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電子書籍版 |
著者:福澤桃介
定価 本体700円+税
文庫判 224頁
2009年6月13日発売
ISBN 978-4-7759-3071-7 C0133
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本書は当時、貧家の出から成功者となった福澤桃介の執筆ということもあり、増刷を重ね書籍である。現在でも引き継がれているビジネスマナーはもちろん、給与から天引きして貯蓄せよ、習慣の奴隷となるななど、その普遍的なメッセージに驚くはずだ。なによりも、当時、相場界でも実業界でも“異端”とされた福澤桃介が、どのような信念のもと仕事に向かっていたのかは実に興味深い。
桃介は貯蓄した資金を基に相場で大成功を収め、その成功をもってなぐり込んだ実業界でも計り知れないほど大きな実績を残した。彼の信念は、「金儲けは悪いことではない」ということである。努力して手にしたからこそ、金を大切にする。金を大切にするから、金がまた集まる。「相場で儲けた金は大切だが、寝ているだけでつく利子はいやな金である」と語る桃介。精力を込めて立ち向かったからこそ、相場で儲けた金は貴重だというのだ。
・寄付はしない
・信用などはされないほうがよい
・憎まれて世を渡れ
世間とは異なる考えで、「偽悪者」のような立ち居振る舞いを見せる福澤桃介が持つお金と仕事に対する気概は、日本国中の元気が低迷したいま、大いに参考になるだろう。
※本書は、明治44年に実業の世界社より刊行された『桃介式』を文庫化にあたり、改題・現代語に編集したものです。
序文 自序 第一章 我が処世観 一、慈善の強要には応ぜぬ 二、誤解の責に任ぜず 三、福澤先生 痩我慢説の由来 四、咸臨丸殉死者の碑 五、榎本武揚君の命乞い 六、榎本と勝の面の皮 七、福澤先生はやせ我慢の標本 八、福澤先生と榎本、勝、福地 九、交詢社ストーブ連の嫉妬談 十、慶應義塾出の先輩はみな貧乏なり 十一、褒め合い助け合うにかぎる 十二、労力と報酬 十三、チリ積んで山主義 第二章 羨むなかれ世のいわゆる成功者 一、成功者の富は麦酒の泡のごとし 二、先見の明ありと言うのはホラなり 三、勤倹貯蓄は愚なり 四、新事業界の内幕 五、新事業の顔役 六、金を儲けたが不幸せ 七、成功者の懺悔 八、新聞、雑誌におだてられるなかれ 第三章 金儲けは株にあり 一、有為転変の浅ましさ 二、事業熱の昇降 三、世人に反対す 四、アメリカに学べ 五、株を買え 六、金儲けの最もやさしい法 七、きっと株で儲かる法 八、信用破壊論 九、結論、運と思慮 第四章 憎まれて嫌がられて世を渡れ 一、成功者は可愛がられず 二、寵児は結局不幸せなり 三、助けられたが破滅のもと 四、天は人の助けざる者を助く 五、助けられずば可なり 第五章 どうすれば金持ちになれるか 一、なぜに諸君に金持ちになることを勧めるか 二、金持ちになる二つの方法 三、桃介の今日あるゆえん(一) 四、桃介の今日あるゆえん(二) 五、桃介の消極主義 六、福澤先生の感化 七、森村市左衛門氏の片意地 八、森村氏と桃介 九、諸君の取るべき道 十、金を貯める秘訣 十一、一身の富と一国の益 |
第六章 出世の秘訣 (一) ・出世諸要素の兼備 ・天才と勉強 ・運鈍根主義なお足らず (二) ・人に接するの道 ・訪問時刻の心得 ・まず取り次ぎを虜にせよ ・応接間に通されたときの心得 ・福澤先生と大隈伯 ・けっして長居すべからず ・先方に多くしゃべらせよ ・主人の見送りを断れ ・先方に用のできたときは速やかに帰れ (三) ・勤め先の気風に同化せよ ・上役の性質を知れ、長上を敬せよ ・月給で暮らすようにせよ ・表裏反対の生活 (四) ・勉強を見せかけよ ・上役より先に帰るな ・利口らしいと馬鹿らしい ・東京人は奥州人にだまされる (五) ・病気と失職に対する覚悟 ・貯蓄の必要 (六) ・収入から天引きして貯蓄せよ ・天引主義を実行する私の友人 ・収入の三分の二を貯蓄する人 ・乱費を防ぐ第一の秘訣 ・乱費を防ぐ第二の秘訣 ・乱費を防ぐ第三の秘訣 ・乱費を防ぐ第四の秘訣 ・乱費を防ぐ第五の秘訣 ・乱費を防ぐ第六の秘訣 (七)立ち読み ・女は己を愛する者のために容づくる ・金は愛するところに集まる ・銀行に預けるより投資せよ ・やり方によっては五倍にも十倍にもなる ・一会社にのみ投資するは不可 (八) ・衣食足りて真の人間となれ ・利己と利他 ・正言正行の人 (九) ・人を使う心得 ・英雄豪傑主義 ・円満主義と英国紳士的態度 ・中上川氏の執った直行主義 (十) ・平素服膺すべき箇条 ・自分を世界で一番偉いと思え ・自分を世界で一番幸福者と思え ・習慣の奴隷となるなかれ ・中上川彦次郎を見よ ・修養を怠るなかれ ・本分を忘るるなかれ ・本分の真解釈 ・唯我独尊と独立自尊 文庫版付録 |
彼は貧しい家に生まれ、のちに「黄金の化身」と称された。そこには生まれ落ちた環境もあるが、拝金宗と揶揄された義父、福澤諭吉の影響も少なからずあったであろう。わざと過激な発言をして世俗に警鐘を鳴らす福澤桃介は、福澤諭吉のそれとやはり似ている。
桃介は“死んだ金”は出さないことで一貫していた。本書にもあるが、売名行為的な寄付なども一切受け付けなかった。地位も名誉も手に入れても、この考えは変わらない。「宵越しの銭は持たない」ことを潔しとした江戸っ子には特に、この拝金主義は受け入れられなかったであろう。
しかし、誤解してはいけない。それは、あくまで彼にとって「意味のない金の使い道」に限ったことである。
例えば、雑誌『ダイヤモンド』を創刊した石山賢吉が赤字続きで悲鳴を上げていたころ、率先して金を工面したのは桃介であった。石山は『回顧七十年』(ダイヤモンド社)という著書の中で「桃介ほど自分を助けてくれた人はいない」と語っている。そこには私心はなく、まったくの義侠心からのことだったというのである。
お金は卑しいものではない。個人が豊かになることで国が豊かになる。「金力」とは恐ろしいものだというその金銭哲学は独特であったかもしれないが、お金の怖さを知るがゆえに大切にしていたのではないだろうか。
本書にも出てくるが、福澤桃介は「相場で儲けたお金は貴重で、証券の配当や預金につく利子などは、いやな金だ」と言っている。世間では、相場で儲けた金が労せずして手に入ったあぶく銭だといわれるのとは真逆の考え方である。桃介からすれば、全精力を投じることで相場から得た金が大切で、寝ているだけで当たり前のように生じる利子など軽んじるのは当然であろう。
他方、彼は巷では「電力王」として知名度が高い。相場で築いた資産を足がかりに、明治の終わりには実業界に打って出たのである。
卓越した相場観で巨万の富を築いてはいた。しかし「長くやっていれば、いつかはやられてしまう。人間は勝ちを重ねれば止められなくなるが、いつまでも勝ち続けることはできない」と実業界へ重きを置くようになった。あまりに現実的であり、足るを知っているということであろう。
日本における“初代成金王”と称される鈴木久五郎ですら、現在のお金にして150億円もの財産を失ったという日露戦争後の大暴落で、数十億円の富を築いたほどの天性の相場観を持つ桃介である。本人自身も「相場以上の面白い金儲けはない」と断言しているほどの相場好きだ。それでも、現実的な観点から自分を律することができたのは、精神の強さがあったからではないか。事実、大隈重信侯も「元来の才と強い精神力」によって桃介は金を儲けたと評している。
福澤桃介は相場を始めてから、福澤諭吉と出た旅先で、諭吉に隠れて手仕舞いするのに苦労したという。諭吉は桃介が相場界に入ったことを良くは思っていなかったといわれている。ところが、かくいう諭吉も相場をしていたようである。勝海舟曰く「福澤諭吉ほど相場の好きなやつはいない」とのことだ。
「甲乙丙、転々売買の間、ふとしたはずみで人気去り、流行やむときそれこそ由々しき騒動なれ」とは福澤諭吉の言葉である。
活発に売り買いされていても、簡単なことで人気が去り、いままでの熱狂が一気に冷めてしまったときが波乱を導く、といった内容である。これは、投資体験がないと語れない相場の真髄である。これを見るかぎり、福澤諭吉も相場をかなり知っていたのであろう。相場の難しさを知っているからこそ、あまり桃介が相場に近づくのを望まなかったのかもしれない。
福澤桃介は、当時の相場師には珍しく多くの書物を執筆している。私は彼の書物のほとんどを所蔵しているが、個人的にも当時の業界を知るうえで、それらはとてもよい資料とさせていただいている。本書の原本である『桃介式』は、彼が最初に上梓した本である。
処世術の趣きが強いが、桃介色の強い独特の考え方が面白い。ここでの処世術はいまでは当たり前になっている“ビジネスマナー”も多いが、明治の時代にこれらを成功者である桃介が率先して説いているのも興味深い。
海外には投資業界、実業界に著名な賢人たちが名を馳せているが、日本でも異彩を放った偉人たちが数多く存在する。時代は違えど、彼らの力強い生き方に学べることも多いはずである。彼らの武勇伝に興味をもたれた方はぜひ、拙著『天才相場師の戦場』(五台山書房)や『日本相場師列伝』(日本経済新聞社)、『相場ヒーロー伝説』(河出書房新社)などをご覧いただければ幸いである。多くの日本の賢人たちも、われわれを魅了してやまないはずである。
二〇〇九年五月
219ページの漢文「参道人天心得安」が「人」ではなく「入」でした。
訂正してお詫びいたします。
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