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ウィザードブックシリーズ Vol.248

システムトレード 検証と実践 システムトレード 検証と実践
自動売買の再現性と許容リスク

2017年4月発売/A5判 382頁
ISBN978-4-7759-7219-9 C2033
定価 本体7,800円+税

著 者 ケビン・J・ダービー
監修者 長尾慎太郎
訳 者 山下恵美子

トレーダーズショップから送料無料でお届け
目次まえがき序論

「ワールドカップ・チャンピオンシップ・オブ・フューチャーズ・トレーディング」で3年連続3桁リターンで1位・2位を獲得!

これが、本物のプロが行う本物の検証だ
アルゴリズムトレーダーのバイブル

本書は、ワールドカップ・チャンピオンシップ・オブ・フューチャーズ・トレーディングで3年にわたって1位と2位に輝いたケビン・ダービーが3桁のリターンをたたき出すトレードシステム開発の秘訣を伝授したものである。データマイニング、モンテカルロシミュレーション、リアルタイムトレードと、トピックは多岐にわたる。詳細な説明と例証によって、彼はアイデアの考案・立証、仕掛けポイントと手仕舞いポイントの設定、システムの検証、これらをライブトレードで実行する方法の全プロセスをステップバイステップで指導してくれる。

システムへの資産配分を増やしたり減らしたりする具体的なルールや、システムをあきらめるべきときも分かってくる。本書のウェブサイトでは、あなたのトレードアイデアを自動化・検証するためのダービー自作のモンテカルロシミュレーターやそのほかのツールも盛りだくさんに紹介されている。

本書の内容は、以下のとおり。

●市販のソフトウェアや人気のプラットフォームを使って、どんなトレードアイデアもシステムへと変えるアルゴリズムアプローチを開発する
●ヒストリカルデータと現在の市場データを使って新たに開発したシステムを検証する
●新たなシステムの基礎となる統計学的傾向を探り出すために市場データをマイニングする

市場のパターンは変化する。それに伴ってシステムの結果も変化する。過去のパフォーマンスは将来的な成功を確約するものではない。成功するためには、常に新たなシステムを開発し続け、変化する統計学的傾向に応じてシステムを調整することが避けられない。次なる飛躍を目指す個人トレーダーにとって、本書は本物のプロの実践的アドバイスが詰まっただれにも教えたくない宝のようなものだろう!


著者紹介

ケビン・J・ダービー(Kevin J. Davey)
プロトレーダーで、システム開発の第一人者。ワールドカップ・チャンピオンシップ・オブ・フューチャーズ・トレーディングでは、アルゴリズムトレードシステムを使って、148%、107%、112%と3年連続で3桁リターンをたたき出した。彼のウェブサイト(http://kjtradingsystems.com/index.html)ではトレードシステム、トレードシグナル、メンタリングなどの情報を提供している。また、『フューチャーズ・マガジン』や『アクティブトレーダー』などにも執筆し、ブレント・ペンフォールド著『システムトレード 基本と原則』(パンローリング)では「マーケットマスター」として紹介されている。SNSにも活発に参加しており、ツイッター(@kjtrading)には1万5000人近いフォロワーがいる。大学では航空宇宙工学を学び、MBA(経営学修士)も取得。20年以上にわたって個人トレーダーとして活躍してきた。今後も、フルタイムでトレードを行い、アルゴリズムトレード戦略開発に精力を注ぐ。

目次

(本テキストは再校時のものです)
監修者まえがき
謝辞
序論

第1部 トレードの旅路
第1章 トレーダー誕生
第2章 もううんざり
第3章 ワールドカップ・チャンピオンシップ・オブ・フューチャーズ・トレードでの勝利
第4章 大いなる飛躍――フルタイムトレーダーへの転身

第2部 トレードシステム
第5章 トレードシステムの検証と評価
第6章 予備分析
第7章 詳細な分析
第8章 システムの設計と開発

第3部 戦略の開発
第9章 戦略開発――達成目標
第10章 トレードアイデア
第11章 データについての話をしよう
第12章 限定的検証
第13章 掘り下げた検証――ウオークフォワード分析
第14章 モンテカルロ分析とインキュベーション
第15章 分散化
第16章 ポジションサイジングとマネーマネジメント
第17章 プロセスの文書化

第4部 システムの構築
第18章 目標、初期検証、ウオークフォワードテスト
第19章 モンテカルロテストとインキュベーション

第5部 リアルタイムでトレードする前に考えなければならないこと
第20章 口座とポジションサイジング
第21章 トレード心理
第22章 リアルタイムでトレードする前に考えなければならないそのほかのこと

第6部 ライブ戦略のモニタリング
第23章 ライブ戦略のモニタリングの詳細
第24章 リアルタイムトレード

第7部 教訓となる話
第25章 誇大妄想
結論

付録A――モンキートレードの例(トレードステーションのイージーランゲージコード)
付録B――ユーロナイト戦略(トレードステーションのイージーランゲージフォーマット)
付録C――ユーロデイ戦略(トレードステーションのイージーランゲージフォーマット)

本書のウェブサイトについて


■本書への賛辞

「『欲望と幻想の市場』のようでもあり、『マーケットの魔術師』のようでもある。これはダービーが近代的トレーダーに贈る最高の読み物だ。本書では、アルゴリズムトレードシステムの開発方法をステップバイステップで提供するだけでなく、彼がワールドカップ・チャンピオンシップ・オブ・フューチャーズ・トレーディングで実際に使った戦略に加え、2つのユーロ通貨システムも公開している。本書は幅広い読者を引きつけ、トレーダーたちの参考書になるに違いない。」――ブレント・ペンフォールド(プロトレーダー、『システムトレード 基本と原則』[パンローリング]の著者)

「ケビン・ダービーはワールドカップ・チャンピオンシップ・オブ・フューチャーズ・トレーディングで3年連続で1位と2位に輝いた人物だ。私はこういったたぐいのコンテストにはあまり興味はないが、ダービーだけは例外だ。なぜって、それはコンテストに勝利したことについての私の意見と、彼が私の意見から学んだことを本書に掲載してくれたからだ。さらに本書ではアルゴリズムの完全アプローチを提供しているだけでなく、心理の壁についても述べている。そして、目標とポジションサイジングについて多くの紙数を割いている点にも共感する。本当に印象的な本だ」――バン・K・タープ(『新版 魔術師たちの心理学』『タープ博士のトレード学校 ポジションサイジング入門』『トレードコーチとメンタルクリニック』(パンローリング)の著者)

「ダービーの本はシステムトレードをこれから始めようとする人にとって非常に良いガイドとなるものだ。コンピューター戦略トレードの入門書と言ってもよいだろう」――ボブ・パルド(パルド・キャピタルの創立者、『アルゴリズムトレーディング入門』[パンローリング]の著者)

「これはすべてのトレーダーにとっての必読書だ。トレードをうまくやるための単なるルールの羅列ではなく、著者のトレードライフの旅路をつづったものである点が非常に興味深い。ダービーは読者のみんなと成功するトレーダーになるための道を共有したいと思っている。あなたと友だちになりたいと思う彼の気持ちがひしひしと伝わってくる」――アンドレア・ウンガー(ワールドカップ・チャンピオンシップ・オブ・フューチャーズ・トレーディングの2008年、2009年、2010年、2012年の勝者)

「成功したテクニカルトレーダーは自分には市場を打ち負かすスキルがあると信じているが、彼らは本当にそんなスキルを持っているのだろうか。それともただ幸運なだけなのか。本書には、市場の非効率を利用するダイナミックなトレード戦略の設計に多大な時間を割いてきたトレーダーの経験がぎっしり詰まっている。市場を効率的にするのはおそらくはこういったトレーダーなのだろう。あるいは、こういったトレーダーは市場と人間の心理を深く理解している。だからこそ、利益をものにすることができるのだろう。市場の効率性についての議論はこれからも盛んに行われるだろう。しかしとりあえずは、この成功したトレーダーの旅から学ぶことにしようではないか」――ピーター・リッチケン(ケース・ウエスタン・リザーブ大学、ウェザーヘッド・スクール・オブ・マネジメントの銀行経営・ファイナンスの教授)

「勝てるトレーダーはめったにいない。勝てるクオンツトレーダーはもっと少ない。本書はまれに見る珠玉中の珠玉の1冊だ。クオンツトレーダーにクオンツトレードシステムの構築方法を伝授する本書は、クオンツヘッジファンドを目指す人の教科書となるべきものだ。クオンツ手法を使わない人も含め、すべてのトレーダーに本書を勧める」――カート・K・サカエダ(ワールドカップ・チャンピオンシップ・オブ・フューチャーズ・トレーディングの2000年と2004年の勝者)

「本書は単なるシステムトレードの本ではない。これまでいろいろなトレード本を読んできたが、本書ほど最初から最後まで楽しめた本はない。個人的な話を織り交ぜながら、先物市場とシステムトレードをかくも率直にカラフルに綴った本があるだろうか。本書をアルゴリズムトレーダーや特殊なスキルを持ったトレーダーにだけ読ませておくのはもったいない。どんなタイプのトレーダーも、市場での成功率を上げるための何かを本書のなかに見いだすことができるはずだ」――カーリー・ガーナー(DeCarleyTrading.comのシニアアナリスト)

「システム開発がどんなものなのかを知るのに打ってつけの本だ。トレード経験が豊富な人物からの助言を得て、あなたの旅もきっと実り豊かなものになるだろう。すでにシステム開発を行っている人にとっては、あなたが使っているアプローチはもう無効だと、突きつけられるかもしれない。でもそれはより優れたトレーダーになるための試練と受けとめるべきである。ダービーのやっていることをのぞき見して、彼がトレードに使ってきたシステムの概念やフルコードを見るだけでも、本書に支払った価格以上の価値はある」――ティム・レア(プロップシステムの開発者・トレーダー、ワールドカップ・チャンピオンシップ・オブ・フューチャーズ・トレーディングの2011年の勝者)

「トレードで生計を立て、普通の人々に理解されないことに悩む人々によって書かれたトレード本がほとんどないなか、ダービーは本物のトレーダーだ。複雑なアイデアを読みやすい形に蒸留する能力を持ち、バカがつくほど正直な人物はダービーを除いてほかにはいないだろう。システム開発の方法をステップバイステップで示すこのガイドは、トレードで成功を目指す人々にとっての必読書だ。本書では避けるべき落とし穴や、豊富な情報とツールも提供している。初心者にとっても上級者にとってもこれほど役立つ本はないだろう」――マイケル・クック(カトマイ・キャピタル・アドバイザーズの創立者、ワールドカップ・チャンピオンシップ・オブ・フューチャーズ・トレーディングの2007年の勝者)

「これまで読んだトレード本のなかで、本書はほかに類を見ない素晴らしいものだ。ダービーは夢見る人々でひしめきあう業界の現実も教えてくれる。今やっていることの手を止めて、価値ある教訓を本書から学び取ってもらいたい。新人トレーダーの夢を現実に変える最速の道――それが本書だ」――ピーター・ハーゲン(シトラカド・キャピタルLLC)


監修者まえがき

 本書は、ワールドカップ・オブ・フューチャーズ・トレーディング・チャンピオンシップの優勝者であるケビン・J・ダービーの著した“Building Winning Algorithmic Trading Systems : A Trader's Journey From Data Mining to Monte Carlo Simulation to Live Trading”の邦訳である。トレードコンテストの優勝者の書いた相場書と聞くと、読者はその投資手法そのものに強く興味を引かれることだろう。著者がコンテスト時に使った具体的な手法は本文中に詳しく記載されている。だが、システムの評価は使い手の価値観によって変わる問題である。本文中に書かれているように件のコンテストではリターンのみを考慮しリスクは度外視している。このため、その投資手法をそのまま使えるかどうかは、あくまで「パフォーマンスの優劣」を読者自身がどのように定義するのかによって決まる。だが、心配には及ばない。実際にはこの本の価値はまったく別のところにある。これはシステムパフォーマンスの再現性にとことんこだわった解説書なのだ。

 一般にトレードシステムのアルゴリズム構築においては、モデルのバックテストでのパフォーマンスは大したことがなくても構わない。なぜならどうせ実際のトレードではパフォーマンスは劣化するからだ。メカニカルなトレードシステムの開発においては、過去のマーケットを完璧に説明することが目的ではないし、通常、そうした美しいモデルほどアウトオブサンプル期間の劣化は激しい。投資家やトレーダーとしての私たちが目指すのは将来においてパフォーマンスの再現性が高いシステムを作ることである。したがって、どういった説明変数、目的変数、ユニバース、時間枠、モデルの構造・機構、評価関数を使えば再現性が高くなるのか(劣化が少なくなるのか)を知ることが欠かせない。それが優れたシステムを設計するための重要なノウハウである。

 本書で詳しく解説されているウオークフォワードテストやモンテカルロシミュレーション、インキュベーションのプロセスは、再現性の高いモデルをデザインするための有力な手段のひとつである。そして、もうひとつの有力な手段は分散化である。これは著者が簡潔に書いているようにトレードシステムを分散化するというアプローチもあるし、本書には記載がないが、互いにプロファイルの異なるモデルでアンサンブル学習を行うというアプローチもある。単一のアルゴリズムで普遍的に説明力の高いモデルを作るのは困難であるか、あるいはそんなものはそもそも初めから存在しないこともある。だが、システムの分散やアンサンブル学習はだれにとっても容易に実行可能である。その意味でも、個々のモデルのインサンプルでの精度に固執するよりも、ほどほどのレベルのモデルをいくつも考案し、ウオークフォワードテストやアンサンブル学習に注力するほうがはるかにゴールに近い。著者がトレードコンテストで3年連続して優れた成績を収められたのは、素晴らしいトレード手法を発見したからではなく、再現性の高いシステムを構築できたからである。本書の知見が読者の成功に資すればとてもうれしい。

 翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。まず翻訳では山下恵美子氏に正確で分かりやすい訳出を実現していただいた。そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。

 2017年3月

長尾慎太郎

■序論

 吐き気がのど元まで上がってきた。胃のなかの胆液はもはや我慢できないレベルに達していたが、近くにトイレはなかった。ハイウエーを時速120キロで疾走するも、出口はない。生つばを飲み込みながら、呪われた運命を受け入れるしかなかった。体を丸めて死にたいくらいだった。いや、まず吐いて、それから体を丸めて死ぬと言ったほうが正確だ。

 豚肉はよく焼いて食べないと旋毛虫病になるから、と母はよく言っていたが、よく焼かない豚肉を食べたために旋毛虫病にかかったのだろうか。いや違う。じゃあ、肉汁がほとばしる生焼けのハンバーガーに大腸菌が混入されていたのだろうか。これも違う。犯人は生牛だった。正確に言えば、生牛先物だ。私に吐き気を催させたのは、4万ポンドの生牛だった。牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病というやつだ。ただし、かかったのは私ではなくて、私の哀れな投機だった。

 それは2003年12月末のことだった。私生活も仕事も順調なスタートを切ったばかりだった。私が働いていたのは中規模の航空宇宙会社アルゴテックという会社で、私は最近品質保証部門のバイスプレジデントに昇進したばかりだった(会社はのちに無情なマンモス企業に買収される)。また、クレインズ・クリーブランド・ビジネス誌の「40アンダー40」(ビジネス界において最も影響を与えた若者の年間ランキング)も受賞し、オハイオ州クリーブランドの40歳未満の前途有望なビジネススターの1人として認められた。先物トレードも順調で、手応えを感じていた(このすぐあとで市場から何倍も強い平手打ちを食らうことになるのだが)。そして、あと数カ月もすれば初めての子供も生まれる。怖いくらいの幸運続きだった。

 そして、災難はやってくる。それまでの幸福の3倍の災難が……。しかも突然に。

 私たちに初めての子供のアンソニーが誕生したのは2003年12月12日だったが、予定より2カ月も早く生まれ、死産だった。初めての子供の誕生を祝うはずの喜びのセレモニーが、突然、葬儀と埋葬へと変わった。心の準備などできているはずもない。子供を亡くすという心が張り裂けんばかりの悲しみは、経験した者でなければ分からない。あまりにも突然のことで、私は動転した。その日、夢は打ち砕かれた。こんな人生はフェアじゃない!

 希望と喜びは記憶のかなたに消えていった。言うまでもなく、エイミーと私は精神的にも肉体的にも感情的にも奈落の底に突き落とされた。

 それから1週間もたたない12月17日、第2の災難がやってきた。父が75歳の誕生日の日に亡くなったのだ。彼は過去30年にわたって3回の心臓切開のバイパス手術を受けた。しかし、皮肉なことに、彼を死に追いやったのは動脈血栓ではなく、ガンだった。それは煙突掃除人がよくかかるガンだった。元消防士で、最盛期には害虫駆除会社の共同オーナーとして煙突からアライグマを追い払う仕事をしていた父である。煙突掃除人がよくかかるガンになったのは、なるほどと思えた。命の灯がゆっくりと消えゆこうとしている父がベッドに横たわっている姿を見たとき、私の頭はコマのようにぐるぐる回り始めた。まともに考えることができないなんて、言葉では表現できないほどの悲しみに襲われた。

 1週間のうちに2回も人生を変えてしまうような出来事に遭遇した人間が、トレードや知的作業などできるはずがないとあなたは思うだろう。でも、私はそれでもトレードを続けていた。今にして思えば、私はムキになっていたように思う。そして、12月23日の引けの1時間ほど前、「そうだ、生牛先物を買わなければ!」と思ったのだ。もちろん理由はあった。しかし、その理由はそのトレードを正当化するために私の心が作り出したものだった。私は正気ではなかった。それはビジネスなんかではなかった。

 この話の結末はもうお分かりだろう。12月23日の引けのあと、米国農務省は米国で狂牛病が確認されたと発表した。市場は大打撃を受けるだろう。私は生牛先物を買っていて、市場は急落。当然ながら口座はじわじわと死を迎えつつあった。口座は当面は先物市場の日々の値幅制限だけ減少していった。私の1日の損失限度額は1枚当たり600ドルだった。そして取引所は1日の値幅制限幅を拡大した。私の口座サイズを考えると、ストップ安の値幅制限が拡大すれば、保有が1枚としても大打撃になる。

 それから1週間後、市場が3日続けてストップ安(ストップ安ではどんな価格でも手仕舞いできない)の値幅制限を拡大したあと、ようやく5400ドルの損失で手仕舞いすることができた(図A)。

 それは私が予測していた最大損失のおよそ7倍の損失だった。口座のパーセンテージで言えば、残酷なほどの損失だった。これが世界の終わりというわけではないが、いろいろな疑問がわいてきた。この1カ月はトレードにおける、そして私の人生における、長く続く連敗の始まりだったのだろうか。精神的な打撃を受けたにもかかわらず、トレードなんかやって、自分は一体何をしていたのか。気まぐれなトレード。直観だったって。そんな破壊的行為をやめようとしただろうか。そんな破壊的行為をやめれば、勝てるトレーダーになれたのだろうか。不幸な出来事の連鎖は、打撃から立ち直るきっかけとなり、トレードを好転させてくれるのだろうか。疑問は次から次へと浮かんだ。しかし、答えは見つからなかった。

 今にして思えば、おそらくは最悪の狂牛病によって私のトレードライフは救われた。本書は私のトレード話をありのまま記録したものである。本書を書いている間も私のメカニカルトレードシステムの開発スキルは向上していった。本書ではこのあと、勝てるアルゴリズムトレードシステムの開発プロセスを紹介していく。  

本書の読者対象

 あなたがどういったタイプのトレーダーであろうと、トレード経験がどうであろうと、共鳴する何かを本書から見つけることができるはずだ。

 トレード初心者の場合、本書は目からウロコになるものと思っている。トレードの利益は空から降ってくるものではない。トレードは簡単だと言う人がいるが、そんなのは大ウソだ。トレードでは大金を儲けることができるが、それと同時に、大きな損失やドローダウンやリスクのあることを忘れてはならない。トレードなんてちょろいもんさ、なんていう人はいい加減な人だと思う。時として痛みを伴う私の話は、個人投資家たちのたどる道である。初心者にはいつも、私の書いたものを読めと言っているのだが、ほかのトレーダーが書いた本も読んでほしい。何事に対しても心をオープンにすべきだ。いろいろなものを読むことで、何が正しいのか、BSとは何なのか、またあなたは何が好きで何が嫌いなのかに対する判断ができるようになるはずだ。世の中にはトレードについての間違った情報がはびこっている。だから、初心者は注意が必要だ。

 中級レベルのトレーダーや若干経験はあるもののうまくいっていないトレーダーの場合、これまでの失敗は心理や自信のなさが原因ではない。昨今のトレード本は心理面を強調したものが多いが、戦略を正しく開発しなければ、いくら心理的な準備をしても何の役にも立たない。戦略を最適化した直後にトレードで損失を出した場合、おそらくあなたは何か間違ったことをしてしまったことに気づいているはずだ。本書で説明するプロセスはあなたを正しい方向に導いてくれるだろう。

 ベテラントレーダーは本書に書いてあることはすでにどこかで見たことがあるだろう。確かに本書で議論しているような問題を扱ったトレード本は多いが、本書を読めば違うアプローチや違う考え方など、学ぶべき新しいことは必ずある。本書では今のあなたのやり方とは違ういろいろなことを発見できるはずだ。本書で発見した新しいアイデアをあなたのトレードに取り入れることで、あなたのトレードは進化するだろう。

 本書は、私が主としてやっているアルゴリズムトレードやメカニカルトレードについて書かれたものだが、自由裁量的トレーダーにも役立つ概念が満載だ。あなたの自由裁量的アプローチの一部は統計学的に検証できるはずだ。例えば、あなたの自由裁量的な仕掛けが移動平均の交差とあなたの直感から成り立っているとしよう。あなたの直感を検証することはできないが、移動平均の交差はウオークフォワードテストが可能で、最適化することができる。あるいは、ブレークイーブンで手仕舞ったり、損切りの位置を変えたいと思っているかもしれない。この検証を行うのに、間違った方法は山ほどあるが、正しい方法はほんの2〜3しかない。本書では正しい方法を学ぶことができる。したがって、本書に示した概念を利用することで、あなたの自由裁量的アプローチは大幅に改善されるはずだ。なぜなら、あなたは本書でトレードシステムの正しい設計と検証方法を学ぶことができるからだ。それが100%メカニカルな戦略であろうと、一部メカニカルで一部自由裁量的なシステムであろうと、仕掛けと手仕舞いに実際の数値を入力してこそ、あなたに自信を与え、より優れたトレードアプローチが生みだされるのである。

 本書は7部に分かれている。どの部でも下記の用語は同じものとして扱われている。

戦略とトレードシステム トレードするのに用いられるアプローチ。厳密なルールの場合もあれば、一般的なガイドラインや原理の場合もあれば、まったくでたらめな推測の場合もある。その結果として得られるのが、戦略やトレードシステムである。

メカニカルトレード、ルールベースのトレード、アルゴリズムトレード ルールが100%定義されるトレードスタイル。自由裁量は一切含まれず、トレーダーが意思決定することもない。 ハイブリッドと混合トレードシステム アルゴリズムトレードと自由裁量的トレードを組み合わせたトレードスタイル。例としては、メカニカルシステムが仕掛けのシグナルと手仕舞いのシグナルを出してくるが、トレーダーにそのシグナルを受け入れるか却下するかの選択肢が与えられているようなシステムが挙げられる。

 第1部は、私のトレードの歴史についての話である。トレードを始めた当初、私は多くの浮き沈みを経験した――ほとんどは沈んでいたが。トレード初心者はだいたいこんなものである。長年にわたって市場に「授業料」を払い続けたが、それに耐え抜き、2006年にはワールド・カップ・チャンピオンシップ・オブ・フューチャーズ・トレードで優勝し、2005年と2007年は2位を獲得した。こうした栄冠を手にしたあと、パートタイムトレーダー、トレードが趣味のトレーダーを経て、個人トレーダーたちが夢見る境地に達した。前途有望なキャリアを捨て、フルタイムトレーダーになるという夢をついに叶えたのである。

 第2部は、私が今やっていることについての話である。トレードシステムの評価から、新しいトレードシステムの設計まで、私が使っているプロセスについて説明する。プロセスはけっして完璧ではないし、絶えず進化している。でも、このプロセスには私がトレードを始めたころに知っていればよかったと思える重要な情報が含まれている。私がやっていることに断片的に従うだけでも、市場に払う授業料を何千ドルも節約できるはずだ。

 第3部から第7部では、概念からスタートし、実際にトレードで使えるトレードシステムを構築していく。これは良いトレードシステムだが、聖杯ではない(聖杯など存在しない)。さらに、聖杯に最も近づけるものであると私が思っているもの――分散化――についても議論する。そして最後に、戦略をリアルタイムでモニターする方法について、何カ月にもわたる私のトレードの進歩をつづったリアルタイムの日記を使って説明する。

 私のストーリーを読むことで、私が犯した過ちを犯すことなく、そうした過ちから多くを学んでもらいたい。これまでに私は星の数ほどの過ちを犯してきた。こんな私だからこそ、読者のみなさんに多くのことを伝えることができるのである。


参考文献


アルゴトレード完全攻略への「近道」

アルゴトレードの入門から実践へ

アルゴリズムトレードの道具箱

世界一簡単なアルゴリズムトレードの構築方法

高勝率システムの考え方と作り方と検証

トレードシステムの法則

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