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FAIクラブの投資法について
連載
第4章 売買の実際 その1 FAI投資法の心得と売買の道具
[1]売買技術がすべて
FAI投資法は銘柄を固定しない売買法である。銘柄を固定する売買のほうが「慣れ」によって有利であることは当然だが、低位株に限定し、「ダメなものがよくなる」過程を狙うのだから、銘柄を選別し、入れ替えていくことになる。ただし、巷にある「仕手株情報」のように日替わり的なものではないことを、まず認識していただきたい。
そして実践においては、「できる限り固定銘柄式」な売買を継続することが、利益を伸ばすことにつながる。そういう実践力を身につけていただくためのヒント・心得・練習方法を本章で書いていきたいと思う。
FAIクラブでは、徹底した分析と正しい討論によって、選定する銘柄の確率が極めて高い。しかし、その銘柄を買うだけで儲かるものではない。「上昇の予想が当たり、それを買っていたら誰でも儲かるに決まっている!」と反論があるだろうが、実際は断じて違う。メンバーから多くの成功者を出した'80年代において、損ばかりしていたメンバーが実在した。毎月の例会にもほとんど出席している人だったので、他のメンバーが一生懸命アドバイスを続けたにもかかわらず、とうとう成果を上げることができなかった。
銘柄が選定されるとメンバーを含めたFAI実践者は、独自に月足を見て、日々の価格を場帳(くわしく後述する)で見ながら、慎重に安値を拾う。ところがこの人は、市場のムードや証券会社のセールスの言葉で飛びつく悪い癖がしみついてしまっていたため、上がってきたところで「いよいよ大暴騰か!」と、分の悪い勝負に出て買ってしまう。安値を丁寧に拾った人たちが涼しい顔で利食い売りをする時期に順張りで買いついてしまうのだ。
利食いをした人が再び買い直しを狙う頃には、目先の高値で買った玉に嫌気がさし、他の銘柄を買うために損切りしてしまう。当然次の銘柄も順張りだ。
こんなことを繰り返していても、たまたま利益になるときもある。ところがそれが偶然であることに気がつかないから、間違ったやり方を続けてしまったのである。
その人だけはどうしても救えなかったのが会として残念でならないし恥なのであるが、「売買の技法=実践力が大切」であることを証明する例として書かせてもらった。
[2]売買技術とは
「売買技術がすべて」と書いたが、誤解のないように解説をしておくことにする。つまり「売買技術」とは何を意味するのか、どう定義できるのか、である。
売買を行うには、最初に投資法というものがある。「どういう銘柄を対象に、どういう動きを狙って売買をするのか」というものである。FAI投資法は文字通り投資法のひとつである。そして、その投資法(FAI投資法)に基づいて実際にポジションをつくって値動きを追いかけるのが、具体的な売買(実践)である。
実践は、それを実行する人によって違ってくる。きわめて個人的な、感覚的な、好みを強く反映したものになる。ただし、「個人的な好み」と「自分勝手」とは違うことをよく理解していただきたい。FAI投資法なのだから、実践もFAI投資法の範囲内でFAI投資法の目的に合った内容とならなければいけない。
こうして具体的な売買のイメージなり戦略が個人的に完成し、いよいよ実行に入るわけである。実行段階は、投資法や売買戦略を考えているときと区別しなくてはならない。値動きの中でポジションを持ち、心理的圧迫を受けながら素早い判断をしていく必要があり、戦略を見直しながら売買の決断をしてはいけないのである。なぜなら、戦略の段階に戻って考えるということは、「値動きを当てたい」と思うことであり、無限に答えがある、つまりは「絶対に答えの出ない」ことで悩むことになるからである。「明日の相場を当てる術は存在しない」という大前提のもとに投資法・売買戦略を立てたのである。
だから、売買の決断は、あらかじめ決められた戦略に応じて反射的に判断する作業が求められる。スポーツで、相手の動きやボールの動きに反応して動くのと同じことである。この能力が売買技術であり、頭で理論的に考えられる段階と明らかに違うものなのである。
[3]売買技術とは (補足)
売買技術の定義で、「頭で理論的に考えられる段階と明らかに違うものなのである」と書いたが、広義では反射的な売買行動に限定されたものとは言えない。なぜなら、最終的な(儲けることを目的とした)売買行動のために投資法を確立し、それに沿った戦略をつくっていくからである。
前述の通り、「戦略を見直しながら売買の決断をしてはいけない」のであるが、ポジションがゼロのときに売買結果を分析して、戦略、場合によっては投資法そのものやその投資法にたどり着いた経緯までも見直すことはあるわけである。
ただし、現実に売買の決断を迫られる場面では、やはり反射的に行動する必要があり、「言葉を喋る」「歩く」といった熟練した体の動きと同じレベルで行うことが理想である。たとえ試行錯誤の段階であっても、そういう自然体の行動をしなければ、売買結果が売買を見直すための正しいデータにはならない、と言える。
[4]狭い分野に徹すること
売買は技術である、という前提で考えると、銘柄をとことん絞り、その銘柄以外は一切見ないというやり方が基本となるが、FAI投資法は条件にあった銘柄を多く選定して分散投資するやり方である。このことについて説明したい。
一般的には「どの銘柄を買って保有するのが一番有利か」ということと「それを多くのデータをもとに当てよう」という株式投資が行われている。こういうやり方は「銘柄至上主義」であり、完全な「買い偏重」といえる。選別の基準が明確にないダボハゼ投資であり、我々プロは全面的に否定している。
株価の変動は目まぐるしいから、物理的に取ることの可能な場所はいくらでもある。しかし、相場を実行する上で実際に取ることのできる範囲は限定的になる。たとえば、1銘柄だけに限定した銘柄固定式の場合を考えてみよう。銘柄は1つだけだから迷いは少ないが、どこで仕掛けるかについては無限の迷いが生じる。物理的に利益になる可能性がある以上、それらをすべてモノにしたいと考えてしまいがちである。しかし、値動きにはいろいろなパターンがあり、どのパターンをどのように狙うかが明確になっていないと、感覚と技術を向上させて継続的に勝つことは不可能である。このように、絞って絞って確実な勝ちと被害の少ない負けを繰り返しながら、地味な作業を続けるのが相場の王道なのである。
では、多数の銘柄を選定するFAI投資法とダボハゼ投資と何が違うのか。
FAI投資法では、銘柄を固定しないかわりに銘柄の選定方法と売買のやり方を限定しているのである。FAIクラブでは1980年代の上げ相場で積極的に銘柄を選定して成功したが、1988年には「相場が過熱しているので危険である」と判断し、銘柄の選定をせずに下げ相場のカラ売りを準備し始めた。予想通りに、1989年は指数がジリ高で市場はにぎわっていたのに個別の銘柄の伸びは悪く、1990年からご存じの大暴落の始まりとなった。下げ相場の中、「地味なカラ売り」、あるいは「休み」の方針で臨み、再びFAI投資法に当てはまる銘柄(月足の形)が出るのを待ったのである。
その間、店頭株が動こうが、IT関連がバカ上げしようが、一切目を向けなかった。また、暴落の最中に、対象とする東証1部で安値から2倍、3倍の値上がりをみせた銘柄もあったが、結果だけを見て「逃した、損した」と考えることはせず、ひたすらFAIの型にきっちり当てはまるものが出るまで、12年間待ち続けたのである。
ここまで徹底することで、一見アマチュア的でありながらしっかりしたプロの投資法として成り立っているのである。
かたい説明になってしまったが、銘柄固定式がしょうゆラーメン専門店なら、FAI投資法はさしずめ点心の専門店である。
[5]場帳
場帳の例
日付 |
1333
マルハ |
2000/7/3 |
170 |
2,841 |
4 |
163 |
2,079 |
5 |
162 |
737 |
6 |
166 |
1,675 |
7 |
161 |
375 |
10 |
163 |
787 |
11 |
162 |
476 |
12 |
160 |
464 |
13 |
156 |
812 |
14 |
158 |
285 |
17 |
156 |
212 |
18 |
153 |
263 |
19 |
151 |
552 |
21 |
148 |
477 |
24 |
148 |
431 |
25 |
148 |
640 |
26 |
148 |
304 |
27 |
149 |
1,426 |
28 |
141 |
800 |
31 |
134 |
482 |
8/1 |
137 |
687 |
銘柄の選定では月足(ローソク)を使用する。そして、実際の売買では日々の終値と出来高を手書きで記した場帳を使用する。
銘柄選定後にも月足は描き足しながら見ていくが、「1ヶ月上がって1ヶ月下がった」というような細かいうねりは、やはり日々の動きを見ていかないとわからない。だから、例のように日付と終値を数字で書いていく場帳というものを使用して、具体的な売り買いのタイミングを決めていくのである。
この場帳というものは、たいへん合理的なやり方である。馴染みのあるチャート(日足ローソク、日足終値折れ線)にしないとわかりにくいという方が多いが、大局、あるいは中期的な上げ下げを見るために月足を使うので、日足チャートは使ってはいけない。
<場帳のつけかた・見方>
- 左に日付を書く
- 各銘柄の終値と出来高を書く
- 土・日・祝日(立会のない日)の日付は書かない(金曜日の次の行は月曜日になる)
- 自分の売買など余分なことを一切書き込まない
- 終値だけのシンプルなデータで、株価のうねりを見る
- 変動の値幅よりも、うねりの山・谷の日柄(日数、時間の経過)を注意する
(見方については、あとで詳しく述べる)
●場帳の用紙について
場帳は、林投資研究所オリジナルの用紙がある。
(オンライン注文の詳細ページはここ)
B4サイズ縦長で、横に1枚に6銘柄、62日分を書くことができる。線の色は茶色で、黒のペンで書き込んだとき、とても見やすくなっている。また、「B4サイズで62日分」が大きさも適当であり、株価のうねりの日数(平均約60日)を考えても、使いやすいようにつくられている。
※「1枚に6銘柄」だから、10枚あれば60銘柄書くことができるが、各ページにびっしりと数字が書いてあると、見ていてイヤになる。私の場帳では、コード番号順に、「1枚に2銘柄だけ」のページもあれば、「1枚に4〜5銘柄」のページもある。別に業種を気にしたりすることはないのだが、コード番号順になっていれば新聞あるいはパソコンから書き写しやすい。また、適当に隙間を空けてページ毎にアクセントをつけ、新しい銘柄が出たときに入れることができるようにしているのである。
[6]月足と場帳について (1)直接法と間接法
価格データを処理する方法に、直接法と間接法という区別がある。直接法は価格データを一切加工しないやり方で、間接法というのは、さまざまな加工を行うものである。FAI投資法で使用する月足も場帳も直接法である。
間接法で代表的なものは移動平均線である。実際の値動きをチャートとして描き、そこに実際の値動きとは別のデータ(値動きからつくったものだが)を重ねて描く。他にも統計処理の数学を使って何らかの数値を導き出し、チャートに重ねたり単独で判断の基準に使用するものが無数にある。
個々の解説は省くが、間接法は安易に用いるべきものではないと考えている。
間接法は、
- 実際の値動きをもとに
- 実際の値動きとは異なるもの(データ)をつくり出し
- それによって売買の判断を行い
- 最終的に対象とするのは、実際の値動き
というプロセスになるから、複雑になってしまう。結果、売買結果を見直したり売買の判断について見直したりする際の基準をつくるのがむずかしくなってしまう。つまり、売買のためのノウハウの積み重ねが正しくできないわけである。
もうひとつ、どこまで売買の判断として有効か、という問題がある。前述のようにプロセスが複雑という理由から、「確率が落ちるはずである」と考えることができる。もちろん、データの加工の目的が「予測不能の相場において何らかの絶対的な法則を見いだそう」というものであるから、「確率が落ちる」と言い切ってしまうと反論を招くことになる。
だが、一時的に通用するものならともかく、普遍的な法則があるのなら、市場そのものが成り立たないことになる。だから「予測は当たらない」という前提で、1.資金の運用、2.そのための具体的な売買技法、3.売買技法に影響する心理的要素(売買技法に含まれるのだが)、4.利益を正しく蓄積していくための心得、を考え、「予測=とりあえずの行動のきっかけ」と割り切ってしまうのが相場技術論なのである。
だから、データはできる限りシンプルにとどめ、相場技術を積み重ねながら売買を継続していくことに集中しよう、というのである。
[7]月足と場帳について (2)日足チャート禁止
『[5]場帳』のところで、「月足を使うので、日足チャートは使ってはいけない」と書いた。このことについて、詳しく説明する。
月足は、毎日の株価を月という単位で区切り、それを視覚的に見ることを目的に白黒の四角と上下の線(ヒゲ)にして表すわけだ。データそのものを加工していないから直接法なのであるが、厳密に言えば加工されていることになる。株価に白や黒の色がついているわけではないのだから。
では、日足チャートはどうであろうか。FAIの月足のようなローソクではなく、終値の折れ線チャートで考えてみよう。日々の終値を点で表し、横軸(時間の経過)は1日=2mmとして書いていく。そして、終値(の点)を線で結んでいく。これもやはり一種の加工である。
チャートは視覚的に動きをとらえるために、厳密な意味では加工されたもの、ということになる。だから、月足と日足のチャートを一緒に使った場合、絵として表現された価格情報が2種類混在することになり、「感覚で相場を見ていく」という実践の段階で混乱してしまうことになるのである。複数のデータを同時に見る場合、それらは「儲ける」「適切なポジションを取る」という目的のための判断の基準として正しく整理・混合される必要がある。しかし、ピタリ将来の価格変動を当てることができないのだから、限界は以外と低い。それでも「当てたい」と考えてしまうから、限界を越えて多くのデータを集め、迷いと後悔しか生まない進歩のない状況に陥ってしまうのである。くどいが、相場の判断のために使う情報はシンプルなほどよい、のである。
多少の無理は承知で、例を出してみたい。
自動車にバックミラーがついているが、両サイドについているサイドミラーと、真後ろが写るルームミラーがある。写る場所が一部重なるが、それぞれの役割があってお互いの欠点を補っている。しかし、屈折率の異なるルームミラーをもうひとつつけていたら、2つのルームミラーに写る大きさの違う後方車の情報で混乱してしまうだろう。
では、同じく車に関連して地図を考えてみよう。目的地に行くために、まず高速道路と降りたあとの大きな道路をチェックする。そして、目的地付近は縮尺の違う地図で細かい道を確認することになる。つまり、2種類の地図をつかうわけだ。この2種類の地図を月足チャート・日足チャートの同時使用と同じである、と言う人がいるが、これは間違い。地図は現実に存在するものをそのまま絵にしたわけで、絵にするためのデータ作成の方法が最初から違う月足と日足に当てはめることはできない。地図の縮尺の違いは、「近づいて見るか離れて見るか」の違いと同じなのである。
さて、それでも「理屈は納得するが、帳簿のように数字を並べた場帳というのは抵抗がある」「値動きのうねりをとらえるのなら、やはりチャートではないか」と感じてしまう人も多いことだろう。スムーズに「月足と場帳」の形がやりにくいのなら、一時的に場帳と終値折れ線の日足を併用する方法がある。そして、日足の折れ線チャートで見た値動きが、場帳ではどのように見えるかを確認するのである。ただし、あくまでも一時的な「補助車」である。数銘柄だけにとどめ、できるだけ短い期間でやめるようにするべきである。それと、日足ローソクはいけない。場帳は終値だけで日足は4本値、月足と日足が同じローソク足、では具合が悪いことになる。
[8]相場の確率
「予測は当たらないということが前提」と述べた。すると、「FAIクラブの選定銘柄は100%が目標の2倍以上になった」ことに、当然疑問が出るであろう。このことについて説明する。
「将来の株価を予測することが困難」である以上、予測を単なる行動のきっかけとして、ポジションおよび資金の管理と、それを行う司令塔となる自らの精神の管理が相場の決め手となる。だから、一般に言われるような確率(勝率)は問題ではない。だが、予測の確率が高い方がいいに決まっているが、そこに注力すれば相場の現実を無視した机上の空論となり、実用に耐えない理論しか生まれないのである。
ところが、徹底してやることを狭い範囲に絞り、現実的なことをきちんと考えていくと、結果として確率が上がるのだ。FAIクラブがバブル崩壊の暴落を回避したのも、倒産銘柄を避けて効率よく低位株を選定できたのも、そうした正しいアプローチを守っているからだ。いくら特別な状況だったとはいえ、FAIクラブは12年間も休むことが実行できたのだ。巷に見られる「いま、どの銘柄を買って保有するのがいちばん有利か。それを当てよう」というものとはまったく違うのだ。どんな投資法でも同じだが、徹底しているから他と差をつけることが可能になるのである。
[9]下げ止まったか、まだなのか
ルール15 買うときは2分割またはそれ以上の分割で。細かく分けるときは下値ほど厚く買う。
徹底した分析と銘柄選定があり、それに確信を持ってはじめて「買い注文を出すタイミングを計る」ことになる。それでもなお、雑にならないように慎重にポジションをつくっていくのだ。10,000株ずつ買う資金があっても、最初は必ず1,000株だけ買い、その後適度に分割していくのだ。(その銘柄について)ポジションを持っていないで場帳(値動き)を見ているのと、1,000株でもポジションがあって見ているのとでは、感じ方がまったく違うのである。よくある間違った買い方は、「買わないうちに上がったら悔しいと思っているうちに、欲しくてたまらなくなり」まとめてバンと買ってしまうやり方である。常に感覚で判断するのだから、感覚が狂わないように、鋭敏になるように、注意を払う必要がある。
「下値ほど厚く買う」とある。分割で買うのだから、買い値は毎回違ってくる。簡単な2分割を考えてみよう。210円で1,000株買い、次に200円でもう1,000株買ったとする。平均は205円だ。しかし、下値の200円で2,000株買ったら(合計は3,000株になる)、平均は203円33銭となり、株数の変化によって平均値を有利にすることができるので、そういう工夫をしなさいということなのだ。しかし、絵に描いたように事は運ばないから、あまり神経質になることはない。2,000株以上買う場合は、分割で丁寧に安値を拾うと理解すればいいだろう。
それよりも、場帳で値動きをどう追うかが問題である。FAIでは、銘柄選定の段階で慎重に慎重に分析をしているから、選んだ銘柄は「大底をつけ、買い安心」という前提で進めていいことになる。値動きの波を見ながら、ただひたすら「下げ止まったか、まだか」を考えることが大切である。最初わからなくても、真剣に日々の作業を続けていくうちにある程度感覚でつかめるようになってくる。低位株の安い位置ほど動きがおとなしく、比較的きれいな上げ下げをみせるから、非常にわかりやすいのである。
[10]株数と銘柄数 (1)最高で24銘柄
FAI投資法は、銘柄を分散する投資法である。最初に、資金に合わせた銘柄数と株数を計画しておく必要がある。
FAIでは、30項目のルールには書いてないが、銘柄数は最高で24銘柄としている。ひとりで管理する限界が24銘柄ということである。もちろん、24銘柄といっても、決して「いつも24銘柄持つ」ことではない。また、「対象銘柄を24銘柄に固定する」ことでもない。個別に場帳でうねりを見て売買しながら、「同時に保有する最高銘柄数が24」という意味である。
FAIクラブでは、1999年末頃から12年ぶりに銘柄を選定しはじめ、積極的に増やしている。この原稿を書いている2000年9月末現在、注意銘柄25銘柄、買い銘柄35銘柄、合計60銘柄を注目している。(選定銘柄、その他は林投資研究所発行の「研究部会報」に掲載している)
まず、注意銘柄として選定し、その中から「そろそろ買ってもいいのでは」と思われるものを買い銘柄に昇格する手順である。これからも銘柄数は増えそうである。そして、すべての選定銘柄について場帳をつけ、月足を見て追跡しているのだが、実際に手がけるのは常に24銘柄を限度とするわけである。
現実には20銘柄以内がやりやすいようである。ただし、3銘柄とか5銘柄に限定するやり方はおすすめしない。いいかげんに選定しているわけではなく、すべての銘柄を真剣勝負で選定しているのだが、現実の売買では分散して売買した方が明らかにやりやすい。FAIクラブで選定しているものは、(1)下げきって、(2)買い安心、なのであるが、低位に甘んじている銘柄だけに人気がつくまでに時間がかかることがあり、それを当てようとすることに無理があるからである。
[11]株数と銘柄数 (2)株数は均一に
分散して買うのだが、銘柄によって差をつけないことが大切である。
- だいたいは均一に買うが、特に有望なものは株数を増やす
- 基本的には均一に買うが、「いよいよ動きそう」なときに乗せれば効率がいい
という意見があるが、そんなことが簡単にわかれば苦労はない。FAIクラブでは銘柄選定に自信を持っているが、細かいところなど当たるはずがないから考えない。当てることが無理なのは前述の通りだが、それは、ある程度動いてきて(底から放れて)からでも同じである。リズム良く動いているときも少なくないが、保合の期間もあり、時期と値幅をピタリ当てることはむずかしい。むずかしいことをやろうとすれば自分のゲームが狂うからやらないのである。
株を買うとき、ダメだと思う銘柄を買うことは絶対にない。「これこそ」と思うから買うのである。しかし結果はどうであろうか。当たるも八卦。そんなうまい話は転がっていないのである。それでもやっていれば大当たりがあるから、「今度こそはあのときのように」とばかり、力が入ってしまう。余分な感情が入れば、失敗の時に損を大きくし、うまくいったときも思うように取れないものである。
選んだ銘柄の細かい部分を気にしてゲームを壊すより、余分な感情の起伏をつくらずに淡々と売買を続けるようにしなくてはいけない。
また、価格に応じて差をつけようという考え方がある。
選定された銘柄は低位株のみであるが、そもそも低位株という定義が存在しない。かなりアバウトに価格帯を相対比較した言葉である。FAIクラブでも明確な定義はしていない(一応「400円以下」としている)。もちろん下限はないから、100円前後の銘柄もあるのだが、それでも上下最大4倍の開きがある。たとえば1,000株ずつ買ったとしよう。いちばん高い400円の銘柄は40万円だが、安い100円の銘柄はたったの10万円。これは具合が悪いというので、
- 400円のものは1,000株で100円のものは4,000株。もし200円の銘柄なら2,000株買えば金額がそろうから合理的である
というわけだが、これもいけない。なにがあっても1,000株ずつなら1,000株ずつ。資金が大きくて10,000株ずつなら10,000株ずつ買うのが正しい。機関投資家ではないのだ。数字で考えるのではなく、自分の心理を安定させる方法を選ぶのがプロのやり方である。
[12]運用効率を考える (1)資金の余裕
30項目のルールの付則に、
資金の2割以上は常に余裕を持つ
というのがある。昔から「凧の糸と相場の資金は出し切るな」と言われ、資金に余裕を持つことが大切なのだが、この加減がむずかしい。「2割余らせろ」と言われても漠然としている。相場の状況はそのときどきで違うからである。
具体的な例を出して説明しよう。
- 資金500万円
- 各1,000株ずつ買う
- 買う銘柄の平均は250円
資金の8割(残りが2割)は400万円である。400万円で1銘柄250円平均なら16銘柄買うことができる。では、(全体に安く)いい買い場であると判断したら、場帳を見ながら16銘柄買えばいいのかというと、そうではない。早く(下げきらないうちに)買ってしまう、あとで買いたい銘柄が出てくる、のが常だから、資金の半分で10銘柄くらいに抑えておくと、後で「残しておいてよかった」ということになる。
また、選定銘柄全体が上げ基調で回転がきいているときでも、調子に乗って余裕資金をなくしてしまうと、どこかでおかしくなるものである。たとえば95%の475万円買ってしまったとする。こういう場合は、次々利食いになっているものだが、「やりすぎたときは、多少の損を出して整理すればいい」とは考えにくいものなのである。「もっともっと」の気持ちばかり先走っているから95%も買ってしまうのだ。気持ちが高揚し、ゲームが狂い、狂いながらも市況がいいから気がつきにくく、気がついたときには「高値でお腹いっぱい」買ってしまっていることになる。冷静でいれば、そこから気持ちを新たに「売却優先」で修正できるのだが、狂っているからそれができない。
こういう悪循環にならないように、資金の余裕は多いほどよしということになる。このルールは、
何か追加で買いたい銘柄が出たときにパッと買うことができる
そして、追加で買った後でも必ず2割の資金が余っているようにしろ、
という意味である。
[13]運用効率を考える (2)心の余裕
損することを前提に相場をやる人はいない。「儲かる」計算で売買をはじめるに決まっている。となると、「計算したうえでやるのだから、資金いっぱいにやるのが正しい」と考える人がいるが、大きな間違いである。「だって、もしダメだったときは売買を中止して見直すのだから、それで問題ないはずだ」と反論されるが、正しいようで間違っている。
すぐれた売買法であっても、当たり外れ、つまり成績には波がある。これはあたりまえ。外れをゼロにするには、「将来の価格を確実に予測する」以外なく、タイムマシンが必須になるからである。タイムマシンはまだ発明されていないので、ないものとして話を進める。
わかりやすく、システム売買を仮定してみよう。システム売買とは、
- 値動きその他の数値から数式で判断し
- 売買の判断、数量の判断を行う
というものである。人間の感覚を一切排除することが前提で、もし何らかのひらめきをシステムに盛り込みたかったら、そのひらめきを数式にしてシミュレーションをした上で、パフォーマンスが向上するとという結論が出たら、その数式(ルール)を追加するのである。
さて、「人間の感覚を一切排除することが前提」なわけだが、最終的には人間がそれを見て決断し、人間が注文を出すのである。たとえば3ヶ月なり半年なりの間、売買システムが自動的にネット取引で注文を出す、というようなことを、やってみる気がするだろうか。よほど金持ちの物好きか、よほど少額の資金なら別だが、ふつうは絶対にやらない。つまり、完全に感情を排除しようとするシステム売買においても、やはり感情を無視して考えることはできないのである。
(詳しくは、拙著「絶対のパソコン投資術」をお読みいただきたい)
いいときは必要以上に気持ちが高揚し、悪いときは必要以上に落胆したり不安になる。人間とはそういうものである。相場の場合、儲けようと無理をしてしまう方向に偏るものだから、悪循環になってしまうことが圧倒的に多い。買ったが上がらない。待っているうちに下がってきた。資金の余裕は少ない。そんな状況になると、もう冷静に判断することはできない。ふだん気にしないような些細な情報にまで敏感になり、ホッとしたり不安になったりを繰り返し、売買をはじめるときに考えていた作戦などまったく忘れてしまう。
こういう馬鹿馬鹿しいことにならないように、資金に余裕を持ち、悪循環に陥らないように注意をしながらコツコツ進んでいく。その結果、利益が安定し、長期のパフォーマンスは飛躍的に向上することになる。決して絵に描いたような好循環を期待しないこと。物理的な可能性はあっても、現実的な可能性は常識の範囲を超えないのだ。株式市場は経済の一部分であり、不特定多数の投資家が利益を奪い合う現実の世界なのである。
[14]資金の管理 (1)玉帳
売買をやるときに大切なのは帳面である。帳面がきちっとしていない会社は、良い営業をしていてもいつかおかしくなる。個人の売買だって同じである。きちんとした売買の帳面をつけ、「資金を管理する」「資産を運用している」ということを認識し、真剣にならないとダメである。一般的な個人投資家は、この売買の帳面をつけていない。相場の勝ち負け以前の問題である。
どんぶり勘定で売買する
相場の状況で資金を増減させる
他のものに使いたくなったら、資金を減らす
商売で一時的にお金が余ったら、銘柄を物色する
こんなやり方では儲からない。気分で資本金が増減するのと同じである。やはり、資金を一定金額固定して、その資金をどう動かすかを考えるのが正しい。
用紙はなんでもかまわないが、(1)見やすく、(2)保存に耐える、ものでないといけない。すぐにヨレヨレするような紙では具合が悪い。林投資研究所では、見やすいように茶色の線で印刷した用紙を販売している。(写真はこちら→FAI玉帳)
この用紙の右側には損益を集計する部分があるが、Web上で見づらいといけないので、それを除いた売買の記録部分を下に例として示す。
玉帳 記入例
2000年−1 |
銘柄 |
売 |
買 |
利 益 |
余裕資金 |
月日 |
株数 |
値 |
金額 |
月日 |
株数 |
値 |
金額 |
摘 要 |
増 減 |
残 高 |
|
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|
新規 |
10,000,000 |
10,000,000 |
四国化成 |
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10/11 |
1 |
351 |
355,237 |
|
|
-355,237 |
9,644,763 |
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[15]資金の管理 (2)他の資産との分離・分別
前項で「相場の資金は一定金額を固定しろ」と書いた。理由は2つある。
まず1つめの理由だが、固定しておかないと、戦略が狂ってしまうからである。
もし高値づかみが増えてきたところで資金を追加したらどうなるだろうか。急に余裕資金が増えるから、高値づかみしたことに気がつかないでポジションを増やしてしまうだろう。では、相場の資金を大きく減らさなければならない事情があったら、問題となる値動きではなく、その事情を考えながら相場を見なければならなくなってしまう。ただでさえ不安と期待が突出しやすいのに、まともに売買が続くわけがない。
2番目の理由は、いま述べた「相場の根底にある不安と期待」である。思ったより利益が出たときは「もっと資金をつっこんでおけばよかった」と思い、損が続くと「資金を抑えておけばよかった」と考えてしまう。将来のことを知る方法がないのに「知ろう」と思う、「知らないと苦しい」と感じてしまう。つまり、自分自身で自分の心を惑わせるよけいな情報を作り出す、最悪の状態になるのである。
『運用効率を考える (2)心の余裕』では相場資金に対する稼働率について述べたが、資産全体のバランスがとれていなければ利益もあがらない。余分な気持ちの高揚や、過度の落胆・不安を生まないように資産を配分し、その配分に対してとことん納得した上ではじめて、売買というゲームに純粋に集中できるのである。
この連載は「FAIクラブの株式投資法」(林投資研究所「研究部会報」の連載コピー)より要点をまとめて補足説明を加えたものです
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