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隠れた「新ナンバーワン銘柄」を見つける方法

隠れた「新ナンバーワン銘柄」を見つける方法
目からウロコの大化け株スクリーニング

2023年12月発売/四六判 288頁
ISBN978-4-7759-7322-6 C2033
定価 本体2,800円+税

著 者 マーティン・S・フリッドソン
監修者 長岡半太郎
訳 者 藤原玄

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目次 | 著者紹介

次なるテスラはこう探せ!

グロース投資家に新境地、バリュー投資家にブレイクスルー

来年の暴騰銘柄のスクリーニング法を伝授!

2012年から2021年までの期間で、S&P500でトップのパフォーマンスを示した銘柄の年間トータルリターンは80%から743%の範囲にあった。この並外れた富の増大の前では代表的な株価指数の平均リターンなどかすんでしまう。その華々しい上昇を始める前に、そのような暴騰する銘柄を見いだす手法を伝授しているのが本書である。

安全性分析(security analysis)に基づいて運用するファンドの最高投資責任者であり証券アナリストでもあるマーティン・S・フリッドソンは、本書の全体を通じて、超ハイリターンを生み出す銘柄を発掘するための実践的手法を、初心者でも分かるように書いている。圧巻は、比較的短期間に上昇する可能性が高い銘柄に焦点を当て、それらの最高のパフォーマンスを示した大化け銘柄の定量的・定性的特徴を列挙していることだろう。 また本書では、将来の指数のナンバーワン銘柄を見つけるうえで従来からある調査方法が役に立たない理由を書き、銘柄選択に関する重要な知見や付随するリスクだけでなく、実際に銘柄選択を通じて桁外れの利益を生み出すのに役に立つ戦略を知ることができる。

本書を読み込めば、価値や成長を測る伝統的な指標からの断絶が進む現在の株式市場を、投資家が理解する一助となることは請け合いである。

株式市場で最も儲かる銘柄を見つけるための興味深く、実践的なロードマップである本書は、伝統的な株式調査が見落としている部分を取り上げ、大化けしようとしている銘柄を見つけようとするときに参考にすべき重要な指標や定性的要素を明らかにしている。本書は、グロース投資家には新境地を、バリュー投資家にはブレイクスルーをもたらすことになるだろう。


著者紹介

マーティン・フリッドソン(Martin S. Fridson)
ファンダメンタルズの安全性分析(security analysis)に基づいて運用を行うレーマン・リビアン・フリッドソンの最高投資責任者。ニューヨークのCFA協会からベンジャミン・グレアム賞を授与され、ファイナンシャル・マネジメント・アソシエーション・インターナショナルからファイナンシャル・エグゼクティブ・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。フリッドソンはFRB(米連邦準備制度理事会)の顧問を務めるとともに、ニューヨーク市行政管理予算局の繰り延べ報酬担当ディレクターの特別補佐官を務めている。ハーバード大学とハーバード・ビジネス・スクール卒業。


本書への賛辞

「投資の聖杯を探し求める人たちや、知的好奇心からか大きなリスクをとりたいからかは分からないが、次なるグーグルやテスラのような暴騰する株を見つけようとする人たちにとって、極めて読みやすく、有益で、よく調査されている本書は、S&P500でナンバーワンとなる銘柄に共通する定量的・定性的な特徴を教えてくれ、伝統的なウォール街の調査に従っても、大化け銘柄にはたどり着かない理由を分かりやすく伝えてくれている。ストックピッカーであれ、インデックスファンドの投資家であれ、著者の見識とストーリーから学びさえすれば、読者の投資手法を改善する大いなる一助となるだろう」――ラリー・スウェドロー(『間違いだらけの投資法選び』『ファクター投資入門』[パンローリング]の著者)

「本書を通じて、マーティ・フリッドソンは再び一般に受け入れられてきた投資原理を叩き壊している。そして、経験的な証拠と常識を用いて、人々が思慮深く、より良いパフォーマンスにつながる投資判断を下す手助けをしている」――リチャード・バーンスタイン(リチャード・バーンスタイン・アドバイザーズCEO)

「マーティ・フリッドソンのこの『小さな』本は株式市場で『大きな』リターンを得るためのレシピだ。とりわけ過去20年あまりを席巻してきたパッシブ戦略を、アクティブな銘柄選択が徹底的にアウトパフォームする運命にある将来に役に立つ。経験豊富なプロであろうが、初心者であろうが、本書をグレアムとドッドが記したバリュー投資の古典の隣に並べるべきだ」――デビッド・ローゼンバーグ(ローゼンバーグ・リサーチ創業者兼会長)

「アナリストとして受賞歴もあるマーティ・フリッドソンが大きく飛躍し、最高のパフォーマンスを示す株式を見いだす方法を伝えている。真剣に取り組む投資家は必見だ」――コンスエロ・マック(コンスエロ・ウェルス・トラック・キャスター兼編集局長)

「博学なるマーティン・フリッドソンはわれわれ皆とその豊かさを共有してくれているのだ」――セオドア・R・アロンソン(AJOビスタ共同創業者)


目次

監修者まえがき

序文 セオドア・R・アロンソン
まえがき
謝辞

第1章 月並みな分析は忘れよう
第2章 これが彼らのストーリー
第3章 ニュース速報――五〇〇銘柄だけではない
第4章 ナンバーワン銘柄へのヒント
第5章 頂上への進撃を開始せよ

用語集


監修者まえがき

 本書は、レーマン・リビアン・フリッドソンの最高投資責任者であるマーティン・フリッドソンの著した“The Little Book of Picking Top Stocks : How to Spot Hidden Gems”の邦訳である。これは、多くの銘柄(例えばS&P五〇〇指数採用銘柄)のなかから、最も高いパフォーマンスを上げる銘柄を事前に見極める方法を解説したものである。

 第1章では、現在世界中で広く使われている会計基準(GAAP)が、元々クラッシックな製造業を前提として作られており、現在のサービス産業を中心とする成長性のある企業の実態を把握するには無理があること、また企業価値の評価基準としてのEPS(一株当たり利益)に妥当性がないこと、そしてアナリストのEPS予想が、企業の経営陣とのなれ合いの結果にすぎない茶番であることが述べられている。

 第2章、第3章では、ここ数年間で極めて高いリターンを上げた銘柄の特徴が解説されている。そして第4章では、そうしたナンバーワン銘柄を抽出するためのスクリーニング基準について論じている。著者らの調査によると、信頼に足る特徴量はボラティリティ、アナリストによるEPS予想のばらつき、債券格付け、および時価総額の四種である。ここで第1章が第4章の伏線であったことが分かる。市場関係者がEPSに無駄な関心を寄せていればいるほど、その予想が外れたときの反応はより大きくなるからだ。

 だが、どれだけ多くのデータを集めても、最上位の銘柄だけを正確に当てるのは神ならぬ身である人間には不可能なことである。しかし、実際のトレードではそれはほとんど問題とはならないだろう。なぜならS&P五〇〇のなかでここ数年間に最も高いパフォーマンスを示した銘柄の年間リターンは八〇〜七四三%と驚異的であり、この試みの正答率の低さはリターンの高さによって十分埋め合わせが効くからである。

 本書で示された四つの基準(もしくはその代理変数)は、どれもオンライン証券会社や株式ポータルサイトが提供するスクリーニングツールで利用可能なものばかりである。読者は、著者が示したスクリーニング基準を使って、潜在的な高パフォーマンス銘柄を容易に絞り込むことができるだろう。

 2023年11月

長岡半太郎


■序文  セオドア・R・アロンソン

 マーティン・フリッドソンは、ウォール街には珍しい教養あふれる人物だ。

 彼は優秀な投資家であり、歴史家(資本市場に限らない)であり、音楽の愛好家である。彼は優れたウイットの持ち主で、とりわけしゃれが効いている。また、私をはじめとする多くの者たちのインスピレーションの源ともなっている。

 われわれのキャリアはほとんど重なり合っている。軌道はすぐに離れてしまうのだが、数十年の間に忘れられない交わりが何回かあった。私はドレクセル・バーナムで、マーティーはミッチェル・ハッティンズでキャリアをスタートさせた。私は株式の道を進んだが、マーティーは債券に取り組んだ。私はすぐに起業したが、マーティーは数多くの一流企業を渡り歩いた。私はかつて「ウォール街のクリッピングサービス」と呼ばれたが、マーティーは「ハイイールド市場の司祭」となった。われわれは数十年前にCFAインスティテュート(旧AIMR)での仕事を通じて友人となった。

 CFAインスティテュートからファイナンシャル・アナリスツ・ジャーナルに至るまで、マーティーの投資業界に対する貢献は大きなものがある。多くの書き手たちが、エンタープライジング・インベスター・ブログのレビュアーという役割を担うマーティーにビクビクしながら暮らしている。特に、彼の最終段落におびえているのだが、それはマーティーが彼らの文章に見いだした誤り――事実、言葉、歴史的文脈……うわぁ――を明らかにしてしまうからだ。だが、彼らが苦情を言うことはない。彼らはマーティーが数多くの重要な出版物の著者兼編集者であり、批評するだけ資格があることを知っているのだ(ピーター・バーンスタインやジャック・ボーグルのような人物までが彼の指摘に感謝したことは驚きだ)。

 マーティーが書く文章は、話題に関係なく教養がにじみ出ている。彼の投資テーマには常に市場の歴史から得られた豊富な教訓が付随する。読み手にとっては付加的なメリットなのだが、音楽に対する深い愛情を持ち、妻であるエレーン・シスマンがコロンビア大学の音楽教授として行う集中訓練を受ける彼は、どうしても音楽を引き合いに出してしまう。

 だが結局は、マーティーは投資家として筆を進める。レーマン・リビアン・フリッドソン・アドバイザーズの最高投資責任者である彼は自らの投資アプローチを「クオンタメンタル」と説明している。初心者にとって、クオンタメンタリストとはウォール街の聖杯だ。つまり、数字を理解し、それをファンダメンタルズ分析と結びつける者である。マーティーが読者に伝えようとしているのは数字にとどまらない。彼は経験豊富な証券アナリストとしての知見と債券投資家としての計算面での厳格さとを組み合わせている。彼の優れた秘術を説明する最良の書が『ファイナンシャル・ステートメント・アナリシス(Financial Statement Analysis : A Practitioner's Guide)』の第五版だ。

 ハイイールド市場の司祭による最新の力作はそのタイトルに驚くかもしれないが、『The Little Book of Picking Top Stocks』とは「ナンバーワン銘柄を選び出せ」だ。実際に、マーティーのようなハイイールド債の投資家にはファンダメンタルズ分析と複雑な計算を行う経験という強みがあるので、定性面と定量面で重要な知見を示すことができる。本書のタイトルを見ると過去に読んだほかの投資本を思い出すかもしれないが、本書は洞察力に富み、有益で、刺激的であり、さらには正しいという利点を持つ唯一無二の一冊だ。

 投資家としての私のキャリアはマーティーと交わることでより良いものとなっている。投資家として、そして生涯を通じて市場を学ぶ者として、私は彼の文章の豊かさのおかげで、いっそう幸せなのだ。本書において、博学なるマーティン・フリッドソンはわれわれ皆とその豊かさを共有してくれているのだ。

AJOビスタ共同創業者兼CFAインスティテュート元会長


■まえがき

 心の準備はよいだろうか。皆さんはこれからまったく新しい角度から株式市場を見ることになる。本書では、S&P五〇〇を構成する銘柄のうち一年で最も優れたパフォーマンスを上げる株式を探し出すことに焦点を当てる。本書で検証している期間において、そのような銘柄が生み出した一年間のトータルリターンには八〇%から七四三%の幅がある。

 標準的な投資手法については何回も目にしてきたことだろう。金融機関や個々のウエルスアドバイザーたちが提示する投資テーマはよく知られたものだ。つまり、「長期に目を向けよ。分散せよ。健全な利益を上げ、実績ある経営陣がいるクオリティーの高い企業に専念せよ」。これらは賢明なアドバイスで、将来の安定した財政状態を望むのであれば耳を傾ける価値はある。

 だが、現実に目を向けてみよう。このような慎重な原則ではおよそ説明できないような行動を取っている投資家たちがいる。巨万の富を求めて株式を買う人々が少なからず存在する。現在から四〇年後の引退までの間の話ではなく、今すぐ大金を手にしようとしているのだ。彼らは「シングルヒットをたくさん打つ」ことにまったく関心がない。彼らは今すぐに試合を決めるようなグランドスラムを狙ってスイングしているのだ。

 二〇二一年、いっときの満足を求める投資スタイルがビジネス雑誌などで大きく取り上げられた。新たな市場参加者の群れはミーム株に夢中になった。ソーシャルメディアで大いにバズッたいくつかの企業の株式は月まで上昇した。そして、最後には元に戻ったケースもある。

 ミーム株のファンたちは自分たちの老後の資金やまだ見ない子供たちの大学の学費を賄うことを考えていたわけではない。彼らの「ストンク」ピッキングにファンダメンタルズ分析は無用だった。これら無謀なばくち打ちのなかには、自らが資金を投じている企業についてまったく何も知らないことを自慢する者さえいた。また、彼らはリスクの分散などちっとも気にしていなかった。あるインフルエンサーは次のようにアドバイスした。「YOLO(人生は一度きり)のトレードを決めるときは、ポートフォリオの九八%から一〇〇%をそれに投じるべきだ」

 大勝ちする一つの銘柄を求めることは新しい考えではない。過去数世紀におけるすべての市場のブームにおいて、それまで株価にほとんど注意を払っていなかった人々が一獲千金に魅了された。ニュース報道では当然のことだが、一〇〇〇%上昇した銘柄に関する報道は、五〇%上昇した指数に関する報道よりも多くの注目を集める。そのような報道に基づいて、多くの初心な投資家は自分たちのわずかばかりの蓄えのすべてを次に急騰するかもしれない企業に投じることで、大金を得ることができると結論する。唯一の残った問題は、そのような企業をどのように見つけるかということである。

 このような考え方は、過去に数え切れないほどの暴騰した株が突如暴落したことを見てきた長期的な投資家にとってはあきれるほどナイーブなものに思える。だが、永続的に大きな利益をもたらす企業もあるだろうと考えることはもっともなことだけでなく、ほとんど不可避でもある。素晴らしい技術的なブレイクスルーがそれを商業化することに成功した企業に天文学的な利益成長の可能性をもたらすことがある。

 先人たちにとって、「次なるゼロックスを見つける」ことはわずかな資金と有閑階級に加わる夢を持った労働者たちの憧れだった。ゼロックスのコピー機は事務仕事に革命をもたらした。ゼロックスの株価はNYSE(ニューヨーク証券取引所)に上場していた一九六一年半ばから一九六五年半ばまでに一五倍にもなった。だが、そのような上昇でさえも、NYSEに上場する以前の株価上昇の前ではかすんでしまう。史上最安値となった一九四九年から一九九九年の高値までを合計すると、ゼロックスの株価は四五〇〇倍に上昇したのだ。

 その後も、多くのスーパースター銘柄が登場している。取引で巨額の利益を得るために必ずしも忍耐は必要なかった。例えば、シスコ株は一九九一年に一九五%上昇した。一九九九年、オラクルの株価は二八九%も上昇した。一九九八年、アマゾン株は驚くべきことに九六七%も上昇した。

 短期間でのセンセーショナルな株価上昇はハイテクセクターに限ったことではなかった。トラクターサプライは二〇〇一年に三〇一%急騰した。三年後、モンスタービバレッジは一年で三三二%上昇した。

 私は毎月の給料から五〇ドルを株式投資に充てるようになったとき、このような華々しい一発勝負に賭けようとは思っていなかった。ビジネススクールで受けた教育、トレーダーとして受けた訓練、そしてCFA(認定証券アナリスト)の資格を得るための勉強のすべてが、数多くのさまざまな銘柄を綿密に調査することでほどほどの利益を安定的に生み出すことを強調していた。

 その後、一九八三年ごろに私はより大胆な方法に関する洞察を得た。当時、私は同窓会の企画担当の副会長を務めていた。私は、ある財務アドバイザーによるプレゼンテーションを予定していたのだが、彼は長期的に我慢強く純資産を築くための周到な計画を提示した。主たる要素は、コツコツとお金を貯めること、ドルコスト平均法を用いること、バランス型ポートフォリオを組むことで毎年の回転率を抑えること、そしてインカムゲインとキャピタルゲイン課税を意識することだった。

 プレゼンテーションが終わると、一人の同窓会メンバーが軽蔑するかのように言い放った。彼は「それじゃ、ライフスタイルを変えられないじゃないか」と嘲笑ったのだ。彼が、参加者たちはより投機的な未公開株に投資すべきだと言っていることが私にははっきり分かった。偶然にも、彼はそのような取引を職業としていたのだ。

 私の講師選定に対する散々な評価も、私が投資手法を抜本的に変えるきっかけとはならなかった。個人的な投資でも、そして後にプロのファンドマネジャーとしても、私は伝統的な原則に頼り続けていた。つまり、成長する世界経済の一部分を保有することで長期にわたり富を築く、というものだ。

 証拠は明白だ。市場のタイミングを計るという幻想を回避し、流行から遠ざかることで、老後の資金を蓄えることは可能である。その資金がどのくらい大きなものになるかは、来る年も来る年もどれだけの収入を蓄えに回し、投資するかにおおよそ依存する。抜け目なく銘柄を選択することで、市場平均よりも高い比率でその富を増大させるとしたら、なおのこと結構だ。

 だが、ライフスタイルを変えられるほどの大儲けをするという私の同窓生のコンセプトは重要な問題を提起していた。つまり、証券会社や運用会社の広告に描かれている投資に熱心な中流階級の夫婦は一般投資家のほんの一部でしかないということだ。五〇〇〇万ドルの住宅や五〇万ドルの自動車を夢見る人はほんの少数にすぎない。よろしければ、今すぐに。そのような投機家たちの希望は、市場が絶頂の極みから後退するたびに粉々に砕け散る。次なる急騰が起こると、同じ一獲千金の夢を追いかける次なる世代の新参者たちが登場する。そして前回やけどを負った者でさえ、今度はうまくいくだろうと確信するのだ。

 これは、一九九〇年代のドットコム騒ぎのような市場の熱狂を超えて広がる人間の行動の一側面である。二〇〇〇年代に住宅価格が急騰すると、持ち家の夢はあっという間に少額を運用して住宅用不動産という富を築こうとするものへと姿を変えた。もしこれが競馬のオッズメーカーを打ち負かす「システム」を採用することで億万長者になるのと同じくらい実現可能なものと思えるならば、偶然ではない。

 「プレーイング・ザ・マーケット(playing the market)」という広く知られた言葉について考えてみほしい。これは公共の福祉の守り人を自ら任ずる者たちが「投資のゲーミフィケーション」を非難し始めるはるか以前から存在したのだ。ポートフォリオのすべてを一つの銘柄に集中させ、それで大金を稼いでライフスタイルを変えられると期待するのは、すべてのチップをルーレットの一つのナンバーに賭けることと大して違いはない。一九九九年にFRB(米連邦準備制度理事会)議長のアラン・グリーンスパンが大人気のインターネット銘柄を買うことを宝くじで一等が当たるのを期待することになぞらえたのも当然である。

 一方、カジノでギャンブルをする人たちのすべてが老後の蓄えを危険にさらすわけではない。多くの者たちがブラックジャックを楽しんだり、何時間もスロットマシンにお金を流し込んだりするのは娯楽だと分かっている。彼らはそうすることでおそらくは数百ドルを失うことになると自覚しているが、運に恵まれる可能性も常に存在する。

 要は、金融論の教科書が総じて仮定しているように、すべての者たちが真にリスク回避的であるわけではない。リスクをとることに心理的喜びを得る者もいる。知的難問が関係していれば、とりわけ魅力的だ。財政的なリスクについて言えば、スリルの追及を害のない行動に向ける方法を見いだすことが問題となる。この文脈での「害のない」とは「最悪のケースでも、何か別の形の興奮に費やされる以上の負担を強いられることはない」という意味だ。

 権威あるウォートンスクールのファイナンスの名誉教授ジェレミー・シーゲルはミーム株についてこう述べている。「私はいつも若い人々に提案しているのだが、ポートフォリオの一〇%または一五%を使ってそのようなゲームを楽しみたいなら、それも良かろう。だが、残りの八五%は長期のインデックスファンドに投じておきなさい、と」。私の判断では、一〇%または一五%は投機の衝動を満足させるために必要な割合よりもはるかに大きい。残りの九八〜九九%を投じる対象としてインデックスファンドが唯一信頼できる選択肢でもない。だが、シーゲルのコメントは、投資家は多くのファイナンスの研究が描き出しているような計算能力を持った無感情のロボットではないという現実を認めている。

 完璧だと思われる株式市場を出し抜くことはあり得ないことを説明するためにわが国の大学がどれほど多くの研究を発表しようとも、後にクソであることが判明するかもしれない株式との逢瀬を楽しもうとする投資家は存在する。彼らが賢明であれば、そのアイデアに全財産を賭けようとする衝動を抑えつけることだろう。次に問題となるのが、そのようなキラー銘柄を見いだすにはどうすれば良いか、である。

 ウォール街のリサーチに満足いく答えを見いだすことはない。確かに、それらのリポートを書いているアナリストたちは概して極めて優秀だ。彼らはフォローしている業界に精通している。しかし、彼らはそのIQと知識をどのような目的に使っているのだろうか。

 彼らの主たる仕事は機関投資家である顧客たちが市場平均に打ち勝つ手助けをすることだ。それらファンドマネジャーたちは市場に大勝ちする必要はない。毎年全体の上位五〇%に入る成績を安定的に収めるファンドマネジャーは最終的には上位二五%に入ることになるだろう。このような安定的なアウトパフォーマンスは、年金基金、寄付基金、富裕層、投資信託の顧客たちからの追加の運用資金を引きつけることになる。より多くの運用資金が集まれば、手数料収入も増えることになる。

 このようなシステムのなかで競争している組織は自らの事業を、成層圏まで上昇するかもしれないが、暴落する可能性もある一つの銘柄のリスクにさらすことはない。プロのファンドマネジャーたちは、ウォール街のアナリストが一つの銘柄を「マーケットパフォーム」から「アウトパフォーム」に引き上げたり、株価目標を一〇%引き上げたりすると活気づくのだ。彼らは「すべての株の王」といった推奨を探しているのではない。彼らは非常に多くの銘柄にリスクを分散する。それら銘柄のリターンが平均してインデックスのリターンを上回るようになれば理想的だ。だが、彼らは、市場に追い付くために何年もかかってしまうような穴にはまり込んでしまうことは是が非でも避ける必要がある。

 そのため、ナンバーワン銘柄に狙いを定めているならば、月並みな調査リポートは限られた、専門的な形でしか役に立たないだろう。それはすでにナンバーワンの候補として見いだしている企業の内実を知る一助にはなるだろう。調査リポートの深掘りを始める前に行う最初のステップは、過去に最も優れたパフォーマンスを上げた銘柄に最も似ている銘柄を探し出すことだ。これは株式分析における優先事項ではないが、本書の第一の関心事である。

 誤解のないように記すと、本書はそれを望んでいない読者にホームランを狙うよう後押しすることを目的とはしていない。私は語っているのであり、売り込んでいるのではない。だが、優良株について学ぶことで、市場のダイナミズムに対する理解を深め、より良い投資家となれるだろう。

 実際に、投資クラブに所属していたり、友人と株式について語り合うことを楽しんでいたりするだけだとしたら、試してほしいアイデアがある。毎年終盤を迎えるにあたり、皆に翌年最良のパフォーマンスを上げると期待されるS&P五〇〇の構成銘柄を挙げさせる。そして全員で数ドルずつを積み立て、優勝者は商品券を受け取るか素敵なレストランでのディナーに招待されるようにする。参加者たちは望むのであれば候補に挙げた銘柄を数株買うこともできる。

 過去の経験から判断すると、選んだ銘柄がその年の五番目となっても、さらには五〇番目となっても、かなりの成功を得られる。だが、最大の利益は調査をすることから得られるだろう。本書で学ぶことに基づき、体系的に取り組むことで、しっかりした判断に基づいた収益性のあるポートフォリオを構築するという、より重要な目的を達成するために必要なスキルを磨けることだろう。

攻撃計画

 経験豊富な釣り人が教えるように、魚を捕まえたいと思うならば、魚がいるところに行かなければならない。翌年のナンバーワンを見いだすことが目的ならば、これまでに最高のトータルリターンをもたらした銘柄とは似つかない銘柄に時間を浪費してはならない。そのための秘訣は、できるかぎり多くの銘柄を検討対象から除外することだ。候補となる銘柄のリストを絞ったからといって、最終的な勝者を選択できるとは限らないが、自らのオッズを大幅に改善することにはなるだろう。

 まずは、株式市場で四五〇キロのカジキマグロを釣り上げようとする場合に、主に従来の株式調査に頼ることの落とし穴を説明しよう。それから、過去のナンバーワン銘柄のストーリーについて説明する。次に、小魚とサメを区別する一助となるいくつかの定量的なスクリーニング方法について説明する。また、一見論理的に思えるが、横道に逸れるばかりとなる銘柄選択のテクニックを撃破しよう。そして、過去のナンバーワン銘柄に見られる定性的な特徴を取り上げる。主に表P−1に挙げた銘柄に焦点を当てるが、特に過去五年のナンバーワン銘柄に注目する。この骨の折れる作業の結果として、毎年ナンバーワン銘柄を間違いなく選択できるシンプルな定量的な公式が得られるのではない。そのような公式が見つかるのであれば、すべての投資家が利用することだろう。彼らは当該銘柄に殺到することで、平凡の上昇余地しか残らない水準にまで年初の株価をつり上げてしまうだろう。だが、さまざまな定量的要件と市場のリーダーに共通する定性的な要素を適用することで、たいていは最も大きな魚が見つかり、えりすぐりの場所で釣りをすることになるだろう。

 「定性的な要素」を曖昧で、つかみどころのない特徴と解釈しないでほしい。先日、世界でも最高ランクのビジネススクールの一校でテクノロジーとイノベーションの教授を務める人物が自らの目にとまった企業について私に語ってくれた。それは大成功する可能性がある企業を見いだすために彼が注意深く定義した要件のすべてを満たしていたという。私はその株を買ったが、その銘柄はその年にS&P五〇〇のナンバーワン銘柄となっただけでなく、本書が取り上げた一〇年間のナンバーワン銘柄のなかでも最高のパフォーマンスを上げた。その企業はテスラで、二〇二〇年に株価は七四三%上昇した。

 ナンバーワン銘柄を見つけようとするときに、この手の利益のランキングに頼るべきではない。すでに記したとおり、引退生活が送れるようになるほどの利益を一二カ月の間に生み出すことを期待して、たった一つの銘柄に自らの財産の大部分をつぎ込むことは良い考えではない。だが、でたらめに銘柄を選ぶ必要もなければ、奇跡を期待する必要もない。ナンバーワン銘柄を見いだすことに興味をそそられるならば、周到かつ実績ある方法で取り組むことができる。その方法を学ぶために本書を読み進めてほしい。

 マーティン・フリッドソンはテスラ株を保有している。本書で評される意見は言及された銘柄の推奨、または将来のパフォーマンスに関する意見と解釈すべきではない。本書で評される意見は筆者のものであり、レーマン・リビアン・フリッドソン・アドバイザーズの見解を代表するものではない。

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