2009年2月14日発売
ISBN 978-4-4759-7117-8 C2033
定価 本体2,800円+税
A5判 ソフトカバー 約254頁
著 者 ロナルド・コルデス、ブライアン・オトゥール、リチャード・ステイニー
監修者 長尾慎太郎
訳 者 鈴木敏昭
本書では、大手の投資運用助言会社の3人の設立者が折り紙つきの6段階プログラムを用いて今日の市場で利益を上げる方法を分かりやすく説明している。このプログラムは、あらゆる投資スタイルとどんな資金量にも対応できる素晴らしい柔軟性を備えているため、間近に引退を控え悠々自適のリタイアメントライフを送りたい方はもちろん、老後が心配な20〜30歳代の方の将来設計に大変参考になる投資とポートフォリオ管理の技術が満載されている。 この権威ある、すべての本格的な長期投資家に適したガイドブックの内容は次のとおり。
●自分自身の財務分析の実行の仕方
●最高の成績をもたらすポートフォリオの作り方
●優秀なマネーマネジャー、ストラテジスト、アドバイザーの見つけ方
●途切れることのない円滑な計画実行
●市場の状況に応じてポートフォリオの定期的な見直し
●進行状況の効率的なチェック
本書に書かれていることをマスターしてプロフェッショナルの冷徹な姿勢で投資すれば、ワンランク上の投資家になることが可能となり、長い人生において着実な利益の増加と安心できる投資を実行できるようになる。
最新の市場変化に対応するために書き直された本書には、今日のトップの機関投資家が用いる多様な資産増大戦略についての新たな洞察が盛り込まれ、その技術を個人投資家のポートフォリオに適用することで、グロース株、バリュー株、バランス型、大型株、小型株、海外株や債券などにいつどのように投資すればいいか、またキャッシュのまま置いておくことがいいかが理解でき、長期的な投資目的が達成しやすくなるだろう。
本書にはまた、退職後の計画と収入に関する新たな章が加えられた。ベビーブーム世代は史上初めて退職資金を自力で管理する必要に迫られている。この最先端のガイドブックには、コスト計画とリスク管理に関する最新のテクニックが盛り込まれており、読者が望むどおりのライフスタイルを実現するためには十分な所得と、安全性と成長をもたらす機関投資家並みの質の高い退職資金ポートフォリオを構築することがぜひとも必要となるが、そのすべてを分かりやすく解説している!
訳者まえがき はじめに
第1章 投資でもっと成功するために「全部知っていることばかりだ」私たちの経験 私たちの金融機関的アプローチの概要
第2章 投資家の失敗――行動ファイナンスの教訓感情サイクル行動ファイナンス――投資家が誤りを犯す理由 誤った意思決定の原因は経験則 誤った行動の別の例 内容よりも形式――フレーミング効果 サイクルの打破
第3章 財務分析――投資で成功するための第一歩投資方針書――投資計画の中心価値と目標の明確化 投資期間の決定 現在の経済状況 距離の埋め方 リターン率の見積り リスクの理解 リスク許容度の評価 自分の関与の仕方を決定
第4章 資産配分――正しい構成資産配分の重要性先端的な資産配分――ノーベル賞受賞のアプローチ 先端的資産配分の基本構成要素 第1の基本構成要素――主要資産クラスの過去のリターン 第2の基本構成要素――主要資産クラスの過去のリスク 第3の基本構成要素――相関係数 3つの構成要素を用いた資産クラスの選定 効率的ポートフォリオの構築に向けた2つのアプローチ 戦略的資産配分 戦術的資産配分 3つの戦術方法
第5章 ポートフォリオストラテジスト――投資計画のコーチポートフォリオストラテジストは何をしてくれるのか本当に専任のポートフォリオストラテジストが必要か
第6章 計画の実行適切な投資商品パッシブとアクティブ――どちらのアプローチをとるか モーニングスターの神話などの落とし穴 優れたマネジャーを選ぶもっと良い方法 計画実行は出発点にすぎない
第7章 バランスの維持資産の監視と配分見直し配分見直しによる価値付加 戦術的配分見直しのメリット 再配分の最優先 マネジャーの監視
第8章 進展状況の評価4つのステップによるレポート作成ステップ1――生活状況、経済状況の変化のチェック ステップ2――成績の検討 ステップ3――成績の分析 ステップ4――必要な場合に変更を実施
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第9章 適切なファンドの選択ファンドを選ぶ理由優れた投資信託の6つの特徴 投資信託の必須特徴1――スタイル維持の要件 投資信託の必須特徴2――複数マネジャーによるアプローチ 投資信託の必須特徴3――ポートフォリオの集中度 投資信託の必須特徴4――節税的管理 投資信託の必須特徴5――低経費 投資信託の必須特徴6――カテゴリー内で最高のマネジャー 変額年金保険について
第10章 ETFの利用ETF入門注意事項
第11章 投資一任口座――古くて新しい投資商品投資一任口座の仕組み新たな2種類の投資商品 結合一任口座 統合一任口座 注意事項
第12章 オルタナティブ投資で資産ヘッジヘッジファンドとは何か?ヘッジファンドの投資対象 ヘッジファンド投資の長所と短所 ファンド・オブ・ヘッジファンズ 慎重姿勢で
第13章 全体のまとめステップ1――経済状況の自己分析ステップ2――効率的ポートフォリオの構築 ステップ3――ポートフォリオストラテジストの活用 ステップ4――計画の実行 ステップ5――配分見直しの必要性 ステップ6――進行状況の監視 定評あるアプローチ
第14章 引退後の収入ポートフォリオの構築解決策――3段階のポートフォリオ戦略
第15章 投資状況の変化不定期的シフト強気・弱気の両環境で勝利する戦略 現状分析
第16章 ファイナンシャルアドバイザーの選定ファイナンシャルアドバイザーの協力の必要性ファイナンシャルアドバイザーの利点 アドバイザー選択の必要性 5つのアドバイザー選定基準 基準1――登録投資アドバイザー 基準2――成績ベースの報酬体系のアドバイザー 基準3――コンサルタント型アドバイザー 基準4――手順のあらゆる段階で卓越した能力を発揮するアドバイザー 基準5――気持ちよく付き合えるアドバイザー 成功を祈ります 付録――アドバイザーとの面談に使う質問表
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投資の雑誌を読むと、記事のほとんどが株式銘柄の話で占められている。まるで、株の銘柄選びだけで投資の結果が決まるかのようだ。実際、多くの熱心な投資家は投資雑誌やインターネットで銘柄情報を集めながら、長い時間と労力をかけて、これぞという銘柄を決める。銘柄を買ったあとは、競馬レースさながらに、自分の「馬」が先頭に立ったと喜び、思うように伸びないといって嘆く。
本書を読むとこうした投資の考え方が根本からくつがえされる。本書によれば、投資成績の90%以上が資産配分に依存することが科学的に明らかにされている。株式、債券、現金などの資産クラスにどのように資金を割り当てるかで成績のほとんどが決まるというのだ。銘柄選択の影響はわずか5%にすぎない。たいていの投資家がこの5%のために全力をそそぎ込んでいるわけだ。
本書は「現代ポートフォリオ理論」をもとにした投資の手引きである。「現代ポートフォリオ理論」というのは、最も望ましい資産配分を決めるための科学的方法をいう。この理論は投資のプロにとっては常識となっている考え方で、どんな投資理論の本にも解説が載っている。ただ、ページをめくってみると数式やグラフがぞろぞろ出てきて、ちょっと近寄りにくい。その理論を本書は分かりやすく、しかも実践的に説明してくれる。望ましい資産配分とは、一言で言えば「卵をひとつのかごに入れないこと」、つまり分散して投資することである。ただし、大型株と小型株のように上げ下げの連動性が高い資産に投資したのでは分散にはならない。株式と国債のように逆方向に動く資産でないと分散の効果が得られない。本書では、こうした投資の基本理論をもとにしながら、どのようにして長期的な資産形成を行うべきかを丁寧にアドバイスしてくれる。
ところで、これまでは分散投資をしたいと思っても、一般投資家にはなかなか適切な投資対象が見つからないという悩みがあった。たとえば、債券を買いたくても品ぞろえが少ない、金や海外株式が魅力的と思っても売買が面倒というのが一般的だった。それが近年、投資の選択肢が急速に広がってきた。特に日本でもこのところETFの上場が相次ぎ、取引量も急速に増えている。ETFはその名前どおり投資信託の一種だが、売買の仕方は株式とほとんど変わらない。だから、金の価格と連動するETFを買えば、株式と同じ感覚で金に投資できる。本書ではこうしたETFの仕組みについて詳しく説明されている。
本書のなかで特に興味深いのは退職後の資金計画に関する1章である。アメリカと同じように、日本でも公的年金が当てにできない時代となっている。長い老後を「豊かに」暮らすためには、自らの力で計画的に資産を形成せざるを得なくなっている。そして退職後は合理的に資産を管理しなくてはならない。本書では、具体的な数値を挙げながら、引退生活に必要な資金計画が示されている。いずれ必ず退職を迎えることになる若者にも、引退生活に入りつつあるベビーブーム世代にも知っておいてほしいテーマである。
今、世界は「100年に一度」の金融危機のさなかにある。2008年の日本株式市場は42%の下落と散々な状況だった。今回の危機はほとんどの資産が軒並み値下がりしているという点で異常な事態だと言われる。しかし、だからこそ分散して資産を保有することの大切さが浮き彫りにされる。本書でも繰り返し指摘されているように、リスクを抑えながらリターンを最大化するというのが投資の基本である。これまで個人投資家にとってリターンばかりが意識されるきらいがあった。その点で、本書がリスクについて学ぶ一助となれば幸いである。
2009年1月18日
鈴木敏昭
本書の初版が世に出た2004年は、株式市場が1999年以降初めてプラスのリターンを上げた年だった。周知のように、それまでずっと投資家は1929年の大暴落以降、最悪の弱気相場に苦しめられた。2002年までの3年間でS&P500種指数は42%の下落、一方、ハイテク株の多いナスダック総合指数は74%の大幅下落となった。当然、その期間を無傷でくぐり抜けた投資家はほとんどなく、大勢が相当の富を失った。
言うまでもなく、初版の出版以降、相場は大きく好転し、投資家は株式から力強いリターンを得た。S&P500は2004年初頭から44.03%、ダウ・ジョーンズ工業株平均は38.65%の上昇となった。だがその数字の裏には重要な事実が覆い隠されている。そのリターンはやすやすと実現したわけではなかったのだ。実際、近年、イラク戦争の長期化や、投資信託業界の不正とスキャンダルによるエンロンなど大手企業の倒産、住宅市場の長引く不振などのせいで、投資家の間に大きな不安と混乱が生じた時期もあった。そうした時期と同じように現在も、金融市場にはたくさんのハードルが待っている。
要するに、数年前のような相場の不振時でも最近の好調時でも、基本的で根本的な真実は変わらない。投資に関するかぎり、危険をかわし、目の前のチャンスを完全に生かし切るためには、実証済みの規律ある方法が欠かせないのだ。時には逃げ出したくなることもある市場で投資家が直面している難題は、その場かぎりのアプローチでは克服できない。世界で最も賢く、最大の成功を手にした投資家たちの考え方と戦略に基づくアプローチが必要になるのだ。
ありがたいことに、以前と同じように今も、投資とポートフォリオ管理の哲学は有効性を失っていない。市場の変動にもかかわらず、私たちの投資アプローチの背後にある原則は、5年前の2002年弱気相場や10年前の1990年代長期強気相場の絶頂期と同じように今日でも有効で当を得たものだ。またこのアプローチは長年繰り返し検証されてきており、投資家の経済生活に価値を付加することが証明されている。私たちの原則は、さまざまな上昇と下降の市場サイクルをくぐり抜けてきたが、その間、揺らぐようなことはなかった。むしろ逆にその有効性が明らかになった。
初版の出版から何年もたっているが、私たちの使命も変わることはなかった。つまり、投資家が資金について賢明な決定を下したり、重要な事柄に集中したり、投資の自信を高めて一層大きな成功を収めたり、そして究極的には経済的な夢を実現したりするために必要な枠組みを投資家に提供することを目指している。強調しておきたいのは、あなたが、自分にとって最重要の経済的目標を実現するために、可能なかぎり最高の態勢を作り上げるプロセスと手腕を活用する責任を自分自身と家族に負っていると考えられることだ。そしてそのためにこそ本書がある──私たちは、生涯にわたって投資で成功するための手段を皆さんに提供したいと願っている。
間違いなく、今私たち投資家はまごつくことの多い世界に住んでいる。なにしろ、目がくらむほどたくさんの投資商品や投資サービスがあって、一番の情報通でも選ぶのに頭が痛くなるほどだ。そのうえ、相場予言者が次から次へと現れて、投資資金をああしろこうしろとしょっちゅう呼びかけてくる。それなのに言うことはほとんど一致しない。CNBCの番組を見たり、お気に入りの金融ウエブサイトをのぞいたりすると、だいたいいつも「専門家」がいろいろな銘柄を売るようにしつこく勧めているが、ほかではその銘柄を買え、買えとはやし立てているのだ。いつでもすぐに金融情報が手に入るこの時代では、どうしたって情報に圧倒されてしまうし、自分が正しい投資の決断をしているかどうかについて、ひどく不安になるのもうなずける。
良いことをお知らせしよう。将来の投資を最大限に生かすもっと有効な方法がある。本書のアドバイスに従うなら、投資レベルがワンランク上がり、思いもよらなかったほどの成功と自信が得られるはずだ。投資家として可能なかぎりの成功を本当に実現するためには、トップクラスの投資家の最高戦略を理解し、たえずそれを実行するようにしなければならない。本書はそのために書かれている。世界最高の投資家たち──大手投資運用会社の精鋭集団──が顧客のために資金を運用する方法を学ぶことで、自分自身の投資ポートフォリオを構築し維持するのにその方法を活用できるようになる。
これまで、投資家はそうした機関投資家の戦略に触れる機会がなかった。大手の年金プラン、財団、信託、慈善団体などのためにとっておかれたのだ。本書はそうした戦略へのドアを開くもので、読者はその戦略によって資金管理に関する一貫した折り紙つきのアプローチ──規律あるプロセスと無類の可能性を備え、投資で真の成功を勝ち取るチャンスを最大化するアプローチ──が可能になることに気づくだろう。
ほとんどの投資家と投資アドバイザーは、そうした選り抜きの機関投資家グループが用いる方法で資金を管理していない。最大の問題は、正しい道を歩むための規律あるアプローチが欠けている点にある。だから相場変動への感情的反応に足をすくわれてしまう。投資の決断がもっぱら感情に左右されると、合理的な考え方ができなくなる。どうかこれまでの投資を振り返ってみてほしい。あらゆる事実を考慮に入れた規律ある合理的プロセスに基づく投資の決断を常に行っていただろうか。それとも熱狂や、どん欲、不安、パニックに駆られて投資商品の買い時、売り時を誤ってはいなかっただろうか。
本書の初めで説明するように、感情ベースの投資の悪循環を断ち切ることは容易ではない──だが可能である。後述する折り紙つきの6段階の投資プロセスに従うなら、極端な市場変動に伴って現れ、日々マスコミに焚きつけられる感情に足をとられることもなくなるだろう。このプロセスを実行すれば感情に左右されなくなる。興奮の犠牲になることもなくなるはずだ。逆に、どんな市場環境でも有効な投資計画を作り上げてそれをしっかり実行する証明済みのシステムが自分のものになる。本書を読み終えたときには、これまで以上に賢明で有効な投資の決断を着実に下し、どんなときもそれに従う力が身についたと感じるだろう。
ある程度の疑いをもつことは健全だ。懐疑的な投資家は、投資というものが難しく努力を要すること、簡単に長期的成功をもたらす秘訣やからくり、魔法などこの世に存在しないことを知っている。
そのことに私たちも諸手を挙げて賛成する。資金管理は非常に難しい仕事だ。会社をあげてこの課題に取り組んでいる世界最大級の投資会社にとってさえ容易でない。まして日々の雑務に追われる普通の人にはなおさらだ。いつも顧客に言っていることだが、趣味や気晴らしで投資するのでは着実な成果は達成できない。確かに時にはビアーズタウンタウン女性投資クラブなどアマチュア投資家の「気さくな」アドバイスを聞くのも悪くない。問題はそうした投資家は経験や規律あるプロセス、国際的レベルの力量をもっていないという点にある。それこそが成功を勝ち取るのに欠かせないものだからだ。
後でみるように、私たちのプロセスは、金融関連のマスコミ(その本当の目的は質の高いアドバイスの提供ではなく、宣伝や売り込みにある)や、投資カリスマ、CNBCの「売れっ子」、あちこちで出会う大半のファイナンシャルアドバイザーが提供するホット情報や「今日の戦略」とはまったく異なる。私たちの6段階プロセスの必要性をいったん理解すれば、そうした雑音は簡単に消え失せるだろう。「今すぐ買うべき7銘柄」をわめき立てる雑誌最新号を手に取る理由は、ただ大笑いのネタにするためだけになるはずだ。
それでも、しばらくの間読者が「半信半疑」の気持ちで読み進んだとしても無理のないことだろう。本書に示された証拠を見て、読者が機関投資家並みの投資アプローチをぜひ試してみたいという気持ちになると私たちは確信している。この確信の根拠は単純なものだ。それは、私たち自身がこのアプローチを10年以上用いて、あなた方のような何千人もの投資家のために利益を上げてきたからだ。私たちのプロセスは世界的に知られた投資理論に基づいており、現実世界のなかで、あなた方のような投資家が最も大切な経済的目標を実現するのを幾度となく支援して成功してきたものである。
私たちはアドバイザーとしての仕事内容を入念に点検して改善すべき点を見つけだそうとした。自分たちの投資プロセスだけでなく、顧客やほかの投資家の投資習慣を調べ、いくつかの重要な教訓を学んだ。その結果、投資家としてもファイナンシャルアドバイザーとしても投資のとらえ方が根本的に変わった。
●感情は誤りにつながる 第2章で述べるように、感情は常に投資家を振り回す。たとえば株価上昇が長いこと続くと、自信過剰と貪欲が慎重さに取って代わる。株価が急落すると、不信や懸念、そして最後は恐怖や絶望を経験する。そうした感情的反応は非合理的で手ひどい過ちの原因になる。昨年一番ホットだった資産クラスを深追いしたり、過小評価された投資商品を無視して過大評価された資産を買ったり、保有銘柄をあまりに頻繁に入れ替えたり、五つ星等級ということだけでファンドを購入したりと、誤った行動が次から次へと発生する。
●情報だけでは成功できない ファイナンシャルアドバイザーとして私たちは膨大なデータと最新の技術を利用できた。それでも私たちのポートフォリオは平均以下の成績しか上げられないことが多かった。そこから得られる教訓は、情報と善意だけでは投資で着実な成功を収められないということだ。そのほかに適切な目標達成能力も必要になる。自分たちの経験を振り返ってみると、情報を基にして優れたポートフォリオの構築に活用できる知識を生み出す力量が足りなかったと認めざるを得ない。
現在では、こうした問題が以前よりも広範囲に広がっている。考えてみてほしいのだが、インターネットや金融関連のテレビ番組、雑誌、友人、家族、さらにはゴルフ仲間からさえ情報が砲弾のように浴びせかけられる。この情報氾濫のせいで、大半の人は、情報の取り込みと処理による本当に賢明で有益な投資判断を下すことができなくなっている。情報を的確に活用するのではなく、情報に埋もれて動きがとれなくなっている。その結果、リスクとボラティリティが目に入らなくなり、過去1週間、1カ月、1四半期で最高パフォーマンスを示した資産クラスを深追いして、結局大きな痛手を受けてしまう。
こうした貴重な教訓を学ぶにつれて次にとるべき方策が明らかになってきた。それは、意思決定プロセスと感情とが切り離された投資アプローチを見つけだすことだった。このアプローチはまた、顧客のためにこれまで以上に賢明な決定を下す力量をもたらすものでなければならなかった。
数カ月に及ぶ研究と検討の結果、私たちはゴールドマン・サックス、スタンダード・アンド・プアーズ、UBSグローバル・アセット・マネジメント、ウィルシャー・アソシエイツなど米国でトップクラスの投資会社の精鋭グループに答を見いだした。それらの会社のメンバーに会ってそのプロセスを分析した私たちは、そこで発見した結果に強烈な印象を受けた。そこには最先端の曇りのない学術的投資研究の基盤があり、感情ではなくファンダメンタルズを基に構築された規律ある投資プロセスがあり、何十年もの投資経験をもつプロで構成される投資方針委員会があり、資産配分プロセス(株式、債券などの資産クラスに対して資金を割り振る方法)に大きな比重を置いたポートフォリオストラテジストのチームがあり、そして資金運用会社の選定と監視のための厳格な評価プロセスがあった。
一言で言えば、それらの会社はほかに例のない水準の規律と洗練性をもって運営されていた。そこでは重要な投資決定が熟練したストラテジストに委ねられていた──彼らは短期的パフォーマンスに依拠したり「ホットな」株式やファンドを追いかけたりするのではなく、過去のリターンやリスク管理などの問題の評価に取り組んでいた。また世界中の熟練した専門家から成る大がかりなチームの支援を受けていた。それらの会社の業績報告書を入念に調べてみると、予想していたことが裏付けられた。ストラテジストたちは一定水準のリスクを前提として可能なかぎり最高のリターンを着実に生み出していたのだ。
私たちは有効なアプローチを発見したことに気づいた。だが残念ながら、その注目すべき戦略と目標達成能力は大手金融機関と最高富裕層の個人投資家だけが利用できるものだった。ゼネラル・モーターズ、イーストマン・コダック、グッドイヤー、コーネル大学、コネチカット州などの企業や機関が活用できるのと同じ高度な資源を提供することによって、そうした状況を改善することが私たちの課題となった(これらは2007年1月1日現在における私たちの戦略的共同投資パートナーの法人顧客の一部をなしている)。個人投資家はそれらの組織が享受している水準に勝るとも劣らない専門知識を利用できる資格があるとそのとき強く確信し、今もそれは揺らいでいない。
本書の目的は、投資に注ぐエネルギーを上述の脇道にそらすことなく、本道に集中させるプロセスを読者と共有することにある。このプロセスは、マスコミの騒音や非常に高揚したり落胆したりする市場心理に惑わせないようにするとともに、市場が極端に動くときに極端な決定をしないようにする規律に基づいている。 私たちの6段階プロセスはこの先の各章で詳しく述べる次の7つの主要原則を基にしている。
1.短期的な市場変動に対する感情的反応を排除する規律あるプロセスの重視 現実を見ると、自己流の方法に頼る投資家は感情に任せた決定を下す傾向がある──そして感情的な決定はしばしばリターンを損なう最大の原因となっている。合理的な根拠を基づき冷静に投資する能力を備えた投資家は犠牲の大きい過ちを避けることができる。
2.あらゆる投資管理の決定に当たって著しい目標達成能力を発揮 意図が立派でも(自分の意図か相談相手の投資専門家の意図かを問わない)、それだけでは成功のチャンスを最大化するのに十分と言えない。実際、大半の投資家は自分のポートフォリオを危険にさらすと思ったアドバイスに耳を貸すつもりはないだろう。だが1990年代後半にはまさにそういう事態が発生した。多くの投資家がハイテク株を積み増した直後に急落に見舞われるという目にあった。良かれと思う意図も、最高の機関投資家だけに見られるタイプの国際的レベルの能力と資源を伴うものでなければならない。
3.長期目標とリスク許容度に見合った投資戦略 合理的投資家は目標達成に向かって進むべき道筋を決定するために現状と将来目標を正確に評価する必要がある。そのためには自分の目標値、使用可能な資金の額、投資期間、投資計画の変更に至らない許容可能な最大損失額、さまざまな種類の投資リスクの理解などの決定的な──だが見過ごされることの多い──問題を見きわめる必要がある。本書の第3章では目標とリスク許容度に見合った戦略の策定について取り上げることになっている。また、将来のあらゆる投資決定に関する前提条件であるリスク−リターン特性に基づく文書である「投資方針書」についても説明する。後述のように投資方針書は投資家にとって最も大切な手段のひとつとなる。
4.資産配分の重要性の強調 世界最高の機関投資家は読者を驚かせるような事実にも注意を払う。ポートフォリオのために選定した個々の株式や債券などの投資商品のリターンと直接関わらない決定も行うのだ。もっと重要な要因は、さまざまな種類の多様な資産カテゴリー──株式、債券、国際投資商品、キャッシュなど──の間に投資資金をどのように分割するかということである。だがその重要性にもかかわらず、資産配分の考え方を十分に理解している投資家はほとんどいない。第4章では、誤って理解されることの多いこの投資要素に照明を当てて、勝利につながる資産配分戦略の実行方法について説明する。
5.適切な投資手段を用いた計画の実行 ポートフォリオ構築のために具体的な投資手段を選ぶ段になると、多岐にわたる選択肢に直面することになる。だが自己流で個別株のポートフォリオを構築しても成功に必要な著しい目標達成能力は得られない。また、あるタイプの投資があらゆる投資家に適しているということもないと考えられる──こうした考え方は、顧客の目的や投資可能な資産額を無視して年金商品や一任勘定マネジャーなどの一定のアプローチを顧客に売り込もうとする多くの証券会社のやり方とは一致しない。
対照的に、私たちのアプローチは読者の具体的な状況に一番適した投資手段によって独自の計画を実行するという柔軟性を備えている。本書で推奨する選択肢には、トップクラスの投資運用会社の顧客によって用いられる広範囲のアプローチ──ノーロードの投資信託、多様な年金商品、株価指数連動型上場投資信託、一任勘定口座、あるいはそれらの手段の組み合わせ──が含まれている。自分が利用できる資金源に応じた最も合理的な手段の決定方法について学ぶことができるだろう。
6.ポートフォリオの継続的な監視と調整 賢明な資金管理のためにはポートフォリオに対するダイナミックなアプローチが必要になる。残念ながら、投資家はいったんポートフォリオを構築したあとは、必要な調整を行うための定期的点検をおこたるという誤りを犯すことが多い。対照的に機関投資家はそうした必須の投資要素を非常に重視した戦略をとる。トップクラスの機関投資家マネジャーは巨大な価値をもたらし、成功に寄与する監視と調整の総合的なアプローチを用いている。市場条件の変化に応じて株式や債券といった資産クラスへの配分を体系的に見直して、望ましい潜在的リターンとリスクとの均衡を維持するのである(戦略的資産配分と呼ばれるプロセス)。多くのマネジャーはまた戦術的な資産配分戦略も併用してリターンの拡大を追求する。これは、リサーチによって過大評価や過小評価された市場分野を見つけたときに機敏にポートフォリオの微妙な変更を行う戦略である。またそれらの機関投資家は投資マネジャーの責任状況を明確にするためにその監視を行っており、資産を託したマネジャーがまだ運用会社にいるかどうか、意思決定プロセスと目標達成能力が依然健在かどうか、競争力のある成績を上げて価値を付加しているかどうかなどを点検する。
7.進展状況の定期的評価 あなたは毎月送られてくる投資口座明細書に目を通すだろうか。もっと大事なことだが、その内容が理解できるだろうか。何千人もの投資家にサービス提供した経験から言うと、投資家の大多数がそうした明細書の見方が分からない苛立ちを感じている。自分が保有する投資商品を理解できない投資家がたくさんいるわけだ。また適切なベンチマークを基準にした自分の成績の計り方を知らない投資家の数はもっと多い。そうした混乱が原因で投資家が誤った時期に誤った行動をとるという事態がしょっちゅう生じている。私たちのプロセスでは、トップクラスの機関投資家が目標と比べた自分の進捗状況を評価するために使うテクニックや、どんな投資家の心にも浮かぶ「自分の成績は?」という疑問に答えるためのテクニックが明らかにされる。
本書では、投資で「意識的に」着実な成功を達成するために必要なすべてを説明するつもりである。ただし、ひとつ重要な点に注意していただきたい。本書全体でさまざまな指数、指数の組み合わせ、投資マネジャーによる過去の成績への言及がなされている。それらの言及は例示だけを目的としてなされたものである。また過去の成績が将来の成果の保証とならないこと、投資家は指数に直接投資できないことも認識しておく必要がある。
では始めることにしよう!
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