2017年9月発売/A5判 496頁
ISBN978-4-7759-7222-9 C2033
定価 本体3,800円+税
同著者書籍 |
著 者 リチャード・L・ピーターソン
監修者 長尾慎太郎
訳 者 井田京子
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リチャード・ピーターソンは、トレード心理について書いたデビュー作の『脳とトレード』(パンローリング)で、一流投資家が感情を管理することによって優れたパフォーマンスを上げていることを示した。そして、本書では群衆心理の内側に迫り、価格パターンが存在するだけでなく、最も予想可能なパターンは私たち人間が持つ性質に根付いていることを教えてくれた。
ピーターソンのチームは、ソーシャルメディアからデータ(トピックスや考えや感情)を取り出すためのテキスト解析システムを開発した。そして、そのデータに基づいて、ソーシャルメディアに基づいたマーケットニュートラルなヘッジファンドを作り、2008年の金融危機を含めた期間にS&P500を24%以上上回る好成績を上げた。この画期的なガイドは、その方法となぜそれがうまくいったかを解説している。アルゴリズムをソーシャルメディアのデータに応用することによって、定義が難しい投資家のセンチメントが生み出すマーケットのパターンについての洞察という前例のない世界が開ける。
ここで、あなたは、投資家を動かすニュースやソーシャルメディアのテーマに対する特別な見方だけでなく、どこか違うと感じても賢く動くために長期的な実績があるテクニックも学ぶことができる。本書は、テクニカルとファンダメンタルズを奥底まで掘り下げ、市場価格を動かす最大の要因である情報のグローバルな流れとそれに対する投資家の反応について説明している。競争力となるエッジを身につけ、リスクを管理し、時に人間の不備がある性質を克服するために必要な専門的指針を与えてくれるのだ。トレーダーがセンチメント分析と統計ツールを使いこなせるようになれば、次のことができるようになだろう。
本書は、あなたのマーケットの理解を深め、価格が上昇しようと、下落しようと、横ばいで動かなくても、利益を上げるためのツールとテクニックを授けてくれる。
リチャード・L・ ピーターソン |
「マーケットでも、ポーカーでも、エッジを持っていなければ、プレーをすべきではない。マーケットにおけるエッジは、3つの要素――情報・分析・人間の行動――から得ることができる。ただ、最初の2つは、世界が変化し続けるなかで、手に入れるのも難しいし、それを更新し続けるのはさらに難しい。一方、人間の性質である恐怖と強欲のサイクルは不変であり、持続可能な競争力を与えてくれる分かりやすい基盤となってくれる。しかし、これまではこの無尽蔵に近い潜在利益の源泉に関する総合的な指針がなかった。本書は、資本市場での人間の行動に関する世界的な研究者であるリチャード・ピーターソン博士が書いたこの分野の卓越した本である。真剣な投資家は全員、この素晴らしい本を読むべきだし、そうすれば将来にわたってその配当を受けることができるだろう」――ビル・ミラー(LMM LLCの会長兼CEO)
「この本は、ただのトレード本ではないし、ただのセンチメントに関する本でもない。これは金融市場の参加者の感情の温度変化を把握する方法を教えてくれるものなのである。ピーターソンは、真の洞察力を持つ人物で、活発な投資家が膨大な金融データを情報とトレードの経験則に変換して利用できるテクニックを早くから開発していた。もちろん、金融市場はリスクが高く、複雑で、理屈どおりにはいかないといういつもの警告は有効だし、期待利益に対するリスクの測り方について、まだ学術的に一致する見解には至っていないのだからなおさらだ」――ハーシュ・シェフリン(サンタクララ大学マリオ・ベロッティ金融学部教授)
出版記念インタビュー |
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監修者まえがき
序文
謝辞
第1部 基礎
第1章 知覚と脳
第2章 心と感情
第3章 情報処理
第4章 センチメンタルマーケット
第5章 ノイズのなかのシグナルを探す
第2部 短期のパターン
第6章 情報の影響
第7章 1日の反転
第8章 1週間の欺き
第9章 唯一恐れるもの
第10章 うわさで買う
第3部 長期パターン
第11章 トレンドと価格モメンタム
第12章 バリュー投資
第13章 怒りと不信感
第14章 リーダーの心理
第15章 不確実性のなかを進む
第4部 複雑なパターンと珍しい資産
第16章 選択性
第17章 バブル崩壊
第18章 バブルのピークを知る
第19章 商品市場のセンチメント分析
第20章 通貨の特徴
第21章 経済指標
第22章 センチメントのレジーム
第5部 心を管理する
第23章 心の健康
あとがき
付録A トムソン・ロイター・マーケットサイク指標を理解する
付録B 経済活動をモデル化する手法
用語集
著者について
ところで、金融市場は複雑でランダムな系であることが知られている。このため、それをより良く理解するためには、アシュビーの最小有効多様性原理に従えば、対象となる系と同等の高度な複雑性を持った概念の適用が本来妥当である。しかし、ファイナンスの世界では「合理的経済人」や「情報の完全性」といった大胆な仮定を置いたうえで議論を進め、クロスセクション分析によるファクターを線形結合した極めて単純なモデルに権威が与えられてきた。これらはあまりにナイーブすぎて、実際の投資やトレードではほとんどモノの役には立たなかったが、人々の直観や素朴概念にマッチし説明がしやすいという長所があったために、一般向けの投資戦略の多くはその理論を基に構築されている。こうした「理解しやすいがちっとも儲からない」ものを投資家が真に望んでいるかどうかは私には知る由もないが、一方で、これまで金融の世界では非線形の複雑なモデルを構築するのに必要なデータ数や要素技術が十分でなかったのもまた事実である。
しかし、ここ数年のAI(人工知能)関連技術の興隆は、こうしたパラダイムの前提をすべて覆してしまう可能性を持っている。機械は先入観や認知バイアスを持たずいくら働いても疲れないゆえに、ビッグデータおよび深層学習をはじめとする新しい技術によって、人間の限定合理性の限界を軽々と超えていき、金融の分野においても新種の形態の知識創造をもたらす。著者がCEO(最高経営責任者)を務めるマーケットサイク社でもビッグデータをテキストマイニングによって処理し市場のセンチメント分析を行うことで、これまで簡単には得られなかった社会全体の集合知の獲得を可能にしている。こうしたアプローチ以外にも投資の分野へのAIの適用は、エキスパートが持つ暗黙知の形式知化やまったく新しい知識の創造、およびそれらの実装化を容易に実現する。
それでも、これら最先端技術の成果物は、その複雑さが多くの人の理解できるレベルをはるかに上回っているために、受け入れには心理的な抵抗が発生することだろう。だが、車の自動運転技術がその確立から長い年月を経て結局は社会的に認知されたように、人間の考え方もまた時間と共に変化していく。いま私たちは、資産運用の分野でも、これまでのように低い説明力には目をつぶって人間がすべてを判断する透明性の高いモデルを使い続けるか、それとも一部の意思決定プロセスを機械に委ねてでも優れた結果を追求するのかを選択する岐路に立っている。これが本書が私たちに突き付けた真の問いの一つである。その答えはそう遠くない未来に明らかになることだろう。
最後に、翻訳にあたっては以下の方々に感謝の意を表したい。井田京子氏は正確な翻訳を行っていただいた。そして阿部達郎氏には丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、パンローリング社の後藤康徳社長のおかげである。
2017年8月
投資先を選ぶためにまず見たのが地元紙だった。私は株式欄の細かい文字を読んでいったが、これらの数字が何を意味するのかまったく分からなかった。最初の行き詰まりだった。そこで、プランBとして図書館に行くと、職員にエレクトロニクス銘柄とダウ理論を称える1960年代のほこりをかぶった本を勧められ、「ここに探しているものはない」と思った。私が知りたかったのは大昔のことではなく、今、何を買うかだった。
次に、私は本屋に行った。すると、若い店員が案内してくれた雑誌コーナーで最初に手に取った雑誌に、1985年の成長株トップ10が載っていた。「これだ」と思った私は、家に帰るとブローカーに電話をかけて、トップ10銘柄を少しずつ買った。
それから2〜3カ月、私は株の動きをあまり見ていなかった。そして1年ほどがたち、そろそろ良いころだと思って証券口座を確認することにした。当然、素晴らしい利益になっているだろうと思っていた私は、ブローカーが私に助言を求めてきたらどうしようなどと空想を膨らませていた。ところが、いそいそと開いた取引明細書の残高は、信じられないことに、20%も減っていた。
混乱した私は、再び本屋に行った。これまでのいきさつを別の店員に話すと、彼は見下したように「それは明らかに買った雑誌が悪かったんだね」と言った。私は「そのとおりだ」と気づいた。前の人よりも賢そうなことを言うこの店員の助けを借りて、私は1986年の最もイノベーティブな株トップ10が載っている雑誌を買った。家に帰るとこのうちのいくつかを買い、少し待つことにした。今回はもう少し株価に注意を払い、最初の3カ月の残高は順調に増えていった。気を良くした私はこれで軌道に乗ったと思い、再び株の天才投資家と呼ばれることを夢見た。
それから1年後、9カ月の空白期間を経て、私は直近の取引明細書を開いた。損失は前回以上だった。残高は、最初の水準から50%近く減っていたのだ。「そんなはずはない」と思った私は、おずおずとブローカーに電話を掛けてみたが、損失額に間違いはなかった。
私は、専門家だけが知っていることを理解したいと思い、ベンジャミン・グレアムやピーター・リンチといった投資の権威が書いた本を読み始めた。これらの本は、ファンダメンタルズだけでなく、心理についても教えてくれた。過去に大成功を収めた投資家の多くは投資家の行動を理解し、その知識を投資活動に利用しているようだった。ロスチャイルド金融王朝の一族のひとりであるネイサン・フォン・ロスチャイルド男爵は、1812年に「大砲の音がしたら買え、トランペットが聞こえたら売れ」と投資家に指示した。ベンジャミン・グレアムは、「悲観主義者から買い、楽観主義者に売れ」と書いていた。ウォーレン・バフェットは、これを現代風に「みんなが強欲になっているときは恐れ、みんなが恐れているときは強欲になりなさい」と言っていた。これは役に立つ指針に見えたが、具体性がなく、簡単に行動に移すことはできなかった。
心理学に基づいた投資の助言は、あまりにあいまいだった。もっと明確な指針が欲しかった私は、大学でエンジニアリングを学ぶことにした。数学と数理モデルを深く理解することは、投資における本当の強みになると考えたのだ。
私が作った予測システムは、最初は有望に見えた。基本的な価格パターンを見つけるアルゴリズムは、アウトオブサンプルでの検証においても妥当な精度を示していたからだ。そこで、私はこのシステムを実際のトレードに使ってみることにした。それから3年間、私はこのシステムの方向シグナルを使ってS&P500先物をトレードした。
このシステムは最初はうまくいっていたが、使っているうちに2つの問題が出てきた。まず、計量分析でアルファの減衰と呼ばれる現象(良い数学的トレードシステムの利益率が少しずつ下がっていくこと)が出てきたのである。私のモデルは、1980年代と1990年代の「訓練」データではとてもうまく機能していたが、1990年代後半になると利益率は毎年下がっていった。もしかすると、ほかのトレーダーも同じパターンを見つけてアービトラージを行っていたのかもしれないし、マーケット自体が変わってしまったのかもしれない。
2つ目の問題は、個人的なことだった。特に悪いニュースで価格が下落しているときに買いのシグナルが出たり、マーケットが高騰しているときに売りのシグナルが出たりすると、間違っているように感じてしまうときがあったのだ。これを実行するにはみんなと反対にトレードする必要があったが、それが気持ち的には難しかったのである。頭ではトレードシグナルを選り好みすべきではないと分かっていても、言い訳を見つけて計画どおりにトレードしないことが多すぎた。この行動をあとから分析してみると、良いシグナルほど、感情的には従うのが難しいと分かった。しかし、トレードの成績を上げるためには、自分自身とも戦わなければならなかった。
2つの問題を合わせて考えると、マーケットで最も耐久性が高いエッジ、つまりアルファの減衰が最も起こりにくいエッジのカギは、潜在的な危険を無視して他人と同調してトレードしたくなる情報と感覚(センチメント)の特定にあるのではないかと考えるようになった。センチメントには、トレーダーを引き込み、繰り返し惑わす力がある。私はセンチメントを数値化することで、その犠牲になるのではなく、むしろ利用したいと思った。そこで、センチメントを把握するための研究を始めた。
医学部の4年間と、精神科の研修医としての4年間に、私は意思決定について研究した。また、研修期間中に投資家のコーチングも始め、その過程で成功するトレーダーの非常に人間的で、非常に多様な性格についての理解を深めていった。
研修期間が終わるころ、私はスタンフォード大学のブライアン・ナットソンの下で神経経済学の博士研究を始めた。ナットソンの研究室では、金融リスクをとる被験者について、fMRI(機能的磁気共鳴映像装置)や心理テストなどのツールを使って研究していた。この研究については、『脳とトレード――「儲かる脳」の作り方と鍛え方』(パンローリング)に詳しく書いた。ナットソンらの研究によって、リスク期待値が固定されているときでさえ、潜在利益や潜在損失の見せ方や説明の仕方の違いで投資家の行動が変わることを予測できることが分かった。私は、情報の流れにおけるこのような「ソフト」な要素を数値化できないかと考えた。そこで、まずは金融関連のソーシャルメディアとニュースで試してみることにした。
このような予測のためのエッジを求め、2004年にマーケットサイクチームが金融テキスト解析のためのソフトウェアを開発した。私たちはまず、ニュースとソーシャルメディアの記事を発行後できるだけ速く集めるための検索エンジンの技術を開発した。次に、その文章の影響力を数値化するためのテキスト解析手法を構築した。そして、影響力の大きい要素(例えば、恐怖や興奮)を銘柄別に時系列に並べていった。最後に、そのデータが統計的に将来の価格の動きと相関性があるかどうかを調べた。すると、有望な結果が出たため私たちはこれを使ってトレードを始めることにした。
2008年9月2日、私たちのファンドは大きな成長を夢見て100万ドルで運用を開始した。ところがその3日後、ファニーメイとフレディマックが破綻した。そして、次の週末にはリーマン・ブラザーズとAIGも経営が行き詰まった。幸い、私たちの戦略は主に「恐怖」に基づいていたため、市場の混乱がさらに増すことを予測していた。そのため、金融危機に突入していたにもかかわらず、私たちのファンドは2009年半ばまで高いリターンを維持していた。運用開始から12カ月で、ファンドは40%上昇し、金融危機を通じて全ヘッジファンドのなかで上位1%に入るリターンを維持していたのである。
私たちが作ったトレードモデルは、ボラティリティが高く、感情的なマーケットでも利益を上げていた。しかし、金融危機の混乱が収まると、調整が必要になった。素晴らしいパフォーマンスになっていたが、100万ドルの運用では経費を賄うことができなかったからだ。私たちはできるかぎり効率化を進め、2〜3カ月ごとにオフラインにしてソフトウェアを調整し、新たなブル相場に合わせた戦略を立てた。しかし、この程度の節約ではとうてい追いつかなかった。
このファンドは2年4カ月の運用で、手数料後のリターンは28%となり、S&P500(配当を含む)を24%以上も上回った。ただ、このファンドのリターンは、最初の9カ月は急上昇したが、そのあとは下がってしまった(図P.1)。
2010年末ごろになると、私たちが構築したセンチメントのデータを買いたいという問い合わせが、いくつかのヘッジファンドから来るようになった。この新たなチャンスを追求するため、私たちはメディアにかかわるセンチメントの世界標準データを構築し、販売するという目標を立てた。そこで、2011年にトムソン・ロイターと組み、彼らの助けを借りて、対象資産を通貨や商品、国、アメリカ以外の株と広げていった。
私たちが提供しているデータは、今ではTRMI(トムソン・ロイター・マーケットサイク指数)という名称でトムソン・ロイターからファンド、銀行、証券会社、政府、研究者に販売され、世界の経済活動や資産価格の予測に使われている。TRMIから得た洞察は、本書の各所に織り込まれている。本書で引用している研究は、マーケットサイクのアレクサンダー・ファフーラとC・J・リュー、トムソン・ロイターのエリヤ・デパルマ、そしてさまざまな大学の研究者によるものである。
アレクサンダー・ファフーラは、コンピューターサイエンスの修士号とファイナンスの博士号を修得後にマーケットサイクのチームにデータサイエンティストとして加わった。彼の博士論文は、株価チャートの誤認を集めて利用したトレードモデルの構築という革新的な内容だった。
C・J・リューは、実際に出会う前に彼のうわさを聞いた。カリフォルニア大学バークレー校のテリー・オディーン教授が、金融工学部にセンチメントを使ったモデルを熱心に開発している学生がいるという話を聞いており、それが修士課程に在籍していたリューだった。彼は子供のころトランプのビッグツーの名人だった。ビッグツーはイギリスのライアーと似たトランプのゲームで、相手に惑わされることなく手持ちの札をなくすことを目指す。トッププレーヤーは、ほかのプレーヤーの動きから持っているカードを見抜くことができる。リューの行動分析への関心は、ポーカーにも生かされていた。彼が、私たちのチームのメンバーとラスベガスに行ったことがあった。彼は、みんなが寝たあとも徹夜でテキサスホールデムをプレーして、大金を稼いだ。あとになって、彼はどのような予想外の賭けでプロの目をくらましていたか話してくれた(これは第15章で紹介するジーザス・ファーガソンの戦略と似ている)。
本書は、「市場価格にはパターンがある」という単純な主張に基づいている。学者のなかには、この主張に意義を唱える人もいるが、このことを信じることが投資業界で仕事をするうえで必須条件となる。マーケットを打ち負かしたい投資家は、マーケットのどこかで、たいていは体系的に、価格の歪みを探しているのである。
本書では、価格パターンが存在するだけでなく、最も予測可能なパターンは人間の脳の構造と、その情報処理ネットワークの生態に根差しているということを、科学的および実験的に幅広い見地から理論的に説明していく。
情報のなかには、感情的な反応を誘発するものがあり(詳しくはのちの章で説明する)、そのような反応はトレード行動において予測可能な変化をもたらす。本書では、センチメントという言葉を感情、感覚、見通し、姿勢、考えなどの意味で使っている。投資家は、時にセンチメントをニュースやソーシャルメディアでの発言を通じて明かし、その発言が私たちにとっては予測に用いる情報になる。センチメントは集団の行動を変え、それが価格パターンを生み出すのである。
本書は5つの部分に分かれている。第1部は投資家の行動の基本について書いていく。投資家のセンチメントから、人間の脳の情報処理ネットワークと情報の性質に基づいて市場価格の動きを予測できることは以前から分かっている。第2部は、ニュースとソーシャルメディアがもたらす短期的な価格パターンを検証していく。第3部では、センチメントに関係するいくつかの長期的な価格パターンを見ていく。このなかには、センチメントを使ってモメンタム投資やバリュー投資を改善する方法も含まれている。第4部は、複雑な価格パターン(投機バブル、商品相場や通貨相場のパターンなど)を見ていく。第5部は、個人投資家の心理と本書で取り上げる価格パターンを生み出す集団のトレード行動とそれをもたらすバイアスを避けるためのツールを紹介する。
メディアのセンチメントは、すでに起こった出来事に対する反応であることが多い。しかし、なかにはセンチメント自体がプライスアクションを予測しているように見える場合もある。それ以外にも、従来の投資要素を検証していると、センチメントを使ってすでにある予測を改善できる場合もある。本書では、ファンダメンタルズと価格の変数を使ってセンチメントを調整することで、センチメントの力のみを使い、市場価格のパターンを検証していく。
読者のなかには、さまざまな証拠(損益曲線[エクイティカーブ]やチャートなど)を見て混乱する人もいるかもしれない。たくさんの証拠を挙げているのは、センチメント分析という分野に疑問を持つ人もいるため、その本質的価値について説得力のある説明をしたいと思ったからだ。
本書は、すべての投資に使える戦略やトレードシステムを提供するものではないし、特定の製品を売り込むためのものでもない(とはいえ、主にTRMIのデータを使って話を進めていくため、間接的にTRMIを推奨していることにはなる)。本書は、トレード行動と市場価格を牽引するセンチメントの性質と役割に関する10年以上の研究に基づいて書かれている。各章では、関連するさまざまな学術研究を引用するとともに、必要に応じてマーケットサイクの過去のニュースレターや本に掲載した内容も紹介している。今のところ、私たちほど詳細なデータを構築しているところはほかにはないが、この活動の普遍性を考えれば、本書の研究は再現できると思う。マーケットの細かい部分は進化するかもしれないが、人間の行動の原則は、たとえ変わるとしても、それは非常にゆっくりとしたものになる。
本書の手法には、いくつかの大きな弱点になり得る点がある。
1つ目は、この研究は、膨大な量のテキストデータ(1998年以降に発行された文字通り何十億もの金融ニュースやソーシャルメディアの記事)の意味を数値化して使っている。そのため、なかには誤った関連付けが起こっているリスクもある。この落とし穴については、第5章で述べることにする。私たちは長年にわたり、統計誤差や分析プログラムのバグによって、再現ができないたくさんの予備的な結果を得てきた。しかし、本書で紹介している研究結果については、さまざまなデータバージョンで、異なるプロバイダーの価格データを使い、デバッグを重ね、フォワードテストも行っている。そのため、ここで紹介している結果は堅実なものだと思っているが、外部のさらなる検証と、時間の経過を待たなければ確認はできない。
2つ目は、脳のレベルからマーケットのレベルまで現象を説明するためには、どうしても演繹的なギャップができてしまうが、それを裏付ける科学的な研究は行われないかもしれないということである。本書では、このようなつながりについても触れているが、確立している分野ではない。
3つ目に、本書は実証された学術的発見に基づき、実際にトレードする人たちを対象に書いたものである。このため学術的な専門用語やトレードの業界用語・調査結果・例などが随所に使われている。読みやすさと、つながりを明確にすることにはできるかぎり気を配ったつもりだが、十分ではないかもしれない。また、研究結果の多くは非常に複雑で、微妙な差異があることも多く(例えば、ツイッターのセンチメントとフェイスブックのセンチメントには若干の違いがある)、読者は調査結果の幅広さに混乱するかもしれない。
4つ目に、本書ではセンチメントに基づく投資をかなり単純化して紹介している。しかし、この方法は人間の性質と矛盾するため、投資の規律のなかでも最も難しくて危険なものかもしれない。つまり、この戦略は優れたリスク管理ができる経験豊富なプロだけが試すべきものなのかもしれない。ちなみに、本書は教科書の部分と投資ガイドの部分を備えた独特な構成で、いわばモジュール構造になっているため、関心のない項目は飛ばして読んでもかまわない。
また、本書には明らかな利益の相反がある。本書はデータベンダーによって書かれたものであり、紹介した研究のなかには、データを販売したい人たち(私たち自身や競合する業者)が行ったものが多くある。このバイアスを減らすため、本書は既存の学術研究を多数紹介している。また、私たちはTRMIのセンチメントデータを世界中の研究者に提供しており、彼らの研究結果も必要に応じて紹介している。さらに、私たちはできるかぎり統計的に有効になるよう、紹介したすべての損益曲線は、さまざまな条件や制限の元で確認をしている。もちろん、それでも利益の相反を逃れることができないことは分かっている。ちなみに、医学分野の検証においては、このような相反は無意識に蔓延しており、無視されることが多い。私たちは、バイアスを大いに受けやすい立場にあることを理解したうえで、そのことがこの研究の全体的な質や長期的な影響にマイナスにならないことを願っている。
金融市場は人間、つまり恐怖や不確実性に反応し、エゴが傷つき、他人の間違いを罵り、予測し、群衆に従う人たちによって構成されている。市場価格も、人間と似ており、ときに(必ずではない)センチメントに引きずられる。本書は、投資家の集合的かつ体系的なセンチメントを明らかに示す価格パターンについて書いたものである。これを読めば、これらのパターンを利用することだけでなく、自らのセンチメントを管理する方法も学ぶことができる。本書を通じて、金融市場に関する新たな洞察を得て、優れた投資家、および優れた人間になってほしい。
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