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漂流アメリカ

漂流アメリカ
超大国の落日と希望を100の海図で読み解け

著 者 スコット・ギャロウェイ
監修者 長岡半太郎
訳 者 藤原玄

2023年6月発売/A5判 上製本 270頁
定価 本体 3,800円+税
ISBN978-4-7759-7316-5 C2033

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著者紹介目次まえがき紹介されました

中間層の財政悪化はアメリカ≒世界を変える!

「鼻もちならないバカ野郎」(by イーロン・マスク)がアメリカの真の姿を暴いた! 変化か革命か

■紹介されました

ビジネスブックマラソン Vol.6285 にて、『漂流アメリカ』をご紹介いただきました。

100の統計データからアメリカ経済の現状と未来を読み解こうとするも ので、これからの経済・ビジネス・社会を考える参考になります。――土井英司様

 ベストセラー作家でニューヨーク大学スターン・ビジネススクール教授のスコット・ギャロウェイが、アメリカの未来について、あらゆる角度から考察したのが本書である。

 世界は、パンデミック後の未来について、真剣に考え始めたばかりである。アメリカは、左右の政治的な過激さが増し、大量離職時代が到来し、すべてのビジネスに影響を及ぼし始め、サプライチェーンの問題が企業の収益を圧迫するなか、困難な問題に次から次へと直面している。民主主義は守られるのか、そもそも民主主義は必要なものなのか? ビッグテックは人々の生活を良い方向に変えるのか、それとも悪い方向に導くのか? AIの進化は雇用を安定させるのか、もっと悪化させるのか? アメリカは建国以来、最大の岐路に立っている。今回の転機は、経済の仕組みを破壊し、豊かなアメリカの象徴だった中間層の財政基盤に劇的な影響を与えている。

 本書は1945年から現代までを振り返り、アメリカがどうしてこの瀬戸際に立たされたかを詳しく説明している。第2次世界大戦、冷戦、ブラックマンデーやドットコムバブルやリーマンショックの経済危機、テクノロジーの発展、根強い白人家父長制度、パンデミックの社会経済的影響などが、今日の最強度の嵐を発生させた。100枚のチャートでアメリカの過去80年の歴史を丸裸にしている一方で、アメリカの現状である、オンラインデート、出生率の低下、最低賃金、変化するアメリカンドリームなど幅広い話題を取り上げながら、著者独自の認識・見解・解決策も示している。

 新しい世界で急速に進行する激しい変化に対応するために、アメリカは何をする必要があるのだろうか。今のアメリカは20年後の日本と言われるなかで、日本人にも大いに参考になるトピックが満載されている!

【編集部より】

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(2023年6月28日現在、すべてのサイトにアクセルできることを確認しています。なお、特記した記事の削除、サイトの閉鎖などはそれに含みません)。

■本書や著者への賛辞

「ビジネス界のロックスターだ」――マイケル・スマーコニッシュ(CNNキャスター)
「歩けば拍手が起こる男だ」――ビル・マー(コメディアン、政治評論家、テレビ司会者)
「MBAを修得したクリストファー・ヒッチンス(英作家)だ」――ジェームズ・ウォーレン(ジャーナリスト兼編集者)
「社会的良心を持ったゴードン・ゲッコーだ」――ブリティッシュGQ誌
「知的で、思慮深く、時に嫌味ったらしく、しばしばユーモラスだ」――ハフポスト

著者紹介


Adrift : America in 100 Charts by Scott Galloway
スコット・ギャロウェイ(Scott Galloway)
NYU(ニューヨーク大学)スターン・ビジネススクールのマーケティングの教授であり、起業家でもある。2012年、彼はポエッツ・アンド・クオンツから世界で最も優れたビジネススクールの教授の1人に選ばれた。彼は、プロフェット・ブランド・ストラテジー、レッドエンベロープ、L2、セクション4など9つの企業を創設している。著書に『ニューヨーク大学人気講義 HAPPINESS(ハピネス)――GAFA時代の人生戦略』『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』『GAFA next stage ガーファ・ネクストステージ――四騎士+Xの次なる支配戦略』(いずれも東洋経済新報社)などがある、ニューヨーク・タイムズ・カンパニー、アーバン・アウトフィッターズ、UCバークレー・ハース・スクール・オブ・ビジネス、パネラ・ブレッド、レッジャーの役員を務めている。ポッドキャスト「Prof G and Pivot」、ブログ「No Mercy / No Malice」、ユーチューブチャネル「The Prof G Show」には数百万人のフォロワーがいる。彼は、ウェビー・ベスト・ビジネス・ポッドキャスト賞を何度も受賞している。ツイッター、インスタグラム、TikTokのアカウントは「@profgalloway」。

(本テキストは再校時のものです)

目次

監修者まえがき
序文 バラスト

第1章 株主層の台頭
1.トリクルダウン税制
2.センチメントの変化
3.インフラストラクチャーの劣化
4.ヘルスケアの削減
5.労働者は発言力を失っている
6.LBOのブーム
7.生産性は上昇し、報酬は伸び悩む
8.所得格差
9.打ちのめされたIRS
10.オフショアの急増
11.株式市場への参加

第2章 われわれが作った世界
12.生産性革命
13.何十億もの人々が苦労して貧困から脱している
14.健康は財産
15.新世界秩序
16.移動の自由
17.消費者経済の赤血球
18.デジタル時代
19.技術の進歩は加速する
20.アメリカの研究機関=天才工場
21.人道支援

第3章 イノベーター崇拝
22.コミュニティー組織に背を向ける
23.世界で最も裕福な国の水道水の安全度
24.民営化されるR&D=民営化される進歩
25.大学は中間層への加入条件となっている
26.イノベーターたちによるおぞましいイノベーター崇拝
27.パワーゲーム
28.富の固定化
29.1兆ドル企業になるのがこれほど簡単だったことはない
30.企業の広報担当幹部こそ資本主義におけるMDMAディーラー
31.ワシントンは第2の本社
32.見通し

第4章 ハンガーゲーム
33.大きな乖離
34.トップは豊か
35.偏った世界から悲惨な世界へ
36.外来種
37.数十年遅れの最低賃金
38.われわれの優先事項は何?
39.金融化と資産のインフレ
40.資産インフレは住宅を直撃する
41.アメリカの繁栄に対する攻撃
42.コロナのもう1つの罪
43.アメリカの医療制度はあきれるほど非効率
44.アメリカンドリームから目を覚まそう

第5章 アテンションエコノミー
45.われわれはみんなスマホ依存症
46.デジタル広告
47.ニュースの減少
48.刺激を与える
49.ウソつき、ウソつき
50.「政治的」検閲
51.フェイクニュース
52.メディアが犯罪に関する誤解を助長
53.交際状況

第6章 砂上の楼閣
54.過去最低の婚姻率
55.女性は男性の稼ぐ能力を重視する
56.大学進学に占める男性の割合は過去最低
57.オンラインデートアプリは地球上のどこよりも不公平
58.政治的分裂が社会的分裂になる
59.一人暮らしをしない
60.人口増加率は大恐慌期の水準まで低下
61.生まれながらにして平等である
62.大量殺人はもっぱら男性の犯罪
63.政府への信頼は長期的に低下
64.古くからの財産と古くからある問題
65.未来に投資をする者たちの過去は酷似

第7章 脅威
66.アメリカはまだタイトルを保持している
67.米ドル支配
68.中国は最も人気の貿易相手国としての地位をアメリカから奪っている
69.アメリカの軍事支出で買えるものは少ない
70.軍事支出と有効性は必ずしも同じではない
71.中国がリードする軍用ドローン
72.アメリカの予算配分はアメリカの脅威と整合しているのか
73.世界で最も重要なブランドが衰退している
74.アメリカはもはや世界の研究所ではない
75.クリーンエネルギーのシルクロードは中国を通っている
76.資本主義の頂点捕食者の産卵場所

第8章 不安定であることの明るい側面
77.危機が成長の引き金となる
78.期待をリセットする
79.急増するスタートアップ企業
80.移民は独創的な起業家
81.庇護を求める
82.銀行と取引する

第9章 望むべき未来
83.繁栄への道を印刷する
84.現金に溺れる
85.社会的なセーフティーネットに投資
86.息苦しいセーフティーネット
87.メタディストピア
88.高速な未来
89.友だちのいない孤独な場所

第10章 われわれは何をなすべきか
90.税法を簡略にせよ
91.規制制度を再構築せよ
92.抑止力の公式を復旧せよ
93.通信品位法230条を改正せよ
94.犯罪者の収監を再考せよ
95.1回かぎりの富裕税を導入せよ
96.原子力をリブランドせよ
97.子供とその家族を支援せよ
98.高等教育を改革せよ
99.別の方法でも社会的地位を高められるようにせよ
100.国への奉仕に投資せよ

結論
謝辞



監修者まえがき

 本書は、数多くの企業の設立を手掛けた起業家で、ニューヨーク大学の教授でもあるスコット・ギャロウェイの著した“Adrift : America in 100 Charts”の邦訳である。ギャロウェイには『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(東洋経済新報社)など、ベストセラーとなった著作があり、それらが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック禍以降の世界の急速な変化を理解するのに重要な示唆を与えたことから、すでに名前を知っている読者も少なくないことだろう。

 本書は、客観的データから導いた大量のチャートやグラフによってアメリカ社会の変化を浮き彫りにしたものである。およそ社会科学上の未来予測においては、その系の複雑さゆえ理論からの演繹や定量的モデルはほとんど用をなさない。わずかに依るべきは、事実と経験、そして専門的知識を基にした考察のみであり、ゆえに、かつてランド研究所が開発したデルファイ法のように、慎重に体系化されたメソッドだけが学究や機関の場で使われてきたのである。

 一方で、現代の情報化社会の大きな問題の1つは、多くの自称専門家が無邪気にウソをバラまき、メディアがフェイクニュースを大量に流すことである。それらの多くは何らかの目的で恣意的に行われているものだが、これからは自然言語処理系の人工知能(AI)の台頭がその傾向を意図せず加速していくことになるだろう。

 まだ市井にインターネットもなかったころ、私が大学を出てアメリカの銀行に入社したときに、上席者から「新聞を読むな、ウソが書いてあるから。安易に権威を信じるな、分別のある人間は饒舌には語らない。まずは、一次資料と公的データだけを使い自分の頭で考えろ」と命じられたことを思い出す。その銀行には、それを可能にするためにビルのフロアぶち抜きの大きな資料室が用意されていた。

 当時と比べてもより混沌とした現代の世界で、私たちは個々人のレベルにおいても、何が事実で何が偽りなのかを見極める目と技法を持たなければならない。それはけっして簡単なことではないが、本書はできるかぎり加工しない形で私たちに事実(と筆者による簡単な解説)を見せ、アメリカ社会の前途を考える重要なヒントを与えている。残された課題は、私たちがそれらをどのように解釈し、どのようにこれから生かすかということだけである。

 翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。翻訳者の藤原玄氏は実に丁寧な翻訳を、そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。

2023年6月

長岡半太郎

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序文 バラスト

 わが国は漂流している。風はほとんど吹いていないが、帆を欠いている。キャプテンも歯車もそろっているが、われわれの巨大な船は党派、腐敗、身勝手さの海で四苦八苦している。会話は粗野となり、若者たちは関係を構築できずにいる。そして、エリートたちは国民を犠牲にして個人的な栄光を追い求めている。組織は衰退し、社会のつながりは修復不能なまでにほころんでいる。地平線上は暗く、雷鳴がとどろいている。西には中国が昇り、東にはヨーロッパが薄れていく。

 この船が順風を受け、平和と繁栄への航路を取るにはどうしたらよいのだろうか。よろしい、航海の例えはもう十分だ。私にはメインセールとジブの区別もつかないが、海図の読み方は知っている。データを視覚的に表示することには何か強力なものがある。つまり、言葉やデータを解読するという知的な行為に比べると、目で見て評価するわれわれの直感的な能力に訴えかけるのだ。ここ数年、私はポッドキャストや仕事の現場、NYU(ニューヨーク大学)でアメリカの状況やわれわれがどこに向かっているのかを人々に語りかけてきた。そして、データはそのような会話を明確にし、自分自身が物事をより明確に理解する一助になると幾度となく感じている。そのため、アメリカの失速という本質的な問題に対する自らの見解をまとめると決めたとき、チャートを中心に取り組むのが自然だと思ったのだ。

 データが語ることは複雑ではない。それは、アメリカは未完成ながら強力な中間層に資金を投じているときこそ、その理想に最も大きく近づき、最もアメリカらしくなるということだ。それこそが私の経済一般理論だ。何ゆえにそう確信しているのか。データだ。データがそう語っているのだ。

 その物語は80年ほど前に始まる。1945年夏、人類の長きにわたる暴力行為の歴史でも最も破壊的な出来事が終わりを迎えた。4月にはナチスドイツが崩壊し、8月にはアメリカによる2発の原爆投下を受けて大日本帝国が降伏した。戦いで荒廃した国々の再建には一世代かかるだろうと思われた。だが、アメリカはまったく異なる問題に直面していた。

 アメリカの国土では戦闘はほとんど行われなかったが、戦争はアメリカ経済を変えてしまった。自動車業界は戦車や軍用機を建造すべく設備を一新した。海運や国内運送は武器の製造と輸送を支援するために再編された。割り当てによってガソリンから石鹸に至るまで物品の消費は制限された。1945年、アメリカのGDP(国内総生産)の40%が戦争努力に向けられていた(今日の軍事支出はGDPの3.7%だ)。戦前は深刻な不況下にあったアメリカは戦時経済体制に突入することで生き返った。ルーズベルトの言う「民主主義の武器庫」である。

 平和が訪れると、この目的は霧消した。アメリカ経済は、その事業の半分ほどを引き受けてくれる顧客を失った。戦車工場や兵站部は閉鎖された。その後24カ月にわたり、アメリカ軍は1000万の軍人を解雇した。ほとんどが若い男性からなる1000万の人々が仕事、家、車、そして将来の展望を必要としていた。

 ティッカーテープのパレードが終わると、賃金は減少を始め、家賃は上昇を始めた。主要産業の労働者たちはストライキを起こした。アメリカは国内のニーズを犠牲にして海外に過剰な投資をしてきたとの考えから、民族主義的な運動が沸き起こった。計画者たちは、経済は戦前の不況に逆戻りするか、それ以上に悪化すると懸念していた。

 だが、そうはならなかった。民主主義の武器庫は資本主義のエンジンへと変身した。その後30年、失業率は記録的な低さとなり、経済成長は持続し、インフラやR&D(研究開発)への投資が広がった。

 人々のあり様の大きな躍進は息をのむほどだったが、それはアメリカに限ったことではなかった。世界的に幼児死亡率と貧困は減少し、平均寿命は文字どおり急伸した。アメリカの資金と指揮の下、世界的な努力によって天然痘を撲滅した。アメリカ先住民の90%の命を奪った疫病は、初めて人間の意思によって根絶された。1969年、3人の勇敢な宇宙飛行士が38万キロ(注 ブルーオリジン社の宇宙船ニューシェパードのおよそ3600倍の飛行距離)を飛行し、1人のアメリカ人が月面に歩を印した。

中間層の台頭

 これはどのようにして起きたのだろうか。その多くは「最も偉大なる世代」、つまり1930年代、1940年代の困難を通じて鍛えられ、経済大国アメリカ株式会社を築き上げるうえで大きな役割を果たした男女から成っている。

 だが、重要だったのは他者との交わりだ。労働者たちはより高い賃金とより安全な労働環境を確保するために組合に加入した。ガールスカウトからキワニスに至るまで組織に加入するメンバーは増大した。社会のつながりは強くなった。チームスポーツやリトルリーグが地域の一部となり、何十億ドルもの事業になった。

 この繁栄の根底にはしっかりした国の支援があった。退役軍人援護法によって、200万人の軍人の学費、そして何十万人もの住宅ローンや事業資金が手当てされた。トルーマンの住宅法は住宅の建設と取得資金の調達における政府の役割を拡大した。アイゼンハワーは今日の価値で5000億ドル超の費用をかけて全米に高速道路網を構築する40年計画を立ち上げた。所得税は累進課税(最高税率は91%)となり、高額所得者の富は社会制度を通じてインフラ、教育、科学への投資に再分配された。

 第2次世界大戦後の数年はイノベーションが大いに進んだ時代だった。コンピューター、携帯電話、インターネットなどはすべて戦後の産物だ。だが、アメリカ最大のイノベーションは道具ではなかった。それは社会的・経済的な構成要素、つまり中間層だ。

 広範にわたり、開放的で、裕福な中間層は資本主義に長く欠けていたものをもたらした。バラストだ。申し訳ない、また海事関連の例えを用いている。バラストは重い物質で、水面下にあって見えないのだが、ボートを安定させる働きをする。環境が騒々しければ騒々しいほど、バラストが重要となる。この安定させる力がないと、水面上の部分の重量にかかわらず船は転覆する可能性が高くなる。

 1950年代、1960年代、われわれにはバラストがあった。賃金の増大、学校教育、経済的な移動性、そして大量の工業製品が組み合わさったことで、何百万もの世帯の生活の質はこれまでにない水準に達した。「労働者階級」という言葉では、2台分のガレージ、夏のバケーション、大学に進学する息子や娘を典型とするアメリカの中間層のライフスタイルを表象させることはできなかった。それは包括的なコンセプトだった。つまり、医師や弁護士や広告業界の社員は、郊外の工場労働者よりもはるかに贅沢な暮らしをしていたが、彼らにはかつてないほどの共通点があった。中間層はコンセプトとしての階級の消滅を意味していた。今日、アメリカ人の70%ほどが自らを中間層だと称している。

 アメリカは今でも貧しい人々があまりに多く、億万長者は少数にすぎない。20世紀半ばの数十年間は、1つのグループがアメリカの文化的・経済的な物語を特徴付けたが、それは中央アメリカの国家のGDPに相当するような財産を持つ「イノベーター」ではなかった。グループとしての中間層は安定に価値を置き、進歩を信じ、繁栄が広く行きわたることが可能であることを直に目撃した。資本家を除くすべての者たちにとっては相矛盾した歴史を持つ資本主義は、広範な中間層というバラストによって安定すれば、豊かで健全な社会を生み出すことを証明した。

 認識に反し、戦後の中間層は白人男性だけのものではなかった。1950〜1980年にかけて2700万人のアメリカ人女性が職に就き、その割合は50%も増大した。1940年、所得を基準にすると、白人男性の38%が中間層に属したのに対し、黒人男性で中間層に属したのは22%にすぎなかった。1970年になると、白人男性の65%が中間層に属するだけの所得を得ていたのに対し、黒人男性は68%がそれだけの収入を稼いでいた。アメリカは建国以来の格差を克服できていなかったが、過去のどの時期よりも大きな進展が見られたのだ。

新たな危機

 しかし、1970年代までにアメリカの成功は揺らぎ始めていた。戦後、中間層の繁栄を手にする機会は拡大したが、それを上回る繁栄をつかむ機会は限られたものでしかなかった。つまり、弁護士や医師や企業幹部といった高所得の職業は圧倒的に白人の男性に占められていた。貧困と機会不足はコミュニティーや多くの世代に根強く残っていた。1960年代から1970年代にかけて経済成長が鈍化すると、格差に対する忍耐力は薄れ、戦後発展を支えた絆は擦り切れ始めた。公民権運動の停滞はアメリカの行く先に大きな妨げが残っていることを明らかにした。

 同様に、終戦直後のダイナミズムやイノベーションもエネルギーを失い始めた。アメリカの実業界ではコングロマリットが流行となったが、これは経営幹部が自分たち、そして自分たちの収入を資本家、すなわち競争の厳しい市場のリスクやボラティリティから守ろうとする誤った努力だった。工業の発展が環境面にもたらしたコストとしてラブキャナルのような場所が生み出された。これは、ナイアガラフォールズに隣接する産業廃棄物で汚染された地域で、1000件の世帯が移住を余儀なくされた。性能に優れた日本車がアメリカの道路に現れたことで、わが国の製造業は誤りを犯していたことが明らかとなった。そして、民主主義を求める世界を救ったアメリカは、次なるドミノが倒れるのを防ぐために、自分たちが独裁者たちを支えていることに気づいた。

 1945年同様、1980年には、国家の終焉という不吉な予想がなされたことで、アメリカの実験の進路について激しい議論が巻き起こった。この時期の国家的な危機への対応が、戦後の困難への対応と同様に、40年後の今日われわれが受け継いでいるアメリカを作り出したのだ。

 本書はその対応、それが生み出したアメリカ、そしてわれわれの将来について記したものだ。

 1945年や1980年と同様に、わが国は再び岐路に立っている。100万人以上のアメリカ人の命を奪ったパンデミックが風土病になるにつれ、われわれはゆっくりとそこから抜け出しつつある。われわれが手にしたこれまでにないテクノロジー―ポケットに入れて持ち運べるコンピューターや世界中のだれとでも瞬時に取れるコミュニケーション―は、わが国の法律や税法や文化では対処できないほどの未曽有の外部性をもたらしている。社会の主流から外れた意見や染みついた白人主義を見ると、意見の一致を求めるのではなく、戦争の準備をしているように思える。われわれは大いなる繁栄を手にしたが、進歩はほとんどなく、より少数の集団が手にする戦利品ばかりが増えている。

 この100のチャートは、われわれの来し方行く末を教えてくれる。誤解のないよう記すと、われわれがチャートを用いるのは、それが客観性や無謬性をもたらしてくれるからではない。われわれは自分たちが考えるアメリカの物語を語っているデータやチャートを選んでいる。だが、イラストやグラフには文章では太刀打ちできない明確さがある。われわれの使命はシンプルだ。共感を生み、行動を起こさせる映像を提示することだ。


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