監修者まえがき まえがき 訳者あとがき 序文――真理の探究 真理1――このゲームの名前はマネーである
真理2――自分がとっているリスクを知らない者は、すべてをリスクにさらしている
真理3――その心理的な気質がマネーマネジメントとリスクコントロールの仕方を左右する
第13章 トレーディングシステムのベスト10
目次 監修者まえがき 1 まえがき 13 謝辞 17 序文――真理の探究 19 真理1――このゲームの名前はマネーである 24 真理2――自分がとっているリスクを知らない者は、すべてをリスクにさらしている 26 真理3――その心理的な気質がマネーマネジメントとリスクコントロールの仕方を左右する 27 第1章 セットアップ、あるいは相場の大勢 31 トレードと投資 31 あらゆるマーケットで使える究極のタイミングツール32 技術革命 32 相場の各局面 34 以上の原則に従って利益を上げる方法 47 トレーディングルールの事例 50 トレードをすべきか否か 54 結論 55 注釈 57 第2章 エリオット波動理論の実践的応用 59 主要波動の目標値 62 調整波または調整局面 63 原油の事例 66 1波または3波調整局面をトレードする方法 67 トレーディングプラン 67 エリオット波動理論の信奉者たち 69 要約 69 第3章 バーチャートとその予測能力 71 短期的なパターンを使って利益を上げる方法 73 仕掛け 80 終値をベースとしたトレード手法 81 3日間の保ち合いからの反転 95 パターン・ギャップ 99 フック・クロージング 103 狭いレンジのバー 106 狭いレンジのトレード 110 長大線によるトレード 112 買いゾーン 113 ストップ・ポイント 114 利食い 116 予測 117 オープニング・ブレイクアウト・ルール 118 上昇/下降ギャップの寄り付き 119 第4章 チャネルとトレンドラインによるトレード 123 トレンドラインと平行移動 124 0−2ラインによるトレード 125 4終値によるトレンドライン 126 トレンドラインによるトレード 130 第5章 スイングトレード 131 スイングチャート 131 予測 135 上昇波動の終了 136 押し目買い 136 作用と反作用 137 準備的な買い 138 時間と値幅 139 下降トレンド途上の戻り売り 139 3本線による戻り 139 保ち合い放れの真偽 141 トレンドの転換 144 トレンドの継続 145 底に向かう3回の動き 147 支持圏と抵抗圏 147 時間と価格の予測 150 トレンド 152 最初の上昇日 153 第6章 パターン 155 オープニング・レンジ・ブレイクアウト 156 上昇トレンドの確認 159 スプリング反転パターン 161 アップスラスト反転パターン 163 ヤムヤムの継続パターン 165 LフォーメーションとリバースL 167 ダブルトップとダブルボトム 167 朝方の小さなヒゲ 167 クリアアウト(一掃)・パターン 173 オーバーラッピング・バーとノンオーバーラッピング・バー 174 2本の長大線の交差 177 チャネル・トレーディングシステム 177 押し目 184 安値線の頂点の買い/高値線の底の売り 186 3本線の上昇/下降 186 ダイナマイト・トライアングル 189 短小線と長大線 191 2日フリップ 191 タイトなフォーメーションからのブレイクアウト 192 手仕舞いの大切さ 193 S&P500種先物のトレーディングツール 201 第7章 ドラモンド・ジオメトリーとPLドット――その基本コンセプト 209 ドラモンド・ジオメトリーとは何か 209 結論 226 第8章 メカニカル・トレーディングシステムの使用に向けて 227 なぜトレーディングシステムを使うのか 231 こうした宣伝には要注意 234 トレーディングシステムを購入すべき236か トレーディングシステムをめぐる神話と239事実 結論 243 第9章 さあ始めよう 245 ハードウエア 245 ソフト 246 データ 248 指標 255 トレーディングシステムで使われている手法のベスト5 270 トレーディングシステムについて 271 結論 297 第10章 ヒストリカル・テストの評価 301 シミュレーション分析 302 カーブフィッティング 303 定期的な再最適化は有効か 309 最適化に代わる適応可能なパラメータ 310 トレーディングシステムをデザインするのはあなた 316 トレーディングシステムの性能の評価 317 ポートフォリオのパフォーマンスの評価 322 結論 324 第11章 マネーマネジメント 327 必要なツールとしての統計学 328 リスク・オブ・ルーイン 330 キャピタル・アロケーション・モデル 332 複利リターン 342 プロテクティブ・ストップと利益目標 344 結論 354 第12章 ターンキーシステムとポートフォリオ 357 ポートフォリオ1(当初資金1万ドル) 357 ポートフォリオ2(当初資金2万ドル) 358 ポートフォリオ3(当初資金5万ドル) 359 ポートフォリオ4(当初資金10万ドル) 361 ポートフォリオ5(当初資金30万ドル) 362 結論 363 第13章 トレーディングシステムのベスト10 365 参考文献 389 付録――イージーランゲージのソースコード 391 訳者あとがき 399
本書の出版にあたっては、以下の方々に心から感謝の意を表したい。関本博英氏はトレードシステムの評価という比較的新しい分野を取り上げた本書に対し、非常に読みやすい翻訳を実現してくださった。阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が世に出ることができたのはパンローリング社社長の後藤康徳氏の決断があったからこそである。
2003年5月
長尾慎太郎
2003年5月
関本博英
本書で紹介するさまざまなアイデアとトレーディングツールに対して、皆さんは最初は反発し、時には拒絶の感情を抱くかもしれない。すべての投資家に合ったトレーディングツールなどは存在しないという点でそれは当然のことであろう。自分にとって役に立ちそうなものだけを取捨選択してほしい。健全な懐疑の目でそれらのアイデアを眺め、詳細に検討すること。あなたの経験に照らして、それらのアイデアとパターンをテストするのだ。われわれが望むのは、皆さんが本書に提示されているさまざまなアイデアとトレーディングプランを鵜呑みにするのではなく、自分のアプローチに従って各種市場でトレードするときの参考にしてほしいということである。
■訳者あとがき
本書はメカニカル・トレーディングシステムで利益を上げるための実践的なガイドブックである。トップトレーダーの独自のシステムトレーディング手法といったものではないが、単なるハウツーものとはまったく次元が異なるほど高度な内容で、しかもその取り扱い範囲はかなり広範にわたっている。
トレーディングシステムの導入にあたっての注意点に始まり、一般に考えられているトレーディングシステムの神話と事実、ヒストリカルテストのさまざまな問題点(カーブ・フィッティングや最適化などの問題)、システムトレーディング手法のベスト5、トレーディングシステムのベスト10――などについて分かりやすく説明されている。
本書のもうひとつの特徴は、利益につながるさまざまな短期パターンやドラモンド・ジオメトリーなどのユニークな手法が詳しく紹介されていることである。さらに実際のトレードにあたっての仕掛けと手仕舞いの方法、ストップの入れ方、マネーマネジメント、資金配分モデル、ポートフォリオの作成法――などもかなり具体的に述べられている。
筆者らは十数年にわたって米国で次々と販売されるトレーディングシステムの検証と評価を行ってきたこの業界の第一人者である。その豊富な経験に裏づけられた本書の内容は、あたかも初心者の生徒に対するインストラクターのアドバイスのようである。つまり手を取って教えるように分かりやすく、知らず知らずのうちに自分もレベルアップしてしまう。
ここではさまざまなトレード手法や代表的な指標も紹介されているが、それらにはすべて15年以上にわたるバックテストの検証結果が添えられている。各種指標について詳しく解説した本は少なくないが、長期にわたるバックテストでその有効性を検証したものはそれほど多くはない。有名な指標を使ってはたしてどれだけ儲けられるのかというひとつの手掛かりが得られるという点ではありがたい。
筆者らは本書で「夢のトレーディングシステム」などは存在しない、優れたトレーディングシステムから得られるのはトレード上の単なるエッジ(優位性)である――と強調している。そのエッジを生かしてどれだけ利益に結びつけるのかがそのトレーダーの力であろう。利益に至る近道はないが、そのひとつの正道を示したのが本書である。
筆者のひとりは若いときの苦いトレードの経験から次のような教訓を得た。それは、(1)有頂天になってはいけないこと、(2)「知恵」をつけなければならないこと、(3)一度おカネを儲けられたところでは何回でも儲けるチャンスがあること――である。システムトレーディングを目指す読者の皆さまに、本書がそのひとつの「知恵」を与えることは請け合いである。
有益な本書の翻訳の機会を与えてくださった後藤康徳氏(パンローリング)、編集・校正でお力添えをいただいた阿部達郎氏(FGI)、ステキな装丁で本書を仕上げてくださった新田和子氏、皆さまのご尽力に対して深く感謝いたします。
■まえがき
すべての投機的な市場は需要と供給の法則に支配されている。経済学はわれわれに、公正な市場が商品やサービスの需要と供給の均衡点を決定すると教えている。この均衡点こそが、取引する商品の価値について買い手と売り手が合意する価格である。株式や先物の価格は常に変動しているが、「市場の動き」と呼ばれるこの価格変動は、始値、高値、安値、終値、そしてその日の値動きのレンジ(変動幅)という市場の統計値を示す5つの簡単なバーチャートで表される。
バーチャートは買い方(ブル=強気筋)と売り方(ベア=弱気筋)の戦いを表している。価格が寄付値よりも高く引ければブルの勝ち、その反対に安く引ければベアの勝利である。バーチャートのレンジはその日の両者の戦いぶりを示している。ある株式の値段が1ドル上昇すれば、その株式は1ドル分だけ価値が増えたことになる。直近のバーチャートはその市場におけるやや長期的な需要と供給の力関係を表している。市場の専門家によれば、バーチャートに示される需要と供給の地図をたどっていけば、株式や先物の近い将来の価格が読み取れるという。そうであれば、バーチャートが意味するものを的確に読み取る技術を習得して需要と供給の法則を見抜くことができれば、トレードでおカネを儲けられるだろう。
本書ではまず、バーチャートを読み取るテクニックに焦点を当てる。そこでは長年にわたりさまざまな市場をウオッチしてきたわれわれのチャート分析手法が紹介されている。われわれに経験によれば、一度にひとつのアイデアだけに集中するときに最も良い結果が得られた。どのようなチャートでもよいからそれを取り出して、本書で提示されたアイデアに従って特定の仕掛け場を書き入れてみよう。それらのアイデアは単独ではうまくいかないかもしれないが、トレーディングプラン全体にとってはかなり有効であろう。トレードには仕掛けと手仕舞い/仕切り、それに仕掛けが間違っていたときのストップロス(損切りの仕切り注文)という3つの行為しかない。これらの各行為にはさまざまなテクニックがあるが、それらを習得して自分なりの指標を開発すれば、どんなチャートも楽々と使いこなせて自分のトレーディングスタイルに合ったエッジ(優位性)が得られるだろう。あなたはマーケットというモンスターをマスターすることは不可能だが、さまざまなマーケットでトレードするときのエッジは習得できるのである。
次に、今や数百万ドル産業になっているメカニカル・トレーディングシステムについて検討する。コンピューターの普及と安価なデータが入手できるようになったことから、だれでもさまざまなトレーディングアイデアを検証できるようになった。トレーダー(投資家)の多くは実際のトレード経験が少ないため、トレーディングシステムについてもアドバイザーや専門家を血眼になって探している。そしてそれらの専門家の多くは、株式や先物をトレードしたい投資家に対してすぐに儲かるようなことを口約束しがちである。しかし残念なことに、彼らのアドバイスを鵜呑みにしてトレーディングシステムを購入し、実際にトレードして大泣きする投資家が後を絶たないのが現実である。こうした夢と現実の大きなギャップがこの業界をはなはだ評判の悪いものにしている。われわれのフューチャーズ・トゥルース(Futures Truth)社は1985年から、さまざまなトレーディングシステムについてテストと評価を行ってきた。当社の目的は、一般投資家に販売されるさまざまなトレーディングシステムについて冷厳な事実のデータを提供することにある。当初はこうした監視役を担ってきた当社ではあるが、年を重ねるにつれて今では良心的で優れたトレーディングアイデアを紹介する会社となった。われわれはさまざまな市場においてメカニカルなアプローチで臨んでも安定した利益を上げられると信じている。その証拠に、今や300億ドルに成長した商品ファンドの約80%の資金はシステマチックなトレード手法で運用されているではないか。
しかし、一般投資家や投機家の80%以上が損をしているというのもこれまた事実である。これらの人々はコンピューターを正しく使っていないため、シミュレーションによるそのパフォーマンス・データを正確に理解していない。トレーディングシステムの性能はコンピューターというよりは、市場の需要と供給を表すチャートをいかに適切に解釈できるかによって決まる。トレーディングシステムは、事後の判断によって、望ましいリターンを出すために意図的にデータを操作することもできる。これが「カーブ・フィッティング(データに対して都合のよいルールを加えすぎること)」と呼ばれるもので、そうしたデータ処理がなされたトレーディングシステムは目を見張るような成績を出せるが、それは現実の世界とは何の関係もないものである。以上の理由から、トレーダーにとって市場で働いている需要と供給の力関係を理解することは極めて重要である。本書の目的は読者の皆さんに次の諸点を提示することにより、実際のマーケットでおカネを儲ける方法を示すことにある。
1.チャートが表している需要と供給の特徴に基き、その意味するものを読み取り、それによって利益を上げる方法
2.ヒストリカルデータはもとより、実際のトレードでも適切に機能するトレーディングシステムを開発するために必要な知識とツール
3.トレーダー(投資家)を正しい方向に導くトレーディングシステムとマネーマネジメントの方法
■序文――真理の探究
妻と3人の子供があり、しかも多額の住宅ローンを抱えていたひとりの若いエンジニアが1950年代末に、1000ドルの軍資金を持ってマーケットの真理を探究し始めた。彼はウエスチングハウスなどの株式をいくらか買っていたが、ある日のこと、95%のレバレッジ(信用)がかけられる先物市場のことを耳にした。一般にエンジニアと呼ばれる人々は大学で難しい授業を受けてきたために、自分はほかの人よりも頭が良いと考えている。こうした思い込みは投資で成功することとは実は何の関係もないのだが、そのことはこの若いエンジニアがその後にたどった苦難の道を見れば明らかである。彼は砂糖を売買して3カ月もしないうちに1000ドルの元手を1万8000ドルに増やした。彼の机上の計算によれば、もっとうまくトレードしていれば、20万ドルまではもっていけたはずであった。
次なる一攫千金のマーケットを探していたとき、中西部の大豆畑で干ばつが発生するらしいといううわさを聞きつけた。そこでこの1万8000ドルの軍資金をすべて大豆に突っ込み、1時間ごとに気象局に電話して最新の天気予報を聞き始めた。大豆相場が値上がりするたびに、彼は証拠金目一杯に大豆を買い増していった。その結果、評価益は見る見るうちに8万ドルに達し、買い玉は200枚になった。天気予報では引き続き深刻な干ばつを予想していた金曜日、彼は大きな葉巻をくゆらし(当時の若いエリート幹部はよく会議の席でこうしていた)、シャンパングラスを片手に妻に向かってこう豪語したものである。「1億ドルから見れば、8万ドルもゼロも大差ないよ」。ところが土曜日の夜になると、中西部では過去100年間でも見られなかったような異常気象が起こった。天地がひっくり返るように天候が激変したのである。月曜日の朝までに中西部の大豆畑では干ばつどころか記録的な大豊作の予想となった。彼の手元に残った軍資金は5000ドル。それでもマイホームは手放さず、今後10年間の生活費を失わなかったのはラッキーだった。ここから得られる教訓は次の3つ。それは、(1)有頂天になってはいけないこと、(2)「知恵」をつけなければならないこと、(3)一度おカネを儲けられたところでは何回でも儲けるチャンスがあること――である。
ここから彼の真理を求める旅が始まった。週末にはワシントンの議会図書館やニューヨークの公共図書館に足しげく通い、テクニカル分析に関する出版物を読みまくった。あるときにはこの道の権威者のドアをたたいたが、多くのドアは開かれず、開かれたドアはごくわずかだった。しかし1970年代初めに多くの市場が値上がりし、また銀市場でも儲けたことから、ようやく彼は会社勤めを辞めることができた。道楽転じて職業になったのである。彼は数年間にわたってペイン・ウエバーの先物市場レターに執筆するほか、テクニカルトレーディングについて何冊かの本を著した。
彼は1980年代半ばにフューチャーズ・トゥルース社を設立した。無意味なトレード手法におカネを払ったり、そうした知識を得るために何千ドルも使うことに嫌気がさしたのである。さらに彼の以前の出版物をコピーして、それを100ドルで売っている者もいた。それは優れたテクニカルツールだったが、トレーディングシステムそのものではなかった。フューチャーズ・トゥルース社の社是は、一般投資家向けに販売されたさまざまなトレーディングシステムの実際のパフォーマンス結果を公表することである。当社はこれまでに約130種のトレーディングシステムのパフォーマンスを検証し、そのニュースレターは全世界で刊行されている。
当社では「夢を売るベンダー(誇大表示やインチキなシステムの販売会社)」のトレーディングシステムのパフォーマンステストは行っていない。投資家からの問い合わせは相変わらず多いが、残念なことに彼らの多くは、十分に理解しないままにトレーディングシステムを購入し、それでトレードしている。一般にトレーディングシステムは初期費用よりもそのあとに多くの経費がかかるものであり、自分に合わないトレーディングシステムを購入して1万ドルを失うこともそれほど珍しいことではない。当社は何回も裁判に訴えられそうになった。このためニューヨークとシカゴの大手法律事務所に対して、この業界の専門出版物に1ページ大のうまい話のトレーディングシステムの広告が掲載されたときには当社に連絡するようにお願いしている。当社はトレーディングシステムに関する冷厳な事実しか公表していない。かつて販売されたあるトレーディングシステムを使ってトレードすれば数百万ドルは損をすると公表して、この会社から訴えられたこともあった(結局、この訴えは棄却された)。フューチャーズ・トゥルース社はこうした多くの夢を売るベンダーのトレーディングシステムを厳しく監視しているが、こうしたいかがわしい業者を一掃することはできないだろう。またあるときには、良心的で優れたシステムベンダーが当社にやってきて、そのシステムのパフォーマンス結果を公表してほしいと要請したこともあった。
一般投資家は夢のトレーディングシステムを求めているが、現実的な利益とドローダウン(引かされ幅)を表示しているシステムは買おうとしない。誠実なシステムベンダーは短期的な勝負では勝つことができないかもしれないが、長期的に生き残るのはこうしたベンダーだけである。5年前のこの業界の出版物を一目見れば、いかに多くの夢を売るシステムベンダーが消えていったかが分かるだろう。ここはおもしろい業界である。当社は「エクスカリバー・テスティング・ソフトウエア(Excalibur Testing Software)」にかけることで、さまざまなトレーディングシステムのパフォーマンスを検証している。われわれはこれまでに、各種市場のトレードに関して入手し得るほぼすべての手法を検証してきた。その結果明らかになったのは、投資家を金持ちにする「聖杯」または魔法の手法は存在しないという単純な事実である。しかし、さまざまな市場でエッジを得るためのトレード手法は確実に存在しており、本書ではまさにそのテーマを取り扱っている。要するに、そうしたエッジの見つけ方とそれを使ってさまざまな市場で実際におカネを儲ける方法である。
1980年代初めにコンピューターが爆発的に普及したため、株式や先物のトレーダーは強力なツールを手にすることができた。今や何年間ものデータをフォローしたトレーディングアイデアを瞬時に検証することができる。しかし残念なことに、まさにこうした便利さが、信じられないほどのリターンを作り出せるカーブ・フィッティングという統計上の幻想を生み出している。その結果は現実の世界のものではない。昨夜のテレビでも、こうしたカーブ・フィットされたトレーディングシステムを使えば大金持ちになれるというインフォマーシャル(やや長時間の説明的なコマーシャル)が流れていた。本書ではこうしたアプローチの偽りを検証するとともに、実際にマーケットでトレードするときに統計的に有利な各種のトレーディングアイデアも紹介する。
簡単に言えば、テクニカル分析とは市場の需要と供給の力関係を理解するためにヒストリカルなデータを検証することである。こうした作業がマーケットでトレードするときにその投資家にエッジをもたらし、安定した利益の出るトレード手法につながるのである。その意味では、テクニカル分析とはマーケットでトレードするときの実用的で有効なツールと言うこともできる。
ここで現在では最も優れている(と思われる)トレード手法のエピソードをひとつ紹介しよう。筆者はノースカロライナ州に農場を所有している。トレードをしていたある日のこと、牛たちが北の牧草地に向かうと小麦価格が上昇することに気づいた。最初はあまり気にかけなかったが、牛たちが北に向かうと必ず小麦相場が値上がりするのである。私は興奮を抑えることができなかった。ついに究極のトレード手法を見つけたんだ! 博士号を持つ農学者を雇ってこの不思議な現象を調査し、その答えを求めようとした。しかし、数カ月が経過したときに私はこの高給の農学者を解雇し、2人のハイスクールの学生を雇った。そして小麦を買うときはいつもこの学生たちに牛たちを北に連れていかせたのである。
バカバカしい話だって。そうかもしれない。でも土星の位置は銀相場の方向を暗示してくれるし、また季節的なパターンに従って2月15日に英ポンドを買い、3月3日にそれを売れば80%の確率で儲かると主張するその道の専門家とどこが違うというのか。
相場の動きを示すバーチャートは、市場の基本的な需要と供給の力関係を表している。ドンチャン・ブレイクアウト手法(相場が過去4週間の高値を上抜いたところを買い、過去4週間の安値を下抜いたら売る)を知っている人も少なくないだろうが、これが最初に紹介された数十年前から、その基本的なルールを守ってトレードすれば相場でコンスタントに利益を上げ続けられることが実証されている。そして今ではコンピューターのおかげで、こうしたさまざまなトレード手法が瞬時に検証できるのである。
トレードの成否にとってタイミングは不可欠の条件である。このタイミングの問題が解決されれば、その経済的報酬は計り知れない。本書で取り扱うのも主にタイミングの問題である。本書の内容はすべてテクニカル分析であり、ファンダメンタルズ分析は一切扱っていない。適切なチャート分析は投資家が知る必要のあるすべてのファンダメンタルズを明らかにする。チャートには市場のブルとベアの動きがすべて反映されている。ファンダメンタリストがある状況を説明するとき、彼はファンダメンタルズのある一面だけを強調するかもしれない。しかし、チャートには(彼がポジションを取っているときには)相場に対するその見通しはもとより、その他のあらゆる経済的な利害も映し出される。
読者の皆さんもテクニカル分析手法を研究し、それを実地に応用すれば、変動するすべての株式と先物市場に対処できるのである。ファンダメンタリストであればこんなことは不可能である。ファンダメンタルズ分析には変数があまりにも多すぎるし、そのなかには互いに矛盾するものもある。
フューチャーズ・トゥルース社は15年以上にわたって株式と先物市場のトレーディングシステムのテストと評価を行ってきた。その結果言えることだが、システマチックなメカニカル・システムでも長期的なトレードで利益を上げることは可能である。一般投資家もシステマチックなトレード手法を使って300億ドルを運用している商品ファンドと同じことができるのである。しかし現実には、投資家の90%が毎年損失を出している。さまざまなトレーディングシステムについて冷厳な事実を提供することがわれわれフューチャーズ・トゥルースの仕事である。当社の検証データを十分に活用すれば、投資家のそうした悲惨な結果の原因も明らかになるだろう。
真理1――このゲームの名前はマネーである
まず最初に知っておくべきことは、このゲームの名前はマネー(おカネ)であるということである(もしくは利益の追求である)。さらに言えば、それはゲームの名前だけでなく、その目的そのものでもある。それ以外の目的を持っている読者にとっては、このゲームと本書は何の意味もない。
すべてのゲームと同様に、このゲームにも2つのチームがある。ひとつは「私たち」のチームであり、もうひとつは大きなシンジケートを組んでいる(最近ではそうではなくなってきたが)「彼らの」チーム、またはお互いに無関係のプロのトレーダー集団である。
このゲームの目的はゲームをもり立てるために投入されたおカネをどのように手に入れるかということである。ここで使われる手口、工作そして複雑な策略は数えきれず、名フットボールコーチのクヌート・ロックニーでさえもおそらく当惑するだろう。
その最初の手口はウソ、そこまではいかないにしても口からの出任せは日常茶飯事である。タコだらけの手に真っ黒なトウモロコシの穂を取ってみる哀れなブラウン農夫のテレビ画面を見たことのない米国人などいないだろう。実際、1971年には葉枯れ病の流行でトウモロコシの価格はブッシェル当たり1.40ドルから1.67ドルに上昇した。トウモロコシを手に入れるには配給カードが必要になるだろうと思いきや、何と驚くなかれ、実際にはそれまでの記録的な生産水準を3分の1も上回る大豊作となり、トウモロコシ価格はタイタニック号のように47セントまで大暴落したのである。
こうした例は数えきれず、例えば1950年代後半から60年代の初めにはそれまで無名の存在だったブランズウィックとAMFというボウリングセンター運営会社の株式がそれぞれ60〜70ドルに急騰したあと、その後はブランズウィック株が6ドル、AMF株は14ドルまで下落したのである。この時期には新興国も含めて、全世界の3分の1の家族がボウリングに熱中したものであった。
こうしたことはコンピューター会社についても同じである。例えばレビン・タウンセンド(LTX)という会社の株は1965年にはわずか1 1/2ドルだったが、その後のコンピューター・ブームに乗ってあれよあれよという間に上昇を続け、1968年には68 1/2ドルまで急騰。しかし2年後の1970年には早くも業績の陰りに加え、不正な会計処理疑惑もあって株価はわずか3ドルまで暴落した。
最近の「ドット・コム」会社もこれとまったく同じである。例えば1998年11月に約25ドルで初公開されたグローブ・ドット・コムという会社の株はその数日後には48.5ドルまで急騰したが、それから1年後にはわずか7ドルまで下がってしまった。
これら4つの会社に共通しているのはうまい話、つまりウソに踊らされて株価が飛んだといういうことである。トウモロコシがなくなる、全世界の人々がボウリング場に殺到する、コンピューターが将来の世界を席巻する、「ドット・コム」という会社であれば何でも買いだ……、たぶんそんなところであろう。しかし、実際の事実はバーチャートを見れば一目瞭然である。以上の例から学ぶべき教訓は、われわれをだますために「彼らの」チームから絶えず流されるニュース、早耳筋の情報、ホラ話などはすべて無視するということである。重視すべきただひとつのことはチャートだけである。そこに示されたことだけが事実、ただひとつの真実である。
真理2――自分がとっているリスクを知らない者は、すべてをリスクにさらしている
トレードについて2番目の基本的な真実は、リスクの度合いに関することである。どういうことかと言えば、個人投資家は、行動を起こす前に、つまり自分の確信に基づいて行動する前に、それを裏づける証拠を見つけなさいということである。筆者は、胸元にピストルを突き付けられてもまだ決断を下さないような非常に優れたテクニシャンを何人か知っている。そのひとりなどは特定の状況については鋭いコメントを述べるが、最終的な売り/買いの決断を迫られても、まだ「よく分からないなあ。そのうちあるパターンが明らかになるから、それまで静観したほうがいいな」などと言って、けっして決断しない人である。しかし、そうしたパターンがだれの目にも明らかになれば、すでにそのチャンスはなくなっているのである。
実際、市場のプレーヤーが売り/買いの決断を下す十分な証拠を入手するまでには、すでに勝負は終わっているのである。あなたが何かをすべきだと思ったら、今すぐそれをしなさい。待ってはいけない、後ろを見てもだめだ。
真理3――その心理的な気質がマネーマネジメントとリスクコントロールの仕方を左右する
リスクは自分がコントロールできる唯一のものだということを肝に銘じておくこと。1回のトレードでは総資産の1〜5%しかリスクにさらさないトレーダーがいる一方で、大博打を打つトレーダーもいる。しかし、ラリー・ウィリアムズ流に言うならば、「リッチな人々はけっして大きなリスクはとらない」のである。実際にトレードを始める前に、この非情な原則をよく脳裏に刻み込んでおくように。もしあなたがガードを下げたら、大損はけっして他人事ではないのである。この世界では、それ行けどんどんといった単純な考え方は破滅につながることをよく知っておくべきである。もしもあなたが株式や先物市場でこうした考えで臨めば、マーケットはけっして手加減しないだろう。エゴを抑えて小損で逃れることを学びなさい。そうでないと大損することは請け合いである。
たとえそのトレーダーが最高のテクニカルツールを自由に使いこなせても、自分の心理をうまくコントロールできなければ、この世界でおカネを儲けることはできない。もしもあなたがこの世界で成功したいと思うならば、自分はどのような人間でどのように決断を下すのかを学ばなければならない。人間の金銭に関する決断は実は極めて感情的なものである。
例えば、車を買おうとしている人を取り上げてみよう。衝動的に購入を決める人もいれば、車の購入に先立ってさまざまな車のデザインや構造などについて数カ月かけて調査する人もいる。しかし、そのような慎重な人もいつかは決断を下さなければならない。これと同じことはトレーダーについても言える。ふとした思いつきで衝動的に株を買ったわずか15分後にはすっかり気が変わってしまう投資家もいる。その一方で、現在の状況についてあれこれ調べ、売り/買いの決断を含めてすべてが明らかにならないと行動を起こさないトレーダーもいる。このようなトレーダーはその株が大きく動いたあとで市場に参加するが、それでは遅すぎるのである。われわれはこうした態度を「リスクの嫌悪」と呼んでいる。優れた投機的判断を適切に行動に移さなければ、それは衝動的な行動と同じく、この世界で成功を収めることはできない。トレードで成功するには適切な戦略とそれを直ちに行動に移す能力が不可欠である。そして投機家たる者は常に自分自身に打ち勝つだけの克己心を失ってはならない。
ところであなたは自分にこう問いかけるかもしれない。「なぜ自分は株や先物をトレードしているのだろうか」。株や先物のトレードはギャンブルとはまったく異なり、われわれの経済に重要な役割を果たしている。しかし、トレードとギャンブルのプレーヤーにはそれほど大きな違いはない。もしもあなたがトレードに関する調査・研究に時間を惜しむならば、サイコロを振るよりも勝ち目は少なくなる。この世界では勝率はかなり予測可能なのである。ギャンブルやギャンブラーに関する本を読めば、「あぶく銭」を得るためにきゅうきゅうとするようなことはなくなるだろう。心理学者が言うように、衝動的なギャンブラーというものは自らを罰するために身を滅ぼしたいのである。
もしあなたがこの世界で成功したいと思うなら、自分で快適だと思うところ、そして自分の心理的な気質がどのようなものなのかを知ることだ。自分の内なる強さと弱さを知れば、その強さを伸ばし、弱さを克服するための方法も分かるだろう。ここでもう一度トレードの心理的な要素をまとめると、汝自身を知れ、そしてなぜ自分はトレードしているのかを考えよ――ということである。これに本書で語られているテクニカルな知識が加われば、成功への道にかなり近づくだろう。
米国で最も著名な民間穀物統計家のひとりにコンラッド・レスリーがいる。ある会議の席上、私は同氏に1977年に出版された私の小著を差し上げたことがある。それから数カ月後にレスリーを訪れ、この本はどうでしたかと伺った。これに対してレスリーは、これまでに読んだマーケットについての本のなかでは最も優れたもので、一般向けにに発売すべきではなかったねと言った。同氏はさらに、その本のなかに書かれているアイデアのひとつを使って大儲けすることができたと述べた。私が、それは何ページに書いてあるアイデアですかと尋ねたところ、レスリーは、「それは秘密。でも君が一生懸命探せば、たぶん見つかると思うよ」と答えた。本書を読んでレスリーと同じく大儲けした人がいたら、どうかそのアイデアが書かれてあるページを教えてほしい。
読者の皆さまがトレードで成功されますように。そしてどうか忘れないでもらいたい、「リッチにこの世を去る投機家は、けっして自分の運の頂点までは行かない」ということを。
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