2013年10月発売/A5判 318頁
ISBN978-4-7759-7178-9 C2033
定価 本体5,800円+税
最近のトレーダーは百パーセント裁量でトレードすることに後ろめたさを感じるほど、トレードする前は自前のPCで検証を繰り返す。そのなかには、高度なPC技術と数学的・統計的な知見を持ち合わせている人や、もっとも初歩的な知識しか持ち合わせていない人もいる。しかし、知識や技術の多寡にかかわらず、トレーダーとしての根本的な悩みや苦悩は同じである。
パラメーターはどう設定すればいいのか、現在の高ボラティリティの市場ではどんな損切りがうまくいくのか、先物のトレードシステムは株式で転用できるのか、ある先物のシステム(S&P500)はほかの先物市場(ナスダック100)でも機能するのか、単純・指数・加重の移動平均線には違いがあるのか、長期システムにおける利益目標とは、オーバーナイトトレードで翌朝の寄り付きの重要性は減少したのか、イージーランゲージの落とし穴とは、トレーリングストップはトレンドフォロワーの友だちか、オープンレンジブレイクアウトは今でも通用するのか、資産曲線でトレードすべきときとすべきでないときを見極めることができるのか、ギャップは利益を予言するものなのか、長期トレンドフォローシステムの強みとは、トレンドフォローはまだ機能し続けているのか――。
われわれトレーダーが検証に向かうとき、何を重視し、何を省略し、何に注意すればいいのか――それらを知ることによって、検証を省力化して競争相手に一歩先んじて、正しい近道を見つけることができる!
原書 |
ジョージ・プルート(George Pruitt)
フューチャーズ・トゥルースCTAの研究部長で、『フューチャーズ・トゥルース』誌の編集長。ジョン・R・ヒルの部下。メカニカルシステムの開発、分析、実行およびトレーディングの25年の経験を持つ。1990年、コンピューターサイエンスの理学士の学位を取得してノースカロライナ大学アッシュビル校を卒業。副専攻は数学。数々の論文を『フューチャーズ』誌や『アクティブトレーダー』誌で発表してきた。『アクティブトレーダー』誌の2003年8月号では表紙を飾った。著書に『究極のトレーディングガイド』『勝利の売買システム』(いずれもパンローリング)がある。本書『トレードシステムはどう作ればよいのか』はプルートが12年にわたって『フューチャーズ・トゥルース』のために書いてきた論文や研究をまとめたもの。
ジョン・R・ヒル(John R. Hill)
トレードシステムの検証と評価を行う業界最有力ニュースレター『フューチャーズ・トゥルース』誌の発行会社の創業者兼社長。同誌は、世界初の検証専門誌として、世界中のトレードシステムを客観的な立場から検証し、ランキング付けを行い、プロのトレーダー・投資家だけでなく個人投資家にも高い評価を受けている(//www.futurestruth.com/)。
だが、トレードシステムを販売する業者のなかにも、少数だが真摯にマーケットの攻略に取り組んでいる人たちもいて、彼らは自分たちが開発したトレードシステムのデザインレビューをプルートに依頼した。そして、まことに驚くべきことであるが、本書のなかで紹介されているように、そのなかのいくつかのプログラムは今でも生き残って結果を出し続けている。こうして、プルートと『フューチャーズ・トゥルース』誌の存在は、まっとうなトレードシステム・ベンダーにとっては非常に心強い味方になった。
ところで、チューリング賞を受賞した故ジム・グレイは、科学の発展段階を、「経験を記述する第1段階」「理論の構築による第2段階」「コンピューター・シミュレーションによる第3段階」「データ集約型アプローチによる第4段階」の4つのパラダイムに分け、これからの科学的な方法論はデータ集約型が主流になることを予言した(詳細は、Microsoft Research(2009)“The Fourth Paradigm”を参照のこと)。
一方で、マーケットを何らかのアルゴリズムで科学的に説明しようとするのは多くのトレーダーの夢であるが、残念ながら現実のマーケットの複雑性は第2のパラダイムの理論的アプローチによる解析解の発見をこれまでだれにも許していない。現在、多くの研究者は、第3のパラダイムであるコンピューター・シミュレーションによって数値解を求めることでマーケットを攻略しようと試みているが、今のところ断片的な成功にとどまっている。そこで、トレードにおける第4のパラダイムがどんな形で具現化されるのかについては、今後いろいろな形態がありうるだろうが、考えてみれば、著者がフューチャーズ・トゥルース社で20年来行ってきたことはその嚆矢であったのだ。その意味では、システムトレードの未来はこれから現れるのではなく、とっくに始まっていたことになる。これは大変興味深い事実である。であるならば、著者の功績はもっと評価されてよいはずだ。
なお、原書は13年分の解説を集めただけあって非常に大部なものである。このため翻訳にあたっては13年間を2つに分けており、本書はその前半部分に該当する。後半部分の訳書もまもなく刊行予定である。翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。翻訳者の山下恵美子氏は分かりやすい翻訳を、そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
2013年9月長尾慎太郎
ルール
●ボラティリティを標準偏差で表す
1.昨日の終値から始まる過去20日の終値の標準偏差を計算する。
2.今日の終値から始まる過去20日の終値の標準偏差を計算する。
3.昨日の終値から始まる過去30日の終値の標準偏差を計算する。
4.今日の終値から始まる過去30日の終値の標準偏差を計算する。
5.昨日と今日のボラティリティのデルタ(変動)を計算する(デルタ=[今日のボラティリティ-昨日のボラティリティ]÷今日のボラティリティ)。長期のボラティリティは標本集団が大きいため、短期のボラティリティに比べるとそれほど頻繁には変化しない。
●2つの移動平均線を計算する
1.短期移動平均線は12日からスタートする。
2.長期移動平均線は41日からスタートする。
●2つの移動平均線の交差でトレードする
1.短期移動平均線が長期移動平均線を下から上に交差したら、翌日の寄り付きで買う。
2.短期移動平均線が長期移動平均線を上から下に交差したら、翌日の寄り付きで売る。
●移動平均線の長さを調整する
1.現在の短期移動平均線の長さに(1+デルタ)を掛ける。
2.現在の長期移動平均線の長さに(1+デルタ)を掛ける。
3.短期移動平均線が長期移動平均線を下回るようにするためと、2つの移動平均線を利益を生む範囲内に維持するために、次の制約を設ける必要がある。
●短期移動平均線の長さ
最小で12日
最大で23日
●長期移動平均線の長さ
最小で41日
最大で50日
●移動平均線を新しい長さで計算し直す。
次回は、パラメーターを状況に応じて変化させるこのシステムがパラメーターを固定するシステムよりも優れていることを証明してみたいと思う。トレードシステムを開発するときは、パラメーターは市場の関数にすることが重要だ。市場はいつ違うタイプの野獣に変化するとも限らないからだ(5年前のS&P500と今日のS&P500は明らかに違う)。