ワイルダーのアダムセオリー』目次

監修者まえがき                                              1
プロローグ                                                  7
はじめに                                                    11
第1章 アダムセオリーとは                                  13
第2章 おとぎ話                                            15
第3章 マーケットで成功するためには……しなければならない  19
第4章 トレーディングは見た目よりもずっと単純なもの        23
第5章 マーケットにおいて重要なもの――価格                27
第6章 現実と理論                                          29
第7章 裁量の排除                                          31
第8章 トレーディングシステム                              33
第9章 マーケットにおいて重要なもの――トレンド            37
第10章 トレンドとは何か                                    39
第11章 反復の基本形態                                      41
第12章 正確な反復は何をもたらすのか                        43
第13章 グレーテスト・シンメトリーを導くもの                47
第14章 セカンド・リフレクションの予測                      49
第15章 セカンド・リフレクション・チャートの簡単な作図方法  51
第16章 予想は何を含んでいるのか                            57
第17章 どのマーケットをでトレードすべきか                  59
第18章 マーケット選択の復習                                65
第19章 天井と底                                            67
第20章 マーケットに関する最も重要な格言                    71
第21章 利益の最大化                                        77
第22章 ストップに引っかかったら                            79
第23章 規律                                                83
第24章 アダムセオリーの復習                                85
第25章 いつマーケットに参加するのか                        87
第26章 取引例――綿花                                      89
第27章 第26章の復習                                        109
第28章 トレーディング規則の10カ条                          111
第29章 10カ条の解説                                        113
第30章 取引例――イーストマン・コダック                    117
第31章 取引例――コーヒー                                  125
第32章 視覚化                                              131
第33章 遊び心を持った先物トレーダー                        135

エピローグ                                                  139

付録 日本円先物(IMM)                                     141

■監修者まえがき

 本書はワイルダーがジム・スローマンから購入した「アダムセオリー」の解説書である(原題:"The Adam Theory of Markets or What Matters is Profit")。さて、ワイルダー自身も述べているように、いったいどこの誰がマーケットにおける必勝法なるものに100万ドルも支払うというのだろう?「常識」に照らせばその類のオファーはほとんどがまがい物である。だがしかしここでの購入者はあのワイルダーなのだ。いったい私たちの「常識」には例外があるのだろうか?

アダムセオリーは大きく分けて2つの概念より構成されている。第一はトレンドフォローの概念であり、第二はマーケットにおける再帰理論である。前者のトレンドフォローの概念に関してはその有効性は疑いようはない。それは現在でこそ一般的になっているものの、ワイルダーがアダムセオリーを購入した1980年代半ばにおいてその優位性に気づいていたのはごく限られた人々だけであり、当時からこれまでにトレンドフォロー戦略によってもたらされた利益は、100万ドルどころか10億ドルでもきかないであろう。本書に紹介されているようにそれは極めてシンプルなものであるが、くれぐれもレベルが低い理論であると誤解してはいけない。なぜなら、唯物論的弁証法における「否定の否定」の法則に見られるように、最高の叡智とプリミティブな物事の捉え方とは往々にして一致するものなのである。むしろトレンドフォローの概念はマーケットを包括的に捉えるための極めてすぐれた思想であり、その本質を哲学者の三浦つとむ氏の言に倣って表せば、「人間がその仕事に成功しようとするには、つまり予想した結果を得ようとするには、どうしても、自分の思想を客観的な外界の法則性に合致させなければならない(毛沢東・実践論)」となる。

では、第二の「再帰理論」はどうだろう? 考案されてから20年近くが経過した現在においても多少奇妙に見えるこの概念は、はたしてマーケットにおいて役立つものなのだろうか? この問いに答えるために私は日本の主要なマーケットのデータを用いてバックテストを行った。検証においては物事を簡単にするために、人工知能の一種であるBP法によるニューラルネットワークを利用して「再帰理論」から得られる情報を学習させ、それが未来の価格変動をどの程度推定できるかどうかをみたのである。結果は当初予想していた類のものとは異なっていたが非常に面白いものになった。かなり興味のもてる傾向が現れたのである。これが100万ドルに値するかどうかは使い手によるだろうが、私は迷うことなくこの「再帰理論」を自分の運用システムに組み込むことに決めた。

 本書の刊行にあたっては以下の方々に感謝の意を表したい。まず翻訳者の吉田眞一氏のおかげで本書はスムーズに読み進めることができる書籍となった。また阿部達郎氏には丁寧な編集・校正をしていただいた。そして「再帰理論」のバックテストで利用したニューラルネットの理論と実践に関しては今道弘志氏にご教授をたまわった。最後に、本書が刊行の運びとなったのはパンローリング社社長の後藤康徳氏の慧眼があればこそである。

2003年8月
長尾慎太郎

■本書をジム・スローマンに捧げる

 「アダムは森羅万象に対して同調しているのであり、自分への同調を求めてはいけない。自分への同調を要求することはおごりであり、そしてそのおごりが自分を滅ぼすのです。アダムに同調するためには、謙虚な心で導かれるままに追従することです。川の流れに逆らい上流に進もうとすると、執念深い敵は常に容赦なく私を押し戻し邪魔するでしょう。しかし、川は敵ではないのです。ただ、流れるべき方向に流れているのです。私たちがその川に同調するとができ、その動き反映し、同じ方向に進むことができるのなら、私たちの生活、そしてトレーディングは、川とともに穏やかに快適に流れるのです」 ジム・スローマン

■プロローグ

 1983年秋、ジム・スローマンという見知らぬ人物から電話を受けました。彼は相場についてある発見をし、その内容を私に高額で売ってもよいという話でした。もし私がシカゴに行くことがあるなら、その発見を私に披露しようと申し出たのでした。

 このたぐいの電話を何度も受け、ほとんどの場合、雲をつかむような無意味な話に終わっている苦い経験から、私はジムの発見についていくつか質問をすることから始めました。彼は、相場の予想法、つまり、次の高値や安値のタイミングについて予測する方法を見いだしたとのことでした。彼の発見というのは、どうやらギャン理論やエリオット波動などのように知られているものを基本としたものではないようでした。

 彼が売ろうとしているものが、どれくらい価値のあるものか、どのように判断できるのかと質問しました。彼は、私がシカゴに来て実際に検証したうえで買うかどうかを判断すればよいと言いました。私はジムの説明に十分に興味をそそられたことから、シカゴへの飛行機代と1日の時間を捨てるつもりでシカゴへ行きました。

 ジムが「デルタ」と呼ぶ彼の発見について説明を受けました。すべての市場に共通する完璧なまでの秩序の存在を彼が発見したことに驚きました。この秩序を理解することによって、すべての市場がかなりの精度で永久に予測可能となるのです。そして、それは本当に簡単なもので、数学などいっさい必要のないものでしたが、まだだれも考えたことのないものでした。私は自分の目にしたものに感嘆せざるを得ませんでした。

 私は、その場で彼の求めていた多額の金額を支払い、夜の便でグリーンズボロに帰りました。そして6カ月の間、私はデルタが本物であることを確認するため、何年も前のデータにさかのぼって、その有効性の確認作業を続けました。さらに、私はジムが用いた市場以外の多くの異なる市場データを用いて確認作業を行いました。これらの膨大な作業の結果、デルタは過去においても現在と同様に正確であることを確認しました(今は1987年ですが、何年検証作業を続けても、過去いつの時点においてもそうであったように、その正確性が保たれています)。

 1985年に私はデルタ・ソサエティ・インターナショナルを設立しました。この秘密団体のメンバーは将来の市場の転換点に関するデルタ情報を入手することができます。デルタ情報は2000年まで提供されます。その時点まで会員がいるのかいないのかは分かりません。

 これまで述べてきたことは、次にお話しすることの背景です。この経緯について知らない場合、次に述べることが信じてもらえないことでしょう、もし信じてもらえるとしても、私が本当に愚か者だと思われるでしょう。

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 1985年春、デルタに関する検証を終えたときに、その内容を確認するためにジムをグリーンスボロに招きました。1週間ほどたち、お互いをよく知ることができたとき、ジムはまた別の気になる発言をしたのです。

 「ウエルズ、私がデルタを発見したとき、市場には秩序が存在するのかという疑問を持っていました。その問いに対する答えがデルタだったのです。そして、最近、私は新たな疑問を持つようになりました。トレーディングでどうやって儲けるのだろうかという疑問です。つまり、マーケットで成功するための原理はどのようなものかということです。その原理を意識的にか、あるいは無意識のうちに用いているトレーダーはマーケットで成功しているのです。それは前の疑問とは違うものです」

 数カ月後、ジムは「その答えを100万ドルで売ろう」と言ってきました。  「少し考えさせてくれ」と答えました。

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 私はジム・スローマンについて何を知っているというのでしょうか。彼は優れた才能の持ち主でした。彼の優れた知能は、高校生のときから知られていました。高校3年生のときに受けた全国的な数学の試験で、彼はトップグループの成績を収めたのです。そして、彼は国からの奨学金を受け、プリンストン大学の上級クラスで、数学と物理を学んだのです。

 卒業後、ジムはとらえどころのない満足感を探し求め、いろんなことをやってみたのでした。まず、彼はある企業に就職し、抜きんでて出世しまたが、何かが足りないと感じたのです。小説を書いたり、コロンビア大学で映画制作を学んだりしています。しばらく株のブローカーや先物取引のトレーダーも経験していますが、気質が合わないと感じてやめています。最近では、視覚化によって物事を実現させるという実験を重ねています。

 ジムは問題に対し、白紙の状態から取り組んで何かを発見するという特殊な能力を持っています。彼はその対象に対する彼の知識を投げ捨て、または脇に置いて、問題について自分が知っていると考えていることに影響されることなく、真の回答を見いだすことができるのです。そして、その方法がデルタを発見する唯一の方法だったのです。  ジムはトレーディングについて多くの知識を持っていました。シカゴのトレーディンググループに招かれたこともあります。このグループは優秀なトレーダー、良くないトレーダー、そしてその他のトレーダーから選ばれたグループで、お互いになんらかを学びあうことを目的としていました。そして、グループ全体の取引量をもとに取引手数料の優遇を受けていました。ジムはトレーディングで生計を立てようとはしていなかったことを知っています。彼は考える時間が欲しかったのです。新しいことを考え、新たな概念を生み出したかったのです。  私はジムが「マーケットで成功する基本原理」について大方の答えを見いだしていることを知っていました。ジムは研究を継続するために私が支払いを開始し、総額が100万ドルとなる最後の支払いと交換にその答えを引き渡したかったのです。

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 デルタを見いだしたジム・スローマン以外のだれかが、「マーケットで儲ける秘密を発見したので100万ドルで売ろう」などどいうバカげたことを言ったとしたら、私は笑い飛ばしていたことでしょう。  1985年12月、私は南カリフォルニアで総額が100万ドルとなる最後の支払いを終えました。読者の方は、私が得たものすべてをこの本で学ぶことができます。

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 もうひとつ言っておくべきことがあります。なぜか? なぜ私が100万ドルを支払って得たものをこのような高価でもない本として出版することにしたのでしょうか。理由は3つあります。私にとっての重要性の順位の低いものからお答えします。

 もちろんお金は考慮したうちのひとつです。この本の価格は熟考のうえで決定されました。無料か、ほとんど無視できるほど安い場合はだれもこの本を読まないことでしょう。貴重なものが無料で配布されるはずがないからです。一方、高すぎる場合はこの本を読む必要のある多くの読者が手にすることができなくなってしまします。そのため、この本の価格は、これらの両極端の間で設定しました。また、この本で得る収益は、私のコントロールすることができない基金に入ります。基金は主に子供たちを援助する世界的な活動をサポートしています。

 別の理由は、この知識を公開することによって、トレーダーとしての私にとってその有効性になんら影響を与えないとういうことです。より多くの参加者が、市場に関する何らかの知識を得た場合、その有効性が減退することを知っています。しかし、その知識がより一般的な場合、多くの参加者が知ったとしても市場への影響度は小さいのです。例えば、ダウ理論というテクニカル分析が知られてない1800年代において、サポートとレジスタンスという概念はだれにも知られてなかったので、よく機能していたはずです。今日ではテクニカル分析を行うトレーダーならだれでもがサポートもレジスタンスもよく知っていますが、それが一般的であることから、今でも効果的なツールとして機能しているのです。アダムについて知識が出版されることによって、その有効性は減退することでしょうが、あまりに一般的であることから、その影響はほとんどないのです。  そして最大の理由は、私がこの発見を公開したいと願っているからなのです。貢献させてもらえることは栄誉だと考えます。

 アダムの発見に対し、ジム・スローマンが世にあるうちにその功績をたたえてもらえるということは喜ばしいかぎりです。

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 最後に、デルタはマーケットの外向きな対称性、アダムは内向きな対称性といずれもマーケットの対称性にかかわるものです。ジム・スローマンはその両方を発見したのです。

■はじめに

 「テクニカル分析」は先物市場における基本的なトレーディング手法としてすでに確立し、近年株式市場においてもその有効性が認められています。

 テクニカル分析とはどのようなものでしょうか。

 テクニカル分析とは、市場で実際に執行された取引から得られる情報だけをもとに市場を分析する手法です。これらの情報は価格、出来高、そして取組高などと呼ばれているものです。多くの市場を個別に分析すれば、新高値や新安値、価格の上昇や下落、出来高の増大や減少などの情報が得られます。

 コンピューターの発達によって、短時間で膨大な量のテクニカル情報を分析することが可能になった結果、どの市場でもテクニカル分析が活発に利用されるようになりました。トレーダーたちは、人々が考え出した手法やシステムの数に圧倒され、どれを用いてトレードすべきか困惑することになったのです。同様に驚愕したのは、これらの手法やシステムは、すべて実際の取引から生じた3つの情報、つまり、価格、出来高、(そして先物の場合は)取組高のみに基づいているという事実です。

 「テク」という言葉は革新的なトレード手法、そしててっとり早い利益の代名詞となりました。トレーダーたちはコンピューターとソフトウエアを競って購入し、その飽くことを知らない需要を満たすため、新たな産業も生み出されています。「テク」市場を評価し創設するための多くの雑誌が刊行されました。最良の商品を提供するために最先端の技術を集結したソフトウエア「産業」が生まれることになりました。

 このようなグループに参加したトレーダーは、50を超えるテクニカル分析手法を駆使してトレードすることができるのです。彼らは自分がトレードする株式や商品市場が閉じたあとで、これらのシステムや手法を好きなだけ選択して分析することができるのです。コンピューターを自動的に起動させ、ほんの1〜2時間後には翌日のトレード戦略に必要なすべての“分析”結果を手にすることができるのです。また、2〜3週間にひとつのペースで、斬新で、さらに大きな利益をもたらすであろうシステムが考案され、トレーダーたちのシナリオに組み込まれることになります。トレードがうまくいかないときには、別のシステムに切り替えることもできます。  なんと複雑なことでしょうか。このような異常なシナリオでは、トレーダーたちは信頼できる究極のシステムに出合い、以降、幸福にトレーディングを行うことなどけっしてできないと考えるのが論理的ではないでしょうか。

 近代において最も成功した先物トレーダーは、わずか2〜3年で1億ドル以上の利益を得たと報告されています。雑誌インタビューのなかで、いかにそのような成功を成し得たかとの質問に対し、彼は次のように答えています。

 「トレーディングは見た目よりずっと単純なものです。トレードするためには、多くの不要なものを振り払わなければならない」と言っています。

 私は本書に収めたアダムセオリーを習得するために、ジム・ソロモンに100万ドルを支払いました。アダムセオリーについて、本書は何ひとつ省略していません。私が最初に学んだのは、

 「トレーディングは、人々が考えるより単純である」ということです。
 そして2番目に学んだのは、「何を無視すべきか」ということです。

■第1章 アダムセオリーとは

 アダムセオリーは世界中のあらゆる市場で利益を生み出すでしょう。アダムセオリーとは、マーケットに対する特別な見方であり、マーケットをトレードする特別な手法です。アダムセオリーはマーケットが発する情報のみに基づいて利益を上げる最も純粋で単純、そして簡単な取引手法です。

 しかし、アダムセオリーは単にそれだけではありません。アダムセオリーは、将来のマーケットの動きについて、最も可能性の高い道筋を示唆してくれます。アダムセオリーは将来の値動きについて予想を可能とし、トレーダーにその道筋を示してくれます。トレーダーはアダムセオリーが示唆する取引を実行すべきかどうかについて自らに問うだけです。そしてトレードすべきと確信するときに取引を実行するのです。

 アダムセオリーはいかなるタイムフレームにも適応することができます。つまり、アダムセオリーは日足、週足、月足、1時間足、5分足であれ、いかなる時間枠にも適用することができます。アダムセオリーは視覚的なものでもあり、単純なバーチャートが最も適しています。数学的な処理はいっさい必要ありません。

 では、日足のバーチャートを使用して、「トレードすべきか」との問題に戻ってみましょう。答えが「イエス」の場合、トレーダーは取引を実行します。翌日、トレーダーはアダムセオリーが示唆する最も可能性の高い値動きの道筋と照らし合わせ、ポジションを継続すべきかどうか自問するのです。さらに、最終的に答えが「ノー」の場合、アダムセオリーは手仕舞いの方法についても示唆してくれます。

 アダムセオリーは、いっさいの恣意性を排除し、相場が自らについて発する情報のみをもとにこれらの機能を提供します。アダムセオリーは最も単純で純然としたコンセプトですが、多くのトレーダーを巧みに避けているのです。

 ジム・スローマンば次のように述べています。

 「アダムセオリーは、『相場で成功をもたらす基本原理は何か』との質問に焦点を当てています。つまり、『相場で成功するためには、……が必要である』とういう文章の空欄部分に何を入れるべきかとの質問に答えるものです。マーケットで成功しているトレーダーたちが、意識的にか、無意識のうちに従っている共通の要因はあるのでしょうか」

               ★★★★★

 「マーケットの仕組みを理論的に理解したり発見したりすることと、相場で成功することは別物であることに気づいてください。アダムセオリーはそもそもマーケットやその仕組みについての理論ではありません。アダムセオリーはマーケットで成功するためには何が必要なのかとの問いに対する答えであり、仕組みについての理論とはまったくの別物なのです。

 真実はそれが偉大であればあるほど、その内容は平易であると言っても誤りではないでしょう。平易であるからこそこれまで解明されなかったのです。一般的に、複雑で難解な回答に対しては、その内容を理解しようとするチャレンジ精神が触発され、気持ちが安らぎます。逆に、平易な内容に対しては『こんな簡単なものが、本当に重要な真実であるわけがない』と考えることから理解が阻まれてしまうのです」

               ★★★★★

 「アダムセオリーは実利的なコンセプトであり、何が機能するのかについてのみ述べています。複雑さ、難解さの点で不十分だと感じられるかもしれませんが、それは単に議論の対象によって左右されるのです。アダムセオリーは、理論的に機能すべきものや見栄えのよいものについて述べているのではありません。何が実際に機能するのかという一点についてのみ述べているのです。そして、アダムセオリーは平易であり、見栄えのよい複雑さは持ち合わせていません。

 私たちが知りたいのは、何が機能するのかという事実であり、それ以外については興味をそそられることではありますが、けっして重要なことではないはずです」

■第2章 おとぎ話

 皆さんは、この時点で、すぐにでもアダムセオリーの内容を知りたいと思われるでしょう。直ちにアダムセオリーが示唆する最も確率の高い将来の相場の動きについて知りたいと願うことでしょう。もちろん、これからその核心について次の20〜30ページをかけて説明し、この本を終わりとすることもできます。しかし、その場合、ほとんどの皆さんは、その内容を理解することも、その真価を認めることもできず、そして最も重要なことですが、アダムセオリーの恩恵を受けることもできないままに終わってしまうことでしょう。

 ジムは、アダムセオリーの概念についてのヒントを見いだしてから発展させるまでに、1年以上の年月を費やして集中的に研究を行っています。皆さんはこの本を読み終わった時点で、多くの内容はすでに知っていることだと感じることでしょう。それは、この本の内容があまりにも平易だからです。それは矛盾なのです。理解するまでは、本当に知っていることにはならないのです。知っていたつもりで実際には知らないものを理解するためには、なぜ本当の意味で知らなかったのかという事実を理解する必要があるのです。

 アダムセオリーについて最初から学ぶ必要があるのはそのためです。けっして先へとジャンプしてはいけません。辛抱強く、細心の注意を払って構成した本書に従い、一歩一歩進むことによって理論を正確に理解し、概念の美しさ、そしてその純粋性を味わってください。それでもなお、本書を読まれる多くの皆さんは、アダムセオリーを本当に理解することができないことでしょう。本当に理解するためには、実践、つまり、マーケットでの体験が必要なのです。

 では、以上を理解いただいたうえで、ジム・スローマンによる現代のおとぎ話を読んでください。

               ★★★★★

 「昔々、あるところにマーケットランドといわれる素晴らしい国がありました。そこでは、毎日、マーケットといわれる楽しいゲームが行われておりました。そのゲームは、毎日、上昇と下降が繰り返されるなかで、プレーヤーたちは、その結果について賭けるという簡単なゲームです。  ただし、ゲームの参加者は相場の方向についてそれぞれ自分の意見を持っているという厄介な問題がありました。

 参加者は意見だけでなく、その意見を裏づけるトレーディングシステム、分析手法、データ、そしてその分析結果を手にしていました。ダクティル数(Dactyl numbers)、ドンティフ波(Pdonfiff waves)、シャンドン線(Xandon lines)などなど。偉大なアーボットとカルジャンが開発した分析手法もありました。さらに、在庫、収益、キャシュフローなどに関する研究、占星術チャート、スペクトラル分析などの素晴らしい道具がそろっていました。マーケットの参加者は多くの素晴らしい道具を手にしていたのです。

 それでも、問題がありました。マーケットは分析結果と逆の動きをすることがあるのです。これにはみんな驚きました。人々は、なぜマーケットが道理に反する動きをするのか、長い長い論争を繰り返しました。そして、いつもマーケットの気まぐれが原因であり、分析手法やその分析結果は何ら問題はないという結論に達するのでした。

 ある午後、ひとりの参加者であるビーライト氏の身に何かが起こりました。彼は、もう以前の彼ではなくなったのです。彼はアザホフ数(Azerhof numbers)による分析手法をマスターし、マーケットランドでは、その道の達人と言われるほどの人物です。アザホフ数の分析によると、相場は上昇すべきとの明確なシグナルを発していたので、彼は大きな買いポジションを取ったのです。

 不幸にも、ビーライト氏が巨大な買いポジションを作った直後に相場は下落し始めました。それでもビーライト氏は、相場は上昇しなければならないことを知っていたので、特に心配することはありませんでした。でも相場という妙な生き物は、ビーライト氏の確信に無頓着のまま、どんどん下落し続けるのでした。私たちみんなが経験したことがあるように、ビーライト氏は心配になり、落胆するようになりました。それでも、ビーライト氏はそのうち相場が反転し、本来の動きに転じれば状況はすぐに改善することを知っていました。

 おとぎ話には子供がつきものですが、この話も例外ではありません。ビーライト氏には、5歳になるヒアナウ(Herenow)というかわいい女の子がいました。ビーライト氏が、悲しい運命をじっと見つめていると、ヒアナウが部屋にやってきました。重苦しい雰囲気を感じ取ったヒアナウは尋ねました。
 『どうしたの』
 『なんでもないんだよ。難しすぎるだろうけど、マーケットは上昇するはずなのにちゃんと動いてくれないんだ』
 『ダディー、この画面に書いてある線がマーケットなの』
 『そうだよ』
 ヒアナウはスクリーンに近づいて、目を凝らしてギザギザ折れ曲がった線をじっと見つめました。
 『ねえダディー、マーケットのことは何も知らないけど、この線はずっと下に落ちていくように見えるわね』
 『マーケットを知らないからそう思うんだね。ほら、アザロフ線はこんなにはっきりと上昇シグナルを出しているから、マーケットは上昇しなきゃいけないんだよ』
 『そうなの。でも、今は下に落ちていくように見えるわよ』
 『ヒアナウ、それだけじゃないんだ。メリンシャー周波数(Melinxar frequencies)はここでマーケットは上昇しなければならないとはっきりとシグナルを出しているんだよ』
 『でも、今は下に落ちていくように見えるね』
 『やはり分かってないようだね。アザロフ線とメリンシャー周波数が一致した方向を示すとき、マーケットはその方向に動かなければいけないんだよ』
 ヒアナウは困ってしまいました。そして、もう一度スクリーンをじっと見つめました。
 『ダディーの言っていることはさっぱり分からないし、マーケットについて何も知らないけど、やっぱりこの線はずっと下に落ちていくように見えるわね』
 ビーライト氏はしばらく考え込んでから、5歳の娘をじっと見つめて言いました。
 『ヒアナウ、もう一度言ってくれないか』
 『うん、いいわよ。マーケットは下に下がっていくように見えるわねって言ったのよ。何か悪いことを言ったの』
 『そうじゃないよ。そうじゃないんだ』

 その瞬間、ビーライト氏は何かに打たれるのを感じました。アザロフ線とメリンシャー周波数、そしてそのほか多くの手法を研究したこの年月が目の前でくずれていくのが見えました。彼は再び娘を見つめると電話をとり、すべての買いポジションを売り、さらに大きな大きな売りポジションを作りました。

 今ではビーライト氏は別人です。これまでアザロフ線やほかの手法の研究に費やした時間を、彼はゴルフや家族とのだんらんに充てているのです。友人たちは、うっとりするようなトレーディングシステムや分析手法、統計値にはもう彼がいっさい興味を示さない変人になってしまったと思いました。

 それでもビーライト氏はいっこうにかまいません。なぜなら、彼はばく大な利益を上げているからです」


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