別著『ヘッジファンドの錬金術』 |
A5判 上製本 288頁
定価本体5,800円+税
2004年12月17日発売
ISBN4-7759-7045-3 C2033
著 者 ジェームス・アルタッチャー
監修者 長尾慎太郎
訳 者 井田京子、西村嘉洋
→お申し込みはトレーダーズショップからどうぞ!!
- 「本物のリサーチに基づいた実際的なアドバイスが欲しい人の必読書」
――ラリー・ウィリアムズ(『ラリー・ウィリアムズの短期売買法【第2版】』著者)
- 「マネーマネジャーとして成功を収めるアルタッチャーが、パートナーや顧客の反対を押し切って最も利益率の高い株式トレード戦略とその使い方を明かしてくれた。吟味している場合ではない。一刻も早く手に入れるべし!」
――エール・ハーシュ(『ストック・トレーダース・アルマナック』創刊者兼37年間に及ぶ編集者)
- 「ジェームス・アルタッチャーが本書を執筆したと聞いて驚いた。このなかには、私が使えると思っていた方法が多数公開してある。これでは私がポートフォリオを見直さなければならなくなる。早々に引退しておいてよかった」
――ジェームス・J・クラマー(ザストリート・ドット・コムの創設者、マーケット評論家、CNBCの「クッドロー&クラマー」の司会者)
テクニック2 QQQとSPYのスプレッド差を利用した片側ペアトレード
QQQ−SPYペアを使った片側ペアトレードシステム
例
結論
付録 片側ペアトレードシステムのプログラム
テクニック3 倒産銘柄を買う
例
テクニック4 TICKの利用
日中TICKシステム
日中TICKシステムの応用――軽度のパニックへの対策
結論
テクニック5 トレードバンドを使ったシステム
ボリンジャーバンドシステム1
利益目標を設定した短期ボリンジャーバンドシステム
空売りはどうか?
テクニック6 5ドル以下の株
例
5ドル以下の株の買い
結論
テクニック7 スロータートル
タートルシステム――筆者バージョン
例
そのほかの応用例
結論
テクニック8 QQQクラッシュシステム
例
基本のQQQクラッシュシステムを使ったシミュレーション
株式運用への応用
テクニック9 連銀相関モデル(およびイールドの面白い使い方)
債券配分トレード
ジャンクボンドを手放してはいけない
結論
テクニック10 指数からの除外銘柄
例
データの研究
結論
テクニック11 200日移動平均線について聞きたくても聞けなかったこと
トレーディング・システム
1日〜200日移動平均線システム
結論
テクニック12 四半期末、月末、月足の包み足
四半期末の神話
月末パニック
月足チャートの包み足
テクニック13 10%ダウン――パニック初級
10%の下落
極端な騰落ライン
結論
テクニック14 オプション満期日の利用
OEDシステム1――トレンドに逆らうべからず
OEDシステム2――トレンドに逆らうべからず(パート2)
OEDシステム3――ナスダックの空売り
結論
テクニック15 究極の転換社債アービトラージ
優先株アービトラージシステム
リスク
例――SEE/SEE-A(シールド・エアー)
結論
テクニック16 日中ボリンジャーバンド
5分足ボリンジャーバンドシステム
例
パニックで儲ける
5分足ボリンジャーバンドシステムの運用結果
結論
テクニック17 吉報には4がつく(「4」はマジックナンバー)
4日下落
4日上昇したら空売り(推奨しないシステム)
4日上昇したら空売りして1%の利益を目指す
4%ブレイクアウト
結論
テクニック18 水曜日の反転
水曜日に起こる週なかばの長大線での反転
週なかばの反転を狙ったワイドレンジ・システムによる株式運用
長大線で水曜日に反転したときの空売り
結論
テクニック19 うまくいかないテクニック
直感
確認
ローソク足のパターン
季節性
低PER、高PER
オプションの売買
結論
テクニック20 推薦図書
日経平均は1990年に4万円近くまで上昇したが、そのあと15年に及ぶぶ下げが始まり、現在でも1万〜1万2000円の水準に止まっている。日本のマーケットが反発の兆しを見せるたびに、せっかくのアップティックは跳ね返されて新安値を更新している。もちろん、このわずかな上げを利用して巨大な利益につなげることも可能だが、そのためにはまだ上昇している間に逃げ出すための洞察力がいる。
もちろん、筆者は世界第2位の日本市場を批判しているわけではない。むしろ、これがマーケットの真実の姿なのだと思う。マーケットは下落する。ときには、すべてのエコノミスト、マーケットアナリスト、テクニカルアナリスト、投資家、退職者、それ以外のマーケットに賭ける人々の期待を打ち砕くほど下げる。
しかし、ほかに資金を投じる場所はない。日本の金利は史上最低のゼロ%で、米国金利だってそう変わらない。世界中のマーケットでひとつだけはっきりしていることがある。市場参加者の大部分を支配しているのは恐怖と欲望であり、それがもたらす不合理な行動がほんのわずかではあるが利益につながる統計上のアノマリーを生むということである。このようなアノマリーは世界中どこでも共通しているときもあれば、マーケットによって違うこともある。後者の場合は、利用したいマーケットの特性に合わせてシステム開発とテストを行わなければならない。
ヘッジファンドマネジャーは、このようなアノマリーを利用してトレードを行うために相関性のないテクニックを組み合わせたポートフォリオを作っている。本書が、読者自身のテクニックのポートフォリオを作り上げるための第一歩になることを心から願っている。
2004年11月
長尾慎太郎
これにはいくつかの答えがある。ひとつは、本書を執筆するために行った研究を通して筆者自身、多くを学んだことだろう。もちろん紹介したシステムは何年にもわたって実際に使用してきたものではあるが、どんなシステムにも新しい調整や工夫が必要になってくる。筆者自身もシステムトレーダーではあるが、どれほど成功したシステムであっても、それに任せておけばお金を生み続けるなどということはあり得ないと思っている。すべてのシステムは、常に点検して新しいロジックを足したり、古くなった選択肢を削除したりしながら開発し続けていく必要がある。本書のために試した新しい工夫は、この数カ月間に実際に新たな利益を生んでいる。恐らくこれほど集中して調べなければ、得ることのなかったお金だと思う。システム開発も、トレーディングも、常に進化している。成功するシステムトレーダーを生むのはシステムそのものではなく、開発を続ける過程なのである。
本書で紹介したシステムやパターンを規律を持って使用すれば、恐らく成功はするだろう。しかし、これはあくまでさらなる研究の足がかりでしかないということを覚えておいてほしい。マーケットはとても大きな世界で、そのなかには非効率的な部分がたくさん潜んでいる。そして、それらは常に変化している。本書はこのような部分をさらに探し出すためのよいスタートになるだろう。しかし、読者にとっての最終的な成功は、自分自身でこの非効率部分を見つけだすことができるようになることなのである。
筆者は、システム開発者やトレーダーや研究者との情報交換を好んで行っている。システムを共有するとその価値が下がるという意見をよく聞くが、これには賛成できない。毎年、何兆ドルもの資金がマーケットに投じられる。そして、トレンドフォロー型やカウンタートレンド型(逆張り)のトレーダー、バイ・アンド・ホールドのミューチュアルファンド、直勘で勝負するデイトレーダーなど、何千というタイプのトレーダーやシステムトレーダーがいる。これは、どのようなシステムや手法を使ったとしても、反対取引をしたがる相手が必ずいるということを意味している。共通の関心を持つ仲間とアイデアを交換することは、相手から学ぶチャンスでもあり、まさに「与えよ、さらば与えられん」ということだろう。
そして、本を書く最後の理由としては、書くのが好きだからということを挙げておく。筆者が書いたものを読んで喜んでくれる人がいれば、とても嬉しい。
次に、この本の使い方について書いておきたい。どんなシステムもマーケットの聖杯になり得ることはないし、ひとつの銘柄だけでお金持ちになることもできない。バイ・アンド・ホールドの投資家と同じように、ヘッジファンドのトレーダーも分散投資に頼っている。ただ、相関性のない銘柄に分散するのではなく、相関性のないシステムに分散しているという点が違っている。ひとつのシステムの成功がほかのシステムの成績に依存していない、いわばシステムのポートフォリオを組むことが、資産額の変動をスムーズにする最もよい方法になる。
本書で紹介したシステムのほとんどは、ウエルスラブというシミュレーション・ソフトウエアを使って開発したもので、これは非常にお勧めのパッケージだと思っている。このソフトウエアは、http://www.wealth-lab.com のサイトから入手することができ、付属のパスカルに似た言語で高度なトレーディングシステムを組んだあとは、それを指数や複数銘柄で簡単にテストできるようになっている。質問に対するサポートデスクの対応も迅速だし、開発者で作るウエブ上のフォーラムを覗けば、初めて自分のシステムを組むときの参考になるだろう。
マーケットに関するテストやリサーチには、科学的なアプローチが欠かせないが、それと同じくらいアート的な要素も必要になる。言い換えれば、結果がすべてではない。500回中500回うまくいったのは、開発者がシステムをデータに合わせてカーブフィットしたのかもしれない。どのようなシステムを使うときでも、必ず「なぜこのシステムはうまくいくのか」「どのような群衆心理がこの結果を生んだのか」ということを考えてほしい。
マーケットでは、非効率な部分でのみ利益を上げることができる。そこで、大勢の賢い人たちがこの部分を探し回っているうえ、このような部分は発生してもすぐまた消えてしまう。一年を通じて、あるいは何十年にもわたって利益をもたらしてきた非効率部分は、実は投資家やギャンブラーに近い人たちを世界中のマーケットに駆り立てる恐怖と欲望に深く根ざしている。この事実を知っておくことで、データマイニングやカーブフィッティングの罠を避け、自分自身のアイデアを基にしたトレードができるようになるだろう。
注 特記していないかぎり、シミュレーションのトレード金額は10万ドル単位になっている。
ギャップトレードを始める前に、「ギャップは通常、埋まるものなのか?」という質問について考えてほしい。そして、その答えからいくつかのトレード戦略を組み立ててみよう。
システム1 ギャップ埋め
まず、基本的なギャップ埋めの手法を試してみよう。
●始値が前日の終値を2%を下回ったら買う。 ●前日の終値まで戻したら売り、戻さなければ終値で売る。 テスト 1999年1月1日から2003年6月30日までの、すべてのナスダック100銘柄(除外銘柄を含む)。
結果 表1.1参照。悪い結果ではないが、トレードするほどでもない。1トレード当たり0.58%というのはナスダックやS&P先物としては素晴らしい結果だが、手数料やスリッページ(注文価格と執行価格の誤差)の割合が大きい個別銘柄のトレードにおいてはぎりぎりの利益でしかない。 このシステムは下げ日の翌日に限ると、結果がやや改善する。これは恐らく前日の下落である程度利益の出ている空売り筋が、ギャップによって生じた追加利益を確定しようとしたためではないかと考えられる。
システム2 値下がり日翌日のギャップ埋め
ルールはシステム1とほぼ同じだが、今回は2%以上のギャップがあるだけでなく、前日に対象銘柄が値下がりしていた場合に限って買うことにする。
結果 表1.2参照。1トレード当たりの平均リターンは0.58%から0.75%に向上し、まずまずの改善が見られる。ただ、5000トレードの平均リターンが上がれば利益は増えるものの、時には0.40%以上にもなる手数料とスリッページを考えれば、やはり十分とは言えない。 そこで、次は2%のギャップダウンより利用価値の大きい5%を試してみよう。
システム3 5%ギャップ
●値下がり日の翌日で、始値が前日の終値より5%低ければ買う。 ●前日の終値まで戻したら売り、戻さなければその日の終値で売る。
結果 表1.3参照。やっと試す価値のあるシステムに近づいてきた。ただ、利益率の高いトレーディングシステムにするためには、もうひとひねり必要だろう。これまでのところ、平均的に見てギャップが埋まることのほうが埋まらないことより多く、状況が悪い(下げ日の翌日で2%ではなく5%のギャップダウン)ほうが若干よい結果が出ている。もし、マーケット全体がギャップダウンになると、どうなるのだろうか。
システム4 マーケットギャップを伴った5%ギャップ
●値下がり日の翌日で、始値が前日の終値より5%以上低く、QQQが少なくとも0.5%以上ギャップダウンになっていれば買う。 ●ギャップが埋まれば売り、埋まらなければ終値で売る。 例
RFMD(2002年6月26日)
この日、マーケットはダブルパンチを浴びていた。前日夜にインテルが収益に対する警告を発表し、当日朝には予想を大幅に下回る消費者信頼感指数が発表されたからである。そもそもこの日は、翌月の7月24日に大安値を付けてクライマックスを迎えることになるデススパイラルの真っただ中だった。しかし、少なくとも6月26日だけはマーケットが反発したため、ギャップダウンでの買いは図1.2のとおり大きな利益につながった。図1.2の日足チャートの中心にある6月26日のローソク足が示すとおり、25日は下げて25.46ドルで引け、26日はそれより約4%低い24.43ドルで始まっている。 図1.3のRFMD(RFマイクロ)は6月25日に6.44ドルで引け、翌朝5.70ドルで寄り付いた。買い方にとっては悲惨な結果で、世界の終わりだと思っていたら、それでもまだ最悪の事態にはいたっていなかったという気分だったろう。しかし、始値で買って前日の終値である6.44ドルまで戻したとき(つまりギャップが埋まったとき)に売れば、12.98%の儲けになっていたのである。
例――YHOO(2002年7月11日)
この日、QQQは23.76ドルで始まった(図1.4)。前日の終値が23.90ドルだったので、これは0.5%を若干上回るギャップダウンになっている。一方、YHOO(ヤフー)は前日終値の12.19ドルより下げて11.15ドルで始まった。実は、同社は7月10日の取引終了後に収益予想を上回る決算報告を発表したのだが、株価は上がらなかった。このニュースにマーケットは明らかに失望しており、2002年後半の回復に期待するものの、そうなる可能性は低い。 図1.5から分かるように、7月11日の始値で買って翌日の始値である12.79ドルで売れば、14.71%の利益が出ていた。この日も7月24日まで続くことになる急激な下げ相場の最中ではあったが、正しい機会を探し当てることができれば買いで利益を出すことも可能だったことが分かるだろう。
5%ギャップのシミュレーション
1999年3月10日(QQQの開始日)から2003年1月1日まで100万ドルの資金を1トレード当たり資産の10%の金額で運用した結果が表1.4 (除外銘柄を含むナスダック100の全銘柄)に示してある。このシミュレーションの利益曲線(図1.6)を見ると、1999年にはほとんどトレードを行っていないことが分かる。面白いのは、これが買いのみの戦略であるにもかかわらず、マーケットが最も極端に下落したとき(図1.6のバイ・アンド・ホールドのグラフ)に利益曲線が突出していることで、ベアのときは売る以外ないという神話がまったくのでたらめだということを、この戦略は示している。 また、年間リターン(図1.7)は平均リターンが28.32%、シャープレシオは1.29になっている。
多くのファンド・オブ・ファンズが、ブル相場とベア相場の両方でリターンをスムーズにするためにロング・ショート戦略を採用している。こうしておけば、ブルのときにはロング部分がショート部分およびマーケット全体(想定アルファ値)のパフォーマンスを上回り、ベアのときにはショート部分がロング部分を大きく上回ることが期待できる。しかし、ここに示した戦略は、ロング・ロング戦略でもロングのポジションを分散すればブルとベアの両方に対応できることを示している。システム5はその一例として、ギャップダウン売りの逆に当たるギャップアップの売りを見てみよう。
システム5 ギャップアップの売り
2001年10月10日のQLGCのケースでは、ギャップアップの売りはうまくいかなかった。そこで、今回は次のルールでギャップアップの空売りシステムを組んでみることにする。
●値上がり日の翌日に、QQQが最低0.5%、対象銘柄の株価が5%以上ギャップアップになっていれば空売りする。 ●株価のギャップが埋まれば(前日の終値で)買い戻し、そうでなければその日の終値で買い戻す。
結果 表1.5を見ると、1トレード当たりの平均リターンは−0.56%で、素晴らしい結果とはとても言えない。ベア相場のときでさえ、熱狂の対象(「根拠なき熱狂」などと呼ばれることもある)の空売りは投機家にとって割りの合わないトレードと言えるだろう。
システム6 ギャップのスイングトレード
ギャップトレードは、ギャップが埋ったら必ず手仕舞わなければいけないわけではなく、むしろできるだけ保有したほうがよい。スイングトレードとデイトレードにはそれぞれ利点がある。1日以上ポジションを保有すれば、取引コストを抑えることができるうえ、オーバーナイトでギャップアップになれば利益も増える。しかし、夜間のポジションにはリスクも多く、すべて現金にしておいたほうが安眠はできる。 システム4のポジションを翌日まで持ち越すことができるようにするだけで、利益率は大きく改善する。これをシステム6とすると、ルールは次のようになる。
●値下がり日の翌日で、始値が前日の終値より5%以上低く、QQQが少なくとも0.5%以上ギャップダウンになっていれば買う。 ●少なくとも買った翌朝までは保有する。 ●前日の終値より下がれば売る。 例――CIEN(2001年4月17日)
このCIEN(シエナ)は16日に51.51ドルで引け(図1.8)、翌日はギャップダウンの48.11ドルで始まったあと反転して53.09ドルで引けた。18日はギャップアップで始まり、結局20日まで2日間連続して上昇した。しかし、20日の始値は前日終値の67.30ドルより低い67.09ドルだったため、その価格で手仕舞って38.22%の利益になった。
シミュレーション
表1.6を見てほしい。1999年のトレード数はさほど多くなかったが、2000〜2002年になるとマーケットが低迷するほどギャップのスイングトレードシステムの資産曲線は上昇している(図1.9)。
ドローダウン分析(ドローダウンは失敗トレードによる資産の下落額または下落率) ドローダウン(図1.10)は2000年の4月と年末(最初の金利引下げ直前)、そして2001年9月11日直後の週を除けば比較的おだやかに推移している。
最高資産額分析 資産額は、2つのケースを除いて3カ月以内に最高額を更新している。2つの例外ケースでは、更新するまでに最高で5カ月かかっている(図1.11参照)。
シミュレーションの年間リターン 平均的な投資家にとって、ギャップは大きな不安の種になる。例えば、収益に関する警告が出たことでギャップダウンが生じると、たいていはまずパニックに陥る。マーケットが開きニュースが浸透してそれが分析される前に、パニック売りをしようとしてギャップを作ってしまうのである。つまり、このような行動は不合理であることが多いため、長期的に見ればこれを利用して利益につなげることも可能になる(図1.12参照)。
直感
「マーケットはこれから下げそうな気がする」と言われたのに上がると直感して買うと、魔法のように上昇し始めた。投資のビギナーが最高の気分を味わうときだろう。しかし、これが「ビギナー」の話だということに注目してほしい。直感にたよるというテクニックは、けっしてうまくはいかない。これで成功した人はいないし、歴史上最もテープ解読がうまかったジェシー・リバモアでさえ、最後は破産して自殺してしまった。もちろん10回中9回成功することはある。しかし、信じられないほどうまくいったとしても、10回目ですべてを失って、すっからかんになるのは間違いない。もし、投資するよりブローカーとしゃべるほうが多いという投資家がいたら、そのブローカーが直感でトレードしているかどうかを考えてみてほしい。個人的にブローカーに恨みがあるわけではないが、1900年代初期に書かれたエドウィン・ルフェーブルの『ザ・メーキング・オブ・ア・ストックブローカー(The Making of a Stockbroker)』を読めば、その実体がよく分かるだろう。直感でトレードしてはいけないし、そういう人たちの言うことに耳を貸してもいけない。
確認
本書で紹介したテクニックの多くは、株やマーケット指数が下げれば買い、上げれば空売りしたり売ったりする。つまり、安く買って、高く売るのである。しかし、価格がさらに下がることはないのだろうか。もちろんある。実は、そうなることのほうが多い。そこで、多くの本がこの方法に代わるアプローチとして「底を打ったあと、上昇し始めたら買う」ことを勧めている。どうして考えつかなかったのだろう! 例えば、ギャップダウンで前日の安値より低く始まったときは、底を打ったあと前日の安値まで戻したところか、それを超えて1〜2ティック上がったあとで買えというのである。このタイミングは、多くの著者が上昇を確認できるポイントとしている。しかし、筆者がこの考えやこれに類似した方法を試してみたところ、これがいわゆる確認になるという結果は得られなかった。むしろ買値が高ければ高いほど、オープンポジション(および損失)も大きくなることが多かった。 もちろん、確認を待ってから買うテクニックを軽視しているわけではなく、「落ちれくるナイフをつかもうとする」よりは慎重だと思う。しかし、適切なテストと調査を行えば数%反発してから買うよりずっとよい結果を得られるタイミングを見つけることができる。多くの優れた投資本で勧めるテクニックがこれまで成功してきたことは、恐らく間違いないだろう。しかし、1990年代後半以降、投資というゲームのプレーヤーの数は大幅に増加した。ヘッジファンドだけで見ても、かつては平均資産500万ドルのファンドが100ファンド程度しかなかったのに、今では平均資産1億ドル規模のものが5000もある。また、何百人ものデイトレーダーが集うプロップトレーディング(自己勘定取引)会社もアメリカ中に出現している。そして、自宅でデイトレードを行っている人はそれよりさらに多い。彼らは確認など待たずに、どんどんトレードしていく。 リアルマネー・ドット・コムというサイトに執筆しているレブ・シャークという素晴らしいコムニストが、優れた資金管理によって調査の足らないシステムによる損失を減らすことは可能だと言っていたが、これは良い指摘だと思う。例えば、テクニカル分析の多くはマーケットのパターンをある程度主観的に判断しなければならない。もし、徹底的に調べつくしていないシステムでトレードする場合は、損失を限定しておくことがなおさら欠かせない。
ローソク足のパターン
スティーブ・ナイソンの書いた日本のローソク足に関する本は、非常に面白かった。マーケットのパターンを学びたければ、ぜひ読んでほしい。ただ、これらのテクニックもこれまでは有効だったのだろうが、この先は違う。ローソク足のパターンの影響を予期する人が増えれば、それを利用しようとするプレーヤーも増え、結局パターンとは逆の結果になりかねない。マーケットをより深く理解するためには、自分自身ですべてのローソク足パターンをテストしてみることが非常に有益だろう。
季節性
エール・ハーシュとジェフリー・ハーシュによる『ストック・トレーダース・アルマナック(Stock Trader's Almanac)』は筆者お気に入りの一冊で、さまざまなできごとに対するマーケットの反応とそれに関する新しい情報、語録、アイデアなどを更新して毎年発行されている。季節性を利用した戦略は、季節別のパターンをだれより早く見極めることができれば有効だが、これがうまくいくことはめったにない。例えば、毎年戦没将兵記念日(5月の最終月曜日)の前日は株価が上がることに気付いたとしても、そのころにはまわりもみんな気付いている。つまり、季節性を利用したシステムは、同じ予想をする人があまりにも多いと、結局機能しなくなる。良い例が1月効果(過去80年間、1月のマーケットは上昇傾向にあった)で、このことが広まると、人々は12月に買い始めた。そして、これが12月効果を生んだ。最近では10月効果とでも言ったほうがよいくらい、この何年かは10月になると上昇している。本書が発売されることには、9月効果になっているかもしれない。ほかには、「5月に売り抜けろ」というのもあるが、本書執筆中にこの戦略を実行していたら、今年多くの銘柄が100%近い上げ相場になっているメリットを完全に逃したことになる。
低PER、高PER
筆者はけっしてファンダメンタル分析をないがしろにするつもりはない。バイ・アンド・ホールドの投資家にとっては、割安だが成長力のある(ここが大事)企業を見つけて買い、2〜3年に一度見直すのが最もよい戦略だと思っている。第二のマイクロソフトやバークシャー・ハサウェイを探し出して、それがトップに上りつめるまで便乗するのが金持ちへの道であることは間違いない。ばかばかしく聞こえるが(しかもその方法は筆者にも分からない)、これを何度も実現して大金持ちになった人たちがちゃんといる。 2003年のバークシャー・ハサウェイの年次総会で、1976年に同社株を1株当たり約70ドルで200株買ったという男性と知り合いになった。この男性は、買った翌年に株価が2倍になったので半分を売ったという。1年で100%のリターンを上げた素晴らしいトレードといってよいだろう。そして、残った100株にはいまや750万ドルの価値がある。筆者はこの銘柄を買ったそもそもの理由を聞いてみた。当時男性は、社長のウォーレン・バフェットがヘッジファンドで大成功を収めていたことを知っており、保険会社に好感を持っていて上昇トレンドにあるとも思っていた。そこで、これに賭けてみることにしたという。たったそれだけのことで、複雑な戦略など一切ない。もちろん運も味方したのかもしれないが、いずれにしてもバイ・アンド・ホールド戦略がうまくいった好例と言えるだろう。 しかし、この話がどうPER(株価収益率)と関係あるのだろう。実はまったくない。企業の価値を評価するとき、PERは何の役にも立たない。これについて詳しく知りたければ、フォーブス誌に掲載されたケン・フィッシャーの『ザ・P/E・ミス(The P/E Myth)』(PER神話)という記事をぜひ読んでほしい。記事は同誌のサイト(http://www.forbes.com/global/2002/1111/074asia.html)でも読むことができる。 ワールドコム(WCOM)の、のちに破産に至る原因となった数十億ドルもの不正が明らかになったとき、PERは1桁台前半だった。このとき、筋金入りのバリュー投資家の多くが低PERのWCOMを買うチャンスだという記事を書いていた。また、最近のベア相場ではeベイを筆頭に多くの高PER銘柄が収益と株価の両方を謳歌していた。しかし、低PER銘柄を買って高PER銘柄を空売りすることで、ポートフォリオを中立にするテクニックは、個人破産への最も近道であり、勧められない。もし、そんなことで儲かるのなら、みんながお金持ちになっていなければおかしい。 しかし、企業の価値は将来のキャッシュフローで計るべきではないのだろうか。もちろんそのとおりだと思う。しかし、停滞するPERから将来のキャッシュフローを判断してはいけない。それよりも、人口統計学的な傾向を分析して業界別の顧客層を調べてほしい。ウォーレン・バフェットがデイリー・クイーンやプレハブ住宅会社、コンビニエンスストア向け流通会社を買ったのは、株価とキャッシュフローの比率が良かったからではなく、アメリカで増え続ける中下層の人口によって景気に関係なくこれらの企業の顧客が増え続けると判断したからなのである。ボトックス(皺とり注射液)を製造しているアラガンのような企業の株価が今年に入って上昇しているのは、同社のキャッシュフローに期待したのではなく、この製品のターゲット層(45〜55歳の女性)の人口が景気に関係なく毎年100万人ずつ増加しているからなのである(もちろん、同社としてはキャッシュフローが増加することも望んでいる)。 ここで、インターネットが本当にバブルだったのかを考えてみたい。確かにIPO(新規株式公開)の場合は需要のピークを過ぎても投資銀行が株を浴びせ続けてバブルが起こった。しかし、インターネットの場合は過去5年足らずで世界の商用インターネットユーザー数がゼロから3億人に増加し、eベイやヤフー!などの企業は現在だけでなく、将来も引き続きこの恩恵を受けることになる。 これらのトレンドはまだ始まったばかりだが、さらにテクノロジーのアウトソーシングという新しいトレンドも起こっている。アウトソース先は、インド、マレーシア、シンガポール、そしていずれ中国もこれに加わるだろう。アメリカとは違ってこれらの国の出生率は高いため、70歳以上の人々を支える20〜40歳の人口比率は、今後も健全に保たれていく。このことで恩恵を受けるのはだれで、損をするのはだれなのだろう。ぜひともこのパズルを解くことに集中してほしい。ヤフー!ファイナンスで低PER企業を探しても、儲けを上げることはできない。
オプションの売買
オプションは、レバレッジを効かせたいときに買い、収入を得たいときに売る。しかし、どちらもすべきではない。もし、いつも正しい銘柄を選ぶことができれば、あとは複利という素晴らしい力によってレバレッジなど必要なくなる。ネイキッド・コールやカバード・コールを売って儲けるのは、著名な投資家が勧めるよりずっと複雑な取引で、よく言われている「オプションの90%は満期までに価値がなくなるから、ゼロになるまえに売って利益を得るべき」などというのは大嘘なのである。正気でいたければ、このような取引はやめてほしい。特にテストも調査もしていない場合はなおさらである。オプションを使った複雑なアービトラージ戦略は確かに有効だが、素人が扱えるものではない。
結論
否定的な話しはこのくらいで十分だろう。投資の世界は非常に大きく、適切な規律と資金管理を合わせて実行すれば有効なテクニックは数多くある。また、バイ・アンド・ホールドのヘッジファンド、トレンドフォロー戦略のヘッジファンド、マーケットに流動性をもたらす空売り投資家など、独自の戦略を持ったプレーヤーも無数にいる。つまり、徹底的にテストした結果うまくいくと思えるテクニックが見つかったときは、その反対でトレードしてくれるプレーヤーがマーケットには必ずいるのである。
5ページ目次
「テクニック5 トレードバンドを使ったシステム 100」
↓
「テクニック5 トレードバンドを使ったシステム 87」
16ページ 20〜21行目
●前日の終値まで下げたら売るか、前日の終値まで下げなければ当日の終値で売る。
↓
●前日の終値まで戻したら売るか、前日の終値まで戻さなければ当日の終値で売る。
19ページ 7〜8行目
●前日の終値まで下げたら売るか、前日の終値まで下げなければ当日の終値で売る。
↓
●前日の終値まで戻したら売るか、前日の終値まで戻さなければ当日の終値で売る。
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