トレーダーズショップ「ご愛顧特別感謝祭 2004」にご登場いただく山本氏のコラムです。 _________________________________「リスク管理の方法論」 クレイ フィンレイ 山本 潤
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 『魔術師たちの心理学』(パンローリング出版) わたしはものすごく感動しました。 ターブ博士の考え方を取り入れ、わたしなりにリスク管理の方法論を書きまし た。ちょっと、解説させてください。 【適正なポジション・サイズを守っている投資家は少ない】 資金を減らさないリスク管理という面から、売りと買いを組み合わせたヘッジ ファンドなるものが注目されていますが、適切なポジションサイズを取ってい れば、リスクを限定しながら、利回りを確保することは比較的容易になりま す。 プロは一日中相場を見ることができます。アマは仕事があったり用事があった りと相場につきっきりということが無理な方もいる。 長期の投資スタンスとは、できるだけ銘柄を厳選し、銘柄選びの段階で下落リ スクをできるだけ落としたいとするやり方です。 しかし、それでは配当利回りなどの安全な銘柄が中心になり、迫力のないもの になってしまう。それでも我慢できるという方はいい。 買うか買わないかは別にして、投資のためのアイデアや買い候補は多い方がよ い。なぜなら、たくさんの候補の中から選べば、少ない候補から選ぶよりリス クは低減するからです。 その場合でも売買タイミングで、損を出すことは大いに考えられるのです。 そこから「正しいポジションのサイズ」という課題が出てきました。 大きな損失を被った投資家は、ナンピンに 走りがちです。そして、さらに大きなリスクを抱えてしまう。 大きな損を抱えてしまうという問題は、銘柄分析、ファンダ分析、テクニカル 分析というレベルの問題ではありません。 投資の手法や技法の話の前の段階です。 短期売買、長期売買の違いでもありません。 往々にしてファンダ分析=長期投資、長期投資=買いっぱなし、長期投資=少 ない銘柄への集中投資というイメージがあるかもしれません。 集中投資は、母体となる銘柄候補が多いときには、それなりに有効ですし、プ ロは、相対的な運用をすればよいので、それでいい(インデックスに勝てばい い)。しかし、個人投資家はそれでは犠牲になってしまう可能性がある。 投資金額を5等分して、5回コインの裏表で賭けをするとします。 最初の取引で20%の損、残りは当初資金の80%。 まだ、挽回のチャンスは残っています。 しかし、さらに2回目の投資でまた負け。追加の20%を損してしまう。 そうなると、元金は残り60%。 元金回復には、60を100にしなければならない。 これはしんどい。 3回目の勝負も負け。さらに元金が40%に減ってしまう。 40を100にするには、150%の利回りを達成しなければなりません。 これは回復不可能です。 しかし、100の元金をすべてひとつの株に投資をして、3回連続して失敗す る確率はかなりあるわけです(10%以上の確率でありうる)。 ツキのない方には、5回も6回も、場合によっては10回連続して失敗すると いうケースもあります。 10回連続の失敗。 これは十分にありえることです。 ⇒資産が減っているのに取引量を増やすというのはおろかなことです。 それによって、得られるものは、当初とったポジションだけです。反対にリス クは増大していることがわかりますでしょうか。 【損切りの水準を決めておく】 損切りの水準を決めてから、投資をすべきだという意見がテクニカルのトレー ディングをする人たちを中心にして出てきています。 そこで、ある銘柄を研究する際には、下落リスクがどの程度で、上値の余地が どの程度で、いま、株価はどの程度という大まかな読みと、そうならなかった ときの対策が必要になります。 たとえば、PBRの低い銘柄であれば、こういうことができます。 TDKであれば、PBRは4500円程度でしょうか。(※本年3月くらいのデー タ) それが安値の目処とします。いま、5000円とします。また、目標とする株 価は6000円程度と設定されるとします。 そうなると 目標 6000円 いま 5000円 底値目処4500円 この場合は「買い」ということになります。 なぜなら、リスクは500円でリターンが1000円ですね。 リターン÷リスクは2倍です。 しかし、できれば4800円程度で買いたい。 そうなると、リスクとリターンの関係は劇的に改善します。 目標 5800円(控えめ) いま 4800円 底値 4500円(PBRのストッパー) そうなるとリスク300円でリターンは1000円。リターン÷リスクは3倍 以上です。 【リスクは限定できる】 重要なのは、底値を割ったら、すぐに撤退をしなければならないという鉄則で す。このケースでは4500円には「いかない」という前提で買いますが、も し、行ったら、売りです。これが損切りです。損切りの意味は、損失を確定で きるという意味です。 絶えず、どのトレードでも、このリターン÷リスクが何倍になるかを想定して、 相場に参加されるのが一番よいわけです。 300円(100株単位)の損をポートフォーリオの2%程度にとどめたいな ら、ポートは、30000円の50倍の150万円ということになります。 150万円の運用資金で、TDKを100株買うのはリスクを2%に限定する ことになります。なぜかというと4800円のTDKは4500円になれば強 制的に投げるからです。投げるという前提があるから、リスク管理が可能にな ったということがおわかりでしょうか。 これがポジションサイズのお話です。株式運用資産が1000万円なら、とれ るリスクは同様に2%。1億円でも2%程度とすれば、10回程度の連続の失 敗もまだまだ挽回のチャンスがあるのです。もちろん、一回、一回のトレード のリターン÷リスクの倍率が重要になるのですけど。 多くの方が、失敗をするのは、下がれば下がるほど買いという錯覚に陥るから です。下がったら撤退すべきです。 下がれば買いというのは、リスク管理ができなくなります。下がればしっかり と撤退というリスク管理さえしていれば信用取引だって怖いものではないとい うことがわかります。しかし、下がれば買いで信用をやればすぐに破産してし まうでしょう。 ⇒TDKが4500円になったら、もう100株買う。そうなると、もはや、 リスクの管理はできないということになります。2%と決めたポジションサイ ズが4%になるばかりか、下値の目処が見えなくなりました。そこで運良く上 がったとしても、得られるものは、わずかです。 まず、ご自身の銘柄の上値と下値の余地をしっかりとイメージして、リターン とリスクの関係を無理やりはっきりさせること。そして、下がれば撤退をする こと。 適正なポジションサイズを心がけること。そうすれば、月々のキャッシュフロ ーがプラスになっていれば、挽回のチャンスがあります。 チャンスは無数にあるわけです。 ただし、ポジションサイズが小さいと、取引回数が少ない場合には、リターン が得られません。ですが、大きなサイズでドンパチやるよりはずっといい。 アイデアを50出すのは大変ですね。 そこにプロとアマの違いがあって、時間がなくて資金が少ない方々は取引数が 少なくポジションサイズが大きいということになってしまう。それはとても不 利なことなのです。できるだけ時間がつくれて、できるだけのアイデアを持ち、 できるだけポジションサイズを小さくできれば、リターンに直結するはずなん ですけど、実践は難しいんですね。プロは100回トレードすれば40%程度 勝てばいいんです。損切りをしていますから、リターン÷リスクで2倍、3倍 の平均値を使っている。3倍なら、勝率40%でいい。損切りをすれば勝率は 下がります。それは仕方がない部分です。 アマは100%勝とうとしてしまう。そうなると、ナンピンで、身動きがとれ なくなりアウトになるかもしれない。勝率を意図的に下げるという戦略がコツ なのです。 機関投資家としての、わたしの立場上、個別銘柄の話はなかなかできないです が、テクニックや考え方の面で、もう少し、参考になる話をすべきだったと思 い、このごろ、こういうお話をするようにしています。 【リスク管理と勝つ確率】 リスク管理ができているかどうかは、重大な結果をもたらします。現に、いま 投資で失敗している方はリスク管理をしなかった結果です。そのことに対して わたしたちは、どのようなアドバイスができるのでしょうか。もっと、「失敗 しないトレードをするべきだ」というべきでしょうか?? もちろん、そうではありません。トレードは半分以上が失敗するものです。 60−70%が失敗です。なぜなら、損失は小さく、利食いは大きくという鉄 則を守れば、かならず損失の数は多くなる。しかし、トレードはトータルでプ ラスしなければ意味がない。そこで、みんな必死に勉強する。練習する。だか ら、テクニカルしかしらない人と、テクニカルもファンダもしっている人とで は差がつく。それ以上に、毎日10時間以上も作戦を考えているわたしのよう な人間と毎日数時間しか考えられない一般の投資家とは、どうしても運用に差 がでてしまいます。わたしが考える毎日の数十の作戦のうち、採用されるのは、 ゼロかひとつです。潜在的なリスクは、頭の中で、随分と減ることになります。 そして、わたしたち、プロがリスクを管理するとき、そのリスクは、毎日計量 が可能なシステムになっています。必要以上にリスクをとっている、リスクが 少なすぎる、毎日、機械が計算をして、わたしたち人間は、その間で微調整を 行なっている。だから、リターンは多くても20−30%の間に入るし、リス クは数%の間に入るのです。それでも、どの銘柄をいくらで買うべきだという 判断はコンピュータよりも人間の方が上手い。いまのところは。 相場にずっと参加できて、かなりの時間を投資にかけることができる人であれ ば、いろいろとアドバイスすることは可能です。しかし、時間がないサラリー マンの方に対してどのようなアドバイスができるのか、わたしは疑問に感じて います。そして、テクニカル分析やファンダ分析などの手法を本当にわかって いる人は少ないことも実感しています。 【資金に対する投資金額はリスクとはいわない】 資金に対する投資額はリスクとはいわないのです。 100万円の資金を投資する場合を考えます。 信用取引をします。 あなたが150万円をある株に投資したとします。 これは投資金額を超えた1.5倍のレバレッジです。 この株の株価が150万円だとします。 あなたが損切りの逆指値を149万円で指しているとします。 あなたのリスクは何%でしょうか。 1%です。 資金に対する投資額をリスクとはいいません。 おわかりいただけるでしょうか。とっても肝心なところです。 資金の50%をある株に突っ込むということは、わたしが伝えたかったリスク とリターンの関係とは違う話なんですね。 50%をある株に突っ込んでも、しっかりとリスクを数%の範囲で管理できる 方法はあるのです。 100万円と1000万円と1億円とを区別する必要はありません。複利の力 は平等なのです。むしろ、小額金額に味方するように仕組まれています。1億 円でも100万円でもリスクの管理の方法も投資のスタイルもまったく同様な ものであるべきです。そうではないですか?? リスクとは、投資額に対する一銘柄の構成比ではありません。 ストップを入れる水準とのかかわりであるのです。 【株数でリスク管理をしないこと ストップの置き方でリスク管理をする】 以下のような株があったとします。 投資案件がリターン÷リスクが10倍になっているのがおわかりでしょうか。 上値見通し 444円 株価 222円 下値見通し 200円 リターン222円(上値と現在値との差額)、リスク22円(下値と現在値と の差額)。 そこで、リスクとリターンの関係で10倍ですから、10倍になったとき10 0%利食い。 こうしたらどうでしょうか。 リターン−リスク倍率 10倍 444円。 損切りレベル444円 100%利食い 9倍 422円。 90%の利益確保。損切りレベルを400円まで上げる 8倍 400円。 80%の利を確保。損切りレベルを366円まで上げる 7倍 378円。 70%の利を確保。損切りレベルを350円程度まで引上 6倍 356円。 60%の利確保。損切りを290円程度に引き上げる。 5倍 334円。 50%の利の確保。損切りオーダは278円に引上 4倍 312円。 40%利確保。267円にストップロスをおく。 3倍 288円。 利益30%の確保のため242円程度にストップおく。 2倍 266円。 利益の20%確保のため231円程度に損切りをおく 1倍 244円。 利益の10%を確保のため224円にストップロスおく。 さて、当初、200円に設定した、損切り(=下値見通し)は、値上がりとと もに上昇していますね。 目論見では2倍になったらとりあえず全部利食いということでした。しかし! その過程が重要なのです。仮に250円に上昇したら、ストップを229円や 230円に置けば、利益の一部はとりあえず確保できますよね。 一部を確保しておいて、さらに株価上昇の可能性を持ち続けることができます。 肝心なのは、どの価格帯にいったら、自分は具体的に、何をすればいいのか、 決めておくことです。 こういう戦略を、みなさまは、お持ちでしょうか? お持ちでないなら、せっかくですから、こういう戦略を試してください。 これが、わたしの主張するところの、リスク管理のノウハウなのです。 ⇒最初から取引のルールやシステムを十分考えておく。 ⇒リスク管理は、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析よりも重要な考えです。