■目次
訳者まえがき               1
序文               9
謝辞               17
はじめに――株式の場合               19

第1章 株式と債券の基本――まずは初歩的なことから               25
 株式               25
  大型株               28
  小型株               31
  外国株               33
  ハイテク株               35
 債券               36
  財務省証券――米財務省から直接買い付ける               36
  連邦政府機関債               37
  地方債               38
  社債               39
  ラダーポートフォリオ               40
  債券ファンドVS手作りポートフォリオ               41

第2章 スマートマネー式投資法               43
 「バリュー株」の価値               45
 論より証拠――リターンを見よ               50

 補足2.1 「売り時」を知る               46
 補足2.2 弱気相場を生き抜く               60

第3章 理想的なアセットアロケーション               65
 スマートマネー式アセットアロケーションの原理               67
  年齢               67
  ポートフォリオのサイズ               70
  毎年の貯蓄額               71
  支出予定               71
  投資収益               72
  連邦税の税率等級               72
  価格変動リスクへの許容度               73
  経済見通し               74
  金利リスク               75

第4章 あなたにぴったりのミューチュアルファンド               77
 ファンドの種類               78
  インデックスファンド               80
  株式ファンド               86
   大型株ファンド               87
   中型株ファンド               87
   小型株ファンド               88
   超小型株ファンド               89
  投資戦略               89
   グロース型ファンド               90
   バリュー型ファンド               91
   ブレンド型ファンド               92
  国際型ファンド               92
   世界型ファンド               93
   外国型ファンド               94
   国・地域限定型ファンド               94
   新興成長市場型ファンド               95
  業種別ファンド               95
 手数料と諸経費               96
  フロントエンドロードとバックエンドロード               97
  経費率               98
  12b-1手数料               99
 受益証券のクラス               100
 税金               100
 手っ取り早くファンドを選ぶ               101
  投資目的               103
  運用成績               104
  リスクとボラティリティ               106
  手数料と税金               107
  ファンドマネジャー               110
 情報収集               111
 ファンドのスクリーニングサイト               112

 補足4.1 インデックスファンドよりさらにお得なEFT               83

第5章 スクリーニングルームへようこそ               115
 株のスクリーニングはどこでどうやってする?               131

 補足5.1 毎年恒例の最重要スクリーニング               116
 補足5.2 定番レシオ               122
   PER(株価収益率)               123
   PEGレシオ               124
   PSR(株価売上倍率)               125
   PBR(株価純資産倍率)               126
   売上高利益率               128
   長期借入債務と負債総資本比率               129

第6章 スペシャル・スクリーニング               141
 自社株買い               141
 研究開発費とR&Dレシオ               146
 株価売上倍率(PSR)               149
 1月効果               153

第7章 情報収集とその分析法               161
 どこで調べるか               163
 アニュアルレポート               165
 フォーム10K               168
  事業内容               169
  競争相手               170
  顧客情報               171
  リスクファクター               171
  法的手続き               173
  経営陣による論考と財務状況および業績に関する分析               174
 株式アナリストレポート               175

 補足7.1 株式アナリストがまず口にしない5つの言葉               178

第8章 最終ステップ――まとめ               187
 その企業の株はなぜそんなに安いのか?               188
  潮が引けば、どんな船でも船体位置が下がる               188
  予想外のことは嫌われる               189
  不幸は道連れを好む               189
  だれかが置いてきぼりを食う               190
 その企業の将来はどうなるのだろう?               190
 その企業が属している業界についてはどうだろう?               193
 企業収益はどうなっているか?               201
 その数値は同業他社と比べてどうだろう?               203
 そこの経営陣は愚か者の集まりか?               205
 その企業は合併を急いでいないか?               212
  キャッシュは王様               213
  敵対的買収なら大歓迎               214
  プレミアムが高いときはさっさと売り逃げる               214
  国際的な企業合併には要注意               215
  「習うより慣れよ」とはいかない               215
 その企業の最大の弱点は何か?               216
 現在の経済情勢がその企業に与える影響は?               217
  金利低下局面               228
  金利上昇局面               229

 補足8.1 ここで差がつく――買い候補となる銘柄を同業他社と比較する 
194
   効率に関するレシオ(ROEとROA)               194
   在庫水準と棚卸資産回転率               195
   流動比率               196
   配当利回り               198
   配当性向               199
   レラティブ・プライス・ストレングス               199
   企業価値               200
 補足8.2 チップショットを決める――半導体株で儲ける               206
   在庫水準               208
   評価               209
    食物連鎖的な位置関係               209
   製品サイクル               211
 補足8.3 金融サービス業界に手堅く投資する               218
   成長率               220
   評価               220
   銀行               221
   貸倒引当金               221
   純貸倒損失               223
   経営陣               224
   景気循環               225
   保険会社               226
   コンバインドレシオ               227
   債券市場               228
 補足8.4 医薬品株で儲ける               230

第9章 今日の投資家のためのスペシャルトピック               235
 目標株価を設定して的を射る               235
 オプション取引               241
  オプションと先物は別物               242
  プットとコール               244
  オプションにも時間をかけるだけの価値がある?               245
 信用取引               246
  信用取引とは               24
  死に神――追い証               248
  100%超の元本割れ?               250
  戦略を立てる               251
 貧乏くじを引く――空売り               252

第10章 プロから学ぶ               255
 ウォーレン・バフェット               256
  運用者として               256
  運用成績               256
  投資手法               257
  名言               261
 ビル・ニーグレン               262
  運用者として               262
  運用成績               262
  投資手法               262
  名言               267
 ケビン・ランディス               268
  運用者として               268
  運用成績               268
  投資手法               269
  名言               274
 ビル・ミラー               274
  運用者として               274
  運用成績               275
  投資手法               276
  名言               282
 ジャナス・チーム               283
  運用者として               283
  運用成績               283
  投資手法               284
  名言               288

付録               289
 あなたにふさわしい証券会社とは               289
  オンラインブローカー               291
  フルサービスブローカー               293
  転ばぬ先の杖(つえ)――悪徳ブローカーを避けるために               303
 ウエブサイト一覧               305
  実績1株益               305
  アナリスト予想               306
  アナリストレポート(リサーチ)               306
  チャート               307
  企業のスナップショット/プロフィール(会社概要)               308
  5年間利益成長率・売上高増加率               309
  フォーム10K・10Q               309
  PER(株価収益率)               310
   当期PER・予想PER               310
   実績PER               310
   5年間の最高PER・最低PER               310
   5年間の平均PER               311
  PSR(株価売上倍率)、PBR(株価純資産倍率)、その他のレシオ               311
  株価・気配値               312
   遅延株価               312
   リアルタイム気配値               313
   過去の株価               313
  競合他社とのレシオ比較               314
  スクリーニング               314
  セクター別パフォーマンス               316

 補足A.1 手数料ベース口座に逃げ込む               300

用語集               317
用語集(英文索引)



■訳者まえがき

 ITバブルの崩壊、不正会計処理疑惑、日米経済の先行き懸念などを受け、日本株 もとうとう19年ぶりの安値をつけた。9.11は無事やり過ごしたが、日本に原爆を落と した国は今も核実験を続け、被爆地に平気で原潜を送り込んでくる。その一国主義は 各地で反米感情をあおり、テロ再発の危険性は今なおくすぶり続けている。イラク、 パレスチナ、北朝鮮問題をはじめ、米国の動きには注意が必要である。日本も足元に 地雷を抱えている。問題は不良債権処理や構造改革の遅れだけではない。機関投資家 が1980年代になぜ外債投資を始めたか。それは大震災に備えての国際分散投資のため だったと記憶している。日本版401kや新証券税制の導入に加え、金融不安や雇用不安 が高まりつつある今、自分の財産管理や老後の備えはどうするのか、真剣に考えるべ き時期に来ていると思う。不安材料は山ほどあるが、根拠なき熱狂がいつまでも続か ないように、総悲観の時期も永久に続くわけではない。訳者が楽しみながら本書を訳 したように、楽しみながら投資について学んでいただければ幸いである。
 最後に、本書の翻訳の機会を与えてくださった後藤康徳氏(パンローリング)、編 集・校正をしていただいた阿部達郎氏(FGI)、資料の提供ならびにご助言をいただい た庭山邦禎氏(さくらフレンド証券)には心よりお礼申し上げたい。

     2002年9月
                    木村規子


■序文

 1980年代の初頭、大学院で経済学を学んでいたころ、成功と失敗にまつわる人間模 様や体験談にことのほか魅せられていた私は、金融関係の出版物を好んで読んでい た。ウォールストリートの扇動者をはじめ、短期売買に走る株式ブローカー、IPO(新 規株式公開)の宣伝マン、怪しげなLBO(レバレッジドバイアウト)の仲介者、経理操 作を行っている会計士、生命保険の外交員、そして、そんな彼らがたくましい想像力 でもって一攫千金を狙って練り上げたあらゆる陰謀――。こうしたもろもろのことに ついて作家が警告を発するとき、優れた書き手ほど、エラスムスの『痴愚神礼讃』を 模倣しているように見受けられたものだ。
 もちろん、それがいけないというわけではない。バロンズ誌のアラン・アベルソン らの記事やコラムはいかにもジャーナリストが書くような無味乾燥とした文章だが、 今読んでも結構楽しめたりする。しかし、最も定評ある金融ジャーナリストたちの言 葉から読み取れる暗黙のメッセージはおおむねこうだ。
 「金融業界と株式市場には気をつけろ。こうした悪知恵の働く連中とは付き合うな」  はっきりと口に出す人こそいなかったが、行間に垣間見られるメッセージはいたっ てシンプルだった。つまり、「政府保証の財務省証券(米国債)や手堅く信頼できる ブルーチップ(優良株)に目もくれないヤツは、向こう見ずなヤツだけだ」というわ けである。当時、ウォールストリートとはまったく無縁で、ギャンブラーには向かな いタチの私にとって、積極的に投資をしたいと思わせるような経済紙はないに等しか った。
 私も友人も大学院時代の大半は生活苦にあえいでいたため、金融記事から個人的に 得るものなどほとんどなかったが、なぜそうだったのかが分かったのは何年もたって からのことだった。後知恵とはいえ、今ではその理由がよく分かるような気がする。
 20年前、賢明な出版社が読者対象として想定していたのは資産家だった。つまり、 相当の蓄えを持った定年退職者や専門職に従事する羽振りのいい中年層、信託財産の 運用者、実業家、既存の投資家などである。こうした人たちのいちばんの心配事は、 すでに手にしたものを失うこと。だから、当然のことながら、彼らにとって最も有益 な記事やコラムとは、資産を増やすことよりも減らさないようにするために役立つも のだったのである。
 したがって、由緒ある出版物ほど保守的な投資手法に偏ってしまうのも、これで説 明がつくというわけだ。なにしろ、想定読者がごく少数の一部の人間に限られていた ため、出版業界としては、ありとあらゆるペテン師たち――善意とはいえ見当違いを している株式アドバイザーや、事業計画の帳尻がいまひとつ合っていないか、単に目 先が変わっただけで検証もされていないような新規の事業計画を抱えている企業経営 者ら――にことごとく疑いの目を向けることによって、典型的な読者層(大部分は男 性読者)が手にした財産を失わないで済むようにサービスしていたのである。
 しかし、その段階にまでまだ達していない読者はどうなるのだろう。つまり、財産 の保全よりも一財産築くことが最大の懸案となっている読者はいったいどうなるの か。実は当時、こうしたことはほとんど気にもかけられていなかったのである。1980 年代初頭、一般庶民はパーソナルファイナンス(個人資産の運用・管理)には無関心 だったし、そうしたことはあまり話題にも上らなかった。そこで、投資に血道を上げ ているわずかな人たちだけのために健全な投資情報が提供されていたが、その後、人 口動態に変化が生じ始めたのである。
 1980年代に入り、年金および従業員退職手当の保証制度がだんだん機能しなくなる につれ、だれもが資産形成に関心を持つようになった。これは単なる野望とか大金持 ちになりたいからではない。今日では、たいていの人が心得ているとおり、退職後に 快適に暮らしていくには、両親や祖父母の時代よりもはるかに多額の蓄えが必要とな るからだ。すでにお気づきのように、特にベビーブーマー世代(団塊の世代)は、手 元の資産をもっと効率的に運用して高いリターンを上げていかないと、20年か30年か あとに悲惨な目に遭うかもしれないのである。
 1980年代後半には、一般家庭が安全に資産を形成していくための一手段となるミ ューチュアルファンド(投資信託)の人気が沸騰。それに乗じた出版物がいくつか登 場した。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの姉妹誌『スマートマネー』も1992年 の初頭に創刊し、パーソナルファイナンスについて一歩踏み込んだ記事を提供するよ うになった。ミューチュアルファンド業界に関する情報同様、株式ポートフォリオで 成功するための情報提供に初めて心血を注いだ雑誌となったのである。
 その創刊号を読み、パーソナルファイナンスに対するアプローチの斬新さに衝撃を 受けたのを覚えている(あまりにも興奮した私は、仕事をやめて、この創刊したばか りの雑誌の仕事をしようと思い立ったくらいだ)。
 しかし、これまでとは打って変わり、株式投資をこんなに大胆かつ積極的に強調す るのはなぜだろう。理由はいくつかはっきりしている。第一に、そしてこれが最も重 要な理由だが、過去約75年にわたり、一般投資家が運用できる投資資産は、債券、短 期金融商品、生命保険、不動産ぐらいで、ほかに同等の資産形成ができるような投資 対象がなかった。
 だが、債券やマネーマーケット商品のような確定利付証券よりも株から得られるリ ターンのほうが統計的に優位であることが、ペンシルベニア大学ウォートンスクール のジェレミー・シーゲルやイボットソン・アソシエイツのロジャー・イボットソンら 定評ある研究者らによって繰り返し証明されるようになったのである。しかも、イン ターネット時代が到来してからは、だれもが株関連のデータベースにアクセスでき、 優れた表計算ソフトを使用できるようになった。このため、こうした調査結果をコ ピーすることも可能となったが、こうした情報こそ、『スマートマネー』が頻繁に取 り上げてきたものなのである。
 ミューチュアルファンドは当初、痛みを伴わずに株式市場の可能性を引き出す手段 として期待されていた。が、長年にわたって裏切られたと感じている人が多いのが現 状である。手数料が相変わらず高いファンドが多いうえ、これまでは存在しなかった 手数料が新たに加えられ、その運用成績にいたっては期待外れもいいところである。 ファンド数が激増するにつれ、運用担当者の質が低下し続けているのである。結果、 株式型ミューチュアルファンド(株式投信)の大半が自ら選んだベンチマークの指数 に追いつけずにいる。そもそも、研究者らが株式市場の優位性を証明するために用い た複数の市場指数にも負けているありさまなのである。
 個人投資家にとって株式の取引コストが低下すると同時に、ミューチュアルファン ドの体たらくが認識されるようになると、当然の成り行きとして自主運用に走るアメ リカ庶民がますます増えていくことになる。メインストリート(一般投資家)がウ ォールストリート(機関投資家)の正体を知ってしまった以上、ミューチュアルファ ンドの補完あるいは入れ替えの対象として株式ポートフォリオを自ら組むことは、ご く当たり前のこととなったのである。
 創刊以来、『スマートマネー』はこうした変化を反映する立場を取ってきた。つま り、株式市場とは、われわれが自分自身や家族のためにより良い未来を築いていける ような場でなければいけないのである。ミューチュアルファンドを買うような消極的 な投資家もいれば、自分で株を選別して買い付ける積極果敢な投資家もいる。が、そ の中間を望む人がほとんどであり、できるだけ安全な道を選びたいなら、そうせざる を得ない。
 では、初心者にとって危険な場所とされるウォールストリートの現状はどうなって いるのだろうか。これもまた気がかりであることに変わりはない。扇動者や宣伝マン など、ペテン師の類は今もみな健在であるからだ。しかも、ベビーブーマー世代の預 貯金が新たに大量に流れ込んでくるため、彼らはますます努力を惜しまず仕掛けてくる。
 リスクはほかにもある。一般に株式市場自体はまず破産する心配はないが、あなた が株を買った企業は破産してしまうかもしれない。しかし、過去の市場平均に関する 研究では、それを構成している個別銘柄の見通しについてはほとんど考慮されていな い。だから、株の優位性を生かして長期的に資産形成をするといっても、持ち株が長 期にわたって存続してくれないことには実現不可能となる。
 そこで、こんなときこそ、『スマートマネー』のような雑誌が経験から得た知識が 役に立つのである。確かに、われわれも上の世代の金融ジャーナリストと同様、金融 商品については疑いの目を持ってはいる。が、だからといって、警告を発しながらも 読者に建設的なアドバイスをしていくうえで妨げとなるような懐疑論を差し挟むつも りはない。というのも、せっかく株を買った読者に、利益を取り損ねるかもしれな い、などという心配をあまりさせたくないからだ。
 株式投資には多くのリスクが付き物だし、このリスクを十分に理解していないと、 せっかくのチャンスを無駄にしてしまう可能性はいくらでもある。実際1999年には、 通信株のいわゆる「ニューパラダイム」に乗っかった多くの投資家がそれを証明して いるし、ここ数年は、突然、夢から覚めて目の前が真っ暗になった人が多かったはず である。
 そこで、われわれからのメッセージはこうだ。まずは、しっかりとした計画を立 て、こうしたリスクをバランスよく分散させて、それぞれが相殺し合うようにするこ と。そうすれば、この2年間のような苦しい時期や、2001年9月11日の同時多発テロ 事件後にナスダック(ナスダック総合指数)が最大の下げ幅を記録したときでさえ、 あなたの虎の子はおおむね安泰ということになるだろう。本書では、読者の皆さんの ためにこうしたことをすべてまとめてみた。われわれには10年間読者のためにアドバ イスを行ってきた実績がある。これまでに特集した株は500銘柄を超えるが、これらの 平均上昇率はS&P500(S&P500種株価指数)に連動させたインデックスファンドをしっ かりと上回っている。
 ただし、学んだことがひとつある。それは、株だけでは安全な資産形成はできな い、ということだ。株絡みのリスクを克服していく方法はいくつかあるが、株式市場 はあまりにも複雑で絶えず進化しているため、明確な投資ルールをいくら設定して も、すべての投資家にいつも有効というわけにはいかない。そこで、『スマートマ ネー』では、こと投資戦略に関しては、常に多角的な視点を持つように奨励している。
 とはいえ、波乱に富んだ激動の相場環境のなかでわれわれが行ってきた調査および 10年にわたる経験から言わせてもらえば、基本原則に関する大まかな結論をいくつか 引き出すことは可能である。こうしてわれわれが導き出した原則やスタイルには、ウ ォールストリートにおける株式投資の成功戦略と共通する点がほとんど、とは言わな いまでも、たくさんあることがご理解いただけると思う。
 ネリー・S・ファンとピーター・フィンチの両氏は、こうしたことにスポットを当 てるのに打ってつけの立場にある。2人とも『スマートマネー』の創刊間もないころ から同誌に携わり、株式担当チームのなかでは欠くことのできない存在である。そん な彼らが長年にわたって得てきた何よりも重要な教訓の一部を、積極的に投資をしよ うという人たちのためにまとめたのが本書である。債券やミューチュアルファンドに ついても有益なアドバイスを数多く収録してはいるが、株式市場への理解を深め、市 場から最大の利益を得ることに力点が置かれているのは『スマートマネー』と同様で ある。

          ジャージー・ギルバート
          スマートマネー誌ファイナンシャルエディター

■謝辞

 毎号が共同作業による努力の結晶――それが『スマートマネー』であり、本書もそ れに変わりない。
 長年にわたり『スマートマネー』のために情熱を注ぎ、斬新なアイデアを持って貢 献されてきた記者、執筆者、編集者の皆さんには、現役、OBを問わず、この場を借り てお礼申し上げたい。『スマートマネー』独自の投資哲学を生み出し、磨き上げてい くことができたのも、彼らの働きがあったおかげである。そして本書刊行に当たって も重要な役割を担ってもらった。特に名前を挙げるとすれば、創刊号において「90年 代おススメの10銘柄」という卓越した特集記事を執筆していただいた総合監修者のジ ェームズ・B・ステュアート、ずば抜けた才能を持つファイナンシャルエディター、 ジャージー・ギルバートの両氏には大変お世話になった。それから、スマートマ ネー・ドット・コムのマイク・オニール、受賞に輝いたスマートマネー・ユニバーシ ティ(投資の基本を学習するための優れたオンラインツール)のライター&プログラ マーチームにも感謝したい。最後に、『スマートマネー』の元社長スティーブン・シ ュウォーツ、元編集長ステュアート・エムリッチにも感謝の意を捧げたい。創刊当 初、われわれスタッフがマーケットに対してこれまでになく独創的なアプローチがで きるようになったのも、彼らの叱咤激励があったおかげである。その目標は常に「投 資をより身近なものにすること」であったが、本書にもその精神が生かされているの は言うまでもない。

                    ネリー・S・ファン
                    ピーター・フィンチ


■はじめに――株式の場合

 マーケットを見ていれば分かることだが、最近では株に投資したからといって勝ち 組になれるとはかぎらない。なにしろ、プロクター&ギャンブルやゼネラル・エレク トリック(GE)といった安全と思われている企業の株でさえ、ジェットコースター並 みの値動きをする。新安値を付けたと思ったら、新高値を付け、またまた新安値を付 ける……という具合に乱高下を繰り返している。9月11日の同時多発テロ事件後に は、大量の売りに押されてマーケットは急落。これにはぞっとさせられたかもしれな いが、特に目新しい現象ではない。
 とはいえ、覚えておいてほしい大事なことがある。それは、短期的には上がったり 下がったりしていても、長期投資としては、株は優れものであるということだ。過去 74年間の株式市場の年間上昇率は平均11%だが、典型的な普通預金では、平均で年率 2%にしかならない。このため、1年間で、なんと9%も差がついてしまうのであ る! これはすごい違いである。しかも、複利の利点を生かした場合、運用期間が長 くなればなるほど、この9%の差がさらに開いていく。例えば、株に1万ドル投資し た場合、10年後には、普通預金に同額預けたよりも1万6204ドル余分に増える計算に なる。これが25年後だと、その差はさらに拡大し、12万ドルを超えることになる。
 簡単なことだ。長期的に見れば、株に勝るものは何もないのである。確かに、前述 の普通預金に比べれば、債券のほうが若干マシかもしれないが、長期的には株のリ ターンを上回ることはおそらくないだろう。われわれは2000年5月号の定年退職に関 する記事のなかで、ある調査を行っている。そこでは仮想の課税繰り延べ口座を設定 し、アメリカ国内の株式、債券、現金部門(現預金・短期金融商品など)にさまざま な配分で分散投資した場合、そのリターンが運用期間によってどうなるか、1920年代 までさかのぼって調べてみたのである。その結果、期間が10年、12年、14年の場合 は、持ち株に債券か現金部門を加えたほうが、多様な銘柄を組み入れた株式ポートフ ォリオよりも高いリターンが得られたケースが多かったが(これらはほとんどが大恐 慌時代に運用を開始していた)、期間が18年を超える場合は、株にいくらか債券を足 したポートフォリオで、株より成績を伸ばしたものはひとつもなかった。
 これこそ、『スマートマネー』がこの10年間に広めてきたメッセージである。そし て、喜ばしいことに、わが読者はこのメッセージによって恩恵を得てきたのである。
 1992年4月、弱体化した貯蓄貸付組合(S&L)が軒並み破たんし、アメリカ経済がい まだ景気後退期からの回復途上にあったころ、本誌創刊号で「90年代おススメの10銘 柄」と題した特集記事を組んだ。われわれの提案に従って、この10銘柄を購入した読 者は、以来、率にして“530%”を超える運用収益を目の当たりにすることになった (このポートフォリオのなかで、特に大勝ちしたのは半導体製造装置メーカーのアプ ライド・マテリアルズで、記事を書いて以来、なんと3458%も値上がりしたのである)。
 幸い、この華々しい記録はここで打ち止めになったわけではない。1994年は、株に とって一様に悲惨な年となったが、S&P500が1%下落したのに対して、われわれが推 奨した、その年の「ベスト・インベストメント」ポートフォリオは平均で31%も上昇 した。最近では不安定な相場環境によって、わが読者のポートフォリオに乱れが生じ 始めたことから、高配当の7銘柄にスポットを当てた記事で対応。これが2001年3月 号で取り上げた「ニューインカムストック」(資産株)である。フォード・モーター や鉄道会社のCSXコーポレーション、エネルギー関連のオキシデンタル・ペトロリアム などを組み入れたこのポートフォリオは、2001年の最初の8カ月間で平均18%の上昇 を見せた。このとき、S&P500は9%も下落していたので、明暗をくっきりと分ける形 となった。
 さて、こうしたことを実現するにはどうしたらいいのだろう。株のリサーチはどう やってするのか。こうした銘柄選びができるのはなぜだろう。というわけで、このあ とのページを読み進めながら、ひとつひとつ勉強していくことにしよう。本書では堅 実な銘柄選びのコツを紹介していくが、『スマートマネー』ですでに実証済みなのだ から、あなたがやってもきっとうまくいくに違いない。
 とはいえ、それなりの努力が必要である(結局のところ、良いものはそう簡単には 手に入らないのだから)。そして投資で成功するには、買い候補の企業を念入りに調 査すること。つまり、アニュアルレポート(年次報告書)を読み、その株に関するニ ュースを絶えずフォローしておくことだ。それから、その企業に投資したあとも、毎 日、新聞に目を通すぐらいのことはしなければいけない。持ち株に関する重要なニ ュースがないかどうか確かめる必要があるからだ。そして、アニュアルレポートが届 いたら、必ず読むようにしよう。
 確かに、長期資金を全額、株式ファンドに入れてしまったほうがずっと楽だろう し、たいていの個別株よりもはるかに高いリターンが得られる成績抜群のファンドも あることはある。例えば、「ジャナス・ベンチャー・ファンド」は1999年に141%とい う驚異的なリターンをもたらしているが、これはS&P500の上昇率を120%ポイントも上 回っている。また、2000年にはS&P500が9%下落したにもかかわらず、「バンガー ド・ヘルスケア」は60%も急騰している。
 しかし、ここにも問題がある。特定の年だけを見れば、市場平均を上回るファンド はたくさんあるが、長期的に常に市場を上回っているファンドはごくわずかしかな い。例えば、2001年半ば現在、平均的なファンドの10年間の平均リターンは15.7%。 まあ、なかなかの成績ではあるが、これでもS&P500に1.6%負けている。しかも、10年 超となると、ファンドと市場平均とのリターンの差は、投資金額1万ドル当たり6580 ドルにもなるのである。
 が、だからといって、ミューチュアルファンドを悪者にするつもりはない。それど ころか、『スマートマネー』の信条は分散投資である。だから、投資信託や債券や現 金部門の資産を各人のポートフォリオのなかに必ず組み入れるべきだと考えている。 しかし、個別に株を買うほうが優れたリターンを上げられる可能性がある。ファンド による分散投資はまさに安全だが、その安全性が個別株の足を引っ張って、悲しいく らい平凡な成績に終わってしまうこともある。実を言うと、ほかの人たちと同様、わ れわれもこの現状に満足しているわけではない。
 このままでいいとは思わないし、われわれの銘柄選別法が絶対確実だと主張するつ もりもない。ぶっちゃけた話、長い間にはボロ株をいくつもつかんできた。こうした ことは優秀なプロのファンドマネジャーにも、あなたにも起こり得ることだ。それ に、投資した企業についてすべてが見込みどおりになるとは限らない。持ち株が市場 平均を下回るような苦しい時期はほぼ確実にやってくる。相場全体が総崩れになって いるせいで売られることもあれば、予測不能とはいえ、それなりにまっとうな理由で 個別銘柄が値を下げることもある。
 例えば、インテルの新しいペンティアムチップでは浮動小数点の割り算(複雑な演 算)が処理できないなんて、1994年後半に予想できた人などいただろうか。インテル については、われわれもその年の「ベスト・インベストメント」ポートフォリオに組 み入れていたが、3週間足らずで10%の下落となった。もっと最近では、2001年の第 1四半期、シスコ・システムズが減益となり、われわれも含め、大方の人間がものす ごいショックを受けた。株価は値下がりし、直近の高値からの下落率は、その年の半 ばまでに77%に達した。
 そう、というわけで、株を選別するにはしばしば強い意志と丈夫な胃袋が必要とな るのである。とはいえ、銘柄選びに少しでも時間をかければ、それだけ勝ち組になれ る可能性も大きくなる、というのがわれわれの持論である。常に冷静でいられれば、 このように相場が崩れているときにも、絶好の買い場は見つかるものだし、それを楽 しいとさえ思えるようになるだろう。


■第1章 株式と債券の基本――まずは初歩的なことから

 一般の人々に対して「投資とは難しいもの」という思い込みを植え付けさせようと する人たちがこの業界にはたくさんいる。その多くは、ブローカー、ファイナンシャ ルアドバイザー、“ライフプランナー”といったたぐいの人たち、つまり、そうする ことで恩恵を受ける人たちである。投資とはおっかないもの、やってはいけないも の、であるかのように思わせることができればできるほど、人々は彼らを雇い、アド バイスを求めるようになるからだ。
 しかし、われわれに言わせれば、「投資は難しい」という各人の思い込みが投資を 複雑怪奇にさせているだけなのである。だから、ここは一念発起して、今すぐ投資の 世界に飛び込んでみよう。実際は、あまりにも簡単なので、きっとびっくりするに違 いない。

 株式

 株式とは所有権のこと。これが基本中の基本だ。例えば、マイクロソフトの株を買 うと、巨大ソフトウエア企業のごくごく一部を取得したことになる。この所有権をき わめて文字どおりに解釈すれば、同社のすべての机や契約や商標の一部を手にしたこ とになるのである。それどころか、同社が得た利益の一部もあなたのものになるの だ。だから、株を買えば買うほど、その会社との利害関係も深まることになる。
 株式市場そのものは元来、そこで取引されている企業の価値について日常的に投票 が行われている投票場のようなものだ。皆さんはおそらく証券取引所のフロアで互い に金切り声を上げながら突っ立っている連中を見たことがあるだろう。彼らの仕事は 日々のニュースを仕入れて、ひとつの問いに集約していくこと。つまり、その情報に よって自分の所有している企業が将来的に儲かるか、儲からないか、判断するのである。
 図1.1のチャートを見てほしい(訳者注 マイクロソフトの下落率については第9章 の図9.4のチャートを参照のこと)。これは1996年から2001年半ばまでのマイクロソフ トの値動きを示したものだが、90年代の後半に株価がいかに急騰したかが分かるだろ う。マイクロソフトには懸念材料がひとつもないと思われていたのである。しかしそ の後、独禁法訴訟が起こり、2000年には重大局面を迎えることになった。裁判官の トーマス・ペンフィールド・ジャクソンから同社を2社に分割するよう命令が下り、 株価は急落。マイクロソフトの見通しについて、明らかに市場参加者が自信を失った ことが分かる(その後、判決がくつがえされ、分割の可能性は低いと見られると、株 価はやや値を戻したが、2001年になって景気に不透明感が出てくるにつれ、再び値を 下げてきている)。
 マイクロソフトであれ、ほかの銘柄であれ、企業価値評価の究極の尺度となるの は、その会社の利益あるいは収益で、市場ではこれが重大な関心事となる。企業の決 算発表は年に4回行われ、投資家たちはEPS(earningspershare=1株当たり利益) と称されるこうした数値を丹念に調べ上げて企業の健全性と将来性について評価を試 みる。
 株式市場では利益の急成長も安定成長も好感されるが、いくら素晴らしいアイデア を持っていても、即座に収益に結びつく見込みがない場合、その企業はどう評価され るのだろうか。ネット企業に投資した人ならもうお分かりだろうが、市場は気が短 く、こうした状況をそう長くは許してくれない。2000年には市場参加者の間でドット コム企業(インターネット関連の新興企業)の価値を見直す動きが出たことから、多 くの企業の株価が急落し、残念ながら、かなりの投資家が巨額の損失を抱えることに なった。
 市場はまた、予想外の損失を出したり減益となったりした企業についても手厳し い。最終損益について言えば、クオータリーレポート(四半期報告書)において市場 予想を裏切るような悪い数値が発表されると、まず間違いなく売られることになる。
 一定の期限が来るまでずっと利息がもらえ、償還日には元利払いが約束されている 債券とは異なり、株は市場で値上がりしてくれないことには利益が出ない(多くの企 業が株主に配当を支払ってはいるが、これは義務ではない)。しかも最悪の場合、そ の企業が倒産でもすれば、投資したお金はみんなパアになってしまう。幸い、こうし たことはめったにないが、よくあるのは、その企業が短期的なトラブルに見舞われた だけなのに、まるで長期的な問題を抱えているかのように思われて株価が下落するこ とだ。

 大型株

 皆さんは「時価総額」あるいは「マーケットキャップ」という言葉をたびたび目に したことがあるだろう。そこで、ここではその定義を説明していくことにしよう。時 価総額は、企業が市場で発行している株式の数に株価を掛け合わせて求めることがで きる。仮にその企業の発行済み株式数が500万株で、株価が5ドルなら、マーケットキ ャップは2500万ドルということになる。
 その名が示すとおり、時価総額の大きい「大型株」は、市場におけるビッグプレー ヤーである(表1.1参照)。では、どのくらいの大きさかというと、一般に時価総額 50億ドルが大型株の最低ラインとされるが、マイクロソフトのような巨大企業では 3000億ドルを上回るところもある。なかでも最大の企業はゼネラル・エレクトリック (GE)で、2000年末にかけては一時的に5000億ドルを超えているときもあった。全体 で見ると、時価総額50億ドル超の大型株が市場全体の時価総額16兆1000億ドルの82% を占めている。
 これらの企業は経済の原動力として特に重要な役割を演じているため、注目を一心 に集めることになる。とりわけ注目度の高い2つの指標――ダウ工業株30種平均(ダ ウ平均/NYダウ)とS&P500種株価指数(S&P500)――はいずれも大型株で構成されて いる。ダウ平均はニューヨーク証券取引所(NYSE)の上場銘柄のなかで特に規模の大 きい大型株30銘柄をカバーしている(訳者注 1999年11月からマイクロソフトやイン テルなどのナスダック銘柄も採用されている)。一方、S&P500は500銘柄から成り、そ の時価総額の平均は218億ドルである。
 人間も大きくなればなるほど、成長速度は遅くなる。同様に大企業も、平均的な新 興ハイテク企業ほど成長スピードは速くない。しかし、ひらめきに欠ける分を重量で 補っている。伝統的な優良企業は収益が安定しており、利益動向も一貫し、配当もき ちんと出している。しかも結果を得るのに十分な大きさがあるため、中小企業に比 べ、不景気になっても持ちこたえるだけの体力がある。
 1990年代に入り、普通のブルーチップ(優良株)よりもはるかに成長速度の速い新 種の大型株が登場した。それはマイクロソフトやインテル、シスコ・システムズとい った、すでに成熟したハイテク優良企業である。これらは、ウォルマートのようなブ ルーチップと比べれば、若干値動きは荒いが――確かに“かなり”不安定な動きをす ることも時にはあるが――将来的な経済成長を一部先取りすることにかけては、右に 出るものはいない。
 ただし、気をつけてほしいことがひとつある。小型株のなかには市場の過熱感から 際限なく買い上げられて大型株になってしまったものがあることだ。例えば、1999年 にはプライスライン・ドット・コムのようないくつかのネット企業が、赤字で何の実 績もないにもかかわらず急騰し、大型株の仲間入りを果たしている。プライスライ ン・ドット・コムの時価総額は1999年4月に230億ドルを超えたが、その状態は長くは 続かず、2000年末にはたったの3億1600万ドルにまで減少している。そこで、教訓。 大型株のように見えても、実は中小型株が膨れ上がっているだけのこともある、とい うことだ。こうした企業は当然のことながら安定企業とは言えない。
 その規模と安定性からして、大型株には概して投機的な要素がないため、慎重派の 投資家ほど大型株を好む傾向がある。が、だからといって、大型株なら深刻なトラブ ルに巻き込まれることはないというわけではない。ただ、大型株については成長のト レンドラインが予測可能で、ウォールストリートのアナリストが各企業のことを熟知 しているため、企業に問題が生じれば、多くの警告が発せられるのが普通である。だ れもが知っているとおり、ハイテク優良企業には無配のところも多いが、大企業は一 般に定期配当を出す傾向がある。というのも、定期配当を出せば、インカム(配当) 狙いの長期派の投資家に株を買ってもらえるからだ。つまり、配当がバラストの役目 を果たしてくれるのである。大型株といえども、不安定な値動きに悩まされることも あるので注意が必要だが、小型急成長株に比べれば、ボラティリティ(価格変動リス ク)は小さい。
 とはいえ、リスクが低くなれば、それだけの代償を伴うものだ。大型株のリターン は、非常に不安定な時期を除けば、小型株よりも低い傾向にある。例えば、小型株が 年率12.8%のとき、大型株は11.2%という具合だ。

 小型株

 小型株は「マーケットのスピード狂」として知られているが、この表現はあまり正 確ではない。というのも、小型株のなかにも低迷している小さな銀行や斜陽メーカー がたくさんあるし、その値動きの荒さに投資家が耐えられず、苦しめられた時期もあ ったからだ。だが、時価総額が10億ドル未満の企業には、もっと規模の大きい企業よ りも急成長するところもある。実際、利益が急増し、投資家に2ケタ台のリターンを もたらした優良企業もある。
 小型株をフォローしている指標はいくつかあるが、おそらくいちばん参考にされて いるのがフランク・ラッセル社のラッセル2000指数だろう。採用銘柄は2000社で、そ の平均時価総額は5億3000万ドル。一方、スタンダード&プアーズ(S&P)社の小型株 指数S&P600に採用されている企業の平均時価総額は約6億2500万ドルとなっている。 が、一般には時価総額が10億ドル未満の企業の株が小型株とされる。
 時価総額が小さい企業はそれ相応に収益も小さい傾向にある。つまり、その多くが 設立間もないか、地理的に市場を拡大中、あるいは新製品の市場を開拓中ということ になる。その良い例がダイアノン・システムズである。コネティカット州ストラット フォードを拠点とする臨床検査センターの運営会社で、その時価総額は2000年から 2001年にかけて3億ドル前後で推移している。が、規模がかなり小さいこともあっ て、時価総額が1300億ドルもあるジョンソン&ジョンソンのようなヘルスケア大手よ りも、はるかに成長速度が速い。
 ジョンソン&ジョンソンはバンドエイドから人工股関節までありとあらゆるものを 製造しているが、1996年から2000年までの5年間の利益成長率は年率15%で、この間 の株価の上昇率は131%。大型株としてはまずまずの成績ではあるが、ダイアノンの同 時期の利益成長率は平均で年率444%と急激な伸びを示しており、株価の上昇率も 1000%を超えている(図1.2参照)。
 が、当然のことながら、ダイアノンのほうがジョンソン&ジョンソンよりも乱高下 しやすい。それに中小企業は、不況となると、ジョンソン&ジョンソンのような大企 業とは比べものにならないくらい脆弱である。とはいえ、分散型ポートフォリオにと って、ここ数年間におけるダイアノンの驚異的なパフォーマンスはかなりのうまみが あったに違いない。
 だが、リスクはこれだけではない。例えば、1997年にアジア経済危機が世界中の株 式市場を震撼させたように、経済が不安定になると、安定と安全性を求めて、しばし ば小型株を外してブルーチップに乗り換える動きが出てくる。しかも中小企業の場 合、発行済み株式数が少ない分、値動きが荒くなるのは言うまでもない。好材料が出 ると、もてはやされて買いが入り、株価が一気に急騰するが、悪材料が出ると一気に 急落し、売り損ねて塩漬けになる可能性もある。しかも、こうした小型株をフォロー するアナリストが少なくなると、それだけ情報の信用度も落ちることになる。という ことは、突然、予想外の売り材料が出ると、一夜にして多くの銘柄が値を消してしま うこともあり得るのである。
 とはいえ、たいていの投資家は――特に損失を取り戻すだけの時間的余裕のある若 い世代の投資家は――リスクをとっても小型株を買いたがるものだ。しかも、ダイア ノンのように上昇余地がきわめて大きいとなれば、見送るわけにはいかない。

 外国株

 世界経済がますます相互につながりを深めている今、投資家にとって外国株は無視 することのできない存在となっている。海外には、手を出すにはあまりにも多くの投 資機会、投資手法がある。しかも、世界各地の経済は好不況のサイクルが互いに相殺 し合うことが多いため、アメリカ株に大きく偏ったポートフォリオに外国株を組み入 れれば、格好の分散投資となる。
 アメリカ国内の取引所に上場している株式と同様、外国株も規模がさまざまで、ひ とつのグループとしてまとまった動きをするわけではない。したがって、実際には“ 日本株”がどんな値動きをするのか、“イタリア株”のパフォーマンスはどんな具合 になるのか、分からないのである。また、外国企業の場合、会計基準がアメリカとは 異なり、政府による検査もはるかに手ぬるい。というわけで、海外投資はアメリカ国 内で株を買うよりも複雑で分かりにくいということになる。
 このため、アメリカの投資家が海外に手を広げるときは、フィンランドのノキアの ような一流の大手企業に投資するか、十分な専門知識と情報源を持ったプロが運用す るミューチュアルファンドのなかで、さまざまな外国株を大量に組み入れて好成績を 上げているものを購入する人がほとんどである。
 国際型ミューチュアルファンドを買うのは、国内株を買うのと何ら変わりはない が、個別銘柄を買い付ける場合は、証券会社を通じて海外市場で直接買い付けてもら うか、アメリカ国内の取引所に上場しているADR(米国預託証券)を買うといいだろ う。ADRは外国株の代替証券(DR)だが、通貨はドルベースで、その値動きは自国で発 行されている株と連動している。
 海外市場はとりわけボラティリティ(価格変動リスク)が大きい。というのも、地 域経済およびグローバル経済の変化に加え、為替変動の影響を非常に受けやすいから だ。例えば、2000年には世界的に景気が減速傾向にあったため、株価も世界各地で軟 調だった。とはいえ、海外市場がみな一様な動きをすることはめったになく、地域に よって上がったり下がったりしているのが普通である。
 こうした違いを示す劇的な例は1997年のアジア経済危機である。金融業界でかつて 人気を集めた地域の経済混乱は、多くの投資家に海外投資に対する不信感を植え付け ることになった。1997年6月から1998年10月までの日経平均株価(日経平均)の下落率 はほぼ40%に達している。これは金融面での失策や腐敗によって、環太平洋地域に広 がる貿易相手国の経済が崩壊したせいだが、その影響は世界中に波及し、アジア市場 と取引のあった企業はいずれも減収を余儀なくされた。
 ところが、その一方でヨーロッパ市場は活況を呈していた。各国が真の経済同盟に 向けてさらに接近し合うなかで、アメリカ式の性急な企業再編が実を結び始めていた のである。このように総崩れになる地域もあれば、それを埋め合わせてくれる地域も あるため、国際分散投資が重要となるのである。自分でするのが無理なら、プロの運 用担当者に代わりに運用してもらうといいだろう。

 ハイテク株

 われわれはテクノロジーが一夜にして生活を一変させてしまうような時代に暮らし ている。そして、このテクノロジーのおかげで豊かな新市場が生まれ、数え切れない ほどの企業が利益を爆発的に伸ばしている。
 しかし、2000年から2001年にかけて教訓を得たように、こうした投資機会にも暗い 影の部分があるのは言うまでもない。景気後退懸念から成長株が売られ、医薬業界を はじめとする、より安全で安定したセクターの株が物色の対象となった。アマゾン・ ドット・コムのような赤字のネット株への影響は最悪だったが、シスコ・システムズ やサン・マイクロシステムズのような既存のハイテク大手でさえ売りたたかれたので ある。
 新市場にはそもそも大きなリスクが付き物だし、だからこそ、実際の利益――ある いは将来的な利益見通し――が大きくブレたりするのである。クリスマス商戦でパソ コン(PC)の売れ行きが不調というニュースが伝わると、ゲートウェイなどのPCメー カーから、ゲートウェイのPCに供給されるチップの製造機器メーカー、ノベルス・シ ステムズまで、関連銘柄が軒並み売られることになる。が、いったん混乱が収まれ ば、優良企業には買い戻しが入るものだ。もっとも、こうした危機的状況のときは、 忍耐力と持久力がなければ、思い切りやられることになるだろう。
 ここ数年、見てのとおり、ジェットコースターのように乱高下しているハイテク株 は、総じて市場全体よりもボラティリティが大きい傾向にある。しかし、長期で持て ば、その飛びぬけた成長性によってリスクが相殺されるため、長期のポートフォリオ にはハイテク優良銘柄を組み入れておくといいだろう。こうした銘柄をどこで見つけ たらいいのかといった、もろもろのことについては、のちほどページを割くことにする。
 が、その前に、ポートフォリオに入れておいたほうがいい、もうひとつの投資対象 についてざっと説明しておこう。


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