22章から構成される本書のトレーディングの授業は、先物や株式などあらゆるマーケットで利益を上げられる実践的な速成投資講座である。ここで紹介されているセットアップ、トリガー、フォロースルーというトレーディングの3つの基本条件(プロセス)をベースとするバーンスタインのトレード手法は、そのルールを正しく順守すれば、トレーダーにコンスタントな利益をもたらすだろう。また異なるマーケットやタイムフレームなど、3つのレベルにおける分散投資の必要性、どのような優れたトレーディングシステムやトレード手法を使おうとも、トレードの成否を決定するのはそのトレーダーの心理と行動、そして規律であるというのも貴重なアドバイスである。
トレーディングによる経済的自立を手にするうえで、経済学やファイナンスなどの専門知識や学位は不要である。必要なものは正しい決定を下す意思力、それを順守する規律と行動力である。本書ではその具体的な方法をはじめ、今日のダイナミックなマーケットで成功するための分析と行動のスキル習得法についても詳述されている。
「バーンスタインはテクニカルトレード分野のパイオニアである。一流のヘッジファンドマネジャー、プロのトレーダー、トレーディングソフトの開発者などが、彼のマーケットとトレーディングの指標や手法を使って大きな成功を収めている。本書にはそうしたトレーディングの成功の秘訣が述べられているが、彼らとしてはおそらく公表しないでほしかったと思っているだろう。ここで述べられているトレーディングツールのいくつかは、客観的なルールに基づくメカニカルなトレード手法であり、マーケットでコンスタントに利益を上げるには、セットアップ、トリガー、フォロースルーというトレーディングの3つの基本条件とリスクマネジメント手法を必ず順守しなければならない。この本を読まないというのは、トレーダーとして最大の損失である」――ナショナル・フューチャーズ・ドット・コム(http://www.NationalFutures.com/)社の社長兼著述家のジョン・パーソン氏
「バーンスタインはトレーディングの世界の闇を取り払い、だれでもプロのトレーダーになれるトレーディングツールを公表してくれた。各章を読み進むだけで、普通では何年もかかる投資テクニックがマスターできる」――トレーダーのコーチで『NLPトレーディング――投資心理を鍛える究極トレーニング』の著者であるエイドリアン・ラリス・トグライ女史(http://www.TradingOnTarget.com)
「トレーダーの教育者たちをオーストラリアとアジアに連れて行ったことがあるが、そこでは飛躍するマーケットを目の当たりにした。私はバーンスタインのトレーディングツールを使って大きな利益を上げている。一歩ずつ学び、しかも読みやすい実践的な投資レッスンである本書を熟読すれば、あなたにもそれが実現するだろう」――アデスト(Adest)社のCEOであるデビッド・ハント氏
「本書は成功する短期テクニカルトレーダーに飛躍するための必読書である」――著名なトレーダー、投資アドバイザー兼トレーディングシステムの開発者でもあるラリー・ウィリアムズ氏
監修者まえがき
本書は、ジェイク・バーンスタインが30日間で短期トレードの技術を伝授することをうたった“30 Days to Market Mastery”の邦訳である。ジェイク・バーンスタインといえば、これまでにも『バーンスタインのデイトレード実践』など、デイトレードにおける多くの著作があり、米国において個人投資家の間にデイトレードの技術が普及するにあたり大きな役割を果たした。ディスカウントブローカーの出現とインターネット取引の時代にあって、文字どおり他者にさきがけてこれらの新しい手法を試した投資家は、十分それに見合った利益を上がられたことだろう。
米国に遅れて環境が整った日本においても彼の著作は好評を博した。それはなによりも、彼が著した書籍の内容が実践的であったこと、そして米国においてはある手法が人口に膾炙したあとでも、それを知る日本人は少なく、日本のマーケットにおいては何年にもわたりジェイクの手法が十分なエッジを保ったからである。
現にジェイクが書いたとおりにトレードを実践したことで、数億円の資産を築いた私の友人もいた(本書にもこの手法が掲載されている)。日本の市場においては、相場書の原書(あるいは翻訳書であっても)を他人より早く読んで実践することで、ある時期はプレーンな手法でも、それこそ濡れ手で粟のように利益が上がった時期があったのだ。
さて、そういった幸福な時期を経て、現在の状況はどうであろうか? 以前非常に役に立ったトレード手法はたしかにその輝きは幾分失ったようにも思える。これは大勢の投資家が短期トレードの手法を知り、かつネット証券の発注方法が多彩になったことで、これらの手法がサポートされ、だれにでも手の届く存在になったことが原因だ。トレード手法に特許はない以上、また、それが技術の一つである以上、一定範囲以上に普及すればそれはしかたのないことと言えるだろう。
こういった事情を反映してか、あるいは対象読者を初心者としたためか、ジェイクの最新作である本書は、オーソドックスなスイングトレードの手法とメンタルマネジメントに幾分フォーカスした内容となっており、短期トレードに必要な事項がすべて盛り込まれている。読者は順に読み進めていくことで効率良くトレード技術を学ぶことができるだろう。
ところで、ジェイクの前職は心理カウンセラーである。これについては、仕事を変えて何が変わらなかったかといえば、「前職でも現在の仕事でも“Crazy people”を相手にしています」と彼がセミナーで冗談を言うのを聞いたことがある。考えてみれば、どんなに通信インフラが発達し、情報が氾濫するようになっても、マーケットに参加する人間の心理には変化がない。参加者の心理が生み出すいびつなバイアスを利用して利益を得ようとするトレード手法が、いつまでもその有効性を失わないのは、そこに理由があろう。真に優れた手法とは、マーケットや時代を問わずロバストに効く手法である。
最後に、翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。関本博英氏には、正確な翻訳をしていただいた。そして阿部達郎氏には丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは社長である後藤康徳氏のおかげである。
2007年11月
長尾慎太郎
まえがき
資本主義社会に住んでいるわれわれは、自分のお金を何倍にも増やせる多くのチャンスと手段を持ち合わせている。資本主義が世界のすべての国々にゆっくりではあるが、確実に広がっていることから、投資のチャンスも飛躍的に増大している。われわれはもはやばらばらな経済国家ではなく、複雑で相互依存的に絡まり合った世界に住んでいる。中国の金利が変動すれば、その影響は世界の金融市場だけでなく、株式、商品、外国為替市場にも波及する。ロシアの銀行が抱える潜在的な問題はアメリカの株式はもとより、あらゆるマーケットに大きな影響を及ぼす。OPEC(石油輸出国機構)が予想を上回る減産を決定すれば、原油先物は急騰するが、主要国の株式は原油価格の上昇によるインフレ懸念から暴落する。またインフレ防止に向けて各国中央銀行が一斉に金利を引き上げるのではないとの懸念から、債券相場も急落するだろう。一方、投資家が金や銀などのインフレヘッジ資産に殺到すれば、これらのマーケットは大きく上昇するだろう。
世界的な経済成長と各種マーケットへの参加者が増えていることから、毎日の値動きやボラティリティはかなり大きくなっている。そうした大きなボラティリティは大きな利益のチャンスを提供する一方で、これまでにない損失のリスクも突き付けている。その結果、多くの個人投資家やトレーダーはそうしたマーケットの新しい動きに対処できる技術やリスク許容度を持ち合わせていないとして、株式や商品市場から手を引き始めている。そうした資金は運用手腕があるとされるプロのマネーマネジャーに向かい、投資銀行、ヘッジファンド、年金基金ファンドマネジャー、投資信託やさらに保守的な投資マネジャーなどが、社債や国債などを含むそれぞれの得意分野で個人投資家の資金を運用している。しかし残念なことに、われわれの多くはそれらのプロたちの運用実績にはしばしば失望させられる。そうした投資のプロたちに資金の運用を任すときのコストはかなり高いが、それに比べて手にするリターンは本当に微々たるものである。最近ではそうした投資のプロたち(特にヘッジファンドなど)が損失を出すことも珍しくない。
彼らのお粗末な運用実績を目の当たりにすると、あなたは「自分で投資したほうがうまくいくのではないか」と思うだろう。そのとおり。信頼できる投資ツール、十分な資金、高いモチベーション、忍耐力と一貫した心構えがあれば、個人投資家でもプロのマネーマネジャーと同等、もしくはそれ以上のリターンを上げることができると私は信じている。こうしたことは株式のみならず、先物市場についても当てはまる。経済的な自由という目標を達成するのに、金融や証券、または経済学の専門知識や学位などはまったく必要ない。むしろそうしたものはマーケットでお金を儲けるときの邪魔になる。
本書の目的は、あなたの投資の腕を先物市場でコンスタントに利益を上げられる水準までレベルアップすることにある。もっとも、先物取引にはリスクが少ないわけではなく、むしろ先物取引は最もリスキーなマネーゲームである。本書の狙いは、私が35年にわたるリサーチやトレードの経験を通して改良してきた信頼できる投資ツールを使って、リスクを最小限に抑えながら投資の成功の確率を高めることである。ここで述べられている投資ツールは先物取引はもとより、そのほとんどは株式投資にも適用できる。株式や商品を問わず、どのマーケットに投資するときでも、皆さんが本書で紹介する投資ツールをマスターして大いに儲けられることを願っている。
本書の構成
本書の第1章〜第22章は30日でマスターできるように構成されているが、できればそれ以上の時間をかけてじっくりと学習してください。最初の15章はいずれも1日で終了してもよいが、第16章〜第18章はそれぞれ2日、第19章〜第20章はそれぞれ3日をかけて学習してほしい。さらに第21章は1日で終了してもよいが、第22章は2日以上をかけて学習すること。本書全体は30日で終了できるようになっているが、あなたのペースで読み進んで結構です。
クイズと解答
2つの章を除く各章の最後にはクイズが掲載されており、その解答は私のウエブサイト(http://www.trade-futures.com/30DaysKey.html)でご覧になれます。私のメールアドレス宛てに解答を送っていただいても結構です。
第1章(1日目) トレーディングの枠組み
はじめに
株式と先物市場にはそれぞれの役割がある。株式市場は事業を拡大したい企業に資金調達の場を提供し、先物市場は生産者(農家・鉱山会社など)やエンドユーザー(メーカー・食品加工業者・石油精製会社など)が生産物を販売したり、必要な物資を調達するときに安定剤の役割を果たす。これまで先物市場の主要な参加者はこの2つのグループだけだったが、最近では一般投資家やトレーダーが第三のグループとして大きな役割を担うようになってきた。図1.1は先物市場の主な参加者とその活動を示したもので、株式市場とは異なる特徴がある。
投資とトレーディングの目的
トレーダーや投機家にとって、トレーディングの目的はお金を儲けることだけである。それ以外の目的はない。これ以外の目的で先物市場に参加するとすれば、その動機は完全に間違っている。
本書の目的
本書の目的は次のようなものである。
- 先物市場で客観的にトレードするために必要なトレーディングの枠組みを明らかにする。
- 最も効果的にトレードする方法について読者の皆さんを正しく教育する。
- あいまいな意思決定や不確実な売買シグナルなどを排除した完全に客観的なトレーディングツールやトレード手法を紹介する。
- 正しいリスクマネジメントの方法を紹介する。
- 利益を極大化する手法とその大切さを知ってもらう。
- コンスタントに利益を上げるためのトレーディングの正しい枠組みと分析、および行動のあり方を理解してもらう。
こうしたトレーディングの正しい枠組みがなければ、マーケットで利益を上げることなどまったく不可能である。あなたがトレーディングで本当に成功したいと思うならば、すべてのトレードを正しい枠組みのなかで実行しなければならない。そうでなければ損失はほとんど避けられず、たとえ利益を出したとしてもそれは単なるまぐれにすぎない。まぐれによる成功が長続きするはずはないし、そこから何かを学ぶこともない。それは運良く宝くじが当たったようなものである。
トレーディングの枠組みを構成するもの
すべてのトレーディングは次の3つの枠組みの条件(ステップ)を満たさなければならない。その理由は感情的または思いつきなどによる意思決定をなくし、トレードに一貫性を持たせるためである。その3つの条件とは次のようなものである。
- セットアップ(Setup) 高い確率で繰り返し出現するパターン
- トリガー(Trigger) セットアップを行動に移す引き金
- フォロースルー(Follow-through) 損失を最小限に抑え、利益を最大限に伸ばす方法
以下ではこれらについて具体的に説明していく。
ステップ1――セットアップを決定するもの
頻繁に出現するパターンであるセットアップは何千種類もあるが、そのほとんどは不確実で信頼性に欠ける。以下は代表的なセットアップである。
- ギャップ、ペナント、ヘッド・アンド・ショルダーズ、支持圏・抵抗圏、フラッグ、トレンドライン、リバーサル、キーリバーサル、アイランドトップ・ボトムなどのチャートパターン
- ギャン理論、エリオット波動理論、フィボナッチ数列、回帰分析などの波動・理論
- サイクル、季節性、さまざまな指標など
最初に紹介するセットアップは、季節性に基づく主要な売買日である。その信頼性はかなり高く、先物と株式を問わず、最も効果的なトレード手法のひとつである。表1.1はその一例を示したものである。
この表を見ても分かるように、季節性に基づく主要な売買日というセットアップ(またはパターン)はかなり信頼性が高く、そのすべてのルールが客観的である。人々の意見や理論、推測などが入る余地はまったくなく、完全に歴史的な事実に基づいている。ほとんどのトレーダーは歴史的に検証されないトレード手法を使っており、それがどれほど確実なのかについてはあまり考えていない。本で読んだり、人から聞いたことをうのみにしているだけである。本書で紹介するトレーディングツールやトレード手法はそうしたものとはまったく違う。表1.1は軽質原油5月限を1月27日の終値で買い、2月2日(この日が休日のときは翌営業日)に手仕舞ったときの結果を示しており(買値の4%下方にストップロスを設定)、1984年以降のその勝率は90%以上に達している。ただし、これは単なるセットアップだけを示したもので、ここから実際の行動に出るにはその引き金がなければならない。それが次に説明するトリガーである。
ステップ2――セットアップを行動に移すトリガー
トリガーとはセットアップを行動に移すときの引き金となるもので、トレーダーたちが売買シグナルと呼んでいるものとほぼ同じである。すべてのトレードではセットアップとトリガーが必要であり、本書で述べているトリガーは極めて単純で具体的である。もう一度繰り返すが、ほかのトレーダーたちの先を行って利益を手にするにはセットアップとトリガーという2つの条件を満たさなければならない。以下の章ではこれについて具体的に説明していく。
ステップ3――仕上げのフォロースルー
フォロースルーの目的は次のとおりである。
- リスクマネジメントによる損失の極小化
- 利益の極大化
この2つを目的とするフォロースルーがなければ、ほとんどのトレーダーと同じように、小さな利益と大きな損失に泣くことになるだろう。銀行に大きなお金を預けるようにならないと、マーケットのマネーゲームで成功することはできない。