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ウィザードブックシリーズ Vol.110


実践的ペアトレーディングの理論
2つの株式で安定収益を獲得する方法

2006年11月10日発売
ISBN4-7759-7076-3 C2033
定価本体5,800円+税
A5判

著 者   ガナパシ・ビディヤマーヒー
監修者   熊谷善彰
訳 者   森谷博之


トレーダーズショップから送料無料でお届け
目次
序文
監訳者まえがき
第1章 序論
第2章 時系列
第3章 ファクターモデル
第4章 カルマン・フィルタ
第5章 概観
第6章 株式市場におけるペアとなる銘柄の選択
第7章 トレードの可能性の検証
第8章 トレードの設計
第9章 リスク・アービトラージの仕組み
第10章 トレードの執行
第11章 マーケット・インプライド合併確率
第12章 スプレッド反転

掲載されました

「証券アナリストジャーナル Vol.45」 (日本証券アナリスト協会、2007年1月) に本書が紹介されました。 [書評全文]

ヘッジファンドマネジャーたちの基本戦略

発見されていない理論や無敵のトレード戦略は無数にあり、
市場で大儲けできる機会も無限にある!
安定的収益をもたらすペアトレーディングの神髄が今、明らかになる!

 本書は、ペアトレーディングの戦略をさまざまな角度から詳しく説明・検討し、計量的な道具をそのペアトレーディングの分析に役立てている。
 第1部では、時系列、ファクターモデル、カルマンフィルタなどの重要なテーマを簡単に紹介し、その後の議論に必要な基礎知識を提供している。大まかな考えとペアトレーディングの方法の概念を説明したあとに、株式市場における異なる2つのペアトレーディングについて掘り下げている。  第2部では統計的裁定を用いたペアトレーディングを詳しく説明している。この戦略はペアとなる株式の価格の間に長期的な均衡があるという性質を用いて2つの株式の相対価値のアービトラージを行うものである。  第3部はリスク・アービトラージに関するトレード手法と戦略について説明している。これは企業の合併・買収というコーポレートイベントに起因するペアトレードであり、広く普及しているアービトラージ手法である。  ボラティリティの高い現代の株式市場では、地政学リスクをはじめさまざまなリスク要因のため、常に急落の危機をはらんでいる。本書では、このような時期に安定的で確実なパフォーマンスを目指す方法として、多くのヘッジファンドマネジャーが採用しているペアトレーディングの奥義を紹介している。



著訳者紹介

著者 ガナパシ・ビディヤマーヒー(Ganapathy Vidyamurthy)
著者は10年近い金融市場での経験のなかで、ニューヨークのRBCドミニオン証券の完全なリスクマネジメントシステムを構築し、UBSウォーバーグとJPモルガン・フレミングにおいて評価システムと自動執行戦略を作り上げた。今はヒマラヤ・コンサルティングのプリンシパルである。金融以外では、離散化最適化からアルゴリズムを用いた作曲といった幅広い分野に興味を持っている。本文のなかでもこれらの題材が幾つか出てくる。著者はインディア・インスティテュート・オブ・サイエンスから電子通信の分野で修士を、また、コラント・インスティテュート・マセマティカル・サイエンス・オブ・ニューヨーク大学から修士を得ている。

監訳者 熊谷善彰(くまがい・よしあき)
早稲田大学教育・総合科学学術院助教授。慶應義塾大学商学研究科博士課程単位修得退学後、現在に至る。理学修士・商学修士。著書に『金融時系列データのフラクタル分析』(多賀出版、2002年)。

訳者 森谷博之(もりや・ひろゆき)
上智大学理工学部卒業。アフリカ開発銀行等を経て、オックスフォード・ファイナンシャルエデュケーション設立。住商キャピタルマネジメントのチーフストラテジスト。MBA・金融経済学修士。

原書 : "Pairs Trading : Quantitative Methods and Analysis by Ganapathy Vidyamurthy


監訳者まえがき

 1980年代になると多くの学問の成果が金融市場の分析とトレード戦略の開発、そして価値の評価に用いられ始めた。数学者、物理学者、経済学者、そしてコンピューター科学者が金融機関・研究所で働く機会を与えられさまざまなトレード手法と金融モデルが開発された。そしてそれらの成果としてデリバティブの分野でショールズ教授とマートン教授が1997年にノーベル経済学賞を受賞した。いまでは有名なオプション価格を評価するモデルに対する受賞であった。本書に何度となく出てくるグレンジャー教授とエングル教授も多変量時系列モデルによる因果性検証や、アーチモデルと共和分分析法の確立によって、2003年にノーベル経済学賞を受賞している。

 また、2002年には不確実性下で活動する人々は常に合理的な判断をするとは限らないという前提で経済や金融をとらえようとする行動経済学を、また心理学的な側面を経済学に応用することで、カーネマン教授がノーベル経済学賞を受賞している。優秀な研究者が次々と輩出し、金融市場の性質が次々と明らかにされている。金融市場の人々が合理的に行動するということを前提としたモデルから、より現実に近く、人々は常に合理的であるとは限らないというモデルへとモデルの幅はより広がっている。まさしく金融市場の秘密が次から次へと暴露されていくようである。

 一方、実務の世界ではトレーディングのロボット化が進んでいる。アルゴリズムトレーディングという、大量の株式を売買する際にその売買のタイミングを最適化し、最も低い費用で取引の執行を可能にするシステム、ヘッジファンドが採用する、トレードの判断から取引の執行までをすべて自動化する取引システムなど、モデル化と自動化が進んでいる。このような分野ではノーベル賞級の理論を用いたものや、自らの経験をモデル化したものなど、さまざまな考え方がモデル化されている。

 為替の市場では、以前は顧客対応のディーラーはチーフディーラーとよばれる為替のマーケットメークをする人から為替レートを得ていたが、いまでは自動化されたロボットから為替レートを得るようになっている。最近の為替証拠金取引のように、為替を取引する一般の人々はインターネットを通して為替の取引をし、顧客対応ディーラーを通してトレードをしていない。また、必要な情報は自ら掻き集めている。そのため、金融機関の顧客対応ディーラーに今求められていることは、為替を売買する人たちに確かな情報と為替市場で利益を上げられる売買のタイミングを提供することである。顧客対応ディーラーには以前とは比べものにならないほどの高度な技術と知識が要求されている。また、チーフディーラーに求められていることは、ロボットから得た注文を適切に処理することと、ロボットよりも高い利益を上げることである。チーフディーラーにも以前よりもより高い能力が求められるようになっている。さらに、ロボットの開発者にはさらに高い利益を上げることのできるロボットを開発することが求められているのである。

 金融に関するノーベル賞級の理論が次々に発見されようと、ヘッジファンドが優れたモデルを開発してどんなに大儲けしようと、まだまだ発見されていない理論は無数にあるし、金融市場で大儲けできる機会も、まだ発見されていない無敵のトレード戦略も無限にあるのである。心配することはない、人々の心が前向きであれば、社会は変わり、そこに生まれる収益機会も新たな仕組みもどんどん増えるのである。

 2006年10月

熊谷善彰


序文

ほとんどの読者は、どのような本でも読まれることが最も少ない部分 が序文であるということに同意するだろう。もしそれが本当なら、読 者がこの部分を読むかどうかという問題があるのも確かに事実である が、できるかぎり生き生きとして楽しい序文にするよう、また堅くな らないよう努力した。そこで、ひとつの話と挿絵を読者に用意した。 楽しんでいただきたい。

昔々、6 人の目の悪い男達がいた。彼らは象がどのような姿をしてい るのかを知りたいと思った。そこで森へ出かけ、ガイドの助けを借り ながらおとなしい象を見つけた。最初のひとりは、象の体の側面に向 かって歩み寄り、頭をぶつけたため象は壁のようであると言った。二 人目は象の牙をつかみ、それは槍のようであると言った。次の目の悪 い男は、象の鼻に触れ、象はヘビに似ていると確信した。4 番目は象の 脚に抱きつき、象が樹に似ていると断言し、次の人は耳をつかみ、扇 によく似ていると言った。最後の人は尻尾に触れ、確かにロープのよ うであると感じた。結局、目の悪い6 人の男達は彼ら自身の方法で象 の各部分の特徴を発見し、またそれぞれは正しいのだが、象の全体像 をとらえることは、だれもできなかった。

市場は、しばしば象にたとえられる。市場を予測することは、天候 を予測するようなもので、短期的にはうまく予測できるかもしれない が、長期的には、単なる想像にすぎないと語る人がいる。さらに、他 の人々からは短期的市場を予測することは確実にやけどをする方法で あるとも聞く。「長期的獲物のために投資せよ」これが、彼らの信条で ある。ある人々は、市場が効率的であると主張するが、驚異的な利益 を得ることは可能であると語る人もいる。ある人はテクニカル分析が 有効であるとする一方、それは魔術的科学であると断固として非難す るファンダメンタリストと呼ばれる人々もいる。割引配当モデルのよ うな株式のためのマルチファクターバリュエーションモデル、相対バ リュエーションモデル、マートン・モデル(株式を企業価値のオプショ ンとしてとらえる)、すべて、異なる時間の異なる株式に関連し、各々 が共存している。物理学、統計学、制御理論、グラフ理論、ゲーム理 論、信号処理、確率および幾何学のようなさまざまな学問の難解な理 論はすべて、市場動向の異なる特徴を説明するために用いられてきた。

それは、市場が、広範囲な、時には相反する信念に迎合しようとし ているかように見える。市場のさまざまな見方に意味があるとすれば、 6 人の目の悪い男と象の話から得られることがあるであろう。このよ うな状況の中で、読者が市場という象にさらなるいくつかの展望を持 てれば、著者はこの仕事に意味があったと思うことができる。


「第1章 序論」より

[ 第1章を立ち読みする(PDF) ]

1.3 ペアトレード

ペアトレードの最も基本的な形はマーケットニュートラル戦略である。マーケットニュートラル・ポートフォリオは、ちょうど2 つの証券を用いて、あらかじめ決められた比率で一方の証券をロングポジション、そしてもう一方の証券をショートポジションとすることで構築される。どのような時にも、ポートフォリオはスプレッドと呼ばれる量 と関連する。この量は2 つの証券の市場価格を基に算出され、時系列 を形成する。このスプレッドは、ある意味ですでに議論したリターン の残差部分と関連する。ペアトレードはスプレッドがその平均値から 大きく乖離したときに、その乖離がいつか元に戻るだろうという期待 の下に、始められる。そして、そのスプレッドの収束とともにポジショ ンはひっくり返される。本書では、株式市場における2 種類のペアト レードを検討する。統計的裁定取引とリスク・アービトラージとして のペアトレードである。

統計的裁定取引を基にしたペアトレードは相対的な価格評価の概念 に基づいている。相対的な価格評価に内在する前提は、同じような特 徴を持つ株式はおおよそ同じような価格で評価されるに違いないとい うことである。この場合のスプレッドを、相互のミスプライスの大き さと見なすことができる。このスプレッドが大きければ、ミスプライ スの度合いも大きいが、潜在的利益も大きい。

この戦略ではスプレッドが平均値から大きく乖離している場合に、 ロングショート・ポジションを取る。ミスプライスが自動的に修正さ れるだろうということが期待されている。その後、このスプレッドが 収束した場合に、ポジションは反転され、収益が確保される。ここで、 いくつかの疑問が浮かび上がる。どのようにスプレッドを計算するの だろうか? このような戦略が機能する株式のペアをどのように識別 するのであろうか? ペア・ポートフォリオの構築でその構成比率を どのようにするべきであろうか? いつこのスプレッドが大きく平均 値から乖離していると言えるのであろうか? 疑問に取り組み、それ らの疑問を解くためのいくつかの計量手法を提供する。

リスク・アービトラージを基にしたペアトレードは、2 つの企業の 合併の際に起こる。合併合意により、関与している2 つの企業の株式 価値の間の厳密なパリティ関係が明らかになる。この場合のスプレッ ドは定義されたパリティ関係からの乖離の大きさである。2 つの企業 間の合併が確かであると考えられる場合、2 つの企業の株価はパリティ 関係を満たす必要があり、これらの間のスプレッドはゼロになる。し かし、独占禁止規定の問題、委任状争奪戦、競争入札者などの理由に より、合併公表後も合併の無事完了にはある水準の不確実性がともな う。この不確実性はスプレッドに反映され、この値がゼロであること はありえない。リスク・アービトラージはリスクとしてこの不確実性 を取り、利益としてスプレッドを獲得する。したがって、企業価値評 価に基づく統計的裁定取引のペアトレードの場合と異なり、リスク・ アービトラージのトレードは、2 つの株価間のパリティ関係に基づい ている。

典型的な運用方法は次のとおりである。吸収する企業を「ビッダー」、 吸収される企業を「ターゲット」と呼ぶことにする。合併公表の晩に、 ビッダーの株が空売りされ、ターゲットの株が買われる。そして、合 併の完了時にポジションは手仕舞われる。合併完了時のスプレッドは 合併公表時よりも狭まっている。実現利益はこの2 つのスプレッド間 の差となる。本書では、比率が合併合意の詳細に基づいて、どのよう に決定されるか議論する。「合併完了に対する市場の期待オッズ比は幾 らか?」というような疑問に答えるためのスプレッド・ダイナミックス のモデルを展開する。さらに、リスクマネージメントにこのモデルが どのように使用されるかを示す。加えて、トレードのタイミングに注 目し、この過程で用いる、いくつかの計量的手法を提供する。


1.4 概要

本書は、株式市場におけるペアトレードの2 つの異なる形式につい て概要を述べる。最初の形式は相対価格評価の概念に基づき、統計的 裁定ペアトレードと呼ばれる。第二は、合併の状況で生じる、リスク・ アービトラージと呼ばれるペアトレードである。一般的に業界では共 に裁定取引戦略と呼ばれているが、決してリスクがないわけではない。 本書では、これらの戦略のさまざまな側面を詳細に観察し、それらの 分析を助ける計量手法を提供する。

さらに本書で議論される手法は、ペアトレードの唯一の方法として 構成されたものではなく、方法はひとつではないことをまず指摘して おかなくてはならない。しかしながら、理論と実務の統合を試みる説 得力のある考え方を提示するよう努力した。本書でペアトレードの成 功を保証するつもりは毛頭ない。しかし、株式市場でペアトレードを 行う際に綿密な分析を適用するときの枠組みと手掛かりを与えてくれ ることであろう。

本書は3 部から構成されている。第1 部では、いくつかの重要なト ピックについて予備的な題材を提供する。それぞれのトピックに対し ては集中して議論している書籍が存在する。本書でこれらのトピック を網羅しているわけではない。しかし、この議論によって本書の残り の部分のため予備知識を設定し、読者がいくつかの重要な概念を習熟 する手助けとする。さらに、表記法と定義を導入する。第2部では、統 計的裁定ペアトレードを議論する。第3 部ではリスク・アービトラー ジについて議論する。

本書は、代数、確率論および微積分学の知識を読者が持っているこ とを前提としている。しかしながら、資料を利用しやすくすることに 努めている。読者は途中で予備知識を身につけるという選択もできる。 補修用に、本章の最後の補論で、本書を読むにあたり読者に必要とさ れている基礎的な確率公式をリストアップしている。

章を読む順番に関して、読者は統計的裁定のペアートレードを読む 前に時系列とマルチファクターモデルに関する章を習得することを強 く勧める。それらの考えと専門用語は統計的裁定のペアトレードの議 論には頻繁に現れるからである。カルマン・フィルタの第4 章からの 概念は、リスク・アービトラージ・スプレッドを平滑化する際に第12 章で用いられる。このような依存関係を除くと、残りの部分はほとん ど独立している。


1.5 対象読者

本書は学生、実務家および独学で習得する人々、と幅の広い読者を 対象として魅了するように書かれている。容易に読めるように、最初 に幅の広い考えと概念を説明し、次に詳細を徹底的に掘り下げている。 読者が自分のタイムテーブルで、細かな点を再び学ぶことができるよ う柔軟性を持って書かれている。さらに要点を箇条書きにし、すべて の章の最後に載せておいた。本書は、数理ファイナンスの学位を取ろ うとする学生の参考テキストとして有用である。あるいはMBA の上 級コースの一部にも使用することができる。さらに、本書で扱うトピッ クは、学者だけでなくヘッジファンドと証券会社のトレーダーと計量 アナリストにも強い関心を持たれるだろう。

目次

第I部 基礎知識
第1章 序論
              [ 第1章を立ち読み(PDF) ]
1.1 CAPM モデル
1.2 マーケットニュートラル戦略
1.3 ペアトレード
1.4 概要
1.5 対象読者
1.6 まとめ
1.7 その他の参考文献
1.8 補論

第2章 時系列
2.1 はじめに
2.2 自己相関
2.3 時系列モデル
2.3.1 ホワイトノイズ
2.3.2 移動平均過程(MA)
2.3.3 自己回帰過程(AR)
2.3.4 一般的なARMA 過程
2.3.5 ランダムウォーク過程
2.4 予測
2.5 適合度対偏り
2.6 モデル選択
2.7 株価のモデル化
2.8 まとめ
2.9 その他の参考文献
2.10 補論
2.10.1 MA(1) 系列のラグ1 の相関
2.10.2 AR(1) 系列のラグ1 の相関
2.10.3 尤度の最大化と誤差平方和の最小化が同等になる条件

第3章 ファクターモデル
3.1 はじめに
3.2 裁定価格理論
3.3 共分散行列
3.4 応用―ポートフォリオのリスク計算
3.5 応用―ポートフォリオベータの計算
3.6 応用―トラッキング・バスケットの設計
3.7 感度分析
3.8 まとめ
3.9 その他の参考文献

第4章 カルマン・フィルタ
4.1 はじめに
4.2 カルマン・フィルタ
4.3 スカラー・カルマン・フィルタ
4.4 ランダムウォークにフィルタをかける
4.5 応用―スタンダード・アンド・プアーズ・インデックスでの例
4.6 まとめ
4.7 その他の参考文献
4.8 補論


第II部 統計的裁定を用いたペアトレード


第5章 概観
5.1 歴史
5.2 動機
5.3 共和分
5.4 モデルへの適用
5.5 トレード戦略
5.6 戦略設計のロードマップ
5.7 まとめ
5.8 その他の参考文献

第6章 株式市場におけるペアとなる銘柄の選択
6.1 はじめに
6.2 共通トレンド共和分モデル
6.3 共通トレンドモデルとAPT
6.4 距離測度
6.5 距離測度の解釈
6.6 理論と実務の調和
6.7 まとめ
6.8 その他の参考文献
6.9 補論:固有値分解

第7章 トレードの可能性の検証
7.1 はじめに
7.2 線形関係
7.3 線形関係の推定―マルチファクター・アプローチ
7.4 線形関係の推定―回帰アプローチ
7.5 取引可能性の残差検定
7.6 まとめ
7.7 その他の参考文献

第8章 トレードの設計
8.1 はじめに
8.2 ホワイトノイズに対する変動幅の設計
8.3 スプレッドのダイナミックス
8.3.1 ケース1 混合正規分布モデル
8.3.2 ケース2  ARMA モデル
8.3.3 ケース3  隠れマルコフARMA モデル
8.4 ノンパラメトリック法
8.5 正則化
8.6 仕上げ
8.7 まとめ
8.8 その他の参考文献

第III部 リスク・アービトラージに関連するペアトレード


第9章 リスク・アービトラージの仕組み
9.1 はじめに
9.2 歴史
9.3 ディールプロセス
9.4 取引条件
9.5 ディール・スプレッド
9.6 トレード戦略
9.7 計量的側面
9.8 まとめ
9.9 その他の参考文献

第10章 トレードの執行
10.1 はじめに
10.2 注文の指定
10.3 執行の検証
10.4 プライシング期間中の執行
10.5 空売り
10.6 まとめ
10.7 その他の参考文献
10.8 補論
10.8.1 ネットワークの最大フローに関するディニックのアルゴリズム
10.8.2 レイジー・アロケーション・アルゴリズム

第11章 マーケット・インプライド合併確率
11.1 はじめに
11.2 インプライド確率及びアロー=ドブリュー理論
11.3 単一ステップモデル
11.4 複数ステップモデル
11.5 理論と実務の照合
11.6 リスク管理
11.6.1 VAR 測定
11.6.2 イベントリスク管理
11.7 まとめ
11.8 その他の参考文献
11.9 補論

第12章 スプレッド反転
12.1 はじめに
12.2 予測方程式
12.3 観測方程式
12.4 カルマン・フィルタの適用
12.5 モデルの選択
12.6 トレーディングへの適用
12.7 まとめ
12.8 参考文献
12.9 補論
12.9.1 カルマン・フィルタの設計―ラグ1
12.9.2 カルマン・フィルタの設計―ラグ2
12.9.3 カルマン・フィルタの設計―ラグd(d >= 3)


TOB を使ったペアトレード・株式サヤ取りの一例

2006年、王子製紙の北越製紙への敵対的買収は日本で驚きをもって受け入れられ、さまざまな議論を投げかけた。相場にかかわる者の眼からは新しい収益チャンスが新しい時代の幕開けと共にもたらされたと見える。

7月23日王子製紙は北越製紙に対してTOBを実施すると発表した。
TOB開始日は8月1日、価格は860円である。これは野村證券の算出した価格である。24日北越製紙の株価はストップ高となった。同時に王子製紙の株価も15円高となる。このTOBは合理的であると市場では評価された。その後、北越製紙が三菱商事に第三者割当増資を実施することを決定、そのため一株の価値が下がり、TOBの価格は800円に修正された。王子製紙は9月4日までに北越の発行済み株式の過半数を取得することを目的に動き出した。その後日本製紙が北越株を王子製紙に対して対抗取得するなど、事態は複雑化し、王子製紙にとって難しい局面となっていった。11日には王子製紙は成功の確率が下がったことを発表し、23日にはほぼ不成立が確定し、29日には敗北宣言を出した。このときの株価の推移は図1のとおりである。

これから頻繁に起こることが期待される、M&AとTOB、この収益機会をどう利用したらよいのだろうか?実は、アメリカにはイベントドリブン、その中でも特にリスクアービトラージと呼ばれる手法には100年の歴史があるのである。まずは鉄道業界で、ついで加工産業トラストを対象に行われた。戦後は株式トレーダーの排他的クラブで行われていた。戦略は簡単である。合併が成立すると考えれば、合併される側の株式を買い、合併するほうの株式を売るのである。また、合併が不成立と考えれば、合併される側の株式を売り、合併するほうの株式を買うのである。正確なコーポレート情報を得る。それを的確に分析する。そして、相場の戦略として組み立てる、エキサイティングな戦略である。

発表前日(7月21日)の北越の終値は635円、王子の終値は641円である。話を単純にするために、このとき10,000株ずつの株式を持っていたとしよう。7月23日王子はTOBを発表。そのときのTOB価格は860円。つまり、北越の株は王子の株の860/641=1.40倍の価値があると判断。北越株を1株買うと王子株を1.4株売ればよいことになる。または王子株を10,000株売り、北越株を7,000株買うことになる。24日の北越株はストップ高なので25日の終値でこれを実行するとする。この段階ではTOBは成立すると考えている。次に、23日の日経朝刊にはTOB不成立のニュースが出る。この日の終値で戦略を逆にする。TOB不成立にかけるのである。北越株をすべて売って王子株に乗り換える。ちょうど王子株を20,000株買うことができる。29日には王子は敗北宣言を出す。これを気にポートフォリオを元に戻す。30日の終値で取引すると王子株10,000株で北越株9,000株を買うことができる。

最初の元手は641円x10,000+635円x10,000=12,760,000円

このままのポートフォリオをTOB終了の9月4日まで維持すればその価値は13,960,000円で儲けは1,200,000円、つまり収益率は9.4%である。一方上述の手法を使えば、儲けは2,065,000円となる。収益率は16%である。倍近い成果が見込めるのである。(図2参照)

ここで重要なことは上述の過程においては日経新聞の記事だけを用いて判断した。つまり、実際の状況に対してかなり時間差を持って反応したことになる。12チャンネルの金融・株式番組、その他のチャンネルの同様の情報源、インターネットなどを使えば、より迅速で的確な反応が可能になる。つまり、戦略の過程を改良する余地はたくさんある。

さらに、上述の手法はもともと持っている株を別の株に乗り換えただけである。同じ元手で空売りを使えば、さらに多くのポジションを取ることができる。空売りを組み合わせた上述の手法をペアトレードと呼ぶ。これはヘッジファンドが多用する手法である。多くのヘッジファンド手法の中でも今年大きな成果を上げているのはイベントドリブンであるが、その中核をなすのが、上述の戦略にペアトレードを組み合わせたリスクアービトラージと呼ばれる手法である。この手法を用いると儲けは更に倍近くになることが期待できる。実際、米国の規制当局もこの手法による収益率の高さからインサイダー情報を用いた手法だと、疑いをもったほどのパワーのある手法である。ぜひ研究してみてはどうだろうか!

――執筆:森谷博之


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