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投資の4原則

投資の4原則
――低コストのインデックスファンドが人生100年時代の救世主

2024年8月発売/A5判 上製本 478頁
ISBN978-4-7759-7331-8 C2033
定価 本体3,800円+税

著 者 ウィリアム・バーンスタイン
監修者 長岡半太郎
訳 者 藤原玄

トレーダーズショップから送料無料でお届け

目次訳者まえがき

「老後の2000万円」問題も貯蓄感覚でラクラク解決
退屈なインデックス投資で明るい未来

 本書は、20年前のベストセラーの新版で、ETF(上場投信)やリスク管理や神経心理学的な投資コンセプトの最新情報を、だれにも分かりやすく、豊富な例え話とユーモアを交えて、新たによみがえった。

 当然、それだけではない。
 前著が出版されてからすぐに、真面目な投資家たちにとっては「投資の完全な手引書」として認識され、今でも古典になっている。だが、投資の現場は劇的に変遷しており、とりわけETFの実用性は大きく変化している。また、ライフサイクル投資やリスクの特性、金融や神経心理学的なコンセプトなど、多くの重要な問題についての考え方も進化している。本書はそれらの問題に対応すべく全面改訂されている!

 引退した神経科医であり、金融本の著者として絶大な人気を誇る著者はトレードマークと言える魅力的な筆致で、読者が十分な情報に基づいて投資判断を下せるようになる手助けをしている。彼は基本となる「投資の4本の柱」について紹介・詳述し、深く掘り下げている。

投資理論   リスクをとらずに高いリターンを期待すべきではない

投資の歴史  およそ30年に1回、市場は思いもよらない動きを見せるので、準備を怠れば、失敗する

投資の心理学 投資における最大の敵は鏡越しに見つめ返してくる顔、つまり自分である

資産運用業界 資産運用業界はあなたに情報を与えず、貧しいままにしておきたいのが本音で、彼らの好きにさせてはならない

 互いに関連するこれら4つの絶対不可欠な教訓に目を向けることで、堅実な投資の礎を築く術を学べる。本書には市場の歴史から得られる魅力的な教訓に基づいた実践的な投資アドバイス、投資家としてのリスク許容度を割り出す方法、資本市場におけるリスクとリワードの分かりやすい説明が盛り込まれている。

 個人投資家であろうが、投資銀行家であろうが、ジョン・ボーグルのような伝説的な人物の足跡をたどろうと思っている者であろうが、この比類なき1冊は時間の試練に耐え、高いパフォーマンスをもたらすポートフォリオを構築するために必要となる知識と知見をもたらしてくれるだろう!


著者紹介

ウィリアム・バーンスタイン(William Bernstein)
The Four Pillars of Investing 引退した神経科医であり、資産運用会社エフィシエント・フロンティア・アドバイザーズの共同創業者。彼には金融に関する4冊の著書『投資 4つの黄金則』(SBクリエイティブ)、『ジ・インテリジェント・アセット・アロケーター』『ジ・インベスターズ・マニフェスト』『ラショナル・エクスペクテーション』と、歴史に関する4冊の著書『「豊かさ」の誕生――成長と発展の文明史』『華麗なる交易――貿易は世界をどう変えたか』(ともに日経BPマーケティング)、『マスターズ・オブ・ザ・ワールド』『ザ・デリュージョン・オブ・クラウズ』がある。バーンスタインは2017年にCFAインスティテュートから栄えあるジェームス・R・ベルティン賞を受賞している。

原題: The Four Pillars of Investing, Second Edition : Lessons for Building a Winning Portfolio by William J. Bernstein


本書への賛辞

「この全面改訂された投資の古典で、アメリカで最も優れた投資アドバイザーの1人から一生ものの教訓を学ぶことができる。興味深く、ユーモラスな筆致を通して、バーンスタインは投資で成功するためには正しいことをするだけではなく、投資計画を台無しにしかねないありふれた失敗を回避する必要があることを教えている。投資理論や歴史からの教訓を伝え、われわれが持つ心理的なバイアスを理解させてくれるこの思慮に富み、面白い1冊は、投資アドバイスの信頼できる情報源となる」――バートン・G・マルキール(プリンストン大学経済学教授、『ウォール街のランダム・ウォーカー』の著者)

「成功する投資とは心理戦である。ユニコーンを探して金融のジャングルに飛び込むのではなく、リスクを理解し、コントロールすることが勝利につながる。目的は快適な生活であり、お金に余裕のある引退生活であり、そしておそらくは自分の子供たちに財産を残すことだろう。この価値ある1冊は注意し続ける方法、つまり賢明な方法で投資リターンを獲得する方法を教えている」――ジェーン・ブライアント・クイン(『ハウ・トゥ・メイク・ユア・マネー・ラスト』著者)

「バーンスタインは4冊の本にすべき事柄を、実例や物語や例え話や計算、そして少しばかりのユーモアを用いて、投資理論、歴史、心理、資産運用業界を通じた1つの啓蒙の旅にまとめ上げている。苦労して得た投資の観点や賢明なる助言が容易に理解できるようになっている。新たに投資を始める人々にお勧めできる1冊だ」――エリック・バルチュナス(ブルームバーグのアナリスト、『ザ・ボーグル・エフェクト』著者)

「4本の柱はだれにとっても重要である。最初に読むべき投資本であり、何回も読み直すべき本だ。初心者と専門家の双方に訴えかける投資本は少ないが、読んでいて面白い本となれば、さらに少ない。初心者には分かりやすく、見習いには啓示となり、専門家にとっても学ぶことの多い1冊である」――ジョン・レケンターラー(モーニングスター調査部長)

「金融に関して言えば、リスク管理はリターンを追い求めることよりもはるかに重要である。本書でバーンスタインが示すように、自分の投資について誤ったリスクを心配してきたことだろう。理論と歴史と心理と資産運用業界を理解すれば、必要最小限のリスクで自分の財政的な目標を達成できる可能性ははるかに高くなる」――ジェームズ・M・ダーレ(医師、ザ・ホワイト・コート・インベスター創業者)

「バーンスタインが持つ才能の組み合わせは珍しいものである。数学者、歴史家、統計家、心理学者、計量経済学者、そして作家としての才能である。これらの才能と、金融に関する真実は誤解されているが、重要かつ魅力的だという強い思いが、私が投資戦略を学ぶ柱ともなった本書の新版の礎となっている」――エドワード・タワー(デューク大学経済学教授)


目次

監修者まえがき
まえがき ジョナサン・クレメンツ
謝辞

序文――富への高速道路

第1の柱 投資の理論
 第1章 ノーボール、ノーブルーチップ
 第2章 がらくた
 第3章 ランドモビアの近況
 第4章 完璧なポートフォリオ
 第5章 大人の投資家のためのアセットアロケーション――パート1
 第6章 大人の投資家のためのアセットアロケーション――パート2
 第7章 大人の投資家のためのアセットアロケーション――パート3

第2の柱 投資の歴史――市場が暴れ出すとき
 第8章 金融史概観
 第9章 天井――熱狂の歴史、病態生理、そして診断結果
 第10章 底――お金持ちがもっとお金持ちになる方法

第3の柱 投資の心理学――進化の復讐
 第11章 誤った行動
 第12章 シェークスピアに取り組む

第4の柱 資産運用業界――カーニバルの客引き
 第13章 あなたのブローカー(失礼、「投資アドバイザー」だ)はあなたの親友ではない
 第14章 改善している投資信託業界
 第15章 投資ポルノとあなた

投資戦略 4つの柱をまとめる
 第16章 引退するためにはどれほど必要か
 第17章 投資戦略を構築し、管理し、そして生活資金
 第18章 基本事項
 第19章 結論


監修者まえがき

 本書は資産運用会社エフィシエント・フロンティア・アドバイザーズの共同創業者であるウィリアム・J・バーンスタインによる“The Four Pillars of Investing, Second Edition : Lessons for Building a Winning Portfolio”の邦訳で、低コストのインデックス型投資信託を使った資産配分によって、長期的な資産形成を図ろうとする人のための入門書である。

 各種年金基金制度の混乱・迷走に表象されるように、個々人における資産形成は、現代に生きるわれわれにとって、いまや避けることのできない課題となった。一方で、トマ・ピケティがその著書で明らかにしたように、歴史的には、資本収益率(r)は経済成長率(g)より大きい。つまり、投資によって得られる富は、労働の対価によって得られる賃金を凌駕する。これは、労働には経済的なリスクがほとんど伴わないが、投資にはさまざまなリスクがあることを考えれば、至極当然のことだ。そしてそれが意味するのは、私たち労働者はただ真面目に働くだけではけっして豊かにはなれず、資本家と同様に投資活動を行うことでしか、経済的不安は解消できないという厳しい事実である。

 ここで一般に投資の本質は何かと言えば、それはリスクテイクにほかならない。リターンは通常はリスクの対価として得られるものだからである。したがって、私たちは各々の目的や属性に照らして、自分がとれるリスクととれないリスクを峻別し、前者を限界までとる一方で、後者をヘッジするか極力抑える算段を講じなくてはならない。

 幸いにして現在では、リスクをとる手段だけではなく、ヘッジする手段も容易に手にすることができる。例えば、融資を得て不動産投資を行う人にとって、金利の上昇は脅威以外の何ものでもないが、以前であれば、繰り上げ返済か固定金利への変更ぐらいしか、それに抗する術はなかった。だが今では、もし金利上昇懸念があるならば、債券先物やCFD(差金決済取引)を使って、簡単にそのリスクをヘッジ、もしくは軽減することができる。おそらく、これから投資を始める人はよほどひどい間違いを犯さないかぎり、資産形成に失敗することはないだろう。

 ところで、これだけ投資がやりやすくなると、限りある機会を大勢の投資家が奪い合うことで、リターンが薄められるのではないかという懸念もあるだろう。だが、これはまったく心配するには及ばない。なぜなら世に投資資金を持つ人は多いが、何にどうやって投資すればよいかをきちんと理解している人は圧倒的に少ないからである。本書のような良心的なガイドブックを読み実践する人は実は少数派なのである。

 翻訳にあたっては以下の方々に感謝の意を表したい。藤原玄氏は正確な翻訳を行っていただいた。そして阿部達郎氏には丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、パンローリング社の後藤康徳社長のおかげである。

 2024年7月

長岡半太郎


まえがき ジョナサン・クレメンツ

 「輝かしきはリスクなり」は、ザ・フォーエイセズの1995年のヒット曲でも、ウィリアム・ホールデンとジェニファー・ジョーンズの主演の映画でもない。残念。

 一方、バースタインの本はリスクをあらゆる面から論じている。読者はこう叫ぶだろう。「なんだって。この本にはロックフェラーのような金持ちになるための投資対象を見つける方法は書かれていないのか」

 ロックフェラー並みの金持ちは吹かしすぎかもしれないが、お金持ちになることは確実に可能だ。すべての投資家が理解すべきことがある。それは、投資で豊かになれる道は一筋縄ではいかない。ウォール街の商品棚を見渡して、「これらの七面鳥は飛ぶのか」と分かり切ったことを聞くだけではたどり着けない。

 もちろん、だれもが初めて投資をしようとするときにはこの疑問を持つ。われわれは人気の投資信託や株式のリストを徹底的に調べる。市場トレンドを研究し、どれが自らに有利に働くかを占おうとする。本に書かれたあらゆるトリックを使って、下品なまでに豊かになれる投資対象を見つけようとする。だが、その道中、たいていの場合は自分たちが恥ずかしくなるほど無知であることに気づく。

 残念ながら、多くの者たちが自らの過ちから学ぶことはなく、破綻した投資スキームを次々と乗り換えることに自らの投資行動を費やしている。だが、思慮深い投資家はやがてパフォーマンスを追いかけることをやめる必要があることに気づき、リスクを管理し始める。皮肉なことに、そうして初めて、彼らの投資成果は大幅に改善する。

 だが、われわれはどのリスクを管理すべきなのか。これこそが、20年前に最初に出版され、いまや投資本の古典と広く考えられているバースタインの本の神髄だと思う。学校教育を受けた大人であれば理解できる言葉を用いて、バースタインはわれわれの金融の旅路を台無しにしかねない障害を説明している。

 これはほんの一部にすぎないが、そのような障害には次のようなものがある。デフレ、借り入れた資金を用いた投資、株式や債券の惨めなまでに低い長期的リターン、資産の没収、過去のパフォーマンスを追いかけること、自らのリスク許容度の過大評価、株式市場の暴落、株式ブローカー、歪み、われわれ自身の大きな過信、退職当初の不愉快な投資成果、インフレの高進、そして金融ニュースの視聴といった具合だ。

 危険な世界のように思えるだろうか。そうでもあり、そうでもない。金融市場で大金を失う方法は無数にある。だが、本書でバースタインが説明しているように、通常、そのような損失は規律と知識を正しく組み合わせれば回避することも、耐え忍ぶこともできる。その規律と知識はバースタインの資産運用の知恵を支える4本の柱を学ぶことで獲得できる。つまり、投資理論、金融史、投資の心理学、そして資産運用業界である。

 慎重な投資生活を思い描き、正しい道を進んでいるかダブルチェックしているだろうか。本書よりも賢明かつ面白い投資の手引きを見つけるのは苦労するだろう。私が説明するまでもなく、本書を楽しんでもらえると思うが、バースタインと私が奉じている幾つかのアイデアを取り上げさせてほしい。自らのポートフォリオ、そして人生を通じたより広範な財政面で取っているリスクについて考えるにあたり、私は2つの鍵となる考えにとりわけ注意することを勧めたい。

 1つ目は、将来何が起こるかは分からない。将来が不確実であることはわれわれ皆が知っている。だが、われわれは健全な意識を保ち、眠れない夜を回避するために、どれほどの不確実性が存在するかを軽視する傾向にある。われわれは、来年は今年とおおよそ同じだと仮定する。同じ家で寝て、配偶者も変わらず隣で高いびきをかき、そして朝、目を覚ませば、同じ仕事場に向かうのだ。同様に、われわれは今日の経済や金融市場を支配しているトレンドは優勢であり続けると仮定する。

 経済や市場の歴史を簡単に振り返り、過去の人生で遭遇した混乱を見直せば、そのような仮定は最良でも疑わしいものであることが分かる。私は次なる混乱に備え、些細なことにびくびくする日々を過ごすことを提唱しているのではない。だが、同時に、金融上の判断を下すときに過度に大胆になるべきではない。なぜなら、そのような過信は墓穴を掘ることになりかねないからだ。金融上の主たる規律を何としてでも保持し続けなければならない。コツコツと貯蓄をし、リスクを管理し、投資コストを引き下げ、税金を抑えることなどだ。だが、金融の将来に関する仮定については、漁色家のように考え、けっして1人に執着すべきではない。

 2つ目は、これから引退までの金融の旅は一発勝負であり、失敗は許されない。これは、われわれは潜在的な財政的結末を慎重に考える必要があるということだ。これは1つのシンプルな疑問も持つことでとらえることができる。つまり、もし自分が間違っていたらどうなるだろうか。

 例えば、アメリカ株にばかり固執し、日本のような30余年にわたる弱気相場が続いたらどうなるだろうか。引退後の資金を蓄えるのは現役でいられる最後の20年だけとして、その期間にレイオフになり、長く失業することになったとしたらどうなるだろうか。自分の引退生活が予想していた30年ではなく、40年とか50年続いたらどうなるだろうか。  リスク管理は容易ならざることともなり得るが、それはわれわれが人間なのだからなおさらだ。われわれは起こり得るあらゆる災難を想像すべく努力をする。そして、単純に知り得ない将来の事柄を自分たちは分かっていると想像する。われわれは不確実性、そして自らに将来を予想する力がないという事実を受け入れることを全身全霊で拒否するのだ。

 だが、そのような2つの現実を受け入れれば、われわれの投資パフォーマンス、そして幸福感には大きなプラスがもたらされる。自分たちの投資と精神状態を金融市場に揺さぶられてのたうち回るのではなく、将来がどのようになろうとも、ある程度うまくいくポートフォリオを構築できる。どのような経済環境でも財政的に生き残り、願わくは繁栄するような方法で貯蓄をし、投資することができる。信じてほしい。そのような知識がもたらす財政的な安心感と平静は、お金で買えるいかなる物よりも幸福をもたらすだろう。

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序文――富への高速道路

 1998年、ハイファイナンスの長く、忌まわしい歴史のなかでも最も華々しい凋落の1つが見られた。LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)の破綻だ。

 伝説的なソロモン・ブラザーズの幹部であるジョン・メリウェザーによって4年前に立ち上げられたヘッジファンドはウォール街の最も優秀で才能のある者たちを呼びものとしていた。その筆頭を占めるのが2人のノーベル賞受賞者たちだ。つまり、オプションの価格付けに関する画期的な理論を考案したマイロン・ショールズとロバート・C・マートンである。

 1990年代後半、同社はイカルスに匹敵する金融的な悲劇を展開した。目もくらむような複雑なデリバティブを基礎とするLTCMのトレーディング戦略では、借り入れた資金に25倍のレバレッジがかかっていた。そうすることで、破綻に至る4年間に投資家の資金を4倍にしたのだ。

 シルビア・ブルームという法律事務所の控えめな秘書は、長い期間を通じてLTCMが失敗した世界で成功を収めた。彼女は1947年にニューヨークの法律事務所で働き始め、2014年までその職にあった。驚くべきことに67年間である。彼女は数年後、99歳の誕生日を前にして亡くなった。

 ブルームの遺言執行人で、姪のジェーン・ロックシンは目を疑った。遺産の価値は900万ドルを超え、主に株式からなっていた。遺産の3分の2はヘンリー・ストリート・セトルメントに贈られたが、ローワーイーストサイドのこの有名な社会福祉チャリティーがこれまで受け取ったなかでも最大の遺贈だった。消防士を引退した彼女の亡き夫をはじめ、彼女の財産については誰も知らなかった。誰もが高齢の親族にするように、ロックシン女史も定期的に叔母をランチに連れ出したが、支払いをするのはいつも彼女だった。

 LTCMの名士たちが失敗した分野で秘書はどのようにして成功したのだろうか。ブルームの成功には3つの要因があった。1つ目は、彼女は借り入れた資金で投資をしなかった。つまり、彼女はレバレッジを用いなかった。LTCMの25対1という成層圏にも届きそうな比率などもってのほかだ。その水準では、資産価格がたった4%下落しただけでファンドは破綻してしまう。ヒストリカルデータに基づいたLTCMの数理モデルによれば、保有銘柄の価値がそれほど下落することはあり得ないとされていた。モデルはこれ以上ないほどに間違っていた。金融界で最も優秀な人々は、市場は驚くべき頻度で正気を失い、それまでに確立されていた資産価格間の関係性を完全に破壊してしまうという明白な事実を忘れていた。

 2つ目は、ブルームは時間を味方につけた、何十年にもなる時間だ。出所は怪しいがアルバート・アインシュタインの言葉として頻繁に引用されるように、「複利は世界で8番目の不思議だ。それを理解する者は複利を稼ぎ、それを理解しない者は複利を支払う」。シルビア・ブルームは確実に理解していた。

 LTCMの天才たちとは異なり、彼女は一獲千金を狙おうとしなかった。むしろ、ゆっくりとお金持ちになろうとした。はるかに安全な賭けである。ブルームの戦略は複利の魔法を67年もの長きにわたり働かせることができたので、絶え間なく続けた貯蓄を何百万ドルにも変えることができた。LTCMはたった4年しか続かなかった。複利が本当に世界の8番目の不思議であれば、くだらないことでそれを切り詰めてしまうのは最悪だ。いくつか挙げれば、レバレッジ、スターファンドマネジャーを追いかけること、リスク許容度を過大評価すること、ケーブルテレビの金融番組を見ることなどだ。

 ブルーム女史の3つ目の強みは彼女の倹約ぶりだ。彼女は自らに我慢を強いたのではない。おしゃれをして、時には毛皮を着て、夫と頻繁に旅行に出かけた。しかし、9月11日にツインタワーが倒壊したとき、84歳の秘書はブルックリン橋を徒歩で渡り、バスに乗って帰宅した。彼女が引退する直前、同僚で親友でもあったポール・ハイアムズは、前が見えないほどの吹雪のなか、彼女が地下鉄の駅から出てくるのを見つけ、そこで何をしているのかと尋ねた。これに対して、彼女は「どうしてそんなことを聞くの。どこにいればいいのよ」と答えた。彼女がもっと贅沢に暮らしていたら、それほど多くの財産を残すことはなかっただろう。人はあとでお金を使うために貯蓄をする。ブルームの場合は、彼女自身にではなく、チャリティーのためだった。

 投資を突き詰めれば、現在の自分から将来の自分へと資産を移すことだ。残念ながら、この2人の異なる人物をつなぐ金融の高速道路はところどころ凍結し、大きな障害物が横たわっている。高速道路の例えを弄することは覚悟のうえだが、平均的なポートフォリオはその運用期間を通じて数回、ガードレールのない危険な山道を進むことになる。つまり、金融恐慌を伴う残忍なまでの弱気相場だ。

 ゆっくりと進めば進むほど、資産が目的地に安全に到達する可能性は高くなることは明らかだ。これこそが、ブルームが彼女の資金で行ったことである。ちなみに、LTCMの主役たちは全速力で進み、自らの資金と投資家の資金に大損害をもたらした。常なるように、ウォーレン・バフェットがこれを簡潔にまとめている。「彼らは手にしてもいない、必要ともしていないお金を稼ぐために、自分たちが手にしていた必要なお金をリスクにさらした」。

 簡潔に言えば、ブルームが成功したのは彼女の戦略が生きながらえたからであり、LTCMが成功しなかったのは彼らの戦略が「リスクアウト」したからだ。金融のプロや学者たちは株式が占める割合の小さいポートフォリオは最適ではないと考えることが多いが、恐怖やパニックを乗り越え、さらにはそれらを生み出すこともない「最適ではない」戦略は、不要なリスクを背負った最適な戦略よりも望ましい。

 作家で歴史家でもあるロバート・カプランは地政学について「その半分は地理学であり、残りの半分はシェークスピアだ」と述べている。同様に、投資の半分は数学であり、半分はシェークスピアだと言える。金融には重要だが冷淡なミスタースポックのような数学の部分があるが、その半分には人間的な部分がある。つまり、弱気相場を覆う絶望的な恐れであり、他者の恐怖や強欲をまねたり、感じ取ったりする傾向であり、データや事実よりもストーリーに重きを置く傾向である。投資における数学とシェークスピアは正反対に位置するが、シェークスピアを熟知していないと、世の中のいかなる数学も役に立たない。言い換えれば、シェークスピアは投資におけるアートや詩ではなく、むしろハムレットやリア王やマクベスなのだ。つまり、人間の努力や歴史という残忍な恋人に見られるあまりに人間的な不合理性のことである。

 では、どうすれば個人投資家は数学とシェークスピアを極め、魔法のような複利を生み出す投資ビークルを富への道から脱線させる代物を回避できるのだろうか。それは投資の4本の柱を極めることである。

第1の柱――投資理論

 本書から学べることが1つだとしたら、次のことになる。リスクとリターンは密接に関連している。ときどき発生する大きな損失を経験することなしに高いリターンを期待すべきではない。1990年代後半のインターネットバブルの時期に多くの者たちが学んだように、残念ながら1年で900%上昇する銘柄が、翌年にはあっけなく90%下落することもある。株式に付随するリスクを回避する方法はなく、あとで見ていくとおり、株式市場からいつ退出すべきかを確実に教えられるマーケットタイミングの妖精も存在しない。いかなるときでも、市場の凶事を予言する者はたくさんいるが、あらゆる暴落で、まったくの偶然からそのタイミングを完璧に計れる者が1〜2人はいる。だが、判を押したように、それら天才たちのその後の予想はコイン投げよりもひどい。また、適切なタイミングで売り抜けることができるとしても、いつ市場に戻るかについてはもう一度推測に頼ることになる。次のことを考えてみてほしい。2007年後半の市場の高値から2009年3月初旬の安値まで、S&P500は配当込みで55.2%下落した。その安値から2022年末までに、S&P500は644%上昇した。

 このような下落は、株式市場のリターンという演劇を見るためのチケット代なのだ。ジョン・メイナード・ケインズはこれを見事に表現している。

下落相場で逃げ出すべきかどうかを考え続けること、または株価が下落したら自分の責任だと感じることが機関投資家や真面目な投資家の仕事でも、ましてや義務でもないと私は考える。私はそれよりもはるかに踏み込むだろう。時に保有する銘柄の下落を、平静を保ち、そして自らを責めることなく受け入れることが真っ当な投資家の義務である。

 この引用の鍵となるのが「平静」だ。つまり、下落を静かに、そして当然のこととして受け止める能力である。本書で最も重要な投資の秘訣の1つは、金融で最も有効な精神安定剤は安全資産の山であるということだ。アメリカの投資家の場合、それは退屈で利回りの低い国債だが、これによって事態が最も暗いと思えるときに耐え忍ぶことが可能となる。ある意味、それはポートフォリオのなかで事実上最も高いリターンをもたらす資産であり、LTCMの幹部たちが見向きもしなかった秘訣だ。

 過去20年にわたって、ライフサイクル投資に関する考え、特に将来の株式と債券の低いリターンと収益率の順序リスク――低いリターンが引退当初まで続く可能性――が組み合わさることでもたらされる大きな影響に関する考えは進化してきた。株式のリスクを決める大きな要因は実のところ投資家の年齢であり、「バーンレート」、つまりポートフォリオのうち毎年どれだけが費消されるかであることに気づいた。その結果、私はライフサイクルを通してアセットアロケーションを変える方法に関する議論を第6章の「理論」の最後に移している。

第2の柱――投資の歴史

 10年、100年単位で見ると、資本市場はイギリス貴族のローズガーデンのように整然としているように思える。つまり、株式のリターンは債券のリターンよりも高く、債券のリターンは現金のリターンよりも高く、そのすべてはおおよそ予想可能である。しかし、数年の期間で見ると、金融市場は常軌を逸することがある。電離層に届きような株価が付いた1990年代後半はウェブサイトの閲覧数とクリックさえ得られれば、利益や配当など忘れてかまわなかったし、1930年代前半は保有する現金の価値よりも株価が低くなるという信じられないような企業もあった。

 過去に映画を見たことがあれば、それがどのような結末になるか分かるだろう。1999年の夕食会にタイムスリップしたとしたら、ハイテク投資家が稼ぎ出している途方もない金額のお金が話題となっていたし、1929年の暴落で誰が打ちのめされ、誰が打ちのめされなかったかを見つける最も簡単な方法として簡単なクイズが行われていた。つまり、ゴールドマン・サックスはどのように巻き込まれたか、サミュエル・インサルとは何者だったのかといった具合だ。

 金融は、物理やエンジニアリングのようなハードサイエンスではない。むしろ、社会科学だ。その違いは次のとおりだ。橋や電子回路や航空機は特定の環境に対して常に同じように反応するが、金融市場がそのように反応することはない。これがLTCMの幹部や顧客たちを破滅させた厳然たる事実である。医師や物理学者や化学者は自らの活動領域の歴史を知らなくても大きな損害を被ることはないが、金融の歴史を知らない投資家は取り返しのつかないほどの障害を抱えることになる。

 成功する投資家は次の2つの歴史的なコンセプトを熟知する必要がある。

1.さまざまなアセットクラスの長期的なリターンと短期的なボラティリティ

2.伝説の人物ベンジャミン・グレアムが投資家の群れに付けた名称だが、ミスターマーケットがいかに重度の双極性障害を患い、極端な躁状態と鬱状態を定期的に行ったり来たりしているのか

第3の柱――投資の心理学

 後期更新世のわれわれの先祖は、危険な環境に対する機敏な反応が生死を分ける世界で暮らしていた。少なくとも過去数十万年にわたって、われわれの種は環境に見事なまでに適応し、驚くほどの速さで行動を進化させた。

 最後の氷河期が終わってからほんの300世代を経たわれわれが住む金融の世界では、リスクは秒単位ではなく10年単位で測定される。その結果、投資家の最大の敵は鏡のなかから見つめ返している、石器時代の自分の顔である。

 スカンクについて考えてみてほしい。スカンクは数百年にわたって、鋭い牙を持つ大きな捕食動物に対応する効果的な戦略を進化させた。つまり、180度振り返り、スプレーを噴射する。残念ながら、この対応は現代の都市化が進む環境に暮らす捕食動物の子孫たちにはそれほど有効ではない。そこでの最大の脅威は時速95キロで進む数トンの鉄の塊だ。

 そして、投資の世界でスカンクに相当するのが人間である。最近、行動ファイナンスが大きな注目――おそらく少々過剰だが――を集めているが、そこからも学ぶことができる。成功している投資家は最も一般的な行動上の誤りを回避し、自らの正常に機能しない投資行動に取り組む方法を学んでいる。成功していない投資家には次のような特徴が見られる。

 ほかにもたくさんあるが、このような欠点に対処する方法を学べば大きな配当が得られる。

第4の柱――資産運用業界

 慎重な旅行者は紛争地域には近づかない。これは金融でも同じだ。実際に、金融サービス業界全体を戦場だととらえれば、大間違いはしない。つまり、株式ブローカーやフルサービスの証券会社はもちろんのこと、ニュースレター、個別銘柄を買うアドバイザー、ヘッジファンドなどだ。平均的な株式ブローカーは、ベビーフェイス・ネルソンが銀行に対して行ったのと同じように自らの顧客にサービスを提供すると言っても過言ではない。

 例えば、多くの金融アドバイザーやブローカーたちは金融理論の基礎について驚くほど無知である。このような悲惨な状況にある理由はシンプルだ。業界も政府も、ブローカーや金融アドバイザーやヘッジファンドや年金基金や投資信託のファンドマネジャーに教育要件を課しておらず、また業界自体もたばこ業界に匹敵するような道徳律を順守しているにすぎないからだ。

 要するに、あなたがたはこの巨大産業との絶え間ないゼロサム戦争から抜け出せない状態にある。良いニュースとしては、時間の経過とともに猛獣を飼いならすのが容易になっていることだ。20年前に本書の第1版を出版した当時、それから身を隠す唯一安全な場所はバンガードグループが提供する一連の低コストの投資信託だった。その間、バンガードに利益を奪われてきたいくつかの大手運用会社は、彼らを打ち負かすことができないので、与することにした。彼らはコストの低いさまざまな投資信託やETF(上場投資信託)、さらにはバンガードの投資信託を自分たちのプラットフォームで提供するようになった。一方、バンガードは自らの成功の犠牲となり、新たな顧客たちの流れをうまくさばけていない。バンガードを選択することは可能だが、もはや唯一の選択肢ではない。

本の柱を利用する

 本書の最終部では4本の柱を効率的な投資ポートフォリオを設計し、管理する方法へと転換する。

 私は過去四半世紀にわたり金融に関して書いてきたが、その道中で幾つかのことを学んできた。最初に取り組んだ問題は計算の練習だった。つまり、さまざまな種類の株式や債券のリターン系列を集め、リスクとリターンのトレードオフが最適となる配分を選び出し、そして実際に実行可能な投資対象を通して、その配分を実践する方法を見つけ出すわけだ。

 1995年に電子版が出版され、その後マグロウヒルから書籍として出版された私の処女作『ジ・インテリジェント・アセット・アロケーター(The Intelligent Asset Allocator)』は計算が難解だったので、主に科学者やエンジニアには訴えるものがあったが、その他多くの読者には響かなかった。1人の友人に言わせれば、それは「輝かしい失敗」だった。数年後、『投資 4つの黄金則』(SBクリエイティブ)で読者を広げようとしたが、部分的にしか成功しなかった。同僚の医者たち――十分な教育を受け、定量的な能力を持つ連中であることは間違いない――でさえ、計算ばかりであることに目を丸くした。

 この本の最終版を書いたのが2002年だったので、いくつかの変化があった。最も注目すべきは大恐慌以降で最大となった金融危機だった。2007〜2009年に世界の金融市場を混乱に陥らせると、数年後にはヨーロッパに伝播し、やがて世界的なパンデミックとなった。皮肉にも、金利の著しい低下と、その結果としての株式市場の急騰は2021年末時点で投資家に金融史上最も手ごわい難題を提示した。つまり、2022年の株式と債券の暴落で部分的には和らいだが、高騰する資産価格と低い期待リターンという現象だ。

 四半世紀にわたり金融や歴史に関して書いてきたなかで、私は、読者はデータや計算よりも魅力的なストーリーを大いに好むことを学んだ。幸運にも、本書の極めて重要なデータは簡単に消化できる程度に細かく刻まれ、本書のストーリーのなかに組み込まれている。計算はそれほど簡単に処理できないが、幸運にも本書を理解するうえではその必要はない。実際にはあらゆる数字を楽しんでいる少数の読者をガッカリさせないために、別途「計算箱」を設けているが、一般の読者は無視して構わない。

 最後に、本書の第1版が出版されて以降、20年にわたり金融に向き合うことで、私はたくさんのことを学んできた。

●貯金ができないと、どれほどうまく投資しても意味がない。そして、どれほどうまく蓄えられるかどうかを決めるのは、お金の本当の効用を理解しているかどうかだ。お金が物を買うためにあると考えているならば、失敗する運命にある。自分が「ヘドニックトレッドミル(快楽順応)」にとらわれていることにすぐに気づくだろう。これは、より高価な自動車、より豪華な邸宅、よりおしゃれな休暇を陰湿なまでに切望し続けることである。本書で一度だけF爆弾を使うことを許してもらえるならば、世界で最高のお金は「ファックユーマネー」だ。つまり、時間と自立を手にするために用いられるお金である。

●いわば「国債が投資における平静につながる説」だ。最後までやり遂げられる能力はポートフォリオに占める短期の安全資産の額に比例する。つまり、生活費の何年分に相当するかということだ。投資で成功するかどうかを決める最も重要な要素は、数%の確率で発生する最悪の時期にどれだけうまく対処できるかだ。自分を取り巻く世界、そしてそれまで当然のことと考えていた事柄の多くが目の前で崩壊する時期である。投資キャリアにおいて少なくとも数回はそのような瞬間を経験するだろうが、そのときにTビルやCD(譲渡性預金)ほど助けとなるものはないだろう。その利回りがどれほど低かろうと。

●引退ゲームに勝ったら、家賃や食料品の支払いに必要なお金をゲームに投じるのをやめなければならない。私は、基本的な支出の10年分を提唱しているが、20年分または25年分ならさらに良い。それを上回る資産であればどのようなリスクをとろうとかまわない。それが、1人分のビジネスクラスのチケットを買うためだろうが、欲しかったBMWを買うためだろうがかまわない。もしくは、相続人やチャリティーやアメリカ政府など、国家や自分たちを豊かにしてくれたことへの感謝の印として遺贈するためでもかまわない。

●通常は標準偏差(SD)で測られるボラティリティは資産のリスクを測るかなり優れた指標だが、重要な側面を欠いている。つまり、その損失がいつ発生するかだ。その古典的な例が社債、特に格付けが低い高利回りのジャンクボンドだ。ある国債と社債のSDが同じということはあるかもしれないが、社債のほうがリスクははるかに高い。金融危機のときには、大安売りとなっている株式を買うため、もしくはただテーブルに食べ物を乗せるために流動性がどうしても欲しくなるだろう。そのような時期には社債は打ちのめされているだろうが、国債は値上がりしている可能性が高い。

●投資の核心はリターンを最大化することではなく、成功する確率を最大化することだ。この成功とは引退後の生活、教育費、住宅の頭金、チャリティー、相続人に贈る資金を手当てできるかどうかで定義される。リターンの最大化と成功する確率の最大化はまったくかけ離れたものだ。言い換えれば、シルビア・ブルームが多ければ多いほど、マートンやショールズは少なくなる。

 成功する確率を最大化するための道のりの1つ目の停留所は、その手がかりを得るために金融理論を理解することだ。


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