著 者 トレン・グリフィン
監修者 長尾慎太郎
訳 者 井田京子
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「仕事と人生に役立つ良書」を1日1冊厳選する「ビジネスブックマラソン」2016年2月16日配信号に、旧題『完全なる投資家の頭の中』が紹介されました。(掲載記事)
バークシャー・ハサウェイの洞察力に満ちた副会長であり、ウォーレン・バフェットの無二のパートナーであるチャーリー・マンガーは、これまで何回もマーケットを上回るパフォーマンスを上げてきた。しかし、彼はそれが投資家ならだれにでもできることだと考えている。彼の手法の基となっているのは独自の「基本的な智慧」(経済学、ビジネス、心理学、倫理学、経営学などにかかわる一連の学際的なメンタルモデル)で、これによって彼は投資から感情を排し、誤った判断を招きかねないよくある「落とし穴」を避けているのだ。
マンガーのシステムは、40年以上にわたって彼の投資の指針となってきただけでなく、たくさんの投資家を成功に導いてきた。本書は、マンガーへのインタビュー、彼の講演、文章、投資家への手紙、そして、たくさんのファンドマネジャーやバリュー投資家やビジネス事例史家の話から抽出した要素を再構築して、マンガーの投資戦略に不可欠なステップを明かした初めての試みである。ベンジャミン・グレアムのバリュー投資システムから派生したマンガーの手法は非常に明快で、普通の投資家でもすぐに自分のポートフォリオに応用できる。しかし、本書はただの投資本ではない。これはあなたの人生を助けるメンタルモデルを育んでいくための教えでもあるのだ。
本書は、2016年2月に出版された『完全なる投資家の頭の中――マンガーとバフェットの議事録』の新装版です。
マイクロソフト勤務。前職はイーグル・リバーのパートナー。イーグル・リバーはクレイグ・マッコウが所有する未公開株式投資会社で、マッコウ・セリュラー、ネクステル、ネクステル・パートナーズ、XOコミュニケーションズ、テレデシック、そしてたくさんのベンチャー企業など、電気通信会社やソフトウェア会社に投資している。それ以前は、ビジネスコンサルタントとして、韓国とオーストラリアで5年間働いた経験もある。彼は、ブログ(http://25iq.com/)で投資やそれ以外の話題を公開している。著作に『ザ・グローバル・ネゴシエーター』『コリア――ザ・タイガー・エコノミー』『タイワン・エコノミー』『アー・モー・インディアン・レジェンド・フロム・ザ・ノースウエスト』『モア・アー・モー』などがある。
「マンガーの人生は、人間関係から高額な金融取引まで、現実を直視するということに尽きる。著者は、マンガーがみんなが不可能だと思うことに『可能性』を見いだす方法を紹介している。きれいな魚が泳いでいる川で、どうすれば川藻に目を向けることができるのかということだ」
――ジャネット・ロウ(『投資参謀マンガー』の著者)
「チャーリー・マンガーは、世界最高の投資家と言ってよいだろう。彼の『智慧』は、素晴らしい投資結果を上げるための強力な方法になっている。それがなければ、マーケットでも、それ以外でも、成功は一時的なものでしかない」
――ロバート・ハグストローム(『株で富を築くバフェットの法則』の著者)
「歴史上最高の投資家が、この分野に関して最も多くの文章を残している思想家のひとりだとしたらどうだろうか。そして、もしその人の洞察にあふれた言葉を、その教えと逸話と成功の処方箋と合わせて1冊にまとめた本があるとしたらどうだろうか。その本がようやく完成したことをうれしく思う」
――ジョシュア・M・ブラウン(リソルツ・ウエルス・マネジメントCEO)
「チャーリー・マンガーは、当代きっての思想家のひとりだ。彼の智慧と、著者の思考を統合する能力が合わさった本書は、本物の智慧のたまものと言ってよい」
――モーガン・ハウセル(『サイコロジー・オブ・マネー』の著者)
「ウォーレン・バフェットのビジネスパートナーに関する本の決定版」
――ベン・カールソン(『ウエルス・オブ・コモン・センス』の著者)
はじめに
第1章 グレアム式バリュー投資システムの基礎
第2章 グレアム式バリュー投資システムの原則
第3章 智慧
第4章 間違いを犯す心理
第5章 必要不可欠な資質
第6章 グレアム式バリュー投資システムの八つの変数
第7章 会社経営において必要不可欠な資質
バークシャーの計算方法
堀
バリュー投資とファクター投資
用語解説
参考文献
本書はトレン・グリフィンの著した“Charlie Munger : The Complete Investor”の邦訳である。バークシャー・ハサウェイの副会長であるチャーリー・マンガーについては、『投資参謀マンガー――世界一の投資家バフェットを陰で支えた男』(パンローリング)がすでに出版されているが、本書の特徴は、金融市場の投資行動をシステムとしてとらえ、それをマンガーのメンタルモデルを通して解説していることにある。
一般に、金融市場での資産運用における高度な専門的知識を身につけるためには、エキスパートが所属するコミュニティに加わって正統的周辺参加を行うか、成功事例を研究し模倣する社会的学習を行うしかない。なぜなら、金融市場の動きはそのほとんどがランダムであるがゆえに、私たちは自身の経験から解を導き出し帰納的に学習することができないからである。したがって、私たちが優れたオペレーターたりうるか否かは、金融市場を理解する適切なメンタルモデル(認知的暗黙知)を持つことと、投資行動をシステムとして怜悧に実行できる技術を暗黙的に知ることにすべてがかかっている。
ところで、私たちは論文や書籍を読むことで、形式知化された知識を吸収し体系化することはできる。だが、残念ながらその方法では機械に勝つことはできない。昨今の演算速度増大を鑑みれば、資産運用の世界においても、因果律と要素還元の分野ではあと数年かからずして、人工知能(artificial intelligence)は人間を凌駕するだろう。磁気化できるデータの分析と並列処理によって達成できるインテリジェンスに関するかぎり、私たち人間にはとても勝ち目はない。
だが、認知的、もしくは技術的暗黙知の世界では話は変わってくる。それはマシンには手の届かない世界であり、私たちにとって残された勝機はそこにしかない。バフェットやマンガーら少数の人間のみがグレアムやフィッシャーのメンタルモデルを理解したように、通常は、優れたメンタルモデルはごく限られた学習者しか習得できないものであるが、私たちはバフェットやマンガーのメンタルモデルを容易に学ぶことができる。本書の存在がそれを可能ならしめたからである。
翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。翻訳者の井田京子氏は分かりやすい翻訳を、そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
2016年1月
長尾慎太郎
マンガーの厳選した言葉で核心を突く能力と、自立的な思考を好む姿勢は伝説となっている。その一方で、多くの人が投資の判断を自分で下さない(周りに流される)、という基本的かつ重要な真実がある。これは、自立的な思考ができる人が感情を抑制し、心理的な間違いを避けられるので、投資家として有利だということなのである。バフェットはかつて、マンガーの自立的な思考について次のようなエピソードを語っている。
残念ながら、同社と投資銀行の契約には、投資銀行が売却先を見つけても見つけなくても、売却時に250万ドルの手数料を支払うことになっていました。主幹事銀行は、手数料の対価として何かすべきだと思ったらしく、スコット・フェッツアーに関して用意した資料を提供してくれました。
これに対して、チャーリーは彼らしくこう言いました。
「それを『読まない』ことに250万ドルを支払うよ」
――ウォーレン・バフェット(2000年の「1999年版株主への手紙」)
このようなエピソードや、マンガーのさまざまな場面でのウイットの利いた発言を知ったことが、本書執筆の大きな動機となった。彼の面白さは、一言で言えば、何にも束縛されない人物だということだと思う。彼は、気配りをしたり社会の慣習にとらわれたりすることなく、思ったことをそのまま口にする。この率直さは貴重である。王様が裸だということを、だれかが言わなければならないこともあるからだ。マンガーはかつて、自分は株の投資によって素晴らしい成果と富を得たが、みんなが彼の人生をまねるべきではないと言っている。彼は、教養を高めることに入れ込みすぎたと感じており、それをやみくもにまねれば、特異な性格(不遜な態度を含む)が嫌われることになりかねないからだ。
マンガーは、自ら批判を招くこともある避雷針であることを自覚している。彼はかつて、「私は思いあがった奴として名を残すかもしれない」が、パートナーのウォーレン・バフェットは師として語り継がれるだろうと言っている。チャーリー・マンガーについては、よく分らないと言う人もいるが、それは大事なことを見落としている。だれもウォーレン・バフェットにはなれないように、だれもチャーリー・マンガーにはなれないのである。これはだれかをヒーローとしてあがめようとしているのではなく、マンガーが彼の憧れのベンジャミン・フランクリンをまねたいと思っているように、私たちもマンガーの資質や特性や体系や人生に対する取り組み方を、それが部分的にであってもまねできないかということなのである。この試みは、マンガーが何百冊もの伝記を読んでいることにも通じるところがある。他人の成功や失敗から学ぶことは、大きな痛みを被らなくても、より利口で賢くなるための最速の方法なのである。
マンガーは、不遜なところがあっても、比類ない師であることは間違いない。彼はかつてこう言っている。
――チャーリー・マンガー(2010年のバークシャー・ハサウェイ株主総会)
マンガーの何がそれほど興味深いのだろうか。それは、彼の「私は、何がうまくいき、何がうまくいかないのか、その理由を探っています」という単純な言葉に凝縮されている。マンガーは、だれの人生にでも起こることについて、なぜそれが起こったのかを深く考え、その経験から熱心に学ぼうとする。
バフェットと同様、マンガーもネブラスカ州オマハで生まれ育った。ミシガン大学に進学し、数学を学んでいたが、第二次世界大戦で中断を余儀なくされた。戦争中は米軍で気象学者として働き、カリフォルニア工科大学でその訓練を受けた。終戦後、マンガーは学士号を修得しないままハーバード法科大学院に入学を許された。法科大学院を卒業すると、カリフォルニア工科大学時代に気に入ったカリフォルニア州で、仲間とともに法律事務所を設立した。この事務所は現在ではアメリカ有数の法律事務所になっている。マンガーは、法律家として成功していたが、バフェットの要請を受けると法律家としての実務をやめ、フルタイムで投資家として働き始めた。ちなみに、バフェットとマンガーが知り合ったのは、マンガーがカリフォルニア州パサデナに住み始めてからのことだ。1962〜1975にかけて、マンガーは複数の投資家の資金を集めてパートナーシップの形態で運用し、年率20%近いリターンを上げていた(同時期のダウ平均のリターンは5%にも満たなかった)。彼は高級車を買い集めたり、豪邸に住んだりはしていない。億万長者であっても、アイデアや投資に関することを除けば、普段はいたって普通の生活を送っているのだ。
マンガーはこれまで数多くの講演を行い、エッセーを書き、ウェスコ・ファイナンシャルやバークシャー・ハサウェイの株主総会ではたくさんの株主を楽しませてきたが、彼の考えがいわゆる統一理論の下で紹介されたことはまだない。理由はおそらく彼の頭が普通の人の知性をはるかに上回っているからだろう。頭のなかでいくつかの思考を同時に行うこと(彼はこれを「多重モデル」と呼んでいる)は、それぞれの思考に理解可能な枠組みを持っていなければできないため、普通の人にとっては簡単なことではない。そこで、本書では、チャーリー・マンガーのような思考ができるようになる方法を紹介していこうと思う。
ところで、私はどのようにしてマンガーのアイデアにたどりついたのだろうか。本書の始まりは、ITバブル崩壊直前の時期までさかのぼる。この時期、投資におけるさまざまな前提が疑問視されるようになっていた。ITバブルの間に創造された富は、これを注視していた人にとって、現実のこととは思えなかった。マーク・アンドリーセンがバブルのさなかにつぶやいたツイッターがこの感じをうまく表現している。「ほとんどの人が、乗り遅れたくなくてパニックを起こしている」。このときに起こっていたことは、明らかにおかしかったが、ほとんどの人が「もし本物だったらどうしよう。もし資産の価値が再び二倍や三倍になったらどうしよう」と悩んだ。このような異常な時期に、マーケットで本当は何が起こっているか知りたい人にとって(私もそのひとりだった)、成功している賢い投資家の見方を知りたいと思うのは自然なことだった。
1999年の夏、私はマーケットへの対処を決断するため、船を借り、船長を雇って家族でワシントン州のサンファン諸島に旅行することにした。私は、バフェットについて書いてあるあらゆる資料を持って、船に乗り込んだ。そして、デッキでバフェットの投資法について読んでいくうちに、私の心に最も響いたのがマンガーの考えだったことに気づいた。当時、私が最も知りたかったことは、値上がりしていたインターネット株とテレコム株のどれくらいを売るべきかということだった。家族は船の旅とサンファン諸島を楽しんでいたが、私は読み物をしたり、考えに耽ってデッキを行ったり来たりしていた。この一週間、私は読むことと考えること以外ほとんど何もせず、家族にとって楽しい存在ではなかった。しかし、旅の終わりが近づいたころ、ある結論に達した。インターネット株とテレコム株のちょうど半分を売ることにしたのだ。そうすれば、何が起こっても、あまり後悔しないと思ったからだ。これは、その後の暴落を考えれば最適な判断ではなかったかもしれないが、当時も今もこのときの判断には満足している。この旅行は、私がバリュー投資の世界に飛び込むきっかけとなった。
普通の投資家がマーケット指標を上回る最高の方法は、ベンジャミン・グレアムが考案し、マンガーが実践しているバリュー投資のシステムだと思う。ただ、グレアムのバリュー投資はシステムであって、この厳密なルールに従うだけで成功することはできない。グレアムのバリュー投資システムを実現したいわばバークシャーシステムや、そのほかのバリュー投資システムは、科学よりも芸術に近い。バリュー投資は、点を結んでいけば全体が分かるというものではないからだ。グレアムのバリュー投資システムは、ロケット工学の科学者の頭脳がなくても完全に理解することはできる。しかし、ほとんどの人は感情や心理を制御してすべきことを実行したり、マーケット指標を上回るためにすべきことをすべてしたりすることができない。だからこそ、ウォーレン・バフェットはよく「投資は単純ですが、簡単ではありません」(ウォーレン・バフェットの「Tulsa World」2002年)と言っているのである。同じことをマンガーは「単純なアイデアに真剣に取り組む必要があります」と言っている。
本書の大部分は、私が感情的な間違いや心理的な間違いの原因を見つけられるようになった方法と、これらの間違いを避けるためにマンガーから学んだことについて書いている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストであるジェイソン・ツバイクからもらったEメールに、投資におけるもっとも本質的な課題のひとつが綴られている。
もし簡単に彼のようになったり、彼のように考えたりできるならば、チャーリー・マンガーのような人がほかにもいるはずです。複数のメンタルモデルを駆使してひたすら学び続けるのは……大変なことだし、それができる数少ない人でも、正しい気質を持っていなければ、その恩恵を受けることはできないかもしれません。だからこそ、バフェットとマンガーは幾度となくグレアムに立ち返るのです。真の逆張り派でいるためには、究極の勇気と無情な冷静さが必要です。バフェットはよくグレアムが規定する「感情の枠組み」について、こう言っています。
――ジェイソン・ツバイク(2014年10月の筆者へのEメール)
マンガーの投資に関する考えや手法をよりよく理解するために、私は三つの要素――原則、不可欠な資質、変数――から成る枠組みを考えた。ただ、この三部制の枠組みは、マンガーの投資に関する考えや手法を理解するための唯一のモデルではない。ほかにも、彼を理解するための有益な方法はあると思う。私がこの枠組みを考えたもうひとつの理由は、投資に使えるチェックリストを作るためだ。マンガーは、人生の課題に立ち向かうときに、チェックリストの利用を強く支持している。
――チャーリー・マンガー(2007年のウェスコ株主総会)
チェックリストを作るメリットのひとつは、アイデアを書き出すことにある。バフェットが、アイデアを実際に書き出してみることが大事だとよく言っているが、そのとおりだと思う。バフェットによれば、書き出すことができないならば、それは熟慮が足りないのだという。
本書を『チャーリー・マンガー――完全なる投資家』というタイトル(原書のタイトル)に見合う本にするためには、まずグレアム式バリュー投資の基礎をおさらいしておく必要がある。また、そうすることで本書の方向性も示すことができる。
ベンジャミン・グレアムが考えたバリュー投資には、次の四つの原則がある。
マンガーは、グレアムの原則の根幹とも言える四つの原則は「けっして廃れない」と言っている。これらの原則に従わない投資家は、グレアム式バリュー投資家ではない。グレアムのバリュー投資システムは、それほど単純なのである。
マンガーは、グレアム式のバリュー投資家になりたければ、それに必要な特性を鍛え、それを自覚することが不可欠だと考えている。これらの特性は、私の枠組みの「不可欠な資質」に当たる。このような特性を身につけることができる投資家は、よくある心理的な間違いや感情的な間違いを避けるために自分を鍛えることができるため、投資家として成功できるのだとマンガーは言う。完璧を目指す必要はないが、時間をかければ人は向上していく。もしこのような努力を続けていかなければ、過去の間違いや愚行を繰り返すことになるともマンガーは言っている。
本書では最後に、グレアム式バリュー投資家が、独自の投資スタイルや手法を確立するための選択肢についても書いている。つまり、グレアム式バリュー投資システムは、四つの基本的な原則を基盤として、独自のシステムを作ることができるのである。グレアム式のバリュー投資家であっても、システムの導入の仕方はひとりひとり違っている。例えば、バフェットいわく、彼とマンガーは「実質的に結合体双生児」(アリス・シュローダー著『スノーボール』[日本経済新聞出版社])だが、投資の取り組み方にはいくつかの違いがあると指摘している。
投資を学んだり、教えたりするチャンスは無限にあると言っても過言ではない。マンガーはよく、成功している投資家は「ずっと学び続ける」ことをやめないと言っている。学び続ける必要があるということは、投資家が常に本を読み、考え続けていなければならないということでもある。マンガーは、貪欲に本を読まないで成功している投資家はひとりも知らないと言っている。ちなみに、彼の子供たちは父親のことを「本に足が生えたような人」と呼んでいる。本を読み、学ぶことはかなりの努力を要する。禅の言葉を借りれば、「バリュー投資(得道)のことは心をもって得るか、身をもって得るか」(頭で理解するだけでなく、体得することが大事)とでも言ったところだろうか。私は、読むことで仕事を覚えただけでなく、知的満足感を与えてくれるこの仕事が好きになった。あなたもせめてこの過程を楽しめるようになれば、もしかしたらこの仕事が大好きになるかもしれない。
最後に、本書についていくつか書いておきたい。構造は簡単だ。マンガーの言葉の引用は、理論的な順番に並べてあり、そのあとに、私が説明を加えている。かぎ括弧(「 」)内の言葉は、特に説明がなければマンガーの言葉だと考えてほしい。もし分からない用語があれば(例えば、正味現在価値)、巻末の用語集を参照してほしい。
マンガーの考え方を伝えるための最善の方法は、彼の人生をかけた仕事を深く検証してみることだと思う。本書では、マンガーが投資家としてどのように考えているかに注目していく。彼は、投資家として成功するための秘訣を「訓練による反応」と呼んでいる。これは、劣った判断につながる行動をやめることができれば、ほかの投資家よりも優位に立てるということを意味している。本書の大部分は、マンガーがどのように投資を行っているかについて書かれているが、ここで述べたことは人生のほかの判断にも応用できる。マンガーの考えや手法を支えている枠組みを理解すれば、彼が公共の場で話した言葉のひとつひとつがさらに意味深いものになるだろう。例えば、彼が「智慧」(worldly wisdom)、「判断を誤るときの心理」(the psychology of human misjudgment)などと呼んでいる概念を学べば、より良い判断が下せるようになる。マンガーのアイデアや手法を学ぶと、あなたの投資や人生における考え方はまったく変わってしまうかもしれない。しかし、それによってより良い判断を下し、より幸せになり、より充実した人生を送ることができるようになるだろう。