2017年10月発売/A5判 270頁
ISBN978-4-7759-7225-0 C2033
定価 本体3,800円+税
同シリーズ |
著 者 ウェスリー・R・グレイ、ジョン(ジャック)・R・ボーゲル
監修者 長尾慎太郎
訳 者 山下恵美子
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バリュー投資家とモメンタム投資家は、一見、正反対の考え方を持っているように思える。バリュー投資家は人気のなくなった安い銘柄を買う一方で、モメンタム投資家は強い価格トレンドのある銘柄を買う。しかし、バリュー投資家をして期待超過リターンの取得へと駆り立てる行動バイアスとキャリアに対する不安は、モメンタムの長期的な持続性を推進する鍵となるメカニズムでもあるのだ。本書は、システマティックなモメンタム投資がなぜ強力な戦略なのかについて分析したものである。そして、モメンタム投資はおそらくはバリュー投資よりも優れている。こういうことについても議論している。
ウォール街のヘッジファンドや行動経済学をよく知る投資家たちが、口には出さないけれど思っていることは、モメンタム投資は「成長」戦略ではないということである。モメンタム投資とは、成長の見通しがどうであれ、強いものを買う、という歴史的に成功してきたやり方なのである。厳密で教育的なセンスのあるウェスリー・グレイは、システマティックなバリュー投資のバイブルともいえる『クオンティタティブバリュー』の著者でもある。彼が今回読者に贈る本書は、モメンタムに基づいて銘柄を選択するプラットフォームを構築したいと思っている個人投資家にとって、今までに類を見ないガイドブックになるだろう。特に、モメンタムアプローチは、バリューのポートフォリオと併用するのに理想的な戦略であり、バリュー投資とモメンタム投資を単独で用いたときの相対アンダーパフォーマンスの期間を短縮するのに役立つものだ。また、本書のウェブサイトでは、本書で紹介したモメンタム株を見つけるためのツール、さらなるリサーチ、クオンティタティブ投資の発展を促すダイナミックなコミュニティーへのアクセスなど、盛りだくさんの情報を提供している。
実践的な本書は、行き届いたレッスンと多くの実例を含んだガイダンスで、読者の理解の速度も速いだろう。あなたのポートフォリオに、高度なリサーチとテクニックを取り入れるには、本書1冊があれば十分だ。
本書の内容は以下のとおり。
「モメンタム投資を補足するいとこ的存在のバリュー投資とは違って、システマティックなモメンタム投資は、これまでなぜか投資家たちの注目を浴びてこなかった。そこでこの問題に取り組んだのがグレイとボーゲルだ。本書はシステマティックな投資に関心のある投資家たちの必携書とも言うべきものだ。本書を読んでツールボックスのツールを増やそうではないか」――クリフ・アスネス(AQRキャピタルマネジメントの創設者兼共同経営者)
「私たちのリサーチによれば、予測可能な価格リターンモメンタムパターンは、何百年も前から株式のなかに存在してきたし、そのほかのアセットクラスの拡張したアウトオブサンプルテストのなかにも存在してきた。モメンタムを使っている人、学習している人、これから取り入れようとしている人にとって、本書はまさに宝の山のような本だ」――クリス・ゲーチ(フォーフロント・アナリティックスの創設者兼CEO)
「モメンタム投資を理解し、探求し、利用したいと思っている人は、本書を読むのが最も手っ取り早い方法だ」――パット・オショーネシー(オショーネシー・アセットマネジメントの創設者兼ポートフォリオマネジャー)
「本書はモメンタムをベースとする銘柄選択アルゴリズムについて書かれたものだ。このシステムがなぜ機能するのかを、グレイとボーゲルは本書で明快に説明している」――ナラシマラン・ジェガディーシュ(エモリー大学ゴイズエタビジネススクールの金融学教授)
ジョン(ジャック)・R・ボーゲル博士(John[Jack] R. Vogel, PhD)
実証的アセットプライシングと行動経済学のリサーチを行い、2冊の本を著し、多数の学術論文を発表。ドレクセル大学では金融学部と数学学部で講師とリサーチアシスタントを務め、ビラノバ大学では金融学の講師を務めた。現在、SEC(証券取引委員会)登録の投資アドバイザーであり、アルファ・アーキテクトの業務執行社員で、CFO(最高財務責任者)および共同CIF(最高投資責任者)。ドレクセル大学で金融学の博士号と数学の理学修士号を取得し、スクラントン大学で数学と教育学の理学士号を取得し、優秀な成績で卒業した。
第1部 モメンタムを理解する
第1章 宗教よりも理性を
第2章 アクティブ投資戦略が機能するわけ
第3章 モメンタム投資は成長株投資ではない
第4章 バリュー投資家がモメンタムを必要とするわけ
第2部 モメンタムベースの銘柄選択モデルの構築
第5章 モメンタム戦略構築の基礎
第6章 モメンタムの最大化――重要なのは経路
第7章 モメンタム投資家は季節性を知っておくべき
第8章 定量的なモメンタムは市場を打ち負かす
第9章 実践で機能するモメンタム戦略を作る
付録A モメンタムに代わる概念
付録B パフォーマンス統計量の説明
本書のウェブサイトについて
注釈
さて、モメンタムは株式投資における強力なファクターであるにもかかわらず、一般にはなじみのない概念であり、ほとんどの投資家にとって、これまで考慮の対象外であった。その理由は、株式投資の世界ではピアグループ内で相対的な比較を行う「クロスセクション分析」が主流であり、特定の銘柄の過去と現在とを比較する「時系列分析」を行う人は限定的だったことにある(逆に、商品トレードの世界では時系列分析が中心で、クロスセクション分析は原則として行われない)。
このため、20世紀後半に月探査機が飛ぶまで人類がダークサイドムーン(Dark Side of the Moon)を見ることができなかったのと同様に、CAPM(資本資産価格モデル)をはじめとした既存の理論体系に勇気をもって異議を唱え多角的な分析を行う著者たちのような人々が現れるまで、株式の世界ではモメンタムの真実に光が当てられることはなかったのである。
本書の価値は、市場、サイズ、バリューに続く、株式投資における第4のファクターとしてのモメンタムの効力や、従来混同されることの多かったモメンタム投資と成長株投資との違いを定量的な検証により明らかにしたことだけにとどまらない。なかでも、モメンタムとバリューの出処は本来同じであり、それらは人間の持つ行動バイアスの表と裏の関係にある(バリュー投資の機会は悪いニュースに対する過剰反応から生じ、モメンタム投資の機会は良いニュースに対する過小反応から生まれる)ゆえに、モメンタム投資とバリュー投資とは直交しており、ポートフォリオ内で互いに高度に補完し合うことを示したことには大きな意義がある。
また個人的には、モメンタムを正しく測るための手段として、単なるナイーブなリターンではなく経路(パス)を考慮して構築された本書の指標が、私が商品のトレードで経験的に習得し、株式投資に演繹して使ってきたものとほとんど同じであることに驚かされた。本書全体を通し著者の2人が先駆的かつ実践的な内容をここまで詳しく体系的に書いてくれたことをここに深く感謝する。
本書は、モメンタム投資そのものに興味のある方だけではなく、バリュー投資戦略単独ではどうしても対処することの難しい時期や局面をなんとか補いたいと考えるバリュー投資家にもぜひ読んでもらいたい。そして、さらに本質に迫りたい方には、本書と同じ著者による定量的バリュー投資の素晴らしい教科書“Quantitative Value : A Practitioner's Guide to Automating Intelligent Investment and Eliminating Behavioral Errors”(Wiley)を強くお薦めする。
最後に、翻訳にあたっては以下の方々にお礼を申し上げたい。山下恵美子氏は正確な翻訳を行っていただいた。そして阿部達郎氏には丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、パンローリング社の後藤康徳社長のおかげである。
2017年9月
人間はシステマティックな予測エラーから逃れることはできない。したがって、価格はファンダメンタルズから乖離する可能性がある。バリュー投資の場合、この予測エラーは大概の場合はネガティブなニュースに対する「過剰反応」として現れる。一方、モメンタム投資の場合、予測エラーは意外にもポジティブなニュースに対する「過小反応」(過剰反応と言う人もおり、これは否定できないが、大概は過小反応としてとらえられることが多い)ととらえられることが多い。したがって、行動バイアスはバリュー投資の長期的な超過リターンを生みだすと信じている投資家は、モメンタムの長期的な持続可能性を生みだす重要なメカニズムも信じていることになる。つまり、バリュー投資とモメンタム投資は同じ行動バイアスのコインの表裏一体の関係にあるということである。
しかし、モメンタム戦略はなぜもっと多くの投資家たちに活用され、裁定取引に使われないのだろうか。これからおいおい議論していくが、ミスプライシング機会が消失するスピードは、利用コストに依存する。取引コストと情報取得コスト(ゼロではない)は別として、長く続くミスプライシング機会の利用にかかわる最大のコストは、キャリアリスクである。キャリアリスクが発生するのは、投資家たちは資産運用をプロに委託することが多いからである。資産をプロのファンドマネジャーに委託する投資家は、雇ったマネジャーのパフォーマンスを、ベンチマークに対する短期的な相対パフォーマンスを基に評価するのが一般的だ。しかし、これはファンドマネジャーたちにゆがんだインセンティブを生みだす。ファンドマネジャーは、長期的に高い期待パフォーマンスが期待できるミスプライシング機会を利用したいと考えるが、それはあくまで期待パフォーマンスが標準的なベンチマークから長期にわたって「大きく乖離しない」場合のみである。手短に言えば、モメンタムを使った戦略は、パッシブベンチマークを大きくアンダーパフォームすることが時折あり、「キャリアリスク」プレミアムを生みだす。おそらくこれが、モメンタム戦略が機能する理由である。この推論に従えば、モメンタム戦略、あるいはどんなアノマリー戦略でも将来的に持続可能だと信じるには、次の2つの前提を設ける必要がある。
●投資家は行動バイアスに陥り続ける
●資産運用を他人に委託する投資家は近視眼的なパフォーマンスチェイサーである
近い未来を予測するには、これら2つの前提に基づけばよいと考える。したがって、これらの前提に立てば、プロセスを重視し長期的な視野を持つ規律ある投資家にとっては、常に機会が存在するはずである。
モメンタム投資家としてやっていく心構えができていて、さらにその旅は苦労の多いものになるだろうという現実も理解しているならば、問題は、「効果的なモメンタム戦略をどう構築すべきか」ということになる。本書は、私たちが銘柄選択モメンタム戦略を構築するために行った何年にもわたる研究について述べたものだ。冒険を続けた結果、私たちがたどり着いたのが定量的モメンタム戦略である。これは、「最もクオリティーの高いモメンタムを持つ銘柄を買う」戦略だ。最初にはっきり言っておくが、私たちは「最良」のモメンタム戦略、つまりうまくいくことが「保証された」モメンタム戦略を開発したわけではない。しかし、私たちのプロセスは証拠に基づく合理的なもので、首尾一貫して論理的に行動経済学に結びつくものである。また、私たちがなぜ、どのようにこのプロセスを開発したのかについても明確に説明する。読者の方々には私たちの前提に疑問を持ち、結果をリバースエンジニアリングし、私たちのプロセスが改善できると思うのであれば、ぜひとも知らせてほしい。私たちへは https://www.alphaarchitect.com/ から常にアクセス可能だ。疑問・質問があればどしどしお寄せいただきたい。
本書があなたにとって楽しい読書になることを祈っている。