■目次

監修者まえがき         1
序言           9
謝辞         11
まえがき         13
イントロダクション         15
 注意書き             16

第1章 相場への道               17
 信じられないだろうが       18
 トレーディングの真髄       20
 トレーディングの理由          21
 富の原理              25
 さあ、始めよう           27
 マネーマネジメント          27
 資金調達            31
 売買の規模        32
 価格             32
 注文             33
 哲学           34
 結論            38

第2章 始まり          43
 1−2−3の高値と安値        43
 1−2−3の安値             46
 1−2−3の安値の意味             47
 1−2−3の高値の意味         49
 1−2−3の高値            49
 フックを見つける          51
 進化                  53

第3章 ロスフックを特定する             55
 ロスフックのできる理由              61
 ロスフックの定義             64

第4章 トレンドを特定する               67
 ルール               67
 重要なコンセプト          69

第5章 保ち合いを特定する         75

第6章 トレンド・リバーサル             89

第7章 コンセプトの過程         101
 フックの予想             101
 修正の予想             105
 修正期間の予想            105
 トレンド再開の予想         106
 トレーディングの予想            107

第8章 トレーダーズ・トリック       113
 トレーディング・サークル           127

第9章 分析の補説          129
 フックと1−2−3         141

第10章 逆指値注文            149
 どこに逆指値を入れるか        149
  一般的な考察             149
  特定の状況に関する考察           151
 メカニカル・システム            155
 自動化の必要               157
 ロス・プロテクション・ストップ        153
 ナチュラル・サポートとナチュラル・レジスタンス           153
 ナチュラル・ストップの長所と欠点       165
 ボラティリティ・ストップ            167
 ボラティリティ・ストップ・スタディ          171

第11章 オブジェクティブ・ストップの設定       181
 コスト・カバリング・ストップ      181
 スモール・プロフィット・ストップ         182
 フル・プロフィット・ストップ          184
 トレイリング・ストップ              184
 その他の考察               189
  ポイントを利用した利食い目標       189
  フィボナッチ拡張目標値の利用          190
  利益確定のストップ             191

第12章 ロスフックが使用できない場合        195
 確認のためのフィルター        197
 保ち合い場面でのTTP          201
 トレンド場面でのTTP          203
  上昇トレンドでのTTP          203
  下降トレンドでのTTP           204
 ルール                208
 警告               212

第13章 ストキャスティクスによるフィルタリング            223

第14章 エンベロープによるフィルタリング       257
 ケルトナー・チャネル・バリエーション         282
 移動平均バンド                  283

第15章 ニートトリック         285

第16章 ボリンジャーバンドによるフィルタリング           293

第17章 バニラフック                315

第18章 バニラフックの細かいポイント                 335

第19章 プレーンバニラ・マネー、トレード、リスク・マネジメント           345
 プレーンバニラ・トレード・マネジメント             345
 プレーンバニラ・リスク・マネジメント          347
 プレーンバニラ・マネー・マネジメント           349

第20章 トレードしてはいけないフック             351
 マーケットが急にボラタイルになったとき352
 フックが込み入っているとき              358
 閑散商いのとき                  358
 フックがまばらすぎるとき           362
 期間が長すぎるとき                  366

第21章 その他のフィルター             371

第22章 賢者への言葉                   377

第23章 フックの予想                   381

第24章 まとめ                  389

付録A            397

付録B チャートの法則                 401
 1−2−3の高値と安値          401
 レッジ           408
 トレーディングレンジ             409
 ロスフック                 410
 保ち合いでのトレーディング              413
 1−2−3フォーメーションを明確にするポイント           416
 1−2−3の高値または安値のブレイクアウト            417
 ロスフックを明確にするポイント              419

 監修者まえがき


 本書は、トレーダーとしての長年の経験や知識を背景にした著作・教育活動で知られるジョー・ロスが、テクニカル分析に基づく「押し/戻り」を中心としたパターン認識や、画期的な建玉操作技術を駆使した彼独特の売買手法を明らかにした“Trading the Ross Hook”の邦訳である。
 さて、一般的に言ってテクニカル分析は「価格はマーケットにおけるすべての情報を織り込む」ことを前提にしている。そしておそらくその命題は正しい。ただし、事実をもう少し正確に表現すると、「価格はすべての情報を織り込むが、逆にそこから常にマーケットの真の姿を見極めるのはほとんどの人間にとって困難である」となる。そして、この障壁は何もテクニカル分析だけではなくあらゆるアプローチにとって永遠の課題であり、神ならぬ身としては正しいサイドにいかなるときも身を置くということは望むべくもない。

 しかし、だからと言ってマーケットで利益を上げることが不可能というわけではない。成功を収めた多くのトレーダーは、状況が比較的よく見通せる局面にトレード機会を限り、建玉、仕切りに関する技術を駆使して、リスク・リワード・レシオをコントロールすることによってそれを可能としている。そしてジョー・ロスは本書において「ロスフック」という形でその理論や実践体系を集大成させたのである。
 「ロスフック」は長い年月をかけて洗練され、現在もその有効性をロバストに保つ優れたトレード手法である。読者の方におかれては、本書を読み込むことでその長所を吸収していただければと思う。

 2002年7月
                        長尾慎太郎


 序言


 ジョー・ロスと知り合ってまもなく、私は彼が驚くほど賢明な人間であることを知 った。彼は先物取引だけでなく、人間や人生自体についても非常に賢明な人物なのだ。
 生き馬の目を抜くようなこの業界にあって、彼のような性格の人間に出会えたこと は本当に嬉しい。ジョーの言動には一貫して、正直さ、誠実さ、他者へのいたわり、 そして、仲間への愛情があふれている。
 本書にもそれは表れている。一読すれば、彼の言葉が率直ではっきりしているのが すぐに分かるはずだ。これから先物取引をしようとしている読者諸兄は、本書で披露 されている知識を応用し、実際に自分の力でトレーディングしてみれば、トレーダー として彼が豊かな才能を持っていることに、心から感服するだろう。
 私見では、本書は先物取引での新たなスタンダードとなるだけの十分なインパクト を持っている。著者であるジョーにとっては、愛情を込めた労作であったに違いな い。本書には、同時代の古典になるという報酬が与えられるはずだ(著者自身は報酬 など求めないだろうが)。
 最後に著者、ジョー・ロスの第一作『トレーディング・バイ・ザ・ブック (Trading by the Book)』から引用させてもらおう。「何かを学ぼうと思ったら、教 えてもらおうとする意欲が必要だ」。もちろん読者諸兄に、トレーディングする者と して学ぶ意欲がなければ、本書を購入などしてはいないだろうが……。
 どうか、読者自身のために本書で学んでいただきたいと思う。著者の言葉を読み、 それに従うかどうかは読者次第である。
 幸運を。そして、素晴らしいトレーディングをお祈りする。
 ジョーに感謝を!

                     ジョン・J・コズマ


 謝辞

 書物を著す場合、そのことについて教えてくれた恩人たちが必ずいるものだ。
 私には多くの学生や読者、そして手紙を通じて、あるいは直接会って先物取引につ いて教授した人々がいる。こうした人々によって(意識していることも、いないこと もあるが)、むしろ私のほうが教えられる場合があった。実際には、これまで会った あらゆる学生や生徒からは何かしら教わるところがあったのだが、そのなかでも特に 私を勇気づけ、奮い立たせるような、そして私の人生に決定的な影響を与えた人々が いた。彼らの名を知り合った順番どおりに記しておきたい。
 サンディ・スティス大佐(米陸軍退役軍人)
 W・エドワード・ダルトン博士
 ブルース・ローマン博士
 リチャード・レッドモント氏
 スティーブン・スローターベック博士
 ケビン・D・アームストロング氏

 いずれも熱心なトレーダーである。彼らのひとりひとりに対し、伝えきれないほど の恩義を感じている。
 ジョージ・ダミュシス氏は、「トレード・パートナー」というソフトのプログラ マーだが、このソフトのおかげでチャート・サービスがまったく不要になった。この ソフトは今でも、1日の終わりの分析に愛用している。
 エイペックスの諸君にも感謝している。同社のアスペン・リサーチ・グループ、そ してアスペン・ソフトウエアも、本書のチャートの多くを作成してくれた。アスペン のグラフィックは最高で、データ管理ソフトとして正に夢のような完成度である。
 また、ブルース・ローマン博士の友情と大きな激励に感謝したい。博士は「まえが き」を書いてくれたうえ、本書の原稿を丁寧に編集してくれた。
 さらに、ニール・アーサー・マックラーを忘れるわけにいかない。彼は私に、忍耐 によって大きな報酬が得られるということを教えてくれた。
 最後に、友人であり本書の「序言」を書いてくれたジョン・コズマ氏に感謝してお きたい。彼が細部にわたり記述の正確さに目を光らせ、完璧を求めて作業してくれな ければ本書は誕生しなかっただろう。


 まえがき

 この画期的とも言える本書の素晴らしさは、先物取引の経験が長ければ長いほどよ く理解できるに違いない。なぜなら、「先物」という金のなる木への道を探し回るな か、金銭面だけでなくフラストレーションや感情的な意味でも底をなめるような思い を味わい尽くしているからだ。
 著者、ジョー・ロスはもともと優れたチャート読解能力を持っていたが、それに加 えて自ら発見した「ロスフック」をトレーディング・アプローチの中核にすえること で、ビジネスやマネー・マネジメントで「成功」するための重要な必須条件を手中に 収めた。
 トレーディングの世界には、何回も繰り返し語られてきたが、その実「実践面で の」定義がきちんとされていない格言というのがある。例えば、「損は切って、利は 伸ばせ」とか、「トレンドに乗って売買せよ」などといったものである。本書の著者 はついに、こうした格言のいくつかに実体を与えることに成功したのだ。
 本書に書かれているのは「完璧に」まとめ上げられた先物トレーディングの方法論 である。一部を扱った細かいテクニックではなく、全体を扱う方法論なのだ。読者の 多くはこれによって初めて、絵を描かれるキャンバスでなく、アーチストの側に立っ て絵を眺めることができるだろう。
 本書は、私自身も長年慣れ親しんできた「ザ・バイブル(ロバート・D・エドワー ズとジョン・マギーの共著『アメリカの株価分析――チャートによる理論と実際』東 洋経済新報社刊)」など、これまで描かれた「儲かる」先物関連書籍のなかで間違い なく最高のできばえである。
 先物市場の「単なる参加者」から「勝者」に変わりたいと熱望している向きにとっ て、本書は最高の案内書となるだろう。
 財を成したいと思っている人々よ、宝の地図は目の前にある。だが、宝探しの旅を 実行できるかどうかは読者次第である。本書を読み、そこに書かれている内容を理解 し、そして実戦に応用するのだ。これまでは「夢」にすぎなかった先物トレーディン グでの勝利を「現実」に変えるのである。あなたのトレーディングが、これまでとは まったく違ったものになりますように。

                  ブルース・W・ローマン


 イントロダクション

 本書は、ロスフックのコンセプトについて明らかにしようとするものである。  「ロスフックにまつわるストーリーを語ることこそ、そのコンセプトを明らかにす ることになる」。それは、あたかも遺産を代々受け継いでいくようなものだ。まず、 初めにこの手法を伝えられた私が、受け継いだ後も時間をかけてロスフックを磨き上 げ続けた。そして今、読者の皆さんに伝授しようとしている、というわけだ。
 本書は、市場に関するひとつのコンセプトに焦点を合わせて書かれている。それ は、ロスフックという値動きに基づいたトレーディングである。
 こんな単純な値動きに関することだけで一冊の本を書くなど、妙なことだと思われ るかもしれない。だが、本書でロスフックのトレーディングについて知っているすべ てを書こうとしたとき、私はあることに気がついた。すべてを書き表すことなどでき ないということに、である。ものの見方は常に変わるし、トレーディングによって毎 回、微妙なニュアンスの違いが生じるものだ。
 こうしたことは、私がロスフックについて教えた生徒たちが実際にトレーディング をしている様子を見るにつけ、ますます切実なものになっていった。
 そもそも、このような現象を扱った経験について、どうすれば他人に伝えることが できるというのだろうか。
 ロスフックについて話をしたり書いたりすることは、何日でも何週間でもできるだ ろうが、実際のトレーディングに関する細かいことは何ひとつ伝えられないのである。
 ロスフックとは、値動きのなかに示されていたり、そこから生じたりするものでは なく、値動きを成立させるのに必要な何かなのである。実際に売買する場面では、市 場全体の動きと関連したロスフックのトレーディングを長年やってきた経験に頼って いる部分が大きい。
 しかし、本書ではできるかぎりこうした事柄をしっかりとした形に書き記し、だれ もが私と同じように利益を上げられるよう努力した。
 私が目標としているのは、私に利益をもたらしたものを読者の皆さんと分かち合う ことなのだ。
 読者は本書を注意深く読み進んで内容をしっかり理解し、できるかぎりそこから利 益を得られるようにしていただきたい。本書の内容を実際の売買に組み入れ、読者自 身の投資スタイルや適正水準に応じたトレーディング手法として利用するにはまじめ に研究する以外にない。
 そうすれば、読者自身のスタイルとして使えるコンセプトが必ず見つかるだろう。


 注意書き

 本書には、一読しただけでは理解困難な部分があると思われる。本書は研究される ためのものである。市場のトレンドや保ち合いを特定するためのコンセプトは、何年 もの期間を経て研究されてきたものだ。ざっと読んだだけでこうした内容を把握する ことができる読者は、ほとんどいないだろう。ここで紹介したような内容は、これま で、個人開催のセミナーでだけ明らかにしてきた。詳細に紹介するのは、これが初め てのことである。
 熱心に研究するつもりがないなら、本書は読むだけ時間の無駄である。だが、逆に ここで書かれたことを熱心に研究すれば、報酬としてリッチな生活が送れるようにな るだろう。本書は、多くの類書よりもトレーディングに関する記述を多くしてある。


第1章 相場への道
The Path

 本書で紹介するシンプルな方法を実践するだけで、先物で大勝ちする方法が身につ くだろう。努力は人一倍必要だが、ここで努力しておけば思いもしない成功を手にで きるはずだ。
 私自身の場合はシステムの検証を繰り返したり、何週間も何カ月も続けてトレーデ ィングするようなことはしなかった。ただ時間をかけて、取り組み方やアプローチを 完璧に近づけようと努力したのだ(これは現在でも続けている)。そして、現実的で 利益になるトレードをする技術や自己管理法を身に付けるため、多くの時間を費やし たものだ。
 ほかの著書でも繰り返し述べたことだが、トレーディングとはひとつのビジネスで ある。ビジネスとして扱い、管理しなければならない。
 多くのトレーダーが取るアプローチ法の逆を行くことで、私は彼らとまったく逆の 結果を得ることができた。つまり、たいていの場合、彼らのアプローチはまったくダ メだったということだ。
 読者は、私の経験から何を学ぶことができるだろうか。
 それは、大きなリスクや不確実性、複雑さや混乱に煩わされずに、成功率が高いト レーディングを始められるということだろう。特別な理論などいらないばかりか、数 学的・科学的な分析や、相場のサイクルに着目した分析方法、あるいはコンピュー ター・システムによるアプローチもまったく必要ない。トレーディングで利益を得る のに数学や科学が必要なら、私がマーケットで勝てるはずがない。私はコンピュー ター以外、こうした分野のほとんどに不案内なのだが、トレーディングのアプローチ やスタイルは、自分でコンピューターを扱えるようになるずっと前に確立したものな のである。
 読者の皆さんも、勝つことはできる。これから紹介するシンプルで分かりやすい方 法を熱心に学びさえすれば、連戦連勝も夢ではない。
 本書のコンセプトは簡単だが、実行するのは難しいかもしれない。本書で紹介する テクニックを実行するための技術を読者が全員持っているとは限らない。しかし、も しそうした技術を持っているか身に付けることができたとしたら、むしろ、失敗する ほうが難しいに違いない。
 本当にうまくいけばあまりにも簡単すぎて、まるで自分の指を動かすようなものだ と感じるだろう。スイッチを切り替えるようにリスクや不確実性を避けながら、シン プルなトレーディングで絶対に勝利へとたどり着けるはずだ。つまり、結果は読者次 第というわけだ。
 面倒な数式が飛び交う世界でがんばるのもいいが、そこから解放されるのも読者次 第である。相場を無理やり自分の先入観に合うようこじつけ、今後も負け続けるの か。それとも、相場のシンプルな読み方を身に付け、相場自体のなかに手掛かりを探 しながら、儲かるようになるか。


 信じられないだろうが

 本書で述べることはすべて混じり気なしの真実である。著者自身が体験ずみであ り、現在でもこの方法を利用している。今本書を読んでいる読者同様、私から教えを 受けたほかの人々もこの方法でトレーディングし、実際に成功している。
 本書で紹介する「ロスフック」のテクニックとトレーディングの対象選択術は、先 物市場での実証性が確かめられた必勝法なのだ。もし読者がトレーディング方法を 「簡略化」して、その分、取引や自分自身もコントロールしたいと考え、新たなス タートを切りたいと思っているなら、本書のコンセプトの数々を注意深く研究すれば いい。
 自分が張っている相場を管理しきれず、自分を管理するだけで精いっぱいだ、とい うことを素直に認めたい気持ちになっているとしたら、ここから述べる方法論がきっ と役に立つはずである。
 もし読者が、長期的に着実に利益を成長させつつ、トレーディングで成功する一 方、先物に付き物の不確実さや値動きの大きさによるリスクを避けたいなら、本書こ そがあなたのための一冊である。
 がっくりと肩を落とした姿を鏡で見たり、自分の大切な人に見られたうえ、しぶし ぶ負けを認め、「また今日もダメだったよ」などと言うのが嫌なら、ロスフックによ るトレーディング法こそ、今まで探していた答えかもしれない。
 また、先物市場で利益になる取引やレバレッジを効かせた売買をしたいと願ってい るのに、証拠金についてはどちらかと言えば「安全性」を重視したいというなら、本 書のアプローチがあなたのトレーダー人生を変えるきっかけになるかもしれない。実 際、このアプローチによって私の多くの生徒たちはより多くの成功を手に収めてきた のだ。これから読者に示すのは、従来より優れているうえ、安全で楽に利益の上がる 方法なのだ。
 つまり、本書は私がロスフックを見つけるまでのストーリーになっていると同時 に、正しい使い方さえ守れば、ほとんどだれでもが先物で成功できる方法をつづった ものである。本書によってきょうからでも、ロスフックという素晴らしいコンセプト の実践法を学ぶことができる。ロスフックのテクニックとともに、数々のトレーディ ング洗練術も伝授しよう。読者の選択も大幅に改善されるに違いない。ロスフックに よるトレーディングと細心の注意を払って選択された取引。これによって読者は、ト レーダーとしての成功へ大きく前進することだろう。
 本書は、まったくの初心者を対象としたものではない。少なくとも読者が、注文方 法に関する基本的な知識やバーチャートの読み方、先物取引の概要に加えて、売買を 行う方法や理由について理解していることを前提としている。また、最低でも先物の つもり売買(ペーパートレーディング)をやってみたことがあり、トレーダーならだ れでも経験したことのあるような、避けようのない損失が出るのを見たり、経験した ことがあることを想定している。


 トレーディングの真髄

 トレーディングするうえでの真髄とも言えるのは、「愛と憎しみ」である。
 これは言ってしまうのは、危ういことでもある。賢く立ち回ろうとすれば、こんな 言い方を私はしていない。トレーディングするうえで最も大切なのは損益だが、損益 だけがトレーディングのすべてではない! 損益について考えるのは大事だが、重要 さは二番目だ。トレーダーとしての優劣を語るなら損益結果を見ればすむ。しかし、 それはトレーディングの真髄とは違う。
 私は数年前、先物を動かし、トレーディングの良し悪しを左右するのが「愛」と 「憎しみ」であることに気づいた。説明が必要だと思われるので、しばらく我慢して 読んでいただきたい。約束するが、あとで必ずそれだけのことはあったと思っていた だけるはずだ。


 トレーディングの理由

 まず、自分自身に問い掛けてみよう、「なぜトレーディングするのか?」
 先物取引をする理由は、勝ったときに得られる大きな報酬を受けたいからだ。成功 すれば、銀行預金、CD(譲渡性預金)や株式といったその他の運用方法を使うよ り、何倍も資金を増やすことができる。現実に目を向ければ、インフレや税金によっ てあなたの資産は常に目減りしているのだ。先物取引ならレバレッジ効果が期待でき るため、数ある資産運用方法のなかでも最高の利益を上げられるかもしれない。勝て ばその結果は目を見張るようなものになる可能性があるが、それだけでなく、あなた は先物取引自体のアイデアや面白さのとりこになるかもしれない。つまり、「大勝 ち」する期待感に胸を膨らませることができるのである。
 あなたが取引を続けるかぎり、投資資金がけっして止まらない機械のように機能を 続け、そのおかげでさらに裕福になって暮らしが楽になるとしたら、とても素晴らし いことだとは思わないだろうか。
 友人や親類が職を失い、数々の専門職やビジネスマンたちの未来が暗いものになっ たとしても、自分に先物取引の手腕があれば、大船に乗った気分でいられる可能性が あるのだ。
 こんなことを考えてみてほしい。ある日のこと、もう退屈としか思えなくなってい るかもしれない仕事の年収よりも、トレーディングの利益のほうが多くなってしまっ たとしたら。そして、もうそれ以上働く必要がなくなり、最も好きなこと(つまりト レーディング)だけしていればいいようになったとしたら。また、取引の腕前がある おかげでトレーダーとして活躍することができ、素晴らしく快適な人生を送れるだけ の十分な大金を稼げるとしたら。
 あるいは、自分の楽しみとして、ゆっくりとリラックスできる面白い暇つぶしのよ うに取引しながら老後の収入を増やすことができるとしたら……、なんと素晴らしい ことではないか!
 自分が選んだポジションが何ポイントも上昇し、それだけで年間の収入を上回るの を見ることができたら、そのとき感じた興奮のとりこになってしまうだろう。全財産 が急激に(しかもほとんど額に汗することなく)増えていくさまを見てしまったら、 人生でする大抵の経験は色あせたものとなってしまうに違いない。
 また、金がすべてではないとしても、稼いだ富が約束してくれる自由を満喫するこ とはできるだろう。自由とは、あなた自身やあなたの家族が、立派な家、高級車、旅 行やエンターテイメントなど、人生でより価値のあるものを楽しめるようにする力の ことである。困っている人々に援助を与えることができるうえ、自分や自分の愛する 人々がいつでも最高の医療保障を受けられるなど、お金の心配を一切しなくていい安 心感に包まれることの喜びを考えてみてほしい。生活資金をだれかに頼る必要はまっ たくなくなり、お金の不安から完全に解放された穏やかな日々を送ることができる、 そんな老後を迎えるのが楽しみになるだろう。
 このような報酬の数々を見てくれば、先物取引での成功が今後の人生をどれだけ変 えることができるか、もうお分かりだろう。
 ただ、このようなご褒美のすぐ背後には、なんともげんなりするようなことも隠れ ていたりするのである。損失のリスク、損失を出したことによる最悪の気分、誤った 判断を下してしまったときの怒り、そして自己嫌悪など、うんざりすることがいろい ろとある。先物市場のトレーダーにとって最も痛切な後悔の言葉は、「なんでこんな バカなことをしてしまったんだ?」であり、「まったく、いつになったら分かるん だ?」である。この問いに対する答えは、存在しない。何度も繰り返しあなたを責め 続け、せっかく貯めた虎の子を失ったという事実をけっして忘れさせてはくれないのだ。

 実際にトレーディングを始めると、どのポジションもみんな、これこそが選ぶべき ポジションだ、これこそが運命のポジションなのだ、と訴えているように思えて困る かもしれない。多くの可能性に接するうちに何がなんだか分からなくなってしまい、 本来取るべきポジションを選び損ねてしまうのである。これがさらに悪くなると、こ れと思ったポジションは何でも片っ端から取りにいくことになりかねない。
 また、「心からの信頼」を置けるような人からの客観的なアドバイスが欲しくなる に違いない。ブローカーに対して、「無理やり買わせたり、持っていれば利が乗るは ずのポジションをわざわざ切らせて手数料を稼ごうとしているんじゃないか?」など と疑心暗鬼になる。投資顧問には、「本当にこれが利益になる取引なんだろうか?  負けてしまうんじゃないか?」と気になって仕方ない。あなたは、顧問が損切りをし ようと勧めても断るかもしれない。逆に、損きりの逆指値注文がそのときの値動きに 近すぎると思い、もっと離れた水準に逆指値注文を入れたいと思うかもしれない。
 どんなマーケットであれ、乱高下で予想できないほど不安定な商状は避けたい。は っと気がつけば、「どこで損切ったらいいだろう?」「買い増したほうがいいんだろ うか?」「注文を別の水準に移し、すぐ実行してしまわないようにもう少し余裕を持 たせたほうがいいのではないか? あるいは、もう『今すぐに』手仕舞うべきなの か?」などと、ずっと気をもんでいる自分に気がつくことになるだろう。こうした問 いに答えを出すのは容易ではなく、気が気ではなくなるはずだ。挑戦を仕掛けて、ト レーディングのの不屈の精神を危ういものにするのだ。
 まるで、マーケットが人格を持ち、あなたをもてあそんでもいるように、何でも自 分の「正反対」に動いているような感じがするだろう。これは、あなたのように何か を達成してきた人間にとって耐えられないことに違いない。これまでならほとんどど こでも充実感や達成感を得ることができた。しかし、ことトレーディングとなると、 「うまくやれるのだろうか? そもそも成功できる奴などいるのだろうか?」と思う ようになる。
 このため、不安で決断力は低下し、「愛す」べきものと「憎む」べきものの区別も つかないほど錯乱したトレーディングをするのである。そして、こう言うだろう「ど こかに出口はないのか?」
 もし「ほとんどすべての場合」について、「愛す」べきものを受け取り、「憎む」 べきものを避けることができるとしたら? トレーディングを素晴らしい気分で行う ことができたとしたら? 今からやろうとしている取引が正しい選択だと確信するこ とができるとしたら? 毎回、どこに注文を置くべきなのか迷わないでいられるとし たら? 高い確率で勝つことができるとしたら?
 そして、儲け続ける一方で、損失を限定するという夢がかなえられるとしたら、あ なたはどうするだろうか?
 まだ駆け出しのトレーダーだったころの著者は、だれでも目の色を変えてポジショ ンを取りたくなる取引こそ、危険が潜んでいるものなのだということを知った。私 は、「望んだ」ことだけ経験でき、「嫌な」ことから遠ざけていてくれるようなト レーディングに、自分なりのアプローチができないものかどうか見極めてやろうと思 ったのだ。
 そんなことができるのか? どうやって?
 実を言うとそれは、ある非常に重要なことに思い至ってから、私にとってはとても はっきりしたものとなった。
 トレーディングするたびに私の心をつかんで離さないあの二つの感情(つまり、 「勝つことへの愛」と「負けることへの恨み」)のうち、最も注意しなければならな いのは、恨みのほうである。
 その理由を理解するには、著者が「富の原理」と呼んでいるルールを知れば、事足 りるだろう。


 富の原理

 この原理が語っていることは実に簡単だ。損失を避けることができればより幸せ に、より心地よく、そしてトレーディングをよりしっかりと管理できるようになるだ けでなく、「自然と無理なく裕福になる」ことができるのである。どうすれば、そん なことが可能なのだろうか?
 お金を使ってトレーディングするとは、どこかで立ち止まることがほとんどできな い行為である。売買が適切なら休むまもなくその結果が現れ、見る間に利益は何倍に もなって、あなたの資産は増えていく。
 実際、儲けが膨らんでどうしようもないくらいに金持ちになり、「もういい加減に したい」と思ったら、投資資金を「なくしてしまう」ほかないのだ。
 相場での負けは、トレーダーならほとんどだれでも経験があるだろう。それは、そ れまで黙っていても富を築いてくれた一大プロセスが、すべてが崩れ去ってしまう瞬 間なのだ。これこそ、トレーダーたちの多くがけっして成功できない理由でもある。
 つまり、「富の原理」の教えるところによれば、トレーディングで大きな利益を得 るために最も大事なのは、「損失を避ける」ことなのである。これができれば投資資 金は黙っていても、必ず増えていく。これ以外にあり得ない。
 読者の皆さんはここで、それがどうした? そんなことは先刻承知だ、と言うので はなかろうか? だが、最もシンプルな真実こそ最も含蓄が深いものだ。おいおい分 かっていくだろうが、まさにこのシンプルな真実が、実際に深い意味を持っているの である。
 私のアプローチ法なら、非常に低いリスク(まず想像以上の低さだろう)でのト レーディングが可能だ。読み進んでいくうちに分かると思われるが、これは、損失を 避けることで最高の結果にたどり着く意思決定方法と言っていいだろう。このアプ ローチの主な特徴は売買のしすぎを避けることにあり、特に資金の損失を避けること については、ほとんど偏執的と言ってもいいこだわりを持っている。そして、意外だ と思われるかもしれないが、これまで私のトレーディングを安全なものにしてくれた このアプローチでは、毎年並外れた利益を上げることもできるのである。
 この後、私の資金管理テクニックやあるべき心構えなどを合わせて述べていくが、 フィルタリング・プロセスを使用し、ロスフックでトレーディングしてきたおかげ で、私はほとんどいつも自らの「愛する」ものを味わい「憎む」ものにはほとんどお 目にかからずにすんだのである。
 それでも読者はこう思うかもしれない。「本当にできるのか? どんなトレーディ ング・スタイルを使ったら愛するものが得られ、憎むべきものを避けられるというの か?」
 どのようにして本当の「富の原理」を手にし、これまで述べたようなことができた のか。それをこれから読者の皆さんとともに見ていくことにしよう。ロスフックにつ いて正しく学ぶなら、以下に書いたようなことができるようになるはずである。
 1.自分の投資資金を損失から守る方法を覚えることができる。
 2.非常にシンプルなトレーディング人生を送ることができる。
 3.全財産を証拠金にしてしまわずにすむ。
 4.相場の動向について、二度と心配する必要がなくなる。
 5.最も高い確率で正しいトレーディングを始められるようになる。十分吟味して トレーディングするようになるだろう。最高の選択をし、それによって利益を勝ち取 ることを学ぶのである。
 6.他人が感情に任せて売買しているのを尻目に、利益の上がる方法を相場から読 み取る方法を学ぶことになる。
 7.利益を上げ方を熟知し、必要とあらばその利益を使うことができ、賢明な優良 企業オーナーのようにトレードすることができる。
 8.ロスフックはデイトレーディングでも、長期にわたってポジションを維持する トレーディングでも、またその両方にも利用することができる。売買期間は自由に設 定できるのだ。


 さあ、始めよう

 本書のいたるところで、「フロア」「オペレーター」「マーケット・ムーバー」 「インサイダー」といった言葉を使うことになるだろう。これはみな、一般と異なる トレーダーのことである。インサイダーのなかにはフロアトレーダー、大手トレー ダー、当業者、マーケット・メーカー(オペレーター)などが含まれる。私は一般の トレーダーについて、「アウトサイダー」という言葉を使うことにしている。大抵の 場合、読者や私、そして一部のプロや当業者が、このアウトサイダーに当てはまるだ ろう。


 マネーマネジメント

 トレーディングやリスク、そして資金に関する著者のマネジメント法を知っている なら、このセクションは分かりやすいだろう。
 こう言うとおかしく聞こえるかもしれないが、何年もの間、試してみた数々の方法 のうち、最も成功したのは自分自身のマネジメント・テクニックだった。  私はいろいろなものを試すのか好きなほうで、トレーディングでも同じ方法をずっ と使い続けると飽きてしまうのだ。これまでひとつの方法で売買した最長記録は3年 間である。トレーディングを始めたばかりのころだ。この3年間が終わるころ、私は 退屈で仕方なくなっていたのである。
 ただ、この期間も、唯一の方法論にこだわって開発したこの原理は、揺らぐことが なかった。時にはこの原理からはぐれてしまうこともあったが、それでも途方に暮れ るようなことはなかった。いつでも、もと来た場所へ帰ることができたのだ。私は根 っこのところでこの原理とつながっており、トレーダーとしてのキャリアが今日、こ の日まで途切れずに済んでいる。
 私はこれまで、数多くの手法によるトレーディングで成功を収めてきた。それぞれ の手法は実にさまざまだったが、マネジメントのテクニックは最初からほとんど変わ ることがなかった。
 私は、少なくとも2つ、できれば3つの売買を同時にすることがトレーディングで は大事だ、ということを学んだ。ひとつはコストをカバーするために使い、もうひと つは、利が乗ったときに満足のいく利益が出る水準まで売買を続けるために使用する からである。
 マーケットから何か取ろうなどとしてはいけない。私たちにできることは、マーケ ットが与えてくれるものをただ受け入れることだけなのだ。
 これは、多くのトレーダーの心構えと大きく違うところである。彼らはどの取引で も、欲望にかられるまま最後の最後まで搾り取ろうとしているのだから。  最初から、私は3つの銘柄での売買だけをやってきた。それは以下のように行われ る。まず、ひとつ目では売買コストを捻出するため、できるだけ早い時点で利食うこ とにする。時には利益が少ししか出ない場合もあるだろう。その後、あとの2つをで きるだけ早く損益分岐点にまで上がるまで待つ。
 元の水準からさらに数ティック上昇した時点で、2番目も手仕舞いをして、これま での売買での利益を確定しておくのだ。3番目の取引は、損益分岐点でできるだけ長 く維持しておき、精いっぱい動ける余地を与えてやることにしよう。
 利益が乗ってきたら、どれでもいいから自分の納得がいく手法で逆指値を入れてお くといい。そうすれば、分岐点を割り込むことだけは避けられる。
 このマネジメント・テクニックは、常識だと思われている方法や大多数の人々がし ている売買の方法とは違う気構えを持つことで学ぶことのできるものだ。
 トレーダーたる者、「少しばかりの損失は喜んで受け入れる」ことを覚えよ、とい うセリフをいろいろなところで聞くし、読むことも多い。
 しかし、こんな態度はまったくのナンセンスだ。トレーディングにおける私の信条 は、損失を憎み、最低でも損益分岐点にとどまるようにせよ、である。  これなら、損失を喜んで受け入れるようなトレーダーとは、まったく異なる結果を 得ることができるだろう。
 小さな損失を受け入れようとするトレーダーは、自分が損失を被ることを予想して いるものだが、実際にもそうなってしまうものだ。
 逆に、勝とうとするか最悪でも引き分けにしたいと思うトレーダーは、自らのト レーディングやリスク、資金を「負けないように」管理するようになるだろう。  人間の脳には2つの側面がある。ひとつはポジティブなことを考えようとし、もう 一方はネガティブな考えにとらわれている。
 どのトレーダーの投資プランにも、勝利に導くためにトレーダー自身をプログラム してしまうような部分があるべきだ。「私は勝つ」という考えを持つことによって、 実際に勝利するため必要な気構えが脳のポジティブな側面で出来上がるのである。  また、「負けることはないだろう」と考えるなら、負けないための気構えを脳のネ ガティブな側面に作り出すことができる。
 人間の心とは、目標を探して動き回る仕組みになっているものだ。いったん適切な ブログラミングがされてしまえば昼夜を問わず、寝ても覚めても設定された目標達成 のため働き続ける。
 私の著書、『トレーディング・イズ・ア・ビジネス(Trading is a Business)』で は、トレーディングに影響を与えるような人生の出来事をどう扱うかについて書いて ある。このなかで、「ライフ・インデックス」の扱い方と使用法を述べ、適切な自己 管理を通じて相場で勝てるように指示している。
 トレーダーとして、あなたがコントロールしなければならないものはひとつしかな い。自分自身だ。マーケットはコントロールできない。マーク・ダグラスも、その著 書『ディサプリンド・トレーダー(Disciplined Trader)』でこう指摘している。相 場で失敗した人々の間違いは、相場をコントロールしようとしたことにある。
 トレーディングする人々のほとんどは、平均以上の知性の持ち主である。自分を取 り巻く環境をコントロールすることで、問題を解決することには慣れている。自らも その解決過程の渦中にあることに、慣れてしまっているのだ。
 しかし残念ながら、端末のスクリーンや印刷されたチャートを眺めながらトレーデ ィングしている場合、環境をコントロールすることは無理だ。それまでの問題解決法 と根本的に異なるアプローチが必要とされる。
 『トレーディング・イズ・ア・ビジネス』とともに、ダグラス氏の『ディサプリン ド・トレーダー』をぜひ読んでほしい。この2つの間にこそ、これまでの考えかたや トレーディングの方法を変える手始めに必要なものがすべて詰まっているはずだ。


 資金調達

 必要な資金を全然調達することができないような人々から電話をもらうことが非常 に多い。
 確かに、「いきなり億万長者」になれると思えば人は奮起するものだ。しかし、は っきり言っておくが、最低でも2つの銘柄を買えるだけの資金がなければ、これから 賭けようとしているマーケットで勝負はできないのだ。
 2つの銘柄を買うのに十分な証拠金を捻出できないなら、まず、「トレーディング する前に」それだけの証拠金を手に入れなければならない。
 たまたま一気に利が乗るという幸運に恵まれるというのでもないかぎり、1銘柄だ けで勝負しようとしても、実際には勝者になるのが難しい。
 つまり、持っている卵をすべてひとつのバスケットに入れているのと同じである。 ただひとつだけ持っているポジションによって、取引コストをカバーするだけでな く、利益も出さねばならないのだ。
 電話での質問でも、「1銘柄だけで勝てますか」と聞いてくる人が多い。私は、 「すごくラッキーならね」と答えることにしている。確かにこの方法で勝ったトレー ダーもいる。しかし、数は少なく、勝てる頻度も低い。確率としては、1銘柄のト レーダーは非常に分が悪いのである。ほとんどの場合それは、単なるギャンブル以外 の何物でもない。
 勝てる確率は、宝くじで当たるより少しだけまし、という程度だろうか。


 売買の規模

 もし3枚以上取引することができるなら、5の倍数で売買するのがいいだろう。つ まり、5枚、10枚、15枚、といった具合にである。
 くれぐれも、4、6、7、……23などの「中途半端な数」での売買は避けること だ。このような枚数での注文は成立しにくい。
 また、取引を終了する場合はさらに慎重な注意が必要となる。今、仮に10枚売買し ており、3枚分の取引コストをカバーする必要があるとしよう。この場合、私ならコ ストをカバーできる水準で5枚を手仕舞うだろう。これによって、以下の2つのこと が達成される。
 1.コストのカバーと同時に、利益を確定できる。
 2.この時点で、最後の手仕舞い分としてを残している枚数は5枚である。この 後、平均的にみれば常に、より良い水準で注文が実行される可能性がある。


 価格

 取引を始めるときには、価格に注意するべきである。適正な価格が形成されること が重要なのだ。例えば、英ボンド、灯油、ガソリン、ポークベリー、生牛、生豚など は、売買単位の末尾が、1または5の倍数以外になることがある。
 ブローカーはこうした売買数でも注文を受けるし、フロアでも注文が通るが、こう した注文は実際の価格で実行されない可能性がある。つまり、注文が残ってしまい、 そうなるとトレーディングで期待どおりの結果が得られなくなる。


 注文

 すべての注文使い方をマスターするの重要だと思っているが、普通は3種類の注文 を使い分けている。取引を仕掛けるときには指値注文を使い、特定の価格以外では注 文が入らないようにしている。これは、大量の注文を入れる場合には特に重要なこと だが、あらゆるトレーダーが留意すべき点でもある。ほとんど場合について言えるこ とだが、特定の価格から取引を始めるようにするのは、非常に重要なことなのだ。私 の場合、コストのカバーはMIT(マーケット・イフ・タッチド)オーダーで行うことが 多い。手仕舞いは成り行き注文にする場合もあるが、相場が指定した価格かそれを上 回る(下回る)水準になった場合、実行されなかった逆指値注文が成り行き注文にな るので、これで手仕舞いとなることが多い。
 本書では、この種のことを文脈に従い適宜説明していくが、まずは著者がトレーデ ィングするときのマネジメント法について、読者に基本的な理解をしていただいてか らでないと、前に進むわけにはいかない。
 私がもしトレーディングのビギナーだったら、あるいは、より多くの銘柄を売買で きるよう実績を積み重ねている最中ならば、以下のような方法で資金管理を行うだろう。
 まず、最初は必ず3銘柄から始める。短期間のうちに望んだ方向に進んだ場合、初期コスト(委託手数料と取引手数料)をカバーできたらすぐに、このうち2銘柄を手 仕舞う。1銘柄でコストを捻出し、もう1銘柄でコストと同額のリターンが得られ る。つまり、初期コストを基準にすると100%のリターンが得られたことになる。  その後、できるだけ早い時期に残った3枚目が買値と同額になるまで待つ。すぐそ うなるかもしれないし、少し時間がかかる場合もあるだろう。どれくらいの時間でそ うなるのかは、事前には分からない。それぞれの取引は異なっており、相場の動きに 合わせて調整することが必要だ。
 十中八九、指値によってブレイクイーブン(最初に買いを入れた)の水準で手仕舞 うことになるだろうが、まずまずの、あるいは非常に大きな利益を出すことができる 場合もなくはないだろう。
 相場が思ったほど短期間で動いてくれない場合はどうするか。私なら手仕舞うこと にする。その時点でそのトレーディングは何かが間違っているのだ。仕掛けてからす ぐ、あるいは短期間に成果が現れないようなら撤退することにしている。
 この場合のコストは、大抵のトレーダーが即時撤退の鉄則を守れないため負うコス トよりは、少なくてすむはずだ。
 ほとんどのトレーダーの悪いところは、そのときの取引がすべてだと思い込むこと だ。これは間違った考え方である。トレーディングとは、売買を何回も続けていくも のだと考えたほうがいい。その売買の連続のなかで、どう行動すべきかという原理原 則をしっかり持っていれば、多くの場合は利益を得られるものなのである。
 方法論やシステムがほぼ正しく機能することがはっきりすれば、そこから先は自分 なりの基準に従って売買したり、リスクをとったり、マネーマネジメントを適正に行 ったりすればいいのだ。


 哲学

 私の場合、多様性に富んだトレーディングをするのが好みである。じっと座ったま ま、S&P500(スタンダーズ・アンド・プアーズ)のデイトレーディングだけを、3分 足チャートでやり続けるなど、まるで拷問である。それではすぐに燃え尽きてしまう だろう。別々のマーケットでいろいろな期間の売買をするほうが好きである。  プロのトレーダーたちは1種類の売買に特化したほうがいいと言うが、私もその意 見に賛成である。ただし、彼ら自身がする売買に関してはの話だ。私にとっては退屈 すぎる。
 デイトレーディングについては、特に強い思いを抱いている向きが多い。ひとつの マーケットで、単一の時間的枠組みのなかで売買したがるのである。私にはできない 相談だ。それではまるで、ビュッフェ形式のディナーパーティーに出かけたのに、最 後までローストだけを食べているようなものではないか。
 私ならロースト以外に、パンも野菜料理もサラダもデザートも、そして飲み物だっ て欲しい。
 また、やはりプロの間で広く言われていることだが、デイトレーディングの場合は 特に、リクイディティ(市場流動性)が非常に大きいマーケットだけを選び、適度な ボラティリティ(価格変動性)がある銘柄だけを売買すべきだ、という考えがある。 これについては、全面的に賛成だ。
 十分なリクイディティとボラティリティがあるマーケットと言えば、通貨市場、債 券、S&P指数、そして大豆市場くらいのもの、というのが大方の見方のようだ。  しかし、私の見方は違う。トウモロコシ市場にも大きなリクイディティがあり、そ れは大豆より大きいかもしれない。60分足チャートで見るとトウモロコシでもかなり 大きく、それも大豆より容易に手仕舞える可能性がある。また、トウモロコシには通 貨市場にはない利点がある。デイトレーディングからポジション・トレーディングへ の転換が容易なのである。さらに、いくつかの研究によれば、トウモロコシ相場は大 豆よりもトレンドを形成する確率が高い。
 砂糖相場も、30分足と60分足チャートで見ると良い形でトレンドを形成することが ある。リクイディティも十分だ。
 スキャルピングだけで勝負するのでなければ、フロアから離れて売買する唯一の方 法はポジション・トレーディングである。ポジション・トレーディングとは、トレー ディングのタイムフレームに応じて、可能なかぎりひとつのポジションだけを維持し ていく方法である。
 スキャルピングでの商いは短期的な目標価格を設定して行われるが、ポジション・ トレーディングではそうした目標を設定することはない。代わりにポジション・ト レーディングでは、短期トレンドが長期トレンドへと収束するときまでは、その短期 トレンドにできるかぎり乗って売買を行う。
 私がS&Pの5分足チャートでデイトレーディングする場合、ほぼ終日ポジションを維 持したままトレーディングすることにしている。通貨取引の場合も同様に、1営業日 中にポジション・トレーディングをしている。つまり、1日単位のトレンドに基づい てポジション・トレーディングし、その日の引けまではポジションを維持しているのだ。
 実際には、1分足チャートを「描くことができる」マーケットであれば、ポジショ ン・トレーディングを安心して行うことができる。
 デイトレーディングではなく、オーバーナイトの長期ポジション・トレーディング に変更できるなら、私はS&Pを除いたあらゆるマーケットでそうするだろう。
 多くのデイトレーダーが、デイトレーディングにこだわる理由として、日足チャー トで売買するとリスクにさらす資金があまりにも多額になってしまうことを挙げている。
 これに対する私の意見は、「ナンセンス」。私はこれまで両方とも試してきた。率 直に言えば、本当のデイトレーダーとは、まさにほとんどの資金をリスクにさらして いる人々のことなのである。
 私は何人ものデイトレーダーが、それまできれいにトレンドを描いていた相場で多 くの資金を失うのを見てきた。日足チャートで売買するポジショントレーダーが利益 を上げる一方、デイトレーダーは日々を戦いのなかで過ごし、1営業日単位での売買 で損失を出していたのである。
 マーケットには、何年もの間、信じられている迷信や誤った教えが数多くある。  例えば、なぜ週足チャートは5営業日で構成されなければならないのか? どうし て3日間チャートを使って他人と異なるシグナルを見つけてはいけないのか?  また、なぜデイトレーダーはチャートの時間として、5分、15分、30分、60分を使 わなければならないと考えるのか? 7分間チャートを使って、他人とまったく違う シグナルに基づいて売買してはいけない理由は何なのか?
 私は12分間チャートを利用してきたし、今でもそうしている。理由は、ほかのト レーダーとは何かしら違う見方をしたいと思うからだ。
 また、債券市場では120分間チャートを利用してきたし、現在でもそれは変わらな い。理由は、大勢と同じ方向に行きたくないからである。私は、心情的にはコントラ リアン(反対論者)なのだ。
 私は、最も心地よく過ごせる世界としてトレーディングの存在価値を信じている。 もしもチャンスが来れば、ココアやオレンジジュースの先物を取引しても構わない。 ただ、タイムフレームを拡大して、ボラティリティに見合うだけのリクイディティが 得られるようにするだけである。
 オレンジジュース市場は、毎日の出来高が少ないかもしれないが、週足チャートで 見たらどうだろうか? 1週間を通してみれば十分なリクイディティが存在する。寒 冷期の数カ月は商いが薄いためボラティリティが大きくなるが、それも問題とはなら ないのである。
 私は、トレーディングについて厳格になりすぎないようしているが、自分なりの基 準を守り、自己管理することにかけてはできるだけ自分に厳しくするようにしてい る。これだけは、自分自身のたわごとにも耳を傾けるわけにはいかないのだ。  マーケットで果敢に挑戦しては敗れる人々の多くは、売買の内容に厳格であるこ そ、自分なりの基準をしっかり持つことだと思い込んでいるのが敗因だろう。しか し、これは厳格になるべきところを間違えている。
 トレーディング自体に厳格になっても、売買の内容や相場観に悪影響を与えるのが 関の山だ。しっかりと押さえるべきなのは、損失を出さない決断をすること、そし て、必ず勝つんだという気構えを持つことなのだ。そして、良好なトレーディングの 記録や成績を残すことに厳格であるべきだ。そうすれば、より良い計画を立て、優れ た売買をすることが可能になるだろう。
 私は多様なトレーディングが好きなので、さまざまなマーケットでの異なるタイム フレームで売買をしている。ひとつに偏らないほうがいい。たったひとつでなく、た くさんの花の香りを楽しみたい。たったひとつの市場でなく、多くのマーケットを体 験したいのだ。
 私は、心地よく楽しめるトレーディングをすることを覚えた。最も優れた成績を出 すこともできるようになった。そして、ここだと思う水準で指値注文を入れている。 幸福なトレーダーだと言っていいだろう。トレーディングが単なるお仕事になってし まったとしたら、他にするべきことを探すに違いない。


 結論

 本書の導入部である本章の最後に、こう言っておきたい。だれにとっても何かしら 賭けるべきものがあるはずだ。デイトレーダーが望むなら、デイトレーディングだけ に専心することも可能だ。日足チャートによるポジショントレーダーは、満足の行く まで日足チャートで売買すればいい。
 私のようなやり方をする者がいてもいい。両方の組み合わせも可能だし、いろいろ な方法で試すことができるはずだ。トレーディングに、「同じ」ということなど存在 しない。それぞれに異なるマーケットで売買し、成功の度合いも異なっているのだ。 それはいつでもそうだったし、これからもそうに違いない。
 私が自分のトレーディングの秘密を公開したら、だれもがそれをパクってしまうた め、市場参加者にとっての方法論自体が無効になってしまう。こんなふうに考える読 者がいるなら、それはあまりにも単純すぎる。だれかが私とまったく同じトレーディ ングをすることなど不可能だし、反対に私がだれかの方法をそっくりまねることもで きはしない。そうしようとすることさえ、バカげている。人は十人十色である。私は あなたになれないし、あなたも私になることはできない。
 本書を使って読者ができることは、自分の好みの方法を自分なりのトレーディン グ・スタイルに組み込むことぐらいだろう。マーケットでは、読者自身が売買の主体 である。自分独自のフレーム・オブ・レファレンス(物事を見るうえでの枠組み)と 満足度を基準にしてトレーディングするのである。トレーディングすることが、あな たにとって何らかの意味を持つようでなければならない。でなければ、自信(必ず勝 つという確信を持つ勇気)を持てるようにはならないだろう。
 本書では、ロスフックの「歴史」についても触れているが、私はいかなる意味にお いても、トレーディングに有効な方法としてロスフックに代わるものがあれば、いつ でもそれを認める。ある手法が常にほかのものより優れているとは限らない。ただ単 に、そのときのニーズに合っているという意味で優れているにすぎないのである。
 「どちらの手法のほうが推奨できるのか?」とか、「あなたならどちらを選ぶの か?」といった質問をする向きもあるだろう。気分次第で全部試す、というのが私の 回答だ。
 忘れないでほしい。私はいろいろなことを試すのが好きな人間なのだ。ただし、あ るひとつの手法を選択したらしばらくの間、場合によっては1年くらいはそれだけで いくことにしている。
 「バニラフックス」の章では、ロスフックによる売買に関する私の好みがよく出て いる。これは、ほかの章で示した手法が劣っているという意味ではない。いずれも有 効だし、すべてが私自身と生徒たちの実体験から得られた結論であることに変わりは ない。
 これまでのキャリアのなかでは、いかなる種類のオシレーターやテクニカル指標 も、意思決定の「直接的な」手段としては使わないようにしてきた。単純に必要なか ったのである。それでも、自分の著書でオシレーターなどを使っているのは、ほかの 人々がこれらの指標を使うことが分かっているため、こうしたほうがコミュニケーシ ョンをはかる共通の土台を作れるからである。
 私はテクニカル研究や指標について熟知しているが、こうしたものを利用するのは 「間接的」な形でだけである。ほかの専門家たちがどうやってこれらの指標を使って いるのか研究もしたし、今でもよく分かっている。そしてそれは、彼らの側から見て も同じことである。つまり、私は彼らの逆を行くために、こうした指標を利用するの だ。ある指標や調査結果が、買い人気の台頭を示しており、その指標や調査結果をほ かのトレーダーたちの多くが利用していると分かれば、彼らを出し抜くために自分の ポジションを調整し、彼らとは反対の方向に仕掛けるだろう。大勢に従って売買する のは危険なので、くれぐれも注意するべきである!
 相場は変わりやすいものなので、私はなるべく自分の選んだポジションを変えず、 その日の取引を終えるようにしている。ロスフックは、トレンドを形成している相場 に対して有効なのだ。これまでに、市場が数年間もトレンドを形成しない時期があっ た。そのとき、私はロスフックの利用をあきらめ、ほかの指標を使わなければならな かった。ロスフックといえども、「聖杯」のごとく常に効力を発揮できるというでは ない。
 このことは、純粋なデイトレーダーにとって興味深い点だろう。例えば、S&Pだけを 取引しているとトレンドが形成されない日がとても多い。こうした場合は、ほかの方 法を何か試すか、S&Pが1日のうちにトレンドを形作るまで待ち続けるしかない。
 私が教えた生徒のうちで、S&Pのトレーディングでトレンドが形成されるまで、辛抱 強く2週間待ち続けた者がいる。そのときは5分間足チャート利用して、ロスフック を自分たちが使っているフィルターと組み合わせたという。このときは、大きな利益 をものにすることができたらしい。
 さて、第1章としてはずいぶん長くなってしまった。だが、これから先の話を続け るための土台を築いておきたかったのである。それでは、約束どおりまず、ロスフッ クの歴史から始めることにしよう。
 最初は、ロスフックの原型となったアイデアを思いついたいきさつからお話しよう。


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