著 者 ジョー・ディナポリ
監修者 成田博之
訳 者 株式会社ゼネックス
2022年12月発売/A5判 上製本 392頁
定価 本体 5,800円+税
ISBN978-4-7759-7309-7 C2033
本書は、投資市場における「押しや戻り」を正確に当てるフィボナッチを基本したトレード手法を紹介したものである。この不思議な数値である0.382や0.618は、投資家として、またトレーダーとしてワンランク上を目指そうとする人、どうしても現状の沈滞ムードを打破したい人にとっては絶大な力と啓示を与えてくれるだろう!
第1部では、強力な先行指標であるフィボナッチを利用した「ディナポリレベル」を利用するための基本原則となる「トレンド」「方向」「値動き」についてジョー・ディナポリ流の定義をし、基礎をしっかりと固めることができる。第2部ではトレードのチャンスが間近に迫っているのかどうかを判断する基準となる「トレンド分析(DMAやMACD・ストキャスティックスのコンビネーション)」や「方向性指標」「買われ過ぎ・売られ過ぎ」について検討し、その時点でトレードチャンスがあるかどうか、そのトレードのリスク・リワード・レシオが分かる。第3部では、「ディナポリレベル」による実践的なトレード手法や戦術やミスを防ぐ方法などが解説されており、敢然とマーケットに立ち向かうだれにも頼らない独立したトレーダーになる具体的方策が詳述されている。
本書は、仕掛けや手仕舞い、リスクとリワードといったトレーダーが一番関心のあることを、多くのチャートによって初心者でも視覚的に分かりやすく解説されている。0.382や0.618という12世紀のイタリアの数学者のレオナルド・フィボナッチが発見した秘数があなたに莫大な財産を作らせる重大なヒントになるかもしれない!
※本書は『ディナポリの秘数 フィボナッチ売買法』の新装版です。
「ジョーはフィボナッチ級数を用いて導き出したエリアで取引に出る。一般に知られているデイトレードのブレイクアウト手法ではなく、マーケットの押しや戻りで仕掛けていく売買手法がジョーのアプローチである。また、損切りポイントがマーケットに近く、低リスクで取引をするのが彼の特徴でもある。トレンドの定義にもジョー独自の考えが使われている。これらの貴重な情報を彼は惜しむことなく一般に公表してきた。また、そのスタンスはこの先も変わらないだろう。そのため、今では、フィボナッチトレーダーと名乗る多くのトレーダーがいる。しかし、元祖はジョー・ディナポリ! 彼のオリジナルワークを楽しんでください。」――「監修者まえがき」より
ジョー・ディナポリ氏は、市場でのトレード経験が25年以上に上るベテランのトレーダーである。また根気強い徹底した研究家、国際的に認められた講演者、広く称賛を浴びている著者でもある。ジョーの受けた公式の教育は、電気工学と経済学で非公式に受けた教育は「バンカー」で身につけたものである。これは多くのコンピューターと通信機器に埋もれたトレーディングルームの別名で、この場所でジョーの初期の研究が始まった。徹底した研究から生まれたDMA、彼が特許を持つオシレータープレディクターの開発、特に価格軸に対するフィボナッチ級数の実際的でユニークな活用方法によって、ジョーは現代で最も探求心の強い専門家のひとりになっている。
ジョーは、10年あまりにわたり公認のCTA(商品投資顧問)として、米国のほか欧州やアジアの主要金融都市で独自のトレードテクニックを教えた。1996年には世界の23の金融センターで満員の聴衆に対してセミナーを開いた。彼の貢献は、さまざまな取引書やテクニカル分析に関する出版物となって表れている。『マーケットのテクニカル秘録』(パンローリング)の著者、チャック・ルボー氏が彼の著作の読者に対して、成功したトレーダーのなかで最もインタビューしてほしいと望んでいるトレーダーの名前を尋ねたところ、ジョー・ディナポリ氏の名前がほかのだれよりも頻繁に上がった。また「アトランタコンスティチューション」紙は、フィボナッチ級数が市場で「不思議な力」を発揮するとして、ジョーの成果を引用した。ジョーはこのほかにも、全国向け(全米)のTV番組に出演して市場予測、特に株式指数や金利先物の予測を驚くべき超人間的な正確さでやって見せた。
フロリダ州サラソタのシエスタキーにあるコースト・インベストメント・ソフトウエア社の社長であるジョーは、ユニークかつ革新的な方法で先行指標と遅行指標を組み合わせたものを使いながら、「精度の高い」トレーディング手法を開発し展開し続けている。ジョーは毎年、自分のトレーディングルームで回数は少ないが個別セミナーを行っているほか、ソフトウエアやトレーディングコース教材を通じてほかの人にトレードの手法を伝授している。
謝辞
書名について
まえがき
第1章 トレード手法――裁量的トレード手法vs非裁量トレード手法とポジショントレードvsデイトレード
概説
リアリティチェックをしてみよう
非裁量的アプローチ
そうだったらいいのに……
現実は……
裁量的アプローチの場合は
そうだったらいいのに……
現実は……
経歴
いくつかの項目について詳しく説明しよう
1.ヒーローたち
2.システム障害
3.実習期間
裁量的トレード
まとめ
裁量的トレードテクニックの特徴
非裁量的トレードテクニックの特徴
非裁量的トレードと裁量的トレードの特徴
ポジショントレードvsデイトレード
デイトレードの短所
デイトレードの長所
別の方法
第2章 必要条件、基本原則、そして定義
必要条件
基本原則と定義
トレンド
方向
値動き
フェイラー
先行指標
遅行指標
論理的収益目標
時間枠
確認されたものと未確認のもの
間違い
うまいトレード
トレード計画
まとめ
第3章 成功するトレードアプローチの不可欠な要素
1.マネーマネジメントと自己管理
2.市場の機能
3.トレンドと方向性の分析
4.買われ過ぎ・売られ過ぎの評価
5.仕掛けのテクニック(先行指標)
6.手仕舞いのテクニック(先行指標)
重要点
第4章 トレンド分析――DMA(ずらした移動平均)
概説
DMA(ずらした移動平均)
よくある質問
より高度なコメント
第5章 トレンド分析――MACD・ストキャスティックスのコンビネーション
概説
プログラムとプログラマー、そしてプロブレム
それでは本物のストキャスティックスさん、どうぞお立ちください
レーン(ロウ)ストキャスティックス
ファストストキャスティックス
スロー(優先)ストキャスティックス
修正移動平均(MAV)
修正ストキャスティックス
ザ・ストキャスティックス
優先ストキャスティックス
市場配列バーチャートと時間配列バーチャート
データサンプル
プログラマーとアップグレード
ザ・ストキャスティックスを使う
MACD(DEMA)・ストキャスティックのコンビネーション
よくある質問
まとめ
第6章 方向性指標――高確率の取引シグナルを得る9種のパワーパターン
概説
売りの「ダブルリペネトレーション・シグナル」または「ダブルレポ」
注目すべき重要なポイント
よくある質問
市場例
「ダブルレポ・フェイラー」
よくある質問
「シングルペネトレーション」または「ブレッド・アンド・バター」シグナル
パターンフェイラー
「ヘッド・アンド・ショルダーズ・フェイラ―」
「トライアングルブレイクアウト・フェイラー」または「ウップス」
「人気の後退」または「強欲者の歓喜」
「線路」
そこで、どうトレードするのか?
「ルック・アライクス(そっくりさん)」
「ストレッチ」
「ブィブスクワット」
「ブィブスクワット」のフイルタリング
よくある質問
第7章 買われ過ぎ・売られ過ぎオシレーター――何が有効で、何が有効でないか、それはなぜなのか
概説
ストキャスティックス
MACD
RSI
CCI
デトレンデッドオシレーター
デトレンデッドオシレーターの活用
戦略1
戦略2
ボラティリティブレイクアウト
戦略3
戦略4
注目すべき重要なポイント
戦略5
オシレータープレディクター
まとめ
第9章 ディナポリレベル
序論と注意
エリオット波動理論
ディナポリレベル
定義
マーケットスイング
リアクションナンバーまたはポイント
フォーカスナンバー
フィブノードまたはノード
目標ポイント
コンフルエンス
リネッジマーキング
理論的利益目標
アグリーメント
フィブシリーズ
ディナポリレベルあるいはD−レベル
実例
重要な注意事項
精密レシオコンパス
第10章 ディナポリレベル――複数のフォーカスナンバーとマーケットスイング
複数のマーケットスイング
より高度なコメント
より多くのフォーカスナンバー
フォーカスナンバーに対する時間枠の影響
レス・イズ・モア(少ないほうが多い)
フィブシリーズの削除
第11章 ディナポリレベルによるトレード
概説
時間枠の移行
理想的なトレード例
より高度なコメント
D−レベルの拡張分析とLPO
逆指値設定に関する補足
プレゼンテーション
フィブノードのプリントアウト
ダウの例
フィブノードの目標のプリントアウト
Tボンドのつなぎ足チャートでのアグリーメント
隠れたD−レベル
より高度なコメント
フィボナッチ分析を使った相場動向の定義
第12章 総合練習――基本例
シナリオ1
シナリオ2
より高度なコメント
現実に戻ろう
よくある質問
第13章 フィボナッチ戦術
概説
ボンサイ――仕掛けと逆指値を置くテクニック
ブッシュ――仕掛けと逆指値を置くテクニック
マインスイーパーA――仕掛けと逆指値を置くテクニック
可能性1
可能性2
可能性3
マインスイーパーB――仕掛けと逆指値を置くテクニック
60分足のS&Pによるポジション戦術
トレードの続き(チャート13.11)
ウォッシュ・アンド・リンス――自信を構築するもの
よくある質問
第14章 よくあるミスを防ぐために
概説
Tボンドの例
対象を広げてみよう
質問
第15章 追加の市場サンプル
大豆粕の長期トレード
概説
コンテクスト
トレードの開始
トレードの継続
重要な注意事項
より高度なコメント
間違いをしただろうか?
より簡単な収穫
短期のS&Pトレード
概説
トレンド
買われ過ぎ・売られ過ぎの分析
方向の分析
トレードの開始
トレードの心理
市場のメカニズム
より高度なコメント
質問
エピローグ
付録A
付録B
付録C
付録D
付録E
付録F
付録G
付録H
付録I
付録J
参考文献
参考資料
著者について
フィボナッチといえばディナポリという名前が自然と頭に浮かぶほど有名なアメリカ人トレーダー、ジョー・ディナポリ。1980年代の後半からセミナーなどを通して彼は積極的に自然界が与えてくれたこの不思議な数字を使うことで収益を生む手法を公開している。
また、早くからアジア市場に目を向けて、彼自身、タイに移り住んでいる。彼は、アメリカ市場の代名詞ともいえるS&P500先物を1980年代にアクティブにトレードをしていた。そのトレード数はかなりの量になっていた。実は、デイトレードにジョーはこのフィボナッチ級数を使っていた。今までにデイトレードに役立つ手法としていろいろな数字やルールが世間一般に公表されてきたが、先行役としての役割を成している指標を目にすることは少ない。
ジョーはフィボナッチ級数を用いて導き出したエリアで取引に出る。一般に知られているデイトレードのブレイクアウト手法ではなく、マーケットの押しや戻りで仕掛けていく売買手法がジョーのアプローチ。
また、損ぎりポイントがマーケットに近く低リスクで取引をするタイプでもある。トレンドの定義にもジョー独自の考えが使われている。これらの貴重な情報を彼は惜しむことなく一般に公表してきた。また、そのスタンスは、この先も変わらないだろう。そのため、今では、フィボナッチトレーダーと名乗る多くのトレーダーがいる。しかし、元祖はジョー・ディナポリ! 彼のオリジナルワークを楽しんでください。
2004年9月
あなたはトレンドフォローがトレードにおけるシンプルで最高の手法だと信じて流れに乗ろうと試みたことはあるだろうか。シンプルなはずが、なかなか波に乗れずにイラ立ちを覚えたトレーダーは多いと思う。ジョーの著書を最初に読んだとき、フィボナッチ級数を使う市場分析の解説書だと思った。シドニーでジョーに会い、実際のトレードについて話した。フィボナッチはあくまで実践トレード用ツールであり、そのツールを正しく使うためにフィボナッチ級数を駆使した分析を学ぶ重要性を知った。
では、なぜ、ここまでフィボナッチ級数を市場分析に使うのか。それは、デイトレードは限られた時間内に利益を追求する手法であり、トレード中に分析している時間の余裕はない。取引を始める前に完全に分析を終える必要がある。ジョーはその点を理解してもらうために作成したテキストが本書だ。
時間別のチャート分析はよく目にすると思うが、では、それを1つの画面に要約し、実践トレード用に生かしているアプローチを目にしたことはあるだろうか。ジョーが本書で解説しているフィボナッチ級数を用いた分析は年足、週足、日足と言ったすべての時間枠で使用できる。これらすべてを事前に調べ、準備万端な状態で狩りに向かう。狙った獲物は逃さない。準備を怠ったトレーダーはマーケットという猛獣に襲われる。
今回、また新装版として刊行されることになって、監修者としても望外の幸せである。
2022年12月
テクニカル分析一色の世界に足を踏み入れる前に、多少の歴史的背景を知りたいという読者は、このまま読み進めてほしい。そうでない読者は第1章、もしくは第2章まで読み飛ばしても、私のトレード手法を理解するのにはまったく問題ない。
では、なぜこの本を、なぜ今書いたのか。本音の質問をぶつけるならば、「なぜあなたは、それほど効果のあるトレード手法を公開してしまうのか。なぜ、自分ひとりだけで使い続けないのか。あまりに多くの人がそのトレード手法を使えば、その手法の有効性が低下するとは考えないのか」ということになる。答える価値のある、もっともな質問である。端的に言ってしまうと、マーケットは私にずっと寛大で、私に大きな移動能力と快適なライフスタイルを与えてくれたのである。また、私は最近、生命にかかわる健康状態を経験した。このことは、私が見直すためのきっかけとなった。この本を執筆することで、私は何らかの恩返しができるのである。詳しく説明するには、私の経歴から話さなくてはならない。
私は1986年に、過剰なトレードと睡眠不足が原因となって、精神的にも肉体的にも、燃え尽き状態に陥った。お金と同僚からの称賛を得る引き換えとして、自分の健康と安らぎを犠牲にしたのである。人生には、S&Pの次のティックよりももっと重要なことがある、と悟ったのはそのときだった。友人であるジェイク・バーンスタインの助言に従い、私は講演活動をやってみることにした。1986年も終わりに近いころのラスベガスでのフューチャーズ・シンポジウム・インターナショナルでのことだった。私はまったく意外な聴衆の反応に直面したのであった。
講演は、1時間ずつの2部構成となっており、第1部が午前に、第2部が午後に行われた。ベテラン講演者のひとりは、私にこう助言した。「説明は、上げ、下げ、上げ、引け、そして買いでいい。単純にするんだよ」。さらに「価値のある話なんて、だれも理解しないし、喜びもしないよ」と続けた。「でも、私はそんな方法でトレードしないですよ」と私は反論した。すると彼は、「だからどうだっていうの」と切り捨てたのだった。私は彼の皮肉な見方に驚愕した。講演の主催者であるジェイクに、私が何を話すべきか、彼の考えを聞かせてほしいと尋ねると、彼の答えは明確で簡潔だった。「自分が教えるべきだと思うことを教えればいい。聴衆がそれを理解しなかったとしたら、彼らが損するだけだ」。私はそのとおりにした。午前の講義には35人ほどの参加者がいた。彼らの関心は高く、質問も知性にあふれたもので、私は自分の知識を伝えながら質疑を楽しんだのだった。
午後になって講義を再開した。こんどは部屋は満員だった。廊下やほかの部屋から椅子を拝借してきている人もいた。通路や床に座っている人や部屋の後ろにあるテーブルに腰掛けている人もおり、部屋の外にも、何とか中に入ろうと、おそらく50人ほどがひしめいていた。講義を始めて20分ほどたったところで、2人の出席者が議論を始めた。ひとりは比較的簡単な質問に対する答えを求め、もうひとりは私にそのまま講義を続けるよう求めていた。時間は非常に限られており、乱闘を回避するために私ができたことはそれだけだった。
講演が終わると、私のオフィスマネジャーのパットと、私のプログラマーのジョージ・ダマシスのもとには、さらなる情報を求める人々が殺到した。講演の聴衆は、もらえるものは何でももらおうとしたのである。われわれは講義のトレンドとオシレーターの特徴を説明するために使用した、エンド・オブ・デイのグラフィックソフト(CISトレーディングパッケージ=the CIS TRADING PACKAGE)は持っていたが、私が講義したフィボナッチ分析に関するものはほとんど何も持っていなかった。幸運なことに、フィブノード(FibNode)のソフトの説明書が何部かはあった。これらはディナポリ形式のフィボナッチを教えるのに大変役立った。正直、このソフトの数本のベータコピーも含めて、全部取られてしまったのである。本当に全部!
その後の数年間は、講演の仕事やテレビ出演、インタビュー、資金運用の申し出、ニューズレターやファックスサービスなどを始める計画、などでスケジュールがぎっしりと詰まっていた。私は、この分野で成功したことを喜び、教えることを心から楽しんだうえ、その過程で傑出した人物との出会いもあったが、一方ではすべてが若干の重荷になりつつあった。そのうえ、自分の開発したものが過度に露出すれば、それが市場や自分個人のトレード、さらには自分の生徒たちのトレードに影響を及ぼすのではないかという、絶え間ない不安にさいなまれていた。この可能性と闘うために、私は本の出版、資金運用、すべての種類のニューズレターの発行、宣伝することすらも断固として拒否していた。講義を無許可でビデオ録画されていたために、講義の中断を要求したことも3度あった。また、1990年にコースト主催で行った2日間の講演を録画した完全ビデオ講座の計画についても、教材が過度に露出することを恐れて、見送ったのである。しかし、どうにかして程よくバランスを取るために、私は自習トレード講座として、「フィボナッチ、マネーマネジメント・アンド・トレンド・アナリシス(FIBONACCI, MONEY MANAGEMENT AND TREND ANALYSIS)」を作った。また、フィブノーズのソフトウエア開発も続けていたし、CISトレーディング(グラフィックス)パッケージを改良した。さらには、出席者の人数を厳しく制限して、個人的なセミナーも何度か行った。
私がここで自分の過去を振り返っているのは、いくつかの非常に重要なことを強調するためである。多くの同業者とは違って、私は、トレード方法論(たとえ裁量的要素が含まれている方法論であっても)が過度に露出することを心配しており、こうした懸念は正当かつ妥当なものだと信じている。これには哲学的な意味合いもある。万人の好みに迎合し、需要があればどのような商品でも作ろうとするプロフェッショナルは、最後には燃え尽きてしまうのである。仕事のなかで燃え尽きた人は、いくらでも挙げられる。私はむしろ自分の専門分野を維持することにした。
露出が制限されていても、私は1987年半ばから1990年にかけての市場で、自分の講義が直接原因になっていると考えられる影響を目の当たりにした。その影響は控え目ではあったが、それでもなお明確に分かるものだった。率直に言おう。そこに何か良い方法があれば、それは伝播するのである。それが伝播しているならば、私たちは警戒する必要がある。その実用性が有効であることは変わらないだろうが、その戦略の実行がより困難になるという可能性が常にあるためだ。
1984年ころから1987年にかけて、フィボナッチ分析は、私がこれからこの本でお教えするすべての重要な要素と相まって、驚くほど正確な結果を生んだ。それは恐ろしいほどだった。1989年終盤までには、フィボナッチの押し・戻り水準や目標水準に設定された大量の売買注文と、その前後数ティックに設定された逆指値注文が、未熟なフィボナッチプレーヤーのトレードの障害となり始めた。私自身は、自分が目の当たりにしたものを自分のテクニックで補正することができたが、軽い気持ちでフィボナッチを使っていたプレーヤーたちは痛手を受け始めた。大勢のトレーダーが本当に良いものを使い始めても、市場はやはり、多数が損をするように取り計らうのだろう。市場が機能するためには、そうあるべきなのだ(ジョー・ディナポリ制作のホームトレード講座『フィボナッチ、マネーマネジメント・アンド・トレンド・アナリシス』)。
幸いにも、1989年12月に発行されたテクニカル・アナリシス・オブ・ストックス・アンド・コモディティーズ誌は、純粋数学の博士号を持つ教授タイプの人物による論文を掲載した。彼は、市場におけるフィボナッチムーブメントの妥当性について「研究」をした。そしてその結果、あらゆる理性的かつ知性的なタイプの人間にとって反論の余地のない、幾何学的論理を用いて、市場にフィボナッチ分析を適用するという方法がまったく機能しないということを「証明した」のである(ハーバート・H・J・リーデル著『ドゥ・ストック・プライシズ・リフレクト・フィボナッチ・レシオ?』テクニカル・アナリシス・オブ・ストック・アンド・コモディティーズ誌1989年12月号)。
私がこの「権威のある」論文について知ったのは、1989年にシカゴの経済会議で講演を行っているときだった。私が、良き友人でありクライアントであるプロのフロアトレーダーと共にいると、複数の参加者が興奮しながら私たちに詰め寄った。最初の人物はストックス・アンド・コモディティーズ誌を振りかざし、私が次回予定している講義の主題が「完全なる誤りであることが証明した」とするこの論文に興奮していた。
彼らの興奮の理由が判明したとき、クライアントと私は同時に、トレーダー式の「ハイファイブ」を交わしたのである。それは戦の前の踊りのようなものだ。講義の参加者らは素人であり、私たちの喜びを理解することができなかった。フィボナッチの第一人者がなぜ、ストックス・アンド・コモディティーズ誌に掲載された、フィボナッチ分析が機能しないと主張する論文を喜ぶのか。私たちがプロとして望んだことは、そしてそれは新人トレーダーには理解できるはずのないことだが、それは、プロのトレーダーとしての私たちの仕事がこれからはより容易に、しかも大いに容易になるということだった。何となくフィボナッチを使っているというプレーヤーにとって市場の状況が難解になっていたことと、雑誌の論文のおかげで、その後の数週間から数カ月間に、現実は私たちの期待どおりとなった。
つまり私にとって、自分のトレード方法を明かすことは、そうした暴露がもたらす可能性のあるマイナスの影響と、のちに自分の専門分野における権威として認められるような膨大なメリットとの間の綱渡りなのである。現在、単にトレードに成功するだけのために懸命に努力している読者の多くは、トレードの専門家という立場があなたにどんな道を開くのか、想像することもできないだろう。それは米国だけではなく、世界中どこでもそうだ。
1991年ころから、私の関心はアジアへと移り始めた。アジア諸国の市場は崩壊し始め、アジアをはじめとする世界各国にいる顧客からは、私の手法がライバルたちを丸焼きにしているという情報がひっきりなしに入っていた。私は生徒たちに対して常に、最も簡単に利益を得られる場所に行くことを教えており、また私自身は常にアジアに行きたいと思っていた。そこで私は米国で最高の講演会の契約を除くすべての援助を断ち、アジアに密集しているすべての不思議を解き明かすべく旅に出発したのである。プロとして、各国の主要都市で講演を行った私は、文化への洞察力を得ることができ、自分が訪問した各国の市場がどのように機能しているのかについて、「要求にかなった情報」を収集することができた。素晴らしい経験だった。米国に戻ると、なかには依然として私とどうにか接触してくる顧客もいたが、その人数は対処可能な数であったし、もっと重要なことは、市場への影響は依然として目立たなかった、という点だった。第2刷の出版にあたり執筆している現在(2001年)、この書籍を世に出すのに絶好の環境が整っているように見える。新たにフィボナッチの専門家となった人は大勢おり、そのなかには私の元生徒もいる。素晴らしい業績も残されている。一部のこの手法に関する本は、「役に立たない」本と呼んでもいい。このことについて考えみよう。フィボナッチ分析に関して「役に立たない」本が書かれ、人々がその手法を活用して損を出しているとすれば、それは良いことなのである。適切な形式の概念を利用するということからかけ離れた方向へトレーダーを導くものであれば、それはどんなものでも、概念の利用方法に熟練したトレーダーにとっては好都合となる。私たちにとって重要な価格水準での「破壊的な」動きは少なくなるだろう。同様に重要なのは、オンラインでのデイトレーダーが大量に出現したという点である。手数料は大幅に値下げされ、ECN(電子取引ネットワーク)によって、大口トレーダーと小口トレーダーがトレードに支払う金額の格差はほとんどなくなった。データやソフトウエアの価格も低下を続けており、インターネットはトレード環境に革命を起こした。こうした現象によって、これまで私が見たこともないほど大勢の無知なアマチュアトレーダーがトレードに参入している。ニュースを追いかける感情的なアマチュア集団ほど、テクニカルに基づいた私たちのトレードの正確さを強化してくれるものはない。そうした人々の苦しい立場に対して私が無感覚だというわけではけっしてないが、彼らがもっと勉強しないかぎりは、いずれは食われていまうのである。私たちは、こうした事実を有利に活用するべきである。
端的に言うと、こうした現在進展中の状況は、私にとってトレードしやすい環境を作り出し、また私がこの本を執筆することを可能とし、さらにはこの本が売れ続けている背景となっている。単純な事実を言うと、無知で感情的なトレーダーや、フィボナッチ分析の間違った、あるいは役に立たない手法を教える人が増えれば増えるほど、私と読者にとっては好都合なのである。概念のすべてが完全に否定されるということは、実質的には不可能だ。この手法に賭けて、多額の資金でトレードを行っている人が、あまりに多いのである。もしも彼らがその手法を適切に活用する方法を知っていれば、の話だが。