エリオット波動入門 『エリオット波動入門――相場の未来から投資家心理までわかる』

著者 ロバート・R・プレクター・ジュニア, A・J・フロスト
監訳 長尾慎太郎
訳者 関本博英


◇波の個性

・第1波
大ざっぱに見て、第1波の約半分は「基礎作り」の部分であり、したがって第2波によって大きく修正されることが多い。しかし、それまでの弱気相場における一時的な上昇局面に比べて、この第1波の上昇はテクニカル的に見てもかなり建設的であり、出来高や上昇する銘柄数も次第に増加してくる。しかし、ほとんどの投資家はまだ最終的にメジャートレンドは下向きであると考えているので、引き続き多くの空売りが出てくる


・第2波
第2波は第1波の上げ幅の多くをリトレイスすることが多く、このときまでに積み上がった利益の多くは第2波が終了するまでに帳消しされる。第2波の進行中には恐怖心が支配的となり、多くのプレミアムもはげ落ちるので、利益の帳消しは特にコールオプションの買いで顕著になる。この時点では、ほとんどの投資家は弱気相場に再び逆戻りしたと考える。しかし、第2波の出来高がかなり少なく、またボラティリティも小さいことは、売り圧力が出尽くしていることを示唆している。第2波は、第1波の起点まで戻すことはない。


・第3波
第3波には目を見張るような特徴が数多くある。その波は大きく力強く、この時点のトレンドはもはや疑う余地のないものとなる。投資家の自信が戻ってくるにつれて、ファンダメンタルズの好材料が次第に増えてくる。一般に第3波では値動きと出来高は最も大きく、連続する波のなかで第3波は最も多く延長する。もちろん、第3波の副次的な第3波などは、あらゆる連続波のなかで最も力強く変動する波となる。そうした波のところではよくブレイクアウト、「コンティニュエーションギャップ(トレンドの半ばで出現し、トレンドの継続を確認するギャップ)」、大商い、上昇する銘柄の急増、主なダウ理論に基づくトレンドの確認、株価の急上昇の動きなどが見られ、波の段階に応じて時間足、日足、週足、月足や年足などのチャートで大きな陽線が出る。第3波にはほとんどすべての株式が参加する。


・第4波
同じ波の段階の第4波は第2波とは異なるというオルターネーション(交互)の法則(*)によって、第4波の深さと波形はある程度予測が可能である。第4波はよく横ばいの動きとなり、最後の第5波のベースを作る波となる。最初に遅行株に何らかの動きを与えるのは第3波の強さだけなので、第4波の進行中に遅行株はすでに天井を打って下げに転じ始める。こうした相場の最初の崩れは、第5波の進行中にもまだ確認されないが、基調の弱さを示唆するわずかなシグナルとなる。
 *オルターネーションの法則:
 もし第2波が単純ならば、第4波は複雑になる可能性が高い。逆も同様という法則。


・第5波
一般に第5波は上昇する銘柄数という点では、第3波ほどダイナミックではない。もしも第5波が延長し、第5波の副次的な第3波の動きが第3波より速いとしても、その最大のスピードは依然として第3波には及ばない。通常では第5波の出来高は第3波よりも少ない。相場の初心者はよく長期トレンドの最後に株価の「噴き上げ」を期待するが、ヒストリカルなデータを検証しても、相場のピークで株価が最も勢いよく上昇したというケースは見られない。たとえ第5波が延長しても、その副次的な第5波はそれ以前の波よりもダイナミックには上昇しない。第5波の進行中には、上昇する銘柄数が次第に減少するにもかかわらず、楽観的な見方がピークに達する。


・A波
弱気相場のA波が進行しているとき、一般に投資界はこの反動は次の上昇局面の上げ幅に応じた単なる下げであると考える。個別銘柄のパターンではテクニカル的には本当に最初のマイナス的な裂け目であるにもかかわらず、一般投資家は買いサイドに殺到する。A波は次のB波の波形を決定づける。A波が5つの副次波で構成されるとB波はジグザグ、A波が3つの波であれば、B波はフラットやトライアングルになることを示唆している。


・B波
B波はまやかしである。それはダマシ、強気の落とし穴、投機家のパラダイス、端株投資家の熱狂的な心理、または愚かな機関投資家の自己満足の表現(もしくはその両方)である。B波は数少ない銘柄に的を絞ることが多く、ほかの平均株価でもあまり確認されないので、テクニカル的に強いということはほとんどなく、ほぼいつでもC波に完全にリトレイスされることになる。もしもアナリストが「この相場は何かが変だ」と自問するときは、おそらくほとんどはB波のときであろう。拡大型トライアングルにおけるX波とD波が、修正波として上昇するときは、ともに同じ特徴を備えている。


・C波
下落するC波は、一般に破壊という点では圧倒的である。C波は下降相場の第3波であり、そうした第3波の多くの特徴を持っている。現金を除いてほとんど逃避先がないというのも、この下落期間である。この時期にはA波とB波のときに抱いていた幻想は打ち砕かれ、恐怖心が取って代わるようになる。C波は持続性があり、その規模も大きい。


・D波
拡大型トライアングルを除くすべてのD波では、よく出来高が増加する。その理由はおそらく、非拡大型トライアングルのD波は一部に修正波を含むハイブリッド波であり、C波のあとに続いてもそのすべての下げ幅をリトレイスすることはないという点で、第1波の特徴も兼ね備えているからであろう。修正波のなかで上昇するD波は、B波と同じくまやかしである。


・E波
トライアングルのE波は多くのマーケットウオッチャーにとって、株価が天井を打ったあとの新たな下降トレンドのドラマチックなスタートに見える。E波ではほとんどと言っていいほど、そのトレンドを助長するような強力な材料が出てくる。E波の時期には、トライアングルの下側ラインを一時的に下抜くダマシのブレイクダウンなど、市場参加者の弱気の心理に拍車をかけるような動きが相次ぐが、来る大きな反転上昇に備えなければならないのもまさにこの時期である。このように、最後の下降波であるE波は、最後の上昇波である第5波と同じように、感情的な心理を伴う波である。



◇エリオット波動のルール

・第2波では、第1波の100%以上を引き返すことはない。これには例外がない。


・推進波は常に5つの波動になる。だが、ダイアゴナル・トライアングル(斜め三角形)の波動が細分化されるときは、それぞれの波動は3つの波動しか含まない。ダイアゴナル・トライアングルは、昔からあるテクニカル分析におけるくさび型と同じ形状をしている。このパターンは通常、第5波動やC波動など、マーケットの大きな動きの最終段階に現れる。


・調整波動は3つの波動になるか、あるいはトライアングルを形成する。これらのトライアングルは、上昇するか、下降するか、あるいは対称形となる。


・5つの波動から成るサイクル全体がダイアゴナル・トライアングルの一部でない限り、第4波動は第2波動とは重ならない。


・第3波は通常、最大の波動となり、最も短い波動となることはあり得ない。トレンドに添って動いている間の第3波は、第1波の1.618倍となるのが典型パターン。第3波が修正 波動の一部(つまり、C波の中の第3波)であるとき、通常その波動の大きさは、C波の1番目の波動の1.618倍以下となる。


・調整波動を確認するのは、非常に難しい場合が多い。


・不規則な調整波動が現れることは珍しいことではない。実際、「規則的な」調整波動と同じくらいの頻度で現れる。不規則な調整波動が起きるのは、B波がA波の100%以上を引き返すときである。


・エリオット波動理論を用いるために、旧来のチャート分析法やテクニカル指標を捨て去る必要はない。例えば、旧来のヘッド・アンド・ショルダー(三尊)の天井形は、第3波動(左肩)、第5波(頭)、B波(右肩)によって形成される天井と見ることができる。第4波とA波の底をつなぐとショルダーになる。


・エリオット波動理論は、上昇バイアスのかかっていないFX市場(債券市場のような)マーケットにも、同じようによく機能する。 ・フィボナッチの比率での押し/戻りを知ること。0.236、0.382、0.500、0.618、0.764、1.618、2.618、4.236―まだ他にもあるが、これらが最も一般的である。それ以外にも、フィボナッチ数列、― 1、1、2、3、5、8、13、21、34、55、89、144、233、377、610・・・を覚えること。


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