世界最大手の債券運用会社ピムコの最高投資責任者ビル・グロス氏は、30年前から自室に3人の肖像画に教訓を添えてを飾っている。リバモア、バルーク、JPモルガンでから学んだビル・グロス氏の投資哲学の根幹とは!
(下記、日経ヴェリタス 2010.4.18「ビル・グロス 債券王の奥義5「己を知れ」偉人に学んだ投資の根幹」より一部抜粋)
リバモア――「己を知れ」
自分が悲観的な人間でリスクを避けすぎる性格か、逆に楽観的でリスクを取りすぎるのか。それが分かれば、どんな状況になれば自分がどう反応する人間なのかも分かります。自分を客観的に見ることができれば間違いにも気づくでしょう。それがジュウだとリバモアは説いたのです。
バルーク――「事実を知れ」
「2プラス2は4」という彼の言葉を写真に添えています。人は恐怖を感じたとき、事実を見失って真っ暗に感じるものです。でも、「2プラス2は4」という真実は変わりません。事実をとらえることで極端な悲観や楽観を和らげることができるのです。
モルガン――「本質を知れ」
「融資の基準は財産ではなく人格だ」という言葉を写真に添えています。証券化であらゆる資産が投資対象になり、投資家は資産の価値を計って値段をつけ始めました。ところがモルガンは警告します。「違う。人格だろ」と。
本書には、5人の株式トレーダーが登場する。いずれも、多くのトレーダーが夢見るほどの大金と名声をウォール街から手にした成功者だ。彼らのトレーディング時期は少しずつ重なってはいるが、全員の時期で見ると、ウォール街のここ100年の動きを見ることができる。その間、マーケットはさまざまな顔を見せた。彼らはその中で、それぞれの規律と戦略を確立させ、素晴らしい実績を残した。
5人のルールには、実に驚くほどの類似性がある。つまり成功へのルールだ。彼らが多大なる時間をかけて見つけ出したその掟が余すところ無く著された本書は、実に有益な一冊である。
■はじめに
(一部抜粋)
本書は、素晴らしい偉業に関する本である。本書には、株式トレードという極めて困難な試みで最高レベルの成功を達成した5人の人物が登場する。株式トレードで相当の利益を上げ、そこそこの成功を収める人は少なくない(大部分はそうでないが)。しかし、本書で取り上げた人物は「傑出」した業績を残しているのだ。
彼らが超一流なのは、何十年にもわたってとてつもない成功を収めたからだけではない(ひとりは現在も活躍中である)。株式相場で成功するための新たな道を切り開き、年月をかけた検証をも乗り越えてきたからである。株式相場において、年月の検証を乗り越えるということは、並はずれた功績なのだ。
では、彼らはどのような人たちで、どのように優れているのだろうか。
彼らは皆、ウォール街の伝説的人物であり、自らの効果的なトレード戦略について、多くの後進に影響を与えた書籍を著している。まずは簡単な紹介をしよう。
・ジェシー・リバモア(Jesse L. Livermore)
現在も利用可能な革新的なトレード戦略を確立した孤高の天才。とてつもない富を手に入れるが、何回もそれを失うという波乱の人生を送った。最後は、自らの個人的な問題とひどい憂鬱の犠牲となってしまった。
・バーナード・バルーク(Bernard M. Baruch)
知的で洗練された財務家。トレードの成功で大富豪となり、金融界に入って名を上げた。その後、アメリカでも最高レベルの権力を持つ高官となった。
・ジェラルド・ローブ(Gerald M. Loeb)
経済記者、株式ブローカー、そして半世紀以上にわたって何百万ドルもの財を成した積極的トレーダー。厳格な売買ルールの規律を守りつつ相場と「戦った」。
・ニコラス・ダーバス(Nicolas Darvas)
プロダンサーでありながら、偶然に株で儲けたことがきっかけで、成功への断固たる決意を持って株式トレードの世界に飛び込んだ「アウトサイダー」。試行錯誤が長く続いたが、けっしてくじけず、最後には何百万ドルもの富を手にし、タイム誌で特集記事が掲載されるまでに至った。
・ウィリアム・オニール(William J. O'Neil)
事実を重視したリサーチを熱心に行う。途切れることのない綿密な研究と規律ある売買ルールに基づいて、株式トレードで財を成す。その後、プロの投資家と個人投資家の両方を対象にした投資リサーチ情報のビジネスを立ち上げて成功。
株式トレードは、簡単に始められて、しかもすぐに金持ちになれるという思い込みから多くの人を引きつける。しかし現実には、大半の人がそうであるように、手痛い目に遭って思い知らされる。けっして見かけほど、簡単にはいかない。
株式市場は、期待と感情をあらわにされる興味深い場所だ。
しかし本書で挙げた5人の先達者は、たゆまぬ研究・研鑽によって、この厳しい世界に立ち向かう手法を見つけた。それができたのは、日々の細かな相場変動にとらわれず“その奥にあるもの”を入念に探り出そうと注力したからにほかならないだろう。
彼らのように最高の成果をつかむには、集中的な観察と研究が必要となる。しかしそれは、ほかの職業でも同じはずだ。大成するためには、集中と必死の努力が不可欠だろう。だが、それを継続するのは難しく、ほとんどの人が十分な集中と努力を払おうとしないのだ。
5人の偉大なトレーダーが経験によって悟ったように、株式相場とは人々が思い描くどおりのものではない。大部分において、大部分の人の期待を裏切るようにできているのだ。
新たな相場サイクルが始まると、その戦いに勝てるという新たな戦略を触れ回る自称専門家が、必ず出現する。新しい本が出版され、新しいニュースレターが書かれ、新しいウエブサイトが開かれ、「新発見の秘訣」だの「相場で成功する新手法」だのを自慢げに語る。だが、長続きしているものはほとんどなく、継続的な成功をまったく示さずに消え去っていくのだ。
その一方で、スポーツ、音楽、ビジネス、医学などと同じように、その他大勢の人々よりも卓越した少数者が生き残る。これも、株式相場だけが特別ということはない。人生において追求する価値のある、ほかのどんな物事とも同じで、可能なかぎり高いレベルにまで到達するには、必死の努力と専念が不可欠なのである。
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