなければいけないのは一部の専門家だけで十分だと思う。
 本書に書かれてある内容は、既存の相場書とは趣を異にすることも多く、ある程度の知識や投資経験を積んでいない場合には一読してすぐに納得というわけにはいかないかもしれない。しかし、著者の主張は間違いなく真実であり、一部(税制の違い)を除き、そのほとんどが日本でも当てはまることばかりである。そして、1980年代以降、日本とアメリカにおいて少なくとも2つの経済バブルの興隆とその崩壊を実地に体験した投資家ならば、本書が現在も、そして未来においても最良の投資法を提供していることをたやすく理解していただけるものと思う。
 最後になったが、翻訳にあたってくださった井田京子氏は、かなり専門的な内容を含む原書に対し、正確でそれでいて分かりやすいという素晴らしい訳文を実現してくださった。ここに深く深く感謝の意を表したい。この書籍が読者の資産形成に何らかの形で役に立つことができれば、関係者一同の幸せとするところである。

 2002年10月
                        長尾慎太郎


 はじめに

お金、それはわれわれが常に目にしているもの、それは他人の財布に入っているもの、そしてそれはわれわれのなかにある最悪な部分を引き出すものでもある。とは言っても道徳的な意味ではなく、投資家として最悪の直感を引き出すということである。たとえ自分では合理的な判断を下したと思っていても、大抵はエンジンでもかかったかのように脳みそが期待と恐怖の間を激しく行き来することになる。ジェーン・ブライアント・クイン(ワシントン・ポスト紙1999/8/1付)

自分の将来の経済力に対して、最大の脅威が何であるかを知りたいのなら、家に帰って鏡を見ればよい。ジョナサン・クレメンツ(ウォール・ストリート・ジャーナル紙1998/4/27付)

 1996年、筆者は投資顧問会社のバッキンガム・アセット・マネジメントに代表者兼調査部門責任者として迎えられた。それまで一貫して金融リスクにかかわるビジネス、つまり金利、為替、信用に関するリスクを管理したり、顧客企業に顧問として助言したりしてきた筆者がバッキンガム(登録投資顧問会社)とその系列のBAMアドバイザー・サービス(全米で約100社の投資顧問会社にターンキーサービスを提供している会社)を選んだのは、この2社の投資理念が筆者が確信している必勝投資戦略の基礎と一致していたからだった。(訳注 ターンキーサービスは投資顧問会社の開業に必要な準備をするサービス)また、もうひとつ重視したのはバッキンガムの手数料体系が投資顧問料(フィー)のみであることだった。これなら取引ごとに手数料がかかるコミッション制の問題点である利害の抵触の心配はないからである。
 調査部門責任者としての仕事はバッキンガムの投資理念の基礎であるモダンポートフォリオ理論(MPT)や効率的市場理論(EMT)、そして最新の金融分野の研究について、顧客である投資家や投資顧問会社に伝えることである。しかしこれらの情報をただ伝えるだけではない。最も重要なのはMPTやEMTの原理を顧客それぞれの条件や個性に合わせて応用し、顧客の経済的な目標に近づく手助けをすることなのである。
 バッキンガムに入って最初の仕事はMPTの原理を分かりやすく説明している本を探すことだった。次のような重要な質問に答えるためである。

 ●マーケットが機能していることを投資家は信じているのか?
 ●マーケットは実際どのように機能しているのか?
 ●マーケットの実際の機能に関する知識を、顧客それぞれの条件に合わせたオーダーメイドの必勝戦略に展開するためにはどうすればよいのか。

 かなりの時間をかけたものの、この3つの重要ポイントをカバーする本を見つけることはできなかった。投資関連の本の多くは、簡単な方法で目を見張るほどの結果が出せるとうたってはいるが、残念ならがどれも厳密に検証されたものではない。筆者が探していたのは即席で大金を稼ぐ方法ではなく、長期的に勝ち続ける投資戦略の道案内になるような本だった。
 1996年半ばに本探しをあきらめた筆者は、求める本は自分で書くしかないと決意を固めた。目指すは洗練された投資家だけでなく、金融マーケットについての知識を持たないインテリの投資家にとっても十分魅力的な本である。こうして生まれた最初の著作、『ジ・オンリー・ガイド・トゥ・ア・ウイニング・ストラテジー・ユール・エバー・ニード(The Only Guide to a Winning Strategy You'll Ever Need)』は、先のすべての条件を満たしたものになっていると自負している。この本ではモダンポートフォリオ理論を紹介するとともに、アクティブ運用とパッシブ運用の比較や、分散投資が間違いなく必勝戦略であるという理由を明確にしている。また、投資界の聖域とされている部分を打ち砕く試みも行っている。聖域というのはウォール街やマスコミが自分たちの利益を最大限甘受するために投資家に信じ込ませている説や、支払わせている費用のことである。そして最後にこれらの情報をもとに、顧客の条件に合わせたオーダーメイドのポートフォリオを構築するための方法を述べている。
 1998年5月に出版したこの本は非常に好意的な評価を受けた。なかでもウォール・ストリート・ジャーナル紙では珍しく「本の紙代以上の価値がある」(1)として1998年に出版された投資関連本トップ3の一冊に推薦された。そして何より嬉しいのは、この本を出版してから数年たった今でも、読者から感謝のeメールや手紙や電話が米国だけでなく世界中から届くことである。
 2001年1月には2冊目の著作である『ウォール街があなたに知られたくないこと』(ソフトバンクパブリッシング刊)が出版された。この本はバンガード・グループの創業者で元会長のジョン・ボーグル氏をはじめ、ニューヨーク・タイムズ紙やロンドンのファイナンシャル・タイムズ紙でも絶賛された。前作と同様に、この本でもマーケットがこれまで機能してきたことを検証するとともに、将来もそれが継続していくということを理論的に説明しようと試みた。1冊目で検証したことをさらに発展させ、金融市場に関する最新の研究と1冊目の出版以降に筆者が得た知識も合わせて紹介した。
 筆者はこれまで投資顧問として仕事をしてきたが、そのなかで投資家も投資顧問も投資判断を下すにあたって、実にさまざまな間違いを犯すのを見てきた。そしてそのことが3冊目となる本書を書くきっかけになった。本書では投資家が経済的な目標を達成する可能性をさらに高める目的で次の点を解説している。

 ●これまで見てきた数々の間違い。
 ●なぜそれらが間違いなのか。
 ●なぜそのような間違いを犯すのか。
 ●どうしたらそれらの間違いを回避できるか。

 本書は4部に分かれている。

 ●人間の行動を理解しコントロールすることが、投資のパフォーマンスを上げる重要なカギになる
 ●雑音は無視するのが一番
 ●投資戦略を立てるときによく犯す間違い
 ●ポートフォリオを構築するときによく犯す間違い

 また、巻末の用語解説も参考になるだろう。オスカー・ワイルドの作品のなかに「体験とは自分の過ちにつける名前である」というせりふがあるが、筆者の経験が今後、読者の役に立つことを願っている。本書の知識を身につけることにより、多くの投資家が犯す間違いを避け、必勝投資戦略を学び、読者ひとりひとりの経済的なゴールと人生のゴールに到達してほしい。本書は知識豊かな投資家を育てることを目的としている。多くの投資家が自分の心理状態に関して無防備であるということや、行動を誤ったせいで実績のある投資方針からはずれてしまうことがあることを認識することにより、投資のパフォーマンスは向上する。また、心理的な影響力がいかに大きいかを知ることで、それをコントロールできるようになる場合もある。情報で武装することは成功確率をかなり上げることになり、本書はそのための転ばぬ先の杖ということになる。


間違い その1 自分の投資手腕を過信していないか?
Are You Overconfident of Your Skills?

人はみな、自分の能力を過大評価しがちだ。前途には楽観的で、自分のカンは当たると信じている。それはファンド・マネジャーを選ぶときでも変わらない。
――リチャード・セイラー(米国の行動経済学者)

 ジョナサン・バートンは著書である『投資の巨匠たち――証券市場を動かした9賢人からのメッセージ』(シグマベイスキャピタル刊)のなかで、読者に次の2つの問いかけをしている。

 ●自分は平均以上に人とうまくやっていけるか?
 ●自分は平均以上の運転能力があるか?

 バートンは、もし読者が平均的な人物であれば、おそらく2つとも「イエス」と答えるだろうと書いている。実際、各種調査の結果を見ても約90%の回答者がこれらの質問に対し「イエス」と答えている。しかし、全体の90%の人が他人とうまくやっていくことや運転能力が平均以上であるというのはしょせん無理なことである。バートンも書いているとおり、われわれは住民全員が平均以上だとされているレイク・ウォビゴンに住んでいるわけではない(訳注 レイク・ウォビゴンはギャリソン・キーラの小説『レイク・ウォビゴンの人々』に出てくる町で、そこでは女性は強く、男性はハンサムで、子供たちは平均以上の学力があるとされている)。平均の定義からすれば、人と平均以上にうまくやっていけたり平均以上に運転がうまくできる人数は全体の半分しかいないはずなのに、それ以上の人が自分は平均以上だと思っているのである。自分の能力を過信することは、ある意味ではとても健全な特性だともいえる。自分に自信を持つことで、人生で経験するさまざまな出来事に立ち向かっていくための心構えができるからである。しかし、残念ながら自分の投資手腕を過信することは投資判断の誤りにつながりかねない。
 「レイクウォビゴン効果」の例として、1998年9月14日にウォール・ストリート・ジャーナル紙が発表した2回の調査結果を見てみよう。1回目は同年6月に行われた調査で、平均的な投資家は回答時から12カ月後のマーケット・リターンは13.4%だと予想し、自分はそれを2%近く上回ることができると答えていた。同じ調査は同年9月にも行われ、同様の結果が出ている。2回目も平均的な投資家は12カ月間のマーケット・リターンを10.5%になると予想し、自分自身は約13%の利益を上げられると答えていたのである。モンゴメリー・アセット・マネジメントが1998年2月に行った調査でも、自分のファンドが常時マーケットを上回るパフォーマンスを上げると期待していた投資家は回答者全体の74%に上っていた(1)。だが、平均的な投資家がマーケットを上回ることにはそもそも無理がある。なぜなら集団としての彼らこそがマーケットを形成しているからである。必然的に平均的な投資家のパフォーマンスはその名のとおりマーケット・リターンそのもので、実際の利益はそこから経費を差し引いたものになる。
 シカゴ大学のリチャード・セイラー教授(行動科学、経済学)とエール大学のロバート・J・シラー教授(経済学)は「個人投資家やファンド・マネジャーは自分が人より多くの優れた情報を持っており、自分が選んだ株で儲けることができるという考えに固執する。そして90%以上が自分は平均以上だと思っている」と書いている(2)。マーケットを上回る株を選び、タイミングよく、上がったら買い、下がったら売り、ベンチマークを上回ることのできるアクティブ運用マネジャーはほんのわずかしかいない。それなのに、個人投資家が自分にそのマネジャーを選ぶ力があるなどと信じている理由は、セイラーとシラーの言葉をヒントにすれば、理解することができる。
 多くの投資家がマーケット・リターンを上回るのは難しいと分かっていても、自分だけは成功するという自信を持っている。著名なエコノミストのピーター・バーンスタインいわく、「アクティブ運用は極めて難しい。情報を持った投資家は大勢いて、その情報自体がものすごい速さで動いている。賢い投資家がしのぎを削るなかで、マーケットを上回るのが簡単ではないことはみんな分かっている。ただ、可能かと聞かれれば答えはイエスだ」(3)。
 マーケットの間違いによって利益を得るためには、マーケットで知られていない情報を持っているか、情報の解釈がマーケットの大勢より優れている必要がある(ただしインサイダー情報であれば、法律上トレードすることはできない)。現実には全員が平均以上のパフォーマンスを上げることができないだけでなく、経費を考えればマーケットをかなり上回る必要がある。
 投資家の自信過剰について、さらに見ていこう。カルフォルニア州立大学デービス校経営大学院のブラッド・バーバーとテランス・オーディーンは投資家の行動とパフォーマンスについて一連の調査を行い、次のような結果を得た。

 ●個人投資家 しかるべきベンチマークを下回る(4)。
 ●男性対女性 パフォーマンスで見れば女性の選ぶ銘柄が男性のそれを上回っているわけではないが、取引回数の少ない女性のほうがトレードにかかる経費が少ない分、ネットの利益では男性を上回る。また、既婚男性のほうが独身男性よりパフォーマンスが良いのは、自信過剰をいさめる妻の賢明な助言が明らかに影響している(5)。人間の行動において共通した特性は、ありもしない能力に自信を持つ平均的な男性に比べ、女性は自分自身をよく知っているということかもしれない。
 ●トレード回数 見当違いな自信に基づいて最も多い回数トレードした投資家のネットの利益が最も少なかった(6)。
 ●電話によるブローカーとの売買から、インターネットの売買に切り替えた投資家 おそらく過去のトレードが成功したためネットに切り替えたのだろうが、自分の力を過信してトレード回数が増えたため、それに伴うコストも増大し、利益は減少した(7)。

 自信過剰のツケがどのくらいになるのかを調べた会社もある。独立系の金融サービス調査会社のDALBARが1998年までの15年間について調べたところ、S&P500のリターンが年率平均約18%だったのに対し、株とノーロード型ミューチュアルファンド(ファンドの保有期間は平均して3年以下)を売買した個人投資家のリターンは7%をわずかに上回っただけだった。これを15年間の累積リターンで見ると個人投資家の140%に対し、単にS&P500に投資していれば同期間に820%もの利益を得ることができていたことになる。自信過剰は非常に高くつくのである(8)。
 自信過剰に陥っている投資家は、他人はムードやフィーリング、あるいはカンや感情で投資判断を下しているが、自分は客観的かつ合理的な決定を下していると考えている。また、自分の判断に沿ったことだけを受け入れ、反証になることは無視しようとする。債券市場のベテランレポーター、ジョン・リスシオは、「予想屋とは、現在起きている出来事を記録しているだけの偏見に満ちた信用のならない連中だ。言い換えれば、彼らは自分の予想に合うことは取り上げるが、反することに関しては理由をつけて否定したり、無視したりする。たとえもし大きなニュースがあり、それが彼らの情報すべてと矛盾していたとしても、必ず何らかの統計や状況をでっち上げて自分たちの説に合うようにしてしまう」と言っている(9)。
 メンサ投資クラブのパフォーマンスからは、自信過剰について面白い現象が見られる。メンサのリターンはビアーズタウン・レディースでもウォーレン・バフェットに見えてしまうほどおそまつで、スマートマネー誌の2001年6月号によると同クラブは過去15年間にわたり年率わずか2.5%のリターンしか上げていないということで、これはS&P500のリターンを13%近くも下回っていることになる。(訳注 メンサクラブは高い知能を持つ者のみ入会を許す団体、ビアーズタウン・レディースは米国の素人女性ばかりで作った投資クラブで、プロ顔負けのパフォーマンスを上げて有名になったが、後に会計の誤りなどが発覚して、高パフォーマンスも一時的なことだということが分かった)35年間にわたりメンサクラブの運用を行っているウォーレン・スミスは、この間に元手の5300ドルが9300ドルに増えたと語っているが、もしS&P500に投資していたら30万ドル近い金額になっていたはずである。「安く買って、さらに安く売る」などと揶揄されることもあるメンサの戦略だが、メンバーは自分たちの知性の高さがそのまま運用益の高さにつながると確信しているのである。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニスト、ジョナサン・クレメンツは、自信過剰について次のように書いている。「マーケット・リターンを負かすなどというのはばかげた考えで、それができる者はほんのわずかしかいない。だが、経験よりはるかに勝る期待という原動力によって何百万人という投資家が挑戦し続けている」(10)。この期待が経験に勝るという現象も、自信過剰ということを考えれば理解することができる。多くの場合、投資家はそれが難しいことだと分かっていても、自分なら成功する可能性が高いと信じているのである。作家で個人向けの金融ジャーナリスト、ジェームズ・スマルハウトは、「心理学者は、人が自分の能力と成功する確率を過大評価するという傾向を長年にわたり観察してきた。その傾向が特に強い亜種が株を運用しているのだから、自信過剰になるのは無理もない」と記している(11)。
 どうやら自信過剰というのは、だれにも共通する心理の限界のようである。また、これは投資家だけに見られる現象ではなく、弁護士、心理学者、医者、エンジニア、各種交渉人、そして当然のことながら証券アナリストにもいえることで、みな自分の技能を過信しているという結果が、さまざまな研究で確認されている。例えば臨床心理学者は、自分の扱ったケースのうち90%は正しい診断を下していると考えているが、実際の割合は50%だったことが分かっている。また、別の調査でも、回答者がたとえ99%の自信がある場合でもそのとおりになったのは80%だったという結果が出ている(12)。
 将来を予測する能力の限界を認識することは必勝戦略の重要な要素のひとつである。人は自信過剰になりがちな傾向があると知れば、マーケットを上回るパフォーマンスを狙うなどという間違いを避けることができる。カルフォルニア州にあるサンタクララ大学のメイア・スタットマン教授は自信過剰に陥らないために次のような提案をしている。「マーケットがこれから上がる、または下がると確信したら、必ずそれを日記に書きとめておくとよい。2〜3年もすれば自分のカンなど何の価値もないことが分かるだろう。一度そのことが分かれば、われわれがマーケットと呼んでいる海にそれまでよりずっと楽に浮かんでいられるようになる」(13)


間違い その5 投資判断の過程で自我を押し通そうとしていないか?
Do You Let Your Ego Dominate the Decision-Making Process?

 行動ファイナンスは、これまで心理学者が研究してきた人間の行動を投資に当てはめた非常に興味深い新分野である。行動科学者の洞察によって、投資家の、時には不合理な行動が解明されつつある。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のジョナサン・クレメンツの言葉を借りれば、「投資をするときはだれでも不合理で、矛盾し混乱した弱虫になっている」のである(1)。ある心理学者の観察によると、投資判断をするときに自我を押し通すことは、結局、高くつく間違いにつながると言う。ここで自我が理性的な判断の邪魔をするケースを見ていこう。

 1.アクティブ運用ファンドのほとんどのパフォーマンスが、ベンチマークに達していないことを示す証拠はいくらでもある。また、運用期間が長いほど、ベンチマークを下回るケースが多くなっている。もちろんベンチマークを上回るファンドも多少はあるが、モーニングスターのように豊富な情報源を持った企業でさえ、同社のスターレーティングは将来のパフォーマンスを予測するものではないとしている(もちろん過去のパフォーマンスを「予測」するのは得意である)(訳注 スターレーティングはファンドを星の数で評価するシステム)。つまり、過去に成績のよかった数少ないファンドのなかで、どれがこの先もその成績を維持できるのかを、一般投資家が予想できるわけがないのである。もし仮に、モーニングスターをはじめとするレーティング会社やニュースレターなどがはずした予想をひとりだけ的中させることができるとしたら、そのときはまったく独自のシステムを使うか、ほかとはまったく異なるデータの解釈をして、それが正しくなければならない。過去の成績をもとに将来の勝ち組を予想してもはずれる可能性が高く、それよりも現実を直視すべきである。なかには将来の勝ち組を予想するのは難しいと認めているのにもかかわらず、自我のせいで自分だけは成功すると思い込み、結局は負け試合をしてしまう投資家もいる。負け試合とは、勝つ確率が非常に低いため、最初からやらないほうがよい勝負のことを指している。

 2.フィデリティ投資顧問会長のエドワード・C・ジョンソン3世の言葉に次のようなものがある。「信じられないことに、多くの投資家が平均リターンで満足している。肝心なのはトップになることだ」(2)。これはインデックスファンドを買おうと相談に来た投資家に、証券会社が口にする典型的な売り口上で、おそらくそれに続けて、「もし(パッシブ運用の)インデックスファンドを買ったら平均リターンしか得られませんよ。本当に平均でいいんですか? お客さんならもう少しうまくできるんじゃありませんか?」などと、言うのである。証券会社もエドワード・ジョンソンも人間の本質的な欲求である「平均以上」というところに巧妙に訴えかけてくる。ジョナサン・クレメンツの別の言葉を注意して聞いてほしい。「何度も繰り返せばじきに真実として受け入れられるなどというのは大嘘だ。マーケットを負かせ、平均リターンでいいのか、インデックスファンドを追い抜け、ウォール街に負けるな、などと投資家をそそのかして業界全体で空想物語を広めようとしている」(3)

 ウォール街の連中は、マーケットリターンを上げることが平均的な投資家の税引後利益を上回るという事実を、意図的に隠そうとしている。平均的アクティブ運用ファンドのパフォーマンスはベンチマークを税引前で平均して2%、税引後ならさらに大きく下回っている。つまり、マーケットリターンを上げることができれば、平均的な投資家のリターンを上回っているということで、そのなかにはプロも含まれている。唯一確実に平均を上回る方法は、ウォール街式のアクティブ運用ではない。

 3.自我について考えてみると、個人投資家がファンドを買うときになぜパッシブ運用ではなく、アクティブ運用を選ぶのかが分かる。もし自分の選んだファンドマネジャーがベンチマークを上回れば、評価されるのはそのマネジャーを選んだ自分で、もし下回れば悪いのはファンドマネジャーだから解約すればすむ。自我という観点から言えば、これは「勝っても負けない勝負」なのである。ところがパッシブ運用の商品を選んでしまうと、自分以外に責める相手がいない。そこで負けるかもしれない勝負なら、しないほうを選ぶのである。

 4.この「勝っても負けない勝負」は、株の銘柄を選ぶときにも見受けられる。もし選んだ銘柄が儲かれば自分をほめ、下がれば悪いのはブローカーやマスコミ、ひいてはその銘柄を勧めたカリスマ投資家であると考えるため、どちらにしても自我は守られることになる。

 高くつく投資判断の間違いは、判断の過程で自我を抑制することによって避けることができる。バンガードの創業者、ジョン・ボーグル曰く、「株、債券、マネーマーケットなどのアセットクラスから得ることのできるマーケットリターンは、最高でも100%未満であることを認識し受け入れることだ」(4)。そして、そのなかで最大のリターンを上げるためには、税金対策を組み込んだパッシブ運用のファンドに投資すればよい。ボーグルもそのほうが「典型的なミューチュアルファンドのリターンを85%以上上回る、はるかに優れた方法」だと言っている(5)。


間違い その9 投資判断の過ちを認めることを避けていないか?
Do You Avoid Admitting Your Investment Mistakes?

 行動ファイナンスでは、平均的な人はリスクを非常に嫌うことが分かっている。例えばこれまでの調査で平均的な人をコイン投げのような公平な賭けに誘おうとしても、少なくとも2対1くらいの勝率にしなければ乗ってこないことが分かっている。また、損失の痛みは、同額の利益がもたらす喜びの倍以上に感じられることも分かっている。人間のこういった行動上の特性は、「後悔回避」と呼ばれている。
 個人投資家は、自分の投資判断の過ちをなかなか認めたがらない。このため含み損になっている証券があったとしても、損切りするまでは理論上の損でしかないなどという幻想にしがみついて保有し続けることになる。反対に、売るという行為は自分の間違いを認めることだと見なしている。このような考え方と、損切りしたときの精神的な苦痛が相まって、投資家は売り渋り、損を出したことへの後悔を回避しようとする。
 ラスベガスでクラップス(サイコロの目を当てるゲーム)をするギャンブラーと同じで、投資家も収支がトントンになるまで勝負を続けようとする。これまでに「買値まで戻したら売る」と自分で言ったり、人が言うのを何度も聞いたことがあるだろう。
 しかし、避けていても事実は変わらない。それどころか、後悔回避は2つの過ちにつながる。まず、ある資産を保有するかどうかは、ポートフォリオ全体の資産配分を考えて決めるべきで、その証券を買うために支払った金額は保有し続けるかどうかの指針にはならない(税金対策以外)。それよりも、もしその株を持っていなかったとしたら、自分のポートフォリオに適した銘柄として今の価格で買うかどうかを考えなくてはいけない。もし、答えが「ノー」なら、今すぐ売るべきなのである。資産を保有しているということは、毎日その日の価格でその資産を買う決断をしているのと同じことになる。
 後悔回避がもたらす2つ目の過ちは、もし課税対象の口座に大きな含み損を抱えているのに売らない場合で、税金面から見てもすぐに損切りすべきである。特に損失期間が短いときは、長期のキャピタルゲインに比べ減税率が通常より高い短期の所得税として処理できるため、すぐに売却することが重要になる。損失は「刈り取る」ことで、ポートフォリオ内の利益と相殺し、税金を減らすことができる。
 含み損を抱えた資産が投資戦略全体の配分に見合っていれば、その銘柄やファンドを売るときに2つの選択肢がある。ひとつは売却した資産と同じものを30日後に買い戻すことで、これによって「仮装売買」の疑いを回避することができる(訳注 仮装売買はその銘柄が活発に取引されていると見せかけるための売買)。この規定は、同一または極めて似た証券を30日以内に買い戻すと、2つのトレードが仮装目的で行われたとして、損失が税控除の対象にならないとしている。もちろんこの方法だと30日の間にその銘柄やファンドが大きく値上がりしてしまうリスクはあるが、逆に大きく下落する可能性だってある。2つ目は、含み損を抱えた資産を同一のものではなくて似たものと入れ替える方法で、例えばS&P500インデックスファンドが含み損を抱えていたら、それを売却すると同時にラッセル1000ファンドを買えばよい。この2つのファンドは非常に近いパフォーマンスを上げると思われる。また、製薬会社のメルクを保有していたら、それを売って同業のファイザーなどを買うこともできる。そしてもし31日後にもとの銘柄のほうがよかったと思えば再度入れ替えればよい。
 後悔回避心理が引き起こす投資活動の停滞は、ポートフォリオの税金対策も必勝戦略の非常に大きな部分であることを思い起こすことで防ぐことができる。ポートフォリオに儲かる資産だけを入れておくことができればそれが一番だが、現実には損切りして税金面の優遇措置を利用することも必勝戦略の一部なのである。一度損切りしてしまうと、自分のポートフォリオに適さない資産を再度買ってしまう間違いを繰り返す可能性が減るというメリットもある。もし含み損が課税口座以外にあれば、定期的にポートフォリオの見直しをするときに売却するかどうかを決めればよい。判断を下すときにはその資産が自分のポートフォリオ全体で見たときに適当かどうかと、もし現在保有していなかったら今日の価格で買う価値があるかどうかを考えるとよい。
 後悔回避に関する過ちはまだある。経費が安いノーロード型(販売手数料がかからない)のミューチュアルファンドがたくさんあるのに、わざわざロード型(販売手数料がかかる)を選んでしまった場合である。ロード型がノーロード型のパフォーマンスを上回ったという実績はどこにもなく、手数料は、パフォーマンスの目標であるベンチマークにもうひとつハードルを課す以外の何ものでもない。すでにロード型ファンドを保有している投資家は、手数料を支払ったという過ちを認めたくないばかりに、売り渋っている。また、ここで売れば手数料が無駄になるとも感じている。しかし、残念ながら手数料はすでに支払済みで、経済学者が言うところのサンクコスト(埋没原価)、つまりファンドを売っても売らなくても戻ってはこないお金なのである。繰り返しになるが、もしロード型ファンドを保有しているのであれば、まず、このファンドを現在持っていなくて手数料を免除すると言われたら、果たして買うかどうかを考えてほしい。もし答えが「ノー」ならば即刻売るべきである。


間違い その11 「連勝」を信じていないか?
Are You Subject to the Fallacy of the “Hot Streak”?

投資のパフォーマンスにおいて、過去はプロローグではない。
――チャールズ・エリス『敗者のゲーム――なぜ資産運用に勝てないのか』

 統計学の世界には、投資にまつわるおもしろくて洞察に満ちた話がたくさんころがっている。ある統計学の教授は毎年必ず最初の授業で、生徒にコイン投げ100回の予想結果を書かせることにしている。このときひとりの生徒にだけ、実際にコインを投げてその結果を書くように言ってから、教授は15分間教室を離れる。全員が予想を書き終わったところで教授は教室に戻り、提出された30枚の予想のなかから実際にコインを投げた結果を記した紙を当てて生徒を驚かせるのだという。さてどうすれば、この手品のようなことができるのだろう。実は、同じ面が最も長く続いている予想が、実際のコイン投げの結果である可能性が高いことをこの教授は知っているのである。もしH(表)とT(裏)が出る順番で、実際にありそうなのがHHHHHTTTTTとHTHTHTHTHTのどちらかと聞かれたら、統計学上は同じ確率であってもほとんどの人が「ランダムに近そうな気がする」ほうを選ぶ。コイン投げの結果を予想するときにもHHHTTTHHHHよりはHHTTHTHTTTなどの順番を考えるのである。
 ひとつの面が連続して出る頻度は、実際にはみなが想像するより高い。例えばコインを20回投げて、4回続けて表か裏が出る確率は50%にも上る。あることが連続する頻度を実際より低いと感じることは、逆に言えば偶然の出来事を過剰に重要視することにつながる。野球の「絶好調の選手」が実は偶然のたまものである可能性が高いことを証明した調査もある(1)。ある統計学者がひいきの野球チームの試合をシーズン中ずっと観戦した結果、打率5割のバッターが次にヒットを打つ確率は、たとえ5回続けて打ったあとであってもやはり5割だということを発見した。少なくとも野球の場合、「絶好調の選手」はただの神話だったのである。
 誤って偶然の出来事に過剰反応することは、野球コーチの判断だけでなく、投資判断にも影響を与えかねない。次のケースを見てほしい。1990年代にジャナスのファンドは伝説に残るパフォーマンスを上げた。同社の代表的なファンドであるジャナスファンドは年率20.5%のリターンを記録し、S&P500を年率2.3%も上回った。しかし、何とその上をいく24.3%を上げた「一攫千金ファンド」があり、その戦略はMの文字から始まる銘柄を買うというものだった(2)。このとき「一攫千金ファンド」が投資戦略の聖杯を探し当てたとはだれも思わなかったが、ジャナスのパフォーマンスは偶然ではなく同社の実力なのだと、すぐにみな結論付けた。これは、投資家の数に比べてベンチマークを超える投資家が非常に少ないという前提に立った発想だといえる。
 投資家がよく犯す間違いのひとつが、ここ何年か続けてベンチマークを上回ったアクティブ運用ファンドにとびつくことで、実際には偶然が重なっただけである可能性が高くても、ファンドマネジャーがカリスマだからなどと思ってしまうのである。もし1年目にベンチマークを上回る確率が50%だとすると、3年連続して上回るのは、コイン投げで3回続けて表が出る確率の12.5%と同じことになる。これほどたくさんのファンドマネジャーがいれば、ある程度の人数は3年続けて成功するはずなのに、実際の成功者はそれよりずっと少ない。残念ながら成功は偶然の結果であり、予想につながる価値はない。
 『ウォール街のランダム・ウォーカー――株式投資の不滅の真理』(日本経済新聞社刊)のなかでバートン・マルキールは、「はやり」のファンドを選んでマーケットリターンを超えられるかについて詳しく調べている。バートンは直近12カ月間のパフォーマンスをもとにトップ10、トップ20、トップ30...のファンドを選び、翌年はまた直近のトップファンドに切り替えていったところ、この戦略の効果はまったくないという結論に達している。運用結果が、S&P500と平均的なミューチュアルファンドの両方を下回っていたからである。似たような結果はマルキールがファンドを過去2年、5年、10年の成績でランク付けをした結果にも表れている。ミューチュアルファンドのパフォーマンスについては、おそらく多くの投資家を驚かせる研究がもうひとつある。1962年にこの調査を行ったマーク・カルハートの結論は、ある年にトップ10に入ったファンドが翌年にボトム10%に落ちる確率はトップ10を維持する確率より高いというものだった(3)。
 この「絶好調の選手」戦略の失敗例が44ウォールストリート・ファンドである。かつてファンドマネジャーのデビッド・ベーカーはピーター・リンチ率いるマゼランファンドを上回り、分散型米国株ファンドとして1970年代のトップパフォーマンスを達成した。しかし、次のピーター・リンチかウォーレン・バフェットだと信じて資金投入した投資家には気の毒だが、44ウォールストリート・ファンドは、1980年代になると今度は73%という最低パフォーマンスに陥ってしまった(4)。ちなみに同期間のS&P500は、年率が17.5%に上がっていた。このファンドは結局1993年4月にカンバーランド・グロース・ファンドに吸収され、それもまた1996年4月にマッターホルン・グロース・ファンドに吸収されている。これはたとえ10年の実績があったとしても、「絶好調の選手」を信じた結果、高くつくはめになる失敗を被る可能性はなくならないということを意味している。結局ベーカーのファンドは、1ドル当たり27セントまで下落したが、その間もしS&P500に投資していれば5ドルになっていたはずである。100歩譲って過去のパフォーマンスが将来のパフォーマンスの目安になるとしても、それを正しく解釈するのは至難の業だといえる。
 一時の成功に過剰反応して「絶好調の選手」に追従した結果、失敗するという過ちは、もともとの成功が偶然の結果ではなかったのかを注意深く検証することで避けることができる。ファンドマネジャーのマーティー・ウイットマンが、「ウォール街のはずれには5年間くらい羽振りのよかった連中がごろごろしている」と言っているように、長期間のデータを見ることで、この種の過ちを犯すリスクを減らすことにつながる(5)。先のコイン投げの例で言えば、表が3回続けて出るのは偶然かもしれないが、100回投げて95%が表ならコインに問題があると考えるべきだろう。


戻る