著者のギャヴィン・ディー・ベッカーは、暴力犯罪予測のスペシャリストとして、政治家や映画スター、ミュージシャン、スポーツ選手の警護を担うとともに、会社役員から学生まで、身の安全を心配して訪れる幅広い顧客の相談にのっている。
自身、こども時代の大半を暴力のなかで過ごしてきたという著者は、「暴力と非暴力の世界の両方の言語に通じ」、そのため「多くの暴力犯罪者の考えていることがわかる」。そして、どんな人間にも暴力性はある(言いかえれば、場合によってはだれでも犯罪者になり得る)という視点が、暴力犯罪の予測には重要だと説く。
「とてもそんな人には見えませんでした」というのは、何か世間を騒がせるような事件が起きたときに、犯人を知る人たちからよく聞かれるコメントだ。けれどその普通に見える人の直前の行動に、状況に、あるいはもっと前の行動に、危険信号は必ず灯っていると著者は言う。それを察知できるのはほかでもない、人間がだれでももっているはずの「直感」である。
「直感」がうまく働かず、あるいは否定されて、なにが本当の危険かわからなければ、必要もないのに怯えて警戒したり、逆に差し迫った危険に気づかなかったり、といったことが起こる。本物の「恐怖」というのは、危険があるときにそれを知らせてくれる大事な危険信号で、直感の「下僕」だと著者は言う。では直感力を磨くにはどうしたらよいか。その方法を、著者は豊富な実例とともに、ときにユーモアを交え、わかりやすく教えてくれる。
一口に暴力犯罪と言っても、ひったくりのような単純な犯罪からコンビニ強盗、見知らぬ人間によるつきまといや逆ギレ、恨みによる犯罪、DV、ストーキング、デート・レイプ……まで、その範囲は広い。だが危険から身を守る方法の基本には、共通するものがある。
訳者あとがき
本書はアメリカの暴力犯罪分析の第一人者、ギャヴィン・ディー・ベッカーが、自身の長年にわたる経験と実績をもとに、暴力犯罪から身を守る知恵をまとめたもので、今から十八年ほど前に邦訳出版された。原題は「The Gift of Fear」。恐怖が授けてくれるもの、といった意味だ。当時も今と変わらず、さまざまな暴力犯罪はあったが、日本ではまだストーカー殺人は珍しく、ドメスティック・バイオレンス(DV)という言葉もそれほど頻繁に聞くようなことはなかったと思う。
だから著者の言うように、「日本は暴力犯罪の少ない安全な国」だと、みんな思っていた。それがいつの頃からか、変わってきたように感じる。暴力犯罪のじっさいの件数はともかく、ストーカーが被害者を、ただつけまわすだけでなく殺したり、大きなケガを負わせたりするような事件がいくつも起き、DVから逃れてきた妻を夫が捜し出して殺すとか、若い男が小さな女の子を誘い出して殺す、あるいは親が自分のこどもを虐待の果てに殺すといった、いわば「日本離れ」した事件が増えているような気がする。
それでも著者の言う通り、銃を合法的に所持できない日本は、アメリカの基準に照らしてみればとても安全な国である。だがその「安全神話」に、安住しているわけにはいかないのはだれの目にも明らかだろう。
こうした日本社会の変化を受けて、本書は再び世に出ることになった。著者による人間の暴力性への洞察は鋭く、普遍的だ。そして暴力犯罪に巻きこまれないようにするための対策は、具体的で役に立つ。残念な話だけれども、今の日本が、この分野での先進国であるアメリカから学ぶことは多そうだ。
著者のギャヴィン・ディー・ベッカーは、暴力犯罪予測のスペシャリストとして、ロサンゼルスに「ギャヴィン・ディー・ベッカー・インコーポレイティッド」を設立し、政治家や映画スター、ミュージシャン、スポーツ選手の警護を担うとともに、会社役員から学生まで、身の安全を心配して訪れる幅広い顧客の相談にのっている。
自身、こども時代の大半を暴力のなかで過ごしてきたという著者は、「暴力と非暴力の世界の両方の言語に通じ」、そのため「多くの暴力犯罪者の考えていることがわかる」。そして、どんな人間にも暴力性はある(言いかえれば、場合によってはだれでも犯罪者になり得る)という視点が、暴力犯罪の予測には重要だと説く。
「とてもそんな人には見えませんでした」というのは、何か世間を騒がせるような事件が起きたときに、犯人を知る人たちからよく聞かれるコメントだ。けれどその普通に見える人の直前の行動に、状況に、あるいはもっと前の行動に、危険信号は必ず灯っていると著者は言う。それを察知できるのはほかでもない、人間がだれでももっているはずの「直感」である。
「直感」がうまく働かず、あるいは否定されて、なにが本当の危険かわからなければ、必要もないのに怯えて警戒したり、逆に差し迫った危険に気づかなかったり、といったことが起こる。本物の「恐怖」というのは、危険があるときにそれを知らせてくれる大事な危険信号で、直感の「下僕」だと著者は言う。では直感力を磨くにはどうしたらよいか。その方法を、著者は豊富な実例とともに、ときにユーモアを交え、わかりやすく教えてくれる。
一口に暴力犯罪と言っても、ひったくりのような単純な犯罪からコンビニ強盗、見知らぬ人間によるつきまといや逆ギレ、恨みによる犯罪、DV、ストーキング、デート・レイプ……まで、その範囲は広い。だが危険から身を守る方法の基本には、共通するものがある。
今よりもっと安全に、安心して暮らせるように。これから恋人を見つける若い女性にも母親にも、妻子や恋人を守りたい男性にも、「危ない」同僚や部下がいるかもしれない男性にも、そのほかいろいろな立場の人に、本書をぜひ読んでほしいと思う。
二〇一七年五月
武者圭子