第2節 海外投資のリスク
例えば、落とし穴が怖いのは「どこにあるのかわからないから」に尽きます。これ
は、裏を返せば、「落とし穴がどこにあるのかがわかっていれば怖れるに足りない」
ということでもあります。
この「罠がわかっていれば怖くない」は海外投資にも言えます。そこで、ここでは
海外投資をするうえでのリスク(落とし穴)について書いておきたいと思います。
海外投資の場合、考えなければいけないリスクは国内投資よりも多いです。多いと
いうよりも、実はたくさんあります。
だからといって、海外投資=難しいにはなりません。海外に口座を開設したり、海
外の株式を購入したりなど、少し敷居が高いように感じるだけ。国内投資とはちょっ
と違うリスクを理解するだけで十分対処できます。
先日、以下のようなメールをいただきました。
はじめまして。いつも香港資産運用奮闘記で勉強させていただいてます。
<< 中 略 >>
私も海外投資を始めてみたいのですが、何もやったことがないので正直言って、不
安ばかりでなかなか踏み切ることができません。その手の本もいろいろ読みましたが、
読めば読むほど不安が募りますね。なんか、いいことばかりが書かれているような気
がして……。海外投資にはどのようなリスクがあると思いますか?
お忙しいところ申し訳ありませんが、お時間のあるときで構いませんのでご返信い
ただけたら幸いです。
このようなメールをいただくと、私自身も真剣に考えてしまいます。また、自分の
思考の再構築に当たって「とてもいいきっかけ」にもなります。
現在は、日本の経済危機をあおり「海外に資産を分散させなさい!」と訴える経済
評論家ばかり。そのたぐいの本も本屋には山積み。でも、海外の良さと日本の悪さば
かりが強調されていて、具体的に海外投資のリスクについて書かれている本は意外に
少ないというのが私の感想です。
日本人はこれまで、極めて便利な社会に生きてきました。国家や企業に依存してい
れば、ほとんど不自由なく生活することができました。しかし今、それは過去のこと
になりつつあります。今後は、これまでに無駄遣いしてしまった国家の借金の返済を
迫られます。大増税や課税強化、徴税強化、もらえる年金の減少、支払う年金の増加
など、支払う金額は増える一方なのにもらえる金額は減る一方という、いわゆる逆ザ
ヤの状況になると思われます。
さて、これまでにもお話ししたように、海外投資はこうした事態を免れるための方
法です。しかし、万事が万事良いことだらけではありません。でも、何度もお話して
いるように、どんなリスクがあるのかを知り、用心しておけば、心配する必要はあり
ません。いったい海外投資のリスクにはどのようなものがあるのでしょうか。以下に
主なものを紹介します。
- 為替のリスク
円高になれば海外資産は減少します。逆に、円安になれば海外資産は増加します。
今は円高ですが、私自身の見解では「この円高はもう当分やってこない」と思ってい
ます。なぜなら、今の円高は操作された円高であり、真の日本の経済力を反映してい
ないからです。今後、円高になる材料がとても弱すぎると思います。ある意味、円高
の今は海外投資のチャンスです。
- 国家のリスク
日本に限らずどこの国でも、国家の財政が破綻すれば、デフォルト(債務不履行)
になり、預金やその国の通貨建て債券は保証されなくなります。紙くずになります。
最近ではアルゼンチン国債が、元本の3割になり、償還期間が数十年伸びました。今
日100万円になるはずの債券が、30年後の30万円に変わってしまったということです。
そういうことを考えると、
- 香港やシンガポール、スイス、ルクセンブルクなどの小さな政府を持つ国
- ニュージーランド、オーストラリア、カナダなどの資源国
- インド、中国、タイなどの経済成長の著しい国
をバランスよく分散投資するのが一番賢いのではないかと思います。
- 金融機関のリスク
日本に限らず、金融機関が破綻すれば資産は目減りします。国によって、預金保険
機構が整備されている国もあれば、整備されていないない国もあります。預金保険機
構が整備されている国――アメリカ・イギリス・カナダ・香港など――にお金を預け
るほうがリスクは減りますね。
- 企業のリスク
これも日本と同じで、海外の企業の株式を買えば企業倒産リスクがあります。海外
の場合、「(企業)情報が入手しにくい」点を心配される人がいますが、今はインター
ネットがありますので、それほど心配する必要はないと思います。むしろ、入手した
英語情報をきちんと読みこなせるかどうかのほうが問題になるでしょう。
- 紹介者のリスク
海外口座などの開設は、詐欺まがいの被害も少なくないようです。「口座開設をサ
ポートすると言って、紹介料を30万も50万も請求された」「口座開設後、200万円入
金したはずが、誰かに引き落とされていた」などという被害も実際にありますので、
エージェント選びには十分気をつけてください。
海外のエージェント選びの参考として、私の経験から言えることは、「一度のやり
取りですべてを信じきらない」ことです。基本的にインターネットで検索して、まず
はメールで問い合わせすることになると思うのですが、「細かいことでもわからない
ことはわかるまで質問する」ことが必要です。
何度もメールでやり取りする流れの中で、エージェントの体質がわかってきます。
「早い対応、丁寧な対応、わかりやすい対応」。これをすべて満たしているエージェ
ントは、満足のいく良質なサービスを低価格で提供してくれることでしょう。
今のところ思い当たる主なリスクは以上の5つです。さらに付け加えるならば、日
本の偽造カード被害のようなリスクでしょうか。これは日本も海外も同じリスクがあ
ると思いますが、海外でこの被害に遭った場合、現地まで飛行機で飛んで、現地の窓
口で面倒な手続きをしないといけません。そのあたりは海外の銀行を使ううえでやむ
を得ないところです。
上記の1〜5のリスクのうち、3と4は国内でも考えられるリスクなのに対して、
1、2、5は海外投資独特のリスクです。「その国の為替を知り、国を知り、きちん
とした紹介者を選ぶ」ことが、最低限必要なリスクマネジメントではないでしょうか?
「海外投資をする前に、一度でもその国に足を運んで、その国を知って、その国を
好きになる」。これに尽きますね。
石田 和靖 Kazuyasu Ishida
株式会社ザ・スリービー 代表取締役。会計事務所に10年間勤務、主に法人税業務と財
務コンサルティング業務を中心に携わる。UAE、パキスタン、ミャンマー、タイ、ベ
トナム、インドネシアなど中近東〜東南アジアエリアの外国人経営者の法人を多く担
当。その後、(有)ザ・スリービーを設立。年に十数回、香港・タイ・UAEなど各国
を訪問し、香港やドバイの証券会社にも太いパイプを持つ。世界の投資情報を集約さ
せるべく構築された、「海外分散投資に燃える同志が集まるSNS “World Investors”
」を企画・デザイン。著書に『15万円からはじめる本気の海外投資完全マニュアル』
『タイ株投資完全マニュアル 入門編』がある。
海外投資専門チャンネル「WorldInvestors.TV」
つながれ。海外投資家たち。ワールド・インベスターズ
香港資産運用奮闘記 kz@銅鑼湾
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