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ウィザードブックシリーズ Vol.90

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マーケットの魔術師 システムトレーダー編
――市場に勝った男たちが明かすメカニカルトレーディングのすべて








『マーケットの魔術師
【大損失編】』


オーディオブック版
『株価指数先物
必勝システム』

定価本体2,800円+税
2005年5月27日発売/四六判 上製本 308頁
ISBN4-7759-7052-6 C2033

著者 アート・コリンズ
訳者 鈴木敏昭


目次 | 著者紹介 | 関連書籍   ◆立ち読みコーナー 訳者まえがき ・ 序論1 ・ 序論2  (本テキストは再校時のものです)
アート・コリンズ

ジョン・ヒル

ジョン・ヒル 聖杯は存在します。

コリンズ   (混乱して沈黙)……聖杯とは何か教えてください。

ジョン・ヒル 聖杯などないと悟ることです(笑)。世界の一流マネーマネジャーでも20〜25%の収益しか生み出していないのですから。


システムトレードには恐怖と欲望がない!

 メカニカルなトレーディングシステムとは、決定がすべて機械的(メカニカル)になされるトレード方法のことである。プログラム全体が自動化されていることもあるし、仕掛け注文や手仕舞い注文のすべてをトレーダー自身が出さなければならないこともある。しかしいずれの場合でも、過去のデータに基づく検証によって良好な結果が期待できると証明されたものだけが実行に移される。一度、適切なシステムが構築された段階では(それは、本書に登場するプロたちが語るように、大きな苦労を伴う作業である)、プランに従うことは絶対命令となる。というのも、未来は検証した過去と同じように動くと考えられいるからである。

 メカニカルな方法には、これと決まった特徴があるわけではないが、分けてみれば、「慎重なアプローチ」と「冒険的なアプローチ」がある。トレードという芸術(それとも科学なのか、あるいはそれら両方なのか。本書で繰り返されている質問)は、トレーダー個人の努力によってその腕を上げることができる。その一方で、自己欺瞞に陥ったり、夢を見るだけで終わってしまうこともある。本書に登場した14人の傑出したトレーダーたちのインタビューによって、読者のトレードが正しい方向に進む手助けになるだろう!



■投資のプロが選ぶ「オススメの一冊」


ドリームバイザー・ファイナンシャル代表取締役社長 川崎 潮氏

1987年日興証券入社、その後ソシエテ・ジェネラル証券等を経て、1999年ドリームバイザー・ドット・コム(現ドリームバイザー・ホールディングス)設立、2005年東証マザーズ上場。2007年日本証券新聞社を子会社化。2009年上級者、システムトレーダー向けFX、CFD取引の子会社ドリームバイザー・ファイナンシャルを開業。

もう20年も前の話だが、日興証券のシカゴ現法から日本に帰って自己売買部門に配属された。日経225やSP500、通貨、債券先物など朝から晩までトレードした。一日で家何件か吹き飛ばす事も日常で、日々苦悩の繰り返し。よく胃カメラを飲みに行った。何とか「うまくなりたい」という気持ちがあったのと、米国でベストセラーだった原書に感激していたので、1991年、当時の上司を焚きつけて日本経済新聞社に『マーケットの魔術師』翻訳の話を持ち込んだ。

日中、会社でトレードして、自宅で夜中まで翻訳するという日々を半年続けた。もう時効なので言うと、締め切りに間に合わない先輩方の担当まで翻訳して大変だった事を思いだす(こう書いてもクレームが来ることはないと思っている)。



■目次

訳者まえがき
序論一 メカニカルシステムとは何か
序論二 「一日に一〇〇〇ドル稼ぐ」――システムの挑戦

ロバート・パルド (Robert Pardo)
「先物トレーダーはだれでも、基本的な目標として、最小のリスクで最大の金額を稼ぐことを目指すべきです」



チャーリー・ライト (Charlie Wright)
「研究の中で私たちが見つけた面白い事実は、結局指標は大事でないということです」

ラリー・ウィリアムズ (Larry Williams)
「富を作りだすのは、システムではなくマネーマネジメントです」



ルイス・ルカッチ (Louis Lukac)
「第一日目からこれまで、私たちが開発してきたのは全部メカニカルなものでした」

キース・フィッチェン (Keith Fitschen)
「断言できることですが、将来、分析したとおりにトレードできるという統計的信頼性を得るためには、開発サンプル中に何千ものトレードが含まれていなくてはならないのです」

   ◎キース・フィッチェンのホームページhttp://www.trade-system.com/

ウェイン・グリフィス (Wayne Griffith)
「システム開発者ならだれでも、システムで対処しきれない状況のあることを認めるでしょう」

トム・デマーク (Tom DeMark)
「一七人のプログラマーを使って四〜五年検証した結果、分かったことは、基本的な四〜五種類のシステムの成績が一番だということでした」



マイク・ディーバー (Mike Dever)
「このことはどんなに強調しても十分ということはありません。ずっと先まで生き延びようと思ったら、ひとつのストラテジーやひとつの市場だけでポートフォリオを組むものではないのです」

ボー・サンマン (Bo Thunman)
「電話でいきなり、『もしもし、必ず儲かるシステムの名前を教えてほしいんだけど』と切り出されたことが数え切れないくらいありました」

ビル・ダン (Bill Dunn)
「私は手の込んだことをしなくても、チャートを見ただけで分かったのです。『ランダムなんかじゃない』ってね」



トム・ウィリス (Tom Willis)
「システムにかかわったときに、一番大きな課題となるのは、それを信頼することです」



ジョン・ヒル (John Hill)
「私が学んだのは、仕掛けは非常に難しくして、手仕舞いは簡単にできるようにするのが良いということです」



マレー・ルジェーロ (Murray Ruggiero)
「隣接的な数値という条件が嫌だというのでは問題が生じます。なぜなら、可能性としては、やはりどうしても隣接するパラメーター集合による結果が返ってくることになるからです」

◎マレー・ルジェーロの作成した4つの売買システムが、ジョン・ヒルの「Futures Truth」に登録されています。
         システム名「Simple Harmony」
         システム名「Super Turtle」
         システム名「Trend Harmony」
         システム名「I-Master」(開発:Keith Fitschen、Murray Ruggerio)

         ⇒詳しくは、http://www.futurestruth.com/trackedM_Z.htmをご確認ください。

ゲーリー・ハースト博士 (Dr Gary Hirst)
「『どんな市場でも、どんな時点でも通用する』と言えるようなものは存在しないのです」 要約一 計画段階
要約二 理論から実行へ
メカニカルシステムトレードの基本用語 blockquote>




原書『Market Beaters

著者/アート・コリンズ(Art Collins)

アート・コリンズは、壊滅的な市場の混乱をトップトレーダーがどう乗り越えたのかを描いた評判作『ホエン・スーパートレーダーズ・ミート・クリプトナイト(スーパートレーダーがクリプトナイトに出合うとき)』の著者である。また、CBOT(シカゴ・ボード・オブ・トレード)の会員で、ほぼ20年にわたってメカニカルシステムの開発を手掛けている。アートはパートナーとともに、1997年にトレードを開始したメカニカルなS&Pシステムによって数百%の収益を生み出した。ノースウェスタン大学卒業。また、アートは長年、風刺的ロックバンド、クリーニング・レイディーズのギタリスト兼作詞作曲者を務めている。同バンドはMTV、デメント博士のラジオショーに出演した。


訳者紹介 鈴木敏昭(すずき・としあき)
愛知県生まれ。1972年東京大学文学部言語学科卒業。訳書に『板情報トレード』『スイング売買の心得』『相場勝者の考え方』(いずれもパンローリング)、『心理言語学』(研究社)など。

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■訳者まえがき

 本書は14人の一流トレーダーとのインタビュー集である。傑出したプロトレーダーのインタビュー集としては、著名な『マーケットの魔術師』シリーズ(パンローリング社)がある。それと比べて本書の特色をなすのは、全員がメカニカルトレーダーだという点である。

 メカニカルトレードというのは、コンピューターに組み込んだシステムの指示に機械的に従ってトレードする手法をいう。メカニカルトレードに対立する手法が裁量トレードで、トレーダーは自分の判断によって売買を行う。要するに、大半の個人トレーダーがやっている普通のトレード法である。

 大きな利益を上げているトレーダーはメカニカル派に多いと言われる。その理由は、本書でも繰り返し述べられているように、人間の弱みを完全に排除できるからだとされる。裁量トレードでは、欲望や恐怖の感情に負けて何度も同じ過ちを犯すが、機械的に売買を行えばそうした感情の入る余地がないというわけだ。

 この論理は重要な点を突いている。それは、裁量トレードでも、コンスタントに利益を上げるためには、自分なりの方法に忠実に従うことが必要になるからだ(もちろんその方法が有効であることが前提)。相場の動きに衝動的に反応するのではなく、その状況での自分のルールを冷静に的確に実行する。つまり言ってみれば、メカニカルが一種の理想になる。では、みんながメカニカルにやればいい――ということにならないのは、手間暇の問題のほかに、「自分なりの方法」を全部機械化できるか、という疑問があるからだろう。

 こうした問題について、トップトレーダーたちが語るいろいろな見方は大変興味深い。だいたいは、どんなに無茶にみえる指示でも従うとする完全メカニカル派だが、場合によっては裁量を交えるとする柔軟派もいる。ごく少数だが、自己判断に賭ける魅力も捨てがたいと認めるトレーダーもいる。

 それ以外にも本書で取り上げている話題は幅広い。仕掛けや手仕舞いのポイント、システム開発の秘訣、マネーマネジメントの方法、リスクコントロールの重要性などなど。一般トレーダーが年間5万ドルを稼げるようになるための条件について、プロたちが示す答えも有益である。

 14人の一流メカニカルトレーダーが語るノウハウは、メカニカルな手法に関心をもつ人にとって大いに示唆に富むものと思われる。それにとどまらず一般に、厳しい世界でのトッププロの営みに接することで刺激的な体験を味わっていただけるものと信じる。

 

2005年4月                                    鈴木敏昭



■序論一 メカニカルシステムとは何か

 メカニカルトレーディングシステムとは、決定がすべて機械的(メカニカル)になされるトレード方法である。時にはプログラム全体が自動化されていることもあるし、あるいは、仕掛けと手仕舞いの注文の全部をトレーダーが出さなければならないこともある。しかしいずれの場合でも、過去のパフォーマンスデータに基づく研究によって良好な結果が期待できると証明された行動だけが実行される。いったん適切なシステムが構築された段階では(それは、本書に登場するプロたちが語るように、大きな苦労を伴う作業である)、プランに従うことは絶対命令となる。というのも、未来は過去と同じように動くと考えられるからである。

 このアプローチに従えば、多くの問題が解決できる。その一方で、いろいろと厄介な問題も生じる。その問題の難しさは、実際に相場の浮き沈みを経験した者だけが十分に理解できる。どんなシステムでも必ずドローダウンの時期、つまり運用資金が減少する時期を経験する。トレードで勝利し続けるための魔法はあり得ない。高収益を生み出す優れたシステムでも、時には嫌になるほど長い間、次々と負けを重ねることがある。そんなときトレーダーは自分のシステムの有効性を疑い始める。入念な研究の結果として非常に有望な成績が出ていたはずだったが、それでも、誤った分析や単なる偶然のせいでそうした成績が出ることだってあるのだ。

 素晴らしい計画が出来上がったのは、たまたまデータ操作がうまくいっただけのことかもしれない。間違いや手抜かりが大きく影響することだってある。分析した過去5年間が、強烈な強気相場の続いた時期だった可能性もある。もしそうなら、弱気相場か沈滞相場に出合った場合、素晴らしい過去とはまったく逆の悲惨な相場を経験させられることになる。たとえ、細かな点にも気がつく芸術家の目があって、完璧な構図を描ことができたとしても、残念ながらそれは過去の姿にすぎない。

 メカニカルな研究の世界には、完全な答えも、絶対確実な計画もない。自動車のエンジンの組み立てなら、どの部品がどれと結合するのか確実に教えてもらえるが、それとは訳が違う。また、ダイエットなら、手を抜かず指示どおり正確なカロリーをとっていれば、どうしたって体重が減っていくが、そんなわけにはいかない。

 信頼できる指導者がいたとしても、自分でやってみたことでないと信用しないのがメカニカルな人間の性分である。システム開発者はたいてい独りで仕事をするか、しっかりと結び付いた仲間うちのチームで作業する。他人の開発したものはむやみに受け入れない。なんといっても、ごまかしようのない数値に基づいて、自分のする作業とその理由を完璧に理解することが譲れないアプローチなのだ。そうしたアプローチに従って初めて、自分を守るための――利益を上げるのに必要な確信を持ち続けるためにの――最も確かな道が開けることになる。

 肝心なのは一貫性である。シグナルには全部従わなくてはならない。自分で選んではいけない。シグナルがひどい間違いを犯しているように思えても(特にそういう場合こそ!)、アプローチを堅持すべきである。投資の心理について、大勢の人が興味深い事実を述べている。最も恐怖の大きいトレードがたいていは最大の利益をもたらす、というのだ。気楽な気持ちで動こうとすると、トラブルにぶつかるはめになる。

 トレードで出合う心理的問題はそのほかにもたくさんある。それをうまく扱えることが、メカニカルな方法のもうひとつの利点である。大半の人は(優れた直感をもつ少数者は別にして)トレードで手抜きをする。時にはあ然とさせられるほどのこともある。システムトレードでは、人間的要素のうち、恐怖と欲望という二つの性質が取り除かれる。システムは平然として、高すぎる値段で買わせ、安すぎる値段で売らせる。ここ数回トレードで失敗したからといって尻込みすることは許さない。システムは大ばくちを打つこともないし、恐れてひるむこともない。システムの背後にいる人間だけが、そうした誤りを犯す。ダイエットと同じで、成功の鍵は忠実に実行することにある。x以外の物が食べ物を汚染しないよう気をつければ、x以外の物が害を及ぼすことはない。

 メカニカルな方法には、これと決まった性質があるわけではないが、分けてみれば、慎重なアプローチと冒険的なアプローチとがある。言うまでもなく、トレードという芸術(それとも科学なのか、あるいはそれら両方なのか。この質問を私はインタビューで繰り返し行っている)は、努力によってその腕を上げることができる。その一方で、自己欺瞞に陥ったり、夢見るだけで終わってしまうこともある。本書が、読者が正しい方向に進む手助けになれば幸いである。



■序論二 「1日に1000ドル稼ぐ」――システムの挑戦

 「1日に1000ドル稼げます」と、いかにも簡単そうに宣伝される。四六時中そういう話を耳にする。「わずかな資金でトレードしています。大儲けは狙いません。1日1000ドルになれば十分なんです」と言う人も多い。とても素敵な話に聞こえる。がめつくならず、つつましくトレードして、ほどほどだが確実な利益で我慢する。素晴らしい。でもどうやって? その方法を教えてほしい。もっといいのは、私のデータでどうやってそれを見つけるのか、説明してもらうことだ。システムトレーダーは常に、1から自力でやりたいと思うものだ。

 メカニカルトレーダーと直感トレーダーとの大きな違いがそこに現れる。「細かいことにこだわるな」と理論倒れの哲学者は叫ぶ。「そんなことにデータフィールドを使う必要はないんだよ。好きな市場を選んで、目標まで利益が伸びたところで手仕舞えばいいんだ。その日の残り時間は休みにしたらいい」

 1日1000ドル。単純な話だ。ただし、このアイデアにはひとつだけ問題がある。それは、平均して1000ドル稼ぐためには、当然もっと大きなリターンを狙う必要があるということだ。九時までに1000ドル稼いだ日にはいつもゴルフに出かけていたら、負ける日も必ずあるのだから、利益は1000ドルに届かない。  だから問題はこうなる。1000ドルの話をする人たちは、全体として平均500ドルや、300ドルや、200ドルになってもいいというのだろうか。あるいは、毎日1500ドルとか2000ドルとかの利益を狙って、結果的に平均1000ドルにしようとするのか。明らかにどちらでもない。1日1000ドル稼ぐと大口を叩く人たちは、やはり毎日1000ドル稼いで、その時点で休みに入ると言っているのだ。

 こんなふうに、裁量トレーダーはトレード全体をまとめて考えようとしたがらない。同じ姿勢は、負ける日が必ずあっても、そのことは1日1000ドルの成績に何の影響もないと考えるところにも現れている。その理由は……私にはその「理由」が何だかよく理解できない。そうしたうさんくさい部分の扱いはトレーダーによって少しずつ違っているようだ。だが、その種の問題に関心を向けないことに対応して、状況が不利になってもすぐに気がついて何とかできると、彼らは総じて信じているようだ。また、非常に状況が有利なら、時々は利益の上乗せができるとも思っている。「目標は1000ドルだが、チャンスがあれば余分な利益のためにトレードしてもいい」というのが裁量トレーダーの信条のようだ。1000ドルの利益に手が届かない日には、さらにひどくならないように相場に細心の注意を払う。

 それもまんざら不合理と言えないかもしれない。世の中には説明のつかない能力に恵まれた人だっているからだ。そういう人に、なぜトレードの途中で突然方針を変えたのかと聞くと、「当然そうとしか考えられなかった」などといった返事が返ってくる。  いったい誰にとって「当然」なのか。もちろん大多数のトレーダーにとってではない。たいていの人がメカニカルトレーディングを始めるきっかけは、生き残るためだ。普通の人は、自分の判断に頼ったのでは相場で成功できない。というのも、トレード自体、ひどく人間的性質と食い違うという事実があるからだ。本書に登場する高名な人たちも、多くがこの見方に賛成している。  私なら1日1000ドルという課題にメカニカルな方法で取り組む。その際、いくつかの理論的可能性があって、そのどれでも、実行されれば確かに1日1000ドルの利益になる。具体例を挙げよう。

  1. 1週間5日のうち、3000ドルの利益の日が1日、1500ドルの利益の日が2日、500ドルの損失の日が残り2日――損失日よりも多額の利益を得る日が多いケース。
  2. 1週間5日のうち、2000ドルの利益の日が4日、3000ドルの損失の日が1日――利益は少額だがその日数が多いケース。
  3. 9000ドルのプラスが1日、残りの4日はそれぞれ1000ドルのマイナス――多額の利益と少額の損失のケース。
 こうした例を考えるとき、いつも同じ思いが心に浮かぶ。上のシナリオのどれも現実的とは思えないのだ。三のケースのように、通常の九倍もの利益を上げる素晴らしい日が毎週あると当てにできるものだろうか。あるいは、5日のうち4日も利益を上げられるということがあり得るだろうか。  もう少し現実的な例を考えることもできる。

  1. プラス2500、プラス2500、プラス2000、マイナス1500、マイナス500。 これならあまり変なところはないようだが、それでもかなり大きな利益日をたくさん出すことが必要になる。その辺りがやや問題だ。

 数値をもっと大げさにすると、ほかのと比較から、1000ドルの利益が偶然にしか見えなくなる。

  1. 1万1000ドルの利益の日が2日、八000ドルの損失の日が2日、最後の日に1000ドルの損失。

 以上の例で、もちろん、そうした多額のリターンを実際にどうやって生み出したらいいのかを考えなくてはならない。やはり、可能な方法がいくつかある。

  1. トレードの規模を大きくする。つまり、取引の枚数を増やす。
  2. 1日の流れのなかでさまざまな変動をとらえるスーパーシステムを作り出す。それがどれだけうまくいくかは、もちろん相場の高値と安値の間の変動幅がどのくらいか、ということに左右される。たぶん、思ったほど大きくないのが現実であろう。

 目に見えない壁に何度も突き当たることになるはずだ。だから、実現を願ったことも大してうまくいかない結果となる。研究の世界では珍しくないことである。懸念があり、問題があり、論理的な現実がある……。  幸いにも、トレードに有利に働く相場の規則的特徴が確かに存在する。例えばモメンタムがあることは間違いなく、そのおかげで一番初歩的なシステムでも成功の可能性がある。日足に基づいて、直近x日間の最高値を買ったり、最安値を売ったりすれば、だいたいの市場で利益を手にすることができるのである。x日としては、20日でも40日でも、どんな日数でもかまわない。

 このやり方の場合、大半の人が耐えられない規模のドローダウンを喫する恐れがある(第一の関門)。オーバーナイトのリスクもある(第二の関門)。そのリスクを避けるために別の領域に入り込む人が出てくる。例えばデイトレードだ。デイトレードではオーバーナイトギャップのリスクはない。その代わり、トレードのサイクルがずっと小さくなる。トレードごとのスリッページと手数料が、1トレード当たり収益のずっと大きな割合を占めるようになる。おおかた1トレード当たり100ドルというのが経費の相場だとされる。これはフルサイズのS&Pにおける1ポイントの三分の二、債券の三ティック分以上に相当する。予想される利益幅は、日々の150ティックから日中の24ティックへと減少するのに対し、トレードのコストは変わらない。その差を埋めてくれる市場の恵みがなかったら――そう、お気の毒と言うしかない。それは逃れようのないことなのだ。

 どうしても障害が出てくるのは、メカニカルアプローチに常に付きまとう問題である。ある障害について必ず対策を立てることができるが、たいていはまた別の障害が現れる。ルービックキューブをやっているようなものだ。  1日1000ドル稼げる人がいるのは間違いない。その何倍も稼ぐ人だっている。1日1000ドルという額が問題なのではない。言われていることの本当の中心は、一貫して確実に1日1000ドル稼ぐことにあるのだ。

 それに対してテクニカルアナリストは例外なく「祈るだけ」と言うだろう。これはメカニカル研究家にとっておなじみの領分である。純益の総額が素晴らしい数字になったとしても、それはメカニカルなパズルの一片にすぎない。同じくらい大事なことは、利益分布が均等になっていることである。  システムトレーダーならだれでも滑らかなエクイティカーブを望む。バントで確実に出塁したいと願うのはどんなトレーダーにも共通する。システムトレーダーがほかと違うのは、確証を得ないうちは、決まった事実であるかのように広言したりしないという点である。

 メカニカルトレーディングは、現に事実であることとそうでないことの区別を判断するアプローチである。そこには二つの面がある。まず、その実行に当たって、安心できそうで広く信じられていても実際には役立たない格言を一気に捨てる心構えが必要になる。そうすればいろいろなことが説明可能になる。気持ち良くなじみ深いけれども、研究結果が行き止まりだと証明した道はなぜ歩み続けてはいけないのか、はっきりした冷徹な数値に基づいて理解できるようになる。数量化できない生半可な考えにしがみついてはいられなくなる。

 その一方で、メカニカルトレーディングを通して、勝利への道のりをほぼ確実に判断できるようになる。十分な資金量があれば、また、理論的に説明されたドローダウンに耐える用意があれば、さらに、自分のプログラムを間違いなく組んでいれば、もはや恐怖も欲望も感じずにトレードできると自信がもてるようになる。度胸をエネルギー源とする必要もなくトレードできるようになる。パニック、絶望、消耗を経験することもなくなる。プログラム化が適切に行われていれば、費用のかかる通常の習得曲線に従うこともなく、以上のことが理論的には可能になるのである。

 1日1000ドルのシナリオが、普通の空想どおりに実現できるかどうか、私は怪しいと思う。つまり、わずかな資金を元手に、ひとつの市場、ひとつのシステムでトレードしても問題ないとか、相場の変化といった些細な出来事で大儲けができなくなることはないとかいった空想には根拠がないと考える。もっとも、偉ぶっていると思われないように言うのだが、私もそうした想像にふけることがある。

 しかし、これは言わせてもらいたいのだが、長年の研究経験からして、何が実行可能で何がそうでないかを予測する力は、以前よりも増していると思う。そして、1日1000ドルを稼ぐ完璧なマシンを作ることは実行不可能な部類に入ると考える。もちろん、ほかの人たちは、間違いなくそうした理想に私よりも近づいた経験があるだろうが。  とはいえ、なんらかの足掛かりを築くことは可能であろう。そのためには、次のことを認めることが必要だと思われる。

  1. 非常に大量のトレード資金を要するということ(予想する毎日の利益に比べてはるかに膨大な量の資金)。
  2. 好条件の相場――流動性とボラティリティ。
  3. 「一貫して確実な」という条件の緩和。現実は、でこぼこで石ころだらけ、そして時には苦しい道のりになる可能性が高い。

 繰り返しになるが、夢想から冷たく厳しい数字の世界に身を置いてみれば、楽して儲けることなどできないのだ。

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