仏教を学ぶ目的は、やすらぎ・幸福感・自信などを養い、不安・絶望感・恐怖心などを避けるためである。氏は真逆の状態だった。しかし、さまざまな方法による瞑想の指導を受けることにより克服していった。その後、正式に仏教の修行を開始する。それと同時に人生が好転し始めた。
しかし、仏教の理論は一般的には分かりにくいものである。文化が違えば尚更である。存在しない単語もある。その解説や証明は、仏教の修行に興味をもった科学者たちの協力により解決された。仏教と西欧科学が協力し合い、データ収集し、より理論的に説明できるようになった。瞑想と脳の働きなどは、ぜひ、参考にして欲しい。
マインドフルネスとは?
ひとが瞑想で体験できる、
この瞬間(今)に、行動や体験(ここ)に意識を集中させる状態。
仏教の瞑想における基本技術とされる。
瞑想を科学的に分析する試みは、ダライ・ラマをはじめとする
数万時間の瞑想経験をもつチベット僧たちの協力によって明らかにされてきた。
この20年間の研究で、心身への良い効果が科学的に実証されはじめている。
脳神経科学者がおこなった瞑想研究によると、瞑想状態にあるチベット僧を対象に
脳波を測定したところ、意識や集中力、記憶、自制のみならず、
幸福感、慈悲なども活性化することがわかった。(ゴーピ・カライル著『リセット』より)
この実験に参加し、もっとも高い脳波を示した一人が
本書の著者ヨンゲイ・ミンゲール・リンポチェ師である。「地球上で最も幸せな男」との異名はこのときつけられた。
* ダニエル・ゴールマン氏による記事(The New York Times、2009年7月17日)
「マインドフルネスストレス低減法」を提唱した
マサチューセッツ大学医学大学院のジョン・カバット・ジン氏によると、
8週間マインドフルネスを練習した人の脳は、1万時間も瞑想した修行僧と同じように
高いEQをしめす傾向があった。つまり、瞑想するためには、仕事を辞め、修行生活に入る必要はなく、
瞑想トレーニングにより、脳は活性化できることがわかったのである。
瞑想のお薦めの1冊
ミンゲールは珠玉の人物だ。偉大な瞑想の天才で、13歳のときに精神力でパニック障害を克服した。そして16歳という若さで指導者に任命された。『今ここを生きる』はミンゲールの素晴らしい人生の話を織り込んだ、瞑想についての見事な本だ。――* チャディー・メン・タン著 『サーチ・インサイド・ユアセルフ』より
* Google設立メンバーであるエンジニア。
マインドフルネスに基づく情動的知能(EQ)の研修プログラムを開発した。
同プログラムは従業員のストレス低減や、業績改善などに効果があり、
現在、多くの企業で導入されている。
EQは自己や他者の情動を感じ取り、行動に反映する能力のこと。
ダニエル・ゴールマン著『EQ――こころの知能指数』によって知られるようになった。
思いやり、共感、人への影響力、コミュニケーション力などは、
卓越したリーダーのみならず、あらゆる職業でプラスの効果をもたらすとして
注目されている。
著者紹介
ヨンゲイ・ミンゲール・リンポチェ Yongey Mingyur Rinpoche
1975年、ネパール、ヌブリ生まれ。チベット以外の場所で修行した新世代の師僧として、チベット仏教界の新星と目されている。チベット仏教の伝統に基づく実践的かつ哲学的な教えを身につけると同時に現代科学の領域にも深い理解を示し、両者の統合をはかる活動を続けている。特に、生物学者のフランシスコ・バレーラ、神経科学者のリチャード・デイヴィッドソンらとの交流は有名。誠実で、ときにユーモアをたたえた講話は、世界規模で仏教徒、非仏教徒を問わず多くの聴衆を魅了している。その様子は自身のウェブサイトtergar.orgでも(動画を含め)閲覧できる。
原書:The Joy of Living: Unlocking the Secret and Science of Happiness
訳者紹介
松永太郎(まつなが・たろう)
翻訳家。1949年、東京生まれ。1972年、アメリカ留学。
訳書に、ケン・ウィルバー『進化の構造(1)(2)』『統合心理学への道』『存在することのシンプルな感覚』『インテグラル・スピリチュアリティ』(以上、春秋社)、ケヴィン・アンドリュース『イカロスの飛行』(みすず書房)、ドン・ミゲル・ルイス『四つの約束』(コスモスライブラリー)、ステファン・ボディアン『過去にも未来にもとらわれない生き方』などがある。2010年逝去。
今本 渉(いまもと・わたる)
翻訳家。1961年、大阪生まれ。東京大学文学部卒。
訳書に、L・P・ハートリー『ポドロ島』、エリオット・ポール『不思議なミッキー・フィン』(以上、河出書房新社)、ロバート・エイクマン『奥の部屋』(ちくま文庫)などがある。
はじめに
ダニエル・ゴールマン
私たちは今、科学の歴史上、前例を見ない出来事を目の当たりにしている。科学者と瞑想家が対話を始めたのだ。科学的な視点から見たとき、この出会いには目が覚めるようなものがあった。私の専門は心理学だが、その起源はかつては常にヨーロッパとアメリカにもとめられ、おおよそ二十世紀に始まったものと信じられていた。しかしこの思い込みは文化的な先入観に基づくものであり、歴史を鑑みても近視眼的な見方でしかなかったことがわかったのである。心とその働きに関する理論―心理的システム、とでもいおうか―は、世界に広がった偉大な宗教のほとんどにおいて発達してきた。しかも、その宗教はすべてアジアで生まれたのだ。
1970年、大学院生として私はインドに調査旅行をし、アビダルマを研究した。これは仏教に古くから伝わる心理学の中でも、もっともエレガントなものの一つと私には思えたのだった。心の科学の基本的な問題が、たった百年前どころか、何千年も前からすでに探求されていたことを知って、私は驚愕した。当時の私の専門であった臨床心理学においては、さまざまな感情的な苦痛を和らげる方法が研究されていた。驚くべきことに、何千年も前から連綿と続いてきた仏教の心理システムは、単に精神的苦痛を癒すばかりではなく、慈悲や共感という人間の肯定的な能力を拡大する方法論をも明確にしているのである。私はこのような心理学が存在することをそれまで聞いたこともなかった。
現在、この古くからの内的科学の実践家と、現代の科学者とのあいだの活発な対話は、現実の共同作業へと花開いている。ダライ・ラマと「心と生命研究所」が促進してきたこの協力関係によって、ここ数年間、仏教徒とその研究者が現代の科学者と議論を重ねてきている。はじめは対話であったものが共同研究を行うまでに至ったのだ。その結果、仏教における心の科学の専門家と神経科学者との共同研究では、さまざまな心の訓練(メンタル・トレーニング)の神経系に与える影響が記録された。
本書の著者ヨンゲイ・ミンゲール・リンポチェはこの研究に参加した専門的な実践者の中でも最も積極的な一人であり、ウィスコンシン大学ワイスマン脳映像及び行動研究室の責任者、リチャード・デイヴィッドソン教授とともに調査を行った。この調査は、もし今後も重ねて実施されれば、科学における基本的な仮説を塗り替えてしまうような結果をもたらした―たとえば、数年にわたって体系的な瞑想の訓練を行った場合、それが脳の活動にもたらす肯定的な変化の大きさは、現代の認知・神経科学には想像もつかないほど目を見張るものがあった。
最も驚くべき結果は、ヨンゲイ・ミンゲール・リンポチェを含む何人かの瞑想の達人を研究することによってもたらされたものだろう(本書にもそのくだりは述べられている)。彼らが慈悲の瞑想を行う間、幸福感を司る脳の領野におけるニューロンの活動が、700%ないし800%も増大したのである。同じ研究では普通の被験者、すなわち瞑想をはじめたばかりの初心者でも、10%から15%の増加が見られた。彼ら瞑想の達人はオリンピック選手のような修練を積んでおり―その生涯で一万時間から一万五千時間を瞑想に費す―何年にもわたる隠棲のあいだに瞑想の技術を磨くのである。ヨンゲイ・ミンゲール・リンポチェはこの分野での天才児といっていい。幼少時から実父であるトゥルク・ウルギェン・リンポチェから非常に深い瞑想の指導を受けたが、この父は中国共産党による侵攻直前にチベットを脱出した偉大な高僧の一人である。ヨンゲイ・ミンゲール・リンポチェは13歳のとき啓示を受けて三年間に及ぶ瞑想生活に入り、それが終わると今度は同じ僧院でさらに三年、指導者として隠棲することになった。
ヨンゲイ・ミンゲール・リンポチェは現代科学に高い関心を抱いている点でもまた異例の存在である。「心と生命研究所」の会議に欠かさず出席し、科学者たちをつかまえては彼らの専門について話を聞いていた。こうした対話から、仏教と現代科学の、その理解の急所においての共通性が明らかになってきた―その共通性は心理学にとどまらず、量子論の進化によって発見されつつある宇宙の法則にまで及ぶものだ。こうした対話の一端は本書にも紹介されている。
そしてさらに秘エソテリツク教的な話題のかずかずが諄々と語られ、瞑想の実践法の初歩としてわかりやすい形で紹介されている。つまるところ本書は人生をよりよいものにするための実用的な案内書である。私たちが最初の第一歩を踏み出すとき、旅はすでに始まっているのである。
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