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証券分析【第6版】
――原則と技術

2023年11月発売/A5判 上製本 1422頁
ISBN 978-4-7759-7321-9 C2033
定価 本体15,800円+税

著 者 ベンジャミン・グレアム、デビッド・L・ドッド、セス・クラーマン、ブルース・グリーンウォルドほか
監修者 長岡半太郎
訳 者 田中陸


目次監修者まえがき

「私が70年間従っている投資の指針」――ウォーレン・バフェット(「序文」より)
バリュー投資のバイブル!

 1934年にベンジャミン・グレアムとデビッド・ドッドが本書『証券分析』を刊行したことによって、投資の理論と実践を永遠に、そしてまったく違うものに変えてしまった。出版当初は、アメリカを含む世界は大恐慌の真っ最中であった。そのためグレアムとドッドは1940年に大規模な改訂を行い、未曽有の大恐慌に対応した。その改訂された第2版は、現代では最高の投資の賢人たちによる決定的な論考であると考えられている。

 本書は刊行後90年を経過しても、世界中で株式や債券の分析に関する基本的な教科書として評価されている。また同時に、バリュー投資に関する必読書としても高い評価を受け続けている。この6版は1940年版のグレアムやドッドが実際に執筆した文章を用いながら、各部の巻頭には、現代の名高いバリュー投資家や著名な学者たちが序文を寄せている。その結果、バリュー投資に新たな視点と旋風をもたらし、最高傑作にさらなる価値を付与している。

 ウォーレン・バフェットも師と仰ぐ「バリュー投資の父」であるベンジャミン・グレアムの教えは90年近くたった今も、当時とは様変わりした現在の現実と結びついており、あらゆるジャンルにおいても古さをまったく感じさせない。

 1934年に第1版が出版されて以降、投資業界に不動の地位を維持し続けている本書は、証券や債券やファイナンスについて書かれた本のなかでもっとも大きな影響力を持ち、影響を与えた希有な1冊である。累計でミリオンセラーとなっている本書はベンジャミン・グレアムとデビッド・ドッドのバリュー投資の不朽の哲学と手法を、過去の何世代もの投資家たちに伝えてきたし、また、これから未来の何世代もの投資家たちに伝えていくことだろう。

 不朽の価値を持つ1940年版に基づいたこの第6版は、現代のウォール街における一流のファンドマネジャーたちによる210ページ強に及ぶ解説を追加することによって補強されている。このバリュー投資の達人たちは、グレアムとドッドの原理と手法が、大きく様変わりした現在の市場でも非常に重要である理由を現代に即して説明している。以下が卓越した見識を持つ寄稿者たちである。



■本書への賛辞

イェール大学流投資戦略 「投資業界に燦然と輝く本書は、『余計なことをしないのが一番』という格言を否定している。セス・クラーマンとジェームズ・グラントに率いられた素晴らしい解説陣が、比較的単純な1930年代の金融の世界と、より複雑になった21世紀の投資分野のギャップを埋めてくれる。読者は、金融界でもっとも洗練された実務家たちともっとも情報に通じた市場関係者の経験と見識から恩恵を受けることができるだろう。本書は、熱心にファイナンスを学ぶすべての学生の蔵書に加えられることだろう」――デビッド・F・スウェンセン(『イェール大学流投資戦略』『イェール大学流資産形成術』[いずれもパンローリング]の著者)

T・ロウ・プライス 「コカ・コーラは長年の実績がある自社製品の傑作を改良できないことを示したが、セス・クラーマンやジム・グラントやブルース・グリーンウォルドたちは、名著をさらに優れたものにできることを示した。セス・クラーマンのまえがきはすべての投資家にとって必読であり、寄稿編集者たちの改訂そのものが総じて傑作を生み出している。人間の行動を理解することは証券の安全性分析のプロセスの重要な一部であるというのは、普遍の教訓であることが明らかになった」――ブライアン・ロジャース(T・ロウ・プライス・グループ会長)

「現代の最高の著者によって、過去の最高の著書が最新のものとなった。タイガー・ウッズは、ベン・ホーガンの記録を更新する。きっと読者の投資の役に立つだろう」――ジャック・マイヤー(コンベクシティ・キャピタル業務執行社員兼CEO)

「われわれの世代でもっとも素晴らしいファイナンス界の人物によって更新された1940年の古典である本書は、教材や参考図書として、現代の規律ある投資家にとってかつてないほどに不可欠なものとなっている」――ジェイミー・ダイモン(JPモルガン・チェース会長兼CEO)

「過去の最高傑作が現代のもっとも偉大で思慮深い投資家によって改訂された。本書は必読であり、新たな段階へと引き上げられた」――ダニエル・S・オク(オク・ジフ・キャピタル・マネジメント・グループ上級管理職)

「読者は、グレアムとドッドによる本書の改訂版が、以前の版よりもかなり拡充されていることに気づくだろう。もっとも偉大なバリュー投資家である2人による不朽の助言や論考は今もなお感銘を与えてくれるが、今現在の世界の頂点に立つバリュー投資家たちが寄稿した評論は計り知れないほど価値を本書に付与している。この投資家たちは評論で説いていることを実践し、この版を最高のものにしている。過去の信頼できる事実に沿った原則と、現在の荒れ狂う市場に対する最新の活用法から利益を得ようとするあらゆる投資家たちに本書を強く推薦する」――モリス・スミス(個人投資家、元フィデリティ・マゼラン・ファンド・マネジャー)

「本書ほど賢明な投資のための優れた手法を教授してくれる本はない。セス・クラーマンと彼の素晴らしいチームは、ベンジャミン・グレアムの傑作のほかに並ぶものがないほどの版を21世紀にもたらしてくれた」――メイソン・ホーキンス(サウスイースタン・アセット・マネジメント兼ロングリーフ・パートナーズ会長)

「グレアムとドッドのアイデアはあらゆる市場の状況や75年間の精査に耐え、現代における投資にとってますますふさわしいものとなった。クラーマンやそのほかの名高いバリュー投資家たちによる評論では、資本市場の様子が過去とは大きく変わった一方で、一般的な投資家の特徴は変わっておらず、本書の原則をしっかりと応用すれば、今でも投資で重大な優位性を得られるということを明快に示している」――アンドレ・F・ペロルド(ハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・ガンド・ファイナンス・アンド・バンキング教授)

「ベンジャミン・グレアムは世界の投資アナリストの父であり、この業界を職業化するための資格に向けた議論の火付け役となったが、これがCFA資格につながった。彼はファイナンスに関する分析の実践を取引から科学へと転換させたが、これは1934年に初めて出版された画期的な著書である『証券分析』によって始まった動きである。現代の優れた投資家たちによる新しい解説が加わったこの版は、すべての職業投資家の本棚に置かれることだろう」――ジェフリー・J・ディアマイアー(CFA協会会長兼CEO)


■著者紹介

ベンジャミン・グレアム(Benjamin Graham)
ウォール街で大きな影響力を持っていた人物であり、現代の安全性分析(security analysis)の父として広く知られている。バリュー・スクール・オブ・インベスティングの設立者であり、グレアム・ニューマンという投資ファンドの設立者かつ前社長であったグレアムは、1928年から1957年までコロンビア大学のビジネススクールで教えていた。彼はPER(株価収益率)や負債資本倍率、配当の実績、純資産評価額、利益成長率の分析を世に広め、『賢明なる投資家』(パンローリング)というよく知られた投資家の手引書も執筆した。

デビッド・ドッド(David Dodd)
グレアム理論の信奉者であり、グレアムの同僚で、コロンビア大学証券分析学部助教授でもあった。

原題 Security Analysis : Principles and Technique, Sixth Edition by Benjamin Graham, David Dodd, et al.


■目次

監修者まえがき

序文 ウォーレン・E・バフェット
第6版へのまえがき――時代を超えたグレアムとドッドの知見 セス・A・クラーマン
第2版へのまえがき
第1版へのまえがき
第6版への序論 ベンジャミン・グレアムと安全性分析――歴史的背景 ジェームズ・グラント
第2版への序論 投資方針の問題

第1部 概説と分析手法
第1部への序論 本質的な教訓   ロジャー・ローウェンスタイン
第1章 安全性分析の範囲と限界と内在価値の概念
第2章 分析の問題における基本的な要素・量的要因と質的要因
第3章 情報源
第4章 投資と投機の違い
第5章 証券の分類

第2部 確定利付き証券への投資
第2部への序論 債券の束縛を解き放つ  ハワード・S・マークス
第6章 確定利付き証券の選別
第7章 確定利付き証券の選別――第2の原則と第3の原則
第8章 債券投資の具体的な基準
第9章 債券投資の具体的な基準(続き)
第10章 債券投資の具体的な基準(続き)
第11章 債券投資の具体的な基準(結論)
第12章 鉄道債と公益事業債の分析における特別な要因
第13章 債券分析におけるその他の特別な要因
第14章 優先株の理論
第15章 投資する優先株の選択方法
第16章 収益債券と保証付き証券
第17章 保証付き証券(続き)
第18章 保護条項と上位証券保有者の救済
第19章 保護条項(続)
第20章 優先株の保護条項と下位資本の維持
第21章 保有証券の管理

第3部 投機的な性質を持つ上位証券
第3部への序論 気性と分別  J・エズラ・マーキン
第22章 特権付き証券
第23章 特権付き上位証券のテクニカルな特徴
第24章 転換証券のテクニカルな特徴
第25章 新株引受権付き証券と参加型証券、スイッチングとヘッジ
第26章 安全性の疑わしい上位証券

第4部 普通株投資の理論と配当という要素
第4部への序論 流れに乗る  ブルース・バーコウィッツ
第27章 普通株投資の理論
第28章 普通株投資の新しい基準
第29章 普通株の分析における配当という要素
第30章 株式配当

第5部 損益計算書の分析と普通株の評価における収益という要素
第5部への序論 合理的な投資の探求  グレン・H・グリーンバーグ
第31章 損益計算書の分析
第32章 損益計算書の特別損失とその他の特別な項目
第33章 損益計算書における誤解を招く策略と子会社の利益
第34章 減価償却費やそれに類似した費用と収益力の関係
第35章 公益事業の減価償却の方針
第36章 投資家の観点から考えた償却費
第37章 利益の実績の重要性
第38章 過去の業績を疑って棄却する特定の理由
第39章 普通株のPERと総株式数の変化に対する調整
第40章 資本構成
第41章 低位の普通株と収益源の分析

第6部 貸借対照表の分析と資産価値の意味合い
第6部への序論 貸借対照表を分解する  ブルース・グリーンウォルド
第42章 貸借対照表の分析と純資産の重要性
第43章 流動資産価値の重要性
第44章 解散価値の意味合いと、株主と経営陣の関係
第45章 貸借対照表の分析(結論)

第7部 安全性分析のさらなる側面――価格と価値の乖離
第7部への序論 株式市場が見せる大きな錯覚とバリュー投資の未来  デビッド・エイブラムス
第46章 新株予約権
第47章 資金調達と経営のコスト
第48章 企業のピラミッディングが持つ側面
第49章 同じ分野に属する企業の比較分析
第50章 価格と価値の乖離
第51章 価格と価値の乖離(続き)
第52章 市場分析と安全性分析

第8部 グローバルバリュー投資
グレアムとドッドとともに世界を巡る  トーマス・ルッソ

第6版について
謝辞
寄稿者たちについて
付録


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◆立ち読みコーナー(本テキストは再校時のものです)

■監修者まえがき

 本書は、ベンジャミン・グレアムとデビッド・ドッドが著した“Security Analysis : Principles and Technique”の邦訳である。金融業界およびそれに関連する組織・学会に所属する人間であれば知らない者のない原書“Security Analysis”の初版が刊行されたのは実に100年近くも前のことであり、本書はその第6版にあたる。主著者のグレアム自身は半世紀前に泉下の客となって久しいが、彼が遺したこの大部な著作は、彼らの弟子や後継者ならびにその功績に畏敬の念を払う人たちによって解説を附され版を重ねてきた。

 これは物理学の世界における『プリンキピア』のようなもので、投資理論の歴史は文字どおりここから始まったのである。グレアムらは企業の保有する資産や収益性の評価に加え、債券(デット)、メザニン、株式から成るキャピタルストラクチャー(資本構成)を分析することで投資対象の価値を推定し、市場価格との比較を行う、「安全性分析(security analysis)」の考え方を考案した。これによって、それまでデタラメがまかり通る暗黒の無法地帯だった有価証券投資の世界に、初めて科学と秩序がもたらされたのである。

 読者のなかには、本書を古典、すなわち歴史的な価値はあるが今では実用的な意味を持たないものとして認識している人もいるかもしれない。だが、読んで驚くことなかれ、ニュートン力学が今もって自然科学の世界で絶対の法則であるのと同様に、グレアムらの説いた「安全性分析」の技法は、現在でも、不動産やインフラやプライベートエクイティといったオルタナティブを含む、あらゆる投資の基本の理論としてまったく色あせていない。また、一般的に本書の価値は投資家の側からのみ語られることが多いが、投資と対を成す資金調達の観点から、コーポレートファイナンスやオブジェクトファイナンスの実務家にとっても貴重な知見を与えてくれている。

 著者らは本書の冒頭で、「まったくの初心者向けというわけではない」とことわりを入れているが、これはむしろ初心者を含むすべての投資家が最初に読むべき書籍である。アメリカと比べて金融の制度や仕組みが未発達な日本において生き延びたければなおさらである。

 本書の刊行にかかわることができたことは関係者一同にとって大変名誉なことであり、原著者や解説者、そして新版の発行を継続的に可能ならしめた読者の方々には深い感謝の念を抱かずにはいられない。

 また、翻訳にあたって尽力いただいた以下の方々にも心から感謝の意を表したい。翻訳者の田中陸氏は1400ページ強にも及ぶ原書を著者の意図をくんで正確に訳出していただいた。そして、阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのはパンローリング社の後藤康徳氏のおかげである。

 2023年10月

長岡半太郎


■序文 ウォーレン・E・バフェット

 私は多くの蔵書のなかで特に大切にしている本が4冊ある。そのどれもが50年以上前に書かれた本だ。しかし、仮に今日初めてそれらを読んだとしても、高い価値を持っていることには疑いない。ページの紙は色あせても、それらの知見は今なお色あせてはいない。

 そのうち2冊はアダム・スミスの『諸国民の富』(岩波書店)とベンジャミン・グレアムの『賢明なる投資家』(パンローリング)の第1版である。3冊目は、読者が今、手にしているグレアムとドッドによる本書(『証券分析』)で、私の手元にあるのはその第2版だ。私は、コロンビア大学でベンジャミン・グレアムとデビッド・ドッドから教わるという望外の幸せを得た1950〜1951年に、本書から多くのことを教わった。この本と人々によって、私の人生は大きく変わった。

 実用的な面で言えば、私が彼から学んだことは私の投資や事業に関するすべての決定が築かれる基盤となった。グレアムやドッドと出会う前から、私は長い間株式市場に魅了されていた。私が初めて株を買ったのは11歳のときだが―そのときまでに、株を買うために115ドルをためなければならなかった―、すでにオマハ公共図書館にある株式市場に関するあらゆる本を読んでいた。その多くが魅力的で、どれも興味深かった。しかし、本当に役に立つ本はなかった。

 しかし、初めは本を通して、それから直接グレアムやドッドに会ってからは、私の多難な知的冒険は終わった。彼らは投資の行程表を明らかにし、私はそれに57年間従っている。ほかのものを求める理由は何もなかった。

 グレアムとドッドは、私に知識だけでなく、友情や励ましや信頼を惜しみなく与えてくれた。彼らは何の見返りも求めなかった―若い学生に対して、ただただ役に立つことを教えたいとだけ考えていた。結局は、おそらくそれが2人について私がもっとも感服していることだ。彼らが優れた人物になることは、生まれた瞬間から定められていた。彼らは寛大で親切になることを選んだのだ。

 厭世家たちは、彼らの行いに困惑しただろう。グレアムとドッドは、文字どおり何千人もの潜在的な競争相手、つまり後に割安株を買ったり、裁定取引を行ったりして、グレアムの投資会社であるグレアム・ニューマン社と直接競うことになる私のような若者たちを指導したのだから。そのうえ、グレアムとドッドは教室や著作で最新の投資の例を使い、実質的に私たちのために仕事をしてくれていた。彼らの振る舞いは、彼らの知識と同じくらい私や多くのクラスメートに深い感銘を与えた。私たちは、賢い投資の方法を教わっていただけではない。賢い生き方も教わっていたのだ。

 私が蔵書として持っているのは、コロンビア大学在学当時に使っていた第6版の『証券分析【1940年版】』(本書)だ。私はこれを少なくとも4回は読んでおり、明らかに特別な本であることは間違いない。

 しかし、それよりもっと大切な4冊目の本の話をしよう。それはドッドの一人娘が私にくれたもので、ドッド自身によってたくさんのメモが書き込まれた『証券分析【1934年版】』(2002年9月にパンローリングより刊行)だ。このメモは、ドッドが1940年に改訂第6版(本書)を出版するために書き込んでいた。この本は、私にとって人生で最高の贈り物となった。

ウォーレン・E・バフェット


■第2版へのまえがき

 この著書が最初に出版されてから6年がたったことで、その必要はないにせよ、現在になって広範囲に改訂する口実ができた。経済の世界では、物事が進むのが速いため、著者は長い間気楽に休むことができない。戦争の影響もあって、私たちの問題に特別な論点が付け加えられた。私たちが投資政策を扱うかぎりでは、せいぜい単に戦争が持つ将来に対する重大さをほのめかすことができるだけだ。安全性分析(security analysis)の妥当性に関しては、新たな不確実性によってその主題が複雑になっているかもしれないが、その根幹や手法が変わることはないはずだ。

 私たちはいくつもの考慮すべき対象について文章を改訂した。修正すべき不十分な点や、書き換えるべきだと判断した点もいくつかある。特に証券取引委員会による規制の影響のような、最近の金融の分野での新たな出来事を考慮しなければならない。低金利が続いていることで、この件に対する新たな取り組みは正当化されるだろう。その一方で私たちは、ウォール街が主にトレンドを頼りにしているのを再確認することで、こうした現代の投資哲学に対して、本質的に異なるわけではないものの、より広範に批評せずにはいられなかった。

 時がたつのは早いため、最新の例を重視しすぎるのは悪影響があるかもしれないが、私たちは1939〜1940年の執筆時に心に浮かんだ新しい例を採用した。しかし、将来に挑むものとして初版で掲載した多くの古い例が、今では私たちの手法を立証するものとして役に立つかもしれないとも思った。そこで私たちは自分自身のアイデアを採用し、1934年の重要な例の続きを、実際の安全性分析の「臨床実験」とみなした。本文や注釈中の事例を参照することで、読者は自分の分析を安全性分析者の主張することに適用できるかもしれない。

 本書の内容が増えたのは、例を少し増やしたことや、たくさんの論点を明確にする資料を追加したこと、そして鉄道の分析の扱いを広げたこと、NYSE(ニューヨーク証券取引所)に上場しているあらゆる事業会社についての提示に関する新しい統計資料をたくさん追加したからである。本書を教科書として使う数人が別の方針を提案してくれたが、全体的な構成は変えなかった。しかし、読むときに章の順番は興味のあるところから読んでもらって構わない。例えば、株式の分析の理論と実践から読み始めたい読者がいたとしても、それほど苦労せずに読み進めることができるだろう。

 1940年5月、ニューヨーク州ニューヨークにて

ベンジャミン・グレアム、デビッド・L・ドッド

■第1版へのまえがき

 本書は、証券の価値に本気で関心を持っているすべての人々を対象にしている。しかし、専門用語や比較的簡単な金融の概念の知識を前提としているため、まったくの初心者向けというわけではない。本書の範囲は、タイトルが示唆するものよりも広い。個別株を分析する方法だけではなく、保有する証券の選択と保護に関する一般的な原則も扱っている。そのため、投資と投機的な手法とを区別すること、しっかりとした有効な安全性の評価基準を築くこと、そして優先株の投資家や普通株の保有者の権利と真の利益を理解することに相当の重きが置かれている。

 さまざまな話題を分類するにあたって、唯一の基準ではないが、第一の基準が比較的重要である。例えば、企業の将来の見込みについての判断のようなきわめて重要な問題は、それについて述べられるような明確な価値のあることがほとんどないため、少ししか紙幅を割かなかった。そのほかの問題はよく知られているため、軽い扱いにとどめた。それとは逆に、割安株を見つける手法は投資の分野全体の相対的な重要性以上に強調した。おそらくこの活動では、証券アナリストに特有の才能が如実に表れるからだ。同じように、特権を持つ優先証券(転換証券など)への注目度は、近年の広範囲に及ぶ発展を考慮すると標準的な教科書でも扱いが非常に不十分なため、このような証券の性質に関してはかなり詳しく扱った。

 しかし、私たちの主な目的は本書を説明的というよりも、批評的な著書にすることであった。私たちは主に、概念、方法、基準、原則、そして特に論理的な思考に関心がある。理論そのものだけではなく、その実践での価値も強調した。あまりにも厳しくて従えないような基準や、価値以上に骨を折るような専門的な方法は書かないようにした。

 本書の主題は、最近と遠い過去のさまざまな経験を融合させ、常に不可知な将来の試練に耐えるような総合的なものとすることだった。私たちは執筆しながら、金融の世界での暴落がいつまでも続く常態となるという、人々の間で広まっている信念と戦わなければならなかった。出版後、投資家の古くからのもろさ(投資家が大金を失うこと)が繰り返されているのをすでに目撃した。しかし、1931〜1933年の教訓や過去の暴落を常に思い出す必要があるのは、特に保守的な投資家だ。債券投資と呼ばれるものは、スピノザの表現を借りれば「災難という視点から」取り組んだときのみ、堅実な選択ができる。そのほかの種類の証券投資を行うには、表面的なことや一時的なことを過剰に意識する害から教え子たちを守るようにずっと努力してきた。ウォール街でさまざまな経験をした20年から、年上の著者はこうした過度な重視が瞬時に金融の世界の妄想や悪の根源になることを学んだ。

 私たちが本書を執筆するのを励まし、支えてくれた多くの友人たちに心から感謝する。

 1934年5月、ニューヨーク州ニューヨークにて

ベンジャミン・グレアム、デビッド・D・ドッド


■第6版について

 この計画は、2006年後半に私がマグロウヒルの編集者から本書の新版をまとめるように持ちかけられたところから始まった。私はこの計画を主任編集者として引き受けることに同意し、その数カ月後、3人の編集者を加えたチームを編成した。その3人とは、著名な金融ライター兼歴史家、バリュー投資の指導的な研究者、そして経験豊かな金融ジャーナリストだった。また、原文に対する現代の実務家たちのコメントを掲載しており、それによって彼ら自身のバリュー投資に対する取り組み方に基づいた新しい視点がもたらされた。グローバルバリュー投資に関する新たな小論も追加した。

 これらの貢献は2007年後半と2008年初めに提案・編集されたため、2008年3月に立派な投資銀行であるベアー・スターンズを破産に近い状態にまでした信用危機の深まりと金融市場の急落については言及されていない。その理由は、近視眼的に直近の出来事に着目するのではなく、好調な相場にも不調な相場にも当てはまる長期的な考え方をして、グレアムとドッドのように主に「概念、手法、基準、原則、そしてとりわけ論理的な思考」を扱うようにしているからだ。

 第6版の土台としては、1940年に出版された本書の第2版を用いることにした。これは、第2版がもっとも包括的だからである。そして、この古典的な名著の文章は変更しないことにした。このように進めることによって、読者がグレアムとドッドの偉大な業績を彼らが当時に書いた言葉で理解し、大きく変化した今日の世界でも深い関連性があり、その重要性を見抜いてもらえると思ったからである。

 この計画は、全部で11人のバリュー投資家たちの性質を象徴するような寄稿者の協力を得た。その多くは仕事上では競争相手だが、友人であり同僚でもある。われわれはみな、だれもすべての答えを知っているわけではないことが分かっている。われわれの最大の過ちを昨日起こったことかのように鮮明に覚えているからだ。同じように、だれもバリュー投資の技術を完成させてはいないことも認識している。常に新しい課題が生まれ、改善する余地があるのだ。経験豊かで能力のある寄稿者と編集者の多様な観点を組み合わせることによって、本書の第6版が、これまでの5版の後継として長い間価値を持つような、豊かで多様で非常に詳細な投資の考え方の織りなされたものになることを望んでいる。

 2008年5月

セス・A・クラーマン(主任編集者)

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