『グリーンブラット投資法』 も好評発売! |
2009年4月11日発売
ISBN 978-4-47759-7119-2 C2033
定価 本体2,300円+税
四六判 ソフトカバー 約622頁
著 者 デビッド・アインホーン、ジョエル・グリーンブラット(前書き)
訳 者 塩野未佳
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世界最大のポーカーイベントであるWSOPの2012年のイベントで、
アインホーン氏が3位になり$435万を獲得しました!<つづき>
デビッド・アインホーン |
2002年、小児がん病院への寄付を募るチャリティ投資コンファレンスで、グリーンライト・キャピタル社長デビッド・アインホーンは人をあっと言わせるような投資アイデアを聞かせてほしいと依頼されて、講演を行った。なぜグリーンライトがプライベートファイナンス大手のアライド・キャピタル株を空売りしているのか、アインホーンはその理由を説明した――事業は行き詰まり、不正会計も行われているので、株価は下がるはずと確信したからだと。この講演には説得力があった。翌朝、NYSE(ニューヨーク証券取引所)で取引が始まったが、アライド株はしばらく寄り付かない状態だった。売り注文や空売り注文が殺到したためNYSEがその注文を処理しきれず、取引を開始することができなかったのだ。
その後、大論争が巻き起こった。アライドはワシントンスタイルの情報操作で応戦し、アインホーンを攻撃し、中途半端な真実やあからさまなうそをまき散らしたと非難した。SEC(証券取引委員会)はといえば、政界と癒着したアライドの強い要請で、アインホーンが作成したアライドに対する見事な訴状を見て投資家を保護するどころか、株価操作の容疑でアインホーンの調査を開始した。さらにSECはその後6年にわたって、12回以上もの公募増資をアライドに認め、新規投資家から10億ドル以上を調達させていたのである。問題はこうして拡大していった。だが、情報操作やうそ、そしてSECの調査にもめげず、アインホーンは講演後もリサーチを続け、そしてとうとうアライドが彼の予想をはるかに超える悪事を働いていることを突き止めた――しかも、それが今日まで続いているのだから、何とも恐ろしい。
本書は、読者の心をわしづかみにするような現在進行形の武勇伝を時系列でまとめたもので、60億ドルを運用するヘッジファンドのグリーンライト・キャピタルがどのように投資リサーチを行っているのか、また悪徳企業の策略とはどんなものなのかを詳述している。読み進めていくうちに、規制当局の無能な役人、妥協する政治家、ウォール街の上得意先が違法行為にさらされないようにと資本市場が築いたバリケードを目の当たりにするだろう。また、政界と癒着した企業に政府が制裁を加えるのを邪魔する大きな障害にも直面するだろう。これは、第二のエンロンになること必至である。本書では、ウォール街、つまり投資銀行、アナリスト、ジャーナリスト、そしてなかでも規制当局の失態を明らかにしている。
アインホーンのこの「告発」は今のウォール街そのものの物語である。話は無名に近い一企業の枠をはるかに超えている。本書は、効果的な法の執行、自由な発言、そしてフェアプレーを求める重要な要望書なのである。
企業の汚職や金融詐欺など過去のものだろうという人は、ぜひとも本書を読んで考えを改めてほしい。ウォール街の現状とは、こうした違法行為が野放しにされ、こうした違法行為に加担する企業がどれほど守られ、逆にその悪を暴こうとする者は攻撃の矢面に立たされることになるのだ。これは投資と企業倫理、そして米連邦政府が投資家や納税者をどのように保護すべきか――保護してくれないことも多いが――を考えさせてくれる話である。
「政治や科学の世界と同様、金融の世界でも、最も重要なのは自由な発言やオープンな議論である。残念ながら、現行制度は厄介な問題を明らかにする者には不利になるよう、うまく仕組まれており、空売り筋ともなると抑圧された少数民族扱いである。詐欺やペテン、会社側のでたらめな説明、無知な規制当局、そして低俗な弁護士についてアインホーンが語ってくれる、あきれるような話は、読者の心をしっかりとつかむだろう」
――オーウェン・ラモント(エール経営大学国際金融センター特別研究員)「企業は明らかになった事実からどこまで真実の探求を続けるのか。それを知りたい投資家にとって、本書は必読書である」
――ハーブ・グリーンバーグ(マーケットウオッチ・ドット・コムのシニアコラムニスト)「本書では、空前絶後の優れた投資家デビッド・アインホーンが、空前絶後の優れた投資話を語ってくれる。これは投資について、空売りについて、そして企業の駆け引きについて学べる本である。アインホーンは優れた投資家だが、素晴らしい語り手でもある。知力のためにも財力のためにも、本書を心から推薦する」
――ウィリアム・A・アックマン(パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメント)
なお、グリーンライトによるアライドの空売りと本書から得られる収益のうち、個人の取り分をすべて慈善団体に寄付することを公言している。
ポーカーの世界最大イベントWSOPのなかでも、参加費が$100万バイインという最高額のイベントが開催され、デビッド・アインホーン氏が3位に輝き、$435万を手にしました!
アインホーン氏は、2006年のWSOPで得た賞金も全額寄付しており、今回も寄付をするのではないかと言われています。
なお、プレイヤー48人が参加したこの高額トーナメントは、「The Big One for One Drop」といい、貧しい国へのきれいな水の供給を整備するチャリティー団体One Dropの提携で行われるものです。チャリティーイベントでもあるため、総参加費の約10%が団体に寄付されるそうです。
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用語集
金融の専門家でなくても推理小説を読むことはできる。しかし、この物語には数十億ドルという大金と巧妙な計画とが絡んでくるため、事の推移転変をすべて理解するには、世界でも有数の投資家のひとりに手伝ってもらう必要がある。とはいえ、話は単純だ。スリルがあって、おっかない話でもある――残念ながら小説ではないのでなおさらだ。これは実話であり、しかも、わたしが記すとおり、まだ完結していないのである。
2回に分けて本書を読み終えた。もし食事と睡眠に中断されなければ、一気に読めていたはずだ。わたしは映画でしか味わったことのないような世界に引き込まれていった。本当に信じられないことだが、法制度や規制当局、そして金融メディアが一斉に動き出したものの惨敗しているのはなぜなのだろう。優れた物語にはたいてい善玉と悪玉が登場する。簡単に言えば、悪党と正義の味方が登場し、登場人物がどちらを演じているのかが分かるようになっている。ところが、本書の場合にはそうはいかない。われらがヒーローも、いったいだれを信用していいものか、途方に暮れているありさまだ。
でも、それもいいだろう。皆さんがベッドかソファでくつろぎながら興奮や陰謀を疑似体験できるなら、それも悪くない。また、世の中の仕組みについて少々勉強してみるのも悪くない。いつの世も、善人は世間に恥をさらし、悪人は大金を抱えてドロン、ということなのか。とりあえず、本書を映画化するならR指定(訳注 アメリカで17歳未満が保護者同伴で見なければならない映画作品)にしておこう。わが子はまだ世の中のことなど知らなくてもいいからね。
ジョエル・グリーンブラット
わが父スティーブは40歳までに本を出版したいと考えていた。38歳のときにはそろそろ書き始めたほうがいいと実感したが、深刻な問題を深く掘り下げる準備ができているわけでもなく、将来のビジョンを持ち合わせているわけでもなかった。そこで執筆したのはジョーク集だった。
そして父の40回目の誕生日。親戚一同がアメリカ全土からミルウォーキーに集結して誕生日を祝った。パーティー会場は中華料理のレストラン。全員がそのジョーク集を「チェック」する羽目に。ただ、問題は、その本が配られたのが明け方になってからだったこと。
ベン爺ちゃんはメモを取りながら起きていたっけ。立ちっ放しだったが、トイレットペーパーのロールが床に転がるように紙をばらまいていた。そして本のチェックを進めながら、「11ページに書いてあるのはだな……」と言っては面白い話をしてくれ、「49ページのジョークは……」と言っては、また面白い話をしてくれた。
「361ページ、スティーブはこんなことを書いておる……」
わたしたちはソファから転げ落ちた。
「12329ページのジョークの書き出しは……」
わたしの子供時代の最高の思い出のひとつがこの夜のことだった。
わたしはパーティーが終わったあとで、父から『皆を楽しませようとすると、○×だけでなく89の哲学的思考をなくす』を一部もらった。両親は1000部程度を売り上げたが、地下室にはまだ数百部ほど眠っているようだ。2008年6月の65歳の誕生日を前に、父は改訂版を書き上げた。
わたしは40歳までに本を出版しようなどと思ったことはないが、異常事態の発生で、その前に出版することになった。ジョーク集ならよかったのだが、まったく別物だ。
それはアライド・キャピタルという悪徳企業の物語である。性的緊張もカーチェイスの場面も出てこない、ジョン・グリシャムの『法律事務所』(新潮文庫)のような作品を思い浮かべてほしい。この会社、新規資本を昔ながらのねずみ講のスキームに拠出することでかなりの高額「配当」を出して株主をだましているのだが、それだけでなく、納税者からも金を巻き上げているのである。
わたしは「告発者」かもしれないが、映画に出てくるエリン・ブロコビッチとは違う。ただ、世界一ラッキーな人間のひとりではある。しっかり育ててくれた素晴らしい両親がいるし、賢くてステキな妻と元気いっぱいの3人の子供もいる。夢にも思っていなかったが、事業でも成功した。今では聡明な同僚たちと一緒に仕事をしている。だが、告発することがわたしの本業ではない。肉体労働や気難しい上司と付き合っていかなければならない重労働に比べたら、自分の仕事なんて気楽なものである。
アライド・キャピタルという会社を知る人は少ない。わたしもよくこういわれる。
「アライドなんてどうでもいいじゃないか。いったい何をどうしたいんだ? だれが読むんだ?」
本書にはターゲットになり得る読者が少しいる。まずはグリーンライト・キャピタル「ファミリー」のメンバー。グリーンライトというのは、わたしが経営している投資会社である。主な商品は、一般にヘッジファンドとして知られているもの。評判は上々だと思っている。それは優れた業績を上げているから、というだけでなく、徹底的に分析を行い、誠実さも持ち合わせているからだ。ミスを犯せば自己批判も恐れない。ずいぶんとミスを犯しているが。
グリーンライトファミリーのメンバーについて言えば、本書を読んでくれるのはうれしいが、実は、本書のターゲット読者は彼らではない。すでにご存じのとおり、グリーンライトでは6年も前からアライドの「ショート」ポジションを保有している。つまり、アライド株が下落すれば利益が出るように資金の一部を配分しているのである。わたしが何年も前からアライドの違法行為について話しているのを耳にしている人も多いだろう。だから、わたしの考えに同調してくれ、わたしの意気消沈ぶりも分かってくれていると思う。
次に読者として考えられるのは、数万人に上るアライドの株主だ。このBDC(事業開発会社)に投資をしていれば、45年間は一貫してハイリターンを得られているはずだ。大半が個人投資家だが、わたしの警告などほとんど意に介していないようだ。わたしあてに届いた不愉快なメールから判断すると、グリーンライトの奮闘に激怒している人もいる。彼らが心配しているのは、アライドの四半期配当だろう。同社が配当を払い続けているかぎり、大半の人が担がれていることになる。アライド株が下落すればグリーンライトが儲かるわけだから、本書はアライド株をさっさと売るよう説得する必死の試みに違いない。きっとそう思っているのだろう。アライドの経営陣も、わたしが私利私欲のために虚偽の事実を吹聴している、と繰り返し言っている。皆さんもそれを信じているに違いない。もしそうなら、本書でその考え方を変えるのは無理というものである。
ご存じないかもしれないが、事の性質上、グリーンライトがアライドの負けに賭けているといっても、それほどの大金ではない。確かに多額だが、アライドが当社最大の投資先でも最重要な投資先というわけでもない。過去6年の間、当社がアライドの空売りに費やしているのは資金の3〜8%にすぎないのである。
また2002年には、グリーンライトのプリンシパルらがアライドで個人的に得た利益の半分を小児がん病院に寄付することを誓った。投資成果が出るまでには思いのほか時間がかかったが、2005年には病院に100万ドルを寄付することができた。当時わたしが言っていたとおり、「わたしは待てるが、子供たちは待てない」のである。さらに本書の出版に伴い、潜在的収益(本書の印税も含めて)のさらに半分を2つの立派な組織、CPI(公共性保全センター。調査報道を行う非営利組織)とPOGO(政府監視プロジェクト。政府の支出を監視している非営利組織)に寄付することも誓った。共にワシントンDCに拠点を置く組織である。少なくとも本書で言いたいのは、もっとしっかりした調査報道や政府の監視が必要だということだ。今や投資の枠から大きく飛び出たこの話になぜわたしが関心を抱いたのかが、これではっきりするだろう。いくらアライド株が下落しようと、わたし個人としては一銭の得にもならないのだ。とはいえ、やはりアライドの株主たちは本書のターゲット読者ではない。率直に言って、大勢の方々が読んでくれているとしたら驚きだ。
当然、アライドの経営陣も皆さんに本書を読んでほしくはないだろう。実際、だれにも読んでほしくはないはずだ。弁護士を使って少なくとも5通の書簡を出版社に送りつけ、本書の刊行を阻止しようとしたぐらいだ。本書が「正確で責任能力があり、公明正大である」かどうかを確認するため、アライドの上級幹部を出版社に行かせようじゃないか、とも言い出す始末。出版社はこうアドバイスした。経営陣が著者に直接懸念をぶつけるのが筋ではないかと。わたしも出版社の人間と会い、経営陣にその機会を提供しようと申し出た。わたしからも質問したいことがあった。だが、何年もの間わたしたちとの面会を拒み続けている経営陣、当然のことながら、今回も断ってきた。実は、後に説明するが、アライドの経営陣にはヘッジファンドとは一切接触しないという決まった方針があるようだ。アライドの弁護士はこう話している。
「アインホーン氏のようなロング・ショート戦略を用いるヘッジファンドマネジャーは、『慈善活動』で『うまく空売りをする』方法、つまりSEC(証券取引委員会)やほかの規制当局の手助けをしながら金儲けをする方法についての本でも書いたらどうだね」
アライドがまさにその好例だとは思っていないようだ。まあ、判断は読者の皆さんにお任せするが。
わたしが望んでいる読者層はもっと幅広い人々だ。投資の知識があり、株式市場や企業、倫理、そして政治にも関心を抱いている人々。それでフェアなゲームができるわけだが、そういう人々にとって、本書が理想にかなうとよいと思っている。本書を読んでいくと、いつかこうつぶやくときが来るだろう。
「もういい! 分かったよ! 確かに悪徳企業だ。もう言いたいことは言っただろう」
わたしがもう言いたいことを言ったって? 本書を執筆したのは、「ケーススタディー」を通してアライドの悪行をドキュメントとしてまとめるため。そしてさらに重要なのは、そうした悪行に対する規制当局――われらが政府の代表――の無関心な態度を白日の下にさらすためである。
読み進めていくうちに、皆さんはわたしと同じ疑問を抱くかもしれない。規制当局はどこだ? SECはどこにいるんだ? 市民の税金の悪用にこれほど無頓着な政府機関で働いているのはどんなやつなんだ? 議会は何をしている? 検察官は何をしている? 監査役や取締役会は何をしている? そして信じ難い話を深く掘り下げ、告発できる立場にいる事件記者や編集者はどこにいるんだ?
エンロンやワールドコムは企業不正を暴かれたじゃないか。多くの人はそう考えている。犯罪者は起訴され、議会が出てきて厳格な不正防止法を可決、成立させ、多くの公開企業が今ではより慎重になり、しっかりと財務管理を行うようになった。だが、問題は、悪人がすべて起訴されているわけではないこと、当局者も本腰を入れているようには見えないこと、そして投資家が繰り返し痛い目に遭っているということだ。
変に思われるかもしれないが、振り返ってみると、すべてが慈善活動から、「明日の子供たちの財団」に寄付をするという慈善活動から始まった。この財団はニュージャージー州のハッケンサックにある小児がん病院を支援しており、資金は年に一度開かれる投資コンファレンスを主催して調達している。この会議は、著名な投資家が参加費を払ってきてくれる一般投資家と一緒になって、いくつかの銘柄を選び出して議論するという趣旨で、収益金はすべて病院に行くことになっている。わたしは自分が有名人だとは思っていなかったが、光栄なことに、2002年のコンファレンスで講演を依頼された。そこでがんセンターのこと、そしてセンターががんの子供たちとその家族に提供しているサービスについて聞かされ、瞬時にこれは支援する価値があると判断したのである。特別な会社にいるのなら、世間の役に立つような仕事がしたい。そう思ったのだ。
大勢の見ず知らずの人を前に講演などした経験はなかったが、参加者の注意を引くようなアイデアを出して、ぜひとも議論してみたかった。当社のポートフォリオでそのとき最も切実だったのがアライド株のショート(空売り)というアイデアだった。ショートというのは、株式を保有する、つまりロング(買い持ち)とは逆の手法である。ロングは株式を安値で買って高値で売るというアイデアだ。ショートの場合にも、やはり株式を安値で仕込んで高値で売り抜けたいと思うかもしれないが、この場合には売りが買いに先行する。つまり、こういうことだ。証券会社が株主から株を借り受け、それを投資家に貸し付ける。投資家は借りた株を市場で別の買い手に売却して売りポジションを建てる。後日、市場でその株を買い戻してそのポジションを手仕舞い、買い戻した株を証券会社に返却して「ショートカバー(決済)」する。そして証券会社はその株を元の株主に返却する。損益は、ショートしたときに受け取った価格とその株を買い戻したときに支払った価格差になる。株価が下落すればそれだけ利益は増えるが、株価が上昇すれば、逆に損失が膨らむことになる。
コンファレンスでは11人が講演を行ったが、わたしの順番は最後から3番目だった。前の人たちは皆、素晴らしいアイデアを披露してくれた。ゼネラルモーターズでは年金と健康保険の長期債務が大問題になっているが、グレンビュー・キャピタルのラリー・ロビンズがその経緯について説明した――この講演から2年もたって、ようやくこの長期債務のニュースが新聞の一面を飾る。レッグ・メイソンのビル・ミラーはネクステルを推奨。一方、フィデリティ・マゼランファンドの元マネジャー、モリス・スミスは、靴ブランドのキャンディーズについて話をした。
わたしが講演を行ったのはもう日も暮れるころ。市場はすでに取引を終えていた。ところが、アライドの問題について詳しく語ったところ、そのうわさが広まり、翌朝は市場が開いても同社株がまったく寄り付かない状態になった。売り物が殺到し、ニューヨーク証券取引所も時間どおりに約定させることができなかったのだ。結局、寄り付いたときには20%も値を下げていた。しかし、その日の急落も、計り知れない不正を暴こうと何年も前から策を練っていた大ばくちと比べたら大したことはなかった。
本書はそのアライドの不正について詳述したものだが、規制当局は本分を怠り、不正を野放しにしている。株式アナリストや記者も、ほとんどが先入観を抱いているのか、尻込みしているのか、怠慢なのか、それともただ無関心なだけなのか、いまだに真実を記事にしてくれていい。わたしが2003年10月にアライドの件で書簡を書いてSECに送ったときも、SECは見て見ぬふりをし、規則に従って行動している投資家やほかの正直な企業に悪影響を及ぼす行為を放置した。
アライドの経営陣はいつでもわたしの申し立てに応戦できるというのに、その根拠となっている事実に本気で向き合おうとしているのを見たことがない。できないのだ。それどころか、逆にわたしが市場操作をしていると触れ回っている。わたしの講演については、ここでお話しするよりも、http://www.foolingsomepeople.com/を見てほしい。
詐欺師というとどのようなイメージを思い浮かべるだろう。株取引で詐欺を働き、FBIに追われるヘンリー(ポール・ニューマン)と若き詐欺師ジョニー(ロバート・レッドフォード)を描いた映画『スティング』が有名だが、2人ともとにかくカッコいい。人を魅了する力のあることが一流詐欺師の条件なのか。結婚詐欺が好例だが、詐欺の場合、被害に遭っている当事者に被害者意識がない場合が多い。詐欺だと気づくのは、たいてい大金を貢いでしまったあとである。アライド・キャピタル(日本にも同名企業があるようだが、本書に登場するアライドとは無関係である。念のため)の経営陣もそのたぐいなのか。株主たちも、高額配当をきちんと受け取っているのだから、当然自分たちが被害者だとは思っていない。ウォール街にとってはまさに泣きっ面に蜂状態だが、昨年末にはバーナード・マドフ・ナスダック元会長が同様のねずみ講による巨額詐欺で逮捕された。詐欺師としては完璧だ。SECも見抜けなかったようだが、本書ではそうした規制当局や政治、司法の不備や怠慢、無関心ぶりなどが浮き彫りになっている。わが国の状況に照らしてみると、さして変わらない部分もあることが分かり、なぜかニヤリとしてしまうのはわたしだけだろうか。ただ、あらためて財務諸表や氾濫する情報の読み方の難しさを思い知らされる。
本書の著者デビッド・アインホーン氏は、まさしくそんな巨悪に果敢に挑んでいく正義感あふれるアメリカ人だが、2003年にウォーレン・バフェット氏と昼食を共にする権利を25万100ドル(約2500万円)で落札したことで知られる。また、何と言っても、昨年リーマン・ブラザーズの会計処理を批判し、空売りを仕掛けたことでメディアの注目を集めた。それにしても、長いドキュメントを書いてくれた。話が未完のせいか、読後にはやや物足りなさも残るが――決着がついてから自らの相場観などと共に勝利宣言として執筆してくれてもよかった。そこで後日談を、と思ったが、あと一冊本ができてしまいそうなのでやめておく。ちなみに、2009年3月13日付のアライドの株価は、終値で1・03ドル、配当は1株当たり2・60ドル(利回りは何と252・40%!)。
この長編の訳出に当たっては、パンローリングの皆様をはじめ、FGIの阿部達郎氏に大変お世話になった。ここでお礼を申し上げたい。
塩野未佳
内容が濃く、すべてを理解することは難しいが、読みやすく書かれており、最後まで面白く読むことができた。(R.T様 20代)
アインホーン News
2014年5月5日、ニューヨークで開催された第19回ソーン・カンファレンスに、2002年から登壇しているアインホーン氏が講演を行いました。同イベントは、注目されるヘッジファンド運用者が投資アイデアを講演するもので、全収益は小児がんの研究機関に寄付されるようです。アインホーン氏のプレゼン(外部リンク)
=====2012年 ポーカー世界3位に!=====
2006年、ポーカー世界大会で獲得した賞金を全額寄付
2006年、初参戦したポーカー世界大会 WSOP で、8,773名のうち18位に入り65万9730ドル (約7600万円) の賞金を獲得したアインホーンは、その賞金をパーキンソン病研究のためマイケル・J・フォックス基金に全額寄付した。
アインホーンは、ポーカーと銘柄選択は似ていると述べている。
目次
まえがき
謝辞
アライド・キャピタルの株価チャート
登場人物はじめに――講演の反響
第1部 慈善活動とグリーンライト・キャピタル
第1章 グリーンライト創業以前
第2章 「公認」を得て
第3章 グリーンライトの初期の成功
第4章 インターネットバブル期のバリュー投資
第5章 アライド・キャピタルを解剖する第2部 めまいがするほどの急展開
第6章 アライドが反論する
第7章 ウォール街のアナリストたち
第8章 「まさかの」会計手法
第9章 事実――いや、きっと違う
第10章 ビジネス・ローン・エクスプレス
第11章 休戦かと思いきや、再び戦闘開始
第12章 おれか、それともお前の偽りの瞳か?
第13章 ディベートと市場操作
第14章 株主に報いる
第15章 いったいBLXに何の価値があるというのか?第3部 だれか、だれでもいいから目を覚ましてくれないか?
章16章 政府が調査に入る
第17章 つらい朝
第18章 操り手、物書き、そして学者
第19章 クロールが深く掘り下げる
第20章 当局を奮起させる
第21章 900万ドルを賭けたスリーカードモンテ第4部 社会はどう機能しているのか(いないのか)
第22章 もしもし、どちら様?
第23章 内部告発者
第24章 ネイキッドアタック
第25章 別の融資でまた不正
第26章 政治のにおい
第27章 金を持ち出すインサイダー第5部 グリーンライトは正しかったんだ……、さあ、頑張ろう
第28章 告発と否認
第29章 告発と自供
第30章 終盤戦
第31章 SEC、カーペットの下にシミを発見
第32章 雑草がはびこる庭
第33章 有罪判決、公聴会、そして訴訟の棄却
第34章 見る目がない者、不器用者、メビウスの帯、そしてモラルハザード
訳者あとがき
■まえがき
■はじめに――講演の反響
■訳者あとがき
2009年4月
読後のご感想
日本では、あまりメジャーではないアライドという会社を通じ、アメリカの証券業界の内側に切り込んだ傑作である。 (A.S様 30代)
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