著者●ジョッシュ・リュークマン
監修者●長尾慎太郎
訳者●鈴木敏昭
トレーダーとして成功する条件については、バイサイドからの視点で書かれた何百冊もの本が刊行されてきた。しかし、本書は逆の立場、つまりセルサイドからの視点で書かれた世界で最初の本だ。本書では、マーケットメーカーが今日のボラティリティの高い市場でリスクをコントロールしながら、日常的に優位性を維持し、一貫して利益を上げる方法が詳しく説明されている。著者のジョッシュ・リュークマンは長年にわたり、トレーディングスキルに磨きをかけてきたモルガン・スタンレー・ディーン・ウィッターのベテランマーケットメーカーである。本書では、リュークマンの経験と知識を惜しみなく披歴していると同時に、すべてローソク足で説明しているので、日本人にも分かりやすい内容になっている。具体的な内容は次のとおり。
●どんなトレーダーも損失から身を守るために知っておくべき重要なリスクコントロールの概念
●形成されつつあるトレンドを発見する──そしてそこから利益を上げる──方法
●ファンダメンタル分析とテクニカル分析の組み合わせ
●低リスク・高リターンの仕掛けと手仕舞いのポイント
●繰り返し生じるテクニカルパターンに基づく高度なトレーディング戦略
●トレーディングに大きな影響を与える心理をコントロールする方法
今日の突出した第一級のマーケットメーカーは何百万ドルの資金を投入して熾烈な競争の激しい市場でトレードしている。本書は現在、インサイダーとしてのマーケットメーカーの観点からトレーディングについて書かれた唯一の本だ。本書を通して、ウォール街の最も強力なマーケットメーキング会社が用いるトレーディング戦術の世界に足を踏み入れ、その知見を深めることができれば、「ファイナンシャルフリーダム(経済的自立)」を手にする時期もそう遠くないだろう!
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トレーディングでの心得とは、
「人生で成長するにはすべてを無にしなければならない
すべてを無にすれば心やすく暮らせる
この意味を理解できれば、鉄の船も水に浮かぶ」(禅の格言)
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監修者まえがき はじめに 謝辞
第1部 リスク管理第1章 デイトレーダーとして成功するための資金管理余裕資金だけを使ってトレード/小さいことは大きいこと/ 適正規模のポジションでトレード/2%ルール/ 信用取引でわれを忘れる 第2章 5つのステップで適切なポジションサイズを決定 ステップ1――1ポジション当たりの資金の決定 ステップ2――1ポジション当たりの最大株数の計算 ステップ3――1トレード当たり2%のリスク金額の決定 ステップ4――ストップロス水準の決定 ステップ5――最大ポジションサイズの計算 第3章 損失管理のメリット ストップロスを使って勝利する方法/最初のストップロス/ ブレークイーブンストップロス/トレーリングストップロス/ 利益確保ストップ/流動性のある銘柄をトレードする/ ポジションの分散性/ゲーム計画の堅持 第4章 金融の大混乱をもたらす心理戦 避けるべきこと/底値買い/ナンピンの神話/ 一か八か/ホームラン狙い/ポジションサイズのやっかみ/ リベンジトレード 第2部 基本的状況第5章 トレンドの発見が利益の秘訣ニュートンの運動法則/トレンドのモメンタム/ セクターのパワー/トレンド追跡の時間枠/ 第6章 トレンド発見のための4つのトレーディングシグナル 前日の高値と安値/8期間移動平均線線/ 始値シグナル/ネットプライスルール 第3部 ファンダメンタルズ第7章 ファンダメンタル分析アーニングサプライズ/新たな決算発表方法/ 収益モメンタム/キャッシュフロー 第8章 レシオの威力 収益性比率/ROE/流動性比率/レバレッジ比率/ 活動比率 第9章 経済指標とデイトレードに対するその影響 経済指標と米ドル/経済指標とその影響/ FRBとその金融政策/債券価格と金利 第10章 情報の流れの整理 インターネットの効果的な活用/ウオッチリスト/ デイトレーダーのための強力ウエブサイト 第4部 トレード
第11章 仕掛け |
第13章 注文執行と管理 成り行き注文/AXの後追い/スリッページの要因/ 空売り/SECの注文取扱規則/セレクトネット/ 細分化と集中化/ナスダックのスーパーモンタージュ/ ECN/SOES――手数料とスキャルパー 第5部 テクニカル分析第14章 ローソク足チャートの手法ローソク足チャート/始値/終値/高値/ 安値/ローソク足のリバーサルパターン/ ローソク足の継続パターン 第15章 支持線水準と抵抗線水準 支持線/抵抗線/価格の確認 第16章 基本的チャートパターン ブレイクアウト/ブレイクダウン/ ダブルボトム/ダブルトップ/ ヘッド・アンド・ショールダーズ/ 逆ヘッド・アンド・ショルダーズ 第17章 オシレーターとリバーサル指標 ボリンジャーバンド/MACD/MACDヒストグラム/ ストキャスティックス/RSI/モメンタム 第6部 市場の脈動第18章 出来高大口取引/クリーンナップ取引/ 出来高のクライマックス/出来高を伴うブレイクアウト/ OBV/アキュミュレーションとディストリビューション 第19章 先行指標 TICK/TRIN/公正価値/長期債と金融株 第7部 高等トレーディング戦術第20章 高度なチャートパターン死猫のジャンプ/アップフックパターンのロング/ 逆アップフックの空売り 第21章 ギャップのトレーディング ブレイクアウエーギャップ/継続ギャップ/ エグゾースチョンギャップ/人為的ギャップ/ ギャップアップの空売り/ギャップアップの買い/ ギャップダウンの買い/ギャップダウンの空売り 第22章 イベントドリブントレード 決算発表/IPO/公募/株式分割 第8部 心理第23章 トレード心理恐怖心をもたない/市場に耳を傾ける/ 責任を受け入れる/貪欲は障害となる/ 欲求不満を克服する/過去を振り返らない/ 自信を持つ/裕福さを意識し続ける/ 安全性は幻想である/目標を書き留める 結論 |
今回、私は本書を大変興味深く読んだ。しかし Amazon.com の書評などを読むと、本書を高く評価する読者がいる一方で、内容が凡庸だとして低い評価をつけている人もいる。察するに、どうやら後者の人々は本書の本当の価値が分かっていないようだ。デイトレードの教科書はこれまでに数え切れないくらい出版されているが、そのほとんどは個人投資家によって書かれたものである。しかも、その過半はデイトレードで失敗した人が書いている。
もちろん、個人投資家の手によるデイトレードの教科書でも優れたものは存在する。だが、そうした良書であっても私が見たところ、避けられない欠点を持っている。それは日中の価格が動く理由、つまりマーケットのダイナミクスに関する考察がどうしても稚拙になってしまうということである。これは仕方がないことである。
マーケットはそれを構成する複数の主体によって成り立っているが、それらは器としてのマーケットを提供する主体である取引所、清算機関、ブローカー、マーケットメーカーなどと、用意された器の中で取引に参加する主体、例えば機関投資家、実需筋、個人投資家などに分けられる。このうち、個人投資家がその動きを真に理解しているのは個人投資家自身のことだけである。ほかのマーケットメーカーや機関投資家、実需筋といった主体の行動原理や習性については、個人投資家はあくまで推測でモノを言っているにすぎない。実際、デイトレードの教科書に書いてあるそうした「推測」は、残念ながらそのほとんどが大きく間違っている。
本書の本当の価値は、マーケットのダイナミクスに関して正しく真実に基づいた考察がなされている点にある。それができるのはマーケットメーカーやブローカーを長年務めた経験のある実務家だけである。本書に書かれてあるトレードテクニックは、既存のデイトレードの教科書の示すところの範疇を、結果として大きく逸脱するものではない。しかし、それが紡ぎだされた背景はあくまで事実と経験に基づいており、ほかの投資本が経験のフィルターを通ってはいるがかなり危ない推論に依拠しているのとは、明らかに質が違うのである。
値動きを表面的な現象としてのみとらえるのではなく、マーケットの力学を理解したうえでトレードを行おうという意欲のあるトレーダーにとって、本書はまたとない教科書になると私は考える。
翻訳に当たっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。翻訳者の鈴木敏昭氏は丁寧な翻訳を実現してくださった。そして阿部達郎氏にはいつもながら丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
2011年5月
長尾慎太郎
CNBCの報道によれば、デイトレーダーの大半がトレーディングを始めて6カ月以内に破綻する。日常的に取引するデイトレーダーは、1日に約定する100万件超のネット取引の30%を占める。ネット取引をする米国人の膨大な数と初心者の高い予想破綻率を踏まえれば、大変危険な事態が予想される。21世紀の最初の数年間にかつてないほどの米国人がデイトレードでお金を失うことになるだろう。米国では総合的で分かりやすく効果的なデイトレードのガイドが必要になっている。そのために本書が書かれた。
デイトレーダーは1792年の株式市場の創設以来存在している。人類は通貨の使用とともに価格についての投機を開始した。この営みは市場がどんな状態であろうと続くはずだ。
1990年代の猛烈な強気相場の間にデイトレードに関する一般の関心や需要、参加が大幅に増加した。リターンの向上、技術進歩、売買手数料が安いネット証券会社が提供する手軽な参加、さらには大衆の退職資金不足などの要因が重なって株式保有と株式市場への関心が爆発的に高まった。1999年には米国人のほぼ半数が何らかの形で株式を保有していた。それらの投資家やトレーダーのほとんどは投資から得られる金額について非現実的なほど高い期待を持っており、この点についての教育が必要になっている。
デイトレードで利益を上げるための原則は、おおかたが単純なものだ。それなのに、内部的・外部的なさまざまな要因のせいで意思決定プロセスをわざわざ複雑にする傾向がよくみられる。
デイトレードでは貪欲、恐怖、こだわり、恥、後悔、安全の希求といった日常生活で出合う感情の落し穴が拡大される。トレーディングの世界では、私が内部的要因と呼ぶそうした感情的・心理的わなが金銭的損失の最大の原因となっている。
成功のためにはどんなトレーダーも効果的なトレーディングプランが必要になる。最高のプランは単純かつ総合的なもので、リスクコントロール、仕掛けと手仕舞い、テクニカル分析とファンダメンタル分析、トレンドの発見、トレーディング戦術などの外部的要因を取り扱う。
本書はトレーディングについて書かれた大部分の本と違って内部的要因と外部的要因の両方に特別な重点を置いていることが特色となっている。またトレーディング世界のセルサイドの観点から書かれ、ウォール街のプロのトレーダーが使う戦術と方法を説明している点もユニークと言っていい。
大衆がこれまでなかなか手に入れにくかった情報は、マーケットメーカーが実際にどんな仕事をしているか、またどんな理由でその多くが効果的なデイトレーダーになっているかということだ。デイトレーダーはマーケットメーカーの役割と目的についてあらゆる種類の誤解をしている。マーケットメーカーは誤ってデイトレーダーの敵という烙印を押されているが、実際にはデイトレーダーの敵はデイトレーダー自身なのだ。
マーケットメーカーは形態や規模の点でさまざまに分けられる。そのなかには、リスクをとって資金投入することのない小規模な個人投資家向けマーケットメーカーや、注文フローを円滑化するためにたえず大きなリスクをとる大規模な機関投資家向けグローバルバンクなどがある。機関マーケットメーカーの強みは経験とテクニカルな専門知識にある。彼らが享受している優位性のひとつは注文フローの仕組みを理解していることにある。大口の買い手や売り手は必ずその活動の痕跡をあとに残す。どこをどうやって見ればいいかを知っている者なら、だれでもその活動が見える。本書はマーケットメーキングの経験のないトレーダーに注文フローの仕組みに関する情報を提供することによって、そうした活動の理解に役立ててもらうことを意図している。本書は出来高をもとにした短期トレンドの発見を活用する単純な方法についても解説している。
デイトレーダーに対するマーケットメーカーのもうひとつの優位性は、大規模な財務的後ろ盾があるということだ。そのおかげでリスクエクスポージャーを拡大し、大きな損失に耐えられる。なかでもマーケットメーキング業務を行う大手グローバルバンクは最大の資金力を持っている。デイトレーダーにとって1万ドルの損失は高額かもしれないが、機関マーケットメーカーにとっては事業遂行のコストにすぎない。デイトレーダーは大規模な財務的後ろ盾の欠如を適切なリスクコントロールと現実的な期待によって補うことができる。そのどちらについても本書で取り上げている。
始めたばかりのデイトレーダーは経験不足を克服する必要があるが、それは多くの場合、してはならないことを学んだり、間違いを犯すことによってのみ達成される。この過程は非常に高いコストがかかることがあり、それに耐えられないデイトレーダーも少なくない。本書は慎重なリスクエクスポージャーを段階的に確立し維持するための指針について触れており、このことが、始めたばかりのデイトレーダーが最初の嵐を乗り切る手助けとなるだろう。
第一級のマーケットメーカーは強力なリサーチ部門のおかげで難なく情報を利用できるようになっている。だが、インターネットがグローバルバンクと個人投資家の間にある情報障壁を打ち壊した。昨今ではだれでも最高のリサーチ結果をインターネットで簡単に入手できる。時にはマーケットメーカーがインターネットで発表される重要情報の動向を最後に知るという事態も起きている。
最高のマーケットメーカーやトレーダーはトレーディングがチェスやポーカーに似ているということを知っている。成功のカギを握るのは自分の目的を隠しながら市場を読むことだ。過去最高のチェスプレーヤーのひとりであるエド・ラスカーは自分にとってチェスは心理戦だと語った。ゲーム中は「相手は今どんな心理状態にあるか。どうすれば一番相手を不安がらせられるか」ということを自問するという。チェス盤を客観的に見るだけでなく、むしろ相手が一番恐れていると考えられる手を打つ、とラスカーは説明した。「彼は時には相手を死ぬほど退屈させることによって、あるいは相手が本意でない攻撃を仕掛けるよう仕向けることによって勝利を得た」(インベスターズ・ビジネス・デイリー紙の「リーダーと成功」より)。こうしたことはすべてのトレーダーが直面せざるを得ない心理的問題であり、このことも本書で扱われている。
本書は最高のマーケットメーカーを敵ではなく味方としてトレードする方法について書いている。トレーダーは本書で説明されている方法や戦術をしっかり守ることによって短期的な難局を機敏に乗り切れるようになるだろう。本書はトレーダーが適切なトレーディングの習慣を身につけ、自分のエッジ(優位性)に集中することによって恐怖や弱点を克服する手助けをしようとする。それによって確信と生き残る力が強まり、自分が制御できない要因の影響を受けることが少なくなってさらに素晴らしいトレーダーになることができるだろう。
ジョッシュ・リュークマン
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