『知られざるマーケットの魔術師
驚異の成績を上げる無名トレーダーたちの素顔と成功の秘密』
著 者 ジャック・D・シュワッガー
監修者 長岡半太郎
訳 者 山口雅裕
2021年6月発売/四六判 414頁
定価 本体 2,800円+税
ISBN978-4-7759-7284-7 C2033
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マイケル・プラット氏が率いるブルークレスト・キャピタル・マネジメントが2021年に約30%のリターン。Bloombergによると、ヘッジファンドの平均リターンの3倍だといいます。
資産家プラット氏の資産拡大、ブルークレストが昨年30%のリターン(2022年1月18日)
本書がこれまでのシリーズと一番異なるところは、自己資金を運用する個人トレーダーに焦点を当てたことだ。彼らはトレード界ではまったく知られていない存在だ。それにもかかわらず、彼らはプロの一流のマネーマネジャーに匹敵するパフォーマンスか、またはそれを大きく上回る成績を残している!
その知られざる個人トレーダーたちとは……。
「トレードの知恵が金粉のようにちりばめられている。これらのトレーダーたちはこれほど驚くべき成果をどうやって達成したのだろうか? ジャック・シュワッガーは『マーケットの魔術師』シリーズに加えられた、とても読みやすく洞察に満ちた本書でそのすべてを説明している」――ジョエル・グリーンブラット(『グリーン ブラット投資法』『株デビューする前に知っておくべき「魔法の公式」』[パンローリング]の著者兼ゴッサム・アセット・マネジメントの社長)
「ジャック・シュワッガーはインタビューを素晴らしいストーリーに仕立てる達人であり、初心者にも専門家にも分かりやすい形で世界最高のトレーダーの秘密を明らかにしてくれる」――ラウール・パル(リアル・ビジョン・グループのCEO兼共同創設者)
「ジャック・シュワッガーにはトレーダーが気兼ねなく話せるように仕向ける才能がある。世間に知られていないトレーダーについてはどうだろうか? 本書はその疑問に答えて、頼りになるひらめきを与えてくれる」――マイケル・コベル(『トレンドフォロー大全』[パンローリング]の著者)
「トレーダーは『マーケットの魔術師』シリーズから多くを学ぶことができる」――ハワード・リンドン(ストックツイッツの共同創設者)
「私は相場に興味がある人には、ジャック・シュワッガーの著書をどれでもいいから読むようにと勧めている」――J・C・パレット(Allstarcharts.comの創設者)
原題:Unknown Market Wizards : The best traders you've never heard of by Jack D. Schwager
第2章 ジェイソン・シャピロ Jason Shapiro
メディアと大衆とCOTリポートから転換点を見抜き、二〇年間で年平均三四%を上げる生まれつきのコントラリアン
第3章 リチャード・バーグ Richard Bargh
テクニカル分析とファンダメンタルズを融合させ、六年間で年平均二八〇%を達成する裁量トレーダー
第4章 アムリット・ソール Amrit Sall
入念な事前準備をしてユニコーン(めったにない機会)時に大きく張り、一三年間で年平均三三七%をたたき出す直感トレーダー
第5章 ダルジット・ダリワル Daljit Dhaliwal
詳細なトレード日誌から自らをエッジを特定し、九年間で年平均二九八%のリターンを上げる努力家
第6章 ジョン・ネット John Netto
ファンダメンタルズとテクニカルを融合させてイベントに立ち向かい、一〇年間で年平均四二%を実現する元海兵隊員
第8章 クリス・カミロ Chris Camillo
SNSで新トレンドをいち早くキャッチし、一四年間も年平均六八%のリターンを続けるソーシャルアービトラジャー
第9章 マーステン・パーカー Marsten Parker
柔軟にシステムを変えたり、捨てることで、二二年間で年平均二〇%の実績を上げるシステムトレーダー
第10章 マイケル・キーン Michael Kean
長期保有とバイオ株のイベントを利用した短期の売りトレードを組み合わせ、一〇年間で年平均二九%を誇る一人マネーマネジャー
第11章 パベル・クレイチー Pavel Krejci
決算発表直後の買いのデイトレードだけで、一一年半(実質的な売買期間は年4カ月)で年平均三五%を成し遂げる元ベルボーイ
結論――マーケットの『魔術師による四六の教訓』
エピローグ
付録1 先物市場を理解する
付録2 パフォーマンスの指標
三〇年以上前に書いた、最初の二冊の『マーケットの魔術師』を読んだことがある読者は、大成功を収めた本書のトレーダーたちが示した市場に対する洞察やトレードのアドバイスが、最初の二冊に登場した伝説的トレーダーたちのものと驚くほど似ていることが多いのに気づくでしょう。ここから重要な教訓が得られます。すなわち、市場とトレードには不変の真実がある、ということです。また、これらの著書が欧米の読者だけでなく日本の読者の共感をも呼んでいるということは、それらの真実が時を超えるだけでなく文化も超えるということを示しています。
投資が事業のキャッシュフロー生成力や成長性を客観的な分析によって測る経済的なゲームであるのに対し、トレードは内省を伴う行動科学上のゲームである。本文中からうかがえるように、彼らマーケットの魔術師の成功の影には、特異なメンタルモデルの存在がある。 一般の社会では所属組織の論理や都合に自分を完全に合わせることが求められる。しかし、トレードにおいては、金融市場の構造を理解し、そこに参加する売買主体の行動や心理を見極める必要はあるものの、それにどう対処し、行動するのかについては、他人が決めた規範に唯々諾々として従うのではなく、徹頭徹尾自分に合ったレジリエントな方法を自己の責任において主体的に選ばなければならない。これは日本の社会で一般に望ましいとされる行動様式やマインドセットとは対極にある。
本書が示す自由で創造性豊かなトレードの世界はまことに素晴らしい。それに比べると、伝統的な投資の世界のなんと窮屈で硬直的なことか。インターネットの出現やコンピューティングパワーの増大は、金融市場におけるエントロピーを増大させ、旧弊にとらわれて動けない機関投資家の多くを窮地に追い込んだが、一方でそれらのイノベーションと共存する柔軟性および他者から異端と呼ばれることをいとわない勇気を持つ個人トレーダーは未来を切り開く手段と機会を得ることになった。本書はそうした意欲ある個人のためのものである。
翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。山口雅裕氏は前著に引き続き、この貴重な書籍を丁寧に翻訳していただいた。そして阿部達郎氏にはいつもながらの手際の良い編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、後藤康徳氏をはじめパンローリング社の関係者一同と著者のジャック・シュワッガーの信頼関係に負うところが大きい。本書にはこれを反映して、この日本語版のみに著者本人に対するインタビューが収録されている。
二〇二一年五月
長岡半太郎
彼らはラビにこの言い争いを解決してほしいからと説明して、会ってもらう約束をした。彼らがラビの家に着くと、ラビはオフィスで一人ずつ話しましょう、と言った。まず、デイブがラビのオフィスに入った。
ラビは、「妻がいることを気にしないでください。私の代わりにメモを取るためにいるだけです」と言った。
デイブは「問題ありません」と言い、自分の主張について説明をし始めた。「私は市場が効率的だと信じています。これは何千もの学術論文に裏付けられた主張です。それに、これは単なる理論的な主張ではありません。実証研究でも、投資のタイミングを決める個人投資家は指数連動型の投資信託よりも成績が大きく下回ると繰り返し示されています。プロの資産運用者でさえ、平均では一貫して市場平均よりも成績が悪いという結果が出ています。これらすべての証拠に照らせば、トレードは愚か者がするゲームです。人々はインデックスファンドを買うだけにしておいたほうが、はるかに良い結果が得られるでしょう」
熱心に耳を傾けていたラビは「あなたは正しいです」とだけ言った。
デイブは誇らしげにほほえみ、会話の結果に満足してオフィスを去った。
次に、サムがオフィスに入った。同じ説明を受けたあと、彼は自分の主張をした。彼は、効率的市場仮説の無数の欠陥について、長い説明から始めた(効率的市場仮説の欠陥についての議論は長くなりすぎるので、ここではできない。興味のある読者は、私の著書『シュワッガーのマーケット教室』[パンローリング]の第2章を参照してほしい)。次に、彼は言った。「あなたは私がトレードで生活費を稼いでいることをご存じです。私は素敵な家を持っています。家族には大事にされています。私がシナゴーグに毎年気前良くしている寄付は、私がトレードで得た利益から出しているのです。明らかに、トレードでかなりの利益を得ることは完全に可能です」
細心の注意を払って聞いていたラビは「あなたは正しいです」と答えた。
サムは満足げにほほえんで、オフィスを出た。
ラビと妻だけになると、妻が彼のほうを向いて、「ねえ、あなたが賢いことは分かっていますが、二人とも正しいということはないのでは」と尋ねた。
「君の言うことはもっともだ」とラビは答えた。
しかし、ラビの妻は間違っている。デイブとサムの主張は状況が異なるために、どちらも正しいのだ。トレーダー(あるいは投資家)の世界は二つのグループに分けることができる。エッジ(優位性)がある手法を持っている人々と、それを持っていない人々だ。エッジを持っていないグループのほうがエッジを持っているグループよりもはるかに大きい。トレードや投資に特別なスキルがない市場参加者(ほとんどの人が含まれるグループ)は、自分で相場の判断をするよりも、指数連動型の投資信託に投資するほうが、良い結果が得られるだろう。そのため、皮肉なことに、私は効率的市場仮説が妥当だとは思っていないが、ほとんどの人はこの理論が完全に正しいかのように行動するのが最も良いと思う。だから、株価指数への投資を支持する。これが、デイブの主張が正しいときの状況だ。
しかし、難しいことと不可能なことはまったく別の話だ。本書に登場したトレーダーたちが長期(通常は一〇年以上)にわたって市場のベンチマークを大きく上回っている事実を、単なる「運」で説明することはできない。これが、サムの主張が正しいときの状況だ。
トレードで成功する可能性について、本書で伝えることが一つあるとすれば、それはこうだ。成功は可能だ! しかし、これはほとんどの人にとって実現できる目標ではない。トレードで成功するには、勤勉さと生まれつき持っている能力と有利な心理的特徴(忍耐力や規律など)が必要になる。エッジがあると実証できる手法を考案して、それを厳格なリスク管理と組み合わせることができる少数の市場参加者ならば、トレードで成功することは挑戦的ではあっても、達成できる目標である。
第12章 ジャック・シュワッガー Jack Schwager (シュワッガー氏にした質問の抜粋)
(興味深い、示唆に富んだ回答は本書で)
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