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ウィザードブックシリーズ Vol.100

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株式インサイダー投資法
流動性理論をマスターして市場に勝つ

2006年2月15日発売
ISBN4-7759-7064-X C2033
定価本体2,800円+税
四六判 ソフトカバー 386頁

著 者   チャールズ・ビダーマン、デビッド・サンチ
訳 者   塩野未佳

→お申し込みはトレーダーズショップからどうぞ

■目次


スマートマネー(企業幹部のインサイダーたち)たちから目を離すな!

「チャールズ・ビダーマンは頭の回転が速く、理路整然とした 文章を書く人だ――本書では実に面白いアイデアを披露してく れている。本書が想定している読者は、たとえここで紹介され ている戦略を採り入れていなくても、マネー本や経済関連の書 籍を愛読する一般投資家である。だが、程度の差はあれ、もし かしたらプロの投資家や洗練された投資家も読者の対象だろう 」――『トビアスが教える投資ガイドブック――賢いお金の使 い方、貯め方、増やし方』(パンローリング)の著者アンドリ ュー・トビアス

利益もPERも見てはいけない!
インサイダーの側に付いていけ!

 本書では、株式市場に流入するスマートマネーを観察して投 資収益を上げるテクニックを伝授する。十分な研究に基づき、 市場でも確認されているテクニックである。しかし、まずは今 まで証券会社やファイナンシャルアドバイザー、投資専門家に 教えられてきたことをすべて忘れていただきたい! つまり、PER (株価収益率)や将来の利益予想、その他一般に広く使われて いる基本的な評価基準もすべて無視することからすべてが始ま る。それはなぜなのか? これらが株価の動きに及ぼす影響な ど取るに足らないものだからである。実際に株価を動かしてい るのは流動性――市場に流通している株式の数とそれを買える だけの資本の量――なのだ。  本書では、ベテラン投資コンサルタントのチャールズ・ビダ ーマンがトリムタブス社で用いているまったく独自の方法論を 詳述する。本書を読めば以下のような事柄が学べる。  2000年12月から2004年12月にかけて、多くの個人投資家は資 産を半分以上減らし、S&P500種株価指数も8%下落したが、ト リムタブスのモデルポートフォリオは148%上昇した。  チャールズ・ビダーマンは常にこの流動性理論を用い、大手 ヘッジファンドやポートフォリオマネジャーなどの顧客のため に市場を上回るリターンを上げている。本書では、数十億とい う資本を運用するプロの投資家でも乏しい資金しかない個人投 資家でも、同じような成果を上げられる方法を紹介する。深い 見識と実際に役立つアドバイスが満載された本書を読めば、強 気相場も弱気相場も関係なく、インサイダーや機関投資家のよ うに投資する方法や、あまりリスクをとらずに市場平均を上回 るリターンを上げるのに必要なノウハウが身に着くだろう。

■本書への賛辞

「チャールズ・ビダーマンは頭の回転が速く、理路整然とした文章を書く人だ――本書では実に面白いアイデアを披露してくれている。本書が想定している読者は、たとえここで紹介されている戦略を採り入れていなくても、マネー本や経済関連の書籍を愛読する一般投資家である。だが、程度の差はあれ、もしかしたらプロの投資家や洗練された投資家も読者の対象だろう」――『トビアスが教える投資ガイドブック――賢いお金の使い方、貯め方、増やし方』(パンローリング)の著者、アンドリュー・トビアス

「投資という戦いを勝ち抜いてきたベテラン、百戦錬磨のチャールズ・ビダーマンが株式市場に勝つための面白い方法を編み出した。弱気相場のときだけでなく強気相場のときでさえ投資家が損をするような激しい投機やウォール街のごくありふれたやり方ではない。本書は洗練された投資家(これは矛盾語法かもしれないし、そうでないかもしれない)を対象にしているが、幸いにもストレートな文体で書かれており、ちょっと投資でもやってみようかという人ならだれもが読むに値する本である」――『バロンズ』誌、アラン・アベルソン

「ヨセフやファラオの時代から、穀物の収穫高が穀物価格を左右するというのは自明のこと。しかし現代の投資家は、株式の供給量が株価を大きく左右するということにはどうも鈍感だ。待ちに待ったビダーマンの本は、“浮動株”に隠された理論と根拠、つまり株式市場の大きな動きの背後にある真のパワー――そして利用可能なパワー――について述べたものである」――モンゴメリー・キャピタル・マネジメントCEO兼CIO、ポール・モンゴメリー

「『彼らの言うことなど聞かずに、企業のトップと同じことをすればいいんだ』。チャールズ・ビダーマンはそう言いながら、その本能的な洞察力で顧客であるヘッジファンドの見応えあるリストを作成した。また本書は、小口投資家がそれをどのように自分の投資に生かせばいいかをしっかり説明した素晴らしい著作である」――スタンフォード・ビジネス・スクール経済学助教授、エリック・ジッツェビッツ


■著者紹介

チャールズ・ビダーマン(Charles Biderman)
トリムタブス・インベストメント・リサーチの創設者兼社長。 ニューヨーク市生まれ。ブルックリン・カレッジで文学士号を 、ハーバード・ビジネススクールでMBA(経営学修士)を修 得。アラン・アベルソンのアシスタントとしてキャリアをスタ ートさせ、一九七一〜七三年まで『バロンズ』誌に在籍。不動 産投資信託の暴落を正確に予測したことから、その後不動産経 営に乗り出して成功を収め、テネシー州やニュージャージー州 で数々の取引をまとめた。一九九〇年にトリムタブスを設立し 、ポートフォリオマネジャーやマーケットストラテジストにユ ニークな識見を提供。『ウォール・ストリート・ジャーナル』 紙や『バロンズ』誌、CNBCやブルームバーグなど、金融メ ディアにも頻繁に取り上げられている。

デビッド・サンチ(David Santschi)
トリムタブス・インベストメント・リサーチで編集顧問兼コピ ーエディターを務めている。オハイオ州シンシナティー生まれ 。デビッドソン・カレッジで歴史学を専攻し、次席で文学士号 を、ウィスコンシン・マディソン大学の歴史学で文学士号を修 得。現在はウィスコンシン・マディソン大学博士課程で近代ヨ ーロッパ史を研究している。
詳しくは、http://www.TrimTabs.com/ を参照されたい。

原書: TrimTabs Investing : Using Liquidity Theory to Beat the Stock Market by Charles Biderman, David Santschi


目次

謝辞

訳者まえがき (立ち読み)
はじめに (立ち読み)
 株式市場というカジノで勝つ                      14
 世界的な繁栄を促進する                          18
   脅威その一――圧制者/脅威その二――不景気
 両親のために                                    25


第一部 流動性理論への招待

第一章 失われた財産の話                                              29
 なじみ深い話                                    37
 流動性理論――新たなパラダイム                  40
 まとめ                                          48

第二章 流動性理論の起源                                              53
 ビジネススクールから『バロンズ』へ              53
 不動産の波に乗って                              55
 トリムタブスの設立                              60
 人生の教訓を少々                                63
   幸福の秘訣/満足のいく人生を送るには/成功の秘訣

第三章 流動性理論の原則                                              67
 株式市場というカジノ                            70
 実際の需要と供給――オレンジ                    73
 ハウス側でプレーをする                          80

第四章 流動性分析の基礎                                              87
 浮動株の純変化(L1)                          88
 米国株ミューチュアルファンドへの資本流入(L2) 96
 委託保証金の額(L3)                           98
 強気相場と弱気相場の構造                         100
 結論                                             103


第二部 流動性理論の内側

第五章 利益信仰を覆す                                                107
 利益神話                                        107
 価値と価格                                      111
 チャイニーズウォールのすき間                    123
 豆の数を数える                                  126
 流動性理論――より優れた投資法                  136

第六章 ハウス――企業のシークレットパワー                            139
 企業のシークレットパワー                        139
 現金買収                                        141
 自社株買い                                      145
 株式の売り出し                                  151
 インサイダーの売り                              155
 短期の流動性予測                                158
 どこでデータを入手するか                        162

第七章 プレーヤー――買い、売り、そして借り入れ                      165
 ミューチュアルファンドの資本フロー              166
   どこでデータを入手するか/入手したデータをどう解釈するか
 外国人の米国証券売買動向                        177
   どこでデータを入手するか/入手したデータをどう解釈するか
 委託保証金の額(L3)                          181
   どこでデータを入手するか/入手したデータをどう解釈するか


第三部 過去を振り返る

第八章 強気相場とバブル                                              189
 一九九〇年代後半の強気相場                      190
 第一期――膨張(一九九九年一〜九月)            196
 第二期――熱狂(一九九九年一〇月〜二〇〇〇年四月) 201 
 第三期――長い下落相場の始まり(二〇〇〇年五〜一二月)  208

第九章 バブル後                                                      213
 二〇〇一年――長い下落相場が続く                213
   相場/九・一一同時多発テロ/われわれのパフォーマンス
 二〇〇二年――弱気で踏ん張る                    221
   相場/われわれのパフォーマンス
 二〇〇三年――上げ相場が戻る                    227
   相場/われわれのパフォーマンス
 二〇〇四年初頭――バブルが収縮                   234
   相場/われわれのパフォーマンス


第四部 流動性理論の実践

第一〇章 シングルヒットを目指して――リスク低減戦略                  243
 投資アプローチ                                  244
 結論                                            268

第一一章 フェンス越えを目指して――よりアグレッシブな戦略            269
 レバレッジ                                      270
 結論                                            287


第五部 今後に向けて

第一二章 困難を乗り越える                                            291
 遅れて発表される不完全な情報                    291
 投資家心理                                      298
 外因性ショック                                  299
 自分たちの無知に対する無知に対処する            302
 作業は続行中――芸術の側面と科学の側面          305

第一三章 新たなデータの利用                                          311
 個人所得                                        312
 法人所得                                        317
 雇用動向                                        319
 オンライン求人指数                              322
 トリムタブス・パーソナルインカムとトリムタブス・US・エンプロイメント・アップデート   325

第一四章 流動性で市場を救うには                                      327
 控えめな提案を少々                              327
   浮動株の純変化(L1)/米国株ファンドの資本フロー(L2)/委託保証金(L3)
 流動性データの改善がもたらすメリット            334

付表――過去の流動性データ                        345

訳者あとがき                                      349

■はじめに

 近所の書店に行けば、株式投資関連の本が山と目に飛び込んでくるだろう。実際のところ、毎年おびただしい数の投資本が出版されている。もし本書を手に取ったら、きっと表紙にちらりと目をやりながら、こう思うに違いない。  「何者だ、こいつ? 世界は新たな株式投資の本を求めているって、まったく何を考えているんだか」

 わたしはチャールズ・ビダーマンといい、トリムタブス・インベストメント・リサーチ社の創設者兼社長を務めている。トリムタブスでは過去一〇年にわたって流動性理論を展開してきた。流動性理論とは、株式市場を理解するためのユニークなパラダイムのこと。バイサイド(買い手側)ではポートフォリオマネジャーやヘッジファンドマネジャー、セルサイド(売り手側)ではマーケットストラテジストと、トリムタブスの顧客はほとんどが機関投資家である。流動性理論を構築するに当たっては、見識ある彼らに大変お世話になった。偏った考え方かもしれないが、ウォール街で最も洗練された投資家は彼らだろう。

 株式市場というカジノで勝つ

 わたしが本書を執筆した理由は二つある。一つは、株式市場というカジノに勝つために流動性理論をどう活用すればいいのかを洗練された投資家に示したかったからである。ただ残念なのは、大半の投資家が本書を必要としていないことだ。では、なぜ本書を洗練された投資家のために書いたのか。それを論じる前に、次の何節かをお読みになれば、だれでも株式市場というカジノに勝つ方法を学ぶことができる。

 収入があり、お金を殖やしたいという人ならだれでも、次の二つの方法のうちどちらかを選べば、株式市場というカジノに勝つことができる。第一の方法はドルコスト平均法である。ドルコスト平均法とは、相場がどうであれ、定期的に一定の額を株式に投資していく方法だ。これなら米国経済の安定した成長に参加することができる。一九二九年一二月末から毎月一〇〇ドルずつをこつこつとS&P二〇〇種株価指数――S&P五〇〇種株価指数の前身――に投資していった場合、この間にS&P二〇〇は五〇%下落したが、一〇年後には投資総額が一万二〇〇〇ドル、リターンは一二・七%になる(手数料や配当金の再投資による複利効果は考慮していない)。確かに毎月一〇〇ドルずつを一九五九年まで三〇年間、S&P五〇〇に投資していれば、投資した三万六〇〇〇ドルは四倍以上の一四万五九〇〇ドルに殖えている。仮にその一四万五九〇〇ドルに手をつけずに今日まで放っておけば、S&P五〇〇が一〇〇〇ポイントを付けた時点で投資総額三万六〇〇〇ドルは二四三万六一三二ドルに殖えていることになる(所得税や配当金の再投資による複利効果は考慮していない)。S&P五〇〇が一一〇〇ポイントを付ければ、三万六〇〇〇ドルは二六七万九七四六ドルになる。

 実を言うと、わが息子たちは二人ともバンガード・五〇〇・インデックスファンドをドルコスト平均法で買い付けている。ファンドの経費率はわずか〇・一八%。ドルコスト平均法以外には何もしたくないという投資家は、これ以上、本書を読む必要はない。

 ところが、現実にはドルコスト平均法を実践している人は極めて少ないのである。長男もわたしに黙って二〇〇二年の初めにドルコスト平均法をやめてしまった。二年近くも株式相場が大幅に下落していたからだ。しかしわたしに怒鳴られたからか、長男は再開し、下げ相場にさらされていたポートフォリオも改善した。ドルコスト平均法はだれもが安全に株式投資で利益を上げられる方法なのに、ほとんどの投資家が採り入れず、それどころか持ち株を頻繁にトレードしているのだ。大半の投資家がアクティブトレードで損をしていることが学術的研究からも明らかになっているにもかかわらず、である。損をしたのは運が悪かったからだ。彼らはよくそう言って責任転嫁をする。もしカジノで損をした人を運が悪かったと考えるなら、なるほど、彼らはついていなかったのだろう!

 株式投資で利益を上げるシンプルな方法がもう一つある。それは優良企業の株を買って永久に保有し続け、複利で利益を手にすることだ。だがこうしたバイ・アンド・ホールドの投資家は、「知恵と強気相場を混同するな」というウォール街の格言を常に心に留めておく必要があるだろう。一八世紀末に米国で機関投資家向けに株式市場が創設されて以来、米国経済は世界史上類を見ないほどのペースで成長している。そんな米国の優良企業株を相応数買って何世代にもわたって保有し続けた人は、巨万の富を築いている。金利が五%と低くても、わずかな金額を複利で一〇〇年間運用すれば莫大な金額になるからだ。例えば、当初の元手二万ドルを月五%の複利で一〇〇年間回していくと、インフレや税金の影響を除外しても、二九三万七五八九ドルになる。

 しかし、バイ・アンド・ホールドで莫大な財産を築いた投資家は、その成功の理由を誤解していることが多い。彼らはよく自分の投資能力を鼻にかけるが、実際に彼らが成功したのは、記録ずくめの米国経済に牽引されて強気相場が二〇〇年も続いているからなのだ。言い換えれば、彼らは知恵と強気相場を混同しているのである。一九九〇年代後半には多くの投資家が株式市場というカジノでプレーを始め、友人や証券会社にそそのかされて創業間もないインターネット銘柄に賭けたものの、ほぼ全財産を失ってしまった。しかし、きちんと下調べをし、たとえ割高であっても優良企業の株――アマゾン・ドット・コム、シスコシステムズ、eベイ、インテル、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ファイザー、ウォルマート・ストアーズ、ヤフー!など――をまとめ買いしていれば、おそらく今後何世代かにわたって保有し続けても何ら問題はないだろう。

 ドルコスト平均法や優良企業株のバイ・アンド・ホールドでも十分にリターンは得られる。しかし、それよりもさらに高いリターンを求める洗練された投資家向けに考案されたのが流動性理論である。本書で説明するとおり、流動性理論は、株式市場もほかの市場も何ら変わらないという考え方に立脚している。ほかの市場でもそうだが、株価というのはその企業の基礎的価値で決まるのではなく、株式の需要と供給で決まるのである。要するに、ウォール街で一般に言われているように、株価は将来の期待利益によって決まるのではなく、市場に流通している株式の数とそれを購入する資本の量によって決まるのだ。それらのデータを使って株式市場の方向性を予測したのが流動性理論というわけなのだ。  本書では、ほかの著作にはない独自の投資戦略について詳述する。二億五〇〇〇万ドルの資産を運用するヘッジファンドのマネジャーであれ、乏しい資金しかない個人投資家であれ、本書をお読みになれば、流動性理論のパワーをどうしたら自分の投資に生かせるかがお分かりになるだろう。米国経済が今後数年にわたって年間三〜六%の成長を続けると仮定すると(わたしはこの成長率を極めて現実的な数字だと考えているが、その理由については後述する)、流動性理論に追随した投資家の資産は自然と大きく殖えていくはずだ。どうしてそこまで断言できるのかって? トリムタブスの顧客は流動性理論に基づいて投資をしているが、その彼らが過去一〇年にわたって主要な株価指数を大きく上回っているからだ。

 世界的な繁栄を促進する

 とはいえ、本書は単に株式市場でより高いリターンを得るための指南書ではない。わたしが本書を執筆したのは世界的な繁栄を促進するためでもあるのだが、目下、その繁栄の前には二つの大きな脅威が立ちはだかっている。それは圧制者と不景気である。国民のために余剰カロリーを生産する経済力が国に備わっているだけでは繁栄しているとはいえない。国民にも魅力的なモノやサービスを生産し、消費する力が備わっていなければならないのだ。繁栄とは、そもそも交通が発達した結果である。先史時代から二〇世紀に至るまで、交通が飛躍的に発達するたびに、創出される富も急増している。馬と荷馬車の扱い方を最初にマスターした人々は、近隣諸国を制し、より大きな繁栄を謳歌するようになった。古代ローマ人は軍隊が迅速に移動できるようにと道路を建設したが、それが世界初の地域帝国建国へとつながった。そして印刷機の発明と航海術の進歩に伴って、中世が幕を閉じた。蒸気機関車も交通が飛躍的に発達した結果である。遠く離れた農村地域から都市部に食材を運んでこられるようになり、一人当たりのカロリー消費量も大幅に増えた。また、一〇〇年以上前にガソリン車が発明されたことで、モノの輸送能力は倍増し、一人当たりのカロリー消費量もさらに増えるようになった。五〇年ほど前には、飛行機やテレビ、州間幹線道路網が発達した。このように、交通の飛躍的発達がいずれも富の創出の大躍進につながっているのである。

 しかし、こうした交通の発達によって恩恵に浴することができたのは、主に第一世界と第二世界の国々に限られていた。一九〜二〇世紀に代議制を採っていた国々では、一人当たりのカロリー消費量がかつてないほど増加した。それは交通の飛躍的な発達に国がほとんど干渉しなかったから――つまり、君主の金銭的利得のために鉄道や電話、テレビといった革新的な技術を国有化しなかったから――なのである。

 脅威その一――圧制者

 交通の発達によって、第一世界や第二世界の人々は最低生活水準を優に超える生活を送れるようになった。しかし、第三世界の人々がその恩恵に浴することができないのはなぜなのだろう? 答えは簡単だ。指導者が悪いからだ。第三世界の君主は国庫のお金を自分個人のお金のように扱い、政府の国づくりの目的も現政権の力を維持することにある。そうした国々は、企業や政府、労働者、軍隊、犯罪組織をコントロールする一人のエリートに支配されている。一応紹介しておくが、犯罪組織というのは、政府が個人の道徳に関してあれこれと法律で禁止しているときに限って(薬物、たばこ、酒を使った自殺、売春、臓器だけを担保に高利での借金を個人に認めないなど)出てくるものだ。世界がもっと消費者資本主義に向かっていけば、こうした犯罪組織も減っていくに違いない。

 本を執筆したところで圧制者に対しては何もできないが、幸いインターネットの普及で経済のグローバル化が未曾有のペースで進んでおり、圧制者にとっても、その権力を維持するのがかつてないほど困難になっている。彼らが権力の座にとどまっていられるのも、国民のインターネットへのアクセスを制限できるからだ。インターネットが世界中にもたらす繁栄は、間違いなくわたしが「庶民の時代」と呼ぶ時代――だれでも毎日十分なカロリーを摂取できるようになるため、栄養失調よりも老衰が大きな死因となる時代――へとつながっていくはずだ。一九九〇年代、インターネットはメールアドレスを持っていればモノやサービスを供給・消費する力という点ではだれでも平等になれる世界を誕生させた。米国も、自分たちと比べるとごくわずかしかモノやサービスを消費しない国々にサービスを委託するようになった。こうした動きは、それに不満をぶつける人々をよそに起きている。

 インターネットによって育まれる社会こそ、わたしが言う消費者資本主義の社会なのだ。消費者資本主義とは、企業や政府、労働者、軍隊、犯罪組織のエリートたちの利益よりも消費者の利益が優先するような政治経済のシステムのこと。わたしはそう定義している。例えば、ウォルマートのような企業は消費者資本主義制度の下でしか存続することはできない。なぜならウォルマートは事業を展開する現地の小売店を破滅に追いやるからだ。皆さんは、なぜ労働者をエリートが支配する組織に振り分けるのか、と疑問に思われるだろう。労働者の組織は、最初はもちろん庶民を代表する存在だったのだが、何十年かたつと、労働組合の指導者が庶民との関係以上に企業や政府との関係を強化していったからである。

 一人の人間が企業や政府、労働者、軍隊、犯罪組織を支配するような古い政治形態を言い表すには、ファシズムという言葉がぴったりだろう。現在は、中国、インド、日本、メキシコ、ロシア、韓国、中南米諸国の大半、そしてヨーロッパの一部の国々がファシスト国家である。ファシスト国家では支配階級の福利が第一で、庶民の福利は後回しになる。例えば二〇〇一年には、EU委員会競争政策担当委員マリオ・モンティーがゼネラル・エレクトリック(GE)による航空宇宙機器大手ハネウェル・インターナショナルの買収承認を拒否したが、このケースでは、買収によってヨーロッパの消費者が手にできるはずの利益よりも、小数のヨーロッパ企業の利益が優先されたわけである。  消費者資本主義とファシズムの違いを明確に理解するには、ウォルマートとマイクロソフトについて考えてみるといい。ファシスト国家のエリートはウォルマートを嫌う。なぜなら、ウォルマートは消費者の大部分に利すると同時に地元企業に打撃を与えるからだ。ウォルマートは万人に利益をもたらしているにもかかわらず、ウォルマートと闘う人々は――これこそ消費者資本主義の一番の原動力なのだが――、ファシズムの論法を持ち出してエリートを守ろうとする。逆に、消費者資本主義と敵対しているのが現在のマイクロソフトである。なぜならインターネットへのアクセスを制御したがっているからだ。これでは、インターネットが多くの国家の主権を脅かすようになったころの政府当局の動きと何ら変わらない。要するにマイクロソフトの行動は、米国企業よりも日本やフランスの企業の行動にずっと近いのである。

 多くのファシスト国家も今や変化し、消費者資本主義へと向かっている。これらの国々では、富も支配階級のエリートから、最高級のモノやサービスを万人に最大限に提供する企業へとシフトしている。かつての閉鎖的な国が消費者資本主義に移行したことで、いったいどれだけのメリットがあっただろう。それを示す好例がロシアとインドである。図I−1を見てみよう。これは一九九七年七月から二〇〇四年七月までのボンベイ平均株価指数SENSEXとロシアの株価指数「モスクワタイムズ」をS&P五〇〇種株価指数と比べたものである。注目すべきは、二〇〇二年下半期以降はS&P五〇〇以上にSENSEXとモスクワタイムズが急上昇していることだ。  ファシスト国家の消費者は、政府や企業、エリート労働者を保護する法律から消費者を保護する法律へと転換できるだけの富を自ら創出しつつ、ファシズム崩壊の種をまいている。こうした国々で知的財産権や自由市場、個人の自由が確立されれば、これまでの経済も好転するのが普通である。

 脅威その二――不景気

 残念ながら、好景気の後には不景気がやって来るというのが世の常だが、世界的繁栄にとっての第二の脅威がその不景気である。今は世界中が不景気に陥っており、巨額の富の創出にも狂いが生じている。そんな不景気を防ぐには、好景気のアップサイドポテンシャル(上方リスク)を抑える必要がある。トリムタブスも、一九九〇年代後半のテクノロジーブームの行きすぎに歯止めを掛けるうえでちょっとした役割を果たしたと考えているが、消費者はFRB(連邦準備制度理事会)議長アラン・グリーンスパンに感謝すべきだろう。株式市場が活況を呈しているときでもアメリカ人が抱える含み損は数兆ドルに上っていたが、不景気で米国の大手金融機関が破綻したという話は聞いたことがない。先の不景気でも株式市場の不況でも、こんなハッピーな結末にはなったためしがない。  株式市場の好況の結果、不況が訪れ、それによって銀行や投資家が破滅に追いやられ、それが経済的大惨事の引き金になる。そんなレベルに達するのを阻止できるのが流動性理論である。SIA(米証券業協会)のシニアエコノミストのフランク・フェルナンデスは、あまり評価されていなかったが、その彼がトリムタブスと共同でトリムタブス・SIA週間流動性指数を開発してくれた。好況を呈する株式市場を監視し、歯止めが利かなくなって荒れるのを未然に防ぐのが目的だが、あの九・一一同時多発テロ事件のせいでSIAの予算が削られ、われわれの共同作業にも支障を来たすようになってしまった。何はともあれ、多くの人々がグローバルな消費者資本主義の恩恵に浴し、好景気も不景気もより限定的なものになってこそ、大きく繁栄した世界といえるのである。アーメン。

 両親のために

 最後になるが、わたしが本書を執筆したのは個人的な理由からである。父親のヤーコブ・イエルザルスキ・ビダーマンと母親のポーリーン・ヤンガーマンは、あのホロコーストを生き延びた人間だが、前の配偶者と三人の子どもたち、わたしの義理の兄弟や姉妹は生き抜くことができず、その後の人生を歩む両親の脳裏にはその恐怖の記憶が刻み込まれている。ホロコーストを生き延びた母親のいとこで、唯一の近親者であるヨーゼフ・マンドロビッツは、第二次大戦中に一〇カ所の強制収容所を転々とさせられた。今でもヨーゼフは、火葬場のにおいがする、と毎日のように言う。わたしはそんな両親のために、そんな大惨事が二度と起きない世界を築くのに一役買いたいという気持ちに駆られ、本書を執筆した次第である。


■訳者まえがき

 「チャールズ・ビダーマン。何者だ、こいつ?」  書店で本書を手にしてそう思う方も多いだろう、と著者も冒頭で述べているが、ご存じの方は少ないかもしれない。最近では日経新聞の米国株や投資信託関連の記事でトリムタブス社の名を何度か見掛けるようになった。アメリカでも投資家向けの新たな情報サービス会社として注目されている。
 個人投資家はやはりインサイダーにはかなわない。ならばそのインサイダーに関する情報をタイムリーに収集、分析し、彼らの動きに追随してトレードすれば勝てるはずだ。ある意味で当然のことであり、だれもが気づいていたことなのに、情報開示が不十分なこともあり――日本ではもちろん、アメリカでもそうした状況はあまり変わらないようだ――、これまで株式投資の確たる手法として体系的にまとめられたものはなかった。そこに着目し、必勝法ともいえる独自の理論を確立したのがビダーマンである。株価は需要と供給で決まるという確信に基づき、ファンダメンタル分析もテクニカル分析も一切利用せず、市場の流動性、資金の出入りを徹底的に分析するだけ。このまったく新しくユニークな発想は、投資初心者にも理解しやすく、あらゆる投資家に受け入れられるだろう。本書は主としてアメリカ人の投資家を対象に書かれているため、日本の市場でこの手法を応用するには少々工夫が必要だ。また、商品のトレードとそのインサイダーについて書かれた『ラリー・ウィリアムズの「インサイダー情報」で儲ける方法』(パンローリング)の株式版ともいえるのが本書であり、その意味でも興味深く読める。
 メディアでは株式投資の話題で持ちきりといった感のある昨今だが、本書には株式バブル期や不況時の企業や投資家の行動についても詳述されており、大変示唆に富んでいる。具体的なデータに基づいて書かれているため説得力もある。投資環境の改善という点からも、情報の充実にいっそう尽力しようとするビダーマンに今後も期待したいところである。
 最後にパンローリング株式会社、ならびに編集、校正でお世話になったエフ・ジー・アイの阿部達郎氏に感謝したい。

 二〇〇六年二月

塩野未佳


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