角山智の「株本執筆記」
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売掛金ってそもそも何? 売掛金が増えている企業は○それとも× 01月30日
今回は売掛金についてです
【質問】
売掛金ってそもそも何? 売掛金が増えている企業は○それとも×
【回答】
建築資材メーカーの営業マンになったつもりで考えてみてください。
ある得意先から「来月から、仕入を倍に増やしたい」と持ち掛けられれば、どうしますか? 予算達成に苦心していればいるほど、嬉しい依頼ですね。
ところが、こういう場合は、慎重な対応が求められます。なぜなら、建築不況の中で、いきなり商売を倍に増やすことは難しいからです。
多少、納入を増やすとしても、次の点は考慮しておくべきでしょう。
●他社からの取引(仕入)を断られたのではないか?
●その得意先におかしい様子はないか?
●そんなことをして、売上代金は回収できるのだろうか?
一時期、建築業界ではゼネコンの破たんが相次ぎました。多重下請け構造の建築業界では、中堅ゼネコンであっても、相当の連鎖倒産を引き起こします。
その結果、貸倒れの続出により、お互いが疑心暗鬼に陥りました。銀行の「貸し渋り」ならぬ「売り惜しみ」が横行したものです。
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今度は、逆のケースです。
期末が近づいているのに、どうも売上状況がかんばしくありません。予算を達成できなければ、次のボーナスにも響きそうです。
切羽詰った営業マンは、懇意にしている得意先の社長に泣きつきます。「お支払いは余裕のあるときでけっこうですから、もう少し仕入れていただけないでしょうか」
こうして、何とか売上を取り繕うことができました。ところが、3か月後、得意先から呼び出されます。「あの製品、ほとんど売れん。少し返品していいかな」
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売掛金とは、まだ回収していない売上代金のことです。
企業間取引では「月末に売上を締めて、翌月中旬に請求書を発送。翌月末に営業マンが集金に伺う」といった商慣習が定着しています。
問題は、予定どおり回収できるとは限らないことです。
得意先の経営が悪化すれば、支払いを先延ばしされることも珍しくありません。当てにしていた入金が遅れれば、当然ながら資金繰りにも影響を及ぼします。
最悪のケースでは、得意先の破たんにより、巨額の貸倒損失が発生することもあります。
以上のことから、売上高よりハイペースで売掛金の増加しておれば、売掛金の不良債権化が進んでいる恐れがあります。こういった企業には注意が必要です。
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棚卸資産ってそもそも何? 棚卸資産が増えている企業は○それとも× 01月27日
編集のiさんより「決算書の用語について、面白い例を混ぜて解説してほしい」との要望がありました。第1弾として棚卸資産を取り上げます。
【質問】
棚卸資産ってそもそも何? 棚卸資産が増えている企業は○それとも×
【回答】
私は、3年前まで、ある建築資材メーカーの情報システム部門に勤めていました。物流情報システムを担当しており、倉庫や物流センターに出張することもありました。
出張時は、勉強半分、興味半分で倉庫の中を見て歩きました。倉庫の奥には、ダンボールの変色した建築資材が埃を被っていたものです。
担当者に「あの、ダンボール、どうするの?」と確認すると、たいてい「いやあ、倉庫も困っとるんや」と返事が帰ってきました。
建築資材は、モデルチェンジもあまりなく、放っておいても腐りはしないものです。そういうこともあり、長期間に渡り、倉庫で眠っているものが少なくありません。
私が勤めていた会社では、次のようなものが倉庫に山積みされていました。
●建築現場でドタキャンを喰らい、行き場を失った特注品
●役員が肩入れして、大量に輸入した海外生産の高級品
●担当者が「いい顔をして」引き取った、協力工場の見込み生産品
注意点は、このような製品であっても、バランスシートに棚卸資産として計上されていることです。
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棚卸資産とは、簡単にいってしまえば在庫です。もう少し詳しく説明すると、その商品が売れたとき、売上原価として処理すべき製造費用の合計です。
たとえば、製造業では、販売した製品の材料費、労務費、経費などの合計が棚卸資産になります。今回の例では、ある建築資材の製造費用が7,000円であれば、7,000円を棚卸資産に計上します。
そして、この建築資材が10,000円で売れたときに、7,000円を売上原価で落とし、残りの3,000円が売上総利益となります。ちなみに、売上総利益から販売費用を引いたものが営業利益です。
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では、ある建築資材が売れるまで1年かかった場合はどうなるでしょうか。
製造費用(材料費、労務費、経費など)の支払いはとっくに済んでいますね。工場の作業員に「あなたの作った製品が売れるまで給料を払いません」なんて取り決めはできないはずです。
ということで、現金での支払いは終わっています。しかし、製品が売れていない以上、その費用を売上原価で落とすことはできません。だから、バランスシートに計上して決算期をまたぐことになります。
面白いのは、名称は「棚卸資産」なれど、中身は将来発生する費用(売上原価)であることです。
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さて、時計の針を1年すすめます。
1年後に建築資材が売れたとしましょう。思惑どおり10,000円で売れれば「めでたし、めでたし」です。
1年掛かったとはいえ、先払いしていた7,000円分の製造費用を売上原価で落とすことができ、利益を確定できたからです。やがて売上代金も入金され、3,000分の利益をキャッシュとして手にすることができるでしょう。
でも、7,000円分のキャッシュを1年間立て替えていたのは、大変だったかもしれませんね。支払いは、次から次へと発生するでしょうから、この7,000円分を工面するため、金策に追われていた可能性があります。
企業が破たんした際「販売不振で在庫処分が進まず、資金繰りに行き詰って倒産」という記事を見かけますが、理由はこれと同じです。
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今度は、最悪のケースを想定してみましょう。
1年後に、安価な海外生産品の建築資材が出回っていたらどうでしょうか。自社製品は、まったく売れる見込みがなく、破棄せざるをえないなら・・・。
「棚卸資産」の7,000円は、そのまま損失(棚卸資産廃棄損など)のみ計上することになります。1年前に支払った製造費用は「パーになる」わけです。
このような製品の占める割合が高ければ、かなりひどいことになります。銀行借入に依存している企業は、融資を引き上げられないか気が気でないでしょう。株価だって大幅に下がっているはずです。
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一般的に、棚卸資産は陳腐化・劣化リスクを抱えています。よって、必要以上に棚卸資産が増えることは陳腐化・劣化リスクを高めることになります。また、棚卸資産が増えれば、その分だけ立て替える資金も増えて、資金繰りが苦しくなります。
つまり、必要以上の棚卸資産増加は、何もいいことはありません。「売上高が10%増にもかかわらず、棚卸資産が30%以上も増えている」ような企業には要注意です。
(分かりやすく書いてみましたので、会計的には好ましくない記述があるかもしれません。その場合、ご指摘をいただければ幸いです)
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自社株買いは、どうして好材料になるのか? 01月23日
ある方から、メールで質問をいただきました。
【質問】
自社株買いは、どうして株主または投資家に対して好材料になるのか、ということです。
自社が株式を買うだけなら、発行済み株式数が変化するわけでもないしと思うのですが。
【回答】
通常、自社株買いは好材料と判断されます。主な理由は次のとおりです。
●金庫株(自己株)は、発行済株式数に含まれないことから、1株当たり利益などの増加が期待できる
●株式の需給が改善される
●自社株買いは増配と組み合わせた株主還元策として行われることが多い
●「自社の株価は割安である」というアナウンス効果もある
一方で、注意点もあります。
●金庫株を売り出す企業が存在する
●高PBRでの自社株買いは株主資本の毀損につながる(たとえば、1株当たり純資産1,000円の自社株を3,000円で買い戻した場合、1株当たり純資産を上回る2,000円は株主の出費となる)
なお、金庫株に議決権や配当を受け取る権利はありません。
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短期金利が長期金利より高くなればマーケットはどう反応する? 01月20日
【質問】
短期金利が長期金利より高くなればマーケットはどう反応する?
【回答】
金利には、短期金利と長期金利があります。
短期金利は、中央銀行の金融政策によってコントロールされています。代表的なものとして、米国のFFレートがあります。
長期金利は、株式と同じように市場メカニズム(投資家の見通しなど)によって決まります。10年もの国債の利回りを用いることが多いです。
通常は、長期金利が短期金利より高くなっています(理由は、前回説明しました)。銀行などの金融業は、この長短金利差から得られる利ざやで成り立っています。
しかしながら、インフレ抑制などの理由で当局が金融引き締めを続ければ、急上昇した短期金利が一時的に長期金利を上回ることがあります。
この状態を「逆イールド」といいます。「逆イールド」を引き起こすほどの過度な金融引き締めは、たいていリセッション(景気後退)につながります。
リセッションによる不良債権の発生は、ただでさえ逆ざや(長短金利差の逆転)で苦しんでいる銀行収益に打撃を与えます。銀行は貸し渋りを行うようになり、信用収縮が起こって株式市場も下落を始めます。
投資家にとって「逆イールド」は警戒すべき現象です。マーケットの「死に神」といっても過言ではありません。
直近では2006年半ばに「逆イールド」が出現しましたが、その1年あまり後より世界中の株価が下がり始めました。そして今、大変なことになっています。
(拙著「資産運用の強化書」246ページを若干修正して掲載しました)
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なぜ、長期金利は短期金利より高くて当たり前なのか? 01月18日
今回は、一連のQ&Aのきっかけとなった質問です。
【質問】
なぜ、長期金利は短期金利より高くて当たり前なのか?
【回答】
話を簡単にするため「期間が長くなれば金利が高くなるのはなぜか」についてお答えします。
例として、住宅ローン金利をあげておきます。期間が長くなるほど、金利が高くなっていますね
1年・・・3.05%
3年・・・3.25%
5年・・・3.45%
10年・・・3.65%
15年・・・4.10%
20年・・・4.45%
(東京三菱UFJ銀行、固定金利、2009年1月)
主な理由は次のとおりです。
●期間が長くなれば、返済されないリスクが高まる
●金利が上昇するリスクを見込んでおく必要がある
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デフレが起こればマーケットはどう反応する? 01月15日
前回の逆パターンです。
【質問】
デフレが起こればマーケットはどう反応する?
【回答】
デフレとは、モノの値段が下がり続けることです。
世の中がひどい不景気になり、みんなの財布の紐が固くなれば、物価の下落を招きやすくなります。
日本では、1990年代から2000年代前半にかけてデフレを経験済みです。
65円のハンバーガーや280円の牛丼は記憶に新しいですね。
私たちの経験から察しがつくでしょうが、デフレが起これば株式市場は最悪の状態になります。
モノが売れず、値下げを迫られる状況では、好調な企業収益など望めないからです。
なお『ツバイク ウォール街を行く』は、インフレ・デフレと株式市場の関係を次のようにまとめています。
●株式は物価が相対的に安定しているときに最高のパフォーマンスを見せた
●株価が最悪のパフォーマンスとなったのは、1920年と1930年代の初期と末期のベア・マーケットの期間に発生した極端なデフレのとき
●その次に悪かった期間は、インフレ率が8%から9%以上になったとき
つまり、投資家にとってもFRBにとっても物価の安定が一番であり、インフレもデフレも良くないという結論になります。
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インフレが起こればマーケットはどう反応する? 01月11日
今回は、前回までの応用問題です。
【質問】
インフレが起こればマーケットはどう反応する?
【回答】
インフレとは、モノの値段が上がり続けることです。
世の中が好景気であり、カネ回りもよくなれば、物価の上昇が起こりがちです。
しかしながら、急激なインフレは、好ましくありません。なぜなら、インフレによって私たちの生活は苦しくなり、通貨の価値も下落するからです。
そこで、当局は金利をあげて景気を冷やしにかかります。
金利があがればどうなるかは、もう説明しましたね。
つまり「利上げ」というインフレ退治の特効薬は、経済活動の停滞や株価下落という副作用をもたらすのです。
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金利が下がると株式市場はどう反応する? 01月08日
前回の逆パターンです。
【質問】
金利が下がると株式市場はどう反応する?
【回答】
株式市場は、利下げ(金利の低下)を歓迎します。
●利下げはインフレ懸念の遠ざかりを意味するので、借入コストや原材料価格の低下による企業業績の回復が見込める
●株価評価基準の上昇により、株式の値上がりが見込める
理由については、前回、前々回と逆パターンですので、省略します。
その代わりに、補足説明をしておきましょう。
金利と株式市場の関係は、理屈どおりに動かないことがあります。
まず、株式市場が過熱気味であるときは、少々の利上げでは下げ止まりません。第一、金利の絶対水準自体、1〜2回目の利上げではまだまだ低めです。
そこで、当局は、何回も利上げを繰り返すことになります。利上げは、漢方薬にようにじわじわ効いてくるものなのです。
逆に、株式市場が冷え込んでいるときも、少々の利下げでは回復しないものです。利下げの初期では、金利水準自体もまだまだ高めです。
当局は、利下げについても、様子を見ながら何度か行います。そのうち、効き目が表われて、株式市場は底打ちから回復に向かいます。
なお、単なるリセッション(景気後退)であれば通常の金融政策で何とかなるのですが、利下げの効かない局面として次の2つがあります。
●デフレを起こしているとき
●金融危機などの異常事態
ひとつめの、デフレにより低金利政策が効かなかった例としては1990年代の日本があげられます。
物の値段がマイナスになっても、金利は0%より下げられないので、なかなか有効打が見つかりません。
ふたつめの、金融危機などの異常事態は、今の世界経済です。だから、これだけ金利を下げても、株式市場は弱含むわけです。
蛇足ながら、金利といえば米国のFFレートを指します。日本は金利水準自体が低すぎて、金融政策の発動余地と効果が限られますので、米国金利の動向を見ておきましょう。
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金利が上がると株式市場はどう反応する? 01月06日
前日の続きです。
【質問】
金利が上がると株式市場はどう反応する?
【回答】
金利の上昇は、株式市場にとって悪材料です。主な理由として、次の2つが考えられます。
●借入コストや原材料価格の上昇による企業業績の悪化懸念
●株価評価基準の低下
このうち、企業業績の悪化懸念については、前回「金利が上がると経済はどうなるか?」でも述べましたので、今回は株価評価基準の低下について説明します。
株価評価の代表的指標としてはPER(株価収益率)があります。
PER = 株価 ÷ 1株当たり利益
仮に、株価1,500円、1株当たり利益100円の銘柄であれば、PERは15倍です。
PER15倍 = 株価1,500円 ÷ 1株当たり利益100円
では、この投資は何%で回っていることになるでしょうか? 100円が得られるものを1,500円で買ったのですから、6.7%ですね。これを益回りといいます。益回りはPERの逆数となります。
益回り6.7% = 1株当たり利益100円 ÷ 株価1,500円
益回り6.7% = 1 ÷ PER15倍
さて、ここからが金利と関係する部分です。
株式と比較される投資対象として債券があります。もし、債券の利回りが4.5%であれば、株式の益回りが2%以上も高くなります(4.5%というのは金融危機前の米10年国債利回りです)。
株式は債券よりリスクが高いにしろ、2%多くもらえるのであれば、株式を選ぶ投資家も少なくないはずです(ここでの「リスクの高い分、余計によこせ」という上乗せをリスクプレミアムといいます)。
ところが、金利が上がり、債券の利回りが9%になったらどうでしょうか?
益回り6.7%の株式など、誰も買わなくなりますね。株式は、債券と釣り合いの取れるところまで売られることになります。
ここでは、PER9倍(益回り11.1%)で釣り合いが取れたとしましょう。株価は900円まで下がることになります。
PER9倍 = 株価900円 ÷ 1株当たり利益100円
株価1,500円で買っていた投資家は、企業業績に何ら変化がなくても600円損をしました。
原因は、金利の上昇により、株価評価の基準が変わってしまったためです。
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金利が上がると経済はどうなるか? 01月05日
新年おめでとうございます。
昨年、編集のiさんと打合せをしていたとき「あまりに基本的であり、恥ずかしくて今さら質問できない項目」を書籍にまとめたら面白いのではないかという話になりました。
昨年来、このブログを活用できていない反省もあり、原稿の元ネタをあげていきたいと思っています。まずは一回目です。
【質問】
金利が上がると経済はどうなるか?
【回答】
一般論として、金利が上がると景気は悪化します。なぜなら、借入コストが上昇するからです。
企業は、設備投資を控えるようになります。借入金の多い企業には、支払利息の増加が減益要因として働きます。
個人も、ローン金利の上昇により、住宅の購入や車の買い替えを渋るようになるはずです。
もう一つの要因として、物価上昇があります。金利の上がるときは、インフレ懸念のあるときです。
原材料の上昇は、製造原価を圧迫します。原油が上がれば、輸送コストに影響します。コストを製品価格に転嫁すればいいのですが、他社との価格競争により、おいそれと値上げできない企業も多いのです。ゆえに、インフレが起これば、たいての企業では業績が悪化します。
また、物価が上昇すれば、生活防衛のため、個人消費も伸び悩みます。
以上のように、金利の上昇は経済活動の停滞につながります。ゆえに、景気が悪くなるのです。
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