2023年4月発売/A5判 上製本 558頁
定価 本体 5,800円+税
ISBN978-4-7759-7312-7 C2033
私たちは現在、変動の激しい不確実な時代に生きている。政治、経済、テクノロジー、気候など、あらゆる分野で先行きが不透明だ。このような不透明さを前にして、多くのトレーダー志願者はおじけづいてトレードをやめてしまう者も多い。しかし、ペンフォールドが本書で示しているように、変化が多ければ多いほど、同じことの繰り返しも多くなる。マーケットには法則があると信じる人には、お金を稼ぐチャンスがあらゆるところに潜んでいる。本書はまさにその方法を教えてくれるだろう。
本書は好況時にも不況時にも使える理にかなったトレード戦略の構築法を紹介している。多くの人がトレンドに沿ったトレードで失敗しているが、本書の指示に従えば、それを避けることは確実だ。
トレードを専業とするペンフォールドは、彼の特徴である率直なスタイルで、トレンドトレードで儲ける才能が自分にあるかどうかを見極める手助けをする。どのトレード戦略にも言えるが、トレンドトレードもリスクが高く、必ず生じる連敗を乗り切るためには強い精神力が必要になる。だが、ペンフォールドの言う戦略を貫くことができれば、大きな利益を得ることができるだろう。
本書は実例を挙げながらトレンドトレードに内在するリスクを詳細に解説しているので、それを理解すれば、世界情勢がどのように変化しようと成功できるだろう。本書には、自分に合ったトレンドトレード戦略を検討・選択・開発するのに役立つツールが満載されている。
トレンドトレード(トレンドフォロー)は、戦略自体はそれほど難しいものではありません。どちらかと言えば、かなりやさしい部類に属します。そして、これを長期的に実行すれば、「必ず」利益を上げることができ、それは証明されています(この文言がコンプライアンス的に問題ならないほど明らかです)。ただ、勝率の低さ、ドローダウンの長期化など、己を試されるような事態が頻出するため、ほとんどのトレーダーが「必ず儲かる手法!」を放棄してしまいます。
前著で己を変革し、本書で戦略を極めて、トレンドトレーダーデビューを飾ってみてはいかがでしょうか。
本書はその有力な味方となってくれるはずです!
――アンドレア・アンガー
(ワールドカップ・トレーディング・チャンピオンシップ・オブ・フューチャー・トレーディングで2008、2009、2010、2012年の4回優勝)
第1章 パラドックス
至福と絶望
現代は分かりにくい時代でもある
私にできること
トレードで成功する方法
まとめ
第2章 最も伝えたいこと
知識
リスク
実践
執行
まとめ
第3章 トレンドトレードの魅力
これはパンチとジュディの人形劇だ
トレンドトレードとは何か
なぜトレンドが重要なのか
トレンドトレードの魅力
トレンドトレードの魅力はうまく機能すること――その背後にある科学を見る
トレンドトレードのさらなる魅力
成功事例
まとめ
第4章 なぜトレンドが存在するのか
混乱が広まっている
行動ファイナンス
経路依存性
どの説が正しいのか
まとめ
第5章 なぜ多くの人が負けるのか
科学的に見れば、私たちが負けることはない
トレンドトレードの要点
なぜ多くの人がトレンドトレードで負けるのか
選択肢の多さ(自由度の高さ)が指標を使ったトレードをダメにする
人気がある指標
RSI
戦略の堅牢性の評価
RTT
トレーダーはいつも変数の値を変える
得られる純資産曲線と期待値とROR
変数の値の最も良い組み合わせは常に変わる
戦略で生じる純資産曲線の上限と下限を知っておく
戦略の堅牢性の評価
変数が多くて選択肢が増えるほど、リスクは大きくなる
変動が大きく主観的なツール
独立した客観的なツール
では、何をすべきか
まとめ
第7章 リスクの測定
戦略のパフォーマンスを測る方法
リスク調整後リターンの測定
標準偏差――リスクの代理変数
UI――リスクの優れた代理変数
UPI――優れたリスク調整後リターンの測定法
すべての戦略が等しいわけではない
まとめ
第8章 先に進む
ツール
ポートフォリオの構築
データ
ソフトウェア
勝てる戦略の特徴
戦略の評価
戦略のベンチマーク――どの戦略にするのか
戦略の開発
まとめ
第9章 過去から未来へ戻る
戦略の開発
売買ルールを見つける
売買ルールをコード化する
売買ルールを評価する
売買ルールを比較する
売買ルールを調整する
純資産曲線の安定性の評価
理にかなったトレードにおける目標
ドローダウン
チャールズ・ダウ(1851〜1902年)
前に進むために、過去から未来へ戻る
分散をする
ありがとう
付録――トレンドトレードに関する文献
本書は前著の知的誠実さはそのままに、不確実な世界でも有効なトレードシステムを構築する実際を示したものである。アウト・オブ・サンプル期間を長く確保するには、はるか以前に世に出たアルゴリズムを検証すれば良いという著者の発想は、極めてユニークかつ秀逸だ。確かに何十年も前にリリースされ、時の試練に耐えた戦略であれば、苦労して発見したアノマリーが短期間で手のひらの上の淡雪のごとく消えていく悲しみとは無縁だろう。
ここで題材として取り上げられているのは、古典的な分散型トレンドフォローシステムである。これは互いに相関性が低くファットテールの特性を持った銘柄群をユニバースとする画期的なトレード戦略で、過去に非常に多くの成功者を生み出してきた。
また、この戦略は実に単純なルールで構成されており、初心者でもそれを使ってトレードするにはまったく何の障害もない。その気があれば明日からでもすぐに始められるだろう。これほど簡単に複製が可能で、かつ現実に機能する戦略はなかなか存在しない。
しかし、まことに不思議なことに、機関投資家レベルでは、この戦略を使いこなせたのは主としてアメリカ人とイギリス人だけで、欧州大陸にも成功者は少なく、アジアに至ってはまるで皆無である。 そしてその理由は、分散型トレンドフォローシステムは典型的なエビデンスベースの戦略であり、したがって最も機械的運用に向いている一方、理論や権威に依拠した哲学を持つ欧州大陸の組織や、事実よりも感情やその場の空気によって動かされる東洋の組織は、そうした冷厳なデータに基づく帰納的な行動原理を要求されるトレード戦略を、組織として扱うすべを知らないからである。
だから、この堅実で貴重な戦略は、日本では個人投資家のものである。機関投資家が克服できなかった文化的障壁も、大学や大学院で科学を修めた人なら、あるいは精神的な柔軟性を持つ人であれば、考え方を少し切り替えるだけで乗り超えることができるはすだ。分散型トレンドフォロー戦略はその労を取るに十分値し、それを使う人に豊かな経済的成果をもたらすことだろう。
翻訳にあたっては以下の方々に感謝の意を表したい。翻訳者の山口雅裕氏はいつもどおり丁寧な翻訳を、そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
2023年3月
だが、ちょっと待ってほしい。トレンドトレードを新たに試すにしろ、今後も続けていくにしろ、まずは自分がこの手法に向いているかどうかについて、急いで検討と自己分析をする必要がある。あなたが実はトレンドトレードに向いていないのならば、本書を読み続ける意味はない。そこで、先を読み進める前に注意を促した。
さて、急いで検討した結果、この手法は自分には向いていないと判断したとしても、心配する必要はない。自分自身に正直になって、リスク資産と家族を守れて良かったのだ。
この手法が自分向きだと判断して、粘り強くやり続ける気があるのならば、良かった。あなたはきっと報われるだろう。ただし、重要なのは「粘り強くやり続ける」ことだ。トレードは単純だが、簡単ではない。特にトレンドトレードは簡単ではなく、あなたは不愉快な出来事に耐えられるようになる必要がある。これは山あり谷ありのでこぼこ道なのだ。だが、あなたに分別があり、粘り強く続けられたら、報われるだろう。それでは出発だ。プロのトレンドトレードの世界をざっと紹介しよう。
トレンドトレードの最も重要な事実
まず、不快なことから話そう。トレンドトレードは間違いなくつらい。本当だ。つらい。実につらいのだ。
全トレード数の67%で損が出ると予想される、つらい手法だ。勝つときよりも負けるときのほうが多い。はるかに多いのだ。まだこの本を読んでいるのならば、次のことを自覚する必要がある。
これらを知って受け入れたら、やっと準備が整った。
私は冷や水を浴びせるために、こんなことを言っているのではない。現実を直視できるように、ありのままを伝えている。私は、あなたが満足いくトレンドトレードの売買ルールを開発したのに、10回、20回、30回と負けが続くせいで、その手法を投げ出してほしくない。負けが続くことは必ずある。そういう目に遭わないとは思わないように。マーケットのミスター・マキシマム・アドバーシティー(最大の逆境)が必ずあなたをそんな目に遭わせるからだ。
トレンドトレーダーの生活はつらいということを忘れないでほしい。絶えず負けることになる。それが繰り返されるので、飽きる。何回も何回も同じポートフォリオで同じ注文を出して、同じトレードをすることになる。洗濯のように、同じことの反復作業だ。繰り返しが多くて、退屈で、苦痛になる。絶えずドローダウン(運用資産の下落)が生じる。しかも、かなり深刻な場合もある。トレンドトレーダーの生活は刺激的であるよりも、退屈なことのほうが多い。
しかし、そうした試練にもかかわらず、利益が得られるし、時にはとてつもない利益が得られる。
ただし、それは変動が激しい時期でも、この手法に従い続ける場合に限る。この時期を乗り切れば、好調な時期を迎えることができる。
適切な資金管理をする必要がある。リスク資産よりもかなり少ない資金でトレードをする必要がある。自分のROR(リスク・オブ・ルーイン。破産リスク)が0%であることを確認しておく必要がある。絶対に損切りを動かさず、損が出ても腹を立てずに、うまく負ける必要がある。悪い時期を受け止める必要がある。自分の世界の成長をときどき妨げる暗闇に耐えられるようになる必要がある。これらすべてができたら、驚くような結果が得られる。
このトレンドトレードの旅に出るのならば、これらの言葉を忘れないでほしい。
トレンドトレーダーならば、だれもが経験するつらい時期に入ったとき、これらの言葉を思い出してほしい。最悪だと思ったときには思い出してほしい。トレンドトレードで成功するには、RORを避けて生き残り、良いトレードプランに従って、うまく負ける必要がある、ということを。すぐに利益が得られそうだと思ったからではなく、プラスの期待値が得られると思ったときにだけトレードをするのだ、ということを。その期待値は長い時間をかけて、何回も何回もトレードを行わなければ高めることができない。丸1年かかるかもしれないし、2年かかるかもしれない。どの銘柄がいつトレンドを形成するか分からないからだ。しかし、でこぼこした純資産曲線に耐えられるようになれば、それが最大値を更新したときに報われる。
まだトレンドトレードをしたいと思っているだろうか。
思っていない? 心配はいらない。よく決断して、正直に話してくれた。思っている? 良かった。私のつらいトレンドトレードの世界へようこそ。
これから伝える考えを楽しんでもらえたら幸いだ。
さて、手短な説明で冷静になれたと思うので(忘れずに気を引き締めよう)、本題に入ろう。あなたがこの本を読んでいる理由はただ1つ、私がこの本を書いている理由と同じで、トレンドトレードで利益を得る方法を知りたいのだ。
それをこれからお教えしよう。
私が説明を続けているときには、私に従って付いてきてほしい。そして、読み終えたら、私が説明したことをすべて自分で検証して確かめる必要がある。何がうまくいき、何がうまくいかないのかを私が教えても役に立たない。自分で確かめて、自分で決めるしかない。人間の本性に逆らって、努力をしよう。そして、トレードを正しく執行すれば、報われるだろう。
幸運を祈る。
オーストラリアのシドニーにて
ブレント・ペンフォールド
現実的な本
第1に、この本自体の真の評価に基づいて、人気のある本になってほしい。やがて、トレンドトレードに関する現実的で正直な声とみなされるようになってほしい。そして、トレンドトレードと同様に、時の試練に耐える本であってほしい。
シリーズ本として
第2に、この本が前著『システムトレード 基本と原則――トレーディングで勝者と敗者を分けるもの』の必要かつふさわしい手引きとみなされることを期待している。この本は、私が前著で詳しく述べたトレードで成功するための普遍的な原則を発展させ、補うものだ。
前著では全般的な説明をしたため、トレード戦略の分析や開発というトレードの最も興味深い部分にはほとんど触れなかった。市場構造の分析や適切なセットアップの見極め、賢明なトレードプランの適用についても、ほとんど触れなかった。
余談だが、前著は基本的に市場の構造や分析、セットアップの基準、仕掛け、損切りの逆指値、手仕舞いのテクニックについて詳しく述べていないのに、今でもとても人気があるのには驚く。要は、トレード戦略の分析、調査、開発、検証、仕上げというトレードの面白い側面には触れていない。トレードで成功するための普遍的な原則という退屈な側面に集中していた。私自身はその側面を何よりも大切にしているが、特にわくわくする本ではないことも知っている。内容という点では、本書のほうがはるかに面白いと思う。もっと重要というわけではないが、前著よりははるかに面白いはずだ。
さて、話を戻そう。
前著はより一般的で理論的な本だったが、本書はトレンドトレードの手法についての実践的な案内書であり、前著を補う続編になる。以前に説明した売買ルールの原則を実践的に当てはめて、堅牢なトレンドトレードの売買ルールを検討し、見直し、発展させることを目指す。
前著でも、売買ルールについて幅広く書いたが、私の考えを説明するための実践的ですぐに使える戦略例は示さなかった。本書ではそうした戦略の例を示した。
本書は前著で抜けていた客観的で独立したトレード手法の例を提供する「実践的」な章とみなせる。
これまで述べてきたように、私の目的は本書を次のようなものにすることだ。
1.真剣なトレンドトレーダーにとって重要で、正直で、情報が豊富で、実践的で、有益な本であり、真の評価に基づいて評価され、時の試練に耐えられる本であること。
2.前著を補う重要な本であり、いわばその抜けていた章であること。
したがって、本書は、トレードの「売買ルール」の側面に限って狭い範囲に焦点を当てたものとなる。前著で総合的に取り上げたトレードで成功するための普遍的な原則には触れないつもりだ。
うまくいくように祈ってほしい。
本書は特効薬ではない。これだけで、長期にわたって成功し続けることはできない。本書は良書だと信じているが、トレードで成功し続ける方法を学ぶにはこれだけでは不十分だ。すべてのトレーダーが経験する避けがたい損失やドローダウン(運用資産の下落)、そこから必ず生じる疑いや苦痛にもかかわらず生き残るためには、この本だけでは不十分なのだ。しかし、前著の『システムトレード 基本と原則』と合わせると、負け組トレーダーを長期にわたる勝ち組トレーダーに変える力があると信じている。あなたがまだ前著を読んでいないのならば、すぐ読んでみてほしい。
本書は売買ルールという、トレードで成功するための普遍的な原則の1つしか取り上げていない。トレードで成功し続けたければ、ほかのすべての要素が必要になる。
前著と重複する部分があることをお詫びする。本書は狭い範囲に焦点を当てているが、前著で詳しく説明した分野に触れる必要が出てくる場合があり、重複するところがある。そういう部分がところどころに見られるのは申し訳ないが、私の言いたいことを説明し強調して、読者の心を捉えるために必要なことだと理解してほしい。けっして「水増し」するためではない。実際、このトレーダー向け手引書は前著を補うために書いているので、分厚くならないようにしたいと考えている。
本書には、すべての人に役立つ部分があることを願っている。
トレード歴が比較的短い読者には、良い知らせと悪い知らせがある。悪い知らせは、多くの情報を詰め込んだところだ。本当にたくさんだ。だから、集中する必要がある。これが悪い知らせだ。良い知らせは、すべてが役に立つ情報ということだ。
経験豊かな読者には、私の説明した考えが心に響いてすでに自分の知っていることを補強するか、私の考えを検討し調べ直して、再考を促すことができるように願っている。
ここでは意見でも俗説でもなく、エビデンスだけを扱いたい。トレードについて書かれていること、話されていること、動画にされていることの多くは、著者や発表者や編集者の意見に基づいている。そして、説明に都合の良いチャートの例がいくつか示される。残念ながら、これらの意見は詳しく調べられると根拠が崩れる。
本書では、明確で客観的なルール――適切なソフトウェアでコード化して、歴史的な意義を判断できるルール――にまとめることができるアイデアだけを検討したい。検討する価値があると信じるすべてのアイデアについて、どの程度の利益や損失が出るかヒストリカルデータを用いて検証したい。
トレードをしている人たちは、熱く話す評論家や興味を引く著者やカリスマ性のある司会者に注目しすぎだ。彼らが見せる「自信」を、多くの人はすぐに使える貴重な知識と勘違いする。だが、通常、そうした大ざっぱで独断的な意見に従っても、利益を上げることはできない。残念ながら、彼らが同じ話を繰り返したり、大げさに言ったりすることができるのは細部を省いているからだ。そうすれば、説明責任を負わずに済むので、彼らにとっては好都合だ。残念ながら、トレード経験の浅い人は細部が欠けているのを無視して、たいていはそのせいで損失を被る。彼らは通常、どこに「損切りの逆指値」を置くかや、どれだけの期待値でトレードを行うかといったことを何も考えずに、「話題の」株を意見を聞いた翌日に買う。
本書では、私のアイデアを良いか悪いかにかかわらずコード化して、過去にどれほどの利益や損失が出たかを示すつもりだ。ここで重要な警告を付け加えておく。どんなアイデアでも、過去のパフォーマンスがどれほど良くても、それが将来も続くという保証はない。
新しいアイデアを探そうとして、この本を手に取ったのならば、申し訳ないが、そういうものは含まれていない。これから伝えるのは新しいことではなく、ほかの本でも紹介されていることだ。あなたに紹介できる新しいものは何もない。私はただ、先人たちの発見に基づいているだけだ。しかし、私は頼りない発見ではなく、有益な発見に基づいて伝えるつもりだ。
そういうわけで、新しいアイデアを探しているのならば、残念ながら、この本はあなた向きではないかもしれない。
しかし、良いアイデアを探しているのならば、あなたの役に立てるかもしれない。私はそのうちのいくつかを紹介する。しかし、忘れないでほしいのだが、それらは新しいものではない。特に1つは古くて単純だ。実は、非常に古くて、非常に単純なのだ。あまりにも古くからあり明白なので、ほとんどのトレーダーはその有用性を軽視している。多くの人にとって、「古くて」「単純」ということは、「流行遅れ」で「利益を上げられない」という意味であり、「役に立たない」と捉える。
しかし、「古くて」「単純」であるということは、「良くて」「堅牢」と見直されているということなのだ。この本の最後までに、まだ、あなたが読んでいればだが、「古くて」「単純な」ものが、トレードで新たに「流行し」て「役に立ち」、「欠かせない」ものになると納得させたいと思っている。
新しいアイデアで、読者の気を引けたらどんなに良いだろう。もっと儲かりそうで良い将来への期待を高められて、気分が良くなる神経伝達物質が出るような、まぶしくて神秘的な新しいアイデアだ。しかし、私にそんなことはできない。この本が売れるためには、新しくて神秘的なアイデアに勝るものはないだろう。しかし、残念ながら、そんなものはない。
私は古くて単純なアイデアが好きなのだ。
私が「単純な」アイデアを好むのは、「単純」であるという明らかな理由のためだ。トレーダーが負ける理由はたくさんあるが、その1つは、多くのトレーダーが明らかなもの、つまり単純なトレード法を信用していないからだ。彼らはトレードが単純なものだとは信じられないため、新しくて複雑なものに手がかりや利点を求める。
信じてほしい。単純なものがうまくいく。単純であれば、過度なカーブフィッティングというワナを避けることができる。意図的にせよ、無意識にせよ、多くの人が過去のデータに合うように戦略を作るが、そういう失敗を避けられる。単純であるということは変数が少ないということであり、今後失敗する可能性が少ないということだ。私にとって、トレードで単純であるということは、「劣る」という意味ではなく、「優れている」という意味だ。そして、「優れている」というのは、トレード戦略で最も重要な「堅牢性」があるという意味だ。堅牢であれば、時の試練に耐えるので、今日だけでなく、明日も将来も利益を上げられる。だから、これから説明することは単純さだ。これから学ぶことに不信感を抱くのではなく、その最大の強みである単純さを受け入れてほしい。
あなたが必ずしも新しいアイデアではなく、うまくいくものを紹介していたり、うまくいくものを思い出させるような本を望んでいるのならば、本書に内心驚くかもしれない。
さらに、私が説明するアイデアは完璧ではない。それらを使っても損をする。ドローダウンも経験する。つらい思いをすることもある。自信を失い、失望し、イライラし、時には激怒するだろう。しかし、それらにはプラスの期待値というエッジ(優位性)がある。優れたトレーダーはエッジで利益を上げることができるのだ。
私はトレードで夢にふける人ではなく、真剣にトレードをする人のためにこの本を書いている。成功するために少しずつ進む方法について書いている。秘密のトレード法を明らかにする本ではない。バカげたことを言って、むなしい期待を抱かせることも、短期間で大儲けするというありもしない方法を紹介することもない。真剣なトレーダーのために現実を伝える本である。私が伝えるのは最新の手法ではなく、時にはあなたを打ちのめすこともある手法だ。しかし、それはトレードでは避けられないことだ。楽しいことばかりではない。長期間にわたって成功するトレード法では、暗くて不確かな時期がある。これから私が話すことで、あなたは時に動揺したりためらったりするかもしれない。しかし、少なくとも私が話すことは間違いなく本当のことで、エッジがあることだ。
あなたが資金管理の重要性や、それが破産リスクに対する主要な武器の1つであることの意味を理解し、尊重し、受け入れるならば、変動が激しい世界の市場をうまく進むのに本書が役立つだろう。しかし、まずは前著で詳しく説明したトレードで成功するための普遍的な原則を理解し、尊重し、受け入れて、それらを実行する必要がある。それができて、これからの章で説明することと組み合わせることができれば、私が安全で持続可能なトレードと呼ぶ地点に達して、大喜びできるようになるかもしれない。
私は1983年にディーラー見習いとしてバンク・オブ・アメリカに入社して以来、35年以上マーケットに携わってきた。最初のトレード以来、私はあらゆるトレード法を試してきた。トレードに役立ちそうな本があれば買い、セミナーやワークショップがあれば参加し、ソフトウェアがあればインストールした。1990年代はエッジを求めて、セミナー巡りに明け暮れた。多くの評判の良いセミナーに参加した。ラッセル・サンズが主催するタートルズのセミナーに参加し、カーティス・アーノルドからはPPSトレードシステムについて学んだ。ブライス・ギルモアからは幾何学のパターンを学び、ラリー・ウィリアムズのミリオン・ダラー・チャレンジ(MDC)セミナーにも参加した。私は役に立つ情報をあちこちで集めた。そして、ラリー・ウィリアムズのミリオン・ダラー・チャレンジセミナーのおかげで、私は短期の価格パターンを使ったメカニカルトレードを補強できた。
私はトレーダーとして、複数の時間枠(短期、中期、長期)で世界の指数、通貨、商品先物のポートフォリオを相関のないトレンド戦略とカウンタートレンド戦略を用いて、システム(アルゴリズム)トレードを行っている。私のポートフォリオには30以上の銘柄が含まれている。指数先物では、オーストラリアのSPI、日経平均、台湾の加権指数、香港のハンセン、ドイツのダックス、ユーロストックス50、イギリスのFTSE、アメリカのEミニナスダックとEミニS&P500の先物をトレードしている。通貨先物では、ユーロ、英ポンド、日本円、スイスフランなどの主要通貨と米ドルとのペアをトレードしている。商品先物では、金利、エネルギー、穀物、畜産、貴金属、ソフトの市場のうち、アメリカで最も流動性の高い3つの先物をトレードしている。
私はほぼ1日24時間、週7日間、ポートフォリオを運用している。世界中のどこかで私の多くの先物注文の1つが執行されない日はないほどだ。
私は基本的にパターントレーダーだ。ATR(真の値幅の平均)と200日移動平均線を使うほかは、純粋に価格だけを見ている。私が200日移動平均線を使うことについて、深読みしないでほしい。200日を使うことに何の秘密もない。単にいつも使っている期間というだけだ。これがメジャートレンドを判断するのに最適の期間であるかどうかさえ知らないし、気にもしていない。私がトレードで一番避けたいことは「最適化された」変数を使い始めることだ。それは破産への最短コースの1つだからだ。また、私はセットアップを見つけるために200日移動平均線を使っているのではないことを理解しておいてほしい。仕掛けや損切りの逆指値や手仕舞いの水準を見つけるために使うことはない。メジャートレンドを判断するために使っているだけだ。
私自身は先物のトレーダーだが、本書が先物トレードについて書いたものだとは考えないでほしい。確かに、アイデアの説明に使った例やポートフォリオの多くには先物が含まれているが、それは私にとって便利だからにすぎない。本書は前著と同じく、主に優れたトレードのプロセスに焦点を合わせている。個々の市場や銘柄といった2次的なことには注目していないし、読者を先物トレーダーに転向させようとは思っていない。先物は私が好むトレード対象にすぎない。読者にはそれぞれ自分の好む市場や銘柄があるはずだ。だから、本書で私の好む市場や銘柄をトレードさせようとしているとは考えないでほしい。本書は特定の市場や銘柄や手法や期間にではなく、優れたトレードのプロセスに焦点を合わせてもらいたいと考えて書いた。先物の例は多いが、それは私にとって都合が良いからだ。
本書は市場や銘柄や期間に関係なく、良いトレードをするための適切なプロセスに焦点を合わせているということを理解してほしい。取り上げられた市場や銘柄はあくまでも説明のためであり、良いトレードの原則に従うことに比べれば、大して重要ではない。
以降で、伝えたいことはたくさんある。簡単にその大まかな内容を説明しておこう。
第1章では、トレードで成功するのがいかに難しいかを簡単に説明する。
第2章では、「知識」「リスク」「実践」「執行」について、重要なことをいくつか伝える。
第3章では、トレンドトレードの魅力とそれをトレード手法として真剣に検討すべき理由を説明する。
第4章では、なぜトレンドが存在するのかを簡単に説明する。
第5章では、なぜ多くの人がトレンドトレードで失敗するのかについて、私の考えを述べる。
第6章では、トレンドトレードの戦略をいくつか検討し、現在使われているさまざまな手法を紹介する。
第7章では、戦略のパフォーマンスをリスク調整後に測定することの重要性について説明する。
第8章では、トレード戦略の検討・開発・選択をするときに役立つツールを紹介する。
第9章では、ツールを使って、私の考える理にかなっていて長く通用するトレード戦略を開発した例で、本書を締めくくる。
私の本を読んでいるときには、これは私という1人の人間の意見にすぎないということを常に念頭に置きつつ理解していってほしい。私は1人のトレーダーの見方を代表しているだけだ。私が何かを言ったというだけで、それを真実と受け止めないでほしい。私は間違いなくトレードの教祖ではないし、トレードで教祖を名乗れる人がいるとも思っていない。私は単に自分が真実だと思うことを書いているだけだ。だから、私がどんな主張をしても気を悪くしないでほしい。私は自分の考えを書いているだけで、読者がそれに同意しなくても構わない。それで私が気分を害することはない。1つだけ注意しておきたい。私の考えや立場はヒストリカルデータに基づくエビデンスと実際のトレード経験によって裏付けられている。したがって、私の立場に反論するにはエビデンスが必要だ。私の考えに反対であれば、自分の考えを裏付けるために検証を行う必要がある。直感や個人的意見だけでは不十分だ。私たちの直感や個人的意見は通常、認知バイアスがかかっていて、トレードの判断に大きな影響を与える可能性があることを忘れないでほしい。だから、注意しよう!
私が書いていることはあくまで私の意見であり、私の考え方やトレード法に転向させるつもりはない。私は自分の考え方やトレード法を伝えたいだけだ。それらをどうするかは読者が決めることだ。
もう一度言おう。私が言ったからといって、それが必ずしも真実であるとは限らないということを忘れないでほしい。自分が書いたことは真実だと心の底から信じていて、裏付けるエビデンスも出すが、必ずしも額面どおりに真実として受け入れるべきだと言いたいのではない。確かに、私のアイデアや意見を受け入れてほしいが、マーケットでそれらを実行する前に、必ずすべてを自分で検証してほしい。
ご存知のように、ローマに続く道はたくさんある。同様に、トレードでも、多くのトレード法があることを理解し、覚えておく必要がある。私は自分の使っている1つのやり方、1つの手法を紹介しているだけだ。私のやり方が唯一の方法であるとか、最も良いと言っているのではない。私は自分が進んでいる1つの道を紹介しているだけなのだ。読者が同じ道を進む必要はない。しかし、トレードの旅で道に迷ったら、少なくとも私のやり方が利用できる選択肢の1つであることが分かるだろう。
同じことを繰り返しながら、自分の考えを補強していくのが私の執筆スタイルだ。だから、本書全体を通して同じ内容の繰り返しがあることを、今お詫びしておく。私は繰り返すのが好きなのだ。私の書き方や教え方はこれまでも批判されてきたが、私には自分でうなずけることしかできない。それが私のやり方だ。私はプロの教育者でも作家でもない。たとえそれが少々支離滅裂で、堂々巡りで、繰り返しが多くても、自分の考えを伝えるためには喜んでペンを取る。1回言っただけで満足できればよいのだが(そうすれば、妻のカティアは間違いなく喜ぶだろう)、性格的にそれはできない。だから、繰り返しでイライラしたのなら、本当に申し訳ない。
私やほかの著者が書いたものを額面どおりに受け止めないでほしい。もちろん、トレードについて聞いたり、見たり、読んだりした意見や考えのどれを受け入れてもよいが、どうか、まずはそれらに疑問を持ち自ら検証するまでは、自分の考えを捨てないでほしい。
私やほかの人の考えが真実かどうかや、もっと重要なことだが、自分にとって価値があるかどうかは、自分で調査や検討や検証をすることによってしか分からない。自分で調べなければ、何が真実かまやかしかは判断できない。その作業をすれば、必ず報われる。
本書で私が伝える考えを皆さんが歓迎してくれることを願っている。質問があれば、遠慮なく私のウェブサイト(https://indextrader.com.au/)を通じて連絡してほしい。
旅の初めに、トレーダーにとって最高の時代でもあり最悪の時代でもある、現在のパラドックスについて話したい。戸惑っただろうか。では、矛盾に満ちた私のトレードの世界へ、大歓迎する。