2018年11月発売
定価 本体1,800円+税
A5判 上製 318頁
ISBN978-4-7759-7238-0 C2033
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まず、検討に値するファクターたるには以下の5つのテストを通過しなければならない。
●持続性(長期間にわたり、異なる経済体制下でも有効である)
●普遍性(あらゆる国、地域、セクター、アセットクラスで有効である)
●安定性(どのような定義でも有効である)
●投資可能性(机上のみならず、取引コストなど実践するときの検討事項を考慮したあとでも有効である)
●合理的な説明(そのプレミアムとそれが存続する理由をリスクや行動に基づいて、合理的に説明することができる)
そのうえで、上の5つの要件を満たす7つのファクター(1.市場ベータ、2.サイズ、3.バリュー、4.モメンタム、5.収益性・クオリティ、6.ターム、7.キャリー)に関する研究をまとめ上げている。
ファクター投資の神髄は、過去の栄光ではなく、将来の素晴らしいリターンである。バーキンとスウェドローが有益なクオンツ手法の1つを用いて市場に打ち勝ちたいと考えているすべての投資家のために本書を著した。ファクターを用いた投資には着実な実績がある。難解な専門用語や数式を用いることなく、それを見事に説明している本書は、長期的な視点での投資に興味を持つすべての投資家が一度は読んでおくべき1冊である。
ラリー・E・スウェドロー(Larry E. Swedroe)
バッキンガム・ストラテジック・ウエルスおよびBAMアライアンスの調査部長。ニューヨーク大学でファイナンスおよび投資のMBA(経営学修士)を、ニューヨーク市立大学バルーク校でファイナンスの学位を修得している。スウェドローは『間違いだらけの投資法選び』『インデックスファンドを推奨する42の理由』(パンローリング)の著者で、『ジ・オンリー・ガイド・トゥ・ア・ウィニング・インベストメント・ストラテジー・ユーウィル・エバー・ニード(The Only Guide to a Winning Investment Strategy You'll Ever Need)』で投資にまつわる科学を平易な言葉でつづった最初の著者の1人である。7冊の著書と7冊の共著があり、アンドリュー・L・バーキンとは『ジ・インクレディブル・シュリンキング・アルファ』を著している。スウェドローはまた著名な著述家であり、ETF.comをはじめとする多国籍のメディアに寄稿してもいる。
序文
まえがき
第1章 市場ベータ
第2章 サイズファクター
第3章 バリューファクター
第4章 モメンタムファクター
第5章 収益性・クオリティのファクター
第6章 タームファクター
第7章 キャリーファクター
第8章 プレミアムは広く知られると減少するのか
第9章 さまざまなファクターからなるポートフォリオを実践する
結論
付録A トラッキングエラーリグレット――投資家の敵
付録B スマートベータの真実
付録C 配当は有効なファクターたり得ない
付録D 低ボラティリティファクター
付録E デフォルトファクター
付録F タイムシリーズモメンタム
付録G ファクターを増やすことで得られるファンドリターンの限界効用
付録H スポーツくじと資産評価
付録I サイズプレミアムを再評価する
付録J 実践――投資信託とETF
用語集
参考文献
ここで言うファクターとは、投資における収益の源泉となるプレミアムを持つリスク因子を指す術語であり、一般的には投資モデルにおける説明変数として理解できる。ファクターを利用した投資および分析の歴史はそれほど長いわけではないが、それは単純な線形の概念に基づいており、重回帰分析や決定木といった可読性の高いモデルで扱えることもあって、すでに機関投資家の間では標準的な手法となっている。
さて、投資の世界においてファクターという概念の導入が画期的だったのは、それまでの分析が銘柄ごとの時系列データや財務データを用いて期待リターンを説明しようとしていたのに対し、そうした直接的な絶対リターンの推定を目標とすることを捨てて、各銘柄のファクター値によってユニバース内でのクロスセクションでの相対的な期待リターンや期待順位を説明しようとしたことにある。
この発想の転換によって、有価証券の未来に関する説明力は飛躍的(と言っていいと思う)に高まることとなった。実際、それまでまかり通っていたほとんどの○○理論や○○分析のたぐいはオカルトかジョークにすぎず、投資の世界はルネサンス期以前の暗黒時代のようなものであった。私たちはファクターというレンズを得て、ようやく金融市場を科学的かつ実証的に理解する入口に立つことができたわけである。今ではファクター分析という共通の言語を介して、本書に紹介されているような世界中の研究成果をだれもが簡単に利用することができることになった。
ところで、本文中に示されているように、スマートベータをはじめとして、派手な宣伝文句で売り込みが行われている投資戦略の大半は、実は主要なファクターの合成によって説明が可能なものであり、わざわざ高い管理報酬を支払わなくとも容易に自分の手で構築することが可能である。このように、ファクターについて理解することは合理的な投資を指向する投資家にとって極めて重要な意味を持つが、驚くことに、これまでは適切な入門書が存在しなかったのである(残念ながら、既存の解説書は小難しい数式やギリシャ文字が満載で、まるで一般の人が読むことを拒否しているような代物ばかりだ)。本書は気軽に読むことができる初めてのファクター本である。類書はまったく存在しない。この分野を始めて学ぶ学生や研究者や実務家だけではなく、個人投資家にもぜひ読んでもらいたいと切に願うものである。
翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。まず藤原玄氏には正確で読みやすい翻訳を、そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
2018年10月
長尾慎太郎
多くの者たちがバフェットは比類なきストックピッカー(銘柄選択者)であると考えているが、彼の成功はそのような能力ゆえのものではないことを知ることになるだろう。彼の成功は、市場を上回るリターンをもたらす、ある種の特徴、つまりファクターを見いだす優れた能力ゆえのものなのだ。言い換えれば、どのような特徴を追い求めればよいのかが分かれば、それらの特徴を持つ銘柄を保有するファンドに投資することで、バフェットの銘柄選択の成功を再現することができる。これは、バフェットや彼の師匠(伝説のバリュー投資家ベンジャミン・グレアムとデビッド・L・ドッド)の業績を否定するものでも何でもないことを理解することが重要だ。結局のところ、彼らは学術界に先駆けること何十年も前にそのような特徴を発見していたのだ。実際に、学術界は市場を上回るパフォーマンスを上げた投資家の業績を研究することで、株式の重要な特徴を発見することが多い。そして、彼らは、それら投資家の成功は共通するファクターに対するイクスポージャーをとった結果なのか、それとも銘柄選択やマーケットタイミングの能力の結果なのかを判断しようとするのである。つまり、偉大なる投資家の秘伝のソースが見つかれば、もはや投資家が個別銘柄のファンダメンタルズを調査する必要などなくなるのだ。これらのファクターに対するイクスポージャーを提供する、コストの低いパッシブ運用(個別銘柄を選択したり、マーケットタイミングを計ったりする必要はないという意味である)のETF(株価指数連動型上場投資信託)や投資信託に投資することで、金融界のレジェンドと同じような成果を上げることができるのだ。 われわれの旅路は、100を超える論文を参考に、投資で成功する秘訣を探ろうとする50年以上に及ぶ学術研究の地へと読者をいざなうものである。われわれの目的は、ファクター投資の研究における何らかの見解やわれわれ独自の解釈を読者に押しつけようとすることではない。むしろ、読者独自の情報に基づいた投資判断を下すために必要となる情報やデータを提供することが、われわれの目的である。道中、いくつかの専門用語に出合うことになるが、それらの用語を説明する用語集を巻末に掲載しておいたので、容易に読み進めることができるであろう。
このようなファクターを見いだすことができた者たちが手にする大きな報酬を考えれば、この探求に多大な労力が求められることも当然である。2014年の『ロングターム・キャピタル・バジェッティング(Long-Term Capital Budgeting)』という論文のなかで、著者のヤーロン・レビとイボ・ウエルチは、学者や実際の投資家が記した論文で紹介された600のファクターを検証している。また、キャンベル・R・ハーベイ(ジャーナル・オブ・ファイナンス[Journal of Finance]の元編集者)、ヤン・リュー、フーチン・シュは2015年の『アンド・ザ・クロス・セクション・オブ・エクスペクティド・リターンズ(…and the Cross-Section of Expected Returns)』という論文のなかで、2010〜2012年だけで59の新しいファクターが発見されたと報告している。彼らは、一流誌の記事や高い評価を得ている報告書などで紹介された総計315のファクターを検証した。投資におけるこれらの特性はあまりに数が多く、またエキゾチックであるがゆえに、2011年のアメリカン・ファイナンス・アソシエーションの会長講演でジョン・H・コクランは「ファクター動物園」なる言葉を生み出している。
さらに、適切なリスク調整済みのベンチマークを上回るリターンと定義される、本来のアウトパフォーマンスであるアルファが判然としないことが示されたことで事態はさらに悪化している。プライベートエクイティやヘッジファンドのパフォーマンスに関する歴史的な証拠は、ラリー・スウェドローとジャレード・キザーによる『ジ・オンリー・ガイド・トゥ・オルタナティブ・インベストメンツ・ユーウィル・エバー・ニード(The Only Guide to Alternative Investments You’ll Ever Need : The Good, the Flawed, the Bad, and the Ugly)』で示されたとおり、アルファの存在を支持していない。REIT(不動産投資信託)やインフラなど、その他の伝統的なオルタナティブ投資も、株式と比較的高い相関関係にある。伝統的なオルタナティブ投資のなかで、株式との相関がみられなかったのはコモディティと森林投資の2つだけである。
だが、非伝統的な分散の考え方がある。ポートフォリオをアセットクラスの集合体ととらえるのではなく、さまざまなファクターの集合体と考えることができるのだ。このようなファクターベース投資は、アンティ・イルマネンとジャレード・キザーによる2012年の論文『ザ・デス・オブ・ダイバーシフィケーション・ハズ・ビン・グレイトリー・イグザゼレイティド(The Death of Diversification Has Been Greatly Exaggerated)』でも支持されている。その年の最も優れた論文に贈られる名誉あるバーンスタイン・ファボッツィ、ジェイコブス・レビィ賞を受賞した彼らの研究は、ファクターに基づく分散のほうが、アセットクラスに基づくそれよりも、ポートフォリオのボラティリティと市場との連動性を低減させるうえでは効果的であることを論証している。
●持続性 長期間にわたり、異なる経済体制下でも有効である。
●普遍性 あらゆる国、地域、セクター、さらにはアセットクラスで有効である。
●安定性 どのような定義でも有効である(例えば、バリュープレミアムを測るにはPBR、PER、PCFR、PSRなどがある)。
●投資可能性 机上のみならず、取引コストなど実践するときの検討事項を考慮したあとでも有効である。
●合理的な説明 そのプレミアムとそれが存続する理由を、リスクに基づき、または行動に基づいて、合理的に説明することができる。
ファクター動物園にある600例は、それぞれ異なる分野を対象としている。マクロ経済の変数に関するものもあれば、資産の特徴に関連するものもある。リスクに関係して説明されるファクターもあれば、行動を検討した結果であるものあるが、多くはその両面から説明されるものである。 朗報としては、選択対象となるこれらすべてのファクターのなかで、われわれの要件を満たす8つにだけ焦点を絞ることができる、ということだ。その他のファクターについてはどうだろうか。時間の試練に耐えられず、発見後に消えていったものもあるが、おそらくそれはデータマイニングか、偶然の産物であったのであろう。もしくは、特定の期間、制度、またはごく一部の有価証券でのみ有効なファクターであったのかもしれない。そして、多くのファクターは、われわれが推奨するファクターによってカバーされている。言い換えれば、それらは共通テーマの変形(バリューに関するさまざま定義のように)なのだ。このようなほかのファクターについては付録で簡潔に議論していく。 分散されたポートフォリオに見られるリターンの違いの大部分を説明することができる特定のファクターを求めるわれわれの探検は、まさに時空を超えた旅であり、資産評価モデルと呼ぶものの歴史でもある。この旅路は、およそ50年前に、CAPM(資本資産評価モデル)と呼ばれる最初の資産評価モデルが開発されたことに始まるのだ。
CAPMは、リスクと期待リターンがどのようにもたらされるかを初めて正確に定義したのである。それによって、市場をアウトパフォームするアクティブ運用者がどのようにアルファを生み出しているのか、またはそのアウトパフォーマンスは何らかの共通するファクターに対するイクスポージャーによって説明され得るのかを理解することができるようになった。アクティブ運用者はアルファを「約束」することで高い手数料を要求するのであるから、これは重要な問題である。言い換えれば、アクティブ運用者が市場を上回るパフォーマンスを上げているのは、共通のファクターに乗っている(ベータ)がゆえなのだとしたら、投資家は約束されたアルファに高い価格を支払い、実際にはベータを手にしているだけ、となる。そのようなイクスポージャーならば、もっと安く手にすることができるのだ。
CAPMは、「ワンファクター」のレンズを通してリスクとリターンを見ている。ポートフォリオのリスクとリターンは、市場ベータに対するイクスポージャーだけで判断されるのだ。この市場ベータが、市場全体のリスクに対する株式や投資信託やポートフォリオのリスクの感応度の指標となる。これは、どれほど多くの銘柄を保有しようとも、市場ベータのリスクを回避することはできないので、システマチックリスクまたは分散不可能なリスクと呼ばれる。ファクター動物園を巡るツアーでの最初の逗留地は市場ベータとなろう。