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ウィザードブックシリーズ Vol.242

市場ベースの経営 価値創造企業コーク・インダストリーズの真実 市場ベースの経営
価値創造企業コーク・インダストリーズの真実

2016年10月発売/四六判 382頁
ISBN978-4-7759-7211-3 C2033
定価 本体2,800円+税

著 者 チャールズ・G・コーク
監修者 長尾慎太郎
訳 者 山下恵美子


目次 | 立ち読み まえがき第12章

「良い利益」とは、顧客が進んでお金を使い、生活を豊かにする商品やサービスから生まれる!

「良い利益」でつかんだアメリカンドリーム
世界第2位の非上場会社
大成功を収めた会社を作り上げた革命的経営システム「市場ベースの経営」
価値創造と創造的破壊とイノベーションを極めた企業

 1961年、チャールズ・コークはウィチタにある父の経営する会社に入社した。当時の企業価値は2100万ドルだった。それから6年後、彼は会長兼CEO(最高経営責任者)に任命された。現在、コーク・インダストリーズの企業価値は1000億ドルで、世界最大級の非上場企業へと成長した。50年にわたるコーク・インダストリーズの成長率はS&P500の27倍を超え、現在も6年ごとに価値を倍増しようと計画している。

 一体、この会社は何をして稼いでいる会社なのだろうか。なぜこんなに利益が出ているのだろうか。コーク・インダストリーズの名前は、汚れがつきにくいカーペットや、ストレッチのデニムジーンズや、スマートフォンのコネクターや、超吸収力の高い赤ん坊用おむつの説明書には載っていないかもしれないが、彼らはこれらのすべてを作っている。こうした画期的商品をこの世に送り出したのが、コーク・インダストリーズの市場ベースの経営(MBM。Market-Based Management)システムである。

 コーク・インダストリーズはMBMを世界中の事業で実践し、50年にわたって多くの分野で研究を行い、発見をしてきた。MBMが目指すものは「良い利益(Good Profit)」を生むことである。「良い利益」とは、顧客がお金を出しても使いたいと思う商品やサービスや、人々の生活を豊かにする商品やサービスから生まれるものだ。「良い利益」とは、社員が顧客の好みを気づくように社員一人ひとりが経営者の立場で行動する権限を与えられた文化から生まれ、また顧客を満足させる最高の方法から生まれるものだ。「良い利益」とは、長期的価値が顧客や社員や株主や社会のために創造されるとき、初めて生みだされるものなのである。

 本書では、およそ60年間にわたるビジネスを通じて、これまで語られることのなかった真実のストーリーをひも解きながら、コークのMBMの5つの要素を紹介していく。どのような規模の企業・業界・組織においても、より多くの良い利益を生みだすために、MBMのフレームワークをどう適用すればよいのかを示していく。

 MBMの5つの要素とは、以下のとおり。

  1. ビジョン 創業してもすぐにつぶれる会社が増えているなか、生き残り、繁栄していくためにはどうすればよいのか
  2. 美徳と才能 美徳と才能を持った社員を雇い、彼らを雇用し続ける
  3. 知識プロセス 知識を共有する環境を構築し、価値あるチャレンジを行った社員に対しては階級や役職にかかわらず報償を与える
  4. 意思決定権 肩書ではなく、貢献度に応じて社員に意思決定権を与える
  5. インセンティブ 社員が会社に対して生みだす価値に応じて報償を与えるというシステムを構築し、従業員の貢献度を最大化する
 本書は、リーダー、起業家、学生にとって、あるいはよりフェアで豊かな市民社会を作りたいと思っている人々にとっての必読の書である。史上最高の経営書の1冊であることに間違いなしだ。

著者紹介


Copyright(C)
Gavin Peters
チャールズ・G・コーク(Charles G. Koch)
1967年からコーク・インダストリーズの会長兼CEOで、『フォーブス』の米国長者番付け第4位。コーク・インダストリーズを米国で2番目に大きな非上場企業へと成長させた。コーク・インダストリーズの現在の企業価値は1000億ドル。コーク・インダストリーズとは、カンザス州ウィチタに本社を置き、1940年にウッド・リバー・オイル・アンド・リファイニング・カンパニーとして創業。世界60カ国で10万人を超える社員を抱え、そのうちの6万人は米国内勤務。2009年1月から、コーク・インダストリーズは安全、環境優良度、コミュニティーへの貢献、イノベーション、カスタマーサービスの分野で1000を超える賞を授与された。

目次

監修者まえがき

第1部
序章 ウィン・ウィンの哲学
第1章 輝かしい達成感――父からの教訓
第2章 フレッド亡き後のコーク――ぴったりと合った石を積み重ねる
第3章 女王と女子従業員とシュンペーター――創造的破壊がもたらす信じがたい(時として恐ろしいほどの)利益
第4章 官僚社会と景気停滞の克服――あなたを自由にする経済的概念
第5章 逆境から学ぶ――MBMの応用におけるコークの最大の過ち

第2部
第6章 ビジョン――未知なる未来への案内人
第7章 美徳と才能――まずは価値観より始めよ
第8章 知識プロセス――結果を出すために情報を使う
第9章 意思決定権――組織内における財産権
第10章 インセンティブ――正しい行いを促すための動機づけ

第3部 第11章 自生的秩序――市場ベースの経営の四つのケーススタディ
第12章 結論――押さえておきたい要点

謝辞

付録A
付録B
付録C


■本書への賛辞

「チャールズ・コークはアメリカをこよなく愛する真の愛国者で、生涯にわたる使命として、アメリカをできるかぎり強く自由な国にしたいと思っている。彼は、これまでアメリカを導いてきた経済的機会の原理は守る価値のあるものだと信じている人物だ。本書はそのやり方を教えてくれるものだ」――“パパ”・ジョン・シュナッター(米国ピザチェーン大手パパ・ジョンズのCEO)

「良い利益と悪い利益とは違う、とチャールズ・コークは言っているが、まったくもって彼の言うとおりだ。国際的なスーパーマーケットチェーンで働く人にとっても、中規模の地方の会社で働く人にとっても、起業した人にとっても、本書は良い利益を追求するための指南書となるものだ」――ジョン・マッケイ(ホール・フード・マーケットの共同創立者兼共同CEO)

「成功する会社を経営するための究極の“ハウツー本”だ。チャールズ・コークのアプローチは、非常に思慮深く包括的で、コーク・インダストリーズを米国で2番目に大きな私企業へと成長させた50年以上にわたる経験に根ざしている。彼はリーダーシップや経営モデルにおける価値が果たす役割を重視しているが、今日のビジネス環境においてこれは特に重要だ。会社を次なるレベルに引き上げたいと思っている人にとっての必読書だ」――リチャード・B・マイアーズ(元アメリカ空軍軍人、第15代アメリカ軍統合参謀本部議長)

「本書はアメリカで最も素晴らしいビジネスマンの精神と哲学を探究したものだ。本書では、実例、秘話、印象的な分析を通して、市場ベースの経営(MBM)がコーク・インダストリーズをしていかにして顧客と会社に対して真に持続可能な価値を生みだすことを可能にしてきたかが述べられている。彼は成功だけでなく失敗についても率直に述べている。社会の大義のためにこれらを隠すことなく白日の下にさらそうという意欲が感じられる」――レスリー・ラッド(起業家、ワイナリーのオーナー、ディーン・アンド・デルーカの元オーナー)

「本書はアメリカンドリームの好例を示すものであり、また成功した起業家が慈善活動に対して大金を提供しながら新しい仕事を創造するとき、われわれの国がどれほどの恩恵を受けるかを如実に示すものである。本書が描き出そうとしているのは、チャールズ・コークの成功の秘訣だけでない。彼が弟とともにアメリカで最も気前の良い慈善家になるために歩んできた道のりも描いている。“良い利益”を生みだすための彼らのレシピによって、彼らの会社は成長し、社員に報償金を与え、それでもなおかつ残った大金は重要な慈善活動グループとアメリカの自由を支える組織に投資している。これほど読む価値のある本があるだろうか」――チャールズ・R・シュワブ

「チャールズ・コークのことを書いた本はたくさんあるが、彼自身が書いた本はほとんどなかった。さあ、本書を読んで、彼が何を考え、世界最大の最も成功した会社をどう作り上げてきたのかを、彼から直接学ぼうではないか」――マイケル・L・ローマックス博士(ユナイテッド・ニグロ・カレッジ・ファンドの社長兼CEO)


監修者まえがき

 本書はコーク・インダストリーズのCEO(最高経営責任者)、チャールズ・コークによる“Good Profit : How Creating Value for Others Built One of the World's Most Successful Companies”の邦訳である。コーク・インダストリーズは非上場企業としてカーギルに次ぐ世界で二番目の大きさを誇り、チャールズと弟で副社長のデビッド・コークはともに、世界長者番付で一〇位以内に入る資産家である。チャールズは三二歳で父親から受け継いだ石油関連企業を、そのたぐいまれなリーダーシップと「市場ベースの経営(MBM)」と彼が呼ぶアプローチによって、一万倍の規模の大企業に育て上げた。その詳細と経緯を自ら明らかにしたのがこの本である。

 一般に、成功した経営者が書いた自伝的な読み物は、後付けの恣意的な解釈や都合の良い箇所だけを切り取った記述に終始したり、なかには本人ではなく代筆者が書いたのではないかと疑われるものもあるが、本書は明らかにそれらとは趣を異にしている。これを読めば、チャールズが強い意志を持った博学で聡明な人物であること、そして哲学と理念を有する経営者が専心すれば、企業は短期間でこれほどまでに成長できるという事実に驚かされることになる。

 さて、私たちが本書から学べることの一つにオペラント・リソースの重要性がある。タンジブルなオペランド・リソースであるヒト・モノ・カネはコストがかかり有限であるのに対し、情報や知識といったインタンジブルなリソースは、そのオペラント性ゆえに価値創造において無限のレバレッジ可能性を備える。一般的な認識とは違い、企業の業績は経営戦略の優劣のみによって決まるのではなく、固有の文化や組織の構造のような数字に表れない要素が生産性を大きく左右するのである。コーク・インダストリーズの興隆は、非上場企業であるゆえの合理的な意思決定や行動に原因の断片を求めることができるが、成功の真の理由は、科学的根拠に基づいたイノベーションによって創造的破壊を繰り返したことにある。本書が、企業経営にかかわるエグゼクティブ(およびその候補者)並びに経営学専攻の学究だけではなく、この社会の未来をより良いものに変えていこうとするすべての人々に読まれることを切に願うものである。

 翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。まず翻訳者の山下恵美子氏には、正確で分かりやすい訳出を行っていただいた。そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。

 2016年9月

長尾慎太郎


立ち読みコーナー(本テキストは再校時のものです)

第12章 結論――押さえておきたい要点

「正しい行いをすることで、自分も良くなれる」――ベンジャミン・フランクリンのレザー・エプロン・クラブのモットー

 私のビジネス哲学は次の言葉に集約することができる――良い利益は顧客のために価値を創造することでのみ得ることができる。つまり、起業家として顧客が価値を置くものを尊重するということである。

 一九七〇年代、ウィチタの経営会議でスターリン・バーナーがカンカンになって怒ったときの言葉の半分でも、本書で表現できていれば幸いだ。彼の爆発――正確に言えば、彼が爆発した理由――は当社では伝説になっている。

 私たちは原油集油ビジネスを見直すために会議をしていた。ある取引からはいつもより多くの利益を得られることが分かった。会議に出席していた数人の社員が、どうやって顧客の裏をかいたかを笑いながら話し始めたそのときだった。

 当時、コークの社長だったスターリンは激怒して言った。「やめたまえ! 君たちは何という的外れなことを言っているのだ! 私たちの顧客は私たちの友だちだ。彼らがいるからこそ、私たちはビジネスを続けていけるんじゃないか。友だちをからかうものではない。それは正しいことではない。もし私たちがそんなことを続ければ、友だちもいなくなり、ビジネスもなくなる。友だちを持ち、ビジネスを続けていきたければ、彼らを尊敬の念を持って扱い、信頼を築かなければならない」

 そのときに私が何を言っても、拍子抜けしたものになっただろう。私は彼を静かに称賛し、心のなかで拍手喝采を送りながら、黙っていた。「さあ、話を続けようじゃないか」と彼はいつものように、みんなが沈黙したときに言う言葉を発した。

 スターリンはこれを言うにふさわしい人物だった。彼は素晴らしい友情を築くためにありとあらゆることをしてきたからだ。彼はラバ飼いの吃音癖を持つ息子としてテキサスの油田地域でテント生活を始めたが、彼はコーク・インダストリーズの社長として引退し、亡くなるときは取締役会のメンバーであり、株主だった。彼はビジネス上の友人に深く感謝し、コークが彼らから得た良い利益に感謝した。そして、私はスターリンに深く感謝した。

 ビジネスを複雑に考える必要などない。コークは正直にオープンに活動し、顧客に対して低価格で最高のサービスを提供し、顧客はその取引によって利益を得ることができる。スターリンを激怒させたのはビジネスの詳細ではなく、尊重と感謝の念の欠如と、ビジネスを作ってきたのは、私たちが顧客のために価値を創造するために長年にわたって築いてきた能力というよりも、それを行ってきた人々の才能の結果であるという誤った考え方に対してであった。

 富は搾取によってのみ蓄積されると信じている人は、良い利益に対して極端な反応をする。しかし、良い利益を複雑に考える必要はない。良い利益とは、搾取によって手に入るものではなく、他人のために価値を創造することによって手に入るものなのである。

 良い利益は理念を持った起業家精神、つまり他人の生活が向上するのを手助けすることによって手に入るものなのである。良い利益は他人の幸福をそぐものではなく、顧客が価値を置くものを尊重し、互いに有益な自由意思による取引によって幸福を増大させるものである。こういった取引はゼロサムゲームではなく、ウィン・ウィンの関係を築くものである。

 「コーク・インダストリーズの価値とは何か」と聞く人がいるが、この種の質問は本当に重要なことを見逃している。重要なのは、コークは理念を持ったやり方で他人に価値を創造しているか、である。私たちの会社としてのメリット、そしてすべての会社にとってのメリットは、後者の質問に対する答えで決定されるべきである。

 社員が最良の知識を使ってイノベーションを起こし、良い意思決定を行い、そしてコークが顧客と社会のために優れた価値を創造するためのツールや哲学として市場ベースの経営(MBM)を使うようになった今、素晴らしい結果を達成でき、巨大な良い利益を得ることができるようになった。

 奇跡のさまたげになるもの

 MBM哲学の何十年にもわたる開発・適用を通じて、私たちはトーマス・エジソンに負けないくらい「うまくいかないもの」を発見してきた。MBMを作成する過程では、うまくいくものよりもうまくいかないもののほうがはるかに多かった。

 そうした苦境の一つは、MBMがホリスティック(総合的)なシステムであることを認識しない人がいたことである。MBMの真のパワーは、形式やその部分部分ではなく、根底にある哲学と統合的な適用である。MBMの概念だけあるいは手順だけを理解している人は、この点を誤解しているだけでなく、間違った適用をしてしまう傾向がある。

 このため、まずリーダーが結果を得るためにMBMを理解し総合的に適用しようと懸命に努力し、個人的な知識を増やしていく必要がある。こうして初めて、組織はMBMをうまく適用することができるのである。個人的な知識を増やしていくには、まず基本的な概念を理解することから始まる。そして、習慣や思考プロセスを変えていく。

 とは言っても、これは口で言うほど簡単ではない。人間の性質を考えると、リーダーや実践者の行動はその哲学に一致しないことが多い。この問題は、政府、宗教団体、非営利団体、ビジネスを含めどういったタイプの組織においても歴史を通して存在してきた。こうした問題は、不信感、実体よりも形式を重んじる、官僚制度、指揮統制、破壊的・利己的な行動といった結果を生んできた。MBMを適用しようという人々も例外ではない。

 もう一つの過ちは、MBMの一般原理を教え、有用なツール(モデル)を提供するのではなくて、既定の詳細なステップに沿ってMBMを適用しようとすることである。こうした誤った適用は、科学に基づく基準を設定したあとは、個人にそれに合うように良い方法を徐々に発見させていくのではなくて、ムダな規制を敷き、特定の方法を強要する政府と同じワナに私たちをはめてしまう。

 リーダーのなかには、私たちの哲学に逆らって、内部手順からの比較的害にならないような逸脱をコンプライアンス違反と同じように扱う者もいる。これは致命的な誤りだ。なぜなら、MBMが効果を発揮するのは、リーダーがMBMを厳格なルールではなくて理念として理解し適用するときだけだからである。彼らがMBMを理念として理解し適用するとき、MBMは組織内において官僚制度が自然成長するのを防止する役割を果たすのである。

 リーダーは多大な影響力を持ち認知度も高いため、不適切な人物が事業やサービスグループや現場のリーダーになっているとき、失敗は避けられない。コークでも、MBMの基本理念の模範とならないような人物をリーダーに据えたことで、大きな問題が発生したことがあった。

 企業が十分に具体的なビジョンを持たなかったり、その組織にとって受容される指針として十分に理解されるビジョンを持たなかったりした場合、また別の問題が発生する。適切なビジョンを構築するためには、リーダーは、多様な知識を持ち建設的な考え方ができ、顧客が何に価値を置くのかを理解し、優れた価値を構築するのに必要な能力を理解している内外の人々にそのビジョンに積極的に取り組ませなければならない。

 私たちのプロジェクト分析プロセス、すなわち意思決定フレームワークができるだけ簡単に、しかし簡単すぎないような方法で適用されるように設計されているのはこのためだ。残念ながら、意思決定フレームワークは時として面倒だったり複雑だったりするため、良いプロジェクトを妨げることもある。したがって、知識の収集や分析は非常に重要だが、正確で健全な意思決定をするのに必要なこと以上のことをするのはムダになり、機会を逃すことにもなりかねない。これは、リーダーが意思決定において不必要な作業を除外することで簡単に解決することができる。

 MBMが厳格な公式として、あるいは規範的なプロセスとして官僚的に適用されれば、それはMBMでなくなってしまう。このワナにはまらないようにするためには、MBMの最終ゴールは、社員が細かいことに異論を唱えてイノベーションを起こせるように、一般的なルールのみを設定することで自生的秩序を生みだすことであることを、私たちは常に心に留めておかなければならない。

 そのほかの間違った適用には、MBMを無意味なキャッチコピーにしてしまうことが挙げられる。あるいは、だれかがすでにやっていること、あるいはやりたいことを正当化するのに使ってしまえば最悪だ。また、経営陣によって提供される概念を、結果を改善するためのツールではなくて、「チャールズのための図」のように目的にしてしまうのもMBMのゆがんだ使い方だ。

 こうした落とし穴を避けてMBMを効果的に使うには、理解力と洞察力を持って、こうした誤った適用を早期に正すことのできるリーダーを選ぶように最大限の努力をしなければならない。

 MBMの基本と哲学に初めて接した人々は、言葉や用語や定義にとらわれてしまう嫌いがある。MBMを広範にわたって導入したあと、彼らの役割に特に関連する概念を理解する時間を与え、これらの概念を真の問題に適用させ、すみやかにフィードバックを与えることが重要だ。

 ほかの企業で経験を積んできた新入社員がMBMに初めて接したとき、彼らはMBMの概念にすぐに同意し、彼らの思考方法や行動がすでにMBMに一致していると拙速な結論を出すことが多い。これはMBMの習得と適用を遅らせる。彼らの成長を促すには、MBMが彼らのそれまでの経験とはまったく違うことを理解させることである。

 一番良いのは、やりながら学ぶことである。トレーニングは重要だ。しかし、それは始まりにすぎない。トレーニングは、試行錯誤を重ね、フィードバックを得ることで継続的に学ぶことに取って代わることはできない。実際の経験こそが、MBMの効果的な適用についての深い理解につながるのである。

 MBMを導入するときに避けるべき誤り

 私たちが買収した会社にMBMの経営を適用するに当たっては、多くの教訓を学んだ。ほかの企業はビジネス哲学も異なれば、経営方法も異なるため、MBMに切り替えさせることはコークの既存の企業を改善するよりも、はるかに難しい。

 企業を買収するとき、多くのギャップが存在し、改善の機会も多く存在する(私たちはその企業について多くを学ぶ必要があり、その社員をよく知る必要があるため、ギャップはさらに拡大する)ため、すべてを一気に修正しようとする傾向がある。これはリーダーたちに大きな負担を与える。

 何をするかも重要だが、優先順位を決めることもまた重要だ。あなたがあなたの組織――チームであれ、施設であれ、事業部門であれ、会社全体であれ――にMBMを適用するとき、三つのステップに沿って適用するとよい。三つのステップとは、数値化、単純化、優先順位を決める、である。

 まず最初に、すべての機会と直面している問題を洗い出し、価値の大きさによって数値化する。その次に、これらの数値を使ってリストの数を扱いやすい数にまで減らす。そして最後に、緊急性と価値の大きさに基づき、リストの項目の優先順位を決める。

 これが終わったら、次に述べる一般アプローチに従ってMBMを導入する。

 「MBMは本当に外部に導入できる経営システムなのか」とか「コークを成功に導いたのは本当にMBMなのか、それともコークの成功はCEO(最高経営責任者)によるものなのか」という疑問を抱く人々の疑問に応えることで本書を締めくくりたいと思う。

 こうした疑問を抱くのも当然だと思う。

 まず二番目の疑問だが、第11章のケーススタディで述べたような問題の解決には、私は一切かかわっていないことをはっきりと申し上げたい。私は成功したあとで姿を現し、その成功を称えただけである。本書の多くの例、特に第11章のケーススタディを見ると分かるように、MBMの成功は、アメリカ中西部の正直な住民のチャールズ・コークとは無関係である。コーク・インダストリーズの成功は莫大な遺産によるものではないのか、とかそのほかの間違った理論が飛び交っているが、こういった話は単なる噂話にすぎない。

 大会社の文化を変えるのは一人ではできない。多くの人が学習し、実験を積むことで可能になることである。理論と実践を統合することが不可欠である(これは私の母校であるMIT[マサチュ−セッツ工科大学]のモットー「心と手」の本質を表すもの。ラテン語では「Mens et manus」)。

 最初の疑問については、私は確かに私の学習や人生における経験、特定の知識に基づいてMBMを構築した人物の一人だが、私に言えることは、どういった企業のリーダーでも全力を尽くせばMBMを成功に導くことができるということだけである。私はこれまでいろいろな企業のいろいろなリーダーがMBMを成功に導く姿を何百回と見てきた。彼らがMBMを成功に導く姿を見ると、心から喜びを感じ、光栄に思う。

 私のところには毎日多くのメールが寄せられる(脅迫状もある。二〇一四年だけで一五三件の脅迫状が送られてきた)。元社員からコークで働く機会を得たことで人生が変わったという多くの手紙をもらった日は、私にとって最高の一日になる。仕事を充実させるには、そして意味のある人生を送るには何が必要なのかをコークで学ぶことができたと彼らは書いてくる。

 最も感動した手紙はウィチタのバッド・スノッドグラスからのものだった。彼は一九八〇年から一九九八年までコークで働き、主にコーク・リファイニングで販売とマーケティングに携わった。退職から一七年後、彼は次のように書いてきた。「あなたのマーケット哲学と顧客哲学を共有できたことを心から感謝しています。これはビジネスにおける私の考え方だけでなく……人生における考え方を形成するのに役立ちました」

 彼はあることを告白して手紙を締めくくった。「コークで初めて働き始めたころ、あなたは私に非常に大きなプラスの影響を与えました。それで私とスーは最初の息子にあなたの名前を付けました。このことは、あなたにもコークのだれにも話したことはありません」(バッド・スノッドグラスから著者への手紙。二〇一五年一月八日付)

 私の名前は、私の父に大きな機会を与え、懸命に働いて意味のある人生を送るために真の貢献をしてきた人物にちなんで付けられたものだ。そんな私のような人間にとって、子供に私の名前を付けてもらえるとは、これほど感動的なことはない。

 理念を持った起業家精神によって得た良い利益について考え続けている人に私が言いたいのは、どんな企業も「創造的破壊の永続する風」を弱めようとするのではなくて、他人のために真の価値を創造することによってのみ利益を得るべきだということである。

 私たちが資本を増やし、ビジネスを増強しようと努力している主な理由は、顧客、コミュニティー、社員、社会全体に対してより多くの貢献をするためである。

 私たちの情熱を見つけ追求する機会こそが、私たちが受け取ることのできる、あるいは後世に伝えることのできる最大の贈り物である。本当にリッチになるということは、意味のある人生を送ることである。これは私がまだ若いころに学んだことだ。私はこの遺産をみんなと共有したいと思っている。みんなが輝かしい達成感を経験する機会が持てることを心から祈っている。


参考文献


バフェット合衆国

株式投資で普通でない利益を得る

バフェットからの手紙

株式投資が富への道を導く

完全なる投資家の頭の中


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