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ウィザードブックシリーズ Vol.198



株式売買スクール
オニールの生徒だからできた1万8000%の投資法





『オニールの
成長株発掘法
【第4版】』

2012年9月発売/A5判 526頁
ISBN 978-4-7759-7165-9 C2033
定価 本体3,800円+税

著 者 ギル・モラレス、クリス・キャッチャー
監修者 長尾慎太郎
訳 者 スペンサー倫亜

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著者紹介 | 目次 | 関連書籍  ◆立ち読みコーナー 監修者まえがき ・ 第8章 オニールの十戒 (本テキストは再校時のものです)

オニール版“タートルズ”による秘密の暴露!!
伝説の魔術師をもっともよく知る2人による成長株投資の極意!

 多くのトレーダーがマーケットで損失を出すなかで、ギル・モラレスやクリス・キャッチャーは投資で大きな利益を得ている。この差はいったいどこで生まれるのだろうか? ウィリアム・オニールは「株式市場の参加者の90%は事前の準備を怠っている――それが人間というものだ」と述べている。本書はその準備をするための道具である。マーケットに投資をすれば、自分の資金を守れるかどうかが試されることになるのは間違いない。
 本書は長年の研究と常識に基づいたルールの結集である。本書では、株式市場を取り巻く次のような現実が詳しく紹介されている。

●損切り――損失が6〜7%になったら自動的に損切りをすることの重要性
●じっくりと腰を据えて正しい判断を下すことの勧め――利食いはゆっくりと行うこと
●精神的な余裕を持つことの大切さ――自分の心理状態をコントロールすることで強い立場から投資をすること
●ポジションの集中――多くの銘柄に手を出すような分散投資は必要ないこと
●マーケットタイミング――マーケットタイミングは不可能だという者がいるが、実は可能であるだけでなくそれが必要であるということ
●投資家が犯す過ち――新米トレーダーや勉強不足の投資家が犯すナンピン買いやくず株を買うこと
●オニールが歴史をさかのぼって成長株の前例を探し、それらをボックス理論に応用した結果、上昇型、取っ手付きカップ(カップ・ウィズ・ハンドル)、ダブルボトム、正方形型、平底型、上昇後に現れた狭いフラッグ型などの独自の株価の調整パターン(ベース)を見つけた経緯
●「ポケットピボット」という早い段階で株を買う手法を使い、難しいマーケットの状況でも優位に立つ方法
●株価が窓を上に空けたときに買うことで、大化け株を手際よく買う手法
●オニール流の空売り手法の詳細

 オニールのシステムをより完璧に近づけるために、本書の著者たちはオニールの下で何年も大化け株の特徴を探し出し、分析し、分類し、その有効性を確認するという作業を行った。そのギル・モラレスとクリス・キャッチャーが読者のためにオニール流の投資法を総合的に分かりやすくまとめ上げた本書を読めば、トレーディングの神髄に近づけるだけでなく、莫大な報酬を得る助けになるだろう。

■本書への賛辞

「われわれは、量的緩和や競売が日常的に行われるような史上最も難しいマーケットに直面している。ギル・モラレスとクリス・キャッチャーは不安定さを増しているこのようなトレード環境において独自の投資ツールや手法を使って成功する方法を示している。彼らの『ポケットピボット』手法や空売りのセットアップ、そしてキャッチャー博士のマーケットタイミングを計るツールはどれも画期的である。しかしそれにも増して素晴らしいのが、彼らのようなプロのトレーダーが自分の失敗を分析して、それを正していく様子を知ることができるという点である。優秀なトレーダーを作るのは優秀なツールではない。謙虚な心と柔軟性を持ちながら断固とした行動が取れるかどうかが、トレーダーの成功と失敗を分けるのである」
――パスカル・ウィラン(『EVトレーダー』[パンローリング]の著者)


「今年、本を1冊だけ読むとしたら、絶対に本書を読むべきである。読者の持つ知識、そして大切なことを見る視点を変えてくれる1冊である。守れもしない約束や誇大広告であふれる現代で、これは正真正銘の事実である。彼らの投資結果を見れば、モラレスとキャッチャーの洞察力、情熱、そしてダイナミズムが証明されていることが分かるだろう。口先だけの投資家が多いが、彼らはたしかな実績を残している。先行きの見えない不安定なこの世界で成功したいのならば、本書を読むべきである。きっと新たな成功への道を切り開いてくれることだろう」
――マイケル・ミーガン(『All Will Be Well[オール・ウィル・ビー・ウェル]』の著者


原書『Trade Like an O'Neil Disciple』

■著者紹介

ギル・モラレス(Gil Morales)
www.GilmoReport.com の執筆者兼発行者。www.VirtueOfSelfishInvesting.com の共同執筆と発行も行っている。ウィリアム・オニール・アンド・カンパニーの元社内ポートフォリオマネジャー兼主任マーケットストラテジスト。現在はモカ・インベスターズの常務取締役を務めている。オニールの手法をもとに、1万1000%を超える利益を上げた。また、オニールと共著で『オニールの空売り練習帖』(パンローリング)も出版している。スタンフォード大学で経済学の学士号を修得。



クリス・キャッチャー(Dr. Chris Kacher)
www.GilmoReport.com に寄稿しながら、www.VirtueOfSelfishInvesting.com の共同執筆と発行も行っている。ウィリアム・オニール・アンド・カンパニーの元社内ポートフォリオマネジャー兼リサーチアナリスト。現在はモカ・インベスターズの常務取締役を務めている。オニール手法をもとに、7年間で1万8000%のリターンを達成した。カリフォルニア大学バークリー校で化学学士号と原子物理学の博士号を修得。


■目次

第1章 優れた投資法が生まれるまで
――オニールの投資法

準備と学習と練習
株は安値ではなく高値で買え
ナンピン買いについて
損切りは素早く
利食いはゆっくり――勝ちトレードを継続させる
増し玉
大型株で機関投資家が保有する銘柄を買う
チャートパターン
リバモアとオニールの提唱するピボットポイント
仕掛けのタイミング――買い時と売り時
感情と予測
個人的な見解やニュースや耳寄り情報
トレードのしすぎ
オニールの手法――テクノファンダメンタリズム
まとめ

第2章 クリス・キャッチャー博士が
7年間で1万8000%を超える利益を得た方法

投資の世界に入る
1996年――2000年問題の関連銘柄でボロ儲け
1997年――アジア通貨危機を乗り越える
1998年――マーケットが急上昇する直前の士気喪失
1999年――バブルの拡大
2000年――バブル崩壊
2001年――失敗に終わった空売り
2002年から現在――揉み合い相場とポケットピボットの誕生

第3章 ギル・モラレスが株式市場で
1万1000%を超える利益を出した方法

起伏の激しい幕開きから黄金期へ突入
ロケットのような急上昇
1000%増の達成
オラクルがバブルに突入
忍耐と集中
ついに出た離陸許可
ベリサイン――スープの薬味
思考を無にして待つ
天井に近づく
成功の極意
秘密の極意

第4章 失敗に学ぶ

エゴを抑えることが成功のカギ
失敗に学ぶ
問題と状況把握と解決策
結論

第5章 トレードの極意

キャッチャー博士の研究所――ポケットピボットの利点
ポケットピボットの特徴
ポケットピボットの定義
ポケットピボットと従来のブレイクアウトの買いポイントとの違い
ポケットで買う
ポケットピボットを使った底値買い
継続的なポケットピボット――10日移動平均線を利用する手法
買ってはならない欠陥のあるポケットピボット
移動平均線を使った売りシグナル
キャッチャー博士の研究室――主導株が上に窓を空けて寄り付いたところを買う
10日移動平均線と50日移動平均線を使った売りの手法
ここまでのまとめ
結論

第6章 弱気相場に乗る方法
――すぐに使える空売りの手法

空売りの黄金ルール
空売りのセットアップ
ロケット銘柄の空売り
結論

第7章 キャッチャー博士の
マーケットダイレクションモデル

マーケットのタイミングを計る
チャートで見るシグナルの例
モデルの秘密を盗むことはできるか
タイミングモデルについて寄せられるよくある質問
結論

第8章 オニールの十戒

よくある誤解
エゴを抑制することが生き残る道
第一戒――「自己を見失ってはならない」
第二戒――「恐怖におびえて行動してはならない」
第三戒――「敵から学ぶことのほうが友人から学ぶことよりも多い」
第四戒――「常に自分の犯した失敗を分析してそれを正しながら、学ぶことや自己改善をやめてはならない」
第五戒――「保有銘柄について話してはならない」
第六戒――「株価が天井を付けても有頂天になってはならない」
第七戒――「最初に週足チャート、そして次に日足チャートを使い、日中足チャートは無視しなければならない」
第八戒――「まずは大化け株を見つけ、次にそれを大量に保有する方法を見つけなければならない」
第九戒――「一夜をともにする相手を慎重に選ぶこと」
第十戒――「常に異常なほどの集中力を維持しなければならない」
結論

第9章 ウィリアム・オニールと
実践に挑んだ日々

1997〜98年
1999〜2000年
2001〜02年の大不況
2003〜05年の強気相場
まとめ

第10章 トレードは生きること、
そして生きることはトレードすること

エド・スィコータ――世界中のトレーダーを助けたある手法
エックハルト・トール――最高のトレードをして最高の人生を送るには心の平穏と充足感が不可欠である
エスター・ヒックス――引き寄せの法則
ジャック・キャンフィールド――自分の能力を最大限に引き出す方法
心理チェックリスト――自分自身に問いかけるべき質問
最後に

付録――キャッチャー博士が選ぶ50冊


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■監修者まえがき

 本書はギル・モラレスとクリス・キャッチャーの著した“Trade Like an O'Neil Disciple”の邦訳である。両著者はかつてオニール社のポートフォリオマネジャーとして働き、キャッチャーが1996年〜2002年に上げたパフォーマンスは1万8000%以上であった。本書は、彼ら2人が行ったトレードを振り返りながら、ウィリアム・オニール流の運用手法を紹介した解説書である。これまでに『マーケットの魔術師』や『オニールの成長株発掘法【第4版】』(共にパンローリング)などで紹介されてきたように、オニールの運用手法はCANSLIMと呼ばれる銘柄スクリーニング法に基礎を置いた成長株投資(グロース投資)である。

 運用の世界では、バリュー投資についてはベンジャミン・グレアムやウォーレン・バフェットらが確立した「安全分析(Security Analysis)」が、定番の手法として認知されているが、グロース投資についてはこれといって決まったものがあるわけではない。それはバリュー投資がマーケットの定常状態に依拠しているのに対して、グロース投資が非定常状態をとらえるものであるゆえに運用プロセスをハードシステムに落とし込むのが極めて困難だからである。だが、そうした状況下にあってオニールの運用手法はグロース投資のシステムとして最右翼のひとつといえる。トラックレコードを見てみると、オニール社は、前世紀末のITバブルを見事にとらえたし、その後のバブル崩壊も見事に乗り切っている。ほとんどの「成長株投資」と称するものが実態は後付けの講釈にすぎず、かつマーケットの下落期には全滅となるなかで、オニール社の実績は極めて稀有なことである。

 また、本書を読んでいて大変興味深いのは、ウィリアム・オニールのマネジャー(経営者もしくは管理者)としての行動とその能力の高さである。資産運用会社がビジネスを継続するために必要なのは、組織としての超過収益獲得能力よりもむしろマネジメントである。ポートフォリオマネジャーの代わりはいくらでもいるが、会社組織を適切に管理できる経営者(マネジャー)は少ない。そして、これは個人投資家の運用においても同様に成立する命題である。一時的にマーケットの動きにうまく追随することができる投資家は多いが、そのほとんどは投資活動を長期間継続することができない。トレードを一種の安定的な事業として考えないからだ。本書に記載された優れた経営者としてのウィリアム・オニールの行動はだれにとっても参考になると思われる。

 翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。翻訳者のスペンサー倫亜氏は丁寧な翻訳を実現してくださった。そして阿部達郎氏にはいつもながら丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。

 2012 年8月

長尾慎太郎




■第8章 オニールの十戒

 モーセは神の手によって刻まれた2枚の石板を持って山から下り、石板に書かれていた十戒を人々に伝えたとされている。しかしウィリアム・オニールの十戒はオニールの口から直接発表されたものではない。本章で紹介するオニールの「戒律」は、われわれの主観による部分が大きい。つまり、明文化されていないが好んで使っているルールや、人生や相場の原理などを寄せ集めたものである。本書でもセミナーでもまだ説明されていなかったこれらの考え方を、オニールは日常のトレードを通じてわれわれに伝えてくれた。われわれのトレード日記はこれまでに学んだ大事な教訓で詰まっている。これらの教訓は株式市場だけでなく、人生においてもすぐに応用できるものばかりである。ウィリアム・オニールはウォール街という、世界を相手にする企業の中心地に存在する業界で、50年以上の時間を過ごしてきた。その経験から、人間関係を築く方法やビジネスで生き残る方法、さらに世の中のさまざまな不確定なことをどう取り扱うかなどについて心得ているはずである。それを読者に伝えるために、われわれはオニールの基本的な考え方や概念やルール、そして原理などを選んでまとめ、これを「ウィリアム・オニールの十戒」と名付けたのである。

よくある誤解

 オニールとオニールが経営する企業について誤解や作り話が多くある。どれも理屈に合わないものばかりで、特にオニールとその手法を陥れる目的で広められた話など、なかには度がすぎるものもある。オニールをねたむ感情が根本にある場合もあるが、ほとんどはオニールという人物について何も知らない、あるいは知ろうともしていない無知が生み出した産物である。例えば、2000〜02年のインターネットバブル崩壊で厳しい弱気相場の真っただ中にあったとき、あるプロのポートフォリオマネジャーがケーブルテレビの金融番組に登場した。彼はついにこの厳しい弱気相場にも終わりがやってくると思っていた。そして司会者に質問されると、オニールを侮辱するようにこう答えたのだ――「あの勢い任せのモメンタム投資家が発行している『インベスターズ・ビジネス・デイリー』が休刊に追い込まれれば、この弱気相場にも終わりがやってくるはずですよ!」、と。

 「知らぬが仏」とはよく言うが、この場合には知らなかったでは済まされない。そのような発言はウィリアム・オニールとその会社に対する大きな誤解を招くからである。オニールの企業は『インベスターズ・ビジネス・デイリー』紙を発行しているだけではない。ウィリアム・オニール・アンド・カンパニーは機関投資家向けに助言と調査のサービスを提供しているし、オニール・データ・システムズはチャートをはじめとするさまざまな印刷物を発行して国内で高い評価を得ている。それ以外にも、規模さまざまな関連会社が存在している。

 当時のウィリアム・オニール・アンド・カンパニーのポートフォリオマネジャーであれば、2000〜08年の弱気相場で最もあり得ない出来事があるとすれば、『インベスターズ・ビジネス・デイリー』が廃刊に追い込まれることだと分かっていただろう。オニールの会社は数多くの事業を展開している。国内有数の印刷会社であるオニール・データ・システムズのように、なかには大きな収益を上げている企業もある。つまり、業績が振るわないな会社があったとしても、それを補えるだけの経営状態の良い企業が組織内にいくつもあるということだ。それだけではない。組織の資本金を運用していた社内ポートフォリオマネジャーも素晴らしい仕事をしていた。これはオニール自身も著書の『オニールの相場師養成講座』(パンローリング)で証言している――「わたしたちのデータアナリシス持ち株会社で運営されている内部資金管理グループは、2003年までの5年間で1356%の純リターンを達成した」。マーケットでオニールよりも優れた投資家でないかぎりは、ビジネスで彼を打ち負かすことなど不可能なのは明らかである。利益が出なくなって会社をやむなくたたまなければならないような状況に直面しても、オニールの場合は必要な資金や手段を持っていたし、互いを補い合うことのできるさまざまな事業を抱えていた。だから経済や相場サイクルが鈍化しても、『インベスターズ・ビジネス・デイリー』が新規事業の立ち上げ時に直面したような財政問題などが発生しても、困難を乗り越えることができるのである。

 ウィリアム・オニールやその投資会社であるウィリアム・オニール・アンド・カンパニー、そして『インベスターズ・ビジネス・デイリー』紙のことを「モメンタム投資」という言葉で表現するとき、そこには必ず侮蔑的な意味が込められている。オニールとその手法を否定したり、軽視したり、けなしたりするための便利な省略語のように使われているのである。まるで上昇中の勢いのある銘柄を考えなしに買うことをオニールが推奨しているとでも言わんばかりに、侮蔑的にこの言葉を使ってオニールを中傷する。われわれに言わせれば、それは事実とはほど遠い。歴史を100年近くさかぼってみると25以上の相場サイクルがある。そのなかから、あるひとつの例を挙げてわれわれが正しいことを証明する。

 1999年当時の相場サイクルで最大の成長株のひとつにクアルコム(QCOM)があった。クアルコムのチャート(図8.1)でアミが掛かっている部分は、14カ月も揉み合いが続いた調整時期だった。それが終わると株価は取っ手付きハンドル型のパターンからブレイクアウトし、大きく上昇した。この銘柄を買ったとき、株価は長期の調整時期からようやく抜けだし始めたところで、モメンタムと呼べるような動きはまだ見せていない。この銘柄が示していたのは、大きな収益や成長率、高い利益率、魅力的な商品、さらに機関投資家による強い後押しなどであった。この銘柄を買ったのはファンダメンタルズ面とテクニカル面で条件が整ったからである。上昇中に増し玉はしているが、株価がどれだけ早く上昇しているかだけを見て買うような、考えなしのモメンタム投資などではないことは明らかである。モメンタム投資の意味するところが、ファンダメンタルズ面で強い銘柄が大手の機関投資家の後押しを受けながら適切な株価調整や横ばいの時期を経て抜け出し、その後大きく株価を上昇させながら利益を出していく投資法、ということであれば、特に何も問題はない。しかし先ほどのポートフォリオマネジャーのように、侮蔑的な含みを持って「あのモメンタム投資家が発行する金融紙」と言うのは、いい加減にもほどがある。

エゴを抑制することが生き残る道

 オニールは投資の世界で生き残りながら、プロとして50年以上の経験を積んできた。その過程でプロの投資家や投資会社が現れては消えていった姿を数多く目にしてきたことだろう。投資の世界で失敗する大きな原因は膨らみすぎたエゴと、あとはお金や感情に流されやすい人が富を得たときに陥る危険な心理状態である。お金が諸悪の根源になることは多々ある。お金を手にすると、そのような状態がずっと続くわけでもないのに、自己中心的な行動を取ってしまうのだ。だから第3章で述べたように、マーケットで大きく成功してその醍醐味を覚えてしまうとそれが致命的な結果につながるのである。

 50年以上の豊富な経験を持つオニールはリスクのとりすぎや愚かな行為について多くの教訓を知っている。われわれにもそのいくつかを教えてくれた。ヘイデン・ストーンでオニールが出会ったあるブローカーは、エール大学出身の頭脳明晰な若者だった。彼はブランズウィックやアメリカン・フォトコピーのような1960年代の急成長株を多く買って大金を手に入れた。ところがそれらの株価が下落を始めると、確実に利益を上げるために、と新たに「長期投資家」に転身した。つまり、彼は保有株が上昇しても黙って眺めていたし、下落に転じてもただ見ているだけだったのだ。そして最後には破産してしまった。オニールの知っている別のブローカーは、1960年代に15万ドルを借りて(当時としては大金だった)そのころ人気だったハイテク銘柄のソロトロンを信用買いした。株価は275ドルで天井を付けたあと、8ドルまで下落した。その間ずっとこの銘柄を持ち続けた結果、このブローカーは職を失い、妻に逃げられ、破産宣告をし、最後には脳卒中で倒れてしまった。こういった話を聞くと、マーケットで初めて成功を収めた投資家がいかに無茶な行動に走り、悲惨な結末を迎えるかが想像できるだろう。

 1999年6月、アメリカ・オンライン(AOL)の最高経営責任者であるスティーブ・ケースが多くの金融誌で取り上げられていた。オニールはケースの写真を見てあることに気がついた。その写真は、アメリカ政府がマイクロソフトに対して起こした独占禁止法の訴訟中に、証言を終えて政府の建物から出てきたケースを捕らえたものだった。ケースは得意気な顔に満面の笑みを浮かべていた。ウィリアム・オニールほど人間の本質を理解している者はいない。特に、めまぐるしいほどの成功を収めて有頂天になった会社経営者の本質を見抜く力はずば抜けている。企業の最高経営者らがあきれるほど有頂天になるのは自信過剰がだからである。オニールはケースの顔にそれを見た。そして、AOLの栄光の日々がすでに過ぎ去ったことを正確に予測した。AOLの株価は1999年後半に高値を試したあと、1999年12月に267.76ドルを付け、そこから下落を始めた。そして2002年の弱気相場で24.31ドルの安値を付けた。そのような不名誉な事態からなんとか抜け出そうと、AOLは2000年にタイム・ワーナーを買収して社名を変更した。分別のかけらもないような行動だが、自らを全知全能と思い込んでいる経営陣の間ではそう珍しくない。

 オニールはある考えを持って投資の世界に臨んでいる。この業界で生き残るためには、さらには人生で生き残るためには、きちんとした思考を持つことが必要で、成功や富がもたらす心理的なワナにはまってはならない、というものである。オニールはマーケットで大金を手にした投資家の心理パターンや行動パターンをよく理解している。そのような投資家はいずれ、富を得るという偉業は魔法のようにいつでも思いのままにできるわけではないことに気がつく(なぜなら大きな利益を得るにはマーケットのトレンドが必要で、それはたったひとりの投資家の力ではどうにもならないからである)。すると彼らはもっとリスクの高いトレードに手を出したり、突然「長期投資家」に転身したり、資産を継続的に増やそうとレバレッジを掛けた作戦を考えたりして、派手な消費パターンを悪化させていくのである。

 オニールの倫理観は企業運営にも反映されている。データ・アナリシスやインベスターズ・ビジネス・デイリー、ウィリアム・オニール・アンド・カンパニー、オニール・セキュリティーズらを初めとする関連会社は、すべて比較的質素でこぢんまりとした場所にある。オニールに実力を認めてもらえればオフィスの古いカーペットの破れを修復するためのガムテープを買ってもらえる、と同僚とよく冗談で話したりもした。ご褒美にカーペットを新調するのはオニール流ではないからである。もちろん冗談で大げさに言っているのだが、生意気な社員が闊歩するグーグルのような派手なオフィスではないことはたしかだ。ウィリアム・オニールの下で働く目的はマーケットで大きな利益を出す方法を学ぶためである。日常的にマッサージをしてもらったりクリーニングをしてもらったりするためではない。オニールが倹約家でいられるのは、世界恐慌の時代に生まれたことと生まれ持った良識があるからだろう。それだけでなく、成功を収めた理性的な投資家がエゴや自信過剰といった投資の世界にある心理的ワナに陥る過程をオニール自身がよく理解しているからだろう。投資の世界で成功を収めたときに利益で新車を買って喜ぶなど言語道断、と言っているわけではない(買う車がフェラーリでは問題だが!)。しかし、常に心の均衡を保ち、質素でいることを忘れてはならないということを、オニールは伝えようとしているのである。すべての投資家がこの教訓を心に留めておくべきである。2009年の金融危機は、有頂天になった政府による「万民のための自由とばらまき」とも呼べる政策がその一因であった。アメリカ合衆国という国全体もオニールの教訓から学ぶことは多いはずである。

第一戒――「自己を見失ってはならない」

 「自己を見失ってはならない」――オニールは人生全般や株式投資のさまざまなルールや原則を繰り返し教えてくれたが、その第一戒がこれである。富がもたらす幻想やワナに影響されてはならない、というのがその基本的な考え方である。人は自分を見失うと何らかの行きすぎた行動に走ってしまうものである。それが最終的には崩壊を招く。この第一戒はとても重要である。

 自分を見失った原因を理解することで失敗や崩壊を免れた投資家は多い。一方で、ウィリアム・オニールの崩壊を予測することにある種の自分勝手な満足感を得ようとする人間が多いのもまた事実である。そのような投資家が成功することはほとんどない。本章の初めで、あるポートフォリオマネジャーの暴言を紹介した。『インベスターズ・ビジネス・デイリー』紙が廃刊に追い込まれれば、2000〜02年の厳しい弱気相場も終わるだろう――そう予測した彼の言葉は知識に基づかないでたらめであることが証明された。しかし、彼のようなことを言う人間は少なくない。オニールのように成功している人物は、ときに嫉妬という人が持つ否定的な感情の標的になってしまうのである。

 このような嫉妬を現す良い例がある。サイマー(CYMI)という世間が注目していたセミコンダクター銘柄があった。あるとき、オニールがこの株で大きな損失を被った、といううわさが流れたのである。それはこの銘柄が暴落したとき(図8.2)にオニールが大きな損失を被って痛手を受けた、という内容だった。マーケットがどのような動きをしてもオニールが集中力を失うことなどけっしてない。このうわさの真偽はオニール本人に聞けば分かることであるが、われわれには分からない。明らかなのは、仮にサイマー株でオニールが本当に損失を被っていたとしても、本人は何の影響も受けていないということである。たとえ大きな「痛手」と思われるような損失だったとしても、オニールならば長年の投資人生のなかですでに経験した程度の損失にすぎないだろう。オニールはこれまで何回もそういった痛手から立ち直っているのである。このうわさが真実なのか、またはオニールの失敗を望んでいる悲しい人間が流した単なる作り話なのかは分からない。しかし確実に分かるのは、このうわさが流れてから2年半たった今でも、オニールとその下で喜んで働く社内ポートフォリオマネジャーはマーケットで1000%を超える利益を出し続けている、という事実なのである。

第二戒――「恐怖におびえて行動してはならない」

 「恐怖におびえて行動してはならない」――オニールは難しい状況でも勇気と忍耐を持ちながら再び利益を回復することで、この第二戒を自ら体現している。損失を被ってしまった、またはほかの過ちを犯してしまった、あるいは自分のリスク許容範囲を超えて心配になってしまった、など不安になる理由はいろいろとあるだろう。しかしマーケットを恐れるということは、不透明で不正確な判断をする状況に身を置いているのと同じなのである。そのようなときにはポジションを調整してそのような恐怖心を取り除く必要がある。マーケットに対して慢性的な恐怖心を持っているということは、投資をする心の準備が整っていないことを意味している。

 常に強気で行動するという原則は、オニールのビジネスへの取り組み方にも現れている。オニールの企業はおそらく特殊なものだろう。株式市場とあまりにも密接に結びついているために、われわれは事業の見通しを立てる道具として株式市場を利用しているからである。マーケットが天井を付けて弱気相場が始まると、われわれはマーケットには経済の低迷が反映され始めているのだと理解する。そしてこのようなときは、オニールから各企業の部署に経費を10%カットするようにという通達が出るのだった。業績が悪化する前に先手を打ち、やがて訪れる災難に強気で備えるためである。また、借金を抱えないことも強気で行動することになる。そのためオニールはけっして企業の運営を借金に頼ったりしなかった。キャッシュフローを何よりも重要視しつつ、社内のポートフォリオマネジャーが株式市場での投資に成功していたおかげで、オニールの企業は常に有利な立場に立っていた。気持ちが弱くなっているときには、その気持ちをすぐに切り替えて強気な姿勢を持つ、という原則に従うことが不可欠である。強気で行動するということはそういうことなのである。

第三戒――「敵から学ぶことのほうが友人から学ぶことよりも多い」

 「敵から学ぶことのほうが友人から学ぶことよりも多い」――オニールは自分を中傷したり批判したりする人間の否定的な考えを、いつも前向きにとらえることができる。何でも批判する人間や陰口をたたく人間を見ると、われわれはオニールのこの第三戒を思い出すのである。これはオニールの典型的な手法で、否定的な考えを肯定的な考えに変えることで、第三者による批判をある種の学びとして受け入れるのである。あなたを陥れたいがためにあなたの行動を見ながら小さな欠点を探し、それを誇張してうわさするという行動は、敵がすることである。しかしその過程で、あなたは敵から自分の弱点や欠点――オニールが好んだ言い方を使えば「欠陥」――を学ぶことができるのである。あなたの長所を見てもらうのは友人に任せればよい。しかし、自分を高めようとしている者にとっては友人の言葉はあまり役に立たない。オニールが他人の批判をするときは、いつも好意的な中傷者という立場を取り、その人物の成功などには触れずに失敗したことを露呈して、相手をこき下ろす手法を好む。われわれはオニールの下で運用した口座の総利益から一定の割合を報酬として受け取っている。これは自社の資金を運用する事業としては標準的なやり方である。例えば、200万ドルの口座を運用して3000万ドルに増やしたら、その総利益である2800万ドルに対して一定の割合を受け取るのである。1999年当時、報酬に関して言えば、ウィリアム・オニールの下で資金を運用する以上に恵まれた仕事はなかっただろう。1999年に大きな利益を出したあとは、さすがにオニールが多額のボーナスを差し出しながら、なんて良い仕事をしてくれたんだ、とお世辞や称賛の言葉でも投げかけてくれるかもしれないと淡い期待を抱いたが、それはやはりかなわなかった! 代わりに彼は書き留めておいた自分のメモを読み返しながら、われわれの失敗トレードや愚かな過ちを指摘してくれた。彼は「すべて正しく投資していれば、1000%増の利益を出すことだってできたはずだろう!」と言っていた。

第四戒――「常に自分の犯した失敗を分析してそれを正しながら、学ぶことや自己改善をやめてはならない」

 このような経験から、われわれはオニールの第四戒に精通するようになった――「常に自分の犯した失敗を分析してそれを正しながら、学ぶことや自己改善をやめてはならない」。一般的に、株式市場で成功した話はよく聞くが、失敗した話はあまり聞かない。オニールは自分の過ちに目を向けようと努めているのである。

第五戒――「保有銘柄について話してはならない」

 「保有銘柄について話してはならない」――第四戒を達成するためにあるのが、オニールのこの第五戒である。マーケットで成功したことを興奮しながら吹聴するのは、オニールが大変嫌う行為である。保有銘柄について絶対に口外しないという簡単な方針に従うだけで、自分の成功を声高に言いふらしてエゴを満たそうとすることもなくなる。このルールを実際に実行してみれば、保有株に対する態度に変化が現れるに違いない。

第六戒――「株価が天井を付けても有頂天になってはならない」

 「株価が天井を付けても有頂天になってはならない」――第五戒を守ることができれば、この第六戒も守れるかもしれない。この教えがあるのは、通常、株価が高値や天井を付けたときこそが売り時だからである。

 もしも1種類のチャートしか使ってはならないと言われたら、ウィリアム・オニールは週足チャートを選ぶだろう。少なくとも、オニールはかつてわれわれにそう話してくれた。それにはもっともな理由があった。まず、オニールはニュースや日中の値動きなどの騒音を遮断する。オニールにとって日中足チャートというのは、事実上役に立たない代物である。リアルタイムの取引価格を見るのは邪魔なだけ、とオニールは感じている。それは、マーケットよりも20分遅れで行動を起こしても、オニールが使う時間足であれば何の影響も受けないからである。オニールが追っているのは、機関投資家が多く取引している「大型銘柄」である。なぜなら機関投資家はどの経済成長期でも、常に最先端にいる大きな成長株へと現金をつぎ込むからである。そして何週間から何カ月もかけてポジションを売買するので、その動向が短期の日中足チャートや日足チャートに現れることはほとんどない。このような理由から、オニールは自分の「視覚的道具」として週足チャートを選ぶのである。

第七戒――「最初に週足チャート、そして次に日足チャートを使い、日中足チャートは無視しなければならない」

 「最初に週足チャート、そして次に日足チャートを使い、日中足チャートは無視しなければならない」――これが第七戒である。週足チャートは短期の変動などの騒音の多くを取り除くだけでなく、機関投資家による買い集めという重要なサインも示してくれる。

第八戒――「まずは大化け株を見つけ、次にそれを大量に保有する方法を見つけなければならない」

 ある銘柄の買い集めを見つけるために週足チャートを使うのは、オニールの手法を抜粋して作ったわれわれ独自の「大化け株の原理」に沿った考え方である。それを実行するために作られた重要なルールが、「まずは大化け株を見つけ、次にそれを大量に保有する方法を見つけなければならない」という第八戒なのである。

第九戒――「一夜をともにする相手を慎重に選ぶこと」

 オニールが教えてくれたルールのなかで、おそらく最も重要で、しかも簡単に守れるのが、「一夜をともにする相手を慎重に選ぶこと」という第九戒である。これは恋愛のルールとして作ったつもりはないが、性感染症がはびこる現代においてはその方面でも役に立つ助言かもしれない。ここでは、日常的な営みのなかでだれとかかわるかは慎重に考えなさい、という意味で使われている。2人の人間の間に生まれる信頼関係や思いやりの気持ちは、仕事だけではなく人生全般において最も重要な要素である。それを他人とのかかわり合いのなかで見つけることはなかなか容易なことではないとオニールは強く信じている。特に、投資の世界においてこの第九戒は重要な教えである。投資業界にはバーナード・マドフのように無断で盗みを働く人間や、彼ほど悪賢くないにしても不誠実でインチキで悪巧みをたくらむ人間が大勢いる。これはどの業界にも共通することかもしれないが、誠実で信頼できる人物は人生をずっとともにする価値のあるパートナーとなる。それはつまり、共通の価値観を見つけることが困難な今の世界で、絶対的な信頼を置ける、いつでも頼れる友人を手に入れることにほかならない。生きていると多くの敵や中傷者に出くわすものである。だからこそ、友人や人生の伴侶やビジネスパートナーを選ぶときには注意深く、そして賢くなければならないのだ!

第十戒――「常に異常なほどの集中力を維持しなければならない」

 マーケットにささげるオニールの献身ぶりと情熱は、彼の持つ素晴らしい特質であると言える。「常に異常なほどの集中力を維持しなければならない」――という最後の第十戒はここから生まれた。ワーカーホリックになれと言っているのではない。頭を空にして仕事に対して一生懸命取り組め、という意味である。自分が情熱を注げるものを見つけることができれば、その情熱を表現する行為として行う「仕事」が「労働」になることはけっしてないからである。だれもが自分の好きなことを仕事にできるという幸運に恵まれるわけではない。異常なほどの集中力を維持しろというのは、裏返せば、常に何らかの方法で生きる情熱を追い求め続けろ、と言っているのと同じである。これこそが人生において生きる価値を生み出すのだ。けっしてあきらめずに情熱を追い続ければ、異常なほどの集中力が養われ、それがやがてはあなたを高い水準の成功へと導いてくれる。オニールは、ただ座ってビールを飲みながらテレビを見たりテレビゲームをしたりというのは、価値のない行為であるばかりか面白くもなんともないものだと考えていた。オニールは常にこう言っていた――「ちょっと手を出すだけじゃだめなんだ、実際に飛び込んでみないと!」。

 この言葉を理解するには、オニールの休暇に対する考え方を知ることから始めよう。オニールは休暇の必要性を感じていなかった。休暇は自分の仕事が嫌いな人が取るものである、という理論である。3週間も仕事場を離れて休暇を取ることができるような人は、その仕事場で自分がそれほど重要な存在ではないことを証明しているようなものだというのだ。オニールが最後に休暇を取ったのはいつかと聞いてみると、1982年であることが分かった(1999年当時の話である)。彼はオレゴンの大自然に家族を連れて行き、電話もテレビもない、外の世界と連絡を取る手段が何もない丸太小屋で休暇を過ごした。オニールの息子のスコットと当時の彼の妻から聞いた話だが、オニールはチャートの冊子をいくつか持ち込み、休暇中のほとんどの時間を丸太小屋の「大自然」のなかでチャートに没頭して過ごしたという。ところがわずか数日後にはそれにすら飽きてしまい、予定より早く休暇を切り上げて彼の情熱であるマーケットと文明社会へと舞い戻って来てしまったのだ。これがオニールの「異常なほどの集中力」なのである。彼はどんな素晴らしい大自然にも癒やしを見いだすことができなかった。それは彼の情熱ではなかったからだ。これがアンセル・アダムスのような大自然を撮り続ける写真家であれば話はまた違ったのだろう。カリフォルニア州東部のシエラネバダ山脈にあるヨセミテ渓谷で何週間もキャンプするという行為はアダムスの情熱と共通するため、その行為そのものが彼なりの「異常なほどの集中力」を発揮する場となったはずである。ウィリアム・オニールにとって大自然でキャンプするという行為は、マーケットでトレードすることに比べると「異常なほどの集中力」を見せる場として不足していたということだ。これが、オニールの第十戒の真意である。

結論

 本章で紹介した十戒は、投資家に知られている一般的なルールを超越している。本書やほかの読みものを通して既存のルールをこのように書き換えていくことは、常に純粋さと簡潔さを求めて物事に取り組もうとする基本的な概念の現れである。いろいろな指標を監視して身動きが取れなくなってしまう、というような事態には陥らない。昔のテープリーダーのように、純粋に価格と出来高の変化を信頼して、大きな資金がどこに流れ込んでいるのかをマーケットの状況にかかわらず見定めることができるからである。オニールは自身の事業と研究から、指標のなかには使用できる期間にかぎりがあるものが存在することを知っている。つまり15年という一見長い期間ですら、大きな全体像のわずかひとコマでしかないことを理解しているのである。オニールのシステムは純粋で簡潔なものである。だからささいなことで行き詰まったりしない。彼が使っている指標は、数多くの相場サイクルで使えることが実証されたものばかりである。まったく別の時代である1920年代に機能した指標が今現在でも機能しているのは、それらの指標が普遍的な人間の本質をもとに作られているからである。リーダー株や主要な指標の価格と出来高の変化を週足チャートと日足チャートで確認すること、そして株価や指標が描くパターンを認識すること、レラティブストレングスの値、高値の更新を視覚的に確認できるレラティブストレングス線、機関投資家による後押し、買い集めや売り抜けの評価、業界の評価、そして50日移動平均線――こういった指標を使ってオニールは投資判断を下している。ウィリアム・オニールの下で働いていると、この簡潔さを目の当たりにすることができる。すると、これまで使っていたマーケットの指標やツールや戦略などは、マーケットで大きな利益を得るうえでどれも必要がないことに気がつくのである。

 われわれがオニールの会社を去ってすでに数年がたつ。オニールの「外」の世界で過ごすことで、この十戒に隠された真意が明確に見えてきた。その真意とは、投資家の振る舞いや態度や言動を決める便利な道しるべになることである。読者が集中を切らさないように、軌道を踏み外さないように、そしてオニールがわれわれに助言してくれたように「面倒なことに巻き込まれないように」、この十戒が一役買ってくれればと願うばかりである。本章で紹介した十戒はすべて、ウィリアム・オニールの下で資金を運用していたときにオニールからわれわれに伝えられたものばかりである。オニールの下で働いた素晴らしい学びの経験については、次の章で詳しく述べるとしよう。

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