日本語版への序文 ラリー・ウィリアムズ 1 監修者まえがき 3 著者の辞 11 序文 13 第1章 アメリカ株式市場の10年パターン 17 歴史は繰り返す 18 マーケットで成功するための道 18 驚くべき「5」の年 28 確実な「7」の年 30 第2章 4年現象 35 ビクビクしながら見守る 37 子供にも分かる単純さ 39 2002年の意味 40 142年の実績 42 「8」の年は買いのチャンス 46 第3章 驚くべき10月効果 51 10月効果の理由 57 買いチャンスのおさらい 60 次にどうすべきか 62 第4章 マーケットの底を探る 63 株が過小評価されているときを知るには 63 FRBが利用する指標 65 炎に油を注ぐ 68 株価上昇の燃料源 70 投資家センチメントがサバイバルのカギ 73 当てにならない投資アドバイザー 76 株価予測に債券相場を活用 77 債券を使ったマーケットタイミングで株式売買 79 将来を見越して 89 金相場への妄信 90 第5章 来るべき素晴らしい上昇相場に備える 95 過去の教訓 97 投資家心理を理解するカギ 105 相場崩壊パターン 105 ナスダックの今後 114 第6章 投資の目的 115 最良の投資とは 116 長期投資への誤信 120 もう一度確認しよう 123 どの株に投資すべきか 125 重要なのは一貫性 126 第7章 投資収益を高めるには 131 最大のルール 132 最大の投資目標 135 第二の目標 139 第8章 オールドエコノミーはニューエコノミー 141 ファンドの動向を知る方法 144 株が上がる理由は2つだけ 144 株が上がる2つ目の理由 146 「割安」に株を買う方法 147 ハーレーダビッドソン 148 フェデラルホームローン 150 ヒレンブランド・インダストリーズ 151 カーライル・カンパニーズ 152 トムソン・コーポレーション 154 企業債務 155 インサイダーによる自社株売買 156 第9章 個別銘柄の投資家センチメント 161 投資家センチメントと個別銘柄 163 チャートで確認 164 基本的ルール 164 オプション取引にセンチメント指標を利用する 167 アドバイザーを強気/弱気にさせるもの 169 指標の正確性を高める 171 買いシグナルの選り分け 172 株価変動の理由 175 この指標を使ったわたしの過去トレード 176 株の季節性 178 第10章 投資への心構え 189 われわれがすべきこと 190 バリューがすべて 191 リスクコントロールの3つの方法 193 バリューをはかる7つの基準 194 バリューを見極める 196 その他の研究 197 ウォール街の狂乱への対処法 200 第11章 長期投資の成功にむけて 203 マーケットが底を打つとき 207 利益率 211 正味運転資本 211 価格の重要性 218 利回り、キャッシュフロー、PSR、その他指標についての真実 219 ミューチュアルファンドについての補足 232 ウィリアムズ式ウォール街に勝つ方法 232 ラリー・ウィリアムズの高配当利回り投資法 234 怠け者がマーケットに勝つ方法 237 ファンド乗り換えで1万ドルが800万ドルに 240 第12章 マネーマネジメント――王国への鍵 245 行き当たりばったりのトレーダーたち 246 自分に適したマネーマネジメント手法を選択する 247 マネーマネジメントの光と影と闇 249 ドローダウンに基づく発想の転換 252 ライアン・ジョーンズとフィクストレシオ・トレーディング 253 わたしの解決法 256 第13章 最後に――ランダムなマーケットをノンランダムに考える 261 IPO株 263 わたしの水晶玉占い 264 商品市場 267 運輸産業 270 金融サービス 271 娯楽産業 272 カウチポテトに投資 273 投資のチャンスはふんだんにある 274 炎にもっと油を注ぐ 274 付録――本書に関連あるパンローリング発行書籍一覧 276
2003年10月
ラリー・ウィリアムズ
追記 日本の皆さんにわたしの著書を母国語で読んでもらえることは大きな喜びだ。本書を出版してくれたパンローリングの後藤康徳氏、翻訳作業に当たってくれた増沢和美氏に感謝したい。
2003年12月
長尾慎太郎
さらには1962年以来、常に単純な事実がわたしの頭の片隅にはあった――「下1ケタが2で終わる年はたいてい強気相場そして経済上昇の幕開けとなる」。そういう意味では、この本は1982年の本の続編だと言える。アメリカの素晴らしさは過去ではなくわれわれの行く先にある。すべてが終わってしまったわけではなく、良き時代は未来に待ち受けているのだ。その到来のタイミングを正確に特定するために本書が役立つことを願っている。
2003年2月
カリフォルニア州ランチョ・サンタフェ ラリー・ウィリアムズ
2002年秋は真の買い時だったのか? 2005年、2006年、2007年、2008年にかけてもっと良い買い時は来るのか?
本書では今後10年におけるわたしの考える買い時について、詳細に説明したいと思っている。これはかなりの大仕事だ。そんなことは可能なのか?――。
歴史は繰り返す
19世紀もまた20世紀と似たようなパターンをたどった。1862年と1872年に株は急騰したし、1883年もかなり魅力的な買いのポイントだった(ただし、真の買い時は1884年初めに訪れた)。その後は1893年も買いのチャンスだった。わたしはなにもここで「投資家は10年ごとに株を買っていればよい」といった意味でこれらの年を挙げているわけではまったくない。そんなに単純な話ならばどんなに楽か! だがこうした認識が頭にあれば、株式市場でいつ大きな賭けに出るべきかに関して、大まかな概念や時期を知るための助けになることは間違いない。これに関するわたしの概念とは、つまり下1ケタが2か3で終わる年は絶好の買いのポイントとなる可能性がとても高いという、とてもシンプルなものである。
マーケットで成功するための道
若いころ、わたしはエドソン・グールドの研究内容に興味を持っていた。グールドとは「システムズ・アンド・フォーキャスツ」という投資顧問レポートを発行していた人物である。彼が発信していた内容に当時もっと注意を払っていればと、今になって非常に悔やまれる。確かに彼の予測内容は難解だったとはいえ、彼は一貫して、FRB(連邦準備制度理事会)の動向や彼自身が「株価の10年パターン」と呼ぶものを基にしていたのである。
当時のわたしは気づいていなかったが、文字どおり株式相場予測のカギを得ていたことになる。皮肉なのは、その後の7年間をかけて相場予測の方法を模索し続けたことである。わたしはW・D・ギャンやエリオット、その他の有名な「占星術師」たちの理論を研究した。そしてそれらすべては結果的に時間の無駄であった。幸運だったのは、最終的にギャンの息子(当時はニューヨークでブローカーをしていた)に出会い、彼から父親は単なるチャーチストであると教えられたことである。これは彼の言だ――「もしみんなの言うほど父の理論が素晴らしかったとしたら、その息子が今なお作り笑いを浮かべながら顧客にトレードさせようと電話をかけ続けていると思うかい?」。察するに、彼は父親の宣伝係という立場に少なからず迷惑を被っている様子であった。なぜなら「聖杯」を求める多くの人が彼のところにやってきていたからである。聖杯があったとすれば、息子には引き継がれなかったということだ。
驚くべき「5」の年
わたしは長年の親友エール・ハーシュから、マーケットについていろいろと学んだ(彼がわたしから学んだのは、マス釣りくらいのものだが)。エールはまた、この株価推移パターンにおける2番目に重要なポイントも教えてくれた。彼はその著書『ドント・セル・ストック・オン・マンデー(Don't Sell Stocks on Monday)』のなかで、この10年パターンにおける真ん中の年は非常に激しい上昇が起きる傾向が強いという点を指摘したのである。表1.1は各10年間の各年における平均上昇率をまとめたものだ。彼の著書が書かれた時点で調査可能だった10年間データは11あった。そのすべてにおいて5年目はマーケット上昇の年となり、10年パターンのなかで最強の年となっていることが分かる。そして8で終わる年は8/10の確率で上昇している。ローパフォーマンスの年は7そして0で終わる年であり、これはスミスがかつて指摘していたとおりである。
確実な「7」の年
ほかの年よりも買いに適した年があるというのは事実だ。わたしはこれまで最良の年を探り出すことに重点を置いてきた。最も爆発的な、極めて大きな上昇となる、オッズが最も高い年を。もちろん、買ったあと20年間保有し続けることでお金を儲けることも可能だが、そのパターンには魅力を感じない。わたしにとっての理想は、いい目が出ることがあらかじめ分かっているときにサイコロを振ることなのだ。
■監修者まえがき
本書はラリー・ウイリアムズによる待望の新刊“The Right Stock at the Right Time”の邦訳である。あらためて述べるまでもなく、ラリーは間違いなく当代最高のトレーダーの一人であり、リアルマネーを用いたトレードコンテストであるロビンズカップでの圧倒的な優勝をはじめとして、ミリオンダラーチャレンジでのリアルタイムのトレードなど、これまでに数え切れないくらいの輝かしい成績を残している。また、彼の説く理論や考察は常に極めて鋭くかつ普遍性があり、日本でも多くの一般投資家が彼の手法を利用することによって大きな資産を形成したり、経済的な自由を獲得することに成功してきた。
さて、原書のタイトルから分かるとおり、本書は株式市場において適切な銘柄を適切なタイミングでトレードする技法に関して書かれた書籍であり、ここでの柱は季節性と銘柄スクリーニングであり、狭義のテクニカル分析はその内容に含まれてはいない。ところで、いわゆるテクニカル分析は元々アメリカの先物市場を舞台に形成されてきた技術である。したがって、当然のことながら株式市場においては、テクニカル分析だけで勝つことは絶対にできない。なぜなら、投機的資金を除けば、異なる市場間の資金移動という要素を無視できる先物市場に対し、世界中のどの株式市場においても、市場間の資金移動は日常茶飯事のことであるからである。つまり、株式市場においては先物市場と比べて自由度がひとつ加わるがゆえに、当然そこへのアプローチも1次元だけ複雑になるのである。そして、それは具体的にはスクリーニングのプロセスとなって現れる。
本書においてラリーはスクリーニングに有効なファクターを多く紹介している。私が30年間ほどさかのぼってバックテストを行ったかぎりにおいて、各々のファクターリターンの優位性の順序に若干の違いはあれ、これらは日本の株式市場においても皆安心して使えるものばかりである。なお、本書を手に取ってくれた読者のために書いておくと、本文中でラリーがモメンタムファクターに関して彼独自の考察を述べているくだりがあるが、日本の株式市場においてはこの種のファクターの効き具合は強烈である。さらに、これはラリー自身も気づかなかったことであるが、ファンダメンタル、テクニカルといった、株式市場におけるありとあらゆるファクターのなかで、日本で最も優秀なのは、驚くべきことにラリーの開発した%Rである。今年の春にこの話をラリーとしたが、彼がアメリカの先物市場向けに開発した指標が遠く離れた極東の国の株式市場においても鋭い切れ味を示すというのもまた不思議なものである。
最後になったが、以下の方々に心から感謝の意を表したい。翻訳を担当された増沢和美氏、吉田真一氏、山中和彦氏、編集・校正を担当された阿部達郎氏、プロデューサーであるパンローリング社社長の後藤康徳氏の諸氏である。さらに、本書を迅速に翻訳・出版し、読者の手元に届けることができたことは、関係者一同の大きな喜びとするところである。■序文
わたしが株価の変動に興味を持ち、調べ始めたのは1962年だ。その年には株式相場が崩落、だがわたしにはその理由が分からなかった。知っていたのは新聞記事で読んでいた、崩落前に「ケネディ大統領が鉄鋼業界に対して全面的対決姿勢をとり、鉄鋼価格の値上げを禁止した」ことだけだった。こんな小さな経済ニュースによって株式市場は数百ポイントも下げたのである。新聞は現在と同様に当時も、お金を失った人々や、どれほど経済状況が劣悪かに関する恐ろしいストーリーに満ちていた。そして多くの人が1929年の再来を叫んでいた。
だがあとから考えると、あのときは株を売るべきタイミングではなかった。1962年10月には大きな上昇相場が始まり、それは1966年2月にダウ平均が史上初の1000ポイントを突破して「天文学的レベル」に達するまで続いたからである。正直なところそんな昔のことを思い出そうとしても難しいが、ひとつ鮮明に記憶しているのは、1962年の秋には株が買いだとかマーケットでひと儲けできるなどと他人にアドバイスをする人は皆無だったということだ。今振り返ると、本当はみんなが株を買うべきだった。実のところ、そこにあったのは一世一代の買いのチャンスだったのである。
10年後の1972年、よく似た状況が訪れた。株は下がり、経済状態は悪化し、行く手に希望は見えなかった。そんななか、ある日ダウ工業株平均が上昇を始めた。そしてこのときもまた、買いのチャンス到来を叫ぶウォール街の賢人や学識者はいなかった。だが、1972年の上げ相場は62年のときとは違っていたということを、投資家は忘れないでほしい。1972年の秋には大きな上昇相場が展開されたものの長続きせず、次の本格的な強気相場は1973年から74年まで待たなければならなかったのである。
1962年に株式市場の真実を求めて探究を始めたわたしは、アンソニー・ゴービスやエドガー・ローレンス・スミスといった著者による本も読んだ。彼らの論点は、アメリカの株式市場と経済には10年周期のパターンがあるということにあった。彼らによれば、株式市場の高値はほとんど各10年間の後半に現われるという。つまり、株式市場の高値は、1966年や1929年といった下1ケタが6あるいは9の年に重なるケースが多いということだ。スミスはこのサイクルについて1900年代初めにまでさかのぼって検証し、その研究結果を自著にまとめていた。
マーケットに関する大局観も確信も持たない若造だったわたしにとって、問題はこの長期パターン(サイクル)が本当に正しいのかということだった。将来的にもこの考え方は機能するのだろうか――。当時のわたしにその答えは出せなかったが、今のわたしには自信を持って言えることがある。この「10年パターン」は、過去の大きな上昇・下落相場を正確に予測できたわけではないが、株式市場の上昇と下落について、非常に確実性が高く論理的な、そして最良のタイミングを投資家が予測するうえで、極めて有用であったということである。
その後、マーケットやマーケットサイクルについて研究を重ねるにつれ、わたしは確信を深めていった。例を挙げれば、20世紀後半にわれわれが目にしたマーケットの暴落はゴービスのいうとおり、1987年そして1989年に起きている。そしてもちろんだれもが忘れることのできない1999年にはナスダックの値がさ株が最高潮に達し、ハイテク株が67%の修正安をたどり始めた。この相場下落によって数多くの個人投資家やプロの投資家、そしてミューチュアルファンドが吹き飛んだのである。
ところで、この10年パターンによって少なくとも部分的であれ、1962年以降の経済循環を予測することは可能だったのだろうか? これは興味深い質問であり、本書で取り組むテーマのひとつだ。本書で提示する各種データを目にすれば、2004〜05年に素晴らしい買いのチャンスが訪れるだろうという言葉に読者の皆さんも賛同されることだろう。株式市場のサイクルについてわたしが研究を始める糸口を与えてくれたゴービスには、心から感謝している。とはいえ正直なところ、マーケットサイクル信奉者の多くとは異なり、わたしはそれほどサイクルを重要視しているわけではない。実際、絶対確実なものだとは考えていない。18日サイクルや200日サイクルなどの大半のマーケットサイクルは、トレードや投資に利用しようとしても難しい。だがなかには信頼に足る、そしてもっと重要なことには将来予測にも役立つ、極めて有力なサイクルがいくつか存在する。本書ではそれらについて重点的に取り上げたい。
そのほか、一般投資家に役立つであろうわたしが見いだした投資に関するメソッドやアイデア、テクニックについてもいくつか取り上げるつもりだ。それらは容易に利用ができ、マーケットの核心をつかむことができるものである。企業がどんな新製品を出しどんなサービスを行っているかなどということは重要ではないし、その企業の収益力や成長性といったこともまたしかりだ。そういった問題は、ハイテク株が超強気市場に湧いたときこそ重視すべきだった。根本的な強固さを欠いたそれらの株は人々の期待によって驚くべき高値までつり上がったものの、そのレベルを維持することはできなかった。だからその暴落は必然的なものだったのである。
わたしが読者に理解してもらいたいのは、どんな企業であれ、過去もそして未来も株価を動かすのはファンダメンタルズだということである。究極のところ、突き詰めれば常にファンダメンタルズであり、バリュー(価値)が問題なのだ。元大リーグ監督の偉大なるトミー・ラソーダも言ったように、「神は遅れるかもしれないが否定はしない」。マーケットという思わく売買の世界では、成長性と収益性というバリューは確かに一時的には見過ごされてしまうかもしれないが、結局最後はバリューが勝つのである。
1982年、わたしは『ハウ・トゥ・プロスパー・イン・ザ・カミング・グッドイヤー(How to Prosper in the Coming Good Years)』という本を書いた。これは当時悲観論者たちがわが国に広めていた否定的思考に対する反ばくであった。2つの理由から、わたしは極めて強気な姿勢で臨んだ。まずは、ロナルド・レーガンとサプライサイド・エコノミクスが台頭したことを挙げた。過去の研究から、インセンティブをベースにした経済政策や経済システムがとられるとマーケットが上昇することが、わたしには分かっていたのだ。
未来を目指し、昨日ではなく明日を生きるすべを得る旅へと、読者の皆さんをご案内できることをとても嬉しく感じている。■第1章 アメリカ株式市場の10年パターン
「もうそろそろだ」――アメリカ議会のスローガン(1978年)
THE 10-YEAR PATTERN IN THE UNITED STATES STOCK MARKET
まずは以下の事実に注目してほしい。
「20世紀における最良の買い時を問われれば、1903年、1912年、1913年、1920〜23年という素晴らしい時期をだれもが挙げるだろう。そして1932年には究極の買い時が訪れた。その後は1942年、1952年、1962年に素晴らしい買いのポイントがあり、1972年も(73年の方が良かったが)悪くなかったし、もちろん1982年は20世紀で2番目にベストな買い時だったと言えるだろう。さらには1992年も良かった。過去100年で見ると、これらの理想的な買いのポイントは下1ケタが2か3の年に訪れている」
もしもこれらの時期に投資をしていれば、漫然と株を買い続ける投資家をはるかにしのぐ利益を上げられたことだろう。これは非常に驚くべきことであり、またアメリカの株式市場に最高の買い時が訪れる可能性の高い時期を示す、何かが存在するのだという厳然たる証拠であると、わたしは考えている。その買い時というのは通常2か3で終わる年に当たるのである。
過去の株価変動を示す図1.1から図1.6は非常に研究価値が高いチャートだ。最初のチャートは1854〜1935年にかけてのAxe-Houghton株価指数で、わたしの個人ファイルにあったものだ。次はムーア・リサーチによるもので、1900年から2001年まで、101年間にわたる株価変動を表したものである。
同じころ、F・B・サッチャーにも出会った。かつてギャンの宣伝係的な役を果たしていた人物だ。彼はわたしに、彼が目にしてきた過去5年以上にわたり、ギャンは単なる優れたプロモーターであり、必ずしも優れた株式トレーダーではなかったと断言した。
彼は、ギャンの偉大なる相場師伝説の始まりに関して、彼なりの見解を話してくれた。それによれば、すべては「ティッカー・アンド・インベストメント・ダイジェスト」という雑誌に繰り返し載った、ギャンがその日の高値でコムギを売ったことを伝える記事に始まったのだという。サッチャーによれば、それは目端の利く人間を雇って雑誌にそうした記事を掲載させるよう働きかけさせた結果だという。記事を掲載する約束は大酒を飲みながらのディナーで交わされ、その裏にはもちろん担当者への賄賂と雑誌への大型広告掲載の約束があった。
相場予測のための研究を始めたころのわたしがそんなことを知るすべはない。ほかの人たちと同様に、わたしも偉大な相場師に関する話はすべて信じていた。今になって思うのは、グールドが考案した相場予測テクニックだけを信じていたなら、ということである。彼の予測法はギャンのそれと比べてずっと正確だったのみならず、ずっとシンプルだったのである。
図1.7はグールドによるもので、エール・ハーシュの著書『ドント・セル・ストック・オン・マンデー(Don't Sell Stocks on Monday)』にも収められている。一番下のチャートは1881〜1960年の80年間の株価平均をまとめたものである。
グールドは1881〜1960年の月間平均株価を手作業で計算した。今では瞬時にコンピューターが計算してくれるが、グールドは何年もかけてやったに違いない。彼は80年間すべての1月の値動きを、その他すべての年の1月と比較した。この気の遠くなるような作業によってグールドは、株式市場が今後たどるであろうと彼が考える、大まかなロードマップと呼ぶべきパターンを見いだしたのである。素晴らしいのは、この研究成果が完成したのは1960年であったのに、来る1960年代の激しい強気相場のパターンにほとんどぴったり合致したことである。続いて不況の1970年代が訪れたが、このときもまたマーケットは彼のロードマップに同調した動きを見せた。1980年代はまるでグールドが描いたロードマップに沿って進んだかのようであった。それはほとんど異常なまでの合致ぶりで、グールドが1987年に起こるであろうと予測した大暴落までがシナリオどおりに起きている。1987年終わりと翌88年初めにかけた非常に素晴らしい買いのポイントもまた、彼が1960年に作成したチャート上に記されていた。これは極めて驚くべきことである。
さらに度肝を抜くのが、2000年終盤のナスダック急騰の終わりもまた、10年間の10年目に起きており、まさに最もマーケットの天井となりやすいとグールドが仮定した時と重なっていることである。
先のグールドによるチャートは、1881〜1917年はCowles Commission工業株平均を、それ以降1918〜1960年はS&P500を利用している。彼のチャートによれば、1991年、1981年、2001年など10年間の最初の年は、変動が激しかったり下落したりしている。そして1982年や1932年など2で終わる年に上昇を始める場合もあるが、1983年や1993年など3で終わる年までには必ず強気相場が始まる。この相場ロードマップをしっかりと貸し金庫に預け、お子さんたちには遺産ではなくこちらを引き継ぐことをお勧めしたいほどだ。非常に価値があり、将来のインフレでも目減りしないのだから!
ムーア・リサーチ提供の図1.8のチャートは「未知データ」に基づいたものである。つまり、このチャート上には検証を行った期間のデータが直接的に反映されているわけではない。かいつまんで言えば、ある特定の期間における情報・データを基に検証が行われ、その結果はその前後の別の期間で試されることになる。なお、ほとんどの場合、未知データによる検証に耐え得るものはめったにない。
このケースでは、われわれは1980年代と90年代を平均し、グールドが過去にしたのと同様の作業を行った。結果、同様のパターンが繰り返され、彼の考えとの整合性が認められる。ここで言えることは、このカードゲームでは、ほとんど信じがたいほどに過去と同じカードが配られたということである。
これがいかに尋常でないかを説明しよう。わたしは過去40数年のトレーディング人生において、トレーディングに関する数多くのシステムや戦略を開発してきた。その大半は検証後、約40%の効率性で機能した。言い換えれば、繰り返し機能することはそうそうないということだ。現実では、あるシステムや戦略で未知のデータを試すと、ほとんどの場合、元の研究結果に近い結果が出ることさえめったにないのである。
本書の執筆を開始した2001年の夏、わたしには2002年の半ばから後半、そして2003年の終わりにある種の買いのポイントが来ることを示す相場予測のロードマップを見ている気がしてならなかった。アメリカ中を講演して回るなかで、まれに見る買いのチャンスについて話した。
図1.9はグールドのチャート(1881〜1960年の株価変動パターン)が公表されたあとの相場パターンを示している。狂乱の1950年代、60年代の強気相場が極めてパターンどおりの動きをしていることは、図1.7からすでに分かるし、図1.8からは1980年代と90年代の株価パターンもまた、約40年前の予測に重なることが分かる。
株式相場の研究期間が30年であろうと30分であろうと、ここには「単なる興味深いパターン」以上の何かがあることにだれしも気づくであろう。それどころか、皆さんが目にしているのは株価が今後たどる可能性が高い道へと続く、究極の洞察内容なのである。まさに、過去150年以上にわたりそれぞれ10年間の始まりと終わりをベースに、一貫した株価の上下動が存在してきたということである。注意してほしいのは、これは10年ごとのパターンではなく、その基本は各10年間の始まりと終わりだという点だ。10年サイクルという話ではないのである。
長年にわたりマーケットを観察し続けてきた者として言えることがある。それは、強気あるいは弱気に転じるべき時期を知るための大まかな目安として、これほど優れた過去の記録を持つものはほかに存在しないということである。
これはこれで優れた資料ではあるが、投資家にとって重要なのは、ある年が単に上昇したか下落したかではなく、その年にどれくらいのお金を稼ぐことができたかである。大金を稼ぐことができたのは疑いの余地なく5の年であった。5の年の総合上昇率は254%であり、次に上昇率の高かった8の年の164%をはるかにしのいでいる。
執筆当時のエールにとって1990年代がどうなるかなどは知るよしもない。もちろん1995年がどのようなマーケットになるかなどだれも知るはずがない。過去のパターンをそのままたどるのか、それとも11回連続で上昇を続けてきた記録が途絶えるのだろうか。また、8で終わる年はどうだろう。過去の良好な記録をつなぐことはできるのだろうか。
1885年から1985年を通した5で終わる年の平均上昇率は23%、8で終わる年の平均上昇率は14.9%であった。心に留めておいてほしいのは、1881〜1990年データにおける5で終わる年の総合上昇率は254%(平均値は19.5%)だったということだ。
1995年、ダウ工業株平均は目を見張るような33.5%の上昇を果たし、1998年も14.9%の上昇となり、これら2年は1990年代の2大上昇年となった。1995年と98年の上昇劇は、何十年も前になされた予測どおりの展開になったということだ。かの予測は1960年代には実質的に日の目を見なかったにもかかわらず、1990年代の強気相場における2大マーケット上昇年に投資家を正しく導くことができたのである。もしかしたら、株式相場は皆さんが思っているほどには難解なものではないかもしれない。
読者の皆さんには先に掲載した長期チャートを再度見直すことをお勧めしたい。そうすることでこの現象を感覚的に理解し、そしておそらくはマーケットのリズムをつかむことができるだろう。
10年パターンに洞察を加えるとすれば、株を買うにはもうひとつ注目すべきポイントがあるということだ。1960年のロードマップは、7で終わる年の終わりが大きな買いのポイントになることを示唆していたのだが、1977年、87年、97年が大儲けの年になったのは単なる偶然だろうか? これらの年の年末が投資家にとって素晴らしい買いのポイントとなったのは事実だ。これは経済全般あるいは景気循環に何か関連があるのではないかとわたしは考えている。なぜなら、このパターンはあまりに何度も繰り返されているため、単なる偶然の一致とは考えにくいからだ。
このへんで1854年以降のAxe-Houghton株価指数を再検討してみたほうがよいだろう(図1.1)。同様の現象としては、1857年終わりに株価が底をつけ、その後2倍近くにまで上昇している。1867年の秋には同様の劇的な上昇が見られ、その勢いは1869年の天井まで続いた。
また、1877年に入ったころから株価は再び下げて同年半ばごろに底を打ち、その後同年の後半からは2年に及ぶ強気相場へと突入した。そして1887年もまた秋に底をつけ、その後2年半に及ぶ上昇相場へと移行したのである。
1897年も極めて似た状況が展開された。株価は年の前半に底をついて夏に上げ、秋にはまた下がり(7の年の買いポイント)、後には2年に及ぶ強気相場が続いた。1907年は12月ごろに底を打ち、その直後にはまたもや2年間の強気相場が続いた。1917年はほとんど1907年と同じで、急落して年末ごろに下げ止まり、その後は強気相場が2年間続いた。
そして1927年。このときは大底はなく株価は単に上昇したように見えるが、注意深く見ると1927年の秋にはしばらくの間停滞相場があり、続いて1929年の天井に向けた2年間の強気相場へと移行している。
1937年は極端に株価が下げて1938年の3月までに底を打ち、またもや2年間の上昇相場へと続いた(このときの7年目現象は3カ月ほど遅れた)。そして10年後の1947年もこれと似たパターンとなり、株価平均はその年の大半を通じて横ばいで、秋に下落を始めて翌48年2月半ばに底をつけている。ただし2年間の強気相場が続くことはなく、株価は1948年の1年間だけ上昇した。
1957年、株価はまさに模範的な動きを演じた。年の前半に上昇したあと、株価は下落に転じて10月に底をつけると大きな上昇相場が始まったのである。まさに、7の年の値動きパターンに沿った動きであった。
10年後の1967年にもまた、素晴らしい買いのチャンスが訪れた。同年の前半に上昇したあと、秋には急落して翌68年2月に底打ちすると、2年間は続かなかったもののその年いっぱいは力強く上昇を続けた。1967年の終わりから68年初めにかけた時期は、歴史的に見ても明らかに魅力的な買いのポイントだったのである。
これらの現象には重要な意味があるのだろうか? わたしにはそう思える。この現象について説明はつくのだろうか? わたし自身何らかの説明を述べることはできるが、5の年、7の年、そして2〜3の年についても、過去の事実以上に説得力のある説明はできそうにない。チャートはウソをつかない。過去チャートは、われわれが過去を活用して未来の投資成績を向上させるためにあるのだ。
言うまでもなく、ここで述べてきたのはタイミングの話だけであって、どの株を買うべきかという選択も重要だ。だが、大半の投資家は自分がどの企業の株を買いたいかについての考えは持っているものであり、彼らは単にそれを実行に移す時機が分からないにすぎない。例を挙げれば、6の年の初めに株を買ったなら8の年まで待てば儲かるだろう。だが9で終わる年に株を買ったのであれば、持ち株の平均株価が購入原価を上回るまでに平均で5年待たなければならないということだ。株式市場においてはエントリーとエグジットのタイミングを計ることが欠かせないのである。それによって大きな差が生じてしまう。10年パターンに従うことが投機の世界において強みを得るための方法であると、わたしは考えている。
1960年代に描かれたえたいの知れないロードマップに沿って今後も株価が動いていくなどという考えは、理性を欠いているとしか思えないかもしれない。しかし現実には概してそうなってきたのであり、だとすれば、21世紀の最初の10年、株価はまたもやこのロードマップに沿った動きを見せるのかという疑問が生じてくる。その答えは時が過ぎなければ出ない。だが、2001年から2010年までの10年間、マーケットを細かく観察してこのパターンにどれくらい当てはまるかを見極めることはできる。わたしは、過去のパターンは繰り返されるのではないかと、それも皆さんが考える以上にはっきりとそうなるのではないかと推測している。2005年を過ぎたあたりが要注目だ。もしも2005年が激しい強気相場となり、マーケット全体が10年パターンのロードマップに沿って動くようであれば、このコンセプトのさらなる有効性が証明されることになろう。また投資家が今後何年あるいは何十年も投資活動を続けていくうえでの大まかなガイドラインとしてこのコンセプトを利用するに当たり、より大きな信頼感と確信が得られるはずである。
マーケットの変動には反復性があることに納得してもらえただろうか。その反復性の枠組みは、まさに10年を単位としたパターンとなっているように見える。その枠内には最適な買いと売りのポイントを探すべき特定の時期が存在するのである。
まずは2および3で終わる年であり、その次は非常に強気となる5の年だ。次に買いのポイントを狙うチャンスは7で終わる年の秋である。
ここで長期投資家が決して忘れてはならないことがある。過去、マーケットの主要な天井の大半は、例えば1929年、1969年、1999年、そしてもちろん2000年など、9および0で終わる年に起きているということだ。
わたしはこの10年パターンを、株価が従うであろう最も論理的なロードマップであると考えている。とはいえ株価がこの価格パターンを明確になぞるだろうと考えているわけではない。そんなに簡単な話ならばトレーディングに面白味などない。だがこのロードマップはわれわれに、どの方向にいつ行くべきかを示してくれる、優れたガイドラインなのである。■付録――本書に関連あるパンローリング発行書籍一覧
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